現在午前五時。 空がうっすらと青くなり始めたころ、パラディンの目覚ましで起き出す。 ふっと気配を感じ、横を見ると、「あ、せつなちゃんおはよう」 なのはが起きてた。 いや、まだ寝ぼけ眼だってことは、なのはも今起きたばかりか。 他にも、「せつな? 起こしちゃった?」「せっちゃん、おはよう」 ……魔法少女組、全員起きてるし。 多分、皆考えることは同じなんだろう。 全員、動きやすい格好で静かに外へ。 「せっちゃんも朝練か?」「部活じゃないんだから……と、言うか、なのはやフェイトは解るけど、はやてまで……」「あたしはこれくらいに起きて皆の朝ごはん作っとるから」 なるほど、納得した。 はやては既にリインフォースとユニゾン済み。 騎士甲冑は着ずに、髪の色だけ変わっている。器用な。 旅館の外に出てみると、「お、なのは。せつなちゃんたちもおはよう」「せつなちゃんおはよー。どうしたのこんな朝早くに」 高町家の皆さんが準備運動中でした。「にゃはは……ちょっと、魔法の練習を」「そうか。無理はしないようにな」 そう言ってなのはの頭をなでる恭也さん。 ……ふむ。「恭也さん」「ん? どうしたせつなちゃん」「私と、一度手合わせしてもらえませんか?」 なんてことを言ってみた。「ちょ、せつなちゃん!?」「……いいだろう」「お兄ちゃんも、なに言ってるの!?」 なのはの抗議はあえて無視する。「とにかく、ここじゃ駄目だから、奥に広場がある。そこまでランニングだ」「わかりました」 走り出す恭也さん達についていく。 なのは、完全に置いてきぼり。「わわ、待ってよ~!」「行こう、なのは。……はやてはゆっくり付いてきて」「了解や。……リイン、ゆっくり行くで」『わかりました』 十分ほど走った場所に、開けた広場があった。 そこで一度身体をほぐし、パラディンを起動させる。「パラディン、トレーニングモード。魔力負荷、及び強化はなし。【アロンダイト】スタンバイ。トレーニングモードに移行」【Training mood. stand by alondite training set up】 鎧は付けずに、騎士服のみ。手には剣。魔力強化がないので、いつもより少し重め。「……それが、君の武器か」「西洋騎士剣、アロンダイトです。……魔法はなしで行きます。刃は付いてませんから、安心してください」「……こちらも、木刀だ。安心してくれていい。……では」 お互いに構える。 恭也さんは正眼八双。こちらは正眼。 ……二刀流対大剣の場合、スピードで二刀流には負けるが、一撃が当たればそのダメージは推して知るべし。 そして……恭也さんの先手!「はぁ!」 ! 速い!「くぅ!」 剣筋が見えない! スピードはシグナムより速い! けど、フェイトには劣る!「せ!」 一閃! かわされた!?「甘い!」 連撃を剣でガード! けど、ダメージがガードから抜けてくる!?「徹か……けど!」 体の頑丈さなら、なのはのプロテクションにも負けない!「そ、こぉ!」「くぅ!」 当たった! けど浅い!「!」 あれ? 姿が消え……「はぁ!」 後ろ!?「きゃう!!」 背中にもろに喰らった。 ……恭也さんの勝ちだ。「……あ、ありがとうございました……」「ああ、こちらこそ。……大丈夫か?」 地面に倒れこんだ私に、手を差し伸べてくる恭也さん。 ……強い。「ふむ。恭也に神速を出させるとは……やるな、せつなちゃん」 神速……なるほど、じゃあ、さっきのが。「……まったく見えませんでした」「一応、うちの奥義だからな。初見で見破られるわけにはいかん」 そりゃそうだ。 ……でも、悔しいな。「む? ……すまん、痛かったか?」「お兄ちゃん……せつなちゃんを泣かせた!」「え? あれ?」 むう、不覚。 悔しさで泣いてしまった。「なのは、落ち着いて。……次は負けませんから」「あ、ああ……いつでもおいで」 くそう、その余裕がさらに悔しい。 そそくさと逃げる恭也さんが、カッコいいと思うなんて……「せつなちゃん、大丈夫だった? 痛いところない?」「平気。……練習、始めようか?」 その後、なのははスフィアアタックと接近戦の練習。 フェイトは戦術全般とトラップ回避。 私は兵装二重展開の練習をして、朝の練習を終了した。 ……はやて? はやては、地道に筋力トレーニング。 ユニゾン状態なら足が使えるから、今のうちに足の筋力を取り戻すのが目的。 ……闇の書の強制蒐集がなくなって、はやての足は回復に向かっている。 けど、長い間使ってなかったから、筋力の衰えが激しく、まだリハビリもできないのが現状。 そのために、毎朝ユニゾンして、筋力トレーニングしているらしい。 ……はやてが歩けるようになれば、八神家の不安は管理局だけだな…… 皆が旅館に戻ってきて、丁度7時前後、寝ていた者も起き出し、皆で食事。 今日の予定。 昼は例の広場でバーベキュー。アルフが目を輝かせているのはできるだけ無視。 女性陣の大人たちで食事の準備。男性陣は釣りで魚を取ってくることに。 子供たちはそれまで自由行動。 ……なんだけど、はやてはその料理スキルと世話好きの性格から、食事係へ。 シャマルさんの見張り番とも言う。 忍さんと恭也さんは早々に離脱。 士郎さんと桃子さんもいちゃいちゃしながらだからまともに作業進まない。 美由希さんに食事の準備をさせるのは危険なので、アルフと一緒にユーノで遊んでいる。ユーノ乙。 結局、食事の準備は何故かできるプレシアさん。リンディさん、ノエルさん、ファリンさん。はやてとすずか。この六人が主体となった。 ちなみに、余った子供組はアリシアとヴィータとなのはとフェイトとアリサ。アリサが主体でミッド組とヴィータに地球の遊びを教えている。鬼ごっことかかくれんぼとか。 ……私? ザフィーラとシグナムを連れて岩場で魚釣りだ。 ……あ、昨日のザンバラ軍人さん発見。「釣れますか?」「……肯定だ。君たちも釣りか?」「はい。……ご一緒していいですか?」「……構わん」 軍人さんの隣に座る。その隣にシグナム、ザフィーラも準備する。 現代の釣竿の使い方はさっき教えた。 釣り自体は古代ベルカでもやっていたそうだ。 ……ザフィーラのはまり方は尋常ではなかった。似合う……「……せつな。隣の御仁は知り合いか?」「昨日ちょっと。……後、例の金髪覗き屋さんの友達」「……あいつは今、制裁中だ」 彼の視線の先に、「ちょ、姐さん!? これは無理! これは無理だってぇぇぇぇ!!」「く、く、クマァァァァァ!!」「おらおら! 魔法少女が倒せるんだから、傭兵が倒せない道理はない! しっかり倒してクマ鍋よ!」「無理言うなぁぁぁぁぁ!! ちくしょぉぉぉぉぉ!」「うぉぉぉぉぉ!!」 ……南無南無。 あ、空飛んだ。「……クマ鍋……美味いのか?」「アルフ喜びそうだよなぁ……」「……ちょっと行って来る」「うん……え?」 隣を見る。 ……ザフィーラが消えた。「ておらぁぁぁぁぁぁ!!」「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」「……あれま」 ……ザッフィー…… 持って来たクマは士郎さんに頼んでさばいて貰いました。 後、囮役を(偶然にも)こなした彼らにも、バーベキューに誘っておきました。軍人さん経由で。 ……釣果? もちろん、私とシグナムでバケツいっぱいに鮎を釣ってきました。 軍人さんもホクホク顔です。 お昼。 例の軍人さん御一行も加えてのバーベキュー大会。 熊肉はザフィーラ提供。アルフ大喜び。 ……ザッフィー? 心持喜んでる? 意外な組み合わせだ……いや、ある意味順当か?「ああ! 昨日の……むぐぅ!」 金髪覗き魔さんとメガネ君の口にたまねぎ押し込んで、端っこに連れて行く。「昨日の事は口外無用で。喋ったら、うちのこわーいお兄さんたちに一刀両断してもらうから」 と、親指で指すのは恭也さんと士郎さん。 ……腐っても軍人なのか、二人の強さをわかった金髪さん首を縦に高速運動。 メガネ君はその前に、私に怯えてます。「わかってくれれば重畳……私はせつな。仲良くしましょうね?」「りょ、了解だ、嬢ちゃん。俺はクルツだ。こっちはカザマ」「よ、よろしくぅ……」 よしよし。素直な人は好きだよ。 ん? 誰か近づいてきた。「ああ、ごめんね? 今日は誘ってくれて。後、昨日はありがと。マオさんから聞いたわ。……あ、あたしはカナメ。よろしく」 とは、昨日の風呂場にいた黒髪ロングさん。 人懐っこい笑顔が綺麗。 ……後、この人もスタイルいいんだよなぁ……「……千鳥、肉が焼けたぞ。……む、クルツ。また迷惑をかけているのか?」「ソースケよぉ。俺を何だと思ってるんだよ」「覗き魔さん」「ぐっはぁ!? ……せつなちゃんそりゃないぜ……」 軍人さんの名前はソースケさんか。「せっちゃん、意外と友達作るんうまいなぁ~。もう皆と仲良しさんか?」「……まあ、いろいろあったから」 特に、クルツさんとは腐れ縁かと思うほどにエンカウント激しいし。「せつなさん。ちょっと」 ……はぁ、そろそろ来るかと思ったが、リンディさんからの呼び出しです。「まあ、楽しんでて」「おう、ありがとな、せつなちゃん」「感謝する」「あんたはもっと嬉しそうな顔しなさい! ありがとね、せつなちゃん」 ……思ったより、楽しい人たちでよかった。 さて、リンディさんだ。「……せつなさん。昨日の晩、結界張ってなにしたの?」「……うーん。ちょっと魔法の訓練を」 ジュエルシードは黙っておく方向で。「……管理局法で、管理外世界での魔法の使用は禁止されているの、知ってる?」「そのための結界ですが何か?」 それすら駄目なら、どうやって訓練しろと?「……第一、私たちは管理局に登録してませんし、管理局法に当てはめること自体間違いでは?」「……それ言われると辛いわね……もう、わかったわ。でも、あまり人に迷惑は」「かけませんし、かけた覚えもありません。……むしろ、掛かっているのはこっちなんだし」「……それは、ごめんなさい」 大体、管理局はうるさいんだよ。人の行動にいちいちけちつけて。 しかも自分の世界ならまだしも、人の世界にまで出張ってうっとうしい。「……でも、そうね。せつなさん。管理局に入らない?」「拒否します。……私は、私の正義で動いてます。……その正義を制限する、管理局に入るつもりはありません」 管理外世界の魔法使用禁止って、いざって時にどうすんだ? いちいち許可取るのか、破った後に始末書か? そんな面倒な組織、入ってたまるかばかばかしい。「……せつなさん。一度言っておくわ。世の中は、あなたの我侭が通る世界じゃないのよ?」「知ってます。……それでも、私は、私の大切な人の剣でありたいから」 非力で、無力な者たちのための剣。 ……私の誇り。 それは、私の原動力の一つ。「もう、あの光景を見るのは、いやなんです。……大切な人が、無残に殺されていくのは……私の知らないところで死んでいくのは、いやなんです」 「……それを忘れることは、できない?」「……それができれば、苦労しません。……それに、たとえ前世だろうけど、俺の、大切な思い出ですから」 俺という意識がある以上、忘れることのできない記憶。 それを忘れるということは、俺を捨てるということ。 ……俺が消えれば、同時に。「あれを忘れるということは、俺を捨てることになります。そうしたら、また、私は人形に戻ります。……今の私は、俺がいてこそだから」 安定した不安定。確定した不確定。相反する物を抱えているからこそ、存在できる魂。 それが、今の永遠せつな。「……はぁ、しかたないわね。……でも、できれば、あなたには管理局で働いて欲しいわね?」「あんまりしつこいと嫌われますよ? しつこい勧誘と男は嫌われると相場が決まってますから」 いい加減揉むぞこの人妻。 リンディさんと別れ、あまり構ってない人を探す。 ……いや、なんで? 答え:面白そうだから。「と、言うわけで、楽しんでますか?」「え? はい、楽しんでます。相良さんの言っていた、誘ってくれた人ですね?」 相良? ……ああ、ソースケさんかな?「ソースケさん?」「そうです。あ、私、相良さんの上官でテレサ・テスタロッサといいます。親しい人はテッサと呼んでくれますけど」「テッサさんですね? ……あ、フェイトと同じ苗字」「え? 同じ家名の方がいらっしゃるのですか?」 いらっしゃるのです。「フェイトー。アリシアー」 どうせだから呼んでみる。「せつな? どうしたの?」「せつなお姉ちゃんなーにー?」「こちら、テレサ・テスタロッサさん。……君らの姉だ」 と、言ってみるテスト。「ママの隠し子!?」「母さんの!?」「違います! せつなさん!?」 はっはっは。フェイトたちは騙されやすいなぁ。お兄さんちょっと心配。「嘘だけどな?」「え? うそなの?」「せつなお姉ちゃんの嘘つきー」「うー、騙された……」 剥れるフェイトかわいー。「でも、偶然ってあるんですね。あそこの黒髪の女性が、この子たちの母親ですよ」「そうなんですか? ……じゃあ、今日はご家族で?」「友人の集まりなんです。ね、フェイト」「う、うん。……せつな、年上にも物怖じしないね? 緊張しないの?」 ? そうかな?「うーん。ほら、私、俺様主義だから」「……意味わからないよ」 うん、私もわからない。 その後、皆でいろいろ遊んだり、釣ってきた鮎焼いて食べたり。 楽しい午後を過ごした。 ……なお、ソースケさん御一行にはあと一人、恭子さんというメガネさんがいることも判明。 デジカメ装備で、いろいろ取り捲っていたので、こちらの分のデータを分けてもらうことに。 記憶装置がなかったので、家のメールを伝えておいた。 ……後日、これが元で大事件に巻き込まれるが、そんなことは私の知るよしもなかった。 さて、夜です。 二日目の夜は宴会です。 ソースケさん御一行も巻き込んで、皆で乾杯。 ……で、当然発生するカオス。「……ううううううううう」 泣き上戸だったのかプレシアさん。アリシアから離れません。「ママお酒臭いー」「ごめんねアリシアァァァ。お母さんが悪かったのよぉぉぉぉ! フェイトも、ごめんねぇぇぇえぇ!」「……か、母さん……」 あまりのギャップの激しさに、フェイトorz状態。不憫な。「うふふふふふふふふふ」 で、これはリンディさん。笑い上戸のようで。「プレシアさんはいいですよね、こんな可愛い娘さんに愛されて……羨ましいわ。ほら、せつなさんも、私に甘えて~♪」 腕広げんな。死んでも行かんぞ。 代わりにアリサを生贄に捧げておいた。「ちょっとせつなぁ!」「アリサさんも可愛いわ!」「ちょ、リンディさん苦しいぃ!」 アリサ、南無。「……お前さん、案外酷いな」 クルツさん? 当然です。ああなるのは予測範囲内ですから。「注ぎます?」「お! 悪いな。……なんだ、手馴れてるな」 中の人はこういうことも経験済みなので。「じゃあお返し」「あ、これはどうも」 ……飲酒は二十歳になってから。 これ? 泡の出る麦茶なのです。にぱー。「……せつなちゃんいける口か。やるな」「ふふ、まかせて。けど、私を酔わせても無駄ですから」「流石にロリじゃないよ俺は。……ん~。十年後に期待ってところかな?」 ……それは俺に喧嘩売ってるのか? 十年後もペッタンコだってよこんちくしょう。「こらクルツ! あんたこんな女の子まで口説くつもり!?」「姐さん、俺そんなに飢えてねぇよ! ……なんか、男と飲んでるみたいなんだって、せつなちゃんとは」 中の人、男でもあるからね~。「まあ、あまり飲みませんし、今日ぐらいは多めに見てくださいな」「……へえ? お嬢ちゃん、男は怖いのよ?」「知ってます。でも、ほら……襲われても、返り討ちが基本ですから」 どっちかって言うと、私が襲うほうだし。「……そ、その、ぐしゃって手つきはなにを潰したのか聞いていいか?」「き」「ごめん俺が悪かった」「うん、せつなちゃん強いわ。こんなのほっといて、私と飲みましょ」 わーい、マオさんにお持ち帰り~。 お持ち帰りされた一団には。「む、せつなか」「せつなちゃんいらっしゃ~い」「メリッサ、せつなさん連れてきちゃったんですか?」 ソースケさん、カナメさん、テッサさん。「せつなちゃん、楽しんでるか?」「見りゃわかるでしょ。楽しんでるわね」「……せつな。大変だな」 恭也さん、忍さん、シグナムのヤンググループでした。 ……シャマルさん? 向こうでプレシアさんと飲んでるよ。共に泣き上戸。 美由希さんはユーノ君で遊んでる……ユーノ、乙。「さて、せつなちゃん。あなたに来てもらったのは他でもないわ」 あれ? ノリじゃなかったの?「はいはい、なんでしょう?」「ソースケ、テッサ、恭也と忍、後シグナムが気付いてるけど、あんた、その人格以外の人格あるでしょ?」 ……あれ? 二重人格だと思われてる?「せつなちゃん。もしそうなら、この場だけでもいい、話してくれないか?」「……シグナム? 別に話してもよかったのに」「いや、その、個人の事だからな……私が口出しすべきではないと思った」「あれ? シグナムさん知ってたの?」「……ああ」 やれやれ、一応誤解は解いておくか。「とりあえず、二重人格は否定しておきます。……男性意識である俺と、女性意識である私が一緒にいるだけですから」「……どう、ちがうのですか?」 あれ? テッサさんが意外に食いついてきますよ?「どちらも性格は一緒ってことです。たとえば、マオさんのスタイルを見て、羨ましいと思う私と、押し倒したいと思う俺がいて、根源は二人とも性的欲求と判断できます。……つまり、女性的視点と男性的視点の両方ができるって言うだけで、根源の人格は同じなんです」 ……あ、恭也さん煙吹いた。「……では、男性意識でも、女性意識でも記憶の共有はあるんですね?」「いや、その共有という言葉自体ないですね。両方とも永遠せつなですから」「……そうか。では、お前は、その時その時で男性と女性を切り替えているということか」「そうです。……意図的な意識の切り替えができる以上、それを二重人格とするのは難しい。両方とも俺だからな」 と、言うわけで早速男性意識で会話。 ギャップに驚くカナメさんと忍さん。「……こ、声質まで変わるのね。……今のせつなちゃんは、男性意識?」「ああ、二十代男性意識だな。戦闘とか荒事はもっぱらこっちだ。後、怒ったときもこっちだな」「……せ、せつなちゃんの顔で男言葉……か、可愛いんだかカッコいいんだか……」「まだまだ体が成長してないからな。ある程度成長したら、中性的になる……と、思う」 お陰で胸は育ちません。 ……女性意識が泣けてくる。「……じゃあ、もう一つだけ聞きます。その現象になったのは……何か、きっかけがあるんですか?」「きっかけ?」 あるにはあるけど。「その……誰かに誘拐されたとか、心因的ショックでとか」「えーと……その、信じる信じないはそっちの感性でいいです。……私には、永遠せつなという人生の前、前世の記憶があります」 ……反応を示したのは、テッサさん、マオさん、忍さん。 ソースケさんは反応はしてるが、眉一つ動かさない。 カナメさんは……戸惑ってる? 恭也さんはなのはから聞いてるから、落ち着いてる。 シグナムには昨日話した。「名前は永森刹那。享年二十歳。死因はトラックとの衝突による全身打撲。……まあ、この記憶が、永遠せつなに引き継がれて私のベースになってます。男性意識はそのままですけど」「……じゃあ、それがきっかけで?」「はい。……一時期、私は心因性のPTSDに陥ってました。原因は……自分の見解ですけど、その前世の記憶の一番最後の部分を思い出したから」「死の瞬間を?」「いえ。……人の貪欲な欲望のありのままの姿……ですかね。……詳細を聞きますか?」 ……シグナムは渋ってる、恭也さんも。 けど、テッサさんは興味深げだ。 マオさんもだな。「もし、あなたが辛くなかったら……話してもらえますか?」「ええ、もう何度も話しましたから」 で、話すことにした。 突然の悲劇、家にいた強盗たち、強姦され、殺された姉と妹、激昂した自分、人を殺す感覚、事実を受け入れ、失意の内に、己の死、それらを思い出して理解してしまった、幼い少女。「それで、こんな人格になってしまいましたってお話です」 話し終えた後、テッサさんに抱きしめられました……あれ?「ごめんなさい……辛いことを思い出させてしまって……」「……何度も話してますから、慣れちゃいました」「……慣れてはいないだろう。泣きながら話すことじゃない」 ……私の部分が涙腺弱いからなぁ。 無意識に泣いてしまう。「……それでか、君の異常性は」「あはは。確かに、それが土台にはなってます」「……忘れるのは、無理なんだな?」「忘れたら、私と俺、両方が消えて、またお人形な私になってしまいますから」 もう、心理学とか、精神学とかで救える範囲の話ではなくなっている。 人の精神の神秘。そこに、私は立っている。 下手に動かせば、すぐに崩れる砂礫の塔。 その頂上にいるのが、私だ。「ごめんなさい……あなたが、要保護対象なのかと、勘繰っていました」「要保護?」 何か、不穏な発言が出たぞ?「……ここだけの、酔っ払いの戯言と聞いてください。……その、ちょっと、出ましょうか」 ……他の人には聞かせられないと?「俺とマオには聞く権限がない。……恭也たちにも、聞かせられる話ではない。悪いが、大佐殿と二人で話してくれ」「……じゃあ、温泉にでも、いきましょうか?」「……そうですね」 恭也さんとシグナムに後を任せて、テッサさんと温泉へ。 ……このとき、気付くべきだった。 この場に、なのはとすずかがいないことに…… <なのは> 皆がしきりにお酒を飲ませに掛かるので、すずかちゃんと温泉に避難してきました。 アリサちゃん? ……手遅れでした。 フェイトちゃんはプレシアさんの変わり様にがっくりとして、しばらく動けないようです。 はやてちゃんは……何故か皆に溶け込んでます。「せつなちゃんは大丈夫かなぁ……」 せつなちゃんはお兄ちゃん達と何か難しい話をしてました。 ……せつなちゃんの周りでは、いつも難しい話が出てきます。 リンディさんと話してても、プレシアさんと話してても、シグナムさんと話してても。 ……そういう体質なんでしょうか?「……あれ? 誰か入ってきた……?」 学校で習いました。確か『噂をすれば影』。 せつなちゃんと、せつなちゃんが誘った人たちの一人の、銀髪の女の人です。 声をかけられればよかったんですが、湯船の端で二人とも座ってしまいました。 私たちは奥の岩場の陰にいて、二人に気づかれていないようです。「日本の温泉は二回目ですが、いつ来てもいいものですね」 意外と親日の人みたいです。 聞くと、アメリカの人らしいですが……日本語上手です。「えっと、それで、その『要保護者』って言うのは何ですか?」 ……お、お風呂場まで来て難しい話ですか。 だんだんせつなちゃんが遠くに行ってしまいそうです。「……そうですね。せつなさんは、『デバイス』と、言うのは御存知ですか?」 せつなちゃんが眉だけ動かしたのがわかります。 ……私もびっくりしました。 「……なのはちゃん。『デバイス』って確か……」「うん。私やフェイトちゃんが持ってる、魔法使いの杖……せつなちゃんのパラディンや、はやてちゃんのリインフォースさんみたいなのも『デバイス』になるよ」 レイジングハートや、フェイトちゃんのバルディッシュ。後、ちょっと変り種らしいけど、せつなちゃんのパラディンはインテリジェントデバイスといって、人工AIが入った自立支援型の高性能機だそうです。 はやてちゃんのリインフォースさんはユニゾンデバイスと言われ、マスターのはやてちゃんと融合(ユニゾン)して、はやてちゃんの能力を上げる特殊なデバイスだってせつなちゃんが言っていました。 ……デバイスは、この地球上のアイテムではないらしく、ミッドチルダと呼ばれる異世界の技術だそうです。 でも、あの銀髪さんは、地球の人のはず……「えっと、なんですか? それ」 あ、せつなちゃん知らないふりするみたいです。「私も、本物は一度しか見たことないのですが、人の精神エネルギー……魔力を物理エネルギーに変換し、所謂、魔法を使えるようにするアイテムです。……それで、ウェーバーさんが見たって言う、魔法少女が、あなただと思ったのですが……」 ……せ、せつなちゃんから何か怒りのオーラが出ています! そのウェーバーって人と面識あるんでしょうか?「ウェーバーって……クルツさんですか?」「あ、はい。クルツ=ウェーバー軍曹。……あ、フルネーム聞いていなかったんですか?」「聞いてません……つーか、あの野郎、もう喋ってやがったのか……」 にゃぁぁぁ! せ、せつなちゃんが男の人モードになってます! て、じゃ、じゃあ、せつなちゃんが魔法使いだってばれたってことで……「な、なのはちゃん。せつなちゃん……大丈夫かなぁ」 すずかちゃんが恐る恐る聞いてきます。 正直、自信ありません。「……それで、まさかその要保護者って、魔法を使える人材を保護してるってわけですか?」「いえ。……保護しているのは、その『デバイス』を作れる人を保護しています」 ! そんな人、この世界にいるはずがない。 だって、デバイスは……異世界の技術のはず。「私と、カナメさん。後、私たちの保護している人たち。その人たちは『ウィスパード』と呼ばれ、『デバイス』を作る知識を唐突に手に入れた人達なんです。……そして、その知識、技術を研究し、ある組織が、それを実用化しました」 ……実用化? それは、デバイスを……この世界の人たちでも、使えるようにしたってことでしょうか?「……む、無茶だ! ありえない! ……リンカーコアは!? リンカーコアを解析しないと、デバイスがあっても使用できるはずがない! そうだろ、パラディン!」 !? せ、せつなちゃん、知らん振りを完全にやめてます!【……そうですね。テッサさん。リンカーコアの概念は知っていますか?】「え? え、ええ。知識内にはありました。ですが、それが特定の人間にしかなく、地球上でも、発見例は一人だけ……。そのデバイスを開発した人は、そのデータを元に、擬似リンカーコアを開発して、それを使用した【一般人でも使えるデバイス】を開発したんです。……擬似リンカーコアの名称はマインドエナジー制御装置『Λドライバ』。それを組み込んだ特殊兵装。通称・魔力兵装『アームスレイブ』」 ……へい……そう? それって、まさか……まさか……「まさかそれを……戦争に使ってるのか!?」「い、いえ、まだまだ実戦には向いていなくて、少数しか出回っていません。ですけど、これが大量生産されれば……」【確実に各国のパワーバランスが崩れますね。……しかも、この世界では、質量兵器がまだ合法です。……そんな事態になれば、古代ベルカ戦争の二の舞になりますよ】「あ、あの、この声は誰なんですか?」 ……私たちの……魔法が、戦争に……? そ、そんなの……そんなのって……「……とにかく、あんたたちは、そのウィスパードを保護して、その技術流出を防いでくれているんだな?」「……それは……」「おい、まさか、あんたたちも!?」「……ハムラビ法典を、御存知ですか?」「目には目をなんて言ってたら、この世界が地獄に変わるぞ!? あんたこそ、新約聖書は知ってるか!?」「右の頬を叩かれて、左の頬を出していたら、力だけが支配する地獄になってしまいます! ……対抗するには、同じ力が必要なんです」 ……やだ、やだよう。 魔法は、戦争に使う道具じゃない…… レイジングハートは、兵器なんかじゃない。 なのに、なのに……「! なのはちゃん!?」「なのは!? すずかまで……」「! 聞いて……いたんですか?」 もう限界なの。 「魔法は、魔法の力は! 戦争の道具じゃないよ! どうして、それが、わからないんですか!?」「……ですが、人は、人々は、その力を知ってしまった。……それを、無に返すことは、もうできないんです。……生まれた物を使わない人はいません。……あなたがいくら叫んだところで、変えられないものなんです」 ……否定される。私の想いが。 でも、でも…… 「なのは、落ち着け。……はぁ、仕方ないか……」 せつなちゃん…… 私の身体を抱き寄せて、頭を撫でてくれて……「あのさ、テッサさん。……デバイスって、もともとどこの技術だと思う?」「? いえ、流石にそこまでは……」「……宇宙の果てのそのまた果てにはな、既に時空航行技術が確立している世界があるんだ。……デバイスは、その世界の副産物に過ぎない」 ……せつなちゃん? そんな話を、どうして……「そんな世界が、デバイスなんて危険極まりないものを、そのまま放って置くと思うか?」「!? まさか、既にその世界では……デバイスを取り締まる管理組織があるというんですか!?」「しかも、世界間を越えてな。……俺にもその伝がある。……もし、この辺境世界でデバイスが確立したと知られたら……」「……異世界からの侵略もある……と?」 そんな!? だけど、せつなちゃんは鼻で笑って、「侵略? 冗談。デバイスが誕生して、その世界が何年経ってると思ってる。もはやその世界では質量兵器……この世界の主力兵器群が禁止されている。当然、それに対抗できる封印魔法もばっちり整ってる。……そんなところと、戦争なんてできるのか? あんた言ったじゃないか。まだ、この世界のデバイスは実戦には向いていないって。……戦争にすらなるか。俺らはなにもできないまま、その世界に管理されるんだよ。……まあ、知られたらの話だけどな?」「……あ、あなたの作り話……」「だと、思う? ……パラディン。お前の製造年、こっちの世界に換算して言ってみな?」【……そうですね。西暦……二十年前後かと】「!? じゃ、じゃあこの声は……」「早く気づけ。……こいつは、古代ベルカの総合兵装型インテリジェントデバイス・騎士王の書。……二千年近く前に製造された、完成されたデバイスだ。……そして、こういったデバイスの使用者は、リンカーコアを持っている。……そっちの言う、擬似リンカーコアではなく、純正のリンカーコアだ」「……では、あなたは……あなたたちは……」「そういうこと。あんたたちみたいな擬似魔法使いではなく、本物の魔導師だよ。……まあ、ベルカの魔導師は、騎士と呼ばれているけどな」 ……ぜ、全部ばらしちゃっていいんでしょうか? そう言うのって、黙ってたほうが……「さて、それでどうする? 俺を捕獲する? ……現行の兵器は通用しない。対抗できるデバイスは豆鉄砲。……そんなもので、この俺を捕まえられると思うなよ?」「……な、何が望みです!?」「……もちろん、あんたたちが、そのウィスパードをちゃんと保護し、デバイスに関連するデータをこの世界から抹消することを希望する。……でなければ、そのデータを保有する組織、国、研究施設、軍隊の情報を、全て俺によこして欲しい。……片っ端から抹消する」 !? そ、そんなの!?「せつなちゃん! そんなの無理だよ!?」「……無理でもやる。これは、ジュエルシード以上に厄介なことだ。……魔法の力を、この世界において置けない」「でも、せつなちゃん一人でなんて!」「……それは、私たちも協力すればいいんですか?」 ! それって、せつなちゃんを?「それがベストだが、拒否するのなら……一番初めに潰すのが、あんたたちになるだけだ」「……それは、困りますね。……わかりました。あなたに協力します。……実際、異世界からの干渉なんて、ぞっとしません」 ……いやだ。 「話は決まったな。あんたが戻り次第、データを俺に。……ああ、そっちで使ってる通信機器を渡して欲しいんだけど?」 いやだ……「そうですね、明日の早朝には、準備」「いやだ!」「! な、なのは?」「どうして!? どうしてせつなちゃんがそこまで無理しなくちゃいけないの!?」 せつなちゃんが、する必要のないことだよ!?「……うーん。確かに、管理局に丸投げしてもいいんだけど」「それなら!」「でも、知っちゃったからさ。……そんな物騒な組織があるんなら、下手したらなのはたちにも、危害が及ぶかもしれないし」「……でも、でもぉ……」「なのは、私はそんなに頼りない?」 そんなことはない。 せつなちゃんはとっても強いし、頼りになる。 けど。「せつなちゃんが、苦しむ必要ないよう……せつなちゃんが、何で、苦しまなきゃいけないの……?」 まだ、せつなちゃんも、私も、小学生の子供なのに……「……なのはさん。聞き分けてください。せつなさんは子供でも……力があります。私たちは力のある人に、縋らなくてはいけないんです……」「戦争は、大人の人だけでやってください! 子供まで、巻き込まないで……」 だって、せつなちゃんは、こんなに、小さいのに……「……あの、テッサさん。すまん。協力したいけど、この調子じゃ無理だわ」 ? せつなちゃん?「……どうしてか、聞いていいですか?」「ん? もちろん。なのはが泣くから」 そ、そんな理由で!?「私は、なのはには笑って欲しい。けど、私がすることで、なのはが泣いたら、意味がなくなるから。……だから、今は、協力できません。ごめんなさい」 ……せつなちゃん……「……子供は気まぐれ……そういうことですか?」「そういう理由でいいです。……私、なのはを泣かせるわけには、いかないんです……だって」「……だって?」「なのはを泣かすと、お兄さんに斬られますから。命は惜しいですし」 ……ええええええええええええええ!?「お、お兄ちゃんそんな危ない人じゃないよ!?」「いや、あの人はやる。と、言うか、恭也さん宣言したし。『お前の事でなのはが泣いたら、お前を切る』って」 なんてこと宣言してるんですかお兄ちゃん!?「きょ、恭也さんが……あ、あなたでも、あの人には叶わないんですか?」「……デバイス準備する前に近寄られて斬られますが何か?」「……じゅ、充分距離を……」「それ以前に気配すら読めませんよ? 死角から音もなく近寄られて、防御をぶち抜く斬撃を喰らって終わりです……デバイスを開発するより、御神の剣を研究したほうがよっぽど有効じゃないのか? もしかして……」 お、お兄ちゃんって、もしかして人間じゃない?「まあ、そんな人外「人外って言った!?」……相手にできませんから。世界の危機より、自分の危機をとりますよ私。後、なのはの笑顔と」 つ、ついでみたいに言われました。 後、お兄ちゃんはせつなちゃんの中では人間じゃないようです。「……はあ、わかりました……もし、気が変わったら、連絡ください。……そして、その時には、全力であなたに協力します」「……じゃあ、その時までに、あなたより上の人に、デバイスを捨てられるように働きかけといてください。……無理でしょうけど」「……期待、しないでください。……すみません」「元より、期待してません。……じゃあ、上がるか。……すずか?」 ? あれ? そう言えば、すずかちゃんは?「うう~~~~~~ん……」 にゃぁぁぁぁぁ!? すずかちゃん真っ赤だよう!?「だああ!? のぼせるまで待ってるなよ!? な、なのは手伝え!」「にゃぁ! すずかちゃんしっかりして~~!?」 ……結局、のぼせたすずかちゃんを部屋で寝かせて、私とせつなちゃんはその隣で寝ちゃいました。 ……せつなちゃんが、私の頭をなでてくれていたのが、凄く嬉しかったです。 あれ? ひょっとして、これがアリサちゃんの言う危ない道なのかな?