初出 2012/03/29 以後修正
─第29話─
ラカン登場!
──────
ハロー。こっちはネギと一緒に歩いてる俺だよ。そう俺俺。
あの水場から数日。
なんとか人里へやってきてみれば、案の定国際指名手配を受けていました。
町に入る前に可能性は示唆しておいたので、ああやっぱり。程度の衝撃だったのが幸いか。
ただ、原作どおり全世界ゲート破壊が起きたものの、賞金首の主犯はエヴァンジェリン。ネギ達はその共犯(手下)という形で、賞金がついていた。
ネギの賞金が20万で、エヴァが記録更新の700万の上、伝説復活だから、インパクトのレベルでは霞みすぎているが。
そして、俺は指名手配されていない。
これはやっぱり、映像を捏造した奴等。……フェイト側と俺のアレに関係があったから。なのだろう。
やっぱり、あの時俺の体を操ったのは、予想通り『造物主』だと考えるのが妥当か……
「……あれ?」
「どうしました?」
路地裏に隠れ、賞金首のリストを見ていて気づく。
「これ、あのゲートに居た全員じゃないな」
俺とエヴァを除いた、『白き翼』のメンバーは15名。
その半分以上には賞金がかけられていなかった。
具体的には、超、千雨、朝倉、ユエ、ノドカ、パル、木乃香、茶々丸。さらに幽霊のさよの9名。
ちなみに残り(賞金首)はネギ、コタロー、明日菜、刹那、クー、楓の6名。敬称略。
「はい。この賞金のかけられたメンバーは、ゲートにおいて破壊を働く貴方を目覚めさせようと攻撃した方達になります」
「ああ、そういう……」
だとすると、俺を助けようとしてくれたのに、巻きこまれた事になる。
「あー……」
「謝らないでください。僕達は、僕達の出来る事をやろうとしてこうなったんですから。責任は、僕達にあります」
「はい。ネギ先生の言うとおりだと思います」
ネギと茶々丸さんが、俺がなにを言おうとしたのかさっしたのか、俺の言葉をさえぎった。
「……そうだな。お前達は俺を助けようとしてくれたんだもんな。だからここは、こう言わせてもらうよ」
一呼吸置いて。
「ありがとう」
姿を隠した路地裏で、俺は精一杯の笑顔を彼女達に向けた。
そうしたら、にっこりとネギに笑顔を返された。
「にーちゃんにーちゃん俺にもー」
「コタローもありがとな」
コタローには頭のナデナデもつけてやる!
「わーい!」
「……」
いいなーとなんか物ほしそうにネギがしてたように見えたので、こっちもわしゃわしゃ。
「……」
ついでに茶々丸さんもわしゃわしゃだ!
「とりあえず、予想より賞金首の数が少なくてなによりだ」
うん。むしろ原作より少ないのを喜ぼう。
「そうですね。幸い全員が戦闘能力を保持した方々ですから、大きな心配は少ないかと思われます」
茶々丸さんが分析してくれる。
「むしろ、戦闘能力のないチサメねーちゃんとかが心配やわ」
コタローが部内で一番戦闘能力ないかつサバイバル能力のない子を上げる。
……あ、そーいやそうだ。つか原作どおりとか全然違うじゃん。俺がいる位置に彼女が居なくちゃダメじゃん!!
でもバッジで居場所もわかるし、イレギュラークラスメイトは居ないから、奴隷嬢ちゃん達に時間を割かずに、そっちの探索が出来るから問題はないか……?
「ひとまず、近くにバッジの反応が四つあります。そちらと合流するのがよいかと思われます」
コタローの言葉に、茶々丸さんが答える。
「だな。誰かわかる?」
俺もそれに肯定し、誰が居るのかを確認した。
「はい。朝倉さん、夕映さん、千雨さん。そして、超鈴音の四名です。位置は……」
「んんー?」
……バッジの反応で行き着いた先では、見事に100万ドラクマの奴隷になった三名。
超、千雨嬢ちゃん、ユエちゃんがいた。
「なんと露骨な……」
原作再現。とは口には出さない。
これが、歴史の修正力ってヤツかネ。
街に入ったところで朝倉君&さよちゃんと合流。
その後病気でへろへろになっていたのに無理して仕事をしようとしていじめられていたユエじょーちゃんを助けたネギ達の姿を見て、俺はそう思う。
ちなみに、ネギ達の姿はエヴァ直伝の年齢詐称薬で15歳くらいにアップしている。あと俺は10歳くらいの少年の姿で、茶々丸さんは賞金首ではないのでそのまま。
俺の方はゲート破壊の件でフェイト達の事を警戒して、念のために。
年齢を上にあげたかったのだけど、あげるのはネギ達が使うので、無駄遣いするよりはと、下になった。
あと、ネギもコタローも、アレだけ一緒に修行していたので、互いの性別の誤解は解けているようだ。
この胸じゃまやー。とコタローが愚痴言っていたのが記憶に新しい。
……なのになぜ、いまだに俺を嫁にするという(ネギとコタローにおいて双方での認識誤解がなくなっただけだから)
ともかく、キャストが若干変わったが、原作とほぼ同じ流れでネギが救出に入り、チンピラのトサカ君は獣のメイド長にぼっこぼこにされているのでした。
なむー。
「んで、こっちはこーいうわけだったんだが。そっちは、どーいう流れで奴隷に?」
一番近くに居て説明もわかりやすそうな超に聞く。
「フム。話すと短いヨ」
「短いんかい。なら三行で」
超、この周辺に飛ばされた。その際ゲートで近くに居た千雨、ユエも付近に落下、バッジの反応を追い合流。
しかしユエがこの土地特有の風土病にかかる。
親切な金貸しに100万ドラクマはする薬をいただき、そのおかげでユエ助かる。三人奴隷デビュー。
キャスト以外、見事に俺が知るのと同じ流れであった。
「ただ驚いた事に、その病ホントにヤバくて、薬も本物だたヨ。借金もその分の金額のみネ。実は凄い親切ヨ。この無法の街のボス」
「だな。借金はともかく、ここ、奴隷の待遇ものすごく良いみたいだし」
なにせその持ち主であるチンピラが逆にボコられるんだから。
奴隷という枷をはめたように見せて、実は守ってくれているようにも見える。
「てか予防接種とかはしてたよね。あと君薬はもってなかったの?」
「残念ながら、全ての病の予防は不可能ヨ。ついでに、ワタシがもてきたモノは転移の影響でバックごとふとんだネ。ここにいるワタシ、ただの頭よいだけの子供ヨ」
超も俺と同じような状態ってわけか。
「あ、でも一つ緊急脱出用にこんな事もあろうかとと取り出せる物が残てるネ」
俺とは違ったぁー!
俺は、こんな事もあろうかとなんて用意してないぜよ……
「前に話したあのワープ用の脱出アイテムヨ」
「ああ。あの」
鉄人兵団リルルが使ったワープを研究して再現しているというアレ。
完成させ持ってきていたのか。
「うむ。これを使えば、定員一命、念じた場所どこにでも行けるネ」
さすがに地球までは無理だガ。と、手に持って押し込むタイプのスイッチを渡された。
……なんか一命って聞こえた。一名だよね。
「ほほう……」
そいつは便利だ。当然好奇心が刺激される。
数メートル先にワープしてみようとボタンを……
「ただし、ワープの衝撃はダンプに轢かれたクラスヨ。ノーブレーキ快速電車でもOKネ」
「死ぬわ!」
投げつけたった。
ホントに定員一命かよ! 自殺装置かよ!
「ダンプに轢かれるよう転移してゆくと言っても過言ではないネ!」
イメージはダンプでどーんでぴゅー!
と、俺に押し付けてくる。
「押し付けるな!」
「科学に犠牲はつきものヨ! 二人居るのなら、一人くらい!!」
奴隷になった状況を聞く前に、俺の状況も伝えてあります。
バッジの反応が二つになってるの超もわかっていたから、すぐ納得してもらえました。
「んな気軽に俺を犠牲にしようとするな!」
いや、確かに世界の安全を考えるなら、片方いなくなった方が安全なのかもしれないけど!
「ま、当然冗談ヨ」
「冗談じゃなかったら困るヨ」
あっはっはと二人で笑いあったとさ。
「オメーラこの状況でもコントやれる余裕あるのかよ」
そんな事和気藹々と話していたら、千雨嬢ちゃんにつっこまれてしまった。
ここのつっこみ担当は彼女に決まりだね!
ツッコミがいるのは素晴らしいね!
「経緯はどうあれ、契約は正式なものだし、ここのボスはいくつもの闘技場を所有する有力者でもある。そこから三人を無理やり奪うのは無理があるね」
と、朝倉君が補足してくれる。
「一番は100万払って買い戻す。って事だろ?」
「そう」
俺の答えに彼女がうなずく。
「んな金どこにあんねん」
コタローが正直なお言葉を告げてくれた。
俺が『道具』を使えれば、100万なんてはした金なんだけど、今ないからどうしようもない。
「超君お金儲けは?」
「色々手段はあるが、元手がないネ。それがあれば、1ヶ月あれば貯められると思うヨ」
「そっか」
さすが科学者であり、超包子なんて飲食店も営んでいる天才だ。頼りになるぜ!
となると、これは俺の知る流れに逆らわないで行くしかないようだね。
だがその前に……
「そっか。ならここに置いていってもあんしんだ。じゃーなー」
「でも見捨てるのはあんまりヨ!」
「ジョーダンジョーダン」
「冗談じゃなかたら困るヨ」
あっはっはとまた二人で笑いあったとさ。
「オメーラよ……」
おかえしおかえし。あっはっは。
ナイスつっこみ!
「にーちゃんヨユーやなー」
「超りんもね」
コタローと朝倉君にまであきれられてしまった。
「あのお二人はいつもあんな感じです」
とおっしゃるのは茶々丸さんです。
「放置されるにしても、どの道元手くらいは欲しいヨ」
それはまったくな話だ。
「なら、いい手段があります」
ユエちゃんのところからこちらに顔を出したネギが、壁に貼ってある拳闘士のポスターを俺達に見せて、言った。
こうして拳闘士。ナギ・スプリングフィールド、オオガミ・コジローが誕生する。
──────
さて。衝撃的なナギのデビュー戦も終わり、約一週間後。
全国生中継で一ヵ月後にオスティアでの合流宣言も飛び出したあと。
闘技場の人気のない場所に集まって、今後の事を話し合った。
俺の力も超の科学力も期待出来ないとなっては、やはり廃都オスティアにあるという休眠中のゲートを使用して地球に帰る以外にないとの事だった。
ここは、原作と一緒。
ただ、奴隷三人を解放するのに必要な100万は、ここしばらく戦ったネギ達の賞金を元手に超が色々と事業を展開しはじめているので、無理に拳闘大会で優勝する必要はない。
まあ、優勝するくらいの実力は身につけてもらわないといけないので、あんまり意味がないが……
全員の合流は、今回の全国中継を見た子から連絡も来るだろうし、これまたネギ達の賞金で、こちらからバッジの反応を追って回収にも向う。
向うのは原作同様朝倉君&茶々丸さん+幽霊さよちゃん。
ちなみに、ここ以外の分散メンバーの分布は、原作と変わらないようだ。楓&木乃香で刹那&明日菜。他は単独なのも一緒。敬称略。はぐれ生徒がいないので、ひと安心である。
それとあともう一つ。
「あとにーちゃんホントにもう一人いたなー」
そう。行方不明だった王子様が無事だったとニュースで、大人のエヴァと一緒にいるもう一人の俺が手を振る映像が流れたのだ。
王子様やってる俺の映像が。
「ああ。あれはなんか変な気分だった」
ここに自分がいるのに、もう一人別のところに自分がいるのってのが。
だが、もう一人の俺が、本当にエヴァといるから、俺は安心してここで一般人やってられる。
それと、王子の姿と、今回のネギの放送。それを見れば、聡い子なら、俺が二人になっているってのにも気づくだろう(電報が届いたら、一応返事で教えるが)
しかし、なんでいまだ王子をやっているのだろう?
到着して速攻辞退しているはずなのに。
と思っていたら、あっちから電報がきて、半身だから継承権抹消出来なくて身動きがとれなくなったとわかった。
とりあえず、光を消す事に挑戦しているとあったので、がんばってもらうしかないな。
あっちもあっちでやる事やっているし、こっちもこっちでやる事やらないとな。
千雨嬢ちゃんが奴隷になって動けない今、こっちの一般人ポジションは、俺がやらなきゃならないから。
俺の記憶だと、そろそろあのおっさんが出てくる。
結局原作どおりの流れに沿うような形ならば。
……ただ一つ問題は、あのおっさん、おっさんなのか……?
まあ、それは会ってみりゃわかるか。
結果が怖くて聞いてこなかった俺も悪いし(原作中ラカンは元々の待ち合わせ場所に来なかった上、彼はネギと別行動になるから会わないとも思っていた)
───ネギ───
第14戦目。
僕達は、無事勝利を収めた。
「……」
「どしたん?」
勝った余韻もなく、ただ立ち尽くしていた僕に、コタロー君が声をかける。
「……僕達、弱いよね」
ゆっくりと、拳を握る。
「……せやな」
先ほど殴り飛ばした人達には悪いけど、こんなのじゃダメだ。
僕の知る、本物の人達。
タカミチ。クウネルさん。マスター。母さん。そして、もう一人の『サウザンドマスター』である、あの人……
「まだまだ、届かない……」
この先。
ゲートを破壊するのが目的だったというフェイト達が、最後に残ったゲートを無事に残しておくとは思えない。
ならば、必ずどこかでぶつかるはずだ。
あの人は、今戦えない。
マスター(エヴァンジェリン)がいるといっても、僕達が足手まといになってしまっては、意味がない。
最低でも、フェイトと戦って持ちこたえられるようにならなくては。
そのために、僕達はもう一段上にのぼる必要がある。
でも、それに必要ななにかが、わからない。
なにかが足りない。
それを補うためのなにか。それは、ぼんやりと、頭の中にはあるのだけど、それが明確な形になって出てこない。
そのなにかが、拳闘士をすればつかめるかと思ったけど、まだダメだった……
「……わかるで」
コタロー君がうんうんとうなずいた。
「え? わかるの?」
「ああ。俺らに足らないもの。それは、必殺技や!」
「ええー!?」
「なにいってんねん。決め手は大事やで。それに、一撃がつようなれば、あんときの一撃も、また違ったやろ……!」
コタロー君も、あの時を思い出したのか、悔しそうに拳を握る。
あの時。
あの人の意識を取り戻させるために放った、みんなの力を合わせた一撃……
あの時放てる最大の力をこめたのに、あの見えない障壁に、傷一つつける事は出来なかった。
僕達の、未熟の証……
あそこに必殺技があれば、また違ったんだろうか……?
……っ!
ぼんやりとした頭の中の像が、少しだけ固まった気がした。
でも、まだ足りない。
僕がマスターに習い、目指したスタイルと、なにかがかみ合おうとしているのに……
──────
その闘技場で戦ったネギ達を見下ろす人影が一つ。
「くっくっく。なるほどなるほど。まだガキだが、筋は悪かねぇようだな」
フードをかぶったその人物は、にやりと笑い、そうつぶやいた。
──────
次の日。
目の前で、ネギと影使いのカゲタロウが戦っております。
買出しの為にネギをつれて買い物に行ったところで、見事に絡まれました。
すごいね魔法使い。
家を平気でちょんぎって、家一軒平気で跳びこえて。
しかし、コレは止めた方がいいのだろうか。
いやでも、怪我は魔法で治るし、経験値も上がるし。
でもでも、一応ネギ女の子だし。だからってすでに闘技場で戦わせてるし……
あーもー。
「はぁ」
思わずため息をついてしまった。
「なんだボウズ、そんなに心配か?」
「いや、茶番すぎると思ってさ」
俺に声をかけてきたのは、あのラカンだ。
カゲタロウと組んでこの茶番を多分準備していた、だろう……女だ。
そう、やっぱり女だった。TS組だった。
それに関しては予想通りさ!
だが、てっきり筋骨粒々でムキムキな女かと思ったら、なんかグラマーセクシーな、腹筋が六つに割れていない、すらっと背の高い、褐色の美女でいやがった……!
あれを女にして、胸にさらしを足して、筋肉を間引きしたという、なんかズルい姿だ!
なんて茶番。こいつまで女なんて、なんて茶番なんだ!
筋肉ゴリラじゃないラカンなんて、ラカンじゃないやい!
ナギさんやネギ、コタローは元々女顔フォーマットだったから、すぐわかったけど、こいつは全然違うから一瞬誰だかさっぱりわからなかったのが悔しいからじゃないぞ。
「……なにが茶番だってぇ?」
にやにやと笑っていやがる。
「別に。とりあえず、適当なところであの勝負預かっておくれ。俺が止めに入ったら、さすがに死んじゃうから」
「はっ、しゃーねーな」
最終的に、ネギとカゲタロウは引き分け。
幸いだったのは、腕を飛ばされなかったという事だ。
ネギが気絶した後。
「俺はここで待っているからよ。こいつが目ぇさましたら、つれてきてくれや」
と、メモを渡された。
───ラカン───
……茶番と見抜いているヤツがいたか。
ナリはガキだが、ありゃ外見通りの年齢じゃねぇな。
ナギの娘と、正体がよくわからんガキ。
これは、ちったぁ楽しめそうだ。
──────
闘技場の方へ戻ったら、千雨嬢ちゃんに俺が殴られた。
「なんでテメーが居てあいつに怪我させてんだよ!」
「それに関しては謝るが、いくら俺でも、今の状態じゃ止められないよ。代わりに真っ二つになるくらいしか出来ないからな」
そもそも、今の俺じゃあの戦いの場所に行く事すら出来ない。家一軒平気でジャンプしちゃうんだもんよ。
「ちっ」
しかし、やさしいなぁ千雨嬢ちゃんは。
奴隷状態だから自由に外出出来ないから心配で心配でたまらんのだね。
「無茶しやがって。あのバカ。神楽坂の懸念がわかった気がするぜ……」
ぶつぶつと、メイド姿でつぶやいてます。
「……君はいい子だねぇ」
思わずそう声が出た。
今の俺は子供の姿だから、頭をなでてやる事は出来ないけど。
「なっ!? わ、私はただ……う、うっせぇ!」
「だから、今回の怒りは、全部俺に向けなさい。今回の件を引き起こしたのは、俺の責任だから」
ゲートから今に至るまで、俺のせいだから。
闘技場でネギがお金を稼いだり、強くなろうとするのも、全部俺のせい。
ネギにそれをぶつけると、彼女は必要のない責任を感じてしまうから。
「……確かにそうだな。アンタがあそこでしっかりしてりゃ、私等がこんな目にあわずにすんだんだからな」
ぺきぺきと指を鳴らされました。
……早まったかもしれん。
そして茶々丸さん。なぜゆえにわくわくしたような感じで俺を見ていますか?
なにを期待していらっしゃいますか?
千雨嬢ちゃんが今まで我慢していたモノを吐き出している間、俺はぺこぺこと土下座を駆使して謝るのであった。
ちなみに、ユエちゃんはネギの看病やってます。
「あ、にーちゃーん。ニュースやニュース。仲間から連絡……って、なにしとるんや?」
「……ストレス発散、かネ?」
事態を静観していた超が、やってきたコタローに答えてあげた。
───長谷川千雨───
くそっ! 腹が立つ!
怪我するリスクを受け入れて、あの名乗りをしたアホガキもアホガキだが、その責任を全部かぶるあの男にも腹が立つ!
でも、一番腹が立つのは、自分だ!
言われなくてもわかってるんだよ。あのガキが悪くなんてないって。好きで無茶しているわけじゃないって。
アンタが、自分に一番腹を立てているって事だって!
ゲートを破壊して、力ってのを封印して、私と同じ一般人と同じになって。
そうなって、見ているしか出来ねぇなんて、歯がゆいに決まっている!
それなのに、私のイライラまで背負おうとしやがって。
でも、それに甘えている、自分に腹が立つ!
言われるまま、我慢も出来ず、ぶつけてしまう、自分に……
自分がどうしようもなくガキなんだと思い知らされる。
守られるしかないガキなんだと……!
だから、ネギ先生よ。
なんとかして、アイツの力になってやってくれよ……
アンタが必死にあの背中を追っているのは知ってるよ。
だから、頼むよ。
私達を、代表してよ……
──────
ネギが怪我をして治ってしばらくして。
朝倉君が茶々丸さんと幽霊さよちゃんを伴って、仲間回収の旅へと出る事になった。
すでにバッジで大体の場所がつかめているので、いまだに連絡のない子達を回収して回るのだ。
んで、朝倉君のパクティオーカードお披露目で、初ちゅ~の味とかやって、メイド姿の千雨嬢ちゃんと結局追いかけっこ。
パーティー回収組を見送って、次はネギがラカンのところへと修行へ向います。
お供は、千雨嬢ちゃんの代わりに、俺がついて。
一人じゃ心配だからと、千雨嬢ちゃんと茶々丸さんに頼まれたしね。
だが、それに不服な子が一名。
「にーちゃーん。なぜやー」
俺にすがり付いてくるのは犬っ子コタロー。
「なぜと言われてもなぁ」
慕われるのは嬉しいけど、困っちゃうよね。
「ふっ、ならば説得はワタシにお任せネ!」
ばばーんと顔を出したのは超。
「おお、任せた!」
そんなわけで、ひそひそ話のためすみっこへ。
「一つよい知恵を授けるヨ」
「なんや?」
「いつも一緒に居ると変化が気づきにくいネ。でも、少し離れて戻ってきた時、見違えるほどに変わていた子を見た時、そのインパクトはいかほどと思うネ?」
コタローに電撃が駆け抜ける。
「居ない間に磨かれたその姿、その魅力に、思わず惚れ直す。この機会はむしろチャンスと思わないカ?」
「そ、それやー!」
すみっこでコタローが大声を上げた。
「ちゅーわけで、残るわ」
そしてしゅたっと手をあげるコタローの姿があった。
おおー。すごいな超!
「わかった。それじゃ、そっち頼むな」
「まかせてなー!」
「任せるネ」
というわけで、出発!
二人が旅立ったあと。
取り残されたコタローと超達。
「さて。せかくネ。ワタシの改造手術、受けてみないカ?」
ぴっとコタローに向け、そう言いつつ、人差し指を天に立てる。
「は?」
「改造といても、ベッドでちゅいーんは今無理ネ。正確には肉体改造とかの、バランスアップ。基礎向上などのパワーアップネ」
「なんかよーわからんが、にーちゃん振り向かせるならやったるで!」
「その意気アル!」
結果。
女らしくなった。
「間違ってないんだが想像と違った方向に改造されてるー!」
つっこみ担当の千雨が思わずつっこんだ。
帰ってくる頃には騙された事に気づいて元に戻ってました。
男装闘士コジローの人気はうなぎのぼりだったそうです。
「ふむ、なかなかの儲け出たネ」
「そーゆー稼ぎ方かよ」
人気商売を元手に稼いだ金を数える超に、千雨が思わずつっこんだ。
だが、コジローの人気が上がれば、関連商品の売り上げは増える。決して無駄ではない。
「それ以外も手を広げてるヨ。超包子で培った五月ほどの腕がなくとも美味しいワタシオリジナルのレシピフランチャイズなどなど。どれも順調ネ!」
「そりゃありがたい話だな」
このペースならば、さらに人の集まる祭りの開催中のいずれかで、目標金額を超えるそうだ。
──────
「そういえば、ラカンさんのアーティファクト見たんですけど、同じようなもの、学園祭の時使いませんでした?」
ラカンのいる場所に到着する前の雑談で、ふとそんな話題が出た。
ネギを助けに入った時、確かにラカンは自身のアーティファクト、『千の顔を持つ英雄』をぶちかましていた。
ああ。そーいや『能力カセット』で思わず使っちまったっけか。
「詳しく説明するとややこしいから簡単に言うと、似たようなモノだと考えればいいよ。だから、あっちに言わなくていいから」
今使えないし。とは気を使わせる事になるので言わない。
下手に説明されたりすると、使用料とか請求されかねないからな。
「わかりました」
そんな事を話していると、無事ラカンのいるオアシスへ到着。
「おー、ぼうずども。やっときたかー! おせーんだよ!」
「へいへいごめんなさいですよ。大体あの茶番でネギがぶっ倒れてたんだからしかたないでしょうに」
「あの程度2時間も寝ていれば治る!」
「おいネギ。こういうアホの子はマトモに相手にすると疲れるぞ。心してかかれ」
「は、はあ」
「だぁれがアホだ!」
「あんた……いや、この場合、異端なのがネギだけだから、むしろネギか……?」
「……ああ、その通りだな」
ポンとラカンが手を叩いた。
「つまりお前がアホだ!」
無駄に勢いよくラカンがネギを指差した。
「ええええー!?」
一人置いてけぼり食らった可哀想な少女でありました。
「ノリいいなあんた」
「お前もなボウズ。てか、いつの間にそんなでかくなった?」
「あっちは変装。こっちが本体」
「あー」
どうやら、俺が知るラカンと性格は一緒みたいだ。
違うのは性別だけ。
口調も一緒とはどういう事だ女の子。いや、コタローとかも一緒だけどさ……
ひとまず自己紹介をして、ネギが教えを請う。
「いいぜ。けど、俺の修行はキツイかもだぜ」
「かまいません! どんな修行にも耐えてみせます!」
「ふふ、素直だなオイ。ヤツとは正反対か」
豪快に笑って、ネギの頭をわしゃわしゃした。
「よーし、二週間であの影使いに勝てるようにしてやるぜ!」
「あのー、それでもいいんですが、もっと強くなる事は出来ないでしょうか?」
「ワッハッハ。欲張ったな。いーぜいーぜ! 気に入った! じゃあ……」
というわけで、一撃俺の体にぶちこんでみろって言い出した。
……女の体でそんな事言われたら、いやんな想像しちゃうわん。
しかし魔法世界最強の相手に向かい、全力をためらうネギ。
当然それでやられる気もないラカンは、全力で撃てと激励する。
「そうだぞネギ。全力でいけ。むしろ、やっちまえ!」
やっちまえに漢字はつけません。
「てめぇ! そのやっちまえはあれだろ。カンジで殺すって入れただろ! 鬼か! 悪魔か!」
俺の激励に、あくまで余裕のラカンは答えを返す。
ちっ。そういえば漢字文化を知る神鳴流の人と知り合いだっけか。
「全力でやれって言ったのはあんただろーが! ネギ。ここなら誰も見ていない。今なら完全犯罪だ!」
「え? え? ええー!?」
よりためらう結果になってしまった。
ジョーダン通じない真面目っ子だからなー。
俺とラカンは顔を見合わせて、軽く肩をすくませた。
そっちにまかせると俺がジェスチャーして、ラカンは苦笑し。
「はっ、んな遠慮すんな。お前の目の前にいるのは、この世界最強の存在だ。てめぇのちっぽけな拳程度じゃ、揺るぎもしねぇよ。だから、一発ぶちかましてこい」
その迷いを吹き飛ばさすよう、ラカンが言う。
「っ!」
──揺るぎもしない。
ネギが思い出すのは、ゲートポートでの『バリヤーポイント』
ネギの顔つきが、変わった。
光と共に、突き刺さる全力の桜華崩拳。
派手な水しぶきがあがり、跳ね上げられた水が、一時視界を塞ぐ。
「……さて。どーなったかな」
普通の人間なら確実に消し飛んでいる衝撃だった。
だが、アレは女になっていても普通じゃないんだろう。
煙が晴れれば、そこに無事立っているラカンが居た。
ただしげはーっと血(?)をはいて、いてーなとネギを吹っ飛ばしたが。
自分でやれって言ったくせに、アレはやっぱ理不尽だよな。
一瞬意識を飛ばしてしまったネギを湖の上に築かれた青空板間へ運んだ。
「なんだって? あのエヴァンジェリンが師匠だって?」
これだけの力、どうやって身につけたと聞かれたので、ネギは素直にエヴァが師匠だと答えた。
「はい!」
「……」
だが、どこか納得しないように、ネギをじろじろと見る。
「はい?」
「いや、あいつが鍛えたにしちゃ、ずいぶんと素直に育ってるな。あいつならもっといやらしくひねた育て方すると思ったんだが……」
ラカンは、まだ知らない。
自分の知る過去のエヴァと、今のエヴァは、全然違う存在であると。
ある男との出会いを経て、その種すら別の存在に生まれ変わっているとは、知る由もない。
ゆえに、そんな事を思ってしまった。
「そうなんですか?」
「いや、いい。よくわからねーが、大体わかった! 合格だ!」
「え、えー!?」
いいんですかそれでー。といった感じの声をあげるネギ。
ネギー。君は真面目だから、真面目につきあっちゃうけど、こういうタイプの人間は、真面目に付き合うと疲れるだけだぞー。
「で、だ。なんでお前は強くなりたい? 誰か倒したい相手でもいるのか?」
「……それは」
「いるのか。目標があるならそれでいい。誰だ? そいつは」
言いよどんだその瞬間、彼女の頭には誰かが思い浮かんだと、ラカンは察したようだ。
「まだ、絶対に戦うと決まったわけではありません。せめて、そいつの足止めくらいはしたいと思っているだけです」
「ほう。ずいぶんと殊勝だな。で、誰だ?」
「フェイト・アーウェルンクスという少年です」
「っ!?」
ラカンの顔色が変わった。
「そりゃまた懐かしい名前だな……」
「っ!? 知っているんですか!?」
「まぁな」
「教えてください。そうすれば……」
「聞きたかったら100万な」
「ええー!?」
「はい。後払いってのは可能か?」
話を見守っていた俺が、手を上げて聞く。
「ダメだ。現金一括のみ!」
「ちっ」
後払いが可能なら、超が稼ぐ予定の金を担保に色々聞けたり力を貸してもらったり出来たものを。
「だがまあ、そいつが俺の想像どおりなら、厄介だな……」
置いてあったボードを縦に倒す。
出たー!
ラカン特製強さ表!
基準は俺の1だが、結果はかわらない!
今のネギは600くらいで、謎の少年は3000だー!
実はこのネギの数字、原作より100おおいのだが、俺は気づかなかった。
「そ、そんなに……!」
「まあ、マトモにやってたんじゃ無理だわな。だが、マトモじゃない方法なら、ないでもない」
それは、エヴァンジェリンが生み出したという闇の禁呪。
ラカンがにやりと笑い、その説明をはじめた。
『闇の魔法』
マギア・エレベアとルビがふられる。
エヴァが10年の歳月をかけ生み出した、魔力と気をぶつけパワーとする究極技法『咸卦法』にも匹敵するポテンシャルを持つが、闇の眷属の膨大な魔力を前提とした技法のため、並の人間にはあつかえない代物である。
「なんか凄そうですね」
ネギが素直に答える。
「興味出てきたか?」
「なるほど、闇。闇ですか……」
「なんだよ。お前向きかと思ったんだが」
「ええー!?」
ネギガビーン!
「なあ?」
「俺はノーコメント」
ラカンにふられたが、ここはあえてノーコメント。
「まあ、選ぶのはお前だ。マトモな道もいいと思うぜ? 当面の力不足は仲間の力を借りて乗り切るって手もあるしな。つまり、今のお前には道が二つある」
ラカンが左腕を広げる。
一つは正道。じっくり歩む、光への道。
つまり、マトモな方法。
みんなでわいわい協力プレイ。
ラカンが右腕を広げる。
一つは邪道。力を求める闇への道。
つまり、マトモじゃない方法。
一人でひきこもる一匹狼のあなたむけ。
「5年10年かけりゃ、お前でもマトモな道を進んで俺達レベルになれるかもしれん」
「……」
それを聞き、ネギは顎に手を当て考える。
「どっちがいいとは俺は言わないけど、ただ、とりあえずリスクを説明しておいたらどうかな?」
どうせ言わなくても説明はするだろうが、一応ラカンに説明を促す。
「そうだな。こいつはリスクもでけぇしな」
「リスク?」
「ああ……って、なんでお前そんな事まで知ってんだ?」
「今はそこにつっこみいれるな。話を進める!」
わざわざ話を中断しやがったので、しっしと話を進めるよう追い払う。
「わーったわーった。こいつはな術者にけっこう負担がいくんだわ。適正がない人間が使えば、命にも関わる。ゆえに禁呪ってわけだ」
「そ、そうなんですか……」
「よし、いっちょ実演してやろう」
「実演て、出来るんですか!?」
ネギびっくり。
「ま、実際見てみない事には選びようがないだろうしな。適性のない人間がどれほどのダメージを食らうか見せてやろう」
そして実際に実演して、見事自爆を果たすラカンであった。
うん。このシーン見た覚えある。
お見事な自爆だね。
───ネギ───
闇の魔法。
ラカンさんの見せてくれた実演。
魔法をその身に取りこんだ瞬間。
僕の中にあったそれが、ついに明確な形を作りました。
これだ。
これだったんだ。
僕が頭の中で思い描いていたモノは、コレだったんだ!
コレが実現出来れば、僕も、みんなも、力を合わせて、戦える!
──────
てれれれてってってー(ドラクエの宿屋のテーマ)
ラカンが自爆してぶっ倒れて、ありゃやめとけとネギに忠告して一夜が明けた。
朝、拳法の練習をするネギに、俺が闇の魔法の巻物をお届けする。
「一晩考えて、考えはまとまったか?」
「はい」
どこかすっきりしたように、はっきりと俺の問いに答えた。
ま、どっちを選択することになっても、後悔しないようにな。
俺は、どっちを選ぶのか知ってるけど(原作知識的な意味で)
しかし、彼は知らない。
万一この禁呪に手を出した場合、ネギは遠からず人をやめる事になるという事を。
彼が、魔法世界編終了までの知識を持っていたのなら、人間をやめる事になるから止めろ。と言ったかもしれない。
だが、彼はそのリスクがそこまでだとは知らない。ゆえに、原作同様に進むのならば良いかと、納得するしかない。
ラカンの元へ。
「よぉ。決めたか?」
青空板間にいたラカンが挨拶ついでにそんな事を言ってきた。
「その前に一つ、聞いてもらってもいいですか?」
「あん? なにをだ?」
「僕から見た、闇の魔法の本質と、理論の裏づけ、それに、そのリスクや、運用方法です」
がらがらと、ネギが昨日強さ表を書いた黒板をひっぱりだしてきた。
「まずですね……」
なんか、難しい話がはじまった。
いかん。勘や気合で生きるあの生物に、こんなの説明しても理解してもらえるはずないぞネギ君! みんな君みたいに机の上で色々考えるのが得意じゃないんだ!※理論が理解出来ないという意味ではない。
当然、俺も!!
直感的に、さらに気づく。
これ、話長くなりそうだ。とも。
同じように思ったラカンと視線が合う。
俺はうなずいて。
(あとはまかせた)
しゅたっと手をあげ、そう笑顔のみで心を告げて、俺はこの美しい湖へ飛びこんでいった。
ひゃっはー。美しい湖で泳ぐのなら何時間でも泳いでいられるぜー!
「それでですね。ラカンさん!」
「のあー!」
問答無用で聞かされるラカンの絶叫がこだました。
二十分後。
「──という事なんです!」
「ああ。そうか。よーくわかった。多分それで間違いねぇ。で、結論はどうなんだ?」
げんなりとしたラカンが、光の道か闇の道かの答えを問う。
下手に刺激してはいけない。また同じ事を説明されても困る!
「はい。僕は……」
ネギは、理解していた。
闇の魔法真の本質は、気弾、呪文に関わらず、敵の攻撃を我が物とする事だと。
敵の力を吸収し、我が物とする。
自分の呪文をその身に宿す事は、その通過点でしかない事に……
一応、さっきの話をちゃんと聞いていたラカンも、たった一度アレを見ただけで、そこまで理解するとは。と、心の中で驚嘆している。
「……闇の道は、選びません」
すっと、ラカンへその巻物を、手わたした。
「……選らばねぇのか」
そこまで理解して、なおかつ選ばないとは、ラカンには意外であった。
「はい。闇の魔法は闇の魔法で、非常に魅力的だと思います。ですが、僕はこれを選べません……」
ネギは、思い出す。
これによく似た力の事を。
超が自らの体に施した、呪紋。あれと、これは良く似ている。
いや、本質は全然違う。似ているのは、リスクという負の面。
呪紋は、その身と魂を削り、文字通り、命を削り力を使う方法。
闇の禁呪は、その魂を呪文にささげ、闇と同化してゆく方法。
どちらも、人としての体を失ってゆく方法だ……
そんな魔法を使うのならば、僕は確実に、明日菜さんに叱られてしまう。
みんなに、心配をかけてしまう……
自分の体を傷つけて、それでも前に進むのは、かっこいいとは思う。
体を二つに割ってまで、力を封印したあの人が、そうであるように……
他人の為に、自分の力を躊躇なく失える。
そんな事が出来る人は、滅多にいない。
でも、それが自分に許されるかというと、違うと考える。
なにより、闇の本質が、自分の今のスタイルにあっていない事も理由の一つだ。
敵の力を利用する。それは、自分のスタイルではない。
ネギのスタイルは、仲間と自分が影響し合い、力を高めあうスタイル。
だから、僕は……
「つまり、ナギと同じ道。光の道をゆくって事か……」
(……それも、ありだろう。少々つまらん気もするが)
「いいえ、違います」
「ほ……?」
ネギの答えに、また、ラカンが驚きの表情を浮かべる。
「僕は、両方の道を進みます!」
ネギははっきりと、ラカンの目を見て、そう言い放った!
だって僕は、母さんもマスターも、どちらも大好きだから!
「はっ、はははははは。そりゃすげぇな。だが、それはどっちを進むのより、困難な道だぞ?」
「わかっています。でも僕は、マスターに前、同じような選択を迫られた事があるんです」
魔法剣士か、魔法使いか。どちらにするか。その時もネギは、両方を選んだ。
「だから今回も、どちらも選ぶ事にしました!」
その目は、ただひたすらまっすぐに。まっすぐ、光でも闇でもない、自分の道という新しい道を見据えていた……
心の闇を刺激されず、闇を持たずにここまで歩んできた彼女が選んだ道。それは、どちらもという、とんでもなく欲張りな道だった!
(……おいおいナギよ、エヴァンジェリンよぉ。ひよって光の道へ向かうのかと思えば、より難しい道を選びやがったぞ。こりゃ、お前の娘は、弟子は、すげぇ器を持っているかもしれねぇな)
与えられた道ではなく、みずから道を切り開こうとするその意思の力。
ラカンにそれは、とても懐かしく、そして、まぶしく見えた。
「どちらも。か……だがよ、これ使わねぇで、どうすんだ?」
受け取った闇の巻物を持ち上げる。
「実は、前々から頭の中にあったものがあるんです。それは、闇の魔法に良く似ていたんですけど、本質的には、逆のものなんです……」
「ほう」
「でも、結局呪文を体にとりこむ事になるので、リスクの面がどうしてもクリア出来なくて、その課題がクリア出来れば、僕の道も完成すると思うんです!」
「はっ、そりゃあいいな。おもしれぇ。なら、その道を進め! こいつはもう、用なしだ!」
闇の魔法に未練を残さぬよう、ラカンは手に持ったそれを、湖へと放り投げた。
ひゅるるるるる~。
巻物が、宙を舞う……
ぷはっ。
その落下地点。
そこに、偶然湖底から浮かび上がってくる人影が一つ。
そこに、たまたま、少年が出現したのだ。
そこへ……
すこーん。
その巻物は、逃げて湖を泳いでいた、少年の頭に、見事命中した。
ぷかー。
少年が、湖に浮かぶ。
「あ……」
「あ」
ラカンとネギの声が響く。
さらに……
ぱああぁぁぁぁぁ。
「我ヲ呼ビ覚マシタのは、貴様カ!」
ぷかーっと湖に浮かんだ少年に、闇の禁呪そのものともいえる、エヴァンジェリンを模した人造霊が襲い掛かった!
「ええええー!?」
「やっべ……」
──────
……ここは、どこだ……?
真っ白な世界に、俺は立っていた。
確かさっきまで、湖で泳いでいて、頭になにかが当たって……
そんな事を思い出していると、目の前にエヴァンジェリンが現れた。
なぜかその格好は、裸にぼろぬのを纏っただけといういでたち……
「サア。ハジメヨウカ」
あれ? このエヴァ、俺の知らないエヴァだよ。
実は俺、エヴァのオリジナルとコピーを10割の確率で見分けられる自信がある。
なにせ、あいつは『私が本物だ』というアピールを、無意識に俺にしてくるから。
見分けて欲しいというのが、ありありとわかるから!
だから、俺にはわかる。目の前のエヴァは、本物でも、『コピーロボット』でコピーされたのでもない、また別のエヴァだと……
……
心当たりが一つ。
ひょっとして……
……これ、ひょっとして、アレですか?
イエスイエス。
闇の魔法の世界ってヤツですかあぁぁぁぁ!?
イエスイエスイエース。
なぜに俺が!? なぜに俺があぁぁあ!?
やばいて。魔力の刃とかで切りつけられたりすんの嫌よ。絶対嫌よ!
「……深遠ナル土地ヨリあらワれし深キ者ドモの手二握ラレる、憤怒ノ刃……」
……え?
エヴァ(偽)の手にはいつの間にか一冊のノートが握られていた。
「ソノ呪文ヲ使エルのは、魔ト聖ノ血ヲ引ク彼ノみデあり、ソノ威力は一撃デ星ヲも砕ク……」
それを、彼女は読み上げる……
……こ、これって……
「絶対ノ王。我が名ハ『シヴァリアスフェザリオン』第三ノ目が開キシ時、闇ノ衝動に目覚メ、愛する者ヲ殺メてしまウ」
いやあぁぁぁぁぁぁ!
俺は頭を抱える。
こ、こいつ、俺の黒歴史ノートを読み上げよったあぁぁぁぁ!!
や、止めてください! そんな設定いらないんです! 最終的に落ち着くのは普通の子でいいんです!
ごてごてした設定とかいらないんです! 今はリアル厨二設定で間に合ってますからぁ!
だから、俺の記憶に眠る黒歴史を、掘り起こサないで絵ェェェェ!
「『テラスラッシュ』。『ギガストライク』の二倍ノ威力を持チ、伝説ノ魔王と勇者の血を引くものノミが、ディバインダークと呼ばれる、すでに存在しない魔剣を握ル事デのみ放ツ事ガ出来ル」
やめてぇぇ! 中学時代に思い描いたゲームの設定とか朗読しないでえぇぇぇぇ!!
もう、もうー。
俺はこの精神世界でもう、のた打ち回るしかなかった。
キツイ!
直接攻撃されるより、何万倍もキツイ!!
とゆーかこういう場合、こんな黒歴史暴露じゃなくてさ。
お腹の中に居た九尾的な獣とか、白黒反転した自分とか、黒衣のおっさんとか出てくるもんじゃないの?
そーゆーのじゃなくて、そーゆーの期待した自分の趣味を暴露され思い出させられるとか、なんぞこれぇ……
「まだまだイクゾ」
「いやあぁぁぁぁ!」
闇の試練、きついぃぃぃ!!
──────
現実。
湖から引き上げられ、床に寝かされた彼が、胸をかきむしり、苦しそうに息を吐く。
「熱が、熱が凄いです! どうしてマスターが、あの人の中に!? どど、どうすればー!」
「落ち着け。さっきのはエヴァの劣化コピー。人造霊だな。巻物が発動して、そいつの中に入ったんだ」
それが彼の中で暴れて、この熱を引き起こしているのだ。
「ところで、さっきの話は本当か?」
「はい。事情があって力を封じてしまって、今は見た目そのままの力しかないんです」
彼の状態。今世界に二人の彼が居て、この場には半身しかいない事。そんな人が闇の試練などを受けてしまって大丈夫なのかとネギは聞いたのだ。
「……それは、やべぇな。元々二度と目をさまさねぇ確率が高いってのに、下手すりゃ、死ぬな」
「ええー!?」
「自力で試練を乗り越えられるのが一番なんだが……」
半身しかないというのなら、その前に体が壊れるかもしれない……
「ど、どど、どどどど……」
ネギが動揺のあまり、同じ言葉しかいえない状態になっている。
「安心しろ。こういうときの為に、巻物に突き刺せば無効化出来るのを……」
上着の中をごそごそ。
「……」
無言で見守るネギ。
ズボンをがさがさ。
上着を脱いでばさばさ。
「ふむ」
ひと呼吸。
「なくしたか……」
シリアスな顔で、ラカンがそう言った。
「えええええー!?」
「ちょっと待ってろ。多分あそこだ。もしくはあっちだ。探してくる」
しゅたっと手を上げ、ラカンは去っていった。
「ど、どど……」
おろおろ。
「どど……」
言葉を、止める。
ゆっくりと自分の両手を見つめ……
ぱんぱん!
両の手でみずからの頬を叩いた。
ダメだ。僕は、こういった突発的にはじまった事態に弱い。
それじゃ、ダメだ。
これじゃ、いつまでたっても、誰にも追いつけない。
慌ててもなにもはじまらない。
だから今は、出来る事をきちんと、しっかりとやるんだ。
ネギは、呼吸を整え、熱が少しでも楽になるように、彼の額へ濡れたタオルを置くのであった。
──────
闇の試練。
心の闇を見つめなおし、それを受け入れる事が、この試練の目的である……
決して、目の前の敵を倒す事が目的ではない。
みずからの闇を見つめ、受け入れる事で、それを力とする。
それが、この試練を生きて終わらせる、唯一の方法……
それを俺が理解しているからこそ、目の前の影は、俺をワザワザ直接攻撃してこないのだ……
エヴァ(偽)が、俺の黒歴史ノートを広げ、次々と読み上げてゆく。
(や、やめてくれ……中学の時書いたノートを朗読するなんて、やめて、くれ……)
(校舎内でテロリストとの戦いのシミュレートを、再現しないで、くれ……)
(ちょっと気取って制服を着崩した時の映像とか出さないでくれー!)
ば、馬鹿な。これを、これを受け入れない限り俺は脱出出来ないだと!?
これを、この、黒歴史達を、俺に、受け入れろと!?
受け入れなくては生きて帰れないと!?
こいつは、こいつは変な意味でへヴィだぜ!!
「ちょっ、ちょっと待て! お前!」
「ナンダ?」
「その姿ダメだ。反則だ。せめて、俺の姿になれ。俺の姿に!」
エヴァの姿じゃマトモに攻撃も出来ねえし、その姿で言われるとダメージがよりでけぇ。
「ダガ断ル」
「ちくしょー!」
「包帯を巻いて登校」
「ぎゃー! いたいー! それはマジイタイー!! 痛くないのにイタイー!」
精神世界で、俺はまたのた打ち回った。
──────
魔法世界。現実。
日も落ち、夜になった。
「ぐぼぁ!」
あまりのイタさに、とうとう彼は、血を吐いた。
「そんなっ!」
ネギが信じられないと声を上げる。
精神だけでなく、体にまで影響が出てくるなんて……!
「やはりか……」
そこに、ラカンが姿を現す。
「ラカンさん、血が! 危ないのは、精神だけじゃないんですか?」
「半身しかねぇって話だからな。それに、どうやらお前よりよっぽど闇に向いているらしい。同調がよすぎるんだ」
「同調……」
「そんだけ心ン中に飼ってる闇がでけぇって事だ」
「闇……」
聞いた事がある。
彼のその身のウチには、強大な闇が眠っていると。
それが呼び起こされ、暴れさせたのが、あのゲート事件。
今はそれが封じられているといっても、なくなったわけじゃない……
「しかし、マズイな。このままだと、精神的にも肉体的にも、死ぬぞ」
「そんな……」
「こうなったら、まずはこれだな……」
懐から取り出したのは、アルテミシアの葉と呼ばれる薬草だった。
それをすりつぶして体に塗れば、体の傷はなんとかなるだろう。
「は、はい!」
「ただ問題は、精神の方だな……」
「あ、そうですよ。無効化するなにか、見つかったんですか!?」
「ああ。見つかった事は見つかった」
懐から、一本のナイフを取り出す。
「でもな……」
「でも……?」
凄く嫌な予感がする。
「こいつに一般人並の強度しかないのなら、こいつで解除した衝撃で、死んでしまうかもしれん。よくて廃人か」
ナイフを巻物にさした衝撃に、半身しかない彼が耐えられないかもしれないのだ。
「それじゃ結局ダメじゃないですかー!」
「ああ。マジで笑えねぇ。だから、お前が決めろ。お前は、俺よりこいつを知っているだろう? 信じて、待つか。肉体だけ生きる事になるかもしれないが、その巻物を、こいつで刺すか。出来ねぇってのなら、俺がやる」
その声は、どこにも茶化すものはなく、真面目で、それだけで、今がどれほど逼迫しているのかがわかった。
「少し、考えさせてください……」
「タイムリミットは今日の夜明け。日が昇る前になる。それまでに決められないなら、俺が、やる」
ラカンの選択は、決まっている。タイムリミット前に、解除する。それが、生き残る可能性の最も高い方法だと考えるから。
「……わかりました」
タイムリミットは、夜明け。
ネギは薬草をさらにすりつぶしながら、どうするか、悩みはじめる……
──────
「いくぞ! 魂のアルペジオ! 天の月のビブラート、水の月がアレグロビバーチェすれば、人の月はその命をアジタートに歌い上げる!」
『ムーンライトレクイエム!』
俺は死んだ……
いや、しなねーよ!
しにたくねーよ!!
「ほう、まだ動くか」
顔を上げた先には、エヴァのコピーがいた。
「あったりめーだ。厨二病こじらせて死んだとか、歴史に名を残しちまうじゃねーか。そんなの死んでも死に切れねぇよ」
ゆっくりと、立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
手足をばたつかせるだけで、いう事をきかない。
「そのような状態で、まだそのような事を喋る余裕があるとはな」
うるせーな。まだまだ、まだまだまだ……負ける気は、少ししかねーよ。
「だが、そろそろ終わりだ……」
ゆっくりと、俺にとどめを刺すために、最後の黒歴史を語る。
「サウザンドマスター」
「ぐはっ!」
現在進行形きたあぁぁぁぁ!
「ジャスティス仮面」
「ぐへっ!」
「そして、宇宙刑事」
「うぼあぁぁぁ!」
がくり……
彼の頭が、再び地に落ちた。
──────
「がふっ!」
現実世界でまた、彼は血を吐いた。
「日の出をまたずに、まずいかもしれねぇな……」
「ラカンさん薬草を!」
「おう。いくらでも持ってきたから使え……だが、それで、どうすんだ……?」
「……信じます」
「なに?」
ネギは、すりつぶした薬草を彼の体に塗ったあと、そっと、その右手を握った。
「僕は、勝って帰ってくると信じます。だってこの人は、僕が尊敬する、もう一人の『サウザンドマスター』なんですから!」
「……」
ラカンは、その姿を見てため息をついた。
「なら、薬草は俺がすりつぶしてやっか」
「え? あ、ありがとうございます!」
「まぁ巻物ぶち当てちまったの俺だからな」
にっと笑い、ごりごりとその薬草をすりつぶしはじめた。
一方ネギは、その右手を握り、祈った……
同時刻。
魔法世界に存在する、もう一人の、彼の半身。
「……」
彼は、なにかに気づいた。
そっと、自分の近くにいる少女の手を、その右手で握る。
「なんだ?」
いぶかしむエヴァンジェリン。
「……安心する」
「なっ!? ななな!?」
「そして、だるい……」
ずるりと、ソファーに体を預ける。
「おい、どうした? おい!」
やはり彼等は、二人で一人。
もう一方が死ぬ事があれば、もう一方も……
──────
精神世界。
ぐったりと、倒れたまま、ピクリとも動かない男……
「……」
「……これで、終いか。まあ、ただの人にしては、よく耐えたものだ。このような世界に突然飛ばされ、戦いも望まぬ一般人だったというのにな」
「……」
「幸運にも手に入れたあの力、貴様はもっと堪能しておけばよかったのではないか? みずからの欲望の為に。みずからの本能のままに。なんでも出来ただろう? 人を殺しても罪にならぬ道具もあった。他者の存在を自由に消す道具も。人の心さえも自由に変える道具も。肉欲を満たしても足りないほどの薬もあった。それらはもう、お前の手には届かない」
「……」
「ネギの事など考えず、最初からこの物語を破壊する気で動いていればよかったのだ。学園を破壊し、その存在を消し、近づくものをすべて排除すれば、この世界の王はお前だった。それなのに、些細なプライドを守り、得たのは実体もない称号と、娘達の純粋な瞳」
「……」
「全てを捨てて守ったかと思えば、今度はこの闇の中だ。お前の守ろうとするものは、なんだったんだ? 身を削り、少女の瞳に心を削られ、終いにはここで死ぬ。なんとも滑稽だな。そして、そんなお前の真実も知らず、キラキラした目でありもしない宇宙刑事やもう一人のサウザンドマスターを尊敬する少女達も、哀れだ」
ぴくっ。
「だってそうだろう? なにが宇宙刑事だ。なにがサウザンドマスターだ。馬鹿馬鹿しい。それはただの、幻。ただの三十路のおっさんがついた、壮大な嘘なのだからな。信じた少女達は、あまりに愚かしく、滑稽すぎる」
「……ざっ、けんな……」
倒れた男が、拳を握る。
「……む?」
影が、男を見下ろす。
「確かに、俺にとってみればな、宇宙刑事やジャスティス仮面は、のたうちまわりたいほどに、イテェ嘘だよ……」
拳を握り、膝を震わせながらも、男は、立ち上がろうとする。
「……でもな、その嘘を、本気で信じてる子を。それに本気であこがれ、努力している子を、哀れだとか言うのは許せねぇ」
「な、に……?」
闇に、一瞬困惑の色が見えた。
「どれだけのたうちまわる俺を笑うのはかまわない。だがな、俺を笑っても、宇宙刑事の生き方や、宇宙刑事という幻想そのものを、馬鹿にはさせねぇ!」
「なぜそれで立ち上がろうとする? その嘘は、貴様を傷つけてきたはずだ。守り通す義理など貴様にないはずだ。そもそも土下座をして許してもらえるのなら、喜んでする男だろう? なのになぜ、そうまでして、みずから傷つくのを望む?」
「そいつはな、俺が、子供達の前で、少しでもかっこいい大人で居たいからだよ。子供を失望させるような大人で、俺はいたくないからだ。俺にとって滅茶苦茶痛い嘘でも、それを信じてくれる子供が一人でもいるのなら、俺は、その嘘を、本当にする努力をする義務がある……!」
「ふっ、ふはは。ありえない幻の夢を見せて、それが義務だと? 世界を救うヒーローなど、テレビの中にしかいないと教えてやるのも大人の役割なんじゃないか?」
いまだはいずる男に、影は言い放つ。
「それは、幻じゃねぇ! その子の中には、立派に宇宙刑事が存在している! サウザンドマスターがその前を歩いている! 俺には幻でも、はじまりが嘘でも、それを目にした子供達には、幻ではなく、現実の夢だ!」
俺が傷つく宇宙刑事も、サウザンドマスターも、嘘だが、嘘ではない!
真実ではないが、いるのは、事実だ!
その子供達が夢見る道を、誰かに笑わせないためにも、この嘘は事実でなければならない。俺のついた嘘なのだから、俺が責任を持って事実にしなければいけない!
あの子が、信じているのだから!
「子供の夢は、子供がケリをつけるもんだ。夢を諦めるのは、自分にしか出来ない。子供が自分でケリをつける。だがな、その憧れた夢の時間は、自分で笑う事があっても、他人には絶対笑わせねぇ!」
その夢そのものを、壊すのは簡単だ。サンタさんはいないと教えてやればいい。困った時、誰も助けに来なければいい。
だがそれを、子供に教えてなんになる!
夢を奪ってなんになる!
サンタは本当にいるかもしれない。ヒーローは本当にいるかもしれない。
そして、ヒーローに自分がなりたい。なれる!
そう子供に思わせてやるのが、大人ってモンじゃないのか!?
「子供にはな、大人はスゲェ! かっこいいと思われなきゃいけないんだよ! 子供は大人の背中を見て育つ。その背中が、失望だらけの、かっこ悪いのばっかりじゃ、子供達は大人になりたいと思わなくなっちまう。夢も希望もない未来しかないんじゃ、子供は大人に、未来に期待しねぇだろ!」
男は、力を振り絞り、膝に手を当て、立ち上がる!
どれほどボロボロであろうと、膝を震わせながら、立ち上がる!!
「嘘に嘘を重ね、騙し続け、大人になった時、大人はそんなモノじゃなかったと気づかせるのがお前の大人なのか? 厳しい現実を見て、宇宙刑事など幻想だと知る方が、よほど残酷ではないか! 大人になり、現実を知り、こんなはずじゃなかったと大きな挫折を味あわせるのか!」
「はっ、馬鹿言うなよ」
ゆらりと立ち上がった男の姿は、15の少年ではなかった。
そこに居たのは、誰も、この世界で見た事はない。スーツを着た、三十路となった男の姿……
「大人になるまで騙せてたら、それ大成功じゃねぇか。確かに大人になれば、挫折する事もあるだろうさ。厳しい現実を知り、それは夢だったと知るかもしれないだろうさ。でも、その時気づくはずだよ。自分の見たその背中は、そのかっこ悪い背中を、その厳しい現実を、後ろから見ている子供に、自分に見せたのか? ってな」
男は、懐から取り出したタバコに、ゆっくりと火をつけた。
「その時はもう、その子も大人になってんだ。なら、自分に見せた背中の大変さくらいわかるだろうさ。現実の理不尽さも理解しているだろうさ。その時に、自分の後ろにいる子供に、かっこ悪い現実を見せるか、嘘でもかっこいい夢を見せるかは、そいつ次第だ。でも俺は、どんなに厳しい時でもかっこいい。そんな背中を。子供に見せてやりたい……」
ふーっと、吐き出されたタバコの紫煙が揺れる。
「大人がどれほどかっこよくて、早く大人になりたいって子供に思わせるような夢をな! だから、俺がどれだけ情けなく笑われても、宇宙刑事の背中は、笑わせるわけにはいかないんだよ!!」
そのまま、右の手に握ったタバコを握りつぶす!
「いまさら黒歴史は受け入れてやれねえが、『宇宙刑事』ともう一人の『サウザンドマスター』くらいは背負って生きていくつもりはある!」
握ったその拳が、光り輝くのがわかった……
右手が温かい。
感じる。そのぬくもりを。
その、信頼を……
こいつを感じた俺は、もう無敵だ!
「その背中を見ている子供達が、いるからな!」
そして男は、握り締めたその拳を振り上げ、こう叫んだ。
「装、着!!」
──────
夜が明けようとしている。
手を握り、ネギは信じる。祈り、無事を願う。
太陽が、昇りはじめた。
「……」
ラカンが、ついにナイフへ手を伸ばそうとしたその時……
ぱぁ……
苦しんでいた少年の体が、光を放った。
ゆっくりと、その姿は浮かび上がり、ネギの手を離れ、その身を垂直に立て、光の膜が、その体を覆う。
それは、繭のようであり、彼の体を優しく包みこんでいた。
その中で、一瞬にして服が光に分解され、素肌の上にインナーが創造される。
さらにその上へ、スーツが生まれ、ブーツ、グローブ、そして、ヘルメットが生成された。
赤を基調とした中に、少量の闇色を溶かしたような、ダークレッドの色をしたスーツを纏った、ヒーローがいた。
それは、学園祭の時、武道大会で見た、ジャスティス仮面に似ているが、どこか鋭角的なデザインが増え、どこか荒々しさが増しているようにも見えた。
刹那がこの場にいれば、銀行強盗を撃退した『宇宙刑事』の姿に似ているとも言っただろう……
そこにあるのは、二つの道具が同時に発動した姿。
学園祭の時使用した、『変身セット』。そこに、『決め技スーツ』のスーツが装着された、真のヒーローの形。
彼が背負った、二つの称号。『宇宙刑事』と『サウザンドマスター』。
その意思と闇の禁呪によりほころびた『ポケット』の中から、『再現』された、変身のベルトである!
本来ならば魂に刻むその呪文を、ベルトに移す事により、一言「装着」と叫べば、『決め技スーツ』を装着するのと同時に、『変身セット』まで装着出来る、リスクを最小に分散させた、ベルト型の変身セットなのだ!
変身が終わると、彼はゆっくりと、地に着地する……
だが、その緊張はまだ、終わらない……
「うっ……ううう……」
彼の様子が、どこかおかしい。
「……まさか、暴走か?」
その異変に気づいたのはラカン。闇との同調が強すぎる場合、そのまま闇に飲みこまれ、魔物と化してしまう場合がある。
「おい、ネギ気を……」
つけろと続けようとしたが。
「……」
ネギはその姿を、ただ呆然と、ほうけて見ていた。
「お、おい!」
だが、そんな心配をよそに……
「ちくしょおおぉぉぉぉぉ!」
そのまま少年は、がくりと膝を突き、両手を地面について、めそめそと泣き出した……
びくっ!
思わずラカンとネギをかばうようにしつつも、一歩後ずさる。
「ついに、認めてしまった……認めてしまったぁ……黒歴史を……俺はやっぱり、忘れられないのか……しかも、あんな恥ずかしい事を熱く語ってしまった……俺は、おれはぁ……」
めそめそ。めそめそめそ……
そのベルトは、『決め技スーツ』と『変身セット』を同時に装着するが、それは同時に、彼の中の黒歴史もあふれ出すという、彼自身の心も大いに傷つける、闇の禁呪よりあふれ出したに相応しい茨の鎧であった……
「イテェ。いてぇよぉ……」
めそめそめそ。
「ど、どうやら、無事ではあるようだな……」
たぶん……
しばらくそうめそめそしていたが……
ぴたっ。
それが突然止まる。
そして何事もなかったように立ち上がって。
ベルトを外し、装着を解いた。
光が瞬き、分解された服が再構築され、再装される。
すぅ。
一度大きく息を吸い。
「はっ! 俺は今まで、なにをしていたんだ。さっぱりおもいだせないぞ!」
集中戦が強いられる。
それはまるで、今はじめて意識が戻ったかのような言葉だった。
「……」
じとーっとラカンがソレを見る。
「……」
彼は無言だ。ちょっと汗をかいている。
「……ぶっけたの、誰?」
「そーだな! 俺はなにも見なかった! 無事でよかったぞ!」
ぼそりと言って、ラカンあわせる。
「はー、死ぬかと思った!」
さわやかな風が、吹き抜けた。
かきあげた髪からはじけた汗が、のぼりはじめた朝日に反射し、キラキラと光った。
「お前、意外に図太いな」
「あんたに言われたかないね」
「「HAHAHAHAHA」」
色々ごまかすために、二人で笑った。
あの瞬間、謝罪とスルーするが二人の中で一瞬に示し合わされたのは、彼等しか知らない。
困る事はさらっと流す。ソレが大人の処世術!
「ところで……」
「あん?」
「ネギ、なんでこんなに呆然としてんの?」
「わからん」
彼が指差した先には、今だぼーぜんとしているネギがいる。
「そんなに俺が無事で嬉しかったのかな?」
「そうは見えねぇな」
無事だって信じてたから、別のなんだろう。とラカンは思う。
「うん。俺もそれ以外で驚いてるように見える……」
ちらっと自分の手の中にあるベルトを見た。
ラカンもソレを見る。
「……そ」
ネギが、突然声を上げた。
「そ?」
「それです!」
指差す先は、黒髪の少年と、そのベルト。
「それです! そうですよ! そうだったんです! 纏うんです! とりこむんじゃなくて、纏えばいいんです!!」
「え? え?」
驚く彼に、悦び勇んで飛びついてきて、そのベルトを持った手をぶんぶんと振り回す。
「ふむ」
ラカンが顎に手を当て、そんな声を上げる。
「やりました。出来ます! 僕の道が、出来ました!」
「……なんだかよくわからんが、それならよかった!」
手を振り回される少年が、とりあえずよかったと言った。
喜びに水をさしても仕方がない事だし。
そして、それはよかったなぁ。と、頭をなでる。
「ふぁっ! ……あっ! 無事で、無事だったのに、ごめんなさい自分の事ばっかりで!」
ネギがはっと気づき、手を放し離れ、頭を下げる。
「いやいや。俺の不注意であんな事になったんだし、ラカンももう反省しているから、問題ないさ」
「そうだぞネギ!」
大人二人で親指を立てた。
「そ、そうなんですか?」
「ああ。だから、俺の事はいいから、お前の道ってヤツを進みな」
「は、はい!」
「よーし。んじゃあ、日も昇ったことだし、早速修行始めるか!」
「はい!」
「……君等徹夜したんじゃねーの?」
「問題なし!」
「ありません!」
ラカンとネギが元気に親指を立てた。
「そりゃすげぇ。んじゃあ俺は、体を綺麗にして、朝飯作っておくから」
「おう。任せたぜ!」
「お願いします!」
こうして、ラカンの元へ弟子入りしたネギの修行がはじまった……!
「……って、ネギ、闇の魔法覚えねぇの!?」
それに気づいたのは、体を洗ってさっぱりして朝ごはん終わって昼の修行を見ている時だった。
「いまさらかよ。そもそもオメーが習得しちまってるだろうが」
ラカンが少しあきれていた。
───ネギ───
僕が信じたとおり、あの人は、目を覚ましました。
しかも、マスターの闇の魔法を習得して。
目覚めた瞬間に魔法を纏っていたその姿を見て、僕の中で、全てのピースがはまった音がしました。
そうです。とりこむのではなく、纏えばいいんです。
一体化する事による、身体の変質が問題ならば、それが起きないように、その力を、体に纏えばよかったんです!
変身するのではなく、装着する! これが、僕の答えだったんです!
これなら、出来ます!
出来ました! 僕の考えていた、一つの道が!
母さんと、マスターの示してくれた二つの道が、一つになった道が!
あの人が、導いてくれた、おかげで!
──────
魔法世界某王国。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
突然ぐったりとした少年のほおを、エヴァンジェリンがたたく。
「……ん、んぅ……も、う……もう、食べられないよ~」
Zzzz……
「……」
その後ベッドに放り投げられたそうな。
───ラカン───
こまけぇ事故があったが、ネギの面倒を見る事になった。
にしても、闇の魔法のリスクを知っていたり、俺の仕掛けた茶番に気づいたりすると思ったら、あのボウズ、エヴァンジェリンの恋人なんだってな。
しかも、もう一人の『サウザンドマスター』であり、あのエヴァを実力で叩きのめし、鬼神を闇を纏ったまま祓い、星の外から現れた侵略者を撃退したほどの実力者。
さらにその腹ン中にはあの『造物主』が狙うほどの力があって、その力を使わせないために体を二つに割って封印した。と。
……ずいぶんと盛ったな。というのが正直な感想だった。
今見ている限りじゃ、ありゃただの一般人だ。
だが、実際にネギが信じたとおり、半身でしかないのに闇の魔法を習得し、平然と立ち上がりやがった。その上、起きてすぐ、あんな馬鹿みたいな真似までやりやがる。
あの地獄のような闇の苦痛を受けた直後に、俺とバカなやりとりが出来るとは、精神的には只者じゃねぇのは確かだな。
まぁ、あれだけ闇と同調が良くて、あのエヴァンジェリンが恋人にするくらいだ。どっかぶっ壊れていても不思議はねぇ。
ネギのヤツも、想像以上だし、あいつもおもしれぇヤツだ。
しばらくは退屈しなくてすみそうだな。
……そう思っていたが、この後、正直想像もしていなかった事が起きた。
人間の敵ってのは、どこまで行っても人間なんだな。
そう、思い出させてくれたぜ……
──────
それから約三週間後。
修行もひと段落して、超達と合流するために、街へと戻ったその時……
「ただいまー。皆、どうだった?」
扉を開けたすぐ先。闘技場の控え室にあるテレビモニター前で固まっていた超やコタロー達に声をかけた。
「た、たいへんやで……」
コタローが、震えた声で、俺を振り返った。
「? どしたの?」
「エヴァンジェリンが……」
同じく振り返った超が、モニターを指差す。
そこには……
『世紀の大悪党。最大の賞金首エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。本日公開処刑!!』
そうデカデカと現れたテロップと共に、空中庭園において大勢の兵士に囲まれた、大人に偽装したエヴァンジェリンの姿が、そこにはあった……
『ではこれより、裁きをはじめる……』
ライブと表示されたテレビの向こう側から、無慈悲な言葉が響いた……
この日、エヴァンジェリンという伝説の賞金首の存在は、魔法世界から、確実に、消滅する。
─あとがき─
ネギ闇の禁呪手に入れなかったのでしたの巻でした。
そしてやっとこラカン登場です。今まで色々ぼかしてましたけど、結局TSしてもらいました。
名前は多分ジャックじゃないんでしょうけど、考えるの面倒なので、全部ラカン表記で押し通す予定ですのでヨロシク!
しかし、ネギの新しい道ってなんなんでしょうかねー。え? そんな事言ってる場合じゃないって?
そうですね。真のヒロイン大ピンチですもんね。
というわけですので、あとがきなんてしている場合じゃないので、次回に続きます。