はい、八月突入、夏真っ盛り! 普通はここでプールイベントとか、皆で海! もしくは山で肝試し! な~んて小学生らしいドキドキイベントを迎えるはずの今! 私は! ……orz「……どうした? いきなりそんな落ち込んで」 ゼストさんとお茶の最中ですってなんでやねん! 「いえ、もう少し小学生らしいイベントこなしたいなぁとちょっと世界の理不尽に文句言ってたところですから」「……まあ、大変だな」 相変わらず渋い。 ……さて、ちょっと状況整理してみようか? 今日はリンディさんに呼ばれて、養子の手続きしに来たわけです。 本局で書類や同意書にサインして、養子縁組の書類に判を押して。 じゃあこれから家族なので、よろしく~とか言ってたら、『提督、事件です』 てな感じでリンディさんクロノ君出動。 ……あれ? 私は? ……はあ、戻るかなにかしておいてくれ? ……ああそうですか。『なら、ちょっとクラナガン観光してきます』 て、ミッドに下りたその直後。『あ、せつなちゃん久しぶり~』 と、クイントお姉さんに捕まって、あれよあれよと首都防衛隊隊舎へ。 んで。『よく来たな。約束どおり茶でも出そう』 と、ゼストさんに歓迎受けて、こうして茶をしばいております。 ……もうちょっとさぁ、あれなイベント起こらないわけ? 何が悲しくて男とお茶しなくちゃならんのかと。 まあ、ゼストさん嫌いじゃないのでいいけど。「……それで、私を拉致って来たクイントさんはどうしたんですか?」「あいつはまだ仕事が残っていてな。それを片付けている最中だ。……すまんな、ばたばたさせて」「あ、いえ。どうせ暇でしたし」 いいお茶出してくれたのが幸い。 ……ところで、うちのお母さんは今日中に帰ってこれるのでしょうか? 無理だろうなあ……「……それでは、ハラオウン提督の養子に?」「はい。今日付けで永遠せつな改め、せつな・トワ・ハラオウンとなりました」「そうか。ハラオウン提督は管理局でも有名な方だ。その娘にふさわしい行動を期待している」 もう既に真っ黒だけどね。 「まあ、頑張ります」「お前が管理局の一線に出て来るのを待っていよう」 ……? え? 私管理局入り決定なんですか?「あの、私管理局に入るとは一言も言ってませんよ?」「……入らないのか?」「将来の職場には考えますが、今すぐには決めていません」 せめて、地球の高校卒業するまでは普通に過ごす気ですし。「もったいないな。今から入っておけば、すぐにでも一線に出れるのに」「私、結構我侭なんで。……自分の周りで精一杯なのに、わざわざ手を広げて、他の人まで助けられません」「……なるほど。これは考え方の違いなんだな」「そういうことです。……生まれの違いでもありますね。私、管理外出身なんで」「なら、管理局にそんなに思い入れはないか。……残念だ」 本当にごめんなさい。 それに、法に従うのはあまり好きじゃないので。 ……と、言うか、法に縛られて自由に行動できないのがいやなんですが。「は~い。せつなちゃんおまたせ~」 と、ここでクイントさん登場。 ……ぱっと見、明るすぎるギンガさんみたい。「仕事は?」「ちゃ、ちゃんと終わらせましたよ。せっかくせつなちゃん連れてきたのに、楽しくお茶も飲ませてくれないんだから」 う~ん。若い人だなぁ~。 拗ねる顔が素敵です。「それで? 何話してたんですか?」「ああ、トワが管理局に入るのに消極的だという話をな」「あら。せつなちゃん管理局入らないの?」「入りません」 どうしてそんなに入れたがるかね。 「私はただの小学三年生なんです。学生生活出るまでは、仕事は極力したくないんです」「あらら、一応言っておくけど、ミッドの就職年齢って結構低いのよ?」「クイント。彼女は管理外出身だ。ミッドのそれには適応しない」「あれ? そうなの? ……ああ、うちのだんなの祖先と同じところだっけ」 それってゲンヤのとっつあんの事ですかい?「えっと、クイントさん結婚してるんですか?」「あ、うん。職場結婚でね~。こないだ108部隊の隊長になったのよ~。魔導師じゃないんだけど、優しい人でね?」 はいはい、惚気は聞きたくないです。 ……聞きたくないけど、ホント嬉しそうに話すな。「子供に惚気ても呆れられるだけだぞ」「む、いいじゃないですか。……あ、そうだ! せつなちゃん今日はどこか泊まり?」「いえ、今日はどうしようかと迷ってたところです」「じゃあ、うちに来なさい。晩御飯御馳走してあげる!」 あれま。 こんなところでワンコ二人と御対面かよ。「いいんですか?」「いいに決まってるわよ。家に、私の子供が二人いるのよ。えっと、あなたの二つ下と四つ下の二人。両方とも可愛いわよ?」「……トワは女子だぞ。可愛いのは関係あるのか?」「ありますよ。せつなちゃん、可愛い子好きよね~?」 それはどういう意味で言っているのか本当に聞きたい。「……まあ、嫌いではないですが」「じゃあ決まりね? ちょっと待っててね、すぐに支度するから」 と、立ち去っていくクイントお姉さん。 あれは台風の一種なんだろうか?「……騒がしくしてすまんな」「いえいえ。元気な人ですね」「……元気すぎて困っている」 あはははは…… スバルとギンガさん足して二で割ったらクイントさんになるのか。 ……あの人が死ぬことになるんだよな…… ……せめて、自由に仕事できれば、管理局に入ってもいいんだけどな…… やるせないなぁ…… クイントさんに連れられて、彼女の家に。 ミッドチルダ西部のエルセアって地名らしい。何でも、ゲンヤさんの持ち家だとか。 住宅街のはずれの方にその家はあり、普通の一軒家。 結構大きい家である。「ただいま~! ギンガ~? スバル~? お母さんが帰ってきたぞ~?」 クイントさんが声を上げると、中からばたばたと音がして、「「おかあさんお」おかえり~!」 出てきたのは青いワンコ二匹。だが、一人は途中でもう一人の影に隠れてしまった。 ……髪の短いほうがスバルで、長いほうがギンガだな。 なお、隠れたのは多分スバル。「こらスバル? お帰りは言ってくれないの?」「お、お帰りなさい……」 ……明らかに私を警戒している模様。 うーん。アリシアは懐いてくれたけど、よくよく考えたらアリシアより小さいんだよなスバル。「で、こっちの子は、お母さんの友達で永遠せつなちゃん。あなた達のお姉さんよ~?」「え? お姉さん?」 こらこら。 混乱するような紹介やめれ。「えっと。君たちより年上ってことだよ。後、今日からせつな・トワ・ハラオウンって名前になったから、そっちのほうが正しい」「あら? そうなの? ……え? ハラオウンって、本局の提督の?」 知らんかったんかい。 ……て、説明時にこの人いなかったんだっけ。「そうですよ。……それで、君たちの名前は?」「あ、はじめまして、ギンガ・ナカジマ。6歳です!」 あ、アリシアと同い年なのか。「……」 で、スバルっぽいのは隠れて出てきません。「ほら、スバル。自己紹介は?」「スバル~? お姉ちゃんに、はじめましては?」 クイントさんとギンガが話しかけても、なかなかギンガの後ろから出てこない。 ……う~ん。これがあのスバルになるとは考えられん。「……えっと、はじめまして、私はせつな。あなたのお名前は?」 まずはなのはさん的自己紹介攻撃。「……」 ……ふむ。効果なし。 役にたたねぇな、なのは。『言いがかりなの~~~!!』 なんか聞こえた気がしたが気にしない。 ならば次の手だ。「えっと、私怖いかな?」「……」「怖かったら、怖いって言って?」「……こ、怖い……です……」 え~? ホントに怖いんだ……ショックだ。「ちょ、スバル? そんな普通に……」「まあまあ。……私の何処が怖い?」「……目が……」 ……目って……「クイントさん、私ひょっとして目つき悪い?」「ううん? ちょっと眠そうなところが可愛いと思うんだけど」 だよねぇ?「じゃあ、目を瞑ってたら、怖くない?」 ふふふふ。スバルの顔が見えなくて真っ暗ですが。「……それで、見える?」「君の顔が見えないけど、これで君は怖くないかな?」「……ご、ごめんなさい。目、開けていいです」 ……再び開けると、ギンガの後ろから出てきたスバルの姿。「じゃあ、君の名前、聞かせてくれる?」「あ、はい。スバル……ナカジマ……四才です。……せつなお姉ちゃん」 ……も、もじもじしながら喋る姿が可愛すぎるんだよもん! 「うん。よろしい。スバルもギンガも可愛いねぇ」 二人同時になでなでなで。「あ、あう」「……えへへ……」 むはぁぁぁぁぁぁ!! お持ちかえりぃぃぃぃぃ!!「ふふん。可愛いでしょぉ? 私の自慢の娘たちよ?」「可愛すぎです。持って帰っていいですか?」「それは駄目。二人ともお母さんのだから」 く。クイントさんガードかてぇ。 しかし解らんでもない。 くっそぉ。これでおやっさんいないんなら、三人まとめてお持ち帰りで……て、今女の子だった。 「じゃあ、晩御飯の支度するから、三人は待っててね?」「「はーい!!」」「すみません。お願いします」「うーん。そこは二人と一緒に返事してくれるとお姉さんの好感度うなぎ登りだぞ?」 いや、中身もう子供じゃないんで勘弁してください。 ……リビングで、二人と待つことに。 ところで、スバルに質問。「スバル? 私の目が怖いって、どうして怖かったの?」 是非聞いておきたい、今後の為にも。「……怒らない?」「怒らないよ?」 さあ、なんだ!?「えっと、その……大人の人みたいで、怖かったの。あの、ゼストおじさんみたいに」 ……ぜ、ゼストさんっスか……「……確かに、雰囲気がゼストおじさんに似てます……」 ……マジか、ギンガ……「私八歳にしてあの渋さを手に入れてしまったか……女の子なのに……」「「ご、ごめんなさい」」 いいんだよいいんだよ。 これまでの経歴からして、充分資格はあるから……はぁ。「ま、まあこれはいいや。それで、二人はお母さん好き?」「「好きーーー!!」」 おおう。そんな嬉しそうに。 じゃあついでに。「お父さんは?」「好きですよ?」「……好き」 ……えっと、何この温度差? ギンガは普通に答えたし、スバルはちょっと戸惑い気味だし。 ……そして、後ろに気配?「……こ、こんばんわ、お邪魔してます」「あ、ああ。……えっと、どこの子だ?」 ゲンヤさんお帰りなさい。 ちょっとびびった。いつの間に。「あら、あなた。お帰りなさい。その子、前に話したベルカの騎士よ? せつなちゃん」「ああ、例のか。はじめまして、ゲンヤ・ナカジマだ」「はじめまして。せつな・トワ・ハラオウンです」「ん? ハラオウンって、本局のか?」「今日付けで養子になりまして」「そうか。大変だな。……ん? トワ?」 あれ? そっちにも反応するの? しばらくうんうんうなって、「ひょっとして、そのトワって、永遠って書いてトワ?」「そうですけど?」「!? こりゃ驚いた。クイント、こいつあれだ、フォルテの娘だ」 ……フォルテ?「フォルテって……あの、騎士フォルテ? 陸戦で、本局のグレアム提督の部下と結婚した、フォルテ・ヴァーミリオン先輩の?」 ……なんか凄い苗字の人出てきたな。 しかも誰?「あ、あの、そのフォルテって、誰なんですか?」「ありゃ? お前さん母親の名前知らないのか?」 はぁ!? 母親!?「フォルテ・ヴァーミリオン。首都防衛隊のエースで、騎士の称号を取ったベルカの陸戦魔導師でな? 十年ぐらい前にグレアム提督の下で働いてた永遠リュウトって奴と結婚して、それから音沙汰なしだったんだが……ひょっとして、フォルテ、死んじまったのか?」「……は、母は、私が生まれてすぐに、死んだと……」「……そうか。悪いこと聞いちまったな……親父もか?」「父さんも、四年前に……」「……あなた……」「……悪い」 ……うーん。こういう繋がりだったのか。世間は狭いなぁ。 「せつなお姉ちゃん。お母さんもお父さんもいなかったの?」「……うん。この四年間、一人でいたんだ。……あ、でも、今日からはお母さんと兄さんができたから、寂しくないよ?」 スバルが悲しそうに聞いてきたから、今の現状を話してできるだけ、明るく。 振舞えた……はず。「……本当に? 寂しくないですか?」 あれ? 失敗したか? ギンガが悲しそうに聞いてくるとは……「今のお前さん。かなり辛そうだぞ? ……まさかとは思うが、母親のこと、ぜんぜん知らなかったのか?」「……誰も、教えてくれませんでしたから……父さんの事も、何も、知らなかった……」「……すまん」 頭をなでてくれたゲンヤさんの手の温度を感じたせいか…… 父さんの顔を、少し、思い出して。 目頭が熱くなった。 「お、お姉ちゃん。泣いちゃだめだよう……」「……ご、ごめんね、スバル。私、涙腺ちょっと弱いから……泣き虫だね。私……」「せつなさん……こうすれば、悲しくないですか?」 と、ぎゅっとつかまってくる、ギンガ。 同じく、ギューと抱きついてくるスバル。「……ごめんね。ちょっと泣いちゃうね? ……二人とも、ありがとう……」 うう。中身二十歳なのに何泣いてるんだ私。 ええい、しっかりしろ。男だろ。 体は女の子だけど!「……まったく、ガキ何だからガキらしく泣いちまえ。無理に大人ぶる必要なんてねえんだから」「あなた! もうちょっと言い方があるでしょう!?」「う、そ、そうだな……」「まったく。……でも、この人の言うことも一理あるから、今は泣いちゃいなさい。すぐ、美味しいご飯用意してあげるからね?」 ……うう、迷惑かけます。 本当に、いい人たちだよ、この家族は…… 落ち着いたところで、皆でお食事タイム。 今日の晩御飯はカレー。 ……なんだけど……「ぱくぱくぱくぱくぱく」「もぐもぐもぐもぐもぐ」「がつがつがつがつがつ」 以上、上から、クイントさん、ギンガ、スバル。 ……話には聞いてたけど、本当によく食うなぁ。「あ~。こいつらはいつもこんなだから、気にしないほうがいいぞ?」「あ、いえ。ちょっと圧倒されちゃって……」 て、言うか、クイントさんも大食いだったのか。 ……遺伝?「「お母さんおかわり!!」」「はいはい。……せつなちゃんもおかわりする?」「あ、いえ、お構いなく。……まだ入るんだ……」 私は一杯で充分です。 ここの一杯、二杯分くらいあるし。 目の前の三人は三人前くらいあるし……ええい、胃の中にブラックホールでも飼ってんのか!?「「「ぱくぱくぱくぱくぱく」」」 ……見てるだけでおなか一杯になりそう。 ま、カレーは美味しくいただきました。 ……夜。 パジャマはクイントさんからワイシャツ借りて羽織ってます。 下着は……つけてるよ? いざって時のために、パラディンに格納している。 流石にパジャマは入れてなかった。「……ごめんね? もうちょっとだけ付き合ってね?」 と、ナカジマ夫妻と夜のお話。 ワンコ二人は既にお休み。「……あの子達見て、何か感想あるかしら?」 ……いや、何を期待されているのかしらん?「いえ、可愛い娘さんですけど……うん、あの子達、体……弄ってますね?」 と、言うか、この間のチンクさんに抱きついたときと同じ体温。 あの年齢で、ちょっと、体温が低い。 ……チンクさんと同じってことは、やっぱり、彼女たちも同じってこと。 まあ、知ってたけど。「やっぱり解っちゃうのかなぁ?」「あ、いえ、私、……人の体温に敏感ですから」「体温で解るのか?」「はい。……後、骨の感触ですか。なんか、他人と違うなって」 誤魔化す誤魔化す。 流石に、今の時点で戦闘機人知ってるなんて言えんって。「そっか。……あの子達ね、ある研究施設から、保護してきた子なの」 知ってるけど、一応聞く。 クイントさんが専門で捜査している事件の関連施設で、スバルとギンガを保護。 よくよく調べてみると、どうも自分の遺伝子データと一致。 一緒に暮らすことにして、最終的に本当の親子になってしまったそうだ。「戦闘機人って言ってね? 最初からそういう機械に親和性を持たせた素体で、あの子達はその試作完成型だったみたい。……一応リンカーコアのある、人造魔導師って訳。……ここまで聞いて、感想は?」「いえ、別に。……私も、一人、知ってますから」 狂気に犯された母親の作品が、本当の娘になってしまった家族の話を知っている。 ……手伝ったの私だけど。「そう。それで、お願いがあるんだけど」「なんですか?」「あの子達、自分の体の事知ってるせいか、ちょっと人付き合いが苦手って言うか、友達が少ないみたいなの。……あの子達の、友達になってあげてくれないかな?」 そんなこと、聞くまでもないですって。「わかりました。ちょっと年上の、お友達ってことで。……大体、最初からそのつもりですよ?」「ありがとう。やっぱり、あなたに会わせてよかったわ」 そんな綺麗な笑顔向けないでください。 お兄さん中は汚れまくっているんですから。「じゃあ、次は俺の番だな」 今まで黙っていたゲンヤさんが口を開く。 ……なんでしょう?「さっきお前さんの事をグレアム提督に問い合わせてみたんだが……凄いな、お前さん。あの闇の書を完全封殺したんだって?」「……なに、それ? せつなちゃんが? ……冗談でも笑えないわよ?」 ……口が軽いな、あのおっさん。 できるだけ話して欲しくないんだけど。「……え? 本当なの?」「まあ、本当です。……詳しくは、闇の書の前身である夜天の書のバックアップデータを当てて、余計な機能取り除いて、夜天の書として修復しただけなんですけど」「だけって、凄いことしてる自覚ある? 闇の書ってSランクロストロギアよ?」 まあ、俺一人でやったわけじゃないし。「他に、頼りになる魔導師がいましたから。闇の……夜天の書の主ともお友達でしたし」「……もしかして、この間の、車椅子の子?」「はい。同じベルカの騎士です」「……お前さん、実は八歳じゃないだろ?」 あはははははははは。 ある意味正解。「でだ。俺としては、お前さんを管理局にスカウトしたい。どうだ?」「お断りします」「……即答かよ」 そりゃあねえ? これまでリンディさんの勧誘振っといて、ゲンヤさんの誘いについてったら、リンディさん泣くし。「ねえ、せつなちゃん。何で駄目なのか、教えてくれないかしら? ……私も、あなたと一緒に働いてみたいんだけど?」 ……話すか。 俺の歪みを。てか、この説明何度目だろ?「……そうですね。ゲンヤさん。もし、ゲンヤさんの知らないところで、クイントさんが死んだりしたら、どう思います?」「あ? ……そりゃ、悔しいさ。どうして助けられなかったのかって思うだろうな」「じゃあ、クイントさん。同じ条件で、ギンガ達が死んだら……」「考えたくもないわね。……ねえ。それが、どうしたの?」「……私には、その記憶があるんです。……信じる信じないは、そちらの勝手でいいですけど」 話す。 その、無様な男の生涯と、その最後を。 そして、その記憶を鮮明に思い出した、少女の話を。「……私は、その記憶がある限り、決めているんです。私の大切な人が、私の知らないところで、無残な死に様を晒さないように。絶対に助けるって。……その為に、管理局は、私の行動を制限する。……だから、お断りします」 そう締め括った。「……ふう、随分と、無茶な人生送ってるな。……じゃあ、せつなよ。お前は、これから先、ギンガ達も助けることを視野に入れるつもりだろ?」「……はい。あの子達が泣くのは、嫌ですから」「おいガキ。あんまり大人を舐めんなよ?」 胸倉を掴みかかって来るゲンヤさん。 ……こういう反応は新鮮だ。「ちょっと、あなた!?」「お前は黙ってろ。……お前に頑張ってもらってもな、嬉しくともなんともねえんだよ。ギンガとスバルは俺の娘だ。命をかけるのは俺ら大人の役目なんだよ! 手前みたいなガキが、生言ってんじゃねぇ!」 ……ガキねぇ? それはそうだろう。 見た目はその通り、ただの子供だ。 「ああ、今日はちょっと涙腺緩みすぎだからな……最近平和だったし……いや、平和か? ……適度に死線くぐってる様な……」「ああん?」「まあいいや。とにかくな。誰が命賭けるって言ってるよ? 俺はいやだね。命賭けてまで助けるなんて言ってねぇ! 死ぬのはしばらくこりごりなんでな!」「あ、ああ? そ、そうだったか?」「俺がやりたいことはな、大切な人を守ることだ。ただそれだけなんだよ! 自分の命を守るのなんか大前提に決まってるだろ!? 自分すら守れない奴が、人を守れるかよ!? それぐらい、俺でもわかってらぁ」 いい加減苦しくなってきたから、ゲンヤさんの腕を振り払う。 ……男性モード、セクハラ以外で久々に出したな。「いいか? 俺は、俺の大切な人と、平穏無事に暮らしたいだけだ。なのはやフェイトやはやてにアリサとすずか、その周りの人たち、こっちだったら、リンディさんにクロノにエイミィさん。そしてギンガとスバル、もちろんあんたたちもまるっと含めて、笑って暮らしたいだけだ。……その人たちに牙を向ける馬鹿どもを、駆逐するのが俺の役目だと思ってるだけだ」「……それは、かなり大変な仕事だぜ? お前一人で、できるわけねえ」「かもな。……兄さんの言葉を使えば『世の中、こんなはずじゃなかったことだらけだ』ってね? 俺の手で届かない場合もあるさ」 だけど、それでも。「それでも。俺は、大切な人を守る、剣でありたい。……俺の知らない場所で、大切な人が泣かないように、いつでも駆けつけられる、剣でありたい。それを実践する為に、組織の歯車には、俺はなれない」 酷く、馬鹿な話だ。 無理、無茶、無謀。愚かこの上ない。 自分でもわかっている。「……その想いは、もしかしたらお前を悪とみなすぜ? 社会って奴は、管理局って奴は、お前みたいな異端を嫌う。……それで、お前が捕まったら、どうするつもりだ?」「……さぁ? まず、捕まるつもりはないし、そんな証拠も残さないつもりだし? ……それでも俺の邪魔するってんなら……」 簡単なこと。「潰すさ。社会を、管理局だろうとな」「……矛盾してるぜ? そのときは、俺がお前の敵になる。クイントもだ。……それでも、お前は剣を振るうのか?」「さあな。それこそ、そん時にならないとわからねえよ。……それに、大切だけど、そいつら、揃いも揃って将来有望なエースの卵だからな。……下手したら、俺抜かれてるかもしれないし……」 魔王に死神に夜天に……うう、将来が怖い。「とにかく、今はまだ、理不尽な運命から、皆を守る為の剣だ。……それだけだ」「……ガキの屁理屈だな。話にもならん。……クイント、俺はもう寝るぜ」「あなた! ……もう、あの人ったら……」 ……初めて、否定されたかもな。 あんなにはっきり。 ……恭也さんのときは、警告だけだったし。「……いいんです。自分も、馬鹿なことを言ってるってわかってますから」「……ごめんね? あの人も、悪い人じゃないんだけど……」「わかりますよ。……だからこそ、私が気に入らなかったんだと思いますから」 ……現実はそんなに甘くない。 ゲンヤさんは、そう言いたかったんだろうし、私も知っている。 それに、今のは明らかに、私の我侭だ。 ……その我侭で、人が迷惑する時だってある。 ……わかってはいるんだけど……「でも、もう、あの死に顔だけは、見たくないから……」「……貴方は……ごめんね……本当に守るべきなのは、貴方だったのに……大人を、恨まないでね……」 ……そっか。 本当に守りたかったのは、私自身だったのか。 ……大人に縋れなくなった少女は、一人剣を持って、大人に突きつけていただけでした。 大切な人を守る為。 本当は自分を守る為。 誰も守ってくれないから。 自分で守るしかないから。 ……ただ、それだけの話。「ごめんなさい!」 ……さて、翌日。 ナカジマ家から送ってもらって本部から転送してもらい、本局の転送ポート。 いきなり謝ってきたのは、私の新しいお母さん。 ……何事ですか?「……母さん、昨日の事件で、前線に出て、犯人しばき倒したんだ。『娘とのスキンシップ取れなかったじゃないの~』て。それの始末書作成で、引越し、三日ほどずれ込むって。それの」「本当にごめんなさい!」「……謝罪だ。止められなかった僕にも責任がある。……すまんな」 ……だからってまあ、そんな頭下げなくとも。「……前線出て、しばき倒したんですか」「ああ。……瞬殺だった」「ごめんなさい~!!」 ……本当に、可愛い人だなぁ。「お母さん」「……せ、せつなさん?」 にこっと笑って。「始末書、頑張ってくださいね? もう少しぐらい待ちますから」「……え、ええ! がんばるわ!」 凄い笑顔で走り去るリンディさん。 ……あ、誰かにぶつかった。「……この勢いなら、二日程で終わるだろう。感謝する」「あはは……単純だねぇ」「まったくだ」 ……ため息をつくクロノ。 ……そうだな、兄さんに聞いておこう。「兄さん。ちょっといいかな?」「どうした?」「うん……嘱託魔導師と、執務官。どっちが自由度高いかな?」「……なに?」 これは、自分の決意と、大人の期待の折り合いの結果。「管理局で働くので、どっちが自由に動けるかなって。……どっち?」 ……妥協は、してみよう。 ほら、俺も大人だし。 私は、子供だから。 これが、私の、境界線。