さて、ティーダさんのいる航空部隊に来て二週間。 基本は訓練と書類整理。緊急時に呼び出しと。 108部隊に比べれば比較的楽だ。来て良かったかもしれん。 暇な時間に新部隊の編成できるし。 後、ソースケさんからの連絡で、カナメさんが参加してくれることになった。 カナメさんはマサチューセッツ工科大に進学したそうで、一般以上の知識と技術力を修めたらこちらに来てくれるそうだ。 これは嬉しい。 アリサと同じオペレーター兼技師として組み込むことにした。よきかなよきかな。「……? なにしてんの? お嬢」 うわっと。覗かないでくださいティーダさん。 これ一応機密事項なんですから。「ちょっと別件の仕事。それより、今日の訓練は終わったんですか?」「まあな。後、お嬢に客。……57部隊のシグナムさんとグランセニック。知り合いか?」「シグナム?」 シグナムは確かに知り合いだけど、グランセニック? ヴァイスの兄貴に、何か共通点あったっけ?「……元気そうだな。お前が航空隊に来てると聞いて、顔出してみたんだが」「あ、シグナムはこっちに入ってたんだっけ。身の回りで忙しかったから、挨拶するの忘れてた。すまん」「また無理してるなお前。……もう少し、私たちを頼れ」 頼れるときには頼らせてもらいます……あ、そうだ。 シグナムたちには今のうちに打診しとくか。はやてに内緒で。「ともかく、心配してくれてありがと。……ところで、そっちは?」 先に、ヴァイスの兄貴に挨拶を。「ああ、私の部隊のヴァイス・グランセニック。ヘリパイロットだが、それ以外の航空機器も扱える。後、遠距離射撃を得意とする魔導師だ」「グランセニック陸曹だ。よろしく、嬢ちゃん」「せつな・トワ・ハラオウン嘱託魔導師です」 握手を返す。……そして頭撫でんな。「で、今日は顔出しただけ?」「ああ、すこしな。……せつな、二週間ほど前、立て篭もり事件の援護に参加したか?」 ……ああ、そう言えばやったな。「あれか? 女の子人質にしてた奴」「それだ。……その人質、こいつの妹なんだ」 ……へ? あれ? ……あ、そう言えばそんなイベントあったなぁ。 妹誤射して、武装隊から身を引くとかそんなエピソードが……「妹が世話になった。ありがとう、嬢ちゃん。助かった」「あ、い、いえ。その。妹さんが無事で何よりですはい」 あっぶねぇ。見過ごすところだったそのイベント。 これはゲンヤさんに感謝しとこう。とっつあんナイス。「……いや~、世間は狭いな~」「まったくだ。……それで? 今度はどんな無理をしてるんだお前は」 あ、そうだそうだ。「はやてに内緒にしておいてくれるんなら話すけど?」「……それはなぜだ?」「勿論、びっくりさせたいから」 あいつらのリアクションの為に多少の無茶は平気だ。「……相変わらず性格の悪い……分かった、主には内緒だな?」「話の分かる。……そうだ。陸曹にも聞いてもらおうかな?」「へ? 俺?」「ああ、陸曹の魔導師ランクは?」「ああ~、B+だけど……」 よしよし。充分許容範囲。 ヘリパイで射撃得意だったら、充分充分。 もともと六課に参入予定だったし、隙を見てこっちに引き込むつもりだったし。「……よし、今日の業務終わったら、連絡するから、そのときに話すよ」 ついでだから、ティーダさんにも声かけよう。 ふふふふふふ。ドリームチームまであと少しだぜ。「……せつな。その……凄く危ない顔してるぞ」「あ、姐さん? 嬢ちゃんって実はとんでもない人なんじゃ……」 ほっとけ。 通常業務を終わらせ、定時退社。 仲間の部隊員に挨拶して、ティーダさんに声を掛ける。「ティーダさん。この後ちょっといいですか?」「おろ? お嬢から誘ってくるのは珍しい……惚れた?」「抜かせ、シスコン。……俺より、もっと美人紹介するよ」「あ、昼間のシグナム二尉? おお~、お嬢でかした」 頭撫でんな。 ティーダさん連れて隊舎の外へ。シグナムには連絡入れてあるから……ああ、いたいた。「シグナム。またせた」「いや、かまわん。言われたとおり、グランセニックを連れてきたぞ」「あれま、ダブルデート?」「ティーダさん、ティアナに言いつけるよ?」「それは勘弁」「あ、236部隊のシスコン空尉」「……せつな。お前は本当にシスコンに縁があるな」「……それは言わないで……」 話しながら移動。行き先はゲンヤのとっつあんいきつけの飲み屋。 ちなみに俺は飲みません。 他の連中にも、話が終わるまで飲酒禁止。「さて、ちょっと俺の話しに付き合ってもらうぞ?」「お、なんだ? 告白か?」「あ、馬鹿、そういう振りしたら……」「シグナム、結婚しよう」「馬鹿者。話を続けろ」 く、ノリの悪い……はやてならノッてくれるのに。「嬢ちゃん以外と軽いなぁ~」「お嬢は女の子大好きだからな。俺のティアナはわたさねー」「……あんたも大概だな……」 よしよし、兄貴コンビもなかなか気が合うようで。 さて、本題に入ろう。「来年を目処に、新部隊を設立予定だ。で、シグナム、グランセニック陸曹、後、ティーダさん。三人を、その新部隊にスカウトしたい」「……本気か?」 まあ、嘱託魔導師の分際で、何を寝ぼけたことをと思うだろうが。「一応、スカウト権限は貰ってる。部隊の後見人はハラオウン提督、グレアム提督、ロウラン提督」「げ。海の提督ばっかじゃん」「地上から、レジアス中将」「うっそ。まじか!? あのタカ派が海と手を組むのか!?」 ティーダさん驚いてるな。「後、教会の騎士カリムもバックアップに入ってくれてる。……近々、あの三提督にもコンタクトを取って、後詰めを頼む手筈だ」「な、何でもありだな……」 当然。これは管理局の進退を掛けた切り札だからな。「部隊コンセプトは『迅速、簡単、丁寧に』。陸、海、空全ての実力者のサポートを受けてるから、初動をできるだけ早くできる。そして、部隊員のほとんどが、低ランク魔導師だ。その上で、ちゃんと結果をたたき出す」「……無茶をする。そんな部隊が通用するのか?」「させる。……なんせ、部隊長はカウンターテロのプロだぜ? シグナムも知ってるよ」「……? 私の知り合いに、そんなものは……!? まさか、テレサか!」「ビンゴォ!」 はやて、家族にテッサの正体教えたって言ってたからな。 翌日にいろいろ聞かれたのを覚えてる。「姐さん? その人ってどんな人なんです?」「テレサ・テスタロッサ。対テロを中心に動く戦闘部隊の部隊長だった女性だ……しかし、彼女は非魔導師だろう?」「それが? ゲンヤのとっつあんも、非魔導師だが、ちゃんと部隊長勤めてる。……地球の彼女の部隊が、軍縮に伴い、こっちにスカウトしたってわけだ。ベテランだから、研修さえ受ければ、部隊長権限は持てる」 時たまそういうことあるらしい。まあ、ほとんどが魔導師だったりするんだが。「テッサを部隊長に据え、低ランク魔導師の部隊で、エリート以上の戦果を出せる部隊……面白いと思わないか?」「……すげぇな。各部署に、完全に喧嘩売ってる。……それで結果を出せば……」「……その部隊に、俺たちを?」「そ。まだまだ人が足りないんだわ。主要メンバーは決めてるんだけど、専門で動ける人がいなくてね。小隊も、隊長がいても副隊長がいないとか……でだ。まず、シグナムには、ファーストスタッフの小隊『アサルト』の副隊長を予定している」「……ふむ。隊長は?」「こいつも傭兵上がりの戦争屋で、北米で活躍していた曹長さんだ。こっちに配属の際三尉として昇格してもらう。……まあ、階級的にシグナムの下だけど、腕は確かだ」 ……エクセ姐さんとアースラの武装隊隊長を三分撃破の事実も教える。「……凄いな。……考えるに足る要請だ」「いい返事を期待してます。……んで、グランセニック陸曹」「あ、名前でいいぞ? こっちもそうするから」「分かった。じゃあ、ヴァイスさんには、補佐部隊の航空支援に就いて貰いたい。……輸送ヘリパイだな。後、空戦技能者が少ないから、その援護も含まれる……どうかな?」 まあ、六課でやってたことプラス援護射撃だな。後でアルトさんも探してスカウトしとかないと。「……そうだな。陸戦部隊が多いんだったら、それは有効手か……わかった。前向きに考えとくよ」 よしよし。結構乗り気だ……いや、どこにフラグ転がってるか分からんねマジで。「ティーダさんには、もう一つの小隊『ウルズ』の副隊長をお願いしたい。あと、クロノ・ハラオウン提督に頼んで執務官試験の推薦もつけるけど?」 実は兄さんとうとう提督になりやがった。母さんはその後ろについて、そろそろ内勤任務に就くそうだ。 ……そして、身長もちゃんと伸びて、隙があれば俺の頭撫でてくる。おのれ。「……それは……確かに魅力的だが、低ランクの魔導師で、本当に大丈夫なのか?」 おっと? まさかティーダさん、高ランク魔導師主義?「いや、そういうわけじゃないが……作るだけ作って、駄目でした~て、なったら……な?」「まあ、その場合の対策も勿論考えてあるけど……よし、皆に恐ろしいことを教えてあげよう」 声に出すとまずいので、限定空間念話で。「(実は、低ランク魔導師をA+魔導師にする素敵デバイスを配布する……と、言ってみるテスト)」 ……あ、シグナム引いた。 ヴァイスさんは……目を見開いてる。 「……本気か? そんなとんでもないものが」「こないだ、試作第二号が完成した。勿論結果は上々。それに」 さっきのアサルト隊隊長の話の真相を教える。実は二人ともDランク魔導師で、使用デバイスがその試作一号機だと教えた瞬間。「……おい、それって、まずくないか?」 あ、そっちに反応した。「そんなものがあるなんて知られたら、回りから反発が……まさか!」「気付いたね? そのための実力者だよ」 上のほうからサポートを貰ってるんだ。他の人間なんかに非難させない。「勿論、この技術はうちの部隊の占有とする。他の人間には使えないようにセキュリティにも気をつけたしな。……その実力を、管理局全体に認めさせてからネタ晴らしだ……高ランク主義の官僚どもの、度肝を抜いてやる」 本当は、一番喧嘩を売りたいのは本局の馬鹿ども。 最初にアースラで働いているとき、本局にも高ランク主義の馬鹿が目に付いた。 確かに、こんなんが上にいたら地上本部は人手不足になるわ。「……無茶苦茶と言うか……度胸あるというか……お嬢。実は馬鹿だろ?」「馬鹿で上等」 大体、魔法なんて技術、手段でしかねえんだから、それで優劣つけようってのが間違いなんだよ。 技術は公平に渡して、それをどう使うかが問題なんだ。 便利なものは、弱者にも渡し、効率的に使う。 ……勿論、それによるデメリットは勿論あるが。 ある意味これは、神話の再現だ。「俺の出身世界の神話でな? 神々から火を盗んで、人間に分け与えた半神がいる。俺がやろうとしてるのは、それと同じことだ」 まあ、彼は神々から罰を与えられたが……「どうする? 参加する? しないって言うなら、それでもいい。デメリットはない」 この企画を黙っててもらえばいいだけだし……悪いけど、記憶を抜かせてもらう。 それくらい非道にならないと、この企画は成功しない。 ……できるだけしたくないので、参加して欲しいところ……「……少し、考える時間をもらえないか? ……正直、迷っている……」「……ああ、わかった。いい返事を待ってる」 まあ、時間は必要だよな。「……しかし、やはり友人だな。主も、地上部隊の初動の遅さを気にしていた。……そのための部隊を作ろうと、今必至に勉強中だ」 ……その努力が、機動六課に繋がるんだろうけど。「うん。でも、もうしばらく修行してもらうよ、はやてには。……いくら勤続年数長くても、未成年の子供に頭なんか張らせたくない。……自分たちは良くても、周りが納得しないからね」 六課も、周りからの突き上げが酷かったし。 てか、主要部隊員に三十代が一人もいないってやばすぎだろ。守護騎士は除くとしても、公的機関でベテラン……現場たたき上げの古参が一人もいないなんて、考えられない。 就労年齢低いのは知ってるけど、年齢=経験なんだぞ? 十九なんてまだまだガキもいいとこ。そんな奴に頭張らせんじゃねえよアニメの提督ども。 ……この世界の提督にはその辺を説得して、うちの世界からテッサを引き抜いてもらった。まあ、彼女も若い方だけど、もう二十一歳だ。さらに戦争経験者。平和な日本で暮らしてるはやてと、経験の差が抜群に違う。……まあ、その分管理局で働いてるが、それでも差は縮まらない。管理局って結構甘いし。 一〇年管理局で働くのと、一〇年戦争してるのでは、その経験の差は計り知れないほど広い。 それにだ。 せっかくのエースにリミッター掛けてまで集めたら、まったく意味無いだろ。 保有制限は分かるけどさ。隊長陣身内だけで固めたら、新人と壁できるのも見え透いた結果だ。 どうせ身内を集めるなら、新人入れないほうがマシだよ。意味ないし。 ……入れるにしても、充分に訓練つませないで現場に出すとか、あんたら間違ってるよ。 「……辛辣だな。お前はいいのか?」「俺? その部隊内じゃ、小隊の一隊員だぜ? シグナムの下になる」「……お前がか?」 おいおい。一応俺まだ十二歳だぜ? もうすぐ十三だけど。 確かに前世の記憶あわせて三十年以上生きてるけど、八年ほど真っ白だし、向こうの二十年の経験なんて、ほとんどゴミだゴミ。まったく役にたたねえ。せいぜい、アニメの記憶が頼りだって話だし。 そんな奴が隊長格張れないし、経験も充分とはいえない。 「俺じゃ、人の頭に立てる器じゃないよ。せいぜい、影に隠れて陰謀を施させてもらうぜ」「……黒いな嬢ちゃん」 そういう立ち位置だからさ~、昔からね?「じゃあ、難しい話はここまで。各自、色よい返事を期待してます。……飲酒解禁。どうぞ」「よし! じゃあ、嬢ちゃんの陰謀の成功を祈って乾杯だ! ねえちゃん、生四つ!」「て、俺は飲まんぞ! 未成年に酒飲ますな!」 飲みたいけど飲めません。 飲酒は二十歳になってから! ……大体だ。「お嬢はなぁ! まだまだガキの癖に、いろいろ頑張りすぎなんだよぅ? わぁってんのかい?」 この酔っ払い一号を家に届けなきゃならんのだ、俺までつぶれるわけにはいかん。 二号はシグナムに渡した。今頃宿舎で死んでるだろう。「はいはい。わかってます」「いいや、わかってねぇ! 年頃の女の子なんだから、恋の一つや二つしろっての! 聞いてる?」 勘弁してくれ、男に興味ねえし。「じゃあ、ティアナは貰ってくことで」「それはゆるさーん!」 このシスコン、マジウザイ。 いやいや。落ち着け俺。 うう、酒臭いよう。 どうにかこうにかランスター宅へ。ティアナ~、お届け物~。「はーい……うわ。お兄ちゃんまた飲んでるの?」「またって!? 三ヶ月ぶりだよ俺飲んだの?」「そのたびにせつなさんに迷惑かけてるでしょうが! ……せつなさんごめんなさい、うちのお兄ちゃんが世話を掛けます」 ティアナさんマジで礼儀正しい。 うんうん、お姉ちゃんは君のような子、大好きです。「あははは。今日は俺が誘っちゃったから、大目に見てあげて。……おら、ティーダさん! さっさと部屋で寝る! ゴーアヘッド!」「いえっさー!」「マムだ!」 ノリだけで動いてやがるなティーダさん。 ふらふらと部屋に歩いていった。「……すまんティアナ。ちょっと難しい話した後だったからな。飲ませすぎた。すまん」「あ、いえ、いいですよ。……お兄ちゃん、最近ずっとせつなさんの話ばっかりだったし」 俺の? どんな話?「せつなさん、人以上に働いて、前線には一番で駆けつけて、人の倍頭つかって……子供なのに、働き過ぎだって」 ……そうか? 普通だと思ったんだが。 「うーん、うちの兄からすれば、俺なんてまだまだ仕事できてないはずなんだけどなぁ……」「えっと、せつなさんのお兄さんって、ハラオウン執務官ですよね? 最近アースラの艦長になった」「お、よく知ってるな」 まあ、取材陣来てたし。史上最年少提督の誕生とかなんとか。「あの人も、一杯一杯仕事して、勉強して、提督になったんですよね?」 ……まあ、兄さんも大概仕事の虫だからなぁ。「でも、ハラオウン執務官とせつなさんは……その……」「違うって言いたいかな?」「……せつなさんは女の人だし、私より年上だけど、子供だし……あまり無理したら、体壊したら……」 ……未来の君に言っておこう。お前が言うなと。「大丈夫。お姉さんは頑丈だし。それに、言うほど仕事してないから」 人以上に働いているように見えて、実は全部別の部署の書類だったり。 前線に一番に駆けつけるのは、さっさと終わらせて帰りたいだけだし。 人の倍頭なんか使っていなく、ただ経験と楽な方法を模索してるだけだし。「……それでも、心配です」「……ありがとう。ティアナ。心配してくれて嬉しいよ」 俯くティアナを抱きしめる。 やっぱりこのくらいの子の体温は気持ちいいな~「せ、せつなさん?」「俺はさ、好きな人の笑顔の為に頑張れるから。……ティアナの笑顔の為に、まだまだ頑張れるから。お姉さんを応援してくれると、嬉しいよ?」「……はい。せつなさんを応援してます!」「うん。いい子いい子」 ……未来のストライカーは、スバルもティアナもいい子だよ本当に。「くぉら! てぃあなにてぇだすなー」「寝てろ! シスコン!」 ……まったく。困ったもんだ。 あれ? 通信? ティーダさんのだ。「ちょっと失礼。……はい、こちらランスター代理、トワ・ハラオウン」『ハラオウンか。ランスターはどうした?』 あれ? 隊長?「酔いつぶれてますよ。どうしました?」『……じゃあ、お前で構わん。先ほど、違法魔導師が航空隊の防衛網を突破して逃走した。すぐに援護に向かって欲しい』「……了解。飛行許可をお願いします」『わかった。相手はA+ランク魔導師だ。注意して捕縛に当たれ』「了解。せつな・トワ・ハラオウン、出動します」 ……本当に困ったもんだ。「……せつなさん」「わり。ちょっと行ってそのまま帰るわ。ティーダさんの介抱よろしく」「……気をつけてくださいね?」 ティアナの頭を撫でてから、にっと笑いかけ。「ああ。お姉さんは無敵さ」 と、かっこよく出陣と行こう。「パラディンセットアップ! 【ブレイブハート】スタンバイ! 【飛翔天翼】発動!」【相変わらず注文が多いです! どうぞ!】 翼を広げ空へ。ミッドの夜はあまりネオンがない。 海鳴市街地より、地上は暗いな。 さて、航空隊に連絡をっと。『はい! こちら35部隊』「……こちら、236部隊嘱託魔導師トワ・ハラオウン。援護要請受けて出動しました。違法魔導師の行き先をお願いします」『ご苦労様です。現在、違法魔導師は新市街地を抜け、旧市街地上空を移動中。結構早いです。注意してください』「了解。パラディン、地図」【はいはい。マーカー写します】 ……よし、こっからなら近い。それでティーダさんに連絡入れたな? あの隊長。 終わったら時間外労働で請求してやる。「んじゃ、最大戦速! さっさと片付けて、家帰って寝るぞ!」【了解です! 誘導します】 旧市街地へ飛ぶ。……十分ほどで、旧市街上空。 魔力サーチ……いた! 郊外に抜けるつもりだな? させるかよ!「バインド、いつでも仕掛けられるように事前詠唱。回り込むぞ」【了解です】 必殺、魔王様からは逃げられない発動!「止まれ! 時空管理局だ! 大人しく縛に付きなさい!」「くそ! 早いな!」 こっちはこないだの試験でAAA取っちまったんだ。お前なんぞに後れを取るか。「けど、捕まるわけにも行かないからな!」 デバイスを構える犯人……え? 違う!「やべ!」 射線から回避。 デバイスじゃなくて、あれ質量兵器!? 拳銃じゃん!「舐めんな! 【拘束光輪】!【hoop bind】 バインド発動! これで……え!?【魔力結合がとかれました! AMFです!】 マジかよ!? 何でこいつがそんなもん張れるんだよ!?「死ねぇ!」 ちぃ! 容赦なく乱射する拳銃を避け、距離を取り、防壁を張る。 ……くそ、だんだん濃度上がってきてる。防壁がもたない! このままじゃまずいか? ……仕方ない、奥の手!「撤退!」 三十六計逃げるが勝ちぃ! 勝てそうにない相手と戦えるかぁ! 「……へ、腰抜けだったか」 言ってろアホ。 追いかけてこずにそのまま背中を向ける犯人。 ちゃ~んす。「パラディン【アヴェンジャー】フォルム」 白から黒へ。闇に溶け込むように鎧が黒く染まる。 「【フェイルノート】スタンバイ」 取り出すは弩弓状に変化した長距離戦用デバイス。 脳内BGMは『THE GUN OF DIS』。サルファリアル男後半のテーマで。 「ターゲットインサイト。ロングバレルセット。ロックオン。カートリッジロード」【バレルショット射出します】 距離にして1㎞は離れた。その距離から、拘束バインド弾射出。 ……ヒット! 馬鹿が、AMF切ってやがった。 「最終詠唱開始。Y・H・V・H・テトラクテュス・グラマトン……」【魔力収束終了。重力変換完了。臨界突破! 発射、どうぞ!】 ネタ魔法の餌食にしてくれる。「【原始回帰】デッドエンドシュート!」【ain soph aur】 重力子を伴った魔力弾が犯人に当たる。同時に、湾曲する空間。 体の全てが押しつぶされ広げられ、その肉体構成が翻弄される。 そして、光とともに爆砕! ……見た目だけは派手だが、これでも一応非殺傷。しかもネタ元と属性違うし。 時間逆行攻撃なんか、完全に儀式魔法じゃ。使えるかー! まあ、しばらくは病院生活だ。諦めてもらおう。退院したらすぐ豚箱だけど。「さって、捕縛捕縛~」【ここまでやっても過剰防衛にならないんですよね~。……ひょっとして、管理局って軍隊より恐ろしいんじゃ……】「……ま、まあ、言うな」 殺してないだけましまし。 犯人にバインド施して装備取り上げて、任務完了。 ……このやろ、生意気にベレッタ使ってやがった。 AMF発生コートまで持ってやがるし……気絶してるから意味無いけど。 ……さて、ちょっと締め上げますかね?「パラディン、記憶野の洗い出し。【記憶干渉】」【date hack.……接続完了です】 えっと、今から十二時間の記憶を呼び出し。 ……あ、ビンゴ。【……こいつと話してる人……】「隊長だな。236部隊の。……あの野郎。誰か死なせて航空隊の評価下げようとしてやがったな?」 評価を下げていいことがあるのか? 実のところ、航空隊の評価を下げて得をする部署があったりします。 それ以外の部署に人を流せる口実になります。 ……おまけで、こいつにAMF発生コートや、質量兵器もたせて、小銭も稼ぐつもりだったらしい。 一石二鳥を狙ったようだけど、俺を上げた時点で運の尽き。 せいぜい役に立ってもらうぜ。発言権稼ぎのな? ……てなわけで、こいつは航空隊に突き出しじゃ。 ……さて、翌日。 突き出した犯人は局の監獄病院に搬送。そこに乗り込んで犯人に事情聴取。 拷問なんかしません。事実だけを突きつけて、自白を取り、刑を軽くしてやる……それでも終身刑を免れただけだが。 質量兵器の密輸及び使用、違法行為、違法研究品の所持。自白を差し引いても禁固刑四十年だ。残念でした。せいぜいしっかり償って減刑を期待しろ。 その調書を元に、ティーダさんと裏を取って……二日後に、「航空隊236部隊隊長アラシム・ハイオン三等空佐。質量兵器密輸、違法研究幇助の罪で逮捕します」 敢え無く隊長は御用。 逮捕礼状は中将経由で取ってもらった。毎度毎度ありがとうございます。 ……236部隊は一週間後に解散。各員は受け入れ先に行って貰い、俺は古巣の108部隊へ。 ティーダさんは今回の件で執務官試験の切符を手に入れた。シグナムの部隊で引き取ってもらい、仕事しながら勉強中だ。 ……この件が、死亡フラグ回避だったと気づいたのは、六十九年が終わってからである。 ……た、棚ぼたラッキー? 三度目はないんだろうなぁ……