初出2009/03/01 以後修正
─第5話─
ついに主人公、表舞台に立つ。
──────
……ネギ、負けちゃったよ。
いや、そうじゃない。なんで電源が戻らない?
なんで!? なんでなしてどうしてなぜなになでしこー!!
「チャチャゼロをくだしたか。やはり侮れんな貴様は」
パニクってる俺に向って幼女が言ってきた。
なんか感心してるけど、しなくていいですから。
「……一つ、質問させてもらっていいかな?」
そう言いながら、茶々丸にチャチャゼロの体の入ったビニール袋と頭を渡す。
ぺこりとお辞儀するところが好感触。チャチャゼロは楽しそうに「ケケケケケ」と笑ってた。
「なんだ?」
「そろそろ停電の時間終わりじゃないの?」
「ふふ、ふはは。残念だったな。時間ならば、まだまだ残っているさ」
「はい。メンテナンスは通常の10分遅れで終了となります」
「茶々丸の妨害工作によってな!」
……はい?
「貴様と戦う可能性もあるのだ。これくらいの保険はかけておいてしかるべきだろう?」
……ぱーどん?
今、なんて言いました?
ひょっとして。
……ひょっとして。
俺の、せい?
ネギが負けたのも、俺がこうして大汗かいてるのも、全部俺の責任なわけ?
自業自得なわけ?
一番最初に幼女おちょくったのが、すべての元凶?
マヂで!?
「今回はあの夜や昼間とは違う。私の本当の強さ、貴様に思い知らせてくれる」
ようぢょが指をごきごきと鳴らしとります。
「は、ははははは」
「ほう、こんな時でも笑うか。随分と余裕だな」
逆ですよ! ないから笑っちゃってるんだよ!
だから目つきを鋭くしないでください。
はー。もうね。ホントにもうね。
「は~。しかたない。やるしかないか」
覚悟を決めなくては。
全部俺のせいなのだから、その責任くらいはとらないと。
せめて、最低限の流れは、原作と一緒にしておかないと。
あーもう。過去に戻って過去の自分をぶん殴ってやりたい。
いや、俺の支持する理論的にそれ無意味だけど。
気分的にはすっきりするかもしれないけどね。
「なんだその不満そうな顔は」
「俺は平和主義者だからな。喧嘩は嫌いなんだよ」
「これは喧嘩などではない。殺し合いだ」
吸血鬼的に笑わないでください。
「もっとやだよ。話し合いで解決しようぜ」
「断る。そもそも最初に喧嘩を売ったのは貴様だろう?」
「それを言われるときつい……」
それを言われるともうがっくりと肩を落とすしかない。
「はぁ~。俺は平穏に過ごしたいだけなのに……」
「その平穏に過ごしたい奴が真祖の吸血鬼に喧嘩を売ったのだろうが」
まったくだ。
ぐうの音も出ないよ。
「では、はじめようか。多いといっても、限りある時間だからな」
「ったく。キ……」
「その名で呼ぼうとするなと言っているだろうが!」
「じゃあ幼女」
「それも却下だ!」
「わがままやなー」
「貴様が失礼なだけだ!!」
ぶすーっとしやがった。
ふふふ。こうして精神を乱すとはまだまだ未熟。
……だといいな。
「とりあえず、この前馬鹿にしたのは謝る」
「ふん。心のこもっていない謝罪などいらんわ」
「それでも言っておく。んで、俺が勝ったら、もう俺にかかわってくるな。平穏無事に生活させてくれ」
「ほう。では私が勝ったら、貴様は私の下僕として一生過ごしてもらおうか?」
「OK」
「「なーっ!?」」
外野から驚きの声。たぶんツインテとオコジョだ。
「随分とあっさり決めるな。それは余裕か? 余裕の表れか?」
あ、青筋出てますよ。
いや、即決したのは、それなら殺される事はないかなーってな考えで、思いっきり保身からなんだけど。
「いいだろう。その言葉、後悔させてやる! 茶々丸は手を出すな。こいつは私が、直々に殺す!」
茶々丸チャチャゼロ抱えてるしな。つーか殺しちゃ下僕に出来ませんよー。
「はい」
茶々丸が返事を返し、幼女がふわりと浮かび上がった。
「後悔しないよう最大限努力するよ」
その言葉と共に、俺も道具を取り出す。
ばさり。
と音を立て、俺はマントを装備した。
一見すると、幼女のマントと同じようなマントを。
「ほう、それか……」
うそ? これ知ってるの?
「それは、あの召喚獣の攻撃を跳ね返した時、手に持っていた物だろう?」
あー。それか。あれ見てたのか。
てことは、あの時最初から見てたって事かよ。
「だが、この私の魔法があのような小物と同じだと思うな!!! リク・ラク──」
「あ、そーだ。お詫びの方法思いついた。俺、君の呪いの解き方、知っているよ?」
そういいつつ、手は懐の中に。
「─ラ・ラックラぁあー!? なんだとー!?」
魔法を溜めたポーズのまま、驚く幼女。
「いや、まさか、スプリングフィールドの血をすすれとか言うのではないだろうな!?」
「いやいや。正確には、君を呪いから開放出来る道具がある。だからどうかな? ぜーんぶ水に流すってのは?」
「くくくくくく、はははははは。はーっはっはっはっはっは」
天を仰いで笑いはじめた。
「それがあればネギ先生を狙う必要もないわけだしさ」
笑い続ける幼女に俺は言う。
「くくくくくく。ふははははは。これは、これは愉快だ! いいだろう!」
あー。うん。これは、続きはあれだね。
「貴様をくだし、私の下僕とし、呪いを解除させようではないか!」
やっぱり。
「そして、私が満足するまで貴様をこき使い、私に喧嘩を売った事を永遠に後悔させてやる!!」
「まぁ、そーくるだろーねー」
実際それで満足するとは思ってない。
ぶっちゃけ時間稼ぎだから。
「マスター。残り時間11分となりました」
「おっと、どうやらこれ以上話している暇はないようだな。一気に決めてやろう! リク・ラクラ・ラックラ──」
ちぃぃぃぃ。
茶々丸さんそういう事は伝えないでください。
個人的にはもう少し時間を稼ぎたかった。
目標はタイムアップで原作再現なのだが、しかたがない。
懐から、用意していた道具を取り出す。
『吸音機~』
てけれてってて~。
『スイッチを入れると周囲の音が完璧に吸い込まれ、無音状態になります』
ちなみに原作とは形が違い、今風に小型化され、かなり小さい。おかげで携帯が楽でベルトとか上着にはさめます。
スイッチ、オン!
シィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!
周囲から、音が消える。
「─!?」
「─────! ──!!」
俺はおもむろにスケッチブックを取り出し、マジックで文字を書く。
ちなみにスケッチブックもマジックも授業で使うヤツをポケットに放り込んでいただけで、未来道具じゃない。
『ふはははははははは。呪文を唱えられなければ大魔法は使えまい!』
「──!! ────!」
はーはーはー。なに言ってるかさっぱりわからーん。
『なに言っているのかさっぱりわからーん(笑)』
「───!!」
じだんだしながら俺を指差しても聞こえないものは聞こえない。
「──!」
幼女が腕を振るった。
キラリとなにかが一瞬きらめき、俺の体に絡まる。
「っ!」
やはり『人形使い』の糸がきたか!
幼女がにやりと笑い、腕を引くのが見えた。
だが、そっちも甘い!!
俺は、このマントの真の力を発動させた。
「─!?」
───エヴァンジェリン───
音を奪われた。
奴の言動(スケッチブック)にはイラッと来たが、時をたやすく止める程の貴様なら、この程度はやってのけるとは思っていたよ!
呪文を詠唱出来なければ、無詠唱魔法以外はすべて使用が不可能になる。
チャチャゼロを退けるほどだ。白兵にも自信があるのだろう。
ただの魔法使いならば、それで終わりだろうな。
だが、私をただの魔法使いと思うな!
真祖の吸血鬼を、なめるなよ!!
人形使いの糸を操り奴へと絡める。
そのまま、血溜りに沈め!!
にやり。
奴が、笑った。
「─!?」
突如、糸が空を切った。
馬鹿な! 完全に、奴を捕らえていたというのに!
奴のいた場所から、大量のコウモリがあふれでる。
なっ!?
とっさにそれらのコントロールを試みる。
が!
!? こいつら、私の命令を受け付けない!?
すでに他人の支配下にある? これは……!
ありえない。
頭の中に湧き上がった疑念を振り払い、そのコウモリの群れを視線で追う。
コウモリ達は上空で集まり、そして、人の形を作り上げた。
バ、バカな……!
それは、奴だった。
『ハイ残念~』
スケッチブックにふざけた事を書いた、奴がいた。
エヴァンジェリンが反射の出来る存在と推理したマント。それはそもそも、『ひらりマント』ではない。このマントは『ドラキュラセット』と呼ばれるセットの物なのだ。
『ドラキュラセット』
牙とマントを装着するとドラキュラとなれる。早い話吸血鬼になれるセット。当然弱点も吸血鬼基準となるが、相手も吸血鬼ゆえ、今回その弱点をつかれる心配はない。
ちなみに今回使用したのはマントのみ。
だが、まさかマント一つで吸血鬼になれるなど想像もしない彼女は、当然混乱する。
奴が、コウモリに、変化した、だと!?
それは!
それは、私と同じ、吸血鬼の能力だ!!
だが、貴様という同族がいたなど、私は知らんぞ!
そもそも貴様はさっきまで人間のにおいしかしていなかったではないか!
『ふふふ。ならば、俺の秘密を教えてやろう!』
そう奴が書きなぐった後、奴はそのスケッチブックを私に投げつけてきた。
思わず、私はそれを受け取る。
ページのはしには、『ページをめくれ』とあった。
「?」
そこには。
『実は俺、お前の孫なんだ』
「!!!?」
一瞬頭が真っ白になる。
どういう事だ!?
時を操る能力を持つ男であるがゆえ、さまざまな可能性を思い浮かべてしまう。
スケッチブックから視線をはずし、奴を再び見る。
『ウッソー』
そこには、大学ノートにそんな文字をでかでか書いて馬鹿にするよう笑う奴がいた。
『貴様ー!! ふざけるなー!!』
スケッチブックについていたマジックで暴言を書きなぐる。
『騙される方が悪いのさ。バーカバーカ!』
『馬鹿とはなんだ馬鹿とは!! このアホー!!』
『そもそも孫に心当たりあるの?』
『あるかアホ!! 子供すらおらんわ!!』
『だったらまだ───』
『ばっ! 馬鹿な事を───』
激しい筆戦が続く。こいつ、て、手ごわい!!
───ギャラリー───
(……文字書いてる間に攻撃すればいいのに)
下で見ていた明日菜はそう思った。
(マスター。残り時間がもう……)
茶々丸は心配していた。
(ケケケ。完全ニアッチペースダナ)
チャチャゼロ。
(きゅう)
ネギ。
もう一個はどうでもいいや。
(ひでぇ!)
──────
『しまった!! こんなくだらない口喧嘩をしている場合ではないではないか!!』
『あ、やっと気づいた』
『貴様~』
『はっはっは』
ちっ、この時間稼ぎもここまでか。
じゃあ、次のプランへ移行だ!!
最後の文を書き、大学ノートを上に放り投げる。
「「「「!?」」」」」
すべての視線が、放り投げられた大学ノートの方へと集まる。
よし! ソッチを見ろ!!
その隙に!
『モンスターボール』&『透明マント~』
てけててっけて~。
『モンスターボール』
ボタンを押すと龍、河童、天狗、ヤマタノオロチなどの伝説上の怪物が出せる。
ところで、この『モンスターボール』、このデザインいいのかな? 赤と白でボタンて。……はっ、黙っとけって電波が届いた!
『透明マント』
かぶせると透明になる。
ちなみに透明マントはボール自体を見えなくするためなんだぜ。
落下してきた大学ノートを受け止め、それを幼女に見えるよう突きつけつつ、手の中にある『モンスターボール』を空に掲げ(見えないが)、発動!!
『いでよ、ヤマタノオロチ!!』
『なっ!!?』
……お嬢ちゃんもけっこう付き合いいいよね。
ちゃんとスケッチブック片手に反応してくれるなんて。
俺の手の中から這い出るよう、それは湖に出現した。
そこに現れたのは、巨大なる龍。
湖を覆いつくすほどの、巨体。
日ノ本の神話に存在する、八つの頭を持つ獣。
「──────!!!!」
幼女がスケッチブックに文字も書かず、声にならない悲鳴を上げている。
くっくっく。驚いてる驚いてる。
日本神話の怪物だもんなー。
だが残念ながら、こいつは幻なのさぁー!
『桃太郎印のきびだんご』も『スモールライト』も効かないなんて幻以外にありえないからな。
どんな攻撃がきても無意味! これで残りの時間を稼ぐ!
そのために『モンスターボール』を攻撃されないよう透明にして隠したんだもんね。
音を封じた本当の目的はロボに「あれは実体がありません」と伝えられないようにするためだもんね!
ふふ。完璧完璧!
あとはタイムアップまで金髪幼女が幻を相手にしていればよいだけ!
卑怯? ずるい?
そんな事はどうでもいい。
俺の目的はあくまで『平穏』!
俺は戦士でもなければ、立派な魔法使いでもない。
どんな手を使っても、最終的に──
──勝てばよかろうなのだぁぁぁぁぁぁぁ!!
「シギャアアアアアアアアアアアア!!」
ヤマタノオロチが、吼えた。
……あれ?
空気の震えが感じられる。
あれ? なんかびりびりと空気が振動してますよ? 音が、音が聞こえますよ?
ばきーん!
はれ? 『吸音機』がぶっ壊れましたよ? 許容量オーバー。とか、出てますよ。
あふれた今までの音より、オロチの声のがでけーですよ。
今度はヤマタノオロチ、八つのアギトを開いて、なんか、見たことあるよーな光を口に集めはじめましたよ。
第1話参照っぽい光ですよ。でもすごさはアレの比じゃねーですよ?
当社比100万倍とかいうレベル差ですよ。
……これ、マジで、やばくね?
「ちょっ! まっ!」
だめー!! それだめー! というか幻じゃないのねこれ! 説明にも『幻』とは書いてないね! そういえば原作でも木々なぎ倒してたね! 日本神話になってたね!!
『スモールライト』が効かないのは本当に『効かない』のね!
しかも仕様がこの世界バージョン対応になってるっぽいよ! なんか怪獣ってレベルじゃなくてホントに神獣ってかんじになってるうぅぅぅぅぅぅう!!!(若本風)
キャンセル! キャンセール!!
マントをずらしてボタンれーんだ!!
あ、幼女が涙目でこっち見てる。
大丈夫だ幼女。
問題ない。なにも問題なーいから!
ねっ!☆
とりあえず微笑んでおいた。
ほれキャーンセル! キャーンセル!!
カッ!!!!
光はあふれたが、それだけでなんとかボールへ戻す事に成功。
あ、あぶねー。
あんなのに暴れられたら洒落にならねーって。
巨大な光が収まったところで。
「……な、なぜ、やめた?」
幼女が、うめくように言ってきました。
「それは……」
え、えーっと、コントロールできなかったからとか言ったら、どんな折檻が待ってるのでしょう?
これは二度とつかわねー。というか使えねー。他に龍とか天狗とか出せるみたいだけど、絶対出せねー。なんせコントロール不能だからね。あはは。
答えないでいたら、橋に光が戻ってきた。
あ、タイムアップ。
───エヴァンジェリン───
『しまった!! こんなくだらない口喧嘩をしている場合ではないではないか!!』
『あ、やっと気づいた』
『貴様~』
『はっはっは』
こ、この男は! この男はどこまで私をおちょくれば気が済むのだ!!
あの『サウザンドマスター』もたいがいだが、こいつもそれに匹敵する!
そう思った瞬間、奴は持っていた大学ノートを上に投げた。
今までにない行動に、思わず警戒する。
そのせいか、飛翔したノートを目で追ってしまう。
だがそれは、そのまま落下し、奴の手の中に納まった。
なにがしたいのかはわからなかった。だが、手に取った大学ノートを広げた瞬間、私は戦慄を覚える。
『いでよ、ヤマタノオロチ!!』
『なっ!!?』
勢いよく開かれた大学ノート。
そこに書かれていた文字に。
神話のみに存在する、伝説の名前。
神に屠られた、獣の名前。
そんなものを、この場に召喚するというのか!?
馬鹿な。そのような事、出来るはずがない!
奴が天に、残った手を伸ばす。
……だが、それは、顕現した。
召喚の陣も、呪文の詠唱も、触媒も、魔力も。なに一つ用いず、世の理を無視し、それは、その場に現れた。
そこに現れたのは、巨大なる龍。
湖を覆いつくすほどの、巨体。
日ノ本の神話に存在する、八つの頭を持つ獣。
神話の怪物。
「──────!!!!」
無意識のうちに、私は悲鳴をあげていた。
それを一瞬直視しただけで、正気を持っていかれそうだ。
禍々しい狂気と、猛々しい神気を纏ったそれ。
その存在は、まさに、『本物』だった。
ばっ、ばかな……神話級の龍を、神に屠られた獣を、日ノ本を象徴する神器を内包していた存在を、ただの人間が、召喚した!?
空気が震える。
沈黙のくびきを打ち破り。
その咆哮が、世界を蹂躙する。
自分の存在そのものが、揺らぐのを感じた。
まるで時が歪んだかのように、自身の体感する時間が、一気に伸びる。
生命の危機に、精神のみが加速し、すべての動きが遅く感じる。
8つの首が、私の方を向き、そのアギトを開いた。
ゆっくりと。
膨大な力が、そこに集まるのを感じる。
ゆっくりと。
なにが、どのようにして集まっていくか、知覚出来るがゆえ、その恐ろしさがより鮮明となる。
このような力、ここで放ったらどうなるのか、わかっているのか!?
私だけではない。この学園。いや、日本そのものが、割れるぞ!!
だが、奴は笑っていた。
それどころか、早く撃てといわんばかりに手を前後に振り、オロチをせかしている。
私は、真祖の吸血鬼となって初めて、群の人間ではない、人間個人の『暴力』を、怖いと感じた。
オロチのアギトに力があつまり……
……光が、あふれた。
「い、いやああぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず両手で、視界を覆う。
だが、いつまでたっても衝撃は来ない……
恐る恐る目を開いてみれば……
見えたのは、やつの手に、ヤマタノオロチが吸いこまれゆく光景だった。
「……な、なぜ、やめた?」
奴は、答えない。
答える必要などは、ない。
奴が私を攻撃する必要がなくなったから、攻撃をやめたのだ。
攻撃して倒すよりも、より屈辱的な方法を、奴は知っているのだ。
最初から、奴は、これが狙いだったのだ。
体から、魔力が抜ける。
そう、時間切れ……
私の、自滅……
私は、そのまま、湖面へと、落下を開始した。
──────
「あっ!」
「っ! いけません。魔力がなくなればマスターはただの子供。このままでは湖へ! あとマスター泳げません」
茶々丸とツインテの声が聞こえる。
茶々丸の反応が遅かったなあ。どしたんじゃろ。まいっかむしろよい事!
確かこれで、ネギが助けて大団円のはず!
さあネギ! 原作修正として、助けに行くのだ!!
「きゅう」
って、気絶したままだあぁぁぁぁぁぁ!!!!
「しまったぁぁぁぁぁ!!!」
自分の事ばっかりでネギの事考えてなかったぁぁぁぁぁ!!
茶々丸が追っているが、明らかに間に合わない。
このままでは、誰も間に合わずに、幼女は水面に叩きつけられてしまう!
「ちくしょー!!!!」
なんだかよくわからんがちくしょー!!
『タンマ・ウォッチ』
───エヴァンジェリン───
……ああ、前にも、こんな事があったな。
はじめて、『サウザンドマスター』に助けられた時も、似たような状況だった……
「危なかったね」
「おい、なぜ助けた?」
「さあ」
「おい貴様。私のものにならんか?」
「私は貴様を気に入っているのだ。貴様がうんと言うまで地の果てまで追って行ってやろう」
「登校地獄!!」
「~~~~~~~っ!!」
「まあ、心配しないで。あんたが卒業する頃にはまた、帰ってくるから」
「本当だな……?」
──10年前。
「『サウザンドマスター』は、死んだ」
死んだ。
アイツの笑顔が、鏡を割ったように、割れる。
……うそつき。
水面が、近づいてきた……
私は、ゆっくりと、目を閉じ……
覚悟を……
ふわり。
……激突の衝撃は、来なかった。
私は、奴の腕に抱かれ、中空に浮かんでいた。
「……なぜ?」
「なぜ、助けた……?」
お前に、私を助ける理由など、ないはずだ……
──────
「なぜ、助けた……?」
「えーっと……」
この後修学旅行編で君の力が必要だから……なんて言えないし。
そのうえネギに助けてもらう予定だったけど失敗した。てへっ☆。とかも言えないし。
「とりあえず、負けた事を噛み締めさせずに死んでもらっても面白くないから。かな」
「なっ!? なんだとぉぉ!?」
「ん~? なんだ? 事実だろ? もう一回やるか?」
俺、自慢じゃないが、弱い相手には強気なんだぜ!!
「いいだろう、やってやろうじゃないか!」
「ってこら、マジでここで暴れるんじゃねえ! いてて、髪をひっぱるな! てめー落とすぞ!!」
「やれるものならやってみろ!」
「やってやろーじゃねーか!」
「さ、逆さづりにするなぁぁぁぁ! マントしかつけていないんだ! セクハラだぞセクハラ!」
ちなみにいまさらだが、今ヴァンパイアマントつけてるから空も飛べるし力も並以上にあるのだ。
「安心しろ。幼女に興味はまったくない!」
あったとしても一流のロリコンだから安心しろ!
「なんだと貴様ぁぁぁぁ!」
「どの道怒るんじゃねーか!!」
「ねえ、エヴァンジェリンていつもこうなの?」
「いえ、こんなに楽しそうなマスターははじめて見ます」
「きゅう」
───────
つっこみランク『達人』明日菜の「いい加減にしろ」つっこみを食らい、しぶしぶ橋の上に戻ってきた。
俺は主に引っかき傷。
幼女はほっぺがまっかっかだ。
ちなみに明日菜はヤマタノオロチを見て『すごー』と怪獣映画を見たレベルの驚きだったようだ。
幼女とは大違い。肝が据わっているね。使った本人でさえ驚いたってのに。
てかそもそも「ヤマタノオロチってなに?」だったようだ。バカレッド恐るべし。
それと茶々丸はアレを見て、一瞬処理能力を超え、思考停止におちいったらしい。エヴァ落下に間に合わなかったのはそれが原因だ。
オコジョは知らん。
(ひでぇ!)
ネギとか怪我人は『お医者さんカバン』や『すぐ傷を治す絆創膏』などの治療用未来道具を使ってさくっと治療。
『お医者さんカバン』は医者と同じ事が出来る(宇宙からきた未知のウイルスを退治したり、人間以外でも未確認の動物の病気を治せる)
『すぐ傷を治す絆創膏』は患部に貼ることで、骨折もあっという間に完治するというものだ。他にも傷を治す塗り薬など、色々ある。
……俺これで内科も外科もやれるなぁ。医師免許ないけど。
ちなみに『万病薬』って必ず治癒出来るわけではないが、どんな病気にも効果のある薬もある。
治療を済ませると、ネギが目を覚ました。
「はっ、エヴァンジェリンさん!?」
飛び起きて、あたりをキョロキョロと見回す。
そして、しゅんとなる。
「……僕、負けちゃったんですか」
「そうだ。お前は負けたのだ。だから血をよこせ!」
ふふふふふふ。と笑いながら近寄る幼女。
「てい!」
そんな脳天に背後からチョップ!!
「きゃふ!」
「つーか見てたぞ。ネギと最後の撃ちあい、負けたじゃん」
「だがその後私がとどめを刺した!」
「とどめとかそういうレベルじゃなく、たった10歳を侮って油断かつ力負けして全裸にされる600歳はまず恥を知るべきだと思う」
「なっ!?」
「俺ならその時点で負けを認めるね。むしろこれはネギの勝ちだね」
「そ、そうなんですか……?」
「そうそう」
かなり強引に話を原作に戻そうと努力する俺様。
いろんな矛盾は無視して勢いでそういう雰囲気に持っていけ俺!
「だからこの勝負ネギの勝ち!」
「勝手に決めるなー!」
「俺がネギの勝ちと言ったら勝ち! 俺に負けたんだからネギの勝ち」
「えっ!? エヴァンジェリンさんに勝ったんですか!?」
あ、そーか。そういやずっとネギ気絶してたっけ。
「ああ。勝った。勝った俺がそう言っているんだ。だからネギの勝ちだ。つまりこいつはこの中で最弱!」
「きっ、貴様ぁぁぁぁ!」
「はっ。ただの幼女に興味はない。女社長か女医さんか司書さんがいたら俺のところへつれてきなさい!」
「そんなのここにいるか!」
「ならなおの事お前に用はない!!」
ネギをほっぽって幼女の頭をつかみ、攻撃を回避する俺。
俺に頭をつかまれ、手をぶんぶん振り回す幼女。
「いーかげんにしなさい!」
「ぎはま!」
「のつる!」
ハリセンで幼女ごとつっこまれた。
つっこみ少女ツインテやりおるわ。
「と、いうわけで、こいつに一瞬でも撃ち勝ったんだ。ちゃんと誇ってもいいと思うぞ」
とりあえず、ネギの頭をなでた。
つーか、ネギの目からすると完全一般人の俺が言っても説得力ないか?
いやいや、俺一応幼女に勝ったから言う資格はある!
「……」
そうしたら、なぜかじーっとネギに見られた。
「どした?」
「い、いえ。僕の尊敬している人に似てるなー。と思って」
「へー」
たぶん、『サウザンドマスター』の事だろう。ネギの、父親か。そういや、俺の元々と同じかちょっと年上くらいの年齢なんだよな。ナギ。
なのに、こんな出来た子がいるなんて……
それなのに、三十路目前の俺ってば……
「ど、どうしたんですか?」
「いや。なんでもないヨ」
不思議と、悲しくなっただけだヨ。
どうでもいいけど、なでてポッとならず、お父さんみたいって、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからんね。
どの道ネギは10歳だから当然俺の趣味の範囲外だがなー。
いて。なぜか金髪幼女に蹴られた。
なにすんだ。
「つか、俺が勝ったんだから、約束は守れよ」
幼女に言う。
「約束ですか?」
なぜかネギが聞き返してきた。
だから……
「ああ。俺が勝ったらネギ先生の言う事を聞くようにって」
適当言ってみた。
「ええっ!?」
ネギ驚く。
「だから平然と出鱈目をならべるなー!」
幼女憤慨。
「あれ? 間違ったかな?」
「正確には、彼が勝ったらマスターは彼にはかかわらず、平穏に生活させる事。です」
茶々丸が訂正する。
「そうなんですか~」
ほえーっと声を上げている子供先生。
ホントこうして見るとただの子供だよな。
「ふん。約束は約束だ。もう貴様にちょっかいは出さん。安心するんだな」
「ん。ありがと」
「ちょっ、こら! 頭をなでるな!」
ぐーりぐーりぐーり。
ネギとは反対の手で、撫で回す。
……なんというか、すげーなでやすい位置にあるなこの頭達。
ちなみにこの日、停電の夜には湖に巨大な影と謎の咆哮が聞こえる。という七不思議が生まれる事となった。
───超───
キィン!
また、時計が動いたネ。
やはり、ワタシの知らない何かが起きてるヨ。
───???───
「……はてさて。彼は、なにものなんじゃ?」
遠くから、この決闘を観察していた者が、そうつぶやいた。
この学園は、魔法的にも特異な場所だ。
ここには世界樹があり、魔力がとても集まりやすい。それゆえ、魔力が集まり、『妖怪』のようなモノも生まれやすいのだ(西洋風に言えば『悪霊』)
他にも表に出せないようなお宝──例えば図書館島の蔵書など──を狙う賊もまれに侵入する。
そういった表に出せない事柄から学園と、人々を守るため、結界が存在し、『妖怪』の発生を防いでいる。当然それでも発生するが、そうなった場合それを退治する警備員がこの学園にいるわけだ。
なにが言いたいのかというと、停電で結界が失われた今日は、その『妖怪』モドキ(下手すると本物)が大量に発生しやすい。という事だ。
だが、ヤマタノオロチが召喚された瞬間。学園内に進入していた他の召喚系存在、『妖怪』は、その存在によって自らを維持する事が出来ず、その場からすべて送還される事となった。
場に出現した『ソレ』が強大すぎて、他の者が存在出来るだけの許容力が場から得られなくなったためだ。
場を維持するために、世界が彼等を拒絶したのだ。
もし、結界が存在している中で召喚されていたら、結界そのものが崩壊していたかもしれない。
さらに、あの瞬間、オロチの召喚を目の当たりにしていなかった者は、それが召喚されたとは気づかなかっただろう。
他の者は、自己を守るために、認識する事を拒絶したに違いない。
自らの正気を、保つために。
神話にのみ存在するはずの八ツ首龍。
ゾッ。
今、その存在を思い出しても、背筋が凍る。
圧倒的な禍々しさ。猛々しいだけではすまない神気。
神話級の獣。溜めこまれた世界樹の魔力を使用し、神器という触媒と、相応の儀式をもってしなければ、呼ぶ事すらも叶わぬ存在。
それを、儀式も、触媒も、魔力もひと欠片として感じさせず、召喚する者。
そんな存在が、この麻帆良にいたなど、聞いた事もない。
そもそもそれは、『人』なのか?
「これは、調査してみる必要があるようじゃのう」
ほっほっほっほっほと笑いながら、そのぬらりひょんはヒゲをなでるのだった。
「……これ、『???』 とする意味ないんじゃないかの?」
──────
みんなねぐらへ帰る事になりました。
「それじゃあ、戻るな」
「はい。治療、ありがとうございました」
幼女は茶々丸に乗って帰り、俺はネギ達と別れ、自分の寮へ帰った。
彼と別れ、彼女達の部屋へと帰る途中。
「ところでネギ」
「なんですかアスナさん?」
「あの人、誰?」
「エヴァンジェリンさんのお友達ですよ。今日の放課後も仲くしていました」
「ふーん」
「エヴァンジェリンさんがあの人の上に馬乗りになって──」
「って、なによそれー!?」
……なんか、俺の背中に悪寒が走ったヨ。
─あとがき─
主人公。自分のまいた種を自分で刈り取るの巻。
そして再び新しい種をまいたの巻。
自業自得。この言葉がこれほど似合う主人公も珍しい。
しかしおかしいな。ラストはちゃんと原作と同じ予定になるはずだったのに。
おかしいな。エヴァと彼はバリバリ敵対するつもりだったのに。
おかしいな。
もうインフレが原作を超えた気がするヨ。
だがもう止まらないヨ!
そうそう。このオロチ召喚で幽霊の相坂さよが影響を受けた事を心配する人もいるかもしれませんが、影響を受けたのは『召喚』された者なので、この学園に『自縛』している彼女には関係ありません。
もし影響を受けていたとしても、何事もなく次の日目を覚ましていますので問題ありません。
ひょっとするとさよを探すなんてネタになるかもですが、その際はこの文章は見なかった事に。
ちなみにカモは召喚の時本能で反射的に目をつぶって耳をふさいでいたので影響なし。
関係ないけど湖を覆う程度だとヤマタノオロチ本来のサイズよりまだ小さいですね。
もしくは橋の架かる湖が半端なく大きいとか? この可能性は盲点だたアル。