とある別世界にある廃都市、そこの地下深く音や光も届かない漆黒の世界
そこから一筋の翡翠色の光が溢れ出し、そこにはガラス張りを前に不敵な笑みを浮かべるフードを被った男が悠然と立ち尽くしていた
「地球が健在しているからすると……やはりアレは消滅していると考えるべきか」
「はい、恐らくは……」
突然男の背後から跪くように現れる女性。
その事にも動ぜず、男は淡々と会話を続ける
「……まぁいい、所詮は使い捨ての使いの用のない粗悪品だ。それよりも重大な情報を手に入れた事を喜ぶべきだな」
男は更に口元を歪め、狂気に満ちた表情を浮かべる
「ベジータ、まさか貴様までこの世界にいようとはな……嬉しい誤算だ」
クククと笑い声を漏らす男に、金色の目をした女性は身震いを感じた
「だが、今の私達では奴と対等以上に戦うにはまだ時間が有するな……ウーノ」
「は、はい……」
フード越しから見える男の蒼い瞳に、ウーノと呼ばれる女性は肩をビクッと震わせながら返事を返す
「ジェイルの奴に伝えておけ、今は余計な事はせず。大人しくしていろ、その範疇なら何をしても構わん」
「り、了解しました」
男の指示を受けると、ウーノは立ち上がり姿を消していく
「いいんですかい? あんな奴に好き勝手やらせて」
「構わん、所詮奴のやっているのは唯の人形遊び、自分の欲望を満たすだけの自慰行為にすぎん」
暗闇から這い出て背後から現れた黒髪の青年に、男は背を向けたまま応える
「それよりもガルド、例の奴は?」
「連れてきたよ、ほら!」
「ぐはっ!」
影に隠れて見えなかったが、青年が腕を突き出すようにすると、威厳のある顔の中年位の男性が倒れ伏してきた
そしてその際に、青年の腰からは尻尾のようなものが見えた
「初めまして管理局地上の守護者、レジアス・ゲイズ中将殿……ご機嫌麗しゅう」
「貴様……何者だ!?」
ゲイズの叫びに男は肩を竦めながら答え始める
「このような場所で申し訳ない、しかし私が直接赴く訳にもいかないのでこうして使いを出した次第です」
「貴様……こんな事をして、どうなるか分かっているのか!?」
「ああ、それならご心配なく。貴方が不在しているのは未だ誰にもしられていません。事実、その男が侵入した時は誰一人……いや、警報一つ鳴らなかった筈ですよ」
「!?」
「まったく、貴方達管理局は自分達が支配する側だと思い込んでいるからこんなヘマをするのですよ。……こんなにハッキングが上手くいくのは逆に此方が驚く程でしたよ」
やれやれと首を振る男を前に、ゲイズの表情は凍り付いた
「バカな……地上本部のセキュリティシステムは厳重に厳重を重ねたもの、それを」
「まず貴方達は知るべきですね。世界を管理管轄するには予想外な……それこそ規格外な存在を想定する事も必要だと」
「な……にを?」
「さて、そろそろお喋りはここまでにしましょうか」
「貴様は一体……何者なんだ?」
ゲイズの怯えながらの問いに男はニヤリと口元を歪め
顔に被ったフードを払う
「!?!?」
そして、男の姿を見てゲイズは驚愕に染まる
男の全身に銀色となった皮膚
まるでこの世にある全てに憎悪しているかのような深淵に近い蒼の両眼
今まで見たことのない存在に、ゲイズは言葉を失う
「我が名は……ゼノン」
「ぜ、ゼノン?」
「嘗てツフルの王と名乗っていたベビーの記憶と、失われた約束の地【アルハザード】の英知を受け継ぎし者……そして」
男は……ゼノンは拳を握り締め
「全次元世界を……この手に掴むものだ」
不敵に笑う
「ふ、ふふふ……アルハザード? ベビー? 貴様、狂っているのか?」
「…………」
「アルハザードなど、遙か太古の旧暦に巨大な次元断層によって崩れているとされている! そんなもの……ある訳が」
「信じるか否かは貴様の自由だ。……まぁ貴様にはどうせ関係のある話ではなくなるのだからな、ガルド」
「ああ」
ゼノンの言葉に、ガルドはゲイズの頬に指を当てて
「な、何を…ぐぅっ!?」
頬に一筋の切れ目を付け、そこから赤い血液があふれ出してくる
「これは俺の能力でな、相手の脳に卵を植え付け操る効果を持っているんだ」
ゼノンの腕の一部がドロリと液状に変化し、ゲイズは自分が何をされるのか容易に理解できた
「ま、まさか……」
「まぁ、残念なのが意識までは操れないのが欠点だが……お前には目の前で自分の意志とは裏腹の事をやらされる地獄が待っているな」
「!?」
ゼノンの一言に、ゲイズは体を暴れさせもがくが
「大人しくしていろ」
「がっ!?」
ガルドに頭を抑え付けられ、身動きが取れなくなってしまう
「さぁ、レジアス・ゲイズよ」
「や、やめろ……」
「我が下僕に……成り下がるがいい!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
ゼノンの腕が振り下ろされた瞬間
ゲイズの断末魔の声が、誰にも聞かれる事なく
響き渡った
そして、やがてゼノンは再びフードを被り、ガラス張りの前に立っている
そこには既にガルドとゲイズの姿はなく、今はゼノン唯一人となっている
「さて、これで地上は我が手に墜ちたな……しかし、これからが本番だ」
ゼノンはガラスの向こうにある生体ポッドを見つめ、呟く
「ベジータ、まさか貴様が超サイヤ人4の領域まで昇っていたとはな」
忌々しげにゼノンは拳を握り締める
「だが、あと十年、十年もすれば……俺は貴様と対等以上に戦える存在に成り上がってみせる」
ゼノンはガラス張りを開け、目の前に浮かぶ生体ポッドに手を当てて、口端を吊り上げる
「貴様にも味あわせてやる、全てを奪われ、全てを失った者の恨みと悔しさを!!」
生体ポッドに背を向け、ゼノンはその場から立ち去っていく
「この究極の復讐者、ゼノンがな!!」
そして、生体ポッドの中に浮かぶ人物の名は、ポッドにこう記されていた
【金色の悪魔】
【Bloriy】
そして、そのポッドの背後には
同じ尾を持つ人間が無数の生体ポッドの中に浮かび
脈動していた
「クションッ!」
「どうしたのベジータ、風邪?」
現在下校している最中のベジータとフェイト
なのはとはやては管理局の仕事で早く早退し
アリサとすずかは稽古とやらで一緒に帰れず
残ったアリシアは補修と言うことで学校に残され
プレシアはその付き添いとなっている
「いや、別に何ともない」
「そう? もうすぐ冬だからさ、あまり無理しちゃダメだよ」
「お前が言っても説得力は欠片もないな」
「あぅ……」
闇の書事件から時は流れ、現在ベジータ達は小学五年生ももうすぐ終わりを迎えようとしていた
「お前もそろそろ執務官の試験があるんだろ? 自分の事に集中したらどうだ」
「そ、それはそうだけど……ふふふ」
「なんだいきなり」
「さっきのベジータの台詞、前に一度聞いたことがあったからさ、思い出しちゃって」
フェイトはどこか懐かしむように空を見上げる
「ねぇベジータ、私達の初めてあった事……覚えてる?」
「……あの時はいきなり攻撃されてカチンと来たな」
「だ、だっていきなり侵入してきた人間を警戒するのは……当時の私にとっては当たり前で」
ゴニョゴニョと俯き喋るフェイトに、ベジータは溜め息を吐く
「で、それを思い出させて、何が言いたいんだ?」
「あ、そうだった! ……ベジータってその、私にとって心強い人で、現に今も私の支えになってて、私の目標で、私の………」
「ん? 何だ? 最後の方が聞き取れなかったが?」
「!」
顔を近付けてくるベジータに、フェイトは顔を真っ赤にして、卸した髪をボンッと爆発させる
「な、何も言ってないよ!」
「?」
ゼーハーゼーハーと呼吸を荒くするフェイトに、ベジータは首を傾ける
「……ベジータの背中に追い付くのが、私の夢で、私の目標なんだ」
「…………」
「だからベジータ」
「?」
「これからも宜しくね!」
クルリと振り返り、頬を若干赤くするフェイトに、ベジータは鼻で笑い
「フン、無駄な努力だと思うが……せいぜい頑張る事だな」
鞄を肩に担いで、ベジータはフェイトの先へ歩いていく
「うん、頑張るよ!」
フェイトはベジータの憎み口にも元気に応え、その背中を追いかけていく
(もしかしたら、私は一生ベジータに追い付けないのかもしれない)
でも、私は……貴方の背中を追いかけ続けたい
(そうしたら私は、多分もっと強くなれると思うから)
そうなったらベジータは
(私を認めてくれるかな?)
ベジータの後ろを歩き続けるフェイト
前を歩くその背中を眺め続け
フェイトは、強くなるための決意を
再び固めたのだった
「これは……どういう意味かしら……」
ここはミッドチルダにある聖王教会本部
そこの理事室に外では聖遺失物が何者かに盗まれた騒動を尻目に
一人の少女が、その手にお札らしきものに浮かびあがった文字を読んで、困惑に打ちひしがれていた
「復讐、金色、英雄に悪魔、そして王……これは一体、何を示しているの?」
所々抜けている文章に、少女は戸惑いの表情を浮かべ
「この世界に……何が起きようとしているの?」
暗雲がひしめく未来に、不安な面持ちで空を仰いでいた
〜あとがき〜
すみません、ミッドチルダ編はまだ先になり今回はフード男の正体とオリキャラを出してみました
時間系列がメチャクチャになってきた気がする
もしかしたらかなり違うと思いますが、見逃……せるレベルじゃないな(汗