<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.6617の一覧
[0] ネギえもん(現実→ネギま +四次元ポケット) エヴァルート完結[YSK](2012/05/05 21:07)
[1] ネギえもん ─第2話─[YSK](2012/02/25 21:26)
[2] ネギえもん ─第3話─[YSK](2009/06/26 20:30)
[3] ネギえもん ─第4話─[YSK](2009/03/09 21:10)
[4] ネギえもん ─第5話─[YSK](2009/03/14 01:31)
[5] ネギえもん ─第6話─[YSK](2012/03/20 21:09)
[6] ネギえもん ─第7話─[YSK](2009/03/09 21:50)
[7] ネギえもん ─第8話─[YSK](2009/03/11 21:41)
[8] ネギえもん ─第9話─[YSK](2009/03/13 21:42)
[9] ネギえもん ─第10話─[YSK](2009/03/27 20:48)
[10] ネギえもん ─第11話─[YSK](2009/03/31 21:58)
[11] ネギえもん ─第12話─[YSK](2009/05/12 22:03)
[12] 中書き その1[YSK](2009/05/12 20:25)
[13] ネギえもん ─第13話─ エヴァルート01[YSK](2012/02/25 21:27)
[14] ネギえもん ─第14話─ エヴァルート02[YSK](2009/05/14 21:24)
[15] ネギえもん ─第15話─ エヴァルート03[YSK](2009/06/01 20:50)
[16] ネギえもん ─第16話─ エヴァルート04[YSK](2009/06/06 23:17)
[17] ネギえもん ─第17話─ エヴァルート05[YSK](2012/02/25 21:28)
[18] ネギえもん ─第18話─ エヴァルート06[YSK](2009/06/23 21:19)
[19] ネギえもん ─第19話─ エヴァルート07[YSK](2012/02/25 21:30)
[20] ネギえもん ─第20話─ エヴァルート08[YSK](2012/02/25 21:31)
[21] ネギえもん ─第21話─ エヴァルート09 第1部完[YSK](2009/07/07 21:36)
[22] 人物説明&質問コーナー[YSK](2009/07/06 21:39)
[23] 外伝その1 マブラヴオルタ[YSK](2009/03/13 21:11)
[24] 外伝その2 リリカルなのは[YSK](2009/06/06 21:16)
[25] ネギえもん ─番外編─  エヴァルート幕間[YSK](2012/02/25 21:09)
[26] ネギえもん ─第22話─ エヴァルート10 第2部[YSK](2012/02/25 22:58)
[27] ネギえもん ─第23話─ エヴァルート11[YSK](2012/03/03 21:45)
[28] ネギえもん ─第24話─ エヴァルート12[YSK](2012/03/10 21:31)
[29] ネギえもん ─第25話─ エヴァルート13[YSK](2012/03/20 21:08)
[30] ネギえもん ─第26話─ エヴァルート14[YSK](2012/04/07 21:34)
[31] ネギえもん ─第27話─ エヴァルート15[YSK](2012/03/26 21:32)
[32] ネギえもん ─第28話─ エヴァルート16[YSK](2012/03/26 22:10)
[33] ネギえもん ─第29話─ エヴァルート17[YSK](2012/03/29 21:08)
[34] ネギえもん ─第30話─ エヴァルート18[YSK](2012/04/07 21:30)
[35] ネギえもん ─第31話─ エヴァルート19[YSK](2012/04/14 21:12)
[36] ネギえもん ─第32話─ エヴァルート20[YSK](2012/04/14 21:20)
[37] ネギえもん ─第33話─ エヴァルート21[YSK](2012/05/05 21:03)
[38] ネギえもん ─最終話─  エヴァルート22[YSK](2012/05/05 21:06)
[39] 第2部登場人物説明兼後日談&質問コーナー[YSK](2012/05/05 21:01)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6617] ネギえもん ─第28話─ エヴァルート16
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/26 22:10
初出 2012/03/26 以後修正

─第28話─




 勘違い属性再燃!




──────




 魔法世界に存在する、世界を二分する南の古き民「ヘラス帝国」と 北の新しき民「メセンブリーナ連合」
 魔法都市国家メガロメセンブリアを盟主とする、その北のメセンブリーナ連合に属する小国。


 ゲイザス王国。


 超巨大魔法都市国家メガロメセンブリアもう一つの都市などとも揶揄される事もある、新オスティア統治領にも程近い位置にある国。


 それが、彼が王位継承権を得た国である。


 ちなみに、メガロメセンブリアとこの国の関係をわかりやすく例えるならば、日本とアメリカの関係に似ているそうだ。
 もちろんこの小さな国が日本で、メガロメセンブリアがアメリカだ。
 とはいえ、似ているだけで、丸々同じとは考えないでもらいたい。

 この小さな国にいるのはあくまで、王様だし、この国とメガロが戦争した事はない。

 もっとわかりやすく、この物語的に現すなら、ジャイアンとスネオの関係と言った方がしっくりくるだろうか。

 ともかく、そんな国だ。


 しかし、そんな小さな国で起きた小さな親心が、この世界を揺るがすほどの大事件を引き起こす事になろうとは、誰が想像しただろうか……?




──────




 がたごとと、先ほど助けたお姫様と、追ってきた王家の近衛騎士団とかいう人達の馬車に揺られて、俺達はこの国の首都へと向っております。
 当然、お城へ向うために。


 その中で……


『あれ、人助けだから。下心ないから。ね?』
 エヴァに向って、さっきの襲撃はまきこまれただけで、それ以外他意はないと主張します。

『知っているから安心しろ。だが、それで勘弁するかは別問題だ』
『あとで土下座しますから今は勘弁してください!』

『継承権を辞退したらすぐにこの地を去るぞ。いいな?』
『わーってますわーってます』

 ちなみにこれは、念話とかではなく、目で語り合ってます。

 念話を盗聴される可能性が……
 というわけではなく、普通に無言で痴話喧嘩してるだけっす。はい。


「もし?」

「ああ、はい」
 視線での会話を打ち切り、声をかけてくれたお姫様に対応をはじめる。

 ちなみに、この馬車はさっき倒されていたのとは別の馬車で、周囲には大勢の近衛の人が周りを取り囲んでいます。
 悪漢に襲われていた時とは考えられないくらいに周囲に護衛が増えました。

 なんかお姫様お忍びの視察をしている最中にあの悪漢どもに襲われたんですってよ。
 しかもそのお忍び視察を知るのはごく一部の者だけ。
 つまりは王位継承権争いで、俺を立てて権力を握りたいって人がいるみたいなんですってよ。


 そりゃあ、英才教育受けて育ったお姫様と、外から来た市井のぼーず。どっちを傀儡にしたいかって言ったら圧倒的後者だよな……


 まあ、さっき逃げた悪漢達はエヴァが全部のしてくれていたので、騎士団の方々に捕縛されとります。なのでその黒幕が摘発される可能性もあるかもかもネ。

 しかし、それでお姫様暗殺とか、この国一体どうなっとんねん。
 なぜかは、この後のこの国の王位選抜体制で納得する事になるけど。


 そして今は、話しかけてきたお姫様と、俺。そこに俺の護衛のエヴァにお姫様の護衛が一緒に乗っております。


「先ほどは、本当に助かりました」

「いやいや、たまたま通りかかっただけですから。つい、ね」

 そう。ホントにたまたまだ。たまたま通りかかったところに君等が居ただけだ。マジに。


「では、王位の為に、ですか?」
 恐る恐る、姫がそう質問してくる。

「え? いや、俺まだその王位継承の仕方とか、破棄の仕方とか、なにも聞かされていないんですよ」
 国の事は簡単に教えてもらったけど、そのあたりの詳しいシステムは、学園では説明してもらえなかったのだ。
 俺が王位に興味なくてマトモに調べなかったというのもあるけど……


 そうしたら、なんかすごく驚かれた。


 なにも知らずに、リスクもメリットも考えずに、助けたのかと。
 大層驚かれた。


 まあ、そりゃそうか。
 この国の王様を決めるシステムを知っていれば、確かに助けても当然かもしれない。でも、知らなかったらまた別だもんな。


 この国の王位継承システム。
 まずかなり前に、この国は血筋と魔力によって王が選別されるとは言ってあったはずだ。

 王家の宝石に俺の姿が映し出され、それにより、俺がこの国の王になる資格を得たとも。

 つまり、この国では、王様の血を直接ひいただけでは、王子だろうがお姫様だろうが、その宝石に姿が映らなければ、王様になる資格を得られないという事である。

 そして、俺が宝石に選ばれたように、王も選ぶのは、人間の手ではない。

 この国では、王は精霊が決めるのだそうだ。
 精霊とは、この国に住む目に見えない存在で、まあ、魔法の元とかいう考えがあるが、それとはちょっと違うようで。
 なんというか、一番わかりやすい表現は、お天道様がきちんと見ている。という事らしい。

 悪い事を考えていれば、それを精霊様が見ていて、王としての評価を下げる。
 その際、宝石に映し出されたその継承者の姿。『王の器』という名前らしいけど、それは、どんどん小さくなってゆく。

 逆に、人のためになるよい事。精霊に認められる事をしてゆけば、『王の器』の姿はどんどんと大きくなり、光り輝いてゆくというのだ。

 んで、その『王の器』が大きい方が、王となるわけなのである。


 つまり、精霊がこの国にふさわしい、民の事を考えたやさしい王様を、自動的に選んでくれるという、政治屋さんなら泣いて逃げ出すようなシステムになっているのだ!
 正しい事をすればするほど王として認められるシステム。

 魔法って、凄いね。


 そして、だからこそ困った事が一つ。
 このシステムでは、王や継承者は、不正など一切行えない。

 そんな事を考えたり実行したりすれば、精霊様が見ていて、『王の器』はどんどこ減っていく。なくなってしまえば、当然王位継承権もなくなるし、王様ですらオサラバなのだ。

 しかしそれで、よい王様だけが選ばれないのが人間の世界。

 王は不正は行えないが、王の知らないところで行われる不正は、王位継承には影響を与えないのだ。
 王の関与しない臣下の暴走。王が命じていないのなら、それは関係ない。
 特に継承者の場合は、王ではないため、より臣下の区切りがはっきりしない。

 そして行われるのが、王位継承者の暗殺。
 当然。継承者がソレを望んでするわけではない。
 臣下が、継承権のみを持つ器の低い者を王とするための手段。
 能力の低い者を王とし、その背後から権力を握るための手段。

 例えば、この国の政治も知らぬ、異邦人の子供。そんなのが王になれば、傀儡にも仕立てやすい。
 最低限の器さえあれば、その者はずっと王のままだ。

 死んでしまえば、どれほど『王の器』が大きく、光り輝いていても、関係はないのだから。

 失脚という手段がとれないこの国で最も多く行われる、王位継承者の退場が、それなのである。
 いや、正確には、自主的に継承権を捨てようとしない限り、それ以外での継承権消失は、事実上ないも同じなのだから。


 つまり、姫が驚いたのは、もう一つの意味もある。
 王位継承者なら、あそこで見捨てていても不思議はなかった。と。

 『王の器』が多少減少しても、見捨てただけで王の資格が失われるわけではない。むしろ、見捨てているのが自然なのだ。
 それなのに、俺が助けた事も、驚きだったようだ……


「あー。そりゃ、大変ですなぁ」
 王位継承の闇を聞き、俺は思わず声を上げた。
 自分の都合に悪い人は殺してしまう。うん。人間ならやりかねないねぇ。

「はい。ですからお気をつけください。わたくしだけではなく、貴方も同じように、疎まれて、狙われる可能性を」

「わかりました。ありがとうございます」


 にっこり微笑んだら……


「はい!」

 なんか凄く喜ばれた!
 女の子に喜ばれるのは悪くないよね!


 ちなみに、エヴァが彼をつねろうかとか考えたが、どうせ下心はないのだろうと彼を信じ、そのまま流した。
 そして彼は、あれ? つねられたりしなかった。と少し残念がったりした。


「しかし、俺行方不明あつかいになっていたはずですけど、それなのに、暗殺?」
 ゲート事件で俺って王子様行方不明になってた気がするんだけど。

「貴方が死んでいないのは『王の器』を見れば明白ですから」

「……あ、そっか。俺が死んでいたりすれば、その光も消える。と」

「はい」

 その上、万一行方不明のままなら、代理で……なんてやり方もあるかもだもんね。都合よすぎるね。
 だからこその、国政の混乱か。


 これははやいとこその宝石から俺の姿を消して、王位継承権を破棄しないとな。


 そんなわけで、お城に到着いたしました。


 歓迎もそこそこに、その宝石のあるという王家の間へ向います。




──────




 その『王の器』を映した宝石のあるという王家の間へ向うと、そこに別の人がいらっしゃいました。

 そこにいたのは、王様と、新オスティアの総督とかいう人。


 ……というか王様いるんだね。


 当然お姫様のお父さんで、姫の光が王様を超えたから、世代交代を考えていて、そんな折、俺の存在が宝石に映し出されて、おいそれと王様辞められなくなった人なんだって。
 ちなみに次の王は、現王が死ぬか、『王の器』を自分で消して退位するかで王がいなくなると、一定期間の精霊審査の後、次最も大きい器の人がなるんだって(だから自分の意思で宝石の姿を消せる)


 親心としては、ちゃんとした娘さんに譲渡したいわなぁ……


 納得納得。


「おや。ひょっとして、ゲートの事件で行方不明となった王子様ですか?」
 王様と一緒に居た新オスティアの総督という人が俺に声をかけてきた。

「あ、はい」
 とりあえず、ぺこりと。

「これはお初にお目にかかります。私はメガロメセンブリア元老院議員にしてメガロメセンブリア信託統治領新オスティア総督の、クルト・ゲーテルと申します。以後お見知りおきを」

 なげー肩書き。
 ……って、ん? この人、どっかで見たことあるような気がする。


 首をひねる。


「どうしました?」



 彼が首をひねるのも無理はない。
 目の前にいる総督は、『ネギま』本編にも登場している。
 神鳴流の剣士で、タカミチの友人であり、元『赤き翼』の一員で、そこと袂を分かち、政治家になった男なのである。

 彼の持ついわゆる原作知識は拳闘大会決勝終了後あたりまで。どうやら、この男が本格的に本編で名乗りをあげる前に、彼はこの世界へ飛ばされてしまったようだ。
 見た事があるというのは、小さくコマの隅っこに描かれていた事があるからだろう(総督なので道中普通にテレビで見た事あるだけかもしれないが)
 ゆえに彼は、この世界が火星をヨリシロとして存在する事を、原作知識としては知らない。



「いえ、なんでもありません。はじめまして」
 考えても出てこないのだから仕方がない。

 自己紹介をして、握手をする。
 よくよく考えてみて、これって日本の総理大臣とかアメリカの大統領に会う並にすげー事だよな。

 てかこの総督様、神鳴流の剣士なんだって。なんか意味ある設定なのかしら。ひょっとして原作関係者かしら? かしらかしら?


「これはこれは姫。今日もお美しい」
「ありがとうございます。ゲーテル様も今日はお元気そうで」
 俺と挨拶をして、そのまま流れでお姫様にもご挨拶。

「ははは。いつまでもベッドで寝てはいれませんからね」

 そういえば、病弱とかってさっき言ってたっけ。
 そんな事を思いつつ、壁の花になってエヴァを隣にその会話を見守る。
 ちなみにその間に王様と挨拶もしておいたと報告はしておく。

「ところで、今日はどうしてこちらに?」

「姫に会いにきた。と言いたいところですが、そうではなく、先日のゲート事件でメガロ各地での警備の信頼低下が叫ばれていましてね。そのために、新オスティア総督としての視察のついでに、この地にも外遊に来たというわけです」

「そうだったのですか。確かに、ゲートの事件で今度のお祭りなどの警備に不安を申し出る民も増えていると聞きます。衛兵の方々も、あのような事件があったにもかかわらず、自分達とは関係ないと気を抜いているようですし……」

「そうなのです。ですので、祭りの間、各国の警備も万全にしなくてはいけない。それらの警告もかね、こうして同盟国も回っているというわけなのですよ」

 そんな会話が聞こえる。
 ああ、そういえばもうしばらくしたら、20年前の大戦が終わった記念の祭りをやるんだっけか。

 ゲートを使用しない人ってあんまりあの事件に興味を持っていないみたいだけど、上の方は問題視するよな。
 大問題だよな。だって国家や組織としての面子が完全につぶれたようなテロだもん。

 国のトップならそれが祭りで起きないように動き回らなきゃならないのも当然か。

 その祭りは戦後20周年を記念し、さらには人種、国家、宗教を超えた大祭典。
 それを目前にして、国の警備に不安があると思われていては、各国の沽券にも関わってきてしまう。

 それらの不備がないよう、調整してまわるのも、開催地となる新オスティア総督の役目でもあるのだろう。

 まあ、その下にナントカ大臣とかいてそっちが調整はしているのだろうけど、国の『顔』として色々まわらなくてはならなかったりするんだろうな。
 政治家さんは大変だ。


 ま、オラにはかんけーねーわー。


 そんな政治家の苦労を背負うつもりはないので、さっさと王位継承権を消して、この国ともオサラバし、ネギ達と合流する事にしよう。

 幸い超がパワーアップしてくれたバッジのおかげで、部員全員のバッジの場所はわかっている。ナンバーが誰なのかまではわからないが、合流を繰り返してゆけば、いつかは出会えるだろう。
 ついでに、原作どおりの流れに戻ったのならば、そろそろ全国放送で拳闘士『ナギ』が姿を現すころだ。


 まあ、合流の事は、今はおいといて。

 まずは、王位継承権を破棄してこないとね。

 もう速攻で。
 面倒な暗殺騒動とか起きてるんだから、さっさとしないと。


 お姫様との軽い立ち話も終わり、総督様ご一行は去っていった。


 さて。それでは今度は、こっちの面倒をさっさと終わらせますか。


 お姫様に案内され、俺の姿が映った宝石の前へとやってきた。



 そこは、丸いつくりの部屋で、中心になにか力を持った石があり、それを囲むように柵があって、その柵の支柱に宝石がはまっている形になっていた。

 そのうちの一本が、天井に向って光を放ち、その光が、俺の姿を映し出している。
 ちなみに、この15歳の体の姿ね。元の三十路の方じゃない。

 この柱は、この国にある精霊の泉とかいう公園の噴水とか道路の湧き水とかに通じてその『王の器』を確認出来るのだそうだ。
 なので下手すれば、俺この国で有名人。

 だけど、わざわざそこを見て生活している人なんてほとんどいませんよ。と姫に教えられた。そーいやこのシステムだと民に王の選抜ってあんま関係ないんだもんな(民がどう思っているかという点の精霊の評価はあるが)
 それは逆に安心です。
 それと、お姫様は今部屋の前で俺達を待ってますの。
 『王の器』に触れる場合は、他の継承者はいない方がいいって事で。まあ、ライバルだからねぇ。


「はー。なんか真面目な顔してるなー」

 なんかホントに王子様みたいなかっこうして杓なんか持ってる。
 無駄にきりっとしてる。


「……なかなか悪くない姿だな」


 俺の後ろにボディーガードとしていたお嬢さんが小さい声で言ったのが聞こえたよ。
 まあ、いかにもな王子様の姿だしなぁ。

 正直、この姿、仮装みたいで恥ずかしいんだけど……


「まあいいや。消すのはどうすればいいかわかるか?」
 顔を傾け、背後のエヴァに聞く。

「このタイプは手をかざして念じればいいはずだ」

「ほいほい了解」
 なので、言われたとおり手をかざし、消えろと念じた。

「ただ……あ」
「え?」

 え? なにかまだあったの? やっちゃったよ?


 すると……


 ぱあぁぁぁぁぁ。
 てな感じで光が瞬き。


 光が強くなり。
 ぐんぐんぐんと……

 俺を写した宝石の光。俺の『王の器』が、なぜかでっかくなった……


 そのサイズは、隣にあったお姫様のサイズにせまろうとしている。
 今一番上座にある王様のより大きくなってしまってるよ!


「……なあ」
 思わずエヴァを振り向く。

「なんだ? 今私は頭を抱えるのに忙しい」
 片手で顔を覆ってうめいてた。

「なんで、俺が触れたとたんにこんなに光でっかくなったんだ?」
 とりあえず、俺の器を指差した。

「予測でしかないが……」
 と前置きされ、耳元に顔を近づけ、言われた。

「消えない理由として、お前が今ここに半身しかないからだ。だから、起動そのものは成功し、しかし、消すだけの認証は得られなかったというわけだ」

「あー」
 そーいや、登校地獄の時も二人になってたら変な不具合あったっけ……
 それと似たようなもんか。


「そして、この光はお前の『王の器』をそのまま示している。これまでの評価がプラスされた形だな」


 つまり、これで俺は、完全に王位継承権争いに加わったって事ですか。
 今まではただエントリーされただけの状態だったのね……


「正直言えば、過小評価だぞこれは」

「なんでや」
 いや、お姫様よりでっかくなったらさらに困るだろ!


「……」
 なんかアホを見るような目で見られたー!


「いや、俺、王様なんて器じゃないし」


(すでに一度星を救った男がなにを言うか。それだけであの器の大きさは魔法世界を覆わんばかりでなくてどうする!)
 それはそれで過大評価な気もする。と天の声は一応つっこみを入れておく。


 ため息つかれました。


「まあ、それを論じてもしかたがあるまい」
「まあ、そーだね。消えないのは事実だし」

 光のサイズはともかく、辞退出来ないんじゃ大問題だ。
 宝石叩き壊しても他のところに移るっていうし。


「とりあえず、これ以上ここにいても無駄だ。一度出るぞ」
「そうだなー」


 入り口で見守っていたお姫様と合流して、俺達は一度この王家の間から出る事にした。


 さて。どーしよう。


「とりあえず、一つ早急にやらねばならない事がある」
 出る途中俺は、とてもシリアスな声でエヴァに告げた。

「ほう」

「ひとまず、トイレ」

 エヴァがずるっと肩を滑らせた。


 さっきの騒動でひっこんでたの思い出したんだよ!




──────




 城の一室。いわば、俺がこれから生活するという場所に通された。
 無駄に豪華ででっかいベッドがあったり、見晴らしのいいバルコニーがあったりする凄くいい部屋だ。

 一応隣に俺のボディーガードのエヴァの部屋も用意してあるが、彼女はこっちに毛布とかを持ってきて寝るつもりらしい。

 まあ、暗殺が一番可能性あるんだから、当然といえば当然か。


「さて、どうする?」
 部屋に入り、鍵をかけ、今後の事を話し合い。

「どうしようか。困ったね」

「このまま抜け出す。という選択肢もあるぞ」

「それ、俺が選ぶと思う?」

「残念ながら、思わん」


 そうしたらお姫ちゃんが暗殺される可能性大だし、王様までやられちゃうかもなわけだし……

 だがしかし、残っていたからと言って辞退出来るというわけでもない。
 一人に戻ればいいのだろうけど、一人に戻る方法もわからない。


「一応確認のために聞くが」
 エヴァンジェリンが続けて聞いてくる。

「はいはい?」

「お前は王様になる気はないのか?」
 ホントに一応だな。
 ノーってわかってての確認だよ。

「ねーよ。だってお前、俺王様になったら速攻ハーレム作る自信あるぜ? それでもなれってのか?」
「そうだな。ならせるわけにはいかんな」
「だろー?」

 まあ、実際王様にならないと作るかどうかわからないけど。ハーレム。
 なる予定はないから作る予定もないけど。ハーレム。


「ならば……」
「ん?」


 エヴァが俺の正面まで近づいてきた。
 直後、俺とエヴァの足元に魔法陣が広がる。


「……仮契約をしておくぞ」

「……え?」

「仮契約、するぞ」

 大切な事なのか二度言われました。


「い、いや、いやいやいや。いや、理由は、わかるよ」
 ピンチの時にカードでお話し出来るし、助けも呼べるし俺を召喚ポーンと助ける事も出来る。
 『四次元ポケット』を失った俺には助かる事づくしの機能ばっかりだ。


「今までのお前ならまったく必要はなかっただろうが、今はそうではない。命の危険もあるんだ。背に腹は変えられまい?」


 ぐっ……
 痛いところを……

 どうせするなら結婚式で。と断ってきたが、ノーと言える一番の理由が消えてしまった今、それは正論とも言えた。
 だが、あんまりぽんぽんキスを許すわけにはいかない。

 癖になったら我慢出来なくなるからだ! アイツも俺も!
 そんな事になったら結婚式前に襲っちゃうぞ! ノー! ダメ!!


「安心しろ。キスだけが方法じゃない。それ以外にちゃんと方法は存在している」
 俺のプライドを気遣ったのか、エヴァが小さく微笑んでそう言った。

「え? そーなの?」
 原作じゃちゅーばっかやん。


(それに、今そんな事をしたら、弱ったお前とあいまって、そのままベッドに押し倒してしまいそうだしな……)
 やっぱり最初は結婚してからだからー! なんて思ったのはエヴァンジェリンだけの秘密。


「だとしたら同姓同士の場合困るだろう?」

「ネギ達は同姓でしてたけどな」

「アレはあのおこじょがそれしか知らんからだ」

「というかおこじょ居なくても仮契約出来るんだ……」

「私ほどの大魔法使いならば楽勝だよ」


 そういえば魔法世界には仮契約屋とかいうものがあったっけか。エヴァも茶々丸さんとなんか契約してたもんな(ドール契約という魂がなくとも出来る契約をしている)
 おこじょの専売特許ってわけじゃないんだったなアレ。


「必要なのは、お互いの体液の交換と考えればいい」
 本当のところは、互いの霊的触媒。魂と魂をふくんだ個所を触れさせるのが必要というが、よくわからん。

「えーと? つまり?」


「元吸血鬼らしくいこうか」
 エヴァが自分の右人差し指を切り、そこから血がにじむ。


「同様にお前もだ……」
 と、俺の右手をとり、俺の人差し指もちょんと切る。


「そして、互いにそれをくわえればいい」

「わーお」
 そのまま俺の人差し指は、エヴァの唇にくわえられた……



 ぺろりと舐められた指から脳に、光が走った気がする。



 そして、俺の目の前に、エヴァの人差し指が差し出され。

「ん」

 俺の指をくわえた彼女が、早くしろとせかす。
 ……これは、儀式だから。ぜんぜんえっちくないから。


「わかったよ」
 確かに、背に腹は変えられない。


 俺の安全を考えるのなら、当然の選択だろう。


 俺は空いた手でその手を握り、差し出されたその指先を、口にふくんだ。
 エヴァの暖かい指が、その血が、俺の舌に触れる。



「んっ」
 エヴァがそんな声を上げたような気がした。



 直後、俺にもなにか、体中に電撃が走ったような、なにかが駆け抜けた気がする。

 足元の魔法陣の光が強くなる。
 同時に、体に走るそれ。はっきり言えば、快感が、口元から地面へ駆け抜ける。指から足へ。また足から脳天へ。

 これが、仮契約……!
 やばっ。色々、やばっい……!

 光が体を駆け抜ける。

 頭が真っ白になったかと思ったその瞬間。


 その光が頭上へと集まり、そこに、一枚のカードが現れた。


 仮契約が、終わったようだ……
 あ、あぶねー。あれ以上続いてたら、色々ヤバかった……


 舞い降りたカードを、エヴァンジェリンがキャッチする。


「……ふむ。やはりか」
 それを見たエヴァが、納得したようにそんな事をつぶやく。

「なにがやはり?」

「ああ。カードは出た。が、不完全だ」
 と、俺にそのカードを見せる。


 そこには、カードのふちだけで、中に誰も描かれていなかった。


「て事は……?」

「やはり半身だけだからだろう。アーティファクトは使えんな。念話は……」



『……か? ……き……こえ……か?』



「……雑音がすげぇ」

「召喚は……」


「あ、なんか引っ張られた気がする」
 ちょっとだけ。気がする。


「うん。ダメだな」
 笑顔で言われた。


「いみねぇぇぇぇぇ!」


「まあ仕方がないだろう。人生そんなものだ。安心しろ。SOS信号くらいは出せる」

 と、分断したカードを俺に渡してきた。


「ま、なにか役に立つかもしれないしな……」

 思わず右手。さっき切った方の手でカードを受け取っていた事に気づいた。
 あ、血がつかないかな……?

「と思ったらもう治ってた」

「ああ。簡単な治癒魔法ならば覚えたからな」
 にっとお姉さんが笑いました。


 その笑みは、きっと後悔したくないからだって事が俺にも伝わってきた。
 だから、俺も思わず嬉しくなる。


「向上心のある子は好きだよ。おねーさん」
「からかうな」

 ぷいっとそっぽを向かれましたとさ。


 うん。この恥らってはにかんだような横顔を見るなら俺はこいつに殺されるレベルのいたずらをしてもいいかもしれない。
 いや、殺されるような事したら絶対こんな姿見せてくれないけど。

 しかし、大人の姿でやられると別の色気というか、かっこよさとかわいさがある。


「なにを見ている。私を見ている暇があったら、王にならないで済む方法を考えろ」


 照れてるエヴァに怒られてしまった。
 まあ、確かにエヴァを見てきゅんきゅんしている場合じゃなかった。

 それにあんま邪な事ばかり考えていると……


「……あ」



 ひ、ひらめいたー!!



 逆転の発想!
 良い事をすれば精霊が評価してくれて、光が大きくなる。

 ならば、悪い事をちまちまと継続して行えば、どんどん評価がさがるという事だ! 精霊が、勝手に光を小さくしてくれるという事だ!
 ならば、光が消えるまで悪事を働けばよいのではないか!
 だが、実際に人を傷つけたりするのはNGだ。王にならずとも、普通に逮捕されてしまう。それではおうちに帰れない。
 しかし例え人に見られなくとも、精霊が見ていてくれるのだから、こっそりやれる悪事はたくさんある!

 あとは、王にしてはいけないと精霊が判断するまで、悪行を重ねる。
 そして王の資格を失えば、晴れて自由の身!


 完璧! 完璧じゃないか!


 な、なんという事だ。なんて事を思いついちまったんだ俺は。
 さすが悪の魔法使いの伴侶だけあるぜ。


「なにか思いついたのか?」
 俺の表情がかわった事に気づいたエヴァが、聞いてくる。


「ああ。俺はやはり、お前の伴侶となるべき男だったようだ……」

 きりっ。


「なっ!? い、いきなりなにを言う!」

「だから俺は、王にはなれない!」
 ぐっとガッツポーズをするのだった。


(なんだ、今のアイツは、妙に頼もしい……)
 どきどきと思わず胸が高鳴ってしまったエヴァンジェリンであった。


「そ、それで、一体なにをするんだ?」
「それは……」


 はっ!


 将来を誓った伴侶にすらそれを秘密にする。
 それって、それだけでも王にふさわしくないんじゃないか!?

 そうだよ。俺、なんて悪行を思いついちまうんだよ。
 やっぱり俺は、エヴァンジェリンの夫たる悪だな……!


 やってやる。やってやるぞ! 最低の悪になってやるのだ!


「いや、暗殺の件とかあるとか言ったけど、お前『コピーロボット』持ってきてなかったか?」



『コピーロボット』
 かつてエヴァンジェリンに手渡した、自分の分身を生み出す道具。
 人形の鼻のところを押すとその人そっくりになる。



 さらに平然と嘘まで! 俺は、俺はなんという……自分を外道と呼ぶにふさわしいな。
 自分が恐ろしい!


「ああ。影にしまって持ってきたな。そうか。そういう事か」
「そう。そういう事だ」

 どういう事かもわからないのに相槌まで打つ。なんたる外道。ふふ、自分が恐ろしくて震えてくるぜ……


(暗殺の危険性を少しでも減らし、いざとなったらコレを置いて脱出するというわけか。確かに、悪くないな。学園の精霊すら騙せる道具だ。この場の精霊も騙せる可能性すらある)

 特に、暗殺への影武者とするにはこれ以上ない道具だ。
 自身にくれた吸血鬼化出来るデラックス化『ドラキュラセット』のマントを渡すという手段もあるが、あれは使用者を『吸血鬼』としてしまう。一度は護れるが、その後逆に吸血鬼として認定され、別の危険を呼びこんでしまう欠点がある。
 だが、こちらならば、問題はない。

(万一の場合、今は半身しかないからこそ、死んだとみせかける事すら可能かもしれないしな)
 現状を逆手に取った手段。悪くないとエヴァンジェリンは、分析する。


「私はいい考えだと思う。今すぐ使うか?」

「いや、まだだ。急いでもしかたがないからな」

「そうか。だが、渡しておくぞ」

「ああ」
 『コピーロボット』を手に入れた!

「まあ、私が守るのだからそれを使う事もないだろうがな」


 っ!
 女の子に守ってもらう。こいつもいただけない!


「ああ。頼りにしてるぜ」

「まかせるがいい」


 くっ、エヴァを騙してしまった。少し心苦しいが、これも俺が『王の器』の光を消すため……許してくれっ!


(……それほどまでに私を信頼してくれている。これほど嬉しい事はないな)
 エヴァの信頼度がさらにあがりました。



 こうして、俺の悪行三昧★大作戦ははじまった!




──────




「そうだエヴァンジェリン。少し散歩をしてきてもいいか?」
 さすがに部屋の中に閉じこもっているだけは、『王の器』はなかなか減らせないからな!

「私も一緒に行くのならかまわんぞ」

「それでもOKさ」

 エヴァンジェリンに隠れて悪を行う。
 小さな事でもそれだけで悪はパワーアップからな!


「さあ行こうか!」


 部屋を出ると、衛兵達が待っていた。
 一斉に俺の方へ敬礼する。


 な、なんだぁ?


 さっきの仮契約騒ぎとか聞かれてないよね?
 聞かれたら恥ずかしいし。
 なんて思ってたら、エヴァが視線で『結界をはっていたから安心しろ』と教えてくれた。

 安心!

 そしたら、一番偉いと思われる人がエヴァの方を向いて。


「一つよろしいか?」

「なんだ?」

「王子の護衛は、我々に任せていただこう」
 たくさんいる衛兵達が、言葉にあわせ並ぶ。

「残念だが、私は王子から個人的に雇われている。お前達に従う義理はない」
 むしろいらない。といった感じにエヴァがつっぱねた。


 雇ったといっても金を払っていたりするわけではない。単なる対面的な言い訳ですからね。


「しかし、我々はこの国の……」

「この国の人間で、確実に安全だと言える人間はいるのか?」

 まあ、言い方は悪いけど、お姫様も命を狙われたくらいだから、俺もお姫様の事を思う人から狙われる可能性は十分にあるんだよね。
 エヴァンジェリンがいれば安心安全なのは間違いないのだろうけど。

 そういう意味じゃ、エヴァの心配も最もだ。


 ……はっ! 気づいた。


 城の衛兵と信頼関係も築けない王様。
 ボディーガード一人しかつけないで、他を拒絶する。これって、王様的には最悪じゃないか!?

 いける。これでエヴァに彼等をぼっこぼこにしてもらって、さらに兵士をいじめる王様なんてのもつく。
 一気に評価がさがる! やった。ナイス!


 なので俺は、即座に行動を開始した。


「そうだね。僕も彼女の意見に賛成だ」

 はじまろうとした口論に、俺が割って入る。


「お、王子!!」
 当然のように彼女の肩を持った俺に、彼等は不満のようだ。
 いや、でもなんでそんな不満になるわけ? 知らない君達より、知る人を信頼するのはある意味当然な気もするけど、今は好都合!

「皆さんの言い分もわかります。自分達の領分へ勝手に踏みこまれるのは確かにいい気はしません。ですけど、彼女を雇ったのは僕です。プライベートの部分は彼女に守ってもらう。そういう契約ですから」

「ですが!」

「わかりますわかります。ですから、納得してもらいます。彼女が居れば、僕は安全だと。大変申し訳ありませんが、僕はまだ、皆さんを信用しているわけではありませんから」


 にっこりと、だが、明確に、彼は衛兵を威嚇した。


「くっ……」
 俺の笑顔に、衛兵さんの顔が歪む。

「でも、それで素直に納得出来るなんて、思ってもいません。ですから、今から彼女の実力を知ってもらいます」

「ほう」
 エヴァが、面白そうに笑った。

「どこか、戦うに適した場所はありますか?」


 俺が問うと、闘技場なるものが存在すると言われた。
 さすがファンタジー。そんなもん完備してるのかよ。

 いや、現代的に言えば体育館とか修練場とかそんなモンなのかもしれないけど。


「では、そこで彼女に僕を守ってもらいます。そちらの衛兵さん達は、彼女を打ち倒し、僕を取り戻せれば彼女はもう文句は言いません。逆に、あなた達がやられたら、彼女の言い分に文句は言わない。どうですか?」

「それだけでは不満だな」
 なんとその条件に不満を言ったのはエヴァンジェリン。


「私が守った後、今度は私が王子を護るお前達を襲う。攻めも守りも完璧だと、お前達に思い知らせてやる」


 うわぁ。さらに挑発しくさったー!


「い、いいだろう! 貴様、必ず吼え面かかせてやるからな!」

 完全にお怒りになったー!
 いや、だがコレもよい傾向だ!

 相手を怒らせる部下をほおって置く。これもまたバッドな王様だから!



 そして闘技場へ到着。
 開けた闘技場の中心に俺を置いて、そこで守るのだそうです。

 うわぁ。スゲェ不利な状況。
 でもそれ言い出したのエヴァなんだ。

 それでも守れるって自信満々なんだ。


「いいのか?」
「なにがだ?」
 衛兵さん達の準備が整う間に、エヴァに聞く。

「攻めと守りワザワザ一回ずつやるなんて」

「かまわん。どうせ私が襲撃者になる事などない」

「……あー」
 つまり、防衛の時に力の差をはっきりくっきりわからせてやるって事ね。

「そういう事だ。だからお前は安心して寝ていろ」

「あー、うん。そうするわ。んじゃ、終わったら起こしておくれやー」

「ああ。まかせろ」


 そして闘技場のど真ん中で、俺はごろんと石の床の上に横になった。
 あ、ひんやり気持ちいー。


 ふふふ。今から戦いがはじまるというのに、なんという不真面目!

 さあ、精霊さん! こんなに不真面目な俺の評価、どんどんさげちゃってー!



「いいかお前達! これは我々の誇りをかけた戦いでもある! 城の衛兵として、あんな女一人に遅れをとるわけにはいかない!」
「おー!」
「華麗にスマートにあの娘を打ち倒し、王子に認められ、その後の地位を勝ち取れ!」
「おー!」
「王に気に入られれば、その後も安泰だ!」
「おー!」
「ふふ、そうしたら次の近衛騎士団長は、俺になっちゃったりしちゃったりしてー!」
「隊長、さすがっす!」

「ゆくぞー!」
「おー!」

 目先の欲望で気合を入れ、王子の護衛兵を志願する者達は、実は伝説の魔法使いであるエヴァンジェリンへと戦いを挑んだ。



 ちなみに俺はそのころ、うっつらうっつら夢の世界に入ろうとしていた……


「……おい。起きろ」

「んあ? あれ?」
 エヴァに揺り起こされた。


 全然寝た気がしない。まだまだこれからって気がするのに、起こされた。


「なんだよ。さっき寝たばっかだろ……」
 目をこする。

「いや、もう終わったぞ」

「えー」
 マジかよ。と思いつつ、体を起こしてみると、地面に痛々しく横たわる数十の衛兵さん達がいた。


「安心しろ。かるーくなでただけだ。しばらくそこで悶絶していればそのうち痛みは引く。まあ、一晩そうしているんだな」

「魔法は?」
「身体能力を軽く上げただけだ。それとけん制のマジックアローくらいだな。それ以外この程度に必要はない」


 ああ。あとは投げて踏んで痛めつけたのね。
 主な武器。衛兵そのもの。

 ごしゅうしょうさまです。


「うう……つ、強い……」
「これでわかりましたか? 僕が、あなた達を信頼出来ない理由を」
 倒れた、最初に俺に挨拶してきた人(隊長)へ声をかける。

 くっくっく。民を信用しない王様。
 たった一人のボディーガードだけしかつけないで信頼関係を損なう。まさに極悪な王よ!

「うう……」
「ですが、よかったですね」

「な、なにが……?」
「これが、僕の信頼する従者で。もしこれが、本当に襲ってきた敵だったら、どうなっていたでしょう? きっちりと言っておきます。万が一の時、あなた達では、僕だけではく、この国すら守れない!」
 くぅ、なんと敗者に鞭を打つ言葉! こんな言葉を俺が吐けたなんて。悪の道とは、恐ろしい!

「っ!」
 隊長らしき人は、そのまま言葉を失った。


「それじゃ、行こうか」

 俺の後ろで待っていたエヴァに声をかけ、俺達はそのままその場を後にした。


 ねぎらいの言葉一つかけず、敵にも手も差し伸べずに去る。
 なんて悪い男なんだ俺は……



「いやはや、コレは手厳しい……」
 その戦いを、闘技場の観客席で見ていた男は、思わずそうつぶやいてしまった。

 そこに居たの、衛兵達の長。
 近衛騎士団長であった。

 何事かと騒ぎを聞きつけ、やってきたのだ。

 自分と相手の実力さもわからず、つっかかっていってしまう衛兵達。
 ゲートであのようなテロがあったのにもかかわらず、彼等は自分達が安全だとふぬけていた。

 しかも今は、王位継承者が二人いて、すでに姫は一度何者かに命を狙われている。
 それなのに、そんな不穏な空気も感じ取れず、王子の護衛につこうなど、甘えているとしか言いようがない。

 王子の方も同じように一見すると、戦闘前から寝そべり、なにも考えていないかのようにも見える。
 だが、あれだけ衛兵に囲まれた状況で、暗殺すらありえるあの状況で、本当に寝るとは恐れ入る。
 それほどあのたった一人のボディーガードを信頼している証であり、信用の表れだった。

 この国のシステムとして、王位継承者はどうしても、民に甘くなってしまう傾向がある。
 民の信頼も、精霊の評価へと変わるからだ。
 ゆえに、甘い言葉を繰り返す継承者も存在した(後々実現出来ないと反動で一気にマイナスへ傾くが)
 それなのに、精霊の評価など気にも留めないかのように、衛兵達へ渇を入れてくれた。


「た、隊長……」
 彼等が去ったあと。衛兵の一人が、口を開く。
「気づいたか、お前も……」
「はい……」
「王子の言ったとおりだ……あの方は、命すら狙われる可能性があるというのに、我々の不甲斐なさを教えてくださった……! お前達、くやしくないか!?」
「悔しいです!」
「お前達はなんだ!」
「衛兵です!」
「ならば、なにを守る!?」
「この国です! そして、この国の、王をです!」
「だが今の俺達では、守れんぞ!」
「守ります!」
「守るか!?」
「守ります!」

 闘技場に、男達の声がこだまする。

「おおおおおー!」
 闘技場の床に倒れながら、彼等は自分達の無力さを嘆き、強くなる事を誓った。


 その光景を見る近衛騎士団長が思う。

 倒れた衛兵達が、次々に自分達の情けなさに気づいてゆく……
 これで彼等も、彼女に負けぬよう努力するようになるだろう。

 どれほど言葉をつくしても、この空気を変える事は自分に出来なかった。
 なのに、あの少年は、到着してすぐ、彼等の意識を変えてしまった……

 それは、この国に現れたばかりだからこそ、出来る意識の改革……
 ただ突然選ばれた異国の少年かと思っていたが、どうやらただの少年ではなさそうだ。

 これは私も、王子に負けぬよう、この国の為に手を抜けませんな。
 まずは、姫のお命を狙ったやからを、本格的に探さねば……


 この機会に、この国の膿をすべて、出しきらねば。


 近衛騎士団長は、思わずそう思った。



 王になりたくないと工作をはじめた。精霊の評価が少しダウン。
 自分の部下をあれほど信頼している! 精霊の評価が少しアップ!
 彼の行動により城の兵士達の意識に変化が訪れた。この国はさらによくなった。精霊の評価がアップ!




 彼の『王の器』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』




 ふー。護衛兵さん達のプライドをばっきばきに叩き折ってしまった。
 これで兵士との信頼関係もズタボロ。また俺の器は小さくなった事だろう……!


 復讐とかがあってもエヴァンジェリンがいるから大丈夫!
 女の子に頼りまくりで評価もさらにダウン! よいね。よい悪循環だね!

 だがまだまだ俺の悪まっしぐらはこれからよ!
 どんどんいくよー!



 一件落着したので、更なる悪をなすために、俺はボディーガードをつれ、城を突き進むのであった!




──────




「あら、王子」

「おや、姫」


 衛兵の少なくなった廊下でお会いしたのはお姫様。


「この国は、いかがですか?」

「あー……」


 ほぁー!!

 またあくどい事を考えついてしまった。
 俺はこの国の事はまだよく知らない。
 ならば、この国を案内してくれと、連れ出してしまうというのはどうだ!

 お姫様を誘拐して街でつれまわす。
 極悪外道の名をほしいがままに出来る悪行じゃないかあぁぁぁぁ!!


 凄いな。こんなにも俺は、悪を行う才能に溢れていたか……自分が、恐ろしい……


 そして、恋人の目の前で他の女の子を街へ連れ出す。
 これは、とんでもなさ過ぎる裏切り行為だ!

 あとで土下座で謝っても許されるかどうかもわからないほどの!
 ……許して、くれるよね?

 だ、大丈夫。うん。エヴァンジェリンならきっとわかってくれる!
 俺達の絆は、そんなやわくない! と、おもう。


 というわけで!


「姫。実はまだ、この国の事はよくわからないのです。ですから、城ではなく、この街を、案内していただけませんか?」

「え? はい。かまいませんわ。それでは今から馬車で……」

「いいえ姫。ここは馬車などを用意するのではなく、僕と貴方。そして護衛の三人だけで行きましょう」

「え? ええー!?」

「みんなには秘密ですよ」
 しーと、ちょっとかっこつけて!

「は、はい……」
 うつむいてしまった。
 どうやら気障なのはお気に召さないらしい。

「というわけだからお願い出来るかな?」
 エヴァの方を振り返った。
 俺と姫を連れ出しておくれ!


 ……いい、よね?

 ため息つかれたけど、やってくれました。



 テレポート!



 城の近くにある公園の中へ出た。
 ちなみにどこへとぶ? と聞かれてここから見えるそこの公園と言ったのは俺だ。当然適当。

「サンキュ!」
「気にするな。今回は貸しにしておいてやる」


 あとでやっぱりごめんなさい土下座をしよう。
 まとめて3回くらいで許してくれるかな。


「わぁー。護衛もつけず外に出るのは、はじめてです……」
 周りをきょろきょろと興味深そうに見回している。


「それで、なにが目的だ?」
 きょろきょろと公園を見ている姫に聞こえないよう、ひそひそとエヴァが俺に聞いてくる。

「うん。やっぱ自分の目で下々の者の暮らしを見るって重要じゃん?」


 ふっ、また嘘に嘘を重ねてしまった……
 なんと俺は罪深い……!



(やはりか……まったく。姫の為に外を見せてやるとは、お前も優しいというか、悪い男というか)
 ちなみにエヴァは、彼に絶対の信頼を置くと決めている。ゆえに、この程度ではもう揺るがない。
 が、別の心配はする。

(下手に惚れさせるというのは止めてほしいのだがな……)
 こればっかりは、相手の気持ちなので、いくらエヴァンジェリンといえども、どうしようもなかった。



「では行きましょう!」
 うずうずとお姫様が言う。

「あ、ちょっと待て」
「はい?」
 エヴァが引き止める。

「その格好では目立つからな……」
 魔法でポンと服装を変えた。
 これも幻術の一種だそうだ。


「わぁー。すごいですのね!」


 素直にお姫様が喜んでいる頃。



 一方の俺は、公園にある木を見上げていた。


 俺の悪のコンピューターがまた一つ心無い事を思いついてしまった。



 公園の木の枝を無慈悲に折る!!



 なんと、なんと罪深い!
 俺は精霊達に白い目で見られ、公園管理のおっちゃん達に叱られる事間違いない。

 そして、今エヴァと姫は服に注目している! 今しかない!


 えいやっと!


 近くにあった木の枝をぺきぱきっとへし折る。


 ああ、これが日本の桜に似たような傷に弱い種であったらそれが原因で死んでしまうかもしれないというのに……
 なんという罪悪感。


 俺が王になりたくないからという身勝手な理由で!


 くっ、すまない木よ。

 この枝は、ちゃんと再利用してもらえるよう管理者の人に届けておくから!
 そうすれば、気づいた管理人が治療とかもしてくれるだろうし。

 ふと見れば、近くに公園管理者用の小屋があるのを見つけた。
 すまない管理人さん。俺のかわりにこの木に謝っておいてくれ!


 俺はその枝を小屋の前に置き、エヴァとお姫様を追いかけた。


「一体なにをしていた?」
「ちょっとね」


 またエヴァに秘密を作ってしまった。こいつはもう、俺は地獄に落ちるかもしれん……




 公園管理者小屋。


「……こ、こいつは!」
 小屋の前に置かれた枝を見て、公園の管理人は驚愕する。


 なんとその枝葉は、『腐海の病』と呼ばれる、木を腐らせる病にかかっていたのだ。
 外科手術と同じく、その枝を切り取れば、それ以上の汚染は防げるが、それに失敗すれば、木から木へと広がり、木を、林を、森を大地を腐らせて行くとてつもなく恐ろしい病であった。


 その胞子は、木だけではなく人にも多くの害をもたらし、一ヶ月たたずにある国を滅ぼしたとも言われている。


 その初期状態を見つけるのは非常に難しく、内部に巣食いはじめたこの最初期の段階を発見するのは、専門家ですら難しいといわれる。
 だが、この段階で発見出来れば、このように枝の先端を折るだけで治療する事が出来る。
 最初の胞子を切り離す。たったこれだけで、森全体を腐らせる病を、駆逐出来るのだ!


「なんと、見事な……!」

 これを発見した者は、たったコレだけの手術で、その木を、いや、この公園の植物全てを救ったのだ!


「しかもなにも告げずにいなくなるなんて、カッコイイ事するじゃぁねぇか!」




 木の枝を折り、いくつかの嘘を重ねた。精霊の評価がほんの少しダウン!
 だがそれは木の命を救い、さらには公園から広がる森の危機を救った! 精霊の評価が大きくアップ!!




 彼の『 王の器 』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』




 公園を抜けて、街に出てきました。

 いわゆる中世ヨーロッパ風のファンタジーな街並みが広がっています。
 どこか緩やかに時間が進む、平和な国です。
 なんというか、感じる空気は日本よりゆるい気がする。


 ただ、俺はこの場だと現代風な格好しているから、ちょっと浮いて見える。着替えてくりゃよかった。
 なので、エヴァにフードつきマントを影の中から出してもらい、装着。来るまでにつけてたマントね。

 ちなみに歩くフォーメーションは歩道の車道側に俺で、その隣に姫。俺達二人のすぐ後ろをエヴァって並びです。
 いざという時は全部エヴァ任せだけど、基本世界最強だから問題ないと思ってます。


「さてと。案内してもらいましょうか」

「はい! といっても、わたくし馬車からばかりでしたので、多くはわかりませんけど」

「まあ、そうだろうな」
 並ぶ俺達の背後にいるエヴァが言う。


 くっくっく。そんなのは予想済みなのよ。

 そして、お姫様に街の知らない事をバンバン質問して困らせてやるのだ!

 無知な女の子をいじめるなんて、まさに鬼畜の所業! 俺は、なんて領域に達してしまったのだ……


「姫、あれはなにかな?」

「も、もうしわけありません。わかりません」

「じゃあ、あっちは?」

「あちらも、ちょっと……」

「あれも? 彼等がなにをしてるのかも?」

「はい。もうしわけありません……」

 最初の興奮はどこへやら。
 どんどんとしゅんとなって行くお姫様。

 くぅ、女の子をしゅんとさせるとは。心が痛む。だがしかし、ここで俺が折れてしまったら、逆効果! ここは、心を鬼にして、姫様を困らせ続けるしかない!




 護衛をただ一人もつけず、街を歩いてわたくしは気づきました。

 わたくしは、この街の事を、ほとんどなにも知らなかったのだと……
 政治や経済の事は学んできました。

 ですが、この街の方々が。国の皆さんがなにを望んでいるのかなど、知ろうともしませんでした。
 視察に行くと馬車で向った時とは全然違う景色。


 わたくしは、この街の現実を一つも知らなかったのです……


 これでは、ゲート事件で気を抜いていると感じた方々とわたくしも同じではありませんか!

 貴方は、自分が街を見たかったのではなく、わたくしにそれを教えたかったのですね……?
 申し訳ありません。
 わたくしは、貴方の事をただの異邦人と思っていました。


 ですが貴方もやはり、宝石に選ばれた王の資格を持ったお方だったのですね。


 わたくしも、貴方に負けぬよう、より精進させていただきます!



 姫の意識に変化が芽生えた。それにより、姫はより国を、民を大切にするだろう。姫への精霊の評価がアップ!
 姫の意識をかえる事に成功した。それもまた王の証。精霊の評価がアップ!




 彼の『 王の器 』『 王の器 』
 姫の『 王の器 』『 王の器 』




 しかし、姫の心情にもう一つ。

 きゅん。

 王になるとう気持ちとは別に、私の胸は、高鳴ってしまった。
 正々堂々と、同じ王を目指すものにその足りないところを教える。その気高い心に。
 ライバルにすら手を差し伸べる、その姿勢に。

 どきん。どきん。
 あの方を見るたび、高鳴り、踊る胸。

 これはやっぱり、恋なのでしょうか……?




──────




 城に戻ると、エヴァンジェリンに変な質問をされた。


「……お前ひょっとして、この国を変えるつもりか?」


「変える? バカ言っちゃいけないよ。俺なんかに国が変えられるわけないだろ?」
 そんなつもりもないし、そんな気もないので、俺は思わず素直にそう答えた。

「そうか」
(ならば、こんな茶番をなぜ続ける?)


 ──私はその時、彼の言った意味がわからなかった。
 だが、しばらく時がたったとき、理解する。

 彼は、確かに自分でこの国を変えようとはしていない。彼は、自分でではなく、この国の人間に、この国を変えさせようとしていたのだと。
 彼は王になるつもりはない。だから、この国の人間に、この国をよくしたいという意識を芽生えさせようとしていたのだと……
 姫に王の意識を。兵に国を護る使命を。民にこの国を想う心を。
 自分達の手で、この国を良い国にして欲しいのだと……


 しばらくして、この国の人々の意識が変わるさまを見て、理解した。


 まったくお前は本当に、敵でない者には甘いのだから……
 しかも、人の意識を変えるという、難行を、こうも簡単に成し遂げるとは……




──────




 次の日。


 今日は『コピーロボット』を部屋に置いて、街を再び散歩する事に。
 昨日は姫様が居たし、時間もあまりなかったから、大胆な悪も出来なかったし!

 さらに部屋にこもっていれば、外は衛兵さんが守っているので、エヴァが外にいなくとも問題はない。
 暗殺が怖くてひきこもる王様。悪くないね!

 ちなみにこれは、王子が与えてくれた挽回のチャンスだと衛兵は考え、さらに精進する事となるのだが、それでのアップ率を描くのは、今は控えておこう。



 さー、今日もどんどん悪い事しちゃうぞー。



 獲物を狙うようにして街を歩いていると、広場でなにやら催し物が開かれているのが目に入った。

 何事かと聞いてみれば、いわゆる児童会で、野菜を作ったので、そこで料理してみんなに鍋を振舞うのだそうだ。
 その準備として、今料理を作っている最中なのだという。


 ……くっくっく。天よ。そうきたか。
 子供達が精魂こめて作ったその野菜達を、鍋に入れたところでぶちまけてしまえというのだな!


 くっ、考えただけで吐き気を催すほどの邪悪! 子供達の汗と涙を、一瞬にして無へと返す! まさに、外道!
 食べ物も粗末にして、かつ子供達に絶望まで与えてしまう……


 ……ちょっとやりすぎなくらいだ。ヒくよ。ヒきまくりだよこんな事したら。


 だが、まだ作りはじめたばかり。
 ならば、ダメにしたあと材料を買いに走り作り直せば、子供達には知らせずに振舞う事は可能だろう。


 いくら邪悪な王の俺でも、全てを台無しにというのはさすがに……


 よって、やるなら早い方がいい!!

 見物してもいいですか? と言ったら、いいですよーとあっさり承諾。
 くっ、この人のいいおばちゃんを悲しませるのはつらい! だが、俺が王になっては暮らしがもっとダメになる! 大事の為に、許してくれ!
 近くに居た児童会の子供達をあやして待機。


 調理テントの中で、おばちゃんが材料を全部投入した!
 いまだー!


「……あ」
 エヴァがなにかに気づいたようだ。
 まさかお前、俺の考えに気づいて、手伝ってくれようとしていたのか!?

 さすが俺の嫁。
 だが、これは王である俺がやらなくてはいけないんだ!


 大丈夫だ! 俺にまかせろ!



 どがっしゃーん。




「いきなりなにすんだい!」
 あたしゃもう、なにがなんだかわかんなかったね。

 折角材料を入れた鍋が、突然ひっくり返されたんだから。
 酷いいたずらするもんだと最初は思ったよ。材料も用意し直しになって。走り回ったりして大変だったもんだ。でもね、しばらく後にかけこんできた児童会の奥さんに、教えられたんだよ。

「た、大変! 育てた野菜の中に、煮ると毒になる苗が入ってたんだって! 食べてしばらくしてから苦しんで大変な目にあうらしいから、食べちゃダメだよみんな!」

 あたしゃ青くなったね。
 だってそうだろう。あのまま味見をしていたら、あたしは確実にそれに当たっていたんだから。それどころか、あのまま作っていれば奥さんの忠告も間に合わず、子供達や、振舞った人達まで。

 聞けば、それは無害なのと見分けるのがとても難しい上に毒性が高くて、苦しんで苦しんで、死んじまう可能性が高かったって話だよ。
 なんでも、外見が同じだから、子供が知らずに持ちこんでたみたいなんだよ。
 煮る以外なら平気ってのも落とし穴だったんわけだね。

 その後大慌てさ。
 料理自体は、早い段階に鍋をひっくり返されてたから、なんとか材料を別のところから集めて、子供達が悲しむ事はなかったんだけど……


 そのあたしを助けてくれた子がね。あの騒ぎの間に姿を消していてねぇ。
 お礼の一つも言えなかったんだよ。

 みんなでお礼を言いたかったんだけどねぇ。
 それだけが心残りさ。


「ぼくしってるよ」


 児童会の者みんなが残念だと思っていたら、児童会のぼうやが指差したんだよ。
 ほら、あの精霊の泉。
 王様の器が映るってアレ。
 あたし達には直接関係ないから、大して気にしてなかったあそこ。

 そこにね、居たんだよ。あの子が。
 あたし達を助けてくれた、王子様が。

 そりゃぁ、姿も消すわよ。
 だって、お忍びですもの。お忍びなのに、助けてくれたんですよ。
 あんなところに居たなんてわかったら、大騒ぎになってしまうというのに。

 あの方は、自分の事なんかより、あたし達の事を選んでくれたんですよ。

 あたし達、思わず拝んでしまいましたよ。


 そして姫様には悪いんですが、こうもおもっちまいましてね。この人が、王様になったらいいのにって。
 姫様も好きなんだけどねぇ。命の恩人には、ねぇ?




 あまりの罪悪感からその場から即行で逃げ出してしまった。
 すまない子供達。
 すみませんおばちゃん達。
 あと食べ物達……!

 この責任はいずれ、地獄に落ちる事でとろう! だから、今は許してくれ!


「……まったくお前は」
 なんかエヴァにあきれられてしまいました。
 逃げるくらいならやるなって事ですか。

「悪いな。気づいたら体がさ」

「気にするな。お前のそういうところは嫌いではない」

「サンキュ!」

(私も投入する時になってやっと気づいた。その私より先に動くとは。さすがと言えばいいのか、なにも考えていないのか……)



 いくつかの食べ物を無駄にした。精霊の評価が下がった。
 おばちゃん達の心のこもった料理を台無しにした。精霊の評価が下がった。
 だが、未来ある国の宝である子供達を救った! 大勢の人の命を救った! 多くの人が感謝した! 精霊の評価、大幅アーップ!!




 彼の『 王の器 』『  王の器  』
 姫の『 王の器 』




──────




 今日は王子としてのお仕事。政策会議とやらに出席する事になった。
 王になれば当然やらねばならない事なのだから、顔見せや雰囲気をちゃんと知っておけって事なのだろう。

 ここで小悪党ならば居眠りとかを考え付くのだろう。
 だが、俺は違う!

 真の悪は一味違うぜ!

 なんと政治にちょっと口を出してやるんだ!
 素人が政治に口を出して政策を混乱させる。こいつは国を混乱させかねない非常に危険な手段だ。

 だが、俺の無能さをアピールするのに丁度いい場でもある。
 やる気のある無能ほど害悪はないからな!

 プレゼンで恥をかくのは慣れている! 土下座が得意な元社会人を舐めるな!
 とはいえ、あまり露骨に無能として目立つのも問題だ。発言の機会がなくなってしまえば、マイナスを得る機会もなくなるという事なのだから!

 小さくこつこつとさりげなく精霊にマイナス修正を受けてゆく。完璧だな!


 というわけで、流れにあわせるようにして素人が適当に政策について意見してみたり、詐欺に近い、甘言まみれの政策をやると宣言してみたり、ちょっと調子に乗って無茶苦茶な計画をやれと強制してみたり、みんなが乗り気な計画にあえてノーをたたきつけたりしてやった!

 どうだ! この空気を読んだ空気の読めなさ! 無能極まりなかろう!



 素人が政策に口を出す。確かにソレは、非常に危険だ。だが、まれにその素人の一言は、プロにはない視点を捉えてしまう事がある。
 彼の指摘したその点は、まさにそのプロが気づかない、穴であった。

 詐欺に近い政策というが、宣言後、それが本当に実現の可能性を持ち、実現出来るのなら、それは詐欺ではない。
 聞いていた者達が、それを実現出来ると支持し、実行すれば、それは、立派な政策であった。

 さらに、どれほど無茶な計画であろうと、実行出来、さらにその国の者には発想出来ない、新しく、発展性のある計画ならば、その国に、新たな光を指し示す光となった。

 そのノーは、誰も止められなかった右大臣の暴走における、暴挙に近い計画へ告げられた、鶴の一声であった。


「なんと、王子は政策までも完璧にこなせるお方だったとは……あの若さで、あの視点、あの手腕。すべてをさりげなく、他者をたて目立たぬように進言しているが、私にはわかる。その才覚、隠し切れておりませんぞ王子!」

 彼の王としての片鱗を垣間見た貴族の一人は、思わずそう言葉を漏らした。



 治世の片鱗をまざまざと見せ付けた。精霊の評価アップ!
 姫も彼の姿に感銘を受けた! さらなる成長を見せるが、彼にちょっと見とれてしまった。が、なんとかプラス!




 彼の『  王の器  』『  王の器  』
 姫の『 王の器 』『  王の器  』





──────




 さて今日はなにをして王としての評価を落とそうか……


 すると、掃除をしているメイドさんが目に入った。


 ずいぶんとたどたどしい掃除の仕方だ。
 はっきり言えば、下手だ。

 きぃらーん。


 これだ。


 だが、ここで掃除が下手だというのは愚の骨頂。
 なぜなら下手と指摘してしまえば、下手だと自覚し、向上心が芽生えてしまう!

 一時的には反感を買うかもしれないが、長期的に見れば、プラスになってしまうかもしれない!

 なにより、それ以上に精霊に評価を下げる方法を俺は気づいている!


 それは、嘘で褒める!
 嘘でかつそのままでいいと思わせ、掃除などを下手のままで居させる!
 長期的に見て下手のまま!

 さらに嘘はいけない! いただけない!

 精霊という人ではない存在が評価する事だからこそ出来る評価の下げ方!


 凄いぜ俺!
 天才か? 天才だろう!


 では、言ってくる!




 あるメイドの言葉。

 その日私は、新たにおいでになった王子にも気づかず、城の掃除をしていました。
 私は、姫も王も尊敬しています。

 ですが、そんな王達は、私にわざわざ声をかけたりはしません。
 当たり前です。私と王達には大きな隔たりがあるのですから。

 でも、王子は違いました。
 私にも分け隔てなく言葉をかけてくださり、あまりの驚きでバケツを倒してしまったというのに、気にした様子もなく。

 なおかつ私の仕事を見て……


「とても綺麗に掃除しますね」


 ……と言ってくれたのです。

 初めてでした。
 お仕事を褒められたのは。

 初めてでした。
 どじな私を、褒めてくれた人は……

 その時から、私は変わったんです。いえ、変われたんです。

 綺麗に掃除が出来る。
 王子の言葉を絶対に嘘にしないようにしようと、心に決めたから。

 そうしたら、世界が開けた気がしました。
 自分に自信が持てたんです……!


 世の中には、褒めて伸ばすという言葉がある。

 例えその時嘘だったとしても、それを聞いたものが、後からそれを本当にしてしまう事もある。
 その褒められた一言が、向上心に繋がる事だってある。

 たった一言で生まれるプロ意識がある!


「とても綺麗に掃除しますね」
 そのメイドは、掃除をより綺麗に、丁寧にするようになった。

 嘘でも褒められたその時から、その仕事にプライドが持てるようになり、今までとは違った、より丁寧に、より綺麗にという心が働きはじめたからだ。


「あなたのその弓は、必ずあの標的に届くでしょう」
 心が折れそうだったその兵士は、その言葉を胸により訓練をつむようになった。


「これはおいしい!」
 その料理人は、その言葉でなにを目指していたのか思い出した。


 庭師は自身の怠慢を思い出し、大工はその木槌ひとうちにプライドをこめるようになった。
 街の警官は、より職務に燃え、消防士達は、その職務を誇りに思う。



 衛兵さんが俺に敬礼をしてくる。

 ……はっ!
 今度は逆に褒める。それってつまり、意見がフラフラしている。態度をころころ変える最低の王様じゃないか!



「王子は、ついに我等の事をお認めになってくださった!」
 衛兵達は、その言葉に、感動した。



 彼の一言により、城の者の、街の人達の仕事効率があがった。

 多くの人の意識が、変わった!



 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で兵の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 小さな嘘をついた。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!

 その意見がフラフラした。精霊の評価が少しダウン!
 しかし彼の言葉で民の意識が変わった! 国がよりよくなった! 精霊の評価がアップ!


 精霊の評価がアップ! アップ! アップ!! アアップ!! アーップ!!




 彼の『  王の器  』『  王の器  』
 姫の『  王の器  』




 うう。一見褒めているようで、実はけなしているのは心が痛むぜ……

 だが、精霊は見ているはずだ。
 俺が、褒めているようで実はけなしているという事を!

 嘘と偽りに満ちた、人々を惑わす邪悪な王だと!



 調子に乗ってやりまくったら、人々の意識改革に繋がって大変な事になっているが、彼はそれに気づいていない。

 さらにその相乗効果により、近衛騎士団長が進めていた姫暗殺における黒幕、この国の右大臣は、少年の言葉に感化された者達の手により、見事とっ捕まっていた。

 さらにさらに、姫を大切にし、王の心根を案じて彼を暗殺しようとしていた魔法師団長は、彼の言葉によって心を打たれ、その心を入れ替えた。


 が、当然彼は、そんな事知らない。




──────




 あれからしばらくの日時がたった。


 ふー。これだけやったんだ。もう光はめっちゃくちゃ小さくなっているだろう!


 むしろ消えてるんじゃないか!?


 俺は意気揚々と、俺の『王の器』が小さくなっているのを確かめるために、王家の間へと向った。






 彼の『   王の器   』
 姫の『  王の器  』




 めっちゃでかくなってるー!

 がびーん!


 とりあえず、床に手をついて、がっくりしました。
 そこには、滅茶苦茶大きくなった俺の『王の器』があったのだから……


「なぜだ。なぜ……」
 あれほど悪事を働いたというのに、俺のがこんなに大きくなっている……!


(想像以上に姫が育たなかったという事か。まぁ、どちらかといえばお前に気が向いて、国を本気に思えていないからだろうな……)
 国民の意識は変化が訪れている。
 姫も確かに、王としての意識を持ちはじめている。

 だが、彼に刺激される事で、姫だけは純粋にこの国を考えてはいられなくなっていた。
 それが、この差なのだとエヴァンジェリンは思う。
 そして、それが彼の誤算であった事も。

 それに、どれだけ隠そうと、にじみ出てしまうその才覚は、どうしても精霊の目にとまってしまう。


「そろそろ、『コピー』で死を偽装するのが一番かもしれんな……」
 はあ。とため息をついて、エヴァンジェリンは天井を飛び出すほどに成長した彼の『王の器』を見た。


 もうちょっとすると頭が天井飛び出して凄いシュールな絵ズラになるぞコレ……



 その夜。


 やる気もなくぐったりとソファーで横になってエヴァの膝枕でテレビを見ていたら、そこに拳闘士インタビュー中継が流れはじめた。


 そう。原作と同じく、全国中継でネギが語りかけてきたのだ。


 思わず俺も、体を持ち上げる。

「これ、ネギだ」
「だろうな。ふん。ナギなどと名乗って、大胆な娘だ」


 画面のネギ。もとい拳闘士ナギが、マイクを握り喋る。


「皆さん見ていますか! 全員無事です! それに、彼も! ですから、みんなで帰りましょう!」

 一ヵ月後にあるオスティアの祭りで合流しようという事を、テレビを通じて伝えてきたのだ。


「そうか。ネギもちゃんと無事だったか……」
 そしてどうやら、修正されて原作ルートに乗っかったようだ。たぶん。きっと。

「……そうか」
 エヴァがなにかに気づいたように声を上げる。
「どした?」
「おかしいと思わないか? 小娘のパーティーの中で、彼と呼ばれうる『男』はお前一人だ。それがなぜ、ネギの方で無事だと伝えてくる?」

「……あ」
 原作で彼はネギの事をさしていたので、俺は気にも留めなかったが、その通りだ。


「つまり、ネギのところに、もう一人の俺がいる?」
「そういう事だ。もう一人のお前、やはりいたようだな」

「そのようだね。……だからどうしたって気もするけど」
「まあ、いたのならいたで、なにか元に戻る手がかりにでもなるんじゃないか?」

「戻るっていっても、戻ったら戻ったで問題あるけどなー」
「まったくだな」

 そして、ネギのところへ電報を送っておこうという事になった。


 ふー。いやはや。

「どうした?」

「ああ。ネギの顔を見たら、こんな事でふてくされていてもしかたがないな。と思ってな」


 たかがサイズがどでっかくなったからといってどうしたというのだ。
 まだ終わってない。試合終了してないじゃないか。やすにし先生だってきっと諦めないで。って言ってくれるに違いない!


 ネギの無事を見て、俺は覚悟を決めた。


 こうなったら、最後の手段を使うしかないようだ……


「エヴァンジェリン」

「なんだ?」
 同じ部屋で寝泊りする事になっている彼女に声をかける。

 ちなみに、初日にエヴァの部屋からこっちにベッドを運びこんであるので、エヴァをソファーに毛布で寝かせるとか、一緒のベッドで寝るという事は今のところない。
 悪の王ならばここで……という考えもよぎったが、その後に支障が出るのでこれは諦めた。
 さすがのエヴァンジェリンも、この状況では自重しているようだし。


 は、ともかく。


「ちょっとバルコニーでやりたい事あるから、一人にさせてもらっていいか?」

「かまわんが」

「あと、くれぐれも見ないように」

「それもかまわんが」

「絶対絶対見ないように!」

「それは見ろとふっているのか?」

「確かにそう聞こえるかもしれないけど、違うからね。見ないでね。見たら嫌いになる」

「……わ、わかった」
 俺の気迫が伝わったのか、了承してくれた。


 今からするコレは、さすがに見られたらダメージ大だからな……!



(嫌いになるとまで言われたら、さすがに見るわけにはいかんな……)
 そこまで言うほどの事とは一体なんなのかは非常に気になるが、さすがに覗き見る事は怖くて出来なかった(周囲の警戒はするが)



 というわけで、バルコニーに出てきました。


 ふっふっふ。この手段だけはとりたくなかった。

 だが、なぜかどれほど悪逆非道な事を行っても全然精霊は俺の評価を下げてくれなかった。
 ならば最終手段!


 精霊に直接お願いする!!


 これは情けない!
 確実に評価ダウンに間違いない!

 さあ精霊よ。俺のこの情けない姿を、しっかりと見るのだぞ!


 俺はバルコニーで膝をつき、そして両手を下ろし、頭を床にこすりつけんばかりに近づける!
 そう、この姿!
 平身低頭の構え!


 すなわち!


(どーか勘弁してください精霊様ー!)



 DO!



(お願いしますから、評価下げてくださいー!)



 GE!



(なにとぞー。なにとぞー!)



 ZA!!



 俺はそのままぺこぺこと、目には見えない精霊様に向って、土下座をはじめた。


 見よ! なりふり構わぬこの姿勢!
 情けない事を思いつつ精霊に懇願するこの心根。この姿!


 これでちょっとくらい光も小さくなろう! なる! なれ! なってぇ!!


 ぺこぺこ。ぺこぺこぺこ。



 本当に、なりふりかまわない男がここにいた。



 しかし……




 な、なんという事じゃ。
 それをさらに上の階にあるバルコニーから見ている者が居た。

 それは、この国の王。


 その日たまたま寝付けなかった王は、たまたまバルコニーへと姿を現し、たまたま彼のその姿を目撃したのだ。


 いや、これはたまたまなどではない……

 王は思う。

 これを見るのは、必然であったと……

 王が寝付けなかった理由は、新たに現れた王子が、娘をこえるほどの『王の器』を精霊に認められ、このままではその王座を娘ではなくあの少年が手に入れるという不安からだ。
 みずからの娘を王座につけてやりたいと思うのは、当然の親心ではある。
 だが、精霊の導きは絶対だ。自分もそうして選ばれたのだ。従わぬわけにはいかない。

 それはわかっている。が、その心は簡単に納得しない。

 その不安から逃げるように、バルコニーへ行けば、毎日それを行っているだろう彼の姿を見るのは当然! この姿をワシが見つけてしまうのは、必然であったのだ!


 あとにして思えば、これは、民ではなく娘のみを見ていた自分への、精霊の戒めだったのかもしれない……


「あ、あれは、あれは王の中の王である者しか使えない、伝説の精霊への祈り、ドゲザー! な、なぜあの少年が……!」


 その少年の姿を見た王は、衝撃を受けていた。

 この国のはじまりの王は、そのドゲザーと呼ばれる作法一つで、この国の王に上り詰めたのだと言われている。
 精霊に認められたその舞により、この国の基礎を築いたのだ!


 その伝説の祈り。ドゲザー。


 この国におけるドゲザーとは、聖なる祈りの象徴。
 その美しさは、精霊へとささげられる舞の一つでもあるのだ。

 それは、王にしか伝えられない、精霊のための神聖なる舞。
 それは、王が舞う、民の平穏と安寧を願う祈りの儀式!

 流麗にして華麗な姿をとるには、膝つき二十年と呼ばれるほどの難行だという。
 その美しくも完璧なドゲザーを、まだ齢15にしかなっていないという少年は、完璧に踊りこなしていた……!


「な、なんと、美しい……」


 それを目にした王の瞳には、なぜか涙が溢れていた。


 それは、真摯にこの国の行く末を願う、まさに王の姿そのものだったのだ……

 あのような少年すら国の為にみずからをささげようとしているのに!

 ワシは、娘に王の座を継がせたいという身勝手な思いで彼を見ていた!


「ワシは、なんと、愚かであったのだ……」


 この時王は、なにをもって国の王であるのかを、思い出した……



 その魂をこめたドゲザーは、王の意識すら変えた。
 この国はもっとよくなるだろう。



 そのドゲザーの舞は真に美しかった! 精霊の評価アアアーアーップ!!
 さらに、王の意識も変えた事で、精霊の評価アーップ!

 あと、王の心得を思い出した王の評価もアップ!



 彼の『王の器』は、ついに、天井を飛び出した。



「なぜじゃあぁぁぁぁ!」



 その国だとOKを表すポーズが他の国では侮辱のポーズであるように、この国で土下座とは、聖なる舞を表す、神聖な祈りなのであった。
 異文化交流には注意が必要だね!



「でも、俺は、負けないっ!」

 さらなる結果は推して知るべし。




──────




 王の間。

「して、どう思う?」
「はっ、あの『王の器』を見るに、歴代で最も精霊に愛された男やもしれません」
「あの民を見る目も、政治の手腕も少年とは思えません。稀代の名君となる事でしょう」
 王の前にかしずいた二人。

 近衛騎士団長と魔法師団長が答える。

「なにより、王子がきてからの、国の活気が、段違いです」
「うむ。それはワシも気づいておる」
 彼の『王の器』が光り輝くのに比例して、この国も活気が溢れてきているのは、誰の目で見ても明らかだった。

「ほんの二週間ほどだというのにのう……」
「まったくです……」

 たったこれだけの時間で、彼は、まるで長い時間この国に居たかのように、人々に受け入れられているのだ……


「……ワシは、もう姫にこだわらなくともよいと思っておる」

「ま、真ですか王!」
 魔法師団長が驚きの声を上げる。

「うむ。やはり、精霊が王を選ぶというのは、間違ってはおらぬのだろう。彼を偉大な王と認め、次の王するのに、ワシももう、異論はない……」

「なんと……」
 近衛騎士団長は驚きを隠せなかった。


 娘に王位を継がせたいと願い、そのために王の座から退こうとしなかった王。
 あの少年は、ついに、この王の心までもを動かしてしまったのだ……


「これで、これでこの国も、より繁栄いたしますな!」

「うむ。うむ!」

 王の間に、喜びの歌がこだました。


「ただ、一つばかり悩みが、のう」

「言いたい事はわかります。王よ」


 近衛騎士団長がうんうんとうなずく。


「私も、娘がいるのならば、是非と願うに違いありませんから」

「姫の方もまんざらではないごようす。王。彼を招いて、それとなく聞いてみてはどうです?」
 魔法師団長が、進言する。

「うむ。そうしてみるかのう」



 それから、しばらくして、彼は王に呼ばれ、謁見を許される。

 その場には、王以外に誰もおらず、また、そこに来たのは、彼だけであった。



「なんでしょう、話とは?」

「うむ。細かい話はなしにして、単刀直入に言わせてもらおう」

「はい?」

「我が娘を后として、王にならぬか?」

「お断りします」
 しかし彼は、笑顔で断った。

「な、なぜじゃ!」
 思わず王もその玉座から腰を上げてしまった。

「なぜなら、僕にはもう結婚すると決めた人がいるからです。ですから、お姫様を娶る事は出来ません」

「ななっ!?」

「そもそも王様の方もなる気は……って、聞いてます?」

「そ、その相手とは……?」
 王は動揺で、彼が王になる気はないというのは聞こえてはいなかった。

「んー、わざわざ秘密にしているのも変ですし、言えば納得してもらえると思いますので、言いますね。といっても、僕の事を一番近くで守ってくれているあの子なわけですけど」

「や、やはりか……」
 ここまで言われれば、もう想像は出来ていた。


 ここまではっきりと言うという事は、側室として娶る気もないのだろう……


「そうかね。わかった。もうさがってよいぞ……」

「はい。それでは失礼します」


 そうして、彼は王の間から去っていった。


「はぁ」
 残念そうに、王はその椅子へ体を沈める。

 娘があの少年に恋をしているのはうすうす感じ取っていた。
 ゆえに王の理想としては、彼を婿にとり、王とする事であった。


 さすれば娘は王妃として、その生涯を全うし、次代の王も、我が孫として授かる事が出来る。


 だが、あの少年の意志の強い瞳を見れば、それが不可能である事が見て取れた。

 これでは、娘を后につかせる事も、それに連なる地位を与える事も出来ない。

 彼が王になる事に異論はない。
 だが、娘だけが気がかりだった……


 ああ、どうすれば……


 ふらふらと、部屋の奥へと足を向ける。
 そこには、大きな姿鏡があった。


「鏡よ鏡よ……」


 それは、魔法の鏡。
 この国の王族に伝わる、至宝。
 人生に三度だけ、その願いを実現する方法を精霊が教えてくれる鏡。

 これで、王が鏡を使うのは三度目だ。
 だが、娘のためならば、惜しくはない!


「ワシは、どうすればいい……?」


 ぼんやりと、それは映し出された。


 そこに映し出されたのは、結婚式。映し出したのは、未来か?
 そこには、かの王子とそのボディーガードの結婚式が映し出されていた。
 両者共に美しく成長し、幸せそうに手を振る二人の門出。

 一体、なんの茶番だこれは!

 王は思わず激高する。
 ワシが望んだのは、このような未来ではない!

 決して変えようのない未来を映し出すという事は聞いた事がある。
 実現不可能の場合は、それを諦めさすように。

 つまり、王子を諦めろという事か!?


 だが、答えはすぐにわかった。


 時を巻き戻すように、ボディーガードの姿が、変わってゆく。

 まるで十の子供のような姿。それが、王子の腕に抱かれている。


 王は、その姿に見覚えがあった。
 思わず、目を見開き、後ずさる。


 王は、その伝説の賞金首の姿を、知っている。

 それは、伝説の吸血鬼、『闇の福音』、エヴァンジェリン。
 そして、先日起きたゲート破壊の主犯……


 それが、王子が結婚する人だと言った、娘の正体……!


「そ、そんな……まさか……」

 これは、精霊の教え……
 人生にたった三度しか使えない、精霊の鏡の答え。
 それは、つまり……真実!

 そうだ。王子はあのゲート事件で一度行方不明になった。
 その時、『闇の福音』に魅了されたというのか……!


 まさか、『闇の福音』の狙いは、ゲートではなく、王子であった!?


 そうか。そういう事か、鏡よ……
 これは、未来の姿などではない。今、王子がとらわれているという事を伝えたかったのか。


「はっ、ははははは。ははははははは」


 だが、王からこぼれ出たのは、笑み。
 確信の笑みだった。

 なんだ、ならば簡単ではないか。

 それが魔物であるならば、退治すればよいのだ。
 さすれば、王子はあの吸血鬼から開放される。

 とりもどせばよいのだ。


 我等の未来の王を!!


 だが、どうやって……?
 相手はあの伝説の吸血鬼。
 撃退する程度では、また王子をさらいにやってくるだろう。

 この国の騎士団と魔法師団では、とうてい太刀打ちできまい。
 現に一度、あの娘一人に、衛兵達は圧倒されている。
 訓練を積んだ今だといっても、とうてい及ぶまい。


 確実に、確実に捕えるか、消滅させなくては……
 それには、一個師団は確実に必要となる……


 そして、一つ気づいた。

「ふふ。ははは。ふははははは!」

 思いついた。


 メガロメセンブリアは、ゲート事件で地に落ちた警備の信頼を取り戻したいと考えている。
 その相手として、ゲート事件の主犯で、伝説の吸血鬼を倒すというのは格好の汚名返上材料である。
 あの功名心豊かな元老院ならば、確実に手を貸してくれるに違いない!

 メガロメセンブリアの戦力があれば、かの伝説も屠る事が出来よう!


 待っているがよい我が義息子よ。
 必ずやお前を救い出し、この魔物の手から救い出してくれる!


 その暁には、我が娘を嫁に娶り、この国の王へと!!


 そして王は準備をはじめる。
 確実に、あの伝説を屠るために。

 確実に、あの女狐を消滅させるために!


 娘よ、王子よ、まっておれ。すぐに、お前達をあの吸血鬼から解放してやろう!


 エヴァンジェリンその人を知らぬ者から見れば、彼女はやはり、伝説の怪物でしかなかった……
 賞金首として、婿をたぶらかす吸血鬼として、そう判断されても、なんら不思議はない……


 王としての才覚を思い出したこの父親は、数週間の時をかけ、計略を練る。
 確実に、あの怪物を殺せる方法を。

 この国の一部を、かの大国に売り渡してでも。
 それぞれの利益が合致する方法を、さぐり、実現させる。



 そして、その策は、じっくりと、ゆっくりと、誰にも気づかれぬよう、進められた……





─あとがき─

 というわけで、王子様大奮闘したら大変な事になっちゃった編でした。
 エヴァンジェリンの風評もある意味勘違い。

 さて。一体どうなるんでしょうねぇ。

 次回はネギサイド。
 拳闘士&闇の禁呪編です。


 ところで、結局キス以外のパクティオーのしかたってどうやるんでしょうね。テキトーにそれっぽくでっち上げてみましたけど。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028645038604736