<テレサ> ……退屈です。 いえ、仕事がないわけじゃないんですけどね? せつなさんの尽力やリンディさんの手腕のお陰で、ミスリルから追い出される形で手持ち無沙汰になった私は、こうやって部隊長の地位にいます。しかも異世界の。 ……人生、いろいろ起こるものですね。まさか私が異世界の組織に入り、その部隊長になるなんて……しかも、新設部隊の。 せつなさんは、私が部隊長になるためにいろいろ手回ししてくれて、相良さんたちの就職先もここに設定してくれて……本当に感謝してます。 まあ、アームスレイブを改良して、こっちの世界で使うって聞いた時は、唖然としましたけど。 それって、技術盗まれたんですよね、私たち。 しかも、私たちの世界ではもう使われなくなった技術……うう、お父様や各国の代表たちが聞いたら、攻め込んできそうですね……。 でもそれも、私たちの世界の事を考えての事ですから、仕方ないといえば仕方ないと納得せざるを得ません。 その代わり、私もこうして外の、お日様の当たるデスクでお仕事が出来ると思えば…… ……でも、正式稼動は来年からですから、今は書類作成とか、人員整備、業務スケジュール作成、各部署への礼状、挨拶状……うう、やってることはメリダ島に待機してた時と変わりません。 むしろ、机に向かっている時間が増えてます。 はぁ……あの海が懐かしいです。「艦長」「ここでは部隊長ですよ、カリーニンさん」「……そうでしたな。それより、通信です。カリム理事から」 教会のカリム理事ですか。 まだ二、三回しかお会いしたことありませんが、この部隊のスポンサーになっていただいています。「つないでください」「はい……と、これでしたな」 まだ、こちらの機械操作には慣れてませんね、私達。 向こうと勝手が違いますから……『こんにちは、テスタロッサ部隊長。仕事の調子はどうですか?』 いつも笑顔を絶やさないカリム理事。私より数年年上ですが、あったときからいろいろアドバイスしてもらってます。 ……お姉さんみたいなものでしょうね。 私の姉分は……豪快な人ですから。「はい。書類仕事ばかりですが、順調ですよ」『それはよかった。退屈しているものと思いましたが……』 図星です。……顔に出てたでしょうか?『正式稼動までは、しばらく退屈かもしれませんが、頑張ってください。私どもの方でも、仕事をそちらにまわすようにしますから』「ありがとうございます。ご協力、感謝します」『それで、早速なんですけど……仕事の依頼をお願いしたいんです』 正式稼動していない私たちの部隊は、こうした依頼をこなすしかできません。 4月末に108部隊に研修に出ていたマオたちが戻り、『ウルズ』『アサルト』両チームは普段は訓練、依頼時に仕事という業務をこなしてもらっています。 ですから、仕事の依頼はありがたいです。「はい、かまいませんよ? 今日は両チーム手が空いてますから」『わかりました。それで、今日の仕事ですけど、ロストロギアの探索になります。場所は、あなた方の出身世界ですね』 ……こちらの世界で一番興味を持ったのが、ロストロギア。古代遺失物と呼ばれるそれは、オーバーテクノロジーだったり、超魔法文明の道具だったりして、いずれも危険なものばかりです。 はやてさんの夜天の書、せつなさんの騎士王の書も、一応ロストロギアに分類されますが、安全を確認されたので、通常運用されているそうです。 ……そのロストロギアが、地球にあるんですか……「では、『ウルズ』のチームに出てもらいますね?」『あ、いえ、せつなさんにお願いしたいんです。丁度、海鳴市なので……』 ……まずいです。 せつなさん、今一週間の休暇中なんです。 理由が……「あ、あの、聞いてませんでしたか? せつなさん、今日から修学旅行で、お休みなんですけど……」『……あらまあ』 あ、笑顔が引きつった。 ううう、何でこんなときにいないんですかせつなさん。 絶対あの子は私に恨みがあると思います。 ……せめて、スポンサーには話し通しておいてください…… <せつな>「知ったことかー!」「え!? なにが!?」「……あ、いや、なんかつっこまなきゃいけなかったような……?」 まあ、いいか。 で。今日から五日間。聖祥大付属中学校二年生は修学旅行。三年生じゃないんだな…… 来年忙しくなるから助かる。 仕事は全てキャンセル。アンド、終わらせた。 行き先は京都・奈良。……まあ、昔住んでた所は回るまい。何も名産なかったし。 今回は、仕事も絡まないし、平穏に過ごすとしよう。「しかし京都か~。ちょっと懐かしいかな、せっちゃん」「つってもな、俺あんまり向こうの記憶ないしな」「あ、せやったな……」「ああ、気にすんなって。……むぅ、まあ、懐かしいって言えば懐かしいけど」「どして?」「……前世の修学旅行も京都だった……」「……不憫や……」 ええい、マジで不幸キャラだな俺! よし、気にしない方向で! 気にしたら負けだ……ところではやて?「……ツヴァイ、連れて来てんのか……」「……ばれたか」『え、えっと、駄目ですか?』 はやてのシュベルトクロイツから聞こえるツヴァイの声。……いや、便利だな。 そっちに入れるって。「まあ、俺もパラディン持って来てるし、いいんでない? ……アリサも、アギト連れてきてるしな!」「いきなり当てるな!」『けち臭いこというんじゃねーよ!』 アリサが持っているのはAT『ヒュッケバインR』。試作改修機で、アギト収納用。 ちなみにすずかもAT『ビルトシュバイン』を持ってきている。こちらは回復魔法専用。 ……あの後、なのはがATの存在を理解してくれて、全面的に協力することを約束してくれた。 きっかけが、誘拐未遂ってのが気に食わんが、まあ、解ってくれて嬉しい。 今回持ってきたのは、いざって時の装備と、アギトのためだから……まあ、目をつぶる。「まあまあ、せつなちゃん」「わかってる。今回は目をつぶることにするよ。……何も起きないと思うし」 そんなしょっちゅうなんか起こってたら、身がもたねー。 俺に平穏をください。「? なんだこれ?」 と、足元になんかあった。 本? ……誰か落としたか?「せつな、何それ?」 アリサたちが近寄ってくる。 構わず、本を開けてみる……? 何でベルカ語? えっと、何々……?「え、た、げえ? Ge…h、……『Gedächtnisverlust』?」 瞬間。 周囲の照明が落ちた。 一気にあたりが暗くなり、なのは達の姿しか見えない。 それすらもうっすらと消えてゆき……「せっちゃん!」「「せつな!!」」「「せつなちゃん!!」」 ブツンと、意識が途切れた。 この感覚、どっかで感じたな~?