これから話すことは、誰にも信じてほしくない、俺の、私の、戯言だ。 まず、はじめに。「……いきなり死に掛けてるってどういうことだよ」 さっき、トラックが走り去った。 高く飛んで、すぐ地面に叩きつけられた記憶もある。 でも、いい加減しぶといな俺。「まあ、これでもいいか……」 正直、もう、生きる気力がなくなったところだ。 たいしたことではない。 親も幼いころに亡くなり、妹も死に、姉も死んだ。 姉妹の死に方が酷かった。 家に帰ったら強盗二人組に性的虐待&絞殺ってどんな三流小説だよ。 思いっきり原型がなくなるまで殴り殺してやったが、椅子で。「……まあ、地獄行きは決定かな……」 家を飛び出し、ふらふらと歩いて、その矢先の接触事故。 ……まあ、もう、家族と会えないのなら、「死んだほうがましだな……」 そんな、ただの、人間の、戯言。 で、真っ暗闇から光が差し込む。「……いきなり布団の上とか、なに? 夢オチ?」 それはそれで酷い話だ。 後、そういうのって正夢になりそうで怖い。「だが、どこだここ」 その部屋には見覚えがない。 やけにピンクな壁紙とか、見たことない白い制服とか、棚を埋め尽くすぬいぐるみとか。 あれだ、女の子の部屋だなぁ。「えっと、まずはこの部屋の持ち主に……」 その前に、さっきから気になってたんだが、俺の声なんか高くないか? 後、なんか目線が低い……低い? 背が縮んでる?「おいおい、なんだこりゃ……」 よく見れば、服も変だ。思いっきり女の子物。 ピンクでふりふりで可愛らしいパジャマ。 後、手が小さい。指が細い。腕も細い。後、なんか股に違和感。 ズボンに手を突っ込んで確認。「……ない」 おいおいおいおいおい! か、鏡はどこだ! 部屋を出て洗面所へ。「……誰?」 やたら可愛い顔立ちの、女の子がほっぺた引きつらせて映ってました。 転生&憑依&性別転換……なんでもありかこんちくしょう。 とりあえず。「orz」 伝統と実績の凹み方しておきました。 家の中には誰もいなかった。 家というか、アパートの一室のようだ。 2DKの普通の部屋。 部屋の様子を見るに、どうもこの身体の持ち主だけしか住んでない様子。 親どこ行ったー?「私のお父さんは、事故で死亡。お母さんは、私を生んですぐに亡くなった……のか?」 脳から直接記憶が流れ込む。 大体頭から情報は取り込めるらしい。「私の名前は永遠(とわ)せつな。現在8歳。小学三年生。私立聖祥大付属小学校所属。現在、一人暮らし。生活費はお父さんの友人のグレアムおじさんが管理中。月に一度生活費用を振り込んでくれる。……今、なんか不穏なせりふ出たよな?」 聖祥? グレアム? それってどっかで聞いたぞ?「……思いだせん。……ところで今日は……月曜日か。四月の三週目? 今の時間は……はは、遅刻だなこれは」 よし、学校は諦めよう。 その代わり、家の探索を念入りに。 ……あ、不穏な本発見。 白とか、鎖に縛られた事典サイズの本とか。 中を覗いてみる。 鎖がきつくて中見れない。 意味あるのかこれ?「……はあ、仕方ない。とりあえず……」 クローゼットから服を漁る。 女物しかない……て、俺女の子だった…… 着方は脳から取り出す。 ええい、八歳なんぞ、欲情せんわ。 とにかく、ブラウスにパーカー、フレアスカート。ズボンが一つもなかった。 髪は梳くだけ簡単ショートヘア。 うし、外に行ってみよう。 玄関から外へ。 ドアの鍵を閉めたら、隣の部屋から誰か出てきた。 赤い髪のロングのおねーさん。 ……なんか犬っぽい。「あれ? あんた、今日学校は?」 と、知り合いだったのか。 えーと、この人は……おとつい引っ越してきたアルフさんか。 ……アルフ?「えっと、気分が優れないので自主休校です」「へ~? こっちの子はそんなのできるんだ」 いや、信じるなよ。「ちなみに嘘ですが」「……だ、騙された……」 騙した覚えはない。「……この間はあまり喋らない子だと思ったら、嘘つきだったんだね?」 ……しゃべらないと言うより、関心がなかったようだけどな、この身体は。「そうですね。嘘つきです。……ですから、あまり、関わり合いはしないほうがいいですよ?」 中身はそこそこの年齢生きた男だしな。 ……享年二十歳か。 つまらない人生だったな。「……その割りに、ずいぶん寂しそうな顔するんだねぇ?」「……そうでしょうか?」 あ、顔に出てたか。「あんた、一人で暮らしてんの? 親は?」「どうも、二人とも旅に出たまま帰ってこないようです」「……それも嘘かい?」「ある意味本当です。行き先は……天国?」 俺は行きそこなったが、地獄にも顔出せなかった。「……そうかい。よかったら、うちに遊びに気なよ。フェイトも喜ぶし」 フェイト!? え!? あ、思い出した! この人、フェイトの使い魔のアルフだ!? ……て、まてまてまてまてまて!「……どしたの? 目が丸くなってるよ?」「い、いえ、ちょっと、めまいが……」「て、具合悪いのは本当だったの!? なら、ちょっと家で休んでいきなって!」 まてーーーー! いきなりフェイト嬢とご対面はちょっと!「あ、いえ、その、えっと」「ほらほら。入った入った!」 ほぼ無理矢理隣の部屋に押し込まれました。「……あ、アルフ? 早かったね……あれ?」 奥から出てきたのは、金髪ツインテールのお人形さんみたいな可愛い女の子。 赤い瞳の少女さんでした。「フェイト、この子奥で休ませてあげて。外で立ちくらみ起こしたんだ」 予想外の出来事に混乱してるだけですよ~? ああ、そんな可哀想な者を見る目で見ないでくれ。「うん。……大丈夫? えっと……えいえんさん?」 どんな名前だそれは。 「とわ、です。永遠せつな。……おとついは自己紹介もせず、すみませんでした」「あ、うん。気にしないで。……熱はないみたいだね。とにかく、横になろう?」 いや、ほっといても平気ですよ? 混乱してるだけだから……「ほら、こっちだよ?」「……すみません。ご迷惑をかけます……」 ここは、お言葉に甘えよう。 考える時間も必要だ。 さて、フェイトさんが寝ていたと思われるベッドで横になりながら。 今の事態を把握すると…… どう考えても、リリカルなのはの無印だな。 話には聞いてたが、俺、ストライカーズしか見てないんだよな~。 しかも、飛ばし飛ばしで。設定資料しか詳しく見てないし。 有名なシーンぐらいしか見てない。 無印なんか、東方不敗の名のもとに……ちがった、海の上の決闘しか見てないし。 Asに至っては闇の書の闇フルボッコシーンしか見てないっての! こんなんでトリップをどうにかしろって? 無理無理無理!「大丈夫? ……落ち着いた?」 うん、おちつかねぇ。 けど、フェイトさんの手を煩わせるわけには……「だ、大丈夫です。すみません」「……まだちょっと顔が青いね……今、アルフが食糧買ってきてくれるから、少し待ってて?」 ……このころから面倒見がよかったのかフェイトさん。 そりゃ、エリキャロに懐かれるわけですはい。 ……そう言えば、無印って、どんな話だったっけ? えっと、えっと……駄目だ、なんつー馬鹿魔力ぐらいしか思いだせん。 こんなことなら、ちゃんと一話から見ておけばよかった~。 て、普通アニメの世界にこんにちわするとは思わんよな。 うう、死んでよかったのか悪かったのか本気で分からん。 姉ちゃん、妹よ、俺を助けて……あ、やべ、二人の死に顔思い出した。「!? どうしたの!? どこか、痛いの?」 あああああああ、子供の身体のせいか、女の子の身体のせいか、涙腺が弱い弱い。 死ぬ前は出なかった涙が今更……「ね、えさ。あす、あ、うぁあぁ」「……大丈夫。大丈夫だから。……私がいるから、大丈夫だよ」「えっく、えう、ああ、あああああああああああああ」 駄目だ、一度流しちゃうともう止まらない。 この身体も我慢してたのか、涙が止まりません。 思考は正常なのに、感情だけ暴走中。 多分、ヤバめなことも言ってしまいそう。 ……いいや、吐いちゃえ。 「ごめん、姉さんあすか、助けられなくてごめん、ごめんな、ごめんなさいごめんうぁ、うああああああああああ!!」「……大丈夫だよ」「ああああああ、ひ、ぐあぁ、あああ……」 それから、数分ぐらい泣いてました。 ようやく止まった。 後、やっぱりアウトな発言したな俺。「……ごめん、フェイトさん。服、ぬらしちゃった」「いいよ。洗えばいいし。……聞いていいかな?」 うぐ。 聞きたいんですか?「あの、その……うん。多分、信じてもらえないけど」「うん、いいよ。話せばすっきりすると思う」 てか、フェイトさんこのころって、こんなに表現豊かだったか? いや、知らないけど。もう少し人形っぽいって話だったような…… まあいいか。「……私、いや、その、……俺は、前世の記憶があるんだ」「……? 前世って?」 ……それから教えなくちゃいけないのか。「前世って言うのは……この身体、永遠せつなって言う女の子になる前の記憶だ。……わかるかな」「……なんとなく、だけど」「俺もよく説明できなくてごめん。えっと、その記憶が、今日の朝、いきなり思い出したんだ」 ってことにしておく。輪廻転生さえまともに説明できないのに、憑依とかトリップとか説明できるか。「この身体になる前、俺は都内に住む二十歳の男性……男の人だったんだ」「……それで、そんな口調なんだ」「ああ、それで、俺は、トラックに跳ねられて、死んだ。……はずだったんだけど、起きたら、この身体に……」 うう、今思い出しても泣けてくる。 せめて男の身体に転生してもいいじゃないか。「……それで、姉さんとか、あすかって言うのは……」「……その、前世の兄妹で、姉と妹がいて……あすかは妹の名前な? ……二人とも、強盗に殺されちゃってさ、俺の目の前で……」 ああ、また涙が。 涙腺弱いな~この体。「ごめん……辛い事聞いたね……?」「いや、いい。……そんな記憶あるから、そのときの……二人の死に顔思い出して、それと同時に、こっちの……私の、お父さんが死んじゃったときの事思い出して……」「……ごめん。ごめんね……?」 ああ、フェイトさんまで泣き出しちゃった。 ……いいや、俺も泣こう。 そのまま、二人抱き合って、アルフが帰ってくるまで泣いてました。「ん、ごちそうさまでした」 アルフがコンビニの弁当買ってきてくれて、みんなでご飯にした。 ……と、いいますか。「フェイト? もう食べないの?」 半分以上残ってます。「あ、うん。……あんまり、食べないんだ。私」「もっと食べて欲しいんだけどねぇ~。体力つけないと倒れちゃうよ」「ごめんね、アルフ。でも、もうお腹いっぱいだから」 ……まあ、あまりコンビニ弁当は栄養学的によくないらしいし。 えっと、俺、じゃなく、私は料理は……よし、少しはできる。「じゃあ、夜は期待してて? 私、ご飯作りに行くよ」「え!? わ、悪いよ……」 ふふふふ。まあ任せなさい。 それに。「私も一人でご飯食べるの寂しいし、一緒に食べてくれる人がいたら、嬉しいんだけどな?」「……あ、うん。じゃあ、お願いします」 はい、お願いされました。 じゃあ、もう昼も回ったことだし。「じゃあ、私、お買い物行ってくるね。フェイト、何食べたい?」「え? ……えっと、お任せします」「あたし肉! 肉食べたい!」 アルフは少し自重しよう。 ……でも、フェイトも何食べたいかわからないみたいだから……「よし、みんな大好き花丸ハンバーグで攻めよう。ふふふ、腕が鳴るなぁ」「……えっと、あたしなんか地雷踏んだ?」「わからないよ……」 それじゃあ、買い物行きましょうか。 ……この町を把握する必要もあるし。 後、本気で、この後の話思い出さないと。「じゃあ、行ってくるね、フェイト」「あ、うん、行ってらっしゃい」 ……えっと。「フェイト。名前、呼んでくれないの?」「え? ……せつな?」「そう、じゃあ、やり直し。行ってきます、フェイト」「……行ってらっしゃい、せつな」 よし。 これで、フェイトとお友達だ。 ……あれ? ひょっとして、魔王様の役取っちゃった? <フェイト> ……せつなが出て行ってから、ジュエルシードを探す為、探査魔法を使う。 アルフも手伝ってくれて、少しは範囲を狭めそうだ。「ねえ、フェイト。せつななんだけど……何話してたら二人で泣くようなことになったんだい?」 ……やっぱり、アルフも気になるよね。「せつな、生まれる前の記憶持ってるんだって。前世って言ってた」「……むう、また嘘の話かい?」 嘘?「せつな、嘘つきだから、係わり合いにならないでって言ってたよ。実際、私騙されたし」 じゃあ、あの話も嘘なのかな?「どんな話だったんだい?」 ……私自身悲しくなるけど、せつなの話を聞いたままに話した。 ……話し終わったら、アルフも泣いてた。「くぅ、可哀想なせつな……そりゃ、嘘つき呼ばわりされるよ。……うん! たとえ嘘でも、私はせつなを信じるよ!」「……嘘じゃないよ。せつな、嘘つきじゃないもん」 あの瞳は、嘘をつくような瞳じゃなかった。 だから、信じられる。 ……私も、母さんが死んだら、きっと泣いちゃうから。 それに。「せつな、私の名前、呼んでくれたから……」 母さんも、私の名前を呼んでくれなくなって、アルフだけが、私を呼んでくれる。 ……私の名前を呼んでくれる人が、一人増えた。 これは、とても、嬉しい。 ……せつなが、初めての友達になるのかな? せつなも、そう思ってくれてると、いいな。 <せつな> 記憶をたどって、まずは近場のスーパーへ。 買い物をしながら、現状把握。 ……まず、俺、でなく、私自身のこと。 どんな性格でどんな生活をしてたのか……アルフが言うに、無口な子だったと思われるが…… 駄目だ。どんな性格かさっぱりわからん。 あれか? ナンバーズのセッテみたいなものか? 無口で無表情で……無感情? むう、今の俺では再現できん。 ……いっか。いつもどおり話そう。 一人称かえると、喋り方も自動で変わるっぽいし。 ……まあ、問題は、この後の展開だな。 ……そう言えば、俺、学校であの魔王と同じクラスかな? だったら、接触するのも手か? いや、それはやめとこう。 もし、三無主義貫いてたら、いきなり接触するのは不自然だ。 別のクラスだったら予定狂うし、明日行って確かめてみよう。 さて、後はたまねぎか。「「あ」」 同じ袋に差し出される二つの手。 一つは俺として、もう一つは……「……」 車椅子に乗った女の子でした。 ……バッテン髪留めに見覚えがあるんですけど?「えっと、それ、買うん?」 あ、関西弁。懐かしいな。 親父たちが上京するまで、関西にいたから、少しは喋れる。 もう、標準語になれちまってたけど。「ああ、ええよ。持っていって。うちは……ありゃ? 後一個か」 ちょっとうつった。 どうも、その一袋だけだったようだ。 まだ昼なのに品だししとけよ。「そんならええよ。あんたが持っていきぃ。あたしのうちに、まだたまねぎあるし」「あ、それは……いいの?」「ええよ~……? あれ? 今関西弁やなかった?」 あはは、やっぱ気になるか。「子供の……じゃなく、えっと、四年ほど前まで関西いたから……」「あたしと同じやね。……あ、あたし、八神はやて言うんや。あんたは?」「私は、永遠せつな。……? はやて?」 あ、記憶に引っかかった。……二つ。 えっと、一つは俺のほうで、たしか夜天の主。未来の部隊長さん。 で、もう一つは……「……思い出したで。『嘘つきせっちゃん』やな?」 それだ。 幼稚園の年少組で、私が言った話。 『私が生まれる前は男の子だった』 それを話してしばらくしたら、それは嘘という事になって、そのあだ名が定着した。 嘘じゃないと泣き喚いた挙句、いつの間にか誰とも口を開かなくなった。 ……その時から、無口で、無表情で、無感情。 そんな女の子になってしまった。「あはは。うん、そうだね。お久しぶりだね、はやてちゃん」「久しぶりやな。……せっちゃん、急に引っ越してまうから、あの時のこと謝れへんかったやん」 ? あの時って?「……ごめん、あの時ってはやてちゃん私に何かしたの?」「覚えてへんの? ……せっちゃん嘘つき呼ばわりしたん、あたしやで?」 そうだったのか? ……そんなことするような子だとは思わなかったが。「ごめんなぁ? あれからずっと謝りたいおもとったねん。けど、せっちゃん誰とも口きいてくれへんし、いきなり引越ししてまうし……本当にごめんな?」「いいよ。……当然だから。嘘つきといわれてもしょうがないよ」 大体、四歳の子供が、輪廻転生を理解できるわけがない。 俺、いや、私自身もそれを上手く説明できるはずがない。 ……嘘つきと言われて当然だ。「それより、はやてちゃん……足、どうしたの?」「……これはな、動かへんねん。そういう病気や」 ……えっと、確か、なんかの影響でそうなってたんだっけ? 確か……闇の書?「……あたしの親、せっちゃんが引越ししてすぐに、死んでもてな? 足もこうなってしもて……こっちで、一人暮らししとるんよ」 ? 守護騎士はまだ一緒にいないのか? ……ああ、まだ夜天の主になってないのか。「私も同じだよ。お父さん死んで、一人暮らし」「せっちゃんもか? ……奇遇やなぁ。そや、よかったら、この後、夕食一緒せえへん? 一人でご飯食べるの寂しいんや」 あ、俺と同じこと言ってる。 ……じゃあ、魔王様には悪いけど。「だったら……」「と、言うわけで、一名追加ー!」「お邪魔します~!」「え? ど、どういうわけ?」 目を白黒させるフェイトが可愛いんだよ。 はやてちゃんにフェイトのことを話して、二人でフェイトとアルフに夕食を作ることに。 アパートにエレベーターあって助かった。「はじめましてフェイトちゃん。せっちゃんの幼馴染で、八神はやてや。よろしく~」「あ、ふぇ、フェイト・テスタロッサです。よろしく」「フェイトちゃん日本語上手いなぁ。かわええし。……やけど、ご飯はきちんとしっかり食べなあかんよ? あたしらが美味しいご飯作ったるからな?」「あ、えと、う、うん。お願いします……」 おお、流石はやてちゃん。自分のペースに引き込んでそのまま押し切ってしまった。 ……もう、将来の才媛の片鱗は見えてたのね。 この調子であの守護騎士連中も丸め込んだのか?「じゃあ、台所借りるね? ……て、あれ?」 台所に調理器具が何もない…… 自炊する気ゼロか!?「……こ、これは乙女としてあかんよ? 料理ぐらいできるようにならんと」「あう……ごめん」「仕方ない。私の部屋から一式持って来る。はやてちゃん、必要なものは?」「何でもええから持ってきて。あたし、今日はグラタンの気分やねん」「じゃあ、鍋とグラタン皿と……あ、調味料もないのか。バターもいるね。牛乳は?」「買うてきとるよ。鍋は二つな?」「て、オーブンがないよ? レンジでいける?」「せっちゃんの家ある? あるなら焼くんはそっちやね。……ところで、せっちゃんはなに作るん?」「花丸ハンバーグ~」「ふあ!? やるな~。スープは? ないなら作ろか?」「あ、それなら、大丈夫。オニオンペーストあるから。後フランスパンとチーズ」「グラタンスープか!? うう、ひょっとしてせっちゃん料理スキル高い?」「伊達や酔狂で前世の記憶持ってないよ~? て、俺、無感情で料理だけはきちんとこなしてたのか……」 なにやってんだ私。よくよく思い出してみると、冷蔵庫の中いろいろ料理の種やだしやたれがいっぱい入ってるし……「何や、それまだ言いよったん? ……ひょっとしてほんまに前世の記憶あるん?」「……詳しい記憶はなかったんだけど。昨日全部思い出しちゃって……あう」「な、なんで泣くん!? つらいこと思い出したん?」「せ、せつな。泣かないで……私がいるから。ね?」「うう、ごめん。涙腺脆くて……」「……ご、ごめんなせっちゃん。信じてあげられんで、ほんまにごめんな?」 くぅ。少女二人に慰められるなんて情けないぞ俺。 あ、女の子だからいいのか? 「く、詳しいことは夕食の後! 今は、フェイトにいっぱい食べてもらうことを考えよう!」「よっしゃ! ほな、調理道具は任せたで~?」 さて、戦闘開始だ。 で、午後六時。 外に出ていたアルフも戻ってきて、はやてちゃんの紹介も済ませて、お待ち兼ねの夕食タイム。「え~、本日のメニューは、私作成の花丸ハンバーグ。オニオングラタンスープ。はやてちゃん作成のほうれん草のマカロニグラタン。以上になりましたー」「気合入れて作ったから、フェイトちゃんもアルフさんもいっぱい食べてや?」 で、俺らも席に着く。 アルフもう我慢できなさそうなので、早速。「では、いただきます」「「「いただきま~す」」」 どれ、はやてちゃんのグラタンは……む、美味いし。 やるなはやてちゃん。市販のホワイトソースでここまで迫るとは…… フェイトの反応は?「はむはむはむはむはむ」 うお、食べてる食べてる。 がっつくというか、小さな口ではむはむ食べてる姿が可愛いんだよ。 癒されるね、これは。「……くぅ。ええでフェイトちゃん。この反応が見たかったんや……」「あ、はやてちゃんも思った? 私もだよ。……作ってよかったねぇ」「フェイトがこんなに食べてくれるなんて……あんたたちありがとう!」 あ、三人とも見てるから、顔赤くして止まっちゃった。「え、えと、その。お、美味しいからつい……」「美味しいってはやてちゃん」「本望やなせっちゃん」 いえーいと二人でハイタッチ。 うん、この空気は好きだ。「せやけど、せっちゃんほんま料理上手いな~。前世はコックさんやったん?」 ……いえ、只のレジ打ちバイトでした。 料理スキルは……「俺の姉と妹が、料理下手でさ、親父たちいなくなってから、飯はずっと俺がやってて、半ば趣味になってたから……」「……そうなんだ……」 事情を知るフェイトが手を止める。 ……アルフも手を止めて、俺を見ている。 あ、フェイトが話したのかな?「……あ、ほら、暗い話は後々。グラタンは、冷めるとおいしくないんだから、熱いうちに食べたほうがいいよ?」「ハンバーグもやで? ……せっちゃん。詳しく後で教えてな?」 ……うん。はやてちゃんには話そう。 また嘘つき呼ばわりされても、フェイトは信じてくれるし。 それに、まあ、あれだ。 はやてちゃんとも、もう友達だしね? で、話した後、今度は泣かなかったけど、聞いていたフェイトとはやてちゃんが泣いてしまいました。「うううううう。辛かったんやな、悲しかったんやな、悔しかったんやな? ごめんな、信じてあげられんで、ほんまごめんなぁ……」「うう、何度聞いても悲しくなるよ……あうあう……」 フェイトがオヤシロ様化してる。「……決めたで! せやったらあたしが、今日からせっちゃんの姉や! で、フェイトちゃんがせっちゃんの妹や!」「……い、いや、はやてちゃん? そういうのを二人に求めてるわけじゃなくて……」「せつな。甘えてもいいよ?」「て、フェイト? 普通甘えさせるのは姉の役目で、妹は甘えてくれないと……」「じゃあ、あたしらはお互いに姉妹ということで。ええな二人とも」 それなんて三国志? 義兄弟ならぬ義姉妹かよ?「……いいのかな、私も……姉妹で」 フェイト? さっきノリノリだったじゃん。「……あのね? 私……二人に隠してることがあるんだ……」「ちょ、フェイト!?」 え? まさか……「だ、駄目だよフェイト、二人に迷惑かけちゃうよ?」「なんや? フェイトちゃん、悪いことしたん?」 これからするってことかな? ……けど。「アルフ。迷惑なら、私がもうかけたし。お返しにかけられても、どんとこいだよ?」「そうやそうや。それやったらあたしなんか、この足やで? この先迷惑かけるから、今のうちにかけときぃ?」 大体、子供には何もできない。 俺らは、まだ無力だ。 けど、友達で、義姉妹なら。「フェイト。姉妹に隠し事はなしだよ?」「……うん。ごめんアルフ、言うね?」「……わかった。フェイトがそういうなら、あたしは止めないよ」 アルフの言葉に、フェイトはポケットから三角形の金属片を取り出す。 あれが噂のバルディッシュか。「バルディッシュ」『yes sir』 機械音声のあと、フェイトの身体が光に包まれ…… 真っ黒いレオタードにスカート、マントを着て、杖を持った魔法少女が現れた。「……私、魔導師なんだ」 そう、フェイトは言った。 ……はやてちゃんの反応は?「……」 あ、びっくりしてる。 言葉も出ないようだ。「ま、まどうし……」「……隠してて、ごめん」 顔をうつむかせるフェイト。 で、フェイトを傷つけるんなら容赦しねーな目で見てるアルフ。「……て、なんや?」 がくんと三人揃ってこけた。 ……そう来るとは思わなかった。「はやてちゃん。呼んで字のごとく魔法使いさんだよ」「ああ、なるほどなぁ。凄いなぁ、カッコええなぁ」 目をキラキラさせて褒めちぎるはやてちゃん。 その意見には同意する。「……せつなはあまり驚いてないねぇ?」「ん? 俺前世持ちだし、魔法使いごときで驚くか」 知ってたしね。 それに、「俺の記憶しかない証拠の曖昧な私と違って、変身するだけで信じてもらえるフェイトはいいなぁと思ったけどね?」「……そ、そうだね……あ、二人とも、フェイトの事は内緒にして欲しいんだけど……」「わかったで! 魔法少女はまわりに知られたら国に帰ってまうのがお約束や! そんなことはさせへんで!」 それ、昭和の魔法少女のお約束だ。 「知らないのはやてちゃん? 最近の魔法少女は拳で友情を確かめ合うんだよ?」「しょ、少年漫画の世界か!? 時代が流れるんは早いんやなぁ……」「え? そうなの?」 いや信じるなよ本物。 でも間違いでもない。「せつな、それは嘘だろう?」「……それはどうかな?」 ここはぼかしておく。 不安げなフェイトが可愛いし。「でも、その衣装結構きわどいなぁ……お兄さんとしてはドキドキ物だな」「せっちゃん、よだれよだれ」「はぁ!? ち、違うんだよ? 私はロリでもペドでもないよ? ホントだよ?」 うう、男性意識がある俺は普通の反応もできないのか。 おいちゃんはいろいろ汚れてるよ……「えっと、それで、こんな私でも、姉妹でいいのかな?」「「何を今更」」 お、はやてちゃんとハモった。「フェイトちゃんが魔法使いでもお姫様でも私たちは友達で姉妹や。それは変わらん。そうやろせっちゃん」「そうそう。……そうだ、フェイト。何か簡単な魔法教えてよ。私たちにも使えそうな奴」 この際だから、念話くらい教わっとこう。 多分、はやてちゃんにもできると思うし。 ……あ、このメンバーの中で使えない可能性があるの俺だけか。「じゃ、じゃあ……(はやて、せつな、聞こえる?)」 !? 受信できた!? はやてちゃんは!?「い、今の、なんや?」 受信できてるみたいだな。 よかった、俺も使えるようだ。「今のは念話って言って、喋らずに会話できるんだ。(こんな感じで)せつな、聞こえた?」「ん、聞こえてる。……(こうですか? わかりません!)」「(しっかりできとるやん。……こんな感じやね?)」 俺もはやてちゃんも成功。 大体分かりだして来た。「……ひょっとして、二人ともリンカーコア持ってるのかもしれないねぇ」「りんかーこあ? なんやそれ?」「リンカーコアって言うのは、魔法を使う魔力を生み出す源。それを持ってると、訓練次第で魔導師になれる……て、お父さんが言ってた……て、あれ?」 ……固まる俺。 フェイトとアルフは驚いた顔してこっち見てる。 はやてちゃんは俺の説明を聞いて納得顔。 今、脳のほうから直接説明が出たよ? ……て、ことは。「わ、私のお父さん、魔導師だったんだ……」「知らんかったんかい」 いや、知らんし。 てか、私自身は!?「……あ、そうか、私は検査でリンカーコアが極端に小さいって言われて、だから、こっちで暮らすようにお父さんに言われて……」「……そうだったんだ……」「と、とことん不幸だねあんた……」 ふ、不幸キャラ? そんな属性要らないんだよ…… さて、いろんなことを話したけど、今日はそのままフェイトの家にお泊りすることに。 はやてちゃんの寝巻きや下着は私のを貸すことにした。 足のことがあるので、みんなでお風呂も入りました。 フェイトと二人係りではやてちゃんを洗ったり。 逆にはやてちゃんに背中洗ってもらったり。 フェイトの髪を洗ったり。 ……後、フェイトがもう膨らみ始めてるのはちょっと納得いかなかったり。 お風呂から上がれば、みんなでお話。 はやてちゃんの一人暮らしの大変さとか、フェイトのお母さんのお話とか、私の前世の思い出話とか。 気がつくと、みんな眠ってて……「……フェイト?」 物音に目が覚める。 魔法少女の衣装をまとい、窓から飛び出そうとしているフェイトがいた。「あ、起こしちゃったかな」「気にしないで。……どこか行くの?」 たぶん、この話の核である、ロストロギアを探しにいくんだろう。 確か名前が……「……うん。探し物が……あるんだ」「……わかった。気をつけてね?」「うん。……行って来ます。せつな」「行ってらっしゃい。フェイト」 夜の闇に、飛び出したフェイト。 すぐに闇に溶け込んで、フェイトの姿は見えなくなった。 ……彼女は、これから、苦しい思いをする。 ……私は、どうやって、彼女を助けたらいいんだろう。「……力が……あればいいのに……」 力が欲しい。 フェイトを、はやてちゃんを、守れる力が。 もう、目の前で、大切な人がいなくなるのはいやだ。 強い、力が欲しい。【Please call me. call my name】