初出 2012/04/28 以後修正
─最終話─
エピローグ
──────
最後の戦いも終わった。
まず最初に語る事といえば、これだろう。
無事『造物主』のヨリシロから開放されたネギの母親ナギ。
戦いも終わったあと、彼女も無事、目を覚ました。
『お医者さんカバン』で診断した結果も、異常なしと出たので、後遺症などを心配する必要もない。
目を覚ました彼女が、ゆっくりと、その身をローブで覆って、立ち上がる。
自身の意識を持って、体の自由を認識して。
その視線の先にいるのは、娘であるネギ。
二人の視線が、絡み合う。
ネギが、瞳に涙をため、母の元へと走り出した。
それを見た俺は、そーいや麻帆良武道会だとデコピンだかで迎撃して素直に抱きしめてやってなかったなぁ。なんて思った。
だが、そんな俺の記憶とは関係なく……
「母さん!」
「ネギ!」
笑顔で抱きついたネギを、ナギかーさんはしっかりと抱きとめた。
「母さん!」
甘えるように、ネギがその母のぬくもりを感じる。
「母さん!」
強く強く、その存在を、確認する。
「母さん!」
母が、優しくその頭をなでる。
「おかぁさん!」
「うん」
母が、優しく返事を返す。
「おかあさーん!!」
抱きつき、そのぬくもりを感じ、その確かな存在を感じたネギの瞳から、溢れんばかりの涙が流れた。
今まで、ずっとずっと我慢してきたその気持ちが、ついに爆発した瞬間だった。
「よしよし」
「おかあさんー!」
嬉しさを、涙とその声に乗せて。
彼女はただ、涙を流した。
ただただ、流した……
「ふふ。こんなにでっかくなっちゃって」
ナギも、そのネギを、愛おしそうに抱きしめる。
娘のぬくもりを感じるように。
娘の存在を確かめるように……
「ネギ……」
「はい……」
涙声のネギが、答えを返す。
「ただいま……」
この言葉は正しくはないのかもしれない。
だが、この場で言うべき言葉は、これしかないと思った……
「はい! お帰りなさい!!」
「めでたしめでたしやな」
「そうですね」
その再会を見ていた少女達も、思わず涙ぐむ。
だってそうだろう。
あれほどあの少女は、母を求めてきたのだ。
そのために、魔法世界まで来たのだ。
これほど嬉しい事はない。
そして、その光景は、世界に中継されている。
感動の再会を、世界の全ての人が、涙しながら見ていた。
世界の危機をその身に封印していた英雄と、その英雄を見事助け出した、新しい英雄の再会を……
ちなみに、あの戦いの映像は、確かに中継されていたが、戦いの中では接近が難しかったため、鮮明な画像は取る事は出来なかった。
これは、全てが終わったからこそとれる映像なのである……
──────
英雄とその娘の再会。
この中継にあわせ、新オスティア総督の新しいスピーチもはじまった。
それは、世界の危機をその身に封印し、世界を守っていた英雄の伴侶の名誉を回復する演説。
メガロメセンブリア元老院によって着せられた汚名を、返上する発表。
この感動の再会に、それは最高の報告となった……
「世界を救った英雄達と、そして、その力となった皆様全員に、祝福を!!」
クルトの演説が終わる。
それが号令のようにしてはじまった、大歓声は、魔法世界を一つに包みこむほどだった。
魔法世界全ての人の力があわせる事が出来たこの日。
魔法世界は、本当に一つになったのかもしれない。
──────
世界各地でお祭り騒ぎが加速をはじめた。
今日、この日は、夜も昼も関係のない宴へと変わっただろう。
最後の戦いのあったこの地も、感動の再会は終わり、この場でのテレビ中継の方も、その役目を終えた。
ネギは泣きつかれ、ナギの膝に頭を乗せ、寝てしまっている。
その寝顔は、とてもとても幸せそうだった。
ナギも、その娘を慈愛の瞳で見下ろしながら、優しく髪を撫でつける。
他の少女達は、その邪魔をしないよう、撤退の準備を進めていた。
そのうち、新オスティア総督様が編成した出迎えの部隊がやってきてくれるらしいのでその後にあるパーティーの出席準備もしていたりもする。
ネギの魔法で体力を消費したというのに、元気な子達である。
しかし、その親子のひと時をわざわざ邪魔しに来た人影が一つ。
「ふん。貴様でも、母らしい顔くらいは出来るのだな」
腕を組んで、その姿を見下ろすのは、エヴァンジェリン。
「あ、エヴァンジェリン。久しぶり……って、なんであんたここにいるの?」
言ってナギが気づく。ここは旧オスティア。なのに、学園に封じられた彼女がここにいるはずがない。
「ふっ、貴様の登校地獄など、とっくに解除して私はもう自由の身だ。驚いたか!」
ふふんと胸を張る。
「え? あ、うん。よかったね」
あっさり。
「それだけかー!」
悔しがる顔が見れるだろうと思っていた彼女は、思わずむがーっと吼える。
「ふふ。だって、あの呪いが解けたって事は、あんたが心の底からこの世界で生きたいと願ったって事だからね」
ナギは、そう嬉しそうに微笑んだ。
かつてナギは、エヴァンジェリンを学園に縛りつけた時こう言った。
『光に生きてみなさい。そうしたらその時、呪いを解いてあげる』
と。
だがエヴァンジェリンは、それを鼻で笑う。
「残念だったな。解除条件を満たしたのではなく、貴様の魔法を無効化したのだ……って、なんて解除条件だ!」
「ありゃ、そうなの? それなのになんであんた、こんなに綺麗になってんの? だからこそって思ったんだけど」
まさに今、光の中を歩いている。そんな雰囲気を、彼女から感じ取ったから。
それほど目の前の少女は、美しくあったから。
「……貴様までそれを言うか」
ナギにそう言われ、思わず照れて視線をそらすエヴァンジェリン。
にやにやするのはそれを隠れて聞いていたラカン。
「? 私なにか変な事言った?」
見ていたラカンへ視線を送る。
「安心しろ。単にトシ食っただけだ」
せっかくなので会話に加わる二人のしんゆー。
「それは聞き捨てならないわね!」
「おめーと同じ事、俺も、アルも言ったんだよ」
HAHAHAと、ラカンは間抜けズラで笑う。
「……それは、やばいわ……」
ずーんと思いっきり、落ちこむ英雄であった。
世界樹下。
「……なんだかとても失礼な事を言われている気がします」
鼻がむずむずしたクウネルは、そうつぶやいた。
「ケケ。ソリャキットあれダ。カフンショー」
「……季節はずれですねぇ」
「……ツッコミ欲シカッタゼ」
留守番のクウネルとチャチャゼロが、そんな会話をしていた。
ちなみにこの物語は、夏休み中のお話である。
「ま、ともかくよ」
ラカンが笑う。
「ああ。ともかくだ」
エヴァンジェリンも笑う。
「「おかえり」」
二人の悪友が、ナギに向って手を伸ばした。
「……ただいま」
もう一度、親友達に向けて、その言葉をナギは返した。
「話す事は一杯あんぞ。特にエヴァンジェリン。驚け。なんと今、人間に戻ってんだ」
ラカンがにやりと笑い、言う。
「……は?」
これについては、流石のナギも目が点になる。
「勝手にばらすな。ならばラカンなどはな、拳闘大会で完敗をきっしたぞ。あとで録画を見せえてやろう」
「あ、てめぇ!」
「どうせすぐ知られる事だ。私の恋人に喧嘩を売って、秒殺されたのだからなぁ!」
「ぐあー! 思い出させるなー!」
敗北の記憶を思い出し、頭をぶんぶん振るラカン。
「恋人!? え? なにエヴァ? あんた好きな人出来たの? なにそれ。すごく聞きたい」
ぎゃーぎゃーと口げんかをはじめるラカンとエヴァ。そしてエヴァの恋人に食らいついたナギが、ぎゃーぎゃーとまた騒ぐ。
かわいそうに、ネギが少し寝苦しそうにしていた。
「おーい。そろそろ戻るよー」
そこに声をかけてくるのは、件の恋人。
こうして、盛り上がり続けたオスティア終戦祭の最終日は、最大の盛り上がりをもって、終わりを告げた。
──────
「……と、いうわけで、その後パーティーに招かれたり式典に出たりとてんやわんやでしたが、無事学校がはじまる前までに、なんとか戻ってこれました」
今日は夏休みの最終日。無事麻帆良に帰り着き、学園長に報告がてら茶をいただいております。エヴァと一緒に。
学園長も公的に色々報告は受けているんだろうけど、俺の口からも報告する義理もあるだろうから。
「いやはや、一大大冒険になりましたなぁ」
俺とエヴァと一緒にお茶を飲む学園長が、そう言ってくれた。
「なりましたねぇ」
行く時は、流れ的に、大きな事に巻きこまれるとは思っていたけど、まさかあそこまでいく事になるとは。
星どころか下手すると銀河。宇宙消滅レベルの危機だったという。
「これであちらも少しは住みやすくなったでしょう。しかしまさか、魔法世界そのものをお救いになってくるとは思ってもみませんでしたわい」
よかったよかったと、茶をすする学園長。
「そーですね」
そういえば、救ってきたのはあの時直面した危機だけじゃなかった。
もう一つ、宴会の片手間に救ってきたんだった。
それは、魔法世界そのもの。
なんでも、あの魔法世界、10年たたずに消滅してしまう危機だったのだそうだ。
そのため、フェイトは『完全なる世界』という幻想世界へ、人々を封印し、それから回避しようとしていたらしい。
つまり、彼等もあの魔法世界そのものを救う手段はなかったというわけである。
そして、あの時クルト総督が言っていたのは、こっちの危機だったのね。『造物主』と違ったのね。勘違いしちゃった。てへっ。
まあ、それはいいとして。
総督様。それにフェイトからも頼まれたようなものだから、魔法世界、救ってきた。
どうやったのかと聞かれば、正直、方法はたくさんありすぎて、目移りするほどだった。と答えられる。
いや、答えになってないけど。
ひとまず、この問題を聞いた時、ネギが提案したのは、この魔法世界のヨリシロになっている火星をテラフォーミングするのはどうか? というものだった。
この世界の崩壊の原因は、魔法世界を支える魔力の喪失。
であるから、そのヨリシロとなっている火星を命溢れる世界にかえ、それにより魔力を生み、救うというやり方だった。
時間と人の手が多くかかるが、俺の手を借りずに出来る方法らしい。
流石ネギ。俺の手を借りないという発想が素敵。
というか、魔法世界火星に重なるようにあったんだってね。ビックリだね。
原作でもそうなのかな? その事実出る前に俺こっちの世界に来たからわかんねーや。あっはっは。
ともかく……
俺のとった方法は。
まず一つ。素直に火星をテラフォーミングしてもいい。
俺がその気になれば、この案も一晩でやってのけられるし。『彼が一晩でやってくれました』とか、カッコイイよね。
他にも『魔法事典』で魔法世界再生、新生の呪文を作ってもいい。
『イメージ実体機』で魔力を生む木などを生み出してもいい。
『イメージ実体機』
人の心の中にある欲しい物のイメージを割り出し、そのイメージを分子で合成して実体化する道具。ただし1回ごとに高額な使用料がかかる(金なら『フエール銀行』でたくさんある)
『生命のネジ』で同じように模型を作って生命を与えてもいい。
『生命のねじ』(いのちのねじ)。
このねじを人形やぬいぐるみなどの無生物に対して巻くと、生命を与えることが出来る。
それが人間や動物をかたどったものならば本物と同じ生態を見せ、自動車など機械の模型であった場合は本物並みに動かせるようになる。
……というかこれ、魔法世界に突き刺せば魔法世界、幻じゃなくなるよね。
失われた魔力を復活させるだけなら、『復元光線』や『タイム風呂敷』でもいい。
魔法世界は2000年以上の歴史があるから、それだけの時間があれば、今度はこの世界の人達の手で、崩壊を止められる手段が見つけられるだろう。
他にも、考えれば溢れて出てくるほど、『道具』での手段はたくさんある。
わかりやすく結論だけを言えば、魔法世界は救われたって事だ。
ただ、魔法世界の崩壊を救ったのは、まだ公になっていない。
事態としての衝撃が大きすぎるから、少しずつ小出しにするのだそうだ。
それをいい事に、誰が救ったのかはあいまいにして、俺の名前を出すのは止めてもらった。
「おかげで、俺もう魔法世界を素顔で歩けそうにありません」
なのに俺は、もうあの世界をおおっぴらに歩けない。
「でしょうなぁ」
学園長が納得したように言ってくる。
なぜなら……
奇跡の生還を果たしたナギとネギの親子と同様に、あの時期ひっきりなしに起きたメインイベント、大暴露大会、拳闘大会。そして最後の戦いと、とんでもないイベントに立て続けに関わっていた俺は、顔も名前も売れに売れた。
おかげで『もう一人のサウザンドマスター』がマジで認知され、定着しやがった……
……そのため、その知名度は今や魔法世界でナンバーワン。大暴露大会で名前を売ったクルト総督より、元祖サウザンドマスターより、無駄に隠れていた分、その反動で……!!
世界を救うため、影で尽力した真の英雄とかいうあつかいで!
マジかよ。マジなんだよ。やめてくれよなんだよ……
せっかく魔法世界崩壊の危機救ったの黙っててもらっても意味ないんだよー。
こういうのは人知れずに去っていくのが好きなんだよ。歴史に埋もれた英雄の方がいいんだよ。知る人ぞ知るがいいんだよ。
後々面倒ないから!(本音)
ちくしょう。式典出席ノーと断ったのに、全部に映像があるからどうしようもないって、大々的に表彰までしてくれやがってあの総督様め。やっぱ後始末押しつけたの怒ってんのか……?
ちなみにこれは、地位も名誉も宝も望まず去ってゆく真の英雄の真実を、その偉業を、せめて世に正しく知ってもらい。評価してもらいたい。尊敬する王と同じ誤解はうけて欲しくないという、政治的下心すらないクルトの親切心からだったが、彼にしてみれば、頭を抱えて転がりたい親切心であった。
相変わらず悪気なき善意でダメージを受ける男である。
「まあ、こっちにいる限りは普通の中学生でいられますからいいんですがね」
ちらりと、学園長室にある俺っぽい像を見る。
そーいう事だよ学園長!
「ははは」
汗をたらりと流して学園長苦笑いした。
やっぱあれ、俺に関わるなにかなのか……あの神棚っぽいの、いや、これ以上想像するのは止めよう。
ここで俺はただの人。面倒な事ない一般人。うん。
「それでは、話題を変えましょうか。どうですかな? ウチの木乃香をよ……」
「ってそれしか変える話題がないのか貴様はー!」
「めったー!」
見事にエヴァアッパーが決まりました。
このおじーちゃんも懲りないね。
学園長が床に落下してぶすぶすいう事になったので、復活するまで待ち。
なので、時間を潰すため学園長室の窓から学園を見下ろす。
そこには、学園にやってきたネギの両親があった。
『サウザンドマスター』のナギと、かつて『災厄の魔王』とか呼ばれたというお父さんが、ネギを真ん中にして、クラスメイトの出迎えを受けている。
なんでもお父さんの方は、ナギが『造物主』との最終決戦の直前に病に倒れて死にかけたところを、仮死状態にして眠らせていたんだってさ。
そしてまた出番なのが俺。
宇宙からやってきた謎の病原体すらあっさり駆逐する未来の『道具』の出番です。
『お医者さんカバン』
本来は未来の子供がお医者さんごっこをする際の道具らしい。
昔の医者の持つカバンの形をした入れ物であり、カバン本体にレントゲンカメラや顕微鏡の機能も付属し、聴診器のような端末をあてるだけで診察が可能。
しかしその性能はとんでもなく、宇宙から来た未知のウイルスを撃退したり、人間以外の、その上未確認の動物の病も治せるなど、これがごっこレベルならば、未来の医療はどうなっているの? という治療が行える。
ちなみに、大昔コタローを治療するのに使ったのもこいつだ。
そんなわけで、あっさり治って復活しましたので、こうして麻帆良へ両親そろってやってきたのだ。
なにせ明日から新学期。ネギの方にお仕事がある。
といっても、お父さんの方はこれまた旧オスティア・ウェスペリタティア王国を(また)俺が復活させてきたので、公務とかがあるゆえ、一夜限りの親子水入らずになるのだろうけど。
まあ、オスティアが復活したから、この学園にあるというゲートも復活するようなので、その気になれば頻繁に会いに行けるらしいけど。
いざとなれば『コピーロボット』で影武者仕立ててもいいしな。
名誉が回復して、オスティアの大地も復活して、王様が『オスティア住民帰還可能宣言』を出して、国が復活する手はずになっています。
俺は手を貸す予定はないけど、まあ、隣には本物の『サウザンドマスター』がいるのだから、きっと大丈夫でしょ。
いるから不安という声もあるみたいだけど、そこまでは知らん。
さらに国として安定したらその後王制を廃止したりするとかどうとか噂を聞くけど、詳しくはオラしらね。
ちなみに、彼は知らないが、その親子の姿は、原作中にポヨ・レイニーディが見せた『完全なる世界』のレプリカである理想の夢と、同じような光景であった。
皆の知る形とは、唯一性別が違うが。
この世界において、その夢想の世界は、実現したとも言える。
そんな親子と、わいわいがやがや騒ぐエヴァのクラスメイト達を見下ろし、俺は思わずつぶやいた。
「……平和だなぁ」
「なにいきなりじじむさい事を言っている」
「いや、こういう時はやっぱりこの言葉だと思ってさ。いっぺん言ってみたかったんだよ」
振り返ってエヴァに親指立てた!
「やっぱりお前はお前か」
くすくすと、彼女が笑った。
それに釣られて、俺も笑った。
「……うむうむ。青春じゃのう」
床に突っ伏したまま、じーさんも老人らしい台詞を言った。
どうやら平和な時間が戻ってきたようだ。
──────
……と、思っていたのに。
学園長室を出た後、クウネルさんに呼ばれたので、世界樹下へほいほい行ったのがまずかった……
世界樹下。復活したゲート前。
「どうも。お手数かけます」
頭にチャチャゼロを乗せたクウネルさんが出迎えてくれた。
「どもです。なんの御用で?」
隣にエヴァを連れて、ご挨拶。
「はい。彼が話したい事があるそうですので、こちらにお呼びしました」
と、促した先には……
「やあ」
そこに、フェイトがいた。
「おや。なぜに君が?」
「明日からこの学園に赴任する事になってね」
へー。もう一人の子供先生ですか。
まあ、すでに一人いるから、この学園なら問題ないんじゃね?
「だからこそ、君と話したい事があるんだ」
「先生についてはなにも言えないぞ」
「そういう事じゃないさ」
ま、そりゃそうだろうけどね。
それならネギに聞いた方がいいだろうし、他の先生に聞いた方がいい。
とはいえ、魔法世界はもう救ったんだから、話す事も思い浮かばない。
「僕は、あの世界の人々を救う事だけが目的だった。でも、その目的は、もう消えた」
「だろうね」
そうだから、ネギは一緒に『立派な魔法使い』にならないか? と持ちかけたのだから。
「……」
「……?」
そしたら、俺をじっと見て、黙った。
「結局君は、本当にただの人なんだね」
「おう。信じてくれるか?」
今まで何度もそう主張してきたけど、誰も信じてくれなかったんだよ!
「いや、残念ながら、無理だね」
「なら言い出すなよ」
がっくり。
いや、まあ、期待はしてなかったけどさ。
「ただの人にしか見えないのに、君は魔法世界を救った。さらに『もう一人のサウザンドマスター』であり、あのネギ君の憧れの人の一人だ」
「あんがとさん」
お前さんにそこまで褒められると、なんかむずむずするな。
「だから、『僕達』はいつか、『君達』の背中を追い越してみせる。それが、僕に生まれた、新しい目標だ。それを、君に宣言したくて、ここに呼んでもらったんだ」
その言葉を発したフェイトの顔を見て、俺は思わず微笑む事になった。
あいつ、あんな顔も出来るのか……
どうやら本当に、ネギと歩むつもりなんだな。
ネギは本当に、こいつの心を動かしてしまったんだな。
それは、本当にフェイトはネギと歩むつもりだという事が伝わってきたから。
ネギと共に、『立派な魔法使い』を目指すという事が……
「それは楽しみだな。でも、俺達もそう簡単には負けないからな」
「むしろ200年早いな。精進しろ小僧」
俺とその伴侶が、そろってそのボウズへ笑いかけた。
「……そうだね。それじゃ、早速勝たせてもらおうか」
石柱ずどーん!
あぶっ! あぶなっ!
『テレカ』の最強バリア思わずはれなかったら死んでたぞ!
でっかい柱俺に直撃してたぞ!
「殺す気か!」
「死なないだろう?」
……そりゃ、ま、ね。俺が動かなくても、エヴァが助けてくれただろうし。
「その通りだ」
フェイトの背後から声がする。
その喉元に、魔力で作った刃をつきつけた、エヴァの声だ。
さらに、フェイトの手足も氷に包まれてゆく。
「チェックメイトだ」
エヴァンジェリンがそう言った直後。
「そいつはどーかな?」
エヴァのところへ降ってくるなにかがあった。
エヴァはそれを影に入ってかわし、俺の隣へ戻ってくる。
ずどーんと現れ、フェイトの氷を吹っ飛ばしたのは、ラカン。
「俺も混ぜてもらおうか!」
にっと笑った。
おいおい……
「……なぜ貴様まで」
エヴァンジェリンも苦笑している。
「私が呼びました」
そう笑顔で告げてくれたのは、ゲートの正面で魔法陣を広げるクウネルはん。
魔法世界人て現実世界に出てこれないと聞いたけど、あんたの力でなんとかしてんのネ。
正確には作り物の体に入ってるんだって。詳しい事は、しらーん!(彼が魔法世界を救った余波で、魔法世界人もそのまま外へ出てこれるようになった可能性もある)
「俺だけじゃねーぜ」
くいっと、ラカンが親指を立て、自分の背後を指差した。
そこにあるのは、俺達が入ってきたのとは別の入り口……
「にーちゃーん!」
「にんにん」
「あるアル」
姿を現すのは、ネギパーティーの女の子達。
「え、えーと、よろしくお願いします」
ぺこりと俺達に頭を下げてくる刹那君。
「せっちゃんがんばやでー」
それを応援する木乃香お嬢ちゃん。
その裏には、現れた彼女達を応援する非武闘派生徒達。
「夏休みも最後だから、挑戦だとよ」
千雨嬢ちゃんが教えてくれた。
「お二人対参加希望者だそうです」
その隣には茶々丸さん。ぺこりとこちらも頭を下げてくれたが、それだけだ。どうやら中立って事っすね。
「早い話、祭りネ」
超が最後の補足を付け加えてくれた。
うん。夏休み最後の祭りってわけね。
わかったわかった。よーくわかった。
やりたい事はな。
俺はやりたくねーが!
「へぇ。祭りの会場はここ?」
「そのようだ」
「はい」
姿を現すのは、英雄夫婦親子。
「ネギせんせーがんばってー」
「がんばるですー」
そしてそのネギを応援するノドカユエコンビ。
「ちなみに、あんた達に勝ったらなんでも願い事一つ聞いてもらえるって、本当?」
最後に顔を出した明日菜君がそんな事を言った。
初耳だよ!
「……よし。一ついう事、聞いてもらおうか」
ぎゅっ。
と俺の手をつかんだエヴァンジェリンが、にやりと笑った。
ブルータスお前もか!
「ってんな事しなくても何百個でも聞いてやるよお前のは!」
「なんだつまらん」
ぱっと手を離してくれた。
譲れないのはただ『聞く』だけだけどな!
「だがよかろう。弟子よ! これも一つの試練だ。我々に勝てたなら、本当になんでもいう事を聞いてやろう!」
ふはははははと腕を組んで笑った俺の嫁が、しっかり約束しやがった。
むしろこれ、お前が企画したんじゃねーだろうな?
「ただし、私達に負けたら当然、それ相応の代償を払う事を覚悟しておくがいい!」
わあぁぁぁぁぁ!
大賛成。圧倒的大賛成であった!
「だからそのままやめようねー」
その大歓声に、俺の言葉は、誰にも届かないようだ。
「というわけだ。一つもんでやれ」
2対たくさんだというのに、悪い子の笑いをしてマントを装備してやる気満々のうちの嫁。
こりゃもう止められねーわ。
「しかし、ホントにどこにでも居る子にしか見えないのね」
俺を見ていたナギかーさんが、素直な感想をのべる。
「回復復活系に優れているのは認めるけど」
なにせ魔法世界から国から王様までを回復させたの俺だからな!
「見た目に騙されるとイテェ目にあうぞ。俺もあった。ついでにエヴァもあったらしい」
それにラカンが答えた。
「エヴァンジェリンは私の時でもあんな落とし穴に引っかかるくらいだしねぇ。参考にならないわ」
あっはっはと昔を思い出して笑うナギ。
「あ~」
記憶を見た事あるネギも、思い出して声を上げた。
「それを持ち出すなばかもの!」
耳ざとく聞いていたエヴァが声を上げる。
「ま、事実なんだから言い返せねーわな」
思わず俺も同意してしまった。
俺が普通の子なのも、落とし穴も。
「おい。さっそくアレに一泡吹かせてやれ」
なわけだから、ナギさんを指差して、俺に一言。
「ったく。わがままなお嬢さんだ」
落とし穴を話題にして色々いじめてもいいが、今回はエヴァに味方する事にする。
そもそも、これでエヴァンジェリンを敵に回したらここにいる人全部が敵になる。
なので、仕方がないので、芸を一つ。
『四次元ポケット』から取り出しますは、一つの『道具』。
くるくるっと指にかけて回して、皆に見せる。
それは、リアサイトにマイクのついたおもちゃのような銃だった。
一見すると、短距離走でならすピストルのような。
「じゃ、いくよみんなー」
俺の言葉で、全員が一斉に構えを取る。
まるでそのピストルでの、開始の合図を待つように。
「油断すんなよ。マジでヤベェヤツだ」
向けられたラカンが、注意を促す。
「わかってるわかってる」
答えたのはナギ。
ふふ、かかったね君達。
勝負はもうはじまっているのだよ。
誰が合図をするなんて、最初から決まってないだろう?
このピストルが合図? いいや、違うね!
「ひとまず、デモンストレーション。『ラカン』マイナス『ラ』プラス『ヤ』」
次の瞬間。ラカンの姿が、『ヤカン』に変わった。
ぽん。などと軽やかな音を立て、あのラカンが、抵抗も出来ずにヤカンに変わった。
「っ!!!?」
その場にいたもの全員に、動揺が走る。
『物体変換銃』
物体を別のモノに変換する事の出来る銃。物体に銃口を向け、リアサイトに備えつけられたマイクに向って言葉遊びをする事で、その物体を別の物体に作りか得る事が出来る。
『ラカン』から『ラ』を引いて、そこに『ヤ』をたす事で『ヤカン』としたように。
効果時間は15分。経過すると自動的に元に戻る。
「くくく。問答無用だな」
俺の意図に気づいていたエヴァが笑う。
ちゃんといくよーと忠告もしたもんなー。
「つーわけだ。『ナギ』マイナス『ナ』プラス『ネ』」
「まっ!?」
不意打ちを続ける。
次の瞬間。ナギの姿が、『ネギ』に変わった。
ぽんという軽やかな音を立て、あの野菜のネギに、あっさり変わった。
「効果は15分。そしたら勝手に戻るから、安心しておくれ。あ、ちゃんと拾っておかないと危険だからヨロシク」
その言葉によって、ネギが近くに落ちたネギ化ナギと、ヤカン化ラカンを拾い上げた。
それを、近くに居たお父さん。王様に渡す。
王はそれを見て、思わず苦笑していた。
「言霊……? いや、ただの言葉遊びで、あの二人を行動不能にした……!?」
次点の最強枠であるフェイトが、一瞬にしてその存在を根本から変化させた事に、驚愕する。
昔体験した存在を別のモノと認識させる事よりさらに出鱈目な行為だ。
「……いやはや、相変わらず無茶苦茶な方ですねぇ」
クウネルも思わず感嘆する。
ラカンとナギが想定していたヤバさのさらに一段以上上の想定外を彼は行ったのだ。ゆえにあれほどあっさり不意打ちが決まった。彼女達とて、油断していたわけではない。ただ、次元が違っただけなのだ……
それほど出鱈目な行為を、彼は事も無げに行ったという事なのだ……!
ちなみに、上で王が思わず苦笑したのは、こんな事やられたら仕方がないという意味でもある。
「くっくっく。見たかナギ! 私の伴侶の実力をー!」
ドヤァ!
「なぜお前がドヤ顔する」
「お前は私のモノだから、お前が褒められれば私が褒められたのと同じだろう」
「いや、多分今聞こえてないから。わかんないけど」
でもドラえもんはドラム缶にされた時ころがされて目が回ってたっけ? まいいや。
「かまわん。他の小娘に知らしめている意味もある!」
まあ、確かにネ。
一気に最強の2角が崩れたわけだから。
明らかに、出鼻をくじかれひるんだのがわかるし。
「フェイトも『フェルト』、クウネル(アルビレオ)さんは『アルマジロ』あたりに変えちゃうから、残りの子はそっちに任せたぞ。最強の魔法使い」
一応銃口向けるから、かわされる可能性もあるけど、『相手ストッパー』使えばそれもナシに出来るし。防御は最強バリアがあるし。
ちなみにフェルトは不織布と呼ばれる、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものだ。アルマジロは説明不要じゃろ?
「任せておけ。弟子の成長くらいは確かめさせてもらうさ。こい、チャチャゼロ!」
「ケケケ。ヒサシブリだぜ」
クウネルの頭から、エヴァのところへチャチャゼロが呼ばれる(エヴァの影の転移)
「さてお前達。一つイイ事を教えてやろう。10から15というお前達の年代は、成長率が非常に高い。肉体しかり、魔力しかりな」
「い、いきなりなに?」
生徒代表明日菜が、構えたまま聞く。
「簡単に言えば、お前達は、年齢の伸び率以上に、非常によく成長して帰ってきた。という事だ。がんばったな」
それは、エヴァンジェリンから出た、素直な賞賛だった。
あのエヴァンジェリンが素直に褒めるなんて!
生徒達に一瞬嬉しい動揺が走る。
しかし……
「だが、な。それは当然。人間に戻った私にも当てはまる」
「え゛?」
直後、彼女達にとって絶望的な宣言が、エヴァから飛び出していた。
そーいえば、エヴァンジェリン人間に戻ったから、人間としての成長があるんだってよ。つまり、他の少女同様魔法世界でエヴァも成長してきたって事なんだと。
これからさらに伸びるんだと。
「という事を念頭に入れつつ、はじめようか。15分粘れれば、大人の救援が来るかもしれんぞ」
ふわりと浮かび上がり、わるそーに笑うエヴァンジェリンがおりましたとさ。
「やっぱ無謀だったかもー!!」
少女達の誰かが叫んだ。
ちなみに、敗北の代償は「私達の結婚式に必ず来る事」だった。
なんと言い出したのは金色の髪を持つ少女。びっくりである。
──────
そして新学期。
「これから、このクラスの副担任に就任するフェイト・アーウェルンクスです。よろしく」
新しい副担任が来た。
俺のクラスに、だけど。
「って、なんで俺のクラスに来るー!」
思わず立ち上がって叫んでしまった。
こういう場合って、ネギのクラスの副担任とかなんじゃねーの!?
「子供?」
「なんで?」
「はやりか?」
クラスメイトもざわつきます。
でもこの学園の子供先生は有名なので、それもあるのか。なんてクラスメイトが思うのもある意味当然。
……でもまあ、確かにひとクラス丸々子供先生って問題あるよな。
そして、フェイトが俺を見て。一言。
「嫌がらせさ」
「きっぱりゆーな!」
きっぱり言われた。
そーゆーの言っちゃダメだろ! いくら縁故採用だからって、そーゆー明らかな私的人事ダメだろー!!
※一応世界最高クラスの元危険人物を世界最強の人間に見張ってもらうという名目はあるらしい(+フェイトが彼からなにかを学びたいと考えている可能性も否定は出来ない)
「くくく……」
隣にいる、久しぶりに登場のエヴァンジェリン擬態、エド・マグダエルが笑った。
おめーも笑うな。同じような理由でここにきたくせに!
そして、『またお前か』ってな感じのクラスメイトの視線が、俺に突き刺さった。
あの綺麗どころの多い子供先生のクラスの子達とも仲が良く、一緒に騒ぎまで起こし(夏祭りなど)、その中の一人とお付き合いしているはずだというのに、それに飽き足らず、こんな男児まで!
やっぱりお前はアレなのか!? 偽装なのか!?
そんな視線が。
みんなー。誤解だよー。勘違いだよー!
だから、変な噂流したりしないでねー!
(……副担任、生徒。なのに少年。しかも三角関係……た、たまらないわ!)
毎度おなじみ担任の先生が、その光景を見て、モエモエしていた。
「ったく。このクラスももう少し静に出来んのか」
隣で楽しそうに文句を言うな!
てか、きっとネギのクラスもさぞ騒がしい事になってんだろうなぁ……
「では、新学期をはじめます!」
「はーい!」
先生の声が響き、生徒が素直に、声をあげた。
こうして、新学期がはじまった!!
──────
体育祭。クリスマス、卒業式……
この後も、語りつくせないほどの思い出を、彼と彼女は紡いでゆくだろう。
だが、この場で語れる事は、もう少ない。
それでも、出来る限りの事は、語らせてもらい、それからこの物語の幕を、引かせてもらうとしよう。
※ここからは、シーンごとに写真アルバムのページをめくるようなイメージを思い浮かべお進みください。
─VS刹那─
これは、夏休み最後の日の、あの祭りの時のお話。
フェイトを『フェルト』に変え、さらにクウネルを降参させ雑談しながらエヴァンジェリンの戦いを見ていた彼の前に、刹那が姿を現す。
「えーっと、つまり?」
「はい。お手合わせお願いします」
それは、エヴァンジェリンを相手にするのでなく、彼を相手にするため。
「言っとくけど、加減出来ないよ」
今の彼の装備は、『相手ストッパー』に『物体変換銃』である。その気になれば、最初の一つだけで、この場の全員の動きを止められてしまう。
「かまいません。私は今、この場であなたにどれだけ届くのかが知りたいのですから。追い続けた背中が、どれだけ遠いのか、はっきりと知りたいんです」
その瞳は、その背をただ追うだけの目ではなかった。
木乃香というパートナーを得て、更なる高みを目指すための、目標をはっきりと持った目だった。
「……君も、強くなったね」
彼は、思う。
身体的な事ではなく、精神的な面で、彼女は凄く強くなった。
引っ込み思案というか、悩む癖があったと思ったけど、そんな事もなく、まっすぐと物事を見ている。
おじさん、まぶしくなっちゃうなぁ……
「もっと、強くなります!」
ぐっと、強い瞳で、拳を強く握った。
「いいね、その返し。それじゃあ、少し待って。俺も、手を変える」
ポケットに『物体変換銃』をしまい、別の物を取り出す。
その間に、クウネルは『フェルト』化フェイトを回収して安全地帯へさがる。
「君だから見せる、最後の姿だ。これ以後はきっと、この姿にはならない」
(なぜなら、恥ずかしいから!)
そう言って彼が取り出したのは、一本のベルトと刀。
刀の方は、『秘剣 電光丸』。ベルトは、闇の魔法によって生まれた、『変身セット』と『決め技スーツ』が同時に装備出来る、アレである。
「まさ、か……」
「そう。最後の晴れ舞台だ。だから、君に送ろう」
彼はそう刹那に告げ、刀を地面に突き刺し、そのベルトを腰にあて、こう宣言した。
「装、着!!」
最後の宇宙刑事の戦い。それは、最初の宇宙刑事の弟子との戦いだった……
ちなみにその後、闇のベルトは、白いベルトとなって、弟子の手に渡る。
宇宙を守る戦士ではなく、一人の少女を守る、立派な魔法使いを守る白い剣士として、ベルトは闇の魔法を抜かれ、まったく新しい『道具』へ生まれ変わる。
─アクニン─
お祭り騒ぎのバトルも終わり、エヴァンジェリンと俺の勝利は確定した。
刹那君をなんとか倒して、全員をひれ伏させたエヴァのところへ合流する。
「ずいぶん手加減していたな」
「いえいえ。彼女が強かったって事ですよ」
「そうしておこう」
「……」
その時、俺はふと思った。
今装着しているのは、『決め技スーツ』の力も持っている。
大昔、俺が銀行強盗を退治する時に使ったあの必殺技も、今だ残されているはずだと……
今、使ったら一体どうなるんだろう?
それは、ちょっとした好奇心だった。
だから、俺は迷わず、その必殺技を使用した。
「ジャスティスボンバー!」
勝者二人の立つその場に、突然そんな言葉が湧き上がった。
しーん。
発動の手ごたえは確かに感じた。
しかし、なにも起こらない。
周囲の子達は、何事かと俺を見るが、俺は逆に、その結果に満足して、うんうんとうなずきながら、その装着を解除した。
「な、なんだいきなり……」
一度それに吹っ飛ばされた経験のあるエヴァは、思わず身構え、困惑していた。
「……いいや気にするな」
だが俺は、なんだかとっても嬉しくなって、エヴァンジェリンの頭を撫でた。撫でまわした。
なでなでした!!
「ちょっ、こら! やめろ! やめろー!」
もう嬉しくて嬉しくて、撫でくりまわした!
周囲で俺達を見る人は、その理由はさっぱりわからないだろう。
わかるとすれば、俺がものすごく上機嫌であるという事。
それだけだ……
『ジャスティスボンバー』
俺が第8話で作った必殺技。効果:悪人は爆発と共に車田飛びで吹っ飛びます。
そして、この場で爆発した人はいなかった。
これほど嬉しい事は、ないだろう?
ちなみに撫で回しすぎて、俺も張り倒されて、その場に立つのはエヴァンジェリンだけになったとさ。
その後の勝利宣言後に出た代償の話は、驚かされたなぁ。
補足:フェイトはその時『フェルト』なので必殺対象外でした。
─ライバル─
新学期。
ネギのクラス。
「あら」
「……む」
教室の後ろにある扉をくぐったところ。
クラスで当然顔をあわせる事となる千鶴とエヴァンジェリン(コピーだけど)
「おはようございます」
「ああ」
にっこりと、いつもの通り微笑んでくる千鶴の姿。
それを見て、エヴァンジェリン本体の意識が、思わず声をかけた。
「はい?」
「一つ言っておこう。私とアイツの間は、もう決して揺らぐ事はない。それでも、お前はアイツを想い続けるのか?」
「はい」
彼女は、その質問に、堂々と、またはっきりと、答えた。
「……お前は、その位置にいて、辛くはないのか?」
エヴァンジェリンはもう、確信している。
彼の心が、他の誰かになびくような事はないと。
なにがあっても、自分以外を愛さないと。
それゆえ生まれたのは、その彼を強く想う、少女への心配……
このままでは、彼女は不幸になるだけではないのか? そう思ったのだ。
だが、その想像を斜めに超えた答えが、彼女から返ってきた。
「ありませんよ。だって、大好きな人達が幸せになるのって、こっちまで幸せになるじゃないですか」
「は?」
「この位置にいれば、私はいつでもその幸せをわけてもらえます。あの人が私にその瞳を注がないのは、少し寂しいですけど、その瞳を注ぐエヴァンジェリンさんを見るのは、とても幸せな事です」
そんな寂しさ、お二人の幸せの姿を見れば、すぐ吹き飛んでしまいます。
そう、彼女は慈愛の笑みを浮かべながら、言った。
「それに、お二人の間にもう隙間はありませんけど、お二人の後ろや、その近くは空いていますよね」
「お前……」
「私は思うんです。お二人が幸せなら、私も幸せ。『三人で』幸せになれれば、素敵だなって」
にこにこと微笑む、その千鶴の顔に、迷いなどはなかった。
目の前の人を祝福し、さらに、自分の幸せが、そうだと確信している。
「それに、こういう位置に、油断のならない人がいると、簡単には怠けられませんよね?」
それは、彼女なりの応援なのだと、エヴァンジェリンは、気づいた。
彼の幸せがなんなのかを考えた時、それは、エヴァンジェリンが、彼を笑顔にしている事だと、答えに出したのだ。
そのために、自分は泥をかぶっても良いと考えているのだ。
……この娘は、強いな。
だが、少し強すぎる。諦めるという事を知れば、楽になるというものを……
決して届かぬその想いを持ち続けるその姿を哀れに思う者もいるだろう。
決して諦めぬその心を、醜いと感じる者もいるだろう。
しかし私は、そんな彼女を、美しいと思う。
それも、彼女の選ぶ、一つの幸せなのだから。
これもまた、一つの愛の形なのだから。
「言っておくが、同情して一日貸すなどという事は絶対にありえんからな。それは心しておけ」
「はい。こちらも、お二人が少しでも揺らいだのなら、奪ってしまいますからね?」
「ふふ」
「うふふ」
教室の裏で、二人の笑い声が、こだました。
「……またやってますわ」
「ちづ姉も、すごいねー」
しかしその二人の間には、今まで見えた絶対零度の空間ではなく、どこか張り詰めているが、どこか温かい、そんな空間だった。
─クラスメイト─
ライバル直後。
「……ふむ。私、エバちゃん応援する!」
ふんと、鼻息を荒く宣言したのは、チア部の一人、椎名桜子。
「え? いきなりなにそれ!?」
同チア部、釘宮円が聞き返した。
「なんか面白そうだから!」
あとチア部だから!
「じゃあ私は、那波さん!」
同じくチア部、柿崎美砂が千鶴の応援を名乗り出る!
「……なら私は中立ー。二人共応援する!」
最後はチア部の残り、釘宮円。
「なっ!? いきなりなにを言い出すお前達!」
エヴァンジェリンが、いきなりわいた三人組に、驚く。
「なになにエヴァちゃんまた彼氏の取り合いー? ひゅーひゅー」
朝倉&パルが、冷やかしにやってきた。
「せっかくだから、あんたらの事マンガにしていーい?」
「もう、なにをおっしゃってるのですか皆さん! それならばネギ先生をエントリーさせなさーい!」
くわっといいんちょこと雪広あやかが吼えた。
「なんでそこでネギせんせいー!」
千雨がつっこんだ。
「あ、エヴァちゃーん。(魔法の事で)質問あるんやけど、ええー?」
「なぜこのタイミングでそれを聞きにくる近衛木乃香!」
いつもはこのかと呼ぶが、同じように集まってくる人が多いので、同じくフルネーム呼びになってしまったエヴァである。
「あ、じゃあ私もついでに、エヴァちゃーん。今日の予定なんだけどー」
明日菜までやってきた。
「あ、私も(魔法関連の事で)いいですか?」
ユエまで。
「私もー」
ノドカも。
わらわらわら。
「ええい、一度に話しかけるなー!」
「あらあら」
この状況を、楽しそうに笑う、千鶴であった。
なんだかんだいって、彼女達とこうして話す機会が増えた気がする……
─進路相談─
三者面談。
それは、生徒と保護者で、教師と面談し、その子の進路や将来を考える集まりである。
「それで、ウチのエヴァンジェリンはどうなんでしょうネギ先生?」
そこに保護者として現れたのは、当然俺ぇ!
「ってなんでお前が来ている!」
「なんでって、まだ正式じゃないけど、俺等はもう家族同然だろ? 将来一緒に考えるような仲だろ? ならアリだろ!」
「っぐ……」
その言葉に、少女はもう反論する事が出来ない。
(その言葉は、反則だろう……)
──今の彼女に、彼の言葉を否定する事が出来ようか? それは、否である。
さらに、それをこうも堂々と言ってくれるのは、その関係をしっかりと実感する事が出来、嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
「わ、私はただ、お前が保護者というカテゴリに入るのが気に入らないだけだ。お前のどこが保護者だ」
「それに関してはなんとも返答出来ないな。でもよ、こうゆう風に学生生活満喫しているのも、いいだろ?」
制服姿のままで、確かに保護者には見えないわな。
なんなら大人の姿のがよかったか?
「そういう意味ではない。まったく、しかたないな」
以心伝心が決まって、ため息つかれました。
どうやらこれでOKのようです。
「とゆーわけで、ネギ先生。こいつの進路の第一志望はどうなっていますのん?」
「あ、はい。第一志望は、残念ながら、進学なんです」
進路志望用紙を見たネギが、そう言う。
「それは残念だなぁ」
「残念ですよねぇ」
俺はネギと一緒に、思わずため息をついた。
「なにが残念だ。ここはエスカレーター式なのだから当然だろう」
麻帆良学園は、大学までそろった学校なので、当然そのまま高校へという選択がとれる。
「うんうん。お前が卒業して高校へいけるのは凄くいい事だと思う」
なにせ、15年間中学生を繰り返してきたのだ。
だが、今年はそうではなく、クラスメイトと一緒に卒業して、進学出来るのだから。
「はい」
ネギも、その点に関しては、素直にイエスと言ってくれた。
「でもさ、ここはさ、やっぱりさ」
「はい!」
しかし、俺のその言葉にも、大きくイエスと答えてくれた。
「俺の嫁とか花嫁さんとか書いておくべきじゃないかな!?」
教室の後ろの方に頭から煙をふいて放置された俺が居ます。
「ったく。あほ。このあほ」
赤面したエヴァンジェリンが席に居た。
「あはは」
進路表を持ったネギが苦笑する。
「まあ、そういうわけだ。ひとまず私は、このまま進学する。文句はないな?」
「ありません。そうですよね。花嫁さんは、高校に入ってから書く進路ですもんね!」
「お前もそれを言うか弟子よ……」
「だって、それ以外の第一志望、あるんですか? マスター」
担任の先生が、にっこりと微笑んだ。
「……ふん」
その微笑みに耐え切れず、少女は明後日の方を向いた。
その少女の少し照れた表情は、大変美しかったといいます。
ちなみに高校時代、進路希望調査で勝手に『俺の嫁』と書いたら怒られました。
でも、そのまま提出してくれました。まる。
─進路相談2─
エヴァの進路相談も終わったあと。
その日ラストとなる次の子が来るまで時間が余ったので、帰る前に一つ思った事を聞いてみた。
「ところでさ、ネギ」
「はい?」
「お前の進路って、どうなってんの?」
「はい?」
「いや、この三年が卒業したら、どーなるのかなーと思って。今度は1年を担任するのか? それとも、別の修行とか?」
「そうですね。どうなるんでしょうね?」
あはは。と笑い。
「このあたりは学園からの辞令を待たないとなんとも言えませんから」
そう答えてくれた。
「あー。つまり、まだしばらくは学園の方にいるって事か」
そのまま先生続けるって事か。
「はい。修行の期間もありますから、あと3年くらいはいる事になるかと」
「へー」
……ははーん。これは、明日菜君達が高校卒業するまでいる事になるなこの子。
俺の勘がそう告げている。
そして、高校の英語担当とかもやらされると見た!
つーか……
初期設定の先生をやれという命令で、一つ思った事があった。
「……てかさ、その『先生』。家庭教師とか、塾の先生みたいな先生じゃダメなの?」
というかどういう縛りがあるの?
「え? 修行の内容は、『日本で先生をやること』なので、そう大きな縛りはないかと思いますけど。ここも、おじいちゃん。あ、魔法学校の校長先生が口を利いてくれたので」
つまり、日本でならどこでどんな先生でもよかった。という事だよな。
学校で英語で担任でなくても良かったって事だよな。
「ふーん。ならさ、来年度は家庭教師とかの先生になってさ、学校は生徒として通ったら?」
それは、俺の、本当にテキトーに言った一言だった。
「え?」
「絶対の縛りがないなら、それもアリかと思ってさ。それも一応『先生』だし。いや、勝手な言い分だよ。本当にいいのかわからないし」
「……」
あ、なんかちょっとマジで考えはじめちゃったよこの子。
いまさらジョーダンよー。テキトーよー。とか言えないよ。
「……うん。いいかもしれません」
「え?」
「それは、想像もしていませんでした。そうですね。そういう考えもあったんですね。目から鱗が落ちた気分です。ありがとうございます!」
ものすごい目をきらきらさせて、そのまま立ち上がり、俺に頭を下げて、ネギはヨロコビ勇んでその場から去っていった。
「えーっと……」
思わず引きとめようとあげた右手が、凄く手持ちぶたさんです。
「お前、またあの小娘に大きな影響を与えたな……」
そう、隣で黙っていたエヴァンジェリンが、苦笑してました。
「いや、ちょっとした疑問だったんだよ。ちょっとした思い付きだったんだよ」
「万一クラスメイトにでもなった日には、覚えておけよ?」
飛び級で高校生とか、うん。ありえるね。先生より難易度低そう。
「覚えておくけど責任はとらねーよ。それはネギが言い出すわがままなんだから。あいつがそんな事言うの、多分はじめてだろ。広い心で許してやれって」
やれやれと、ネギを引きとめようと伸ばしていた右手で髪をかきあげる。
「それはさ、お前達、今のクラスの子と離れたくないって事でもあるんだからさ。あいつまだ10歳なんだぜ」
「ふん。子供には甘い事だな」
「滅多に甘えない子が甘えるんだ。甘くもなるだろ。といっても、決めるのは俺じゃないけどな」
『道具』を使えばそりゃなんとでもなるけど、流石にそれはやりたくないし。
「……お前以上に甘い大人がそろっているからな、ここ」
エヴァがため息をつきつつ苦笑する。
「まったくだ」
「……というかさ、私の面談、どうなるわけ?」
エヴァの次で、ラストとなるはずだった明日菜君が、ドアが開いたままになっていた、担任のいない教室を覗きこんで、そんな事を言った。
どうやら今ついたらしい。
「あ、君が最後だったんだ。まあ、どーせ君もこのまま進学なんだから、いいんじゃね?」
「そりゃそーだけどさ……」
「いや、進学出来るのか怪しいのかもしれんな」
エヴァが真相をズバリ!
「エスカレーター式で進学出来ないって、どんだけだよ」
「だが、あの神楽坂明日菜ならば、ありえない事もない」
俺も思わず納得!
「んなわけないでしょうがー!」
夕日がさしこむ教室に、俺達の笑い声が響いた。
みんなで進学、出来るといいな!
どうなったのかは、ご想像にお任せします。
ただ、一つだけ補足しておくと、ネギはあのあとすぐ戻ってきました。
─正月─
あけましておめでとうございます。
なんだか実家の方で父方のおばあちゃんが足をひねったとかで入院した上、母方のおじいちゃんもぎっくり腰になったなんてアクシデントが重なり、もう、ごたごたしているので今年は帰って来なくて大丈夫だからと言われました。
何度も大丈夫? と心配されてきたけど、今はもう、逆にこう言われるくらいの信頼は得られているようで、安心でもある。
やはり、彼女を連れ帰ったのが大きかったか……!
俺が帰れば一発治療可能なんだけど、さすがに命に関わるわけでもないのをホイホイ治すのは良くないという事で自重。
というわけで、年末年始も麻帆良にいる事となりました。
なので、コタツを囲んでエヴァんちです。
「つーわけで、初詣、行かない?」
みかんを食べながら、そう提案してみる。
なんせこの学園、敷地の中に神社まであるから。
「寒くて出かけたくない」
コタツで丸まるエヴァがノーと答えた。
氷の魔法使いの癖に!
「行こうぜー」
「……しかたがないな。では、行くか」
「わーい」
よろこびいさんでコタツから出ようとしたら、エヴァはそのまま。コタツに入ったまま……
ぱんぱんと、俺に拍手を打った。
「今年も良い年でありますように」
「アリマスヨーニ」
チャチャゼロまで!
「お願いいたします」
茶々丸さんまでー!?
「なんで俺を拝むの!?」
「私はお前以上の『神』を知らないからな」
「なにそれー」
やめてえぇぇ! そういう扱い、やめてえぇぇぇ!!
「ちなみに、あのじじ……」
「やめてー! 聞きたくない。そういうの聞きたくない!」
学園長がそんな感じで見てるとか、気づきたくないカラー!
世の中知らない方が、気づかない方が幸せな事、あるんだカラー!!
「だから、お前以下の『神』のところへ詣でに行くつもりもない」
まいったか!
といった感じで笑われた。
くそー、お前ワザとやってんな。
外に出たくないからって、ワザとやってんな! 俺をいじめているな!
「いぎありー。甘酒とか飲みに行こうぜー。屋台回ろうぜー。おみくじひこうぜー」
振袖とかどーかなー? 見たいなー。
「最大の敵はこの寒さだな……むしろ、コタツ、最高だ……」
ああもう、こたつむりになった(頭残して首まですっぽり入る事)
そして茶々丸さんがそんなエヴァを見てなぜか大興奮してる!
ちくしょう。コタツに負けたー!
だが、対人類用究極暖房決戦兵器であるこたつが相手ならば、しかたがないっ!
しゃーないからこたつむり、みかんで餌付けしてやろっと。
「どーぞ」
「うむ。悪くない」
「あけおめー!」
明日菜君がやってきた。
「なんだ神楽坂明日菜か。なにをしにきた」(エヴァ)
「あけおめ」(俺)
「だってみんな帰省しちゃってるんだもん。ネギも今あっちにいるし。このかと刹那さんも実家に戻っちゃったんだからいいじゃない……って、なんてカッコしてるのよ」
こたつむり状態のエヴァを見て最後にそんな事を言う。
「世の至宝だ。それ以外の文句は言わせん」
「餌付けする?」
みかんを差し出す。
「んーん。いいから入れてー」
さむさむとコタツに足をいれる明日菜君。
「足じゃまー」
「うるさい」
「エヴァンジェリンいるかネー?」
エヴァと明日菜君が居場所争いしていると、今度はそんな声。
「超鈴音か」
「そーいや君も麻帆良居残り組だっけ」
なんせ実家ははるか未来だ。
「エヴァちゃんいるー!? あけましてー!」
「あけましてー!」
続々やってくるエヴァのクラスメイト。
「お前、人気者だな」
「……」
あ、こたつむりがカラにこもった。
「皆さんあけましておめでとうございます」
茶々丸さんがぺこりとみんなに挨拶しておりました。
今年もいい一年になりそうだ。
ちなみに、明日菜はあくまで『神楽坂明日菜』なので、ワザワザ魔法世界へ顔出しに行ってません。親子水入らずを邪魔しないという意味もあるし、大人達のした事の意義もくんでいるという事で。
─バレンタイン─
2月。
あー、豆うめー。
大豆ってすげぇよなー。
「ダンナダンナ!」
「あ、カモじゃん。いたんだ」
「いたっすよー! ずっといたっすよー!」
今日はなぜかエヴァが一人で家に帰っちゃったので、俺は一人でぼーっとしていたのだ。
そしたらおこじょが声をかけてきたのだ!
「ところで、いくつくらいダンナはもらえますかね?」
「え? なにが?」
あー、豆ウメー。
「だから、チョコですよ。チョコ。えへへ」
「なんで?」
「なんでって、ダンナ本気で言ってるんですか?」
なんかあきれられてしまった。
「なにがよ?」
「二月ですよ。14日! ほら、あるでしょ!」
「馬鹿だなーカモはー。二月はなー、節分しかなーイベントないんだぞー。基本28日までしかないしなー」
まめうめー。
「……本気で言ってるんすか?」
「ほかになにか?」
「だって、バレンタインですぜ、バレンタイン!」
「……」
俺の動きが止まる。
なんだ、おかしい。頭が痛い……!
われるようにいたいといいな!
記憶喪失したいな!
「ダンナー?」
「はいはい。わかってますよ。バレンタインでしょ。ヴァレンティヌスさんが処刑された日ですよ! それ以外ないよ! チョコレートなんてしらねーよ! でも甘いのは大好きだよ!」
「ダンナ、なんで現実逃避してるんすか? ダンナなら確実にもらえるはずなのに……」
「……」
「?」
「……はっ! 本当だ!」
思わず大声。
びくぅ。
カモびっくりする。
「そういえば今俺は、もらえる可能性を持った素敵男子だった!」
エヴァンジェリンという恋人がいたんだった!
衝撃の事実だった!
「どーりでここ数日、クラスメイトの視線が厳しいわけだ……」
「……なんで忘れてるんすか……」
「いや、記憶喪失。うん。それ」
「それ、その体の元の持ち主の記憶が。って事だったって聞いてますぜ。しかも一年近く前のネタじゃねーっすか」
「……」
だって、チョコなんて、家族か仕事の付き合いかネタでしかもらった事ねーし……
「それいくつか本命あったと思うっすよ」
「マジで!?」
「マジっす」
「マジでー?」
「マジだと思いますぜー」
「ま、それは置いといて」
過ぎた過去にこだわっても仕方がない。
今は未来を見て生きるしかないのだから!
なにせ今年は、そんな不確かなモノではないのだから!
「こんなにバレンタインが楽しみなのは生まれて初めてだ!」
「ダンナが生き生きしてきた!」
「大豆食ってる場合じゃねぇ! 今から腹をすかせておかないと! DANJIKIしないと!」
「ダンナが壊れたー!」
ちなみに、エヴァンジェリンのチョコは手作りで、形がちょっと不細工で、色々ダメだったけど、最高にオイシかったとお伝えしておく。
だってエヴァが自分で手作りで俺の為に作ってくれたんだから!
「ただ、味は来年に期待」
「きっぱりと言ってくれるなお前!」
そーだよな。当然ながら、今までこんな乙女イベント参加した事なんてねーもんな。
今回は多分、みんなに黙って一人で作ったんだろうと俺は分析する。
「むしろ徐々においしくなっていくと考えれば、最高の出だし。この変化を味わえるなんて、俺は幸せ者以外にない!」
これは、俺にしか味わえない特権!
だから、このチョコは、最高にオイシイ!!
その味も、出来事としても!
「だから、きっちり全部食べてもいいかな?」
「ばっ……ばか」
いつもの通り、目をそらされて言われました。
いただきましたー!
その表情が一番のご褒美です。
まったく。せっかく私が作ったものの感想が、来年に期待とは。
だが、そう言いつつも、きちんと全部食べてくれるのは、嫌いではない。
逆に、愛を感じてしまうのは惚れた弱みか。
まあ、下手に世辞を言われても、しかたがないしな。
あのくらい直球の方が我々らしい。
来年は覚えておけ。今年よりももっと美味しいチョコを食べさせてやる。再来年も、その先もだ!
──────
そして……
彼と彼女の物語には、他にも多くの騒動があるだろう。
だが、それを語る時間も、もう終わり。
最後は、このワンシーンと、この言葉をもって、ひとまずこの物語の幕を引かせてもらうとしよう。
高校の卒業式。
その卒業証書をもらったその足で、その式は行われた。
卒業の祝いと共に開かれた、もう一つの式。
一組の結婚式。
卒業と共に、彼と彼女は、本当の家族となる。
共に卒業した、クラスメイト達。
はるか未来へ戻り、無事地球を取り戻した事の報告もかね、再びこの地に舞い降りた元クラスメイト。
さらには、あの日約束を代償とされた彼女の友人までもかけつけ、大勢の人々が、彼女達を祝福する。
その先には、真っ白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁と、花婿がいた。
その学園にある教会で。
真っ赤なバージンロードを歩き。
その指輪の交換も終わり……
「誓いのキスを」
二人の視線が絡み合う。
『……本当に、あと二年待たず、いいのか?』
『いいんだよ。約束は高校卒業まで。ルールでももう結婚していいんだ。じゃなきゃ、18の誕生日にあんな派手なプロポーズしねーよ』
『受けに行かされたのは私だがな』
『アレは俺のせいじゃない。学園祭の時期に重なったのが悪い』
絡み合った視線だけで、花嫁と花婿が会話をする。
以心伝心。魔法も、『道具』も使わずとも、心が目と目だけで通じ合う。
ちなみに、プロポーズを決めた花婿は、今の花嫁の保護者ともいえる学園長に相談しに行った。その結果、なぜか色々聞き耳を立てていた学園祭スポンサーとなる雪広家のお嬢さんとかその他大勢が飛びこんできて、ソレは学園祭の一大イベントと変化してしまったのである。
プロポーズを受けたければ用意されたある場所まで邪魔をくぐりぬけ行け! と、なぜかプロポーズを受けるはずのお姫様が、城の最上階で待つ王子様のところへ向うという謎の趣向になっていたが。
当然。そのラスボスは、あの子。まさにそれは、彼女にとって真のラスボスであった。
『それに、俺の我慢をぶち壊すほど、綺麗になったお前が悪いんだよ』
『人のせいにするな……』
『じゃあ、あと二年待つか?』
『……今すぐ幸せにしろ』
『もちろんさ』
凛々しく成長した少年の視線に、美しく成長した少女がにこりと笑い、答える。
「だから、お前を一生大切にする。幸せにする。愛しているよ、エヴァンジェリン」
花婿と花嫁の唇が、重なった。
それは、初めての、花婿からのキス……
ずっとずっと少女が待ち続けた、待望の瞬間……
思い出す。
出会いは、最悪だった。
出会ってすぐ喧嘩をして、殺し合いとまで言って挑み、逆に初めての完全敗北を味わった……
その仕返しの為に、その傍へと近づいたが、そこから、逆に惹かれていった。
いつからだろう? 気づけば目で追うようになっていたのは。
いつからだろう? 好きになっていたのは。
気づいたのは、彼がはじめて闇に囚われそうになった時か……
それからは、彼の一挙手一投足にドキドキさせられた。
学園祭での鉄人兵団。死をかけた戦い。だがそれを乗りこえ、想いは通じた。
闇の道から、救い出され、私は人間へと戻った。
魔法世界での出来事。
そこで私は、過去からの全ての業を取り祓われ、本当の意味で、一人の少女として生まれ変わった……
絶体絶命の私を、命をかけてまで助けに来てくれた……
さらにその後、姿を現した世界を破壊する存在により、彼は世界に存在する因果すら消され、消滅した。
それでも、私は彼をこの世界へ呼び戻し、結果、私達は世界を救った。
いや、救ったのは、私達の絆。世界など、おまけにすぎない。
それからも、小さな事で一喜一憂し、訪れた、この、今日という時間。
待ちに待った、この瞬間……
私の体を、幸せが包む。
唇から生まれた熱は、脳を駆け抜け、全ての先まで駆け抜ける。
今まで何度か自分からしては来たが、これほどまで甘美なものだったか?
今までしてきたものとは一線を画している。これほどまでに幸せなキスははじめてだ……
光に包まれたかと思うその体は、天にものぼる心地だった。
それは、今までで感じた事もない、幸せと、喜びと、温かさだった。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい!
この時私は、世界で一番。いや、宇宙で一番、幸せな花嫁だったに違いない。
祝福の鐘がなる。
流れる歌声。
祝福する、彼等の友人達。
手を取り合い、新たなる一歩を踏み出す、花婿と花嫁。
外は、透き通るような青空。
さえぎるものなどなにもなく、空の果てまで見通せるようだった。
それは、まるで世界すら祝福しているかのようだった……
祝福の嵐が吹き荒れ、花嫁がブーケを空に投げる。
さえぎるものなどなにもない青空に、ブーケが舞った……
こうしてエヴァンジェリンは、末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
おしまいっ!
─あとがき─
これで、終わりだあぁぁぁぁぁぁぁ!
これ以上の言葉はありません!
完結なのです!
正直、第1部終わった後に、後日談を書いてなくて本当に良かった。
アレ書いてたら、多分この第2部はなかった。危なかった!
いや、ある意味この第2部すべてがその後日談そのものですけど!
まさに全編第1部のエピローグですけど!
でもそれでいいんです! だって、どれだけ話が進んでも、この物語のおしまいは、彼女は末永く幸せに暮らしましたとさ。でしめくくられるという事ですから!
最後は新学期開始のところや卒業式でしめてもよかったのですが、この二人の場合、最後はやっぱり結婚式だよね。という事で、ちょっと時間をすっとばして結婚式でしめさせてもらいました。
いかがだったでしょう!?
書いた自分も楽しんで、さらに読んでくれた人も楽しめたのなら、最高だと思います。
皆様、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
─おまけ─
大人の階段登った次の朝。
新婚旅行先のレストラン。
「……」
「……」
その二人の雰囲気は、なぜか異様に暗かった。
新婚でかつ、先日初夜を迎えたばかりだというのに、二人ともテーブルについても、互いの顔も見ず、ずーんと落ちこんでいるように見えた……
互いが互いを無視するかのように。
まるで、険悪であるかのような雰囲気が、そこには漂っていた……
二人同時にため息をつき、同じタイミングで、顔を上げる。
顔を上げたところで、二人の目が合った。
次の瞬間……
ぼん!
なんて音を立てたかのように、二人の顔は真っ赤になった。
二人はあわてて、その視線を相手から外す。
い、いかん。あいつの顔がマトモに見れん。
だ、だめだ。エヴァの顔がまともに見れない。
顔を見ると、昨日の事を思い出す。
どうしても、意識してしまう。
今までそんな事はなかったのに、昨日の今日だからか、異様に意識してしまう!
だから、顔もマトモに見れない!
異様に暗かったように見えたのは、二人が二人で相手を意識しないようにしていたからだった。
実際は、ものすごく意識しすぎていたために、雰囲気が悪かったように見えただけだった!
心も体も。なにもかもが繋がった二人は、その新しい視界に、その姿を捕えただけで、互いを意識してしまうのだ!
「あ、あの……」
「な、なんだ……?」
「いや、その……」
「なんだ、うぅ……」
顔を見合わせ、まるでおつきあいはじめたばかりのカップルであるかのように赤面し、テーブルに視線を落とす。
ほてった頭を冷やすため、エヴァンジェリンが水の入ったコップへ手を伸ばした。
だが、すでに空となっていたそれは、触れられただけで、倒れる。
転がるコップを二人が止めようとする。
二人の手が同時にコップへ伸び。
そのせいで、二人の手が触れる。
「ふゃ!?」
「うぉっ!?」
思わず二人とも、手を引く。
ダメだダメだダメだ! 触れられただけで……
やばいやばいやばい! 触っただけで……
昨日を思い出し、二人はまた、赤面した……
今まで気にも留めなかった、互いの『肉』の部分に、目が行ってしまう。
その指先が、その肩の動きが、その表情が、唇が。昨日までと、まったく違うものに見えた。
男が席を外す。
朝食はバイキングなので、水の代わりをとってこようというのだ。
少し離れた通路に入り、男は壁に腕を置いて、そこに頭を乗せる。
……いかんだろ。
マジでいかんだろ……
なんだ? 嫁が異常にかわいく見える。
いや、前からかわいかったのは確かだ。
だが、今日はそれ以上にかわいい。かわいいだけじゃなくて、それ以上に、なんというか……
昨日の情事を思い出し……
ぶふぅ!
くっ、原因はわかっているさ! 知ったらさらに意識したってだけだ! でもな……!
席で待つエヴァンジェリンの方を見る。
そのたたずまいは、まるで月から舞い降りた女神のようだった。
すると、目が合った。
次の瞬間。体温が急上昇するのがわかる。
むこうも真っ赤になったのがわかった。
いかん。すぐにでも抱きしめたい。だが、そう思った瞬間に、別の映像が頭の中に再生される。
いかーん!
彼が席を外した。
正直言えば、助かったというのが本音だ。
まずい……
非常にまずい……
テーブルに肘を置いて、頭を抱える。
なんだ……? あいつが、異様にかっこよく見える。
いや、そんな事、前からわかっていた事だ。
だが、今日はそれ以上にかっこいい。いや、それだけじゃなくてそれ以上に、たくましいというか……
昨日の情事を思い出す。
ぶふぅ!
くっ……原因はわかっている。知ったらさらに意識してしまっただけだ! だがな……!
向こうへ行った夫の方を見る。
その立ち姿はまるで、輝く太陽の神のようであった。
すると、目が合った。
次の瞬間。体温が急上昇するのがわかる。
むこうも真っ赤になったのがわかった。
ダメだ! 意識するな! 意識をしては……そう思った瞬間。別の映像が頭の中に再生された。
だから意識するなとー!
気づけば、その人を目で追っている。
無意識で、求めてしまっている。
しかし、その人が視界に入ると、心臓の早鐘が、とまらない。
その姿を見るだけで、幸せすぎて、なにかが爆発してしまいそうだった……
より好きになったその気持ちを抑えねば、その場で暴走してしまいそうだった……!
周囲の心配をよそに、すでに長い時間連れ添ったはずの新婚カップルが、二人して悶えていた。
なんというか、一周まわりきって、最初に戻ってきたかのようだった。
その後彼は友人に「嫁がかわいすぎて直視出来ない」と電話して、爆発しろと言われていた。
当然彼女も、友に「夫がかっこよすぎて直視出来ん」と電話して、同じように爆発しろと言われていた。
なんなんだほんとに。爆発しろ。天の声も思わずそう言わざるをえなかった。
きっとこの二人は、この後も手を繋ぐだけでまた新たにドキドキしたり、さらに子をなしたとか、しゃべった立った、歩いた入学したなど、様々な事で一喜一憂し、そのつどイチャイチャして愛を確かめ合い、いつまでたってもラブラブで、幸せな一生を送る事でしょう。
めでたしめでたしのめでたし。
今度こそ、ホントのホントにおしまいっ!