<せつな> ……? あれ?「……いや、夢オチとか」 目が覚める。ベッドの上だ。 周りを見渡すと……ああ、『俺』の部屋だ。 ……えっと、今日は……? なんかあった様な?「なんだったかな~? なんかあったかな~?」 ベッドの上で頭をひねる。……駄目だ、思い出せない。 まあいいや。 立ち上がって服を着替える……違和感。 なにが? いつもどおり『男』の体じゃないか。 違和感なんてどこにもない。 ……ないはずなのに、何故違和感があるんだろう? まあいいや。 今日は夢見が悪かったんだ。どんな夢かは知らないけど。 部屋を出て、台所に向かうと、いつもどおり母さんが食事の準備していた。「あら、せつな。おはよう。……今日から『連休』ね?」 ……あれ? そうだったっけ? 黄金週間はもう終わったような……テーブルについている兄さんが読んでいる、新聞の日付を見る。 ……『五月一日』……ああ、何だ、本当に連休初日か。 寝ぼけていたんだろう、俺。「どうしたせつな? お前らしくないな」「ああ……夢見が酷かったんだろ? ……おはよ、兄さん、母さん」「……おはよう」「ふふ、はい、おはよう。もう直ぐご飯できるから、『エリオ』起こしてきて?」 ……えっと、エリオ? ……ああ、弟だっけ。 母さんの仕事で養子にしたんだっけ。 「へーい」 エリオの部屋は母さんと一緒だ。 まだ小さいから、母さんと寝ている。 ……もう直ぐ、『エイミィ』さんと兄さんが結婚するから、そうなったらエイミィさんの部屋にエリオが移る。 ……? 何でいちいち忘れてるんだろう。エイミィさんは兄さんや母さんと同じ職場の人で、家族同然にしてるから、じゃあ、一緒に住みましょうって、俺が養子になったときから暮らしてるんじゃないか。 ……ああ、俺も養子なんだっけ。 俺の保護をしてくれていた『リンディ』さんが、俺を養子にするって言って、『クロノ』もそれに賛成してくれて…… だから、何でいちいち反応するんだ俺。 二人とも、五年の付き合いだぞ? 何も、おかしいことなんてない。「エリオ~~~?」「起きた~~~」 あ、本当に起きてるな。「お姉ちゃんおはよ~~」 ……訂正。まだ寝てる。「残念ながらお兄ちゃんだ! さっさと起きれ!」「わわ! ……あ、本当だ。おはよう。せつなお兄ちゃん」「よ~し。じゃあ、朝飯だ。着替えて台所!」「はーい!」 よしよし。 今日から休日らしいし。 飯食って、どこかにでも遊びに行くか…… <なのは> ……えっと、何を忘れているんだろう? 何か大切なことを忘れているような……うーん? 朝起きて、今日から連休だってお兄ちゃんに聞いて、でも、今の日にちに違和感があって…… なんだっけ? まあ、頭を覚ます為にも、散歩に出かけて…… なんだったかな~? 忘れちゃいけないことだったんだけど……「なんだったかな? レイジングハート?」『……まあ、いいんじゃないでしょうか?』 ……そうだね。 あまり考えても意味ないよね。 あれだ。―――ちゃん的に言えば、『馬鹿の考え休むに似たり』……私馬鹿じゃないもん。 ……? あれ、今、何か言ったような……? まあ、いいよね。 海鳴の町を歩く。 春の日差しがぽかぽかして暖かい。 ……連休なら、ピクニックに行くのもいいだろう。 『せつな』さんを誘って、二人で……? あれ? 私、せつなさんって……ああ、何で忘れてたんだろう。 同じクラスの『男の子』。……? 何で違和感? まあいいか。せつなさんだ。 ちょっと大人っぽくて、みんなの人気者で……でも、彼自身は孤独で。 私が傍にいないと、どこかに行ってしまいそうだから。 ……だから、探しに行かないと。 家にいるかな?「ああああああああああ!! なのはいたぁ!」 ? わたし? ……えっと、誰だろう。金髪のロングで、両端だけまとめた…… 見たことあるんだけど、どこであったかなぁ……?「なのは! あんた、この世界なんか変なの気づいてるわよね!?」 ……え、えっと? 世界が変? 私が気づく? なにを言ってるんだろう、この子?「え、ええっと……ご、ごめんなさい。人違いじゃ?」「はぁ? そのサイドポニーはあたしたちの中じゃ、なのはしかいないでしょうが! 何寝ぼけてるのよ!」 う。た、確かに、この髪型にしてもう3年近く経ちますが。 何で貴方が知っているんでしょうか? 後、何を怒ってるの?「……ごめんなさい。やっぱり人違いだと思いますよ? 私、貴方の事『知りません』し」「!? え? ……な、何それ、冗談でしょ!? あたしよ! ――――――――よ!」 ……やっぱり、聞いたことのない名前だ。 私の知り合いに、こんな子いない。「すみません。私、急ぎますから!」「ええ!? ちょ、なのは!!」 係わり合いにならないほうがいいよね。 ちょっと可哀想だけど、さよなら~~。「ちょっと! まってよ、なのは~~~~~!!」 にゃぁぁぁ…… 本当に知らないのに~~~ ダッシュ! ……本当にごめんなさ~い。 <アリサ> ……じょ、冗談でしょ? 何であの子、あたしの事知らないのよ! これも、この世界の影響? ……目が覚めたら、自分の家で、今日の日付を見てびっくりした。 今日は五月十三日で、修学旅行の日だと言うのに、鮫島は今日から連休だという。 新聞は五月一日を記し、もう終わったはずのゴールデンウィークに突入したと報じていた。 ……これは、世界が歪んでいる。 早速、すずかに連絡とって、会うことにした。 で、向かっている途中に……あの子がいたんだけど……「お嬢様? 月村様のところに向かわれないのですか?」 鮫島が駆け寄ってくる。 ……仕方ない。これも情報として、すずかと話し合わないと。 すずかはあたしの事を覚えてて、この世界の異変にも気づいてる。 ……ここは奥の手だ。「ちょっと待ってて。……アギト!」「おう!」 森で拾った『妖精』アギト……あれ? 妖精だったかしら? まあいいか。 彼女になのはを追って貰おう。 アギトとあたしの間で、テレパシーみたいなことができるし、後でなのはを捕まえればいい。「さっきの子、追いかけて、見張ってて! 報酬はプリン・ア・ラ・モードよ!」「よっしゃぁ!! 行ってくるぜ!」 凄いスピードで空を飛ぶアギト……報酬のグレードによって気合が違う。 塩せんべいだった時には、ものすごくやる気ないけど…… まあ、今日は最優先事項だ。報酬も最高級のを出してあげよう。 さて、すずかの元に向かわないと。「鮫島。行くわよ!」「はい、お嬢様」 絶対、この世界の歪み、見つけてやるんだから! ところで、あたしも何か忘れてる気がするのよね……? <はやて> ……はぁ、退屈やぁ……「……その、主? 遊びに行かないのですか?」 膝枕してくれとるシグナムが、声をかけてくる。 今日から連休で、しばらく『せつな』さんの顔見れへん…… あれ? ……こらこら。自分の嫁の顔忘れたらあかんやん。 せつな・トワ・ハラオウン。あたしの嫁や。 ツンデレで、ちょっとエッチやけど、あたしの事をしっかり見てくれとる。 ……せやけど、ライバルも多い。 知らん間に、いろんな人と知り合いになっとるし…… そして、今日から連休や。 学校休みやから、せつなさんの顔見れへんねん……「せつなさんに会いたいなぁ~~」「……私は、賛同しませんが……」「む!? そういうシグナムは、いつの間にかせつなさんとよく一緒におるやん!」 気が付くと、縁側でお茶しとったり、河原で一緒に剣ふっとったり…… 正直羨ましいで?「……その、私とあいつは、友人ではありますが、主が思っているようなことは……」「シグナムがせつなとどうこうなるわけねぇってはやて。……せつながもう少し真剣だったら、はやてとお似合いなんだけどなぁ……」 むぅ。ヴィータまでそんなこと言う!「せつなさんあたしの事ちゃんと考えてくれてんで? 将来の事とか、『進学先』とか! ……あれ?」「? どうしたんだよ?」「あ、ううん、なんでもあらへん」 おかしいなぁ。何で忘れとったんやろ。 こないだせつなさんと話したやん。私の進学先。 同じ高校に進むって話になったやん。……ふふふ。せつなさんはあたしの嫁やからなぁ~……「……主、その、よだれは拭いて下さい」「おお、つい……」 男の子なのに、可愛らしい顔つきやけど、目つきが鋭いんや。 その上、ふと浮かべる目元の優しいこと……く、あの目は反則や。 いつもの鋭さが演技やってわかったんは、付き合わんと分からんことやね。 本人、実は凄い目元優しいて、その目で微笑まれたら……ああああああ!?「もう我慢ならんで! せつなさんに会いに行くわ! お昼は適当に食べとってな? ツヴァイ! 行くで!」「は、はいです~!」 『妖精』リインフォースⅡ……あれ? 妖精やったっけ? まあええ。リインによう似とるから二号。ツヴァイや。 彼女を頭にしがみつかせ、治った足を使って、外へ! 待っててな、せつなさん! 八神はやてが今行くで~~~~~! で、あたしなんか忘れとる気がするんやけど、なんやったやろ? <すずか> ……アリサちゃんと会って、最初に聞いた話はびっくりしました。 なのはちゃんが、アリサちゃんを知らないと言ったそうです。「……冗談とか、そういうのじゃないんだね?」「ええ。あれは完全に初対面の態度だったわ。……まったく、友人を忘れるなんて、なんて子なの!?」 ……多分、それもこの世界の歪みなんだろう。 私は、全員の事を覚えてますし……そうだ。「アリサちゃんは、私達の名前、全部覚えてる?」「ええ、覚えてるわよ? 高町なのはでしょ?」 なのはちゃん。私とアリサちゃんが友達になるきっかけを与えてくれた子。「フェイト・テスタロッサでしょ?」 フェイトちゃん。お母さんの件で、悲しい顔してたけど、あの子のお陰で、今は笑っている、心の綺麗な子。「八神はやてでしょ?」 はやてちゃん。両親の代わりに、守護騎士と呼ばれる家族に支えられ、足の病気も治った、人を思いやれる子。「月村すずか……あんたでしょ?」 私。最初は、アリサちゃんに虐められてたっけ。それを止めて、お友達にしてくれたのが、なのはちゃんだ。 そして、「後、あたし。ほら、全部覚えてるじゃない」 ……あれ?「あ、あの、アリサちゃん? ……せつなちゃんは? せつな・トワ・ハラオウン」 せつなちゃん。私たちを、優しい目で見守りながら、私たちの前を歩いて、危険から守ってくれる、素敵な女の子。「……えっと、誰だっけ。それ」 ……アリサちゃん。せつなちゃんの事忘れてるんだ!「覚えてない? せつなちゃんだよ? 黒髪で、ショートで……いつも眠そうな眼をしてて……ほら、私たちにキスして来たり、前世に酷い目にあって、よく泣いてた……忘れちゃったの?」「……そんな特殊な子、いたら絶対覚えてるけどなぁ……ごめん。知らないわ」 ……そんな…… アリサちゃん、そんなことって……「……あ、そうね。なのはがあたしの事忘れてるなら、あたしがそのせつなって子、忘れてる可能性もあるのね?」「うん。絶対そうだよ。……この世界は、何かを忘れさせる効果があるんだよ……私も、何か忘れているような気がするし」「あ。そうそう。あたしも何か忘れてるのよね~? なんだったかしら?」 ……まず、皆を集めて、それぞれの意見を集めたほうがいいかもしれない。 誰が、誰を忘れているのか。 何を忘れているのか。 ……せつなちゃんも言ってたじゃないか。『困ったときは、情報を集めればなんとかなる』って…… 言ってたかな? まあ間違ってないよね?「とにかく、私は、はやてちゃんを探してみるよ。アリサちゃんは」「なのはにはアギトつけてるから、先にフェイト探すわね?」「うん。お願い」 目的を決めたら、早速行動だ。 ……はやてちゃん、私の事覚えているかな…… 後、私は何を忘れているのだろう。 <フェイト> 私は何か忘れている。 ……うん。それは絶対だ。 そして、幾つもの違和感。 朝、ベッドから起きだしたのが始め。続いて今日の日付。今日から連休という事実。 母さんに、アリシアに、アルフ。……そして、目の前にいる、『せつな』だ。 ……あ、今日は凄く目が開いてる。 同じクラスのせつな。昔は良く、私を慰めてくれて、ギュって抱きしめてくれた。 けど、最近はあまりギュってしてくれないし、話しても、すぐ別の女の子と話してたり。 プレイボーイって言うのかな? でも、その割には、いつも他の人と壁を作ってるような気がする。 ……えっと、デートにでも誘ってみようかな?「せつな、おはよ……あれ?」 ……どうしたんだろう? 出てきたはずなのに、また部屋に戻ってしまった…… もしかして、私……避けられてる? あ、またドア開いた。「せつな? おはよう」「お、おは……よう?」 ……どうして首を傾げるんだろう。 目を擦ってみたり……どうしたんだろう。「どうしたの?」「……え、えっとだな? ……フェイトさん……だよな?」 え? いつもみたいに呼び捨てにしない? それに、確認するように……私がいるのが不思議みたいな眼をしてる。「そ、そうだよ? フェイト・テスタロッサ……わ、忘れたの……?」 だったら酷い。昨日までよく一緒に登校してたじゃないか。 一日で私の事忘れてしまうなんて、そんなの酷い。「……あ、いや、大丈夫。『知ってる』……え? でもなんで……」 ……覚えてる、でも、忘れてない、でもなく、知ってるっていった。 ……私の事、忘れてるんだ。「……ひ、酷いよ……」「え、ええ!?」 うう、凄く悲しくなってきた。 せつなが私を忘れているなんて……酷いよ……「わ、私、こんないきなり……」「ええっと、ちょっと待ってフェイトさん!? 泣かないでください、いやマジで!? なんか知らないけど泣かれるのはまずい気がする!」 う、うう、もう止まらないよう。 だって、酷いんだもん。「あ、ああ、と、ちょっと待て。……よし、フェイトさん。相互理解は必要だ。お兄さんとお話しないかい!」「え、ふぇ?」 お話……? 「ああ。正直、俺も混乱している。……えっと、フェイトさんさえよかったらなんだが、ちょっと、一緒に歩こうか」 ……うん。そうだね。 ここで泣いてるより、お話して、理解を深めるほうが建設的だ。「……うん」「よし。……じゃあ、そうだな。『翠屋』まで行くか……て、何で俺、翠屋の場所まで知ってるんだ……?」 ? 翠屋は私たちがよく通う喫茶店だ。 あそこのシュークリームをほおばる、せつなの幸せそうな顔を見るのは、私の習慣だ。 ……それすらも、忘れてしまったのだろうか……「まあ、いいか。行こうか、ふぇい……ん、フェイト」 !? あ、呼び捨てに…… でも、思い出したわけじゃないみたい。 まだ、戸惑ってる。「あ~……嫌だったか?」「え? う、ううん? その……思い出してくれたのかと思って……」「むぅ。フェイトは俺の事を知ってるんだな……なんでかな~? 何で俺、ここにいるのかな~?」 ? あれ? 私がいることが不思議なんじゃなく、せつな自身がいることに不思議がってる。 ……ひょっとして、せつなじゃ……ない?「まあ、とにかく、翠屋でゆっくり話そうか。……この時間なら開いてるだろ」「うん。開いてるよ? ……行こうか?」「おう。……むう、実物フェイトさんむっちゃ、かわええ」 ええ!? ……こ、小声でも聞こえてるよせつな…… 可愛いって……あう。 ……性格は、せつなそのままなんだけどな…… けど、私も何か忘れているんだよね?