<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.6617の一覧
[0] ネギえもん(現実→ネギま +四次元ポケット) エヴァルート完結[YSK](2012/05/05 21:07)
[1] ネギえもん ─第2話─[YSK](2012/02/25 21:26)
[2] ネギえもん ─第3話─[YSK](2009/06/26 20:30)
[3] ネギえもん ─第4話─[YSK](2009/03/09 21:10)
[4] ネギえもん ─第5話─[YSK](2009/03/14 01:31)
[5] ネギえもん ─第6話─[YSK](2012/03/20 21:09)
[6] ネギえもん ─第7話─[YSK](2009/03/09 21:50)
[7] ネギえもん ─第8話─[YSK](2009/03/11 21:41)
[8] ネギえもん ─第9話─[YSK](2009/03/13 21:42)
[9] ネギえもん ─第10話─[YSK](2009/03/27 20:48)
[10] ネギえもん ─第11話─[YSK](2009/03/31 21:58)
[11] ネギえもん ─第12話─[YSK](2009/05/12 22:03)
[12] 中書き その1[YSK](2009/05/12 20:25)
[13] ネギえもん ─第13話─ エヴァルート01[YSK](2012/02/25 21:27)
[14] ネギえもん ─第14話─ エヴァルート02[YSK](2009/05/14 21:24)
[15] ネギえもん ─第15話─ エヴァルート03[YSK](2009/06/01 20:50)
[16] ネギえもん ─第16話─ エヴァルート04[YSK](2009/06/06 23:17)
[17] ネギえもん ─第17話─ エヴァルート05[YSK](2012/02/25 21:28)
[18] ネギえもん ─第18話─ エヴァルート06[YSK](2009/06/23 21:19)
[19] ネギえもん ─第19話─ エヴァルート07[YSK](2012/02/25 21:30)
[20] ネギえもん ─第20話─ エヴァルート08[YSK](2012/02/25 21:31)
[21] ネギえもん ─第21話─ エヴァルート09 第1部完[YSK](2009/07/07 21:36)
[22] 人物説明&質問コーナー[YSK](2009/07/06 21:39)
[23] 外伝その1 マブラヴオルタ[YSK](2009/03/13 21:11)
[24] 外伝その2 リリカルなのは[YSK](2009/06/06 21:16)
[25] ネギえもん ─番外編─  エヴァルート幕間[YSK](2012/02/25 21:09)
[26] ネギえもん ─第22話─ エヴァルート10 第2部[YSK](2012/02/25 22:58)
[27] ネギえもん ─第23話─ エヴァルート11[YSK](2012/03/03 21:45)
[28] ネギえもん ─第24話─ エヴァルート12[YSK](2012/03/10 21:31)
[29] ネギえもん ─第25話─ エヴァルート13[YSK](2012/03/20 21:08)
[30] ネギえもん ─第26話─ エヴァルート14[YSK](2012/04/07 21:34)
[31] ネギえもん ─第27話─ エヴァルート15[YSK](2012/03/26 21:32)
[32] ネギえもん ─第28話─ エヴァルート16[YSK](2012/03/26 22:10)
[33] ネギえもん ─第29話─ エヴァルート17[YSK](2012/03/29 21:08)
[34] ネギえもん ─第30話─ エヴァルート18[YSK](2012/04/07 21:30)
[35] ネギえもん ─第31話─ エヴァルート19[YSK](2012/04/14 21:12)
[36] ネギえもん ─第32話─ エヴァルート20[YSK](2012/04/14 21:20)
[37] ネギえもん ─第33話─ エヴァルート21[YSK](2012/05/05 21:03)
[38] ネギえもん ─最終話─  エヴァルート22[YSK](2012/05/05 21:06)
[39] 第2部登場人物説明兼後日談&質問コーナー[YSK](2012/05/05 21:01)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6617] ネギえもん ─第27話─ エヴァルート15
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/26 21:32
初出 2012/03/24 以後修正

─第27話─




 魔法世界放浪編はじまったよ。




──────




 ……ゆっくりと、意識が覚醒してゆく。


 重いまぶたが開かれ、ぼんやりとした視界が、クリアになっていく。



 ここは、知らない天井か。と言っておくべきなのかなぁ。



 なんて事を、なんか南国みたいなファンタジーの天井を見て思った。


「……目を、覚ましたか」

 視線をずらすと、俺を覗きこむエヴァンジェリンの顔。

 ベッドの横にある椅子に座って、俺を診ていたようだ。


「……あぁ、起き抜けに好きな人の顔が見られるとか、俺幸せ」

「ばっ、馬鹿な事を言うな!」

 あわてさせちまったい。
 周りに他の誰かが居るのかと思えば、誰も居なかった。
 ならいいじゃないか。


 むしろ二人きりでエヴァを照れさせた事に、自分で自分を褒めるべきだろうか。


「それより、俺どのくらい寝ていた?」
 ベッドから体を起こす。
 周囲を見渡すと、どこかの宿のようだった。そこはまさに、ファンタジー宿屋。

「丸一日くらいだな」

「そっか」


 ……今の状況を思い出す。
 魔法世界に到着した事。
 そこで俺が大暴れして、ゲートを見事破壊してしまった事。

 そして……


「……一日だけか。ならよかった」

「……一日も、だ」


 ぽつりと。言われた。
 多分、聞こえないように言ったのだろうが、甘い。そこいらのハーレム系主人公と違って、俺は耳がいい。はず。たぶん。

 だから、しっかりその一言は、俺の耳に届いた!


「エヴァンジェリン」

「なんだ?」

「俺が自分に刀を突き立てるの、見てたか?」

「……見ていた」

「そっか。だからか」


 だから、一日も目を覚まさなかったと心配してくれたのか。
 そりゃ、心配するよな。
 当たり前だよな。


「ありがとな。体の方は大丈夫だ」
 たぶん。
 体に違和感はないし、ぐっすり眠ったあとの清々しさすらある。
 だから、体に関しては、問題ない。

「……ふん」
 と、おなじみ明後日の方を向かれてしまった。

「ん?」
 向いたあと、気づく。

「体は、だと?」

「ああ……」


 俺は、ゆっくりと、自分のポケットに手を伸ばす。


 その、確認の、ために……




 その同時刻。

 魔法世界。
 ジャングル。


 俺は、ジャングルの中を走っていた。

 状況としては、アレだ。原作でのゲートポート爆発後、ジャングルに落とされ、お供の電子妖精も失った長谷川千雨嬢ちゃんと似たような状況。

 いや、ぶっちゃけその状況とそっくりだ。


 エヴァの転移で振り落とされた後、気づけばそこは鬱蒼と木々が生い茂るジャングル。
 幸いだったのは、超が手伝った『白き翼』バッジ。

 魔法世界に到着したらバージョンアップして地図を入れると言ったのを実行しておいてくれたようで、自分が魔法世界のどの位置にいるのか、すぐに把握出来た。
 どこに行けば人里があるのか。そして、近くにバッジの反応がいくつかあるのもわかった。


 だから、そのバッジの持ち主と合流しようと一日移動したのはいいが、そこで見事に原生生物に追いかけられているというわけなのである。

 ひゃっはー。こいつはやばいぜー。
 捕まったらエロ展開だぜー。服を溶かされるはずだぜー。俺男だぜー。じーさんとお風呂のように誰得展開再びだぜー。


 あひゃあひゃと現実逃避しながらも、必死に足を動かす。

 だが、逃げた場所が悪かった。

 でっかい。木の根だけで二メートル以上ある木々に行く手をさえぎられ、行き止まり。


 すなわちそれは、大ピンチ。



 木の根を背に、俺はそのせまりくるナマモノを見る。



 ……しかたがない。



 俺は覚悟を決め、ポケットへと手を伸ばした。

 無駄だとわかっていながらも……




「「……やっぱり、『ポケット』は使えないか」」
 手を入れた先は、なんのへんてつもない、その服のポケット。ただの、ポケット……



 エヴァンジェリンと一緒にいる『彼』と、ジャングルにいる『彼』。
 違う場所だが、同じ人間の声が、重なった。


 そう。彼はなぜか、二人に分裂していた……!





 足に触手が絡みつく。さかさまにされて持ち上げられる。


 いやあぁぁぁぁ。溶かされるぅぅぅ!



 くぱぁ。


 なんかナマモノが口らしきものを開いた。
 状況的に、いただきまーす的な……

 え? あれ? ひょっとしてこれ、想像と違うナマモノ?
 千雨嬢ちゃん襲っていた、エロ的ナマモノとは別のモノ?

 俺、おいしくいただかれる?


「ら、らめえぇぇぇぇぇ!」



 どごーん。



「大丈夫ですか!?」

 ナマモノを蹴り飛ばし、魔法先生が助けにきてくれた。

 やばいね。俺が女の子だったら、この状況で惚れてたかもだわ。



 茶々丸さんにお姫様抱っこされながら、そんな事を思った。




──────




「「一体なぜ?」」
 一方は宿屋。
 もう一方は、ジャングルを脱出した水辺で、俺がポケット(力)が使えなくなったのかを聞いてきた。ついでに、あのゲートでなにが起きたのかも。

「たぶん。だけどな……」


 俺は、あの時の事を思い出す。


 あの時俺は、左手を支配した存在に、『ポケット』を使わせないと願った。
 こんな力、使えなくなっていいと願った。
 そして、『四次元ポケット』は、俺の考えを正確に理解し、道具を出してくれた。

 あの時出した道具は……


『半分こ刀』
 この刀でモノを切ると、形は元のまま、大きさが半分の同じもの二つに分かれる。どんなモノでもサイズが半分になるが、倍に増やす事が可能なのである。
 人間をそのまま斬る事も出来、二人となった人間がそれぞれ行動する事も可能である。
 この刀を持った人間が自分を切ると、この刀自身も半分となる。


 その刀で、俺は自分を斬った。
 つまり、俺は今、この世界に二人居るという事になる。

 俺のサイズがそのままなのは、エヴァンジェリンの転移の最中にそれを行ったからなのか、他に理由があるのかはわからない。
 単純に、二人になっていないだけなのかもしれない……
 これに関しては、エヴァ(茶々丸さん)が、転移によって体が転送されたさい、その影響でサイズが修正されたのだろうと言っていたのでそうなのだろう。
 なにせ魔法だから、そのくらいの修正やってのけても不思議はない。

 ちなみに、その刀自体は転移の影響でどこか別の場所へ飛んで行ってしまったから、今どうなって、どこにあるのかも不明だ。


 なぜあの時この道具が出てきたのかはよくわからない。
 二人になっていたとしても、それがどういう因果で『ポケット』を使用不能にするのかも。

 ただ、俺の考えを反映してこの道具が出てきたという事は、それで『四次元ポケット』が使えなくなるという意味でもある。
 事実、使えなくなったのだから。


「本当に二人になっているかはわからないが、そんなわけで、俺はもう力は使えないわけだ……」


 こう、俺は説明を締めくくった。




 神ならざる人の身でしかない彼にはわからないが、先に補足しておこう。
 二人になったという事に、当然意味がある。力も二つに割れた。すなわち、『ポケット』を開ける彼と、『ポケット』を持つ彼。鍵と扉に別れたという事なのだ。

 一応、二人が出会えば一方が『ポケット』をもち、一方が『ポケット』を開くという手段で道具を取り出す事が可能ではある。
 そして、『道具』の中には、二つの物体を一つにするという『道具』もある。つまり……

 が、当然そのような事が出来るなど、まだ誰にもわからない……




───ネギサイド───




「そんな事、本当に可能なんですか……?」
 大変驚いたようにネギが、俺に聞いてくる。

 未確定ながら、俺の体を奪おうとしたのが、フェイトの裏にいるヤツかもしれないというのにも驚いていたが、さらに驚いたのは、俺が二人になったかもしれないという事だった。

「まあ、たぶんな。事実なのは、俺がその力を使えなくなって、俺がいつも言ってた一般人であるという主張がそのまま通る人間になったって事さ」

 本当にもう一人いるのかどうかは、人里に降りて『俺』を探してみないとどうしようもないが。


「……本当の可能性が高いです。バッジの反応が、当初より一つ、多く確認されました。これで、謎が全て解けます」
「ああ。そっか。バッジも二つになってるって事か」
 サイズ半分で同じものという事は、つけてたバッジも二つになってて不思議はないって事だもんな。

「バージョンアップで追加されたナンバリング情報が正しければ、もう一人はマスターと共にいるようです」
「おお。もう一人の俺発見。てか、いつの間にそんなの追加されたの?」
 一番最初に教えてもらった時はバッジの位置だけで、誰が誰だかわかんなかったじゃん。

「はい。正式に部員が決まったさいに、バッジそれぞれへナンバーが割り当てられまして、誰のバッジかわかります」
 それを、魔法世界で地図を入れた時一緒に入れたのだそうだ。
 だから、誰がどのナンバーかは、まだ茶々丸さんと超しか知らない。


 おおー。それは便利。
 ただ……


「ただし、そのバッジをその人が正しくつけていれば。だね?」

「はい。手違いで別の人のバッジをつけていたりすれば、その場所とその人は一致しません」
 当然、落としていたり、部員でもない人が勝手につけていたりする可能性だってある。

「ま、参考程度にってとこか」

「はい」

「それでも、どのあたりに誰がいたのかがわかるのは、大きいです」
 ネギはこの事は俺と合流する前に教えてもらったのだろう。
 だから、大きく取り乱してもいないというわけか。


「じゃあさっそく、この近くにコタロー君がいるみたいですから、合流しに行きましょう!」

「はい」

「おー! ……と言いたいところだが、すまない。休憩させてくれ……」


 昨日今日とジャングルを一人でぐるぐるして疲労がちょうたまっているんだ。


「あ、すみません。そうですよね。ゲートで体を乗っ取られそうになって、その上力まで失って一人ジャングルを移動していたんですから」

 うん非常にわかりやすい説明ありがとう。

「まあ、俺ここで休んでいるから、二人でコタローを探しに行ってもいいと思うよ」

「それは危険ですよ!」
 ネギがそれは絶対にノゥと言ってきた。

 まあ、確かに開けた水場だけど、そこに危険な生き物が現れないなんて保証もないしなぁ。
 『道具』も使えない一般人の俺を置いてはいけないよな。


「……悪い。俺、今足手まといだもんな」


「そ、そういう意味じゃ……」
 ネギは言いよどんだ。


 しかしそれは、逆に俺の心にクリティカル!


「ううう……ごめんなさい」
 ネギに、ネギに今、気を使われてしまったぁ!
 がくりと砂浜に膝をつく。


「ええー!?」
 ネギもなぜそうなったとびっくり。


 彼女だって、今生徒達を助けに行きたいのに必死なのに。
 なのに俺、こんなところで足止めさせて……


 俺、なんて足手まといなんだ……


 その上原作の流れなんかぶっ壊してやろうといきまいていたのに、見事に失敗して自分がゲートを壊しているのだから世話もない。
 ネギ達に安全な旅行をさせてやろうなんて思っていた過去の俺をぶん殴ってやりたい!
 素直にネギ達に教えて、力を貸してもらってさらに対策を練ってればまた違ったかもしれないのに。

 しかもこれから彼女達には国際指名手配犯とかの疑いがのしかかるかもしれない。
 俺が主犯で賞金をかけてくれればいいが、確定とも言えない。


 なのに俺は、完全に足手まとい……


 ごめんよー。ごめんなさいよー。


「ううー。うー」
 砂浜に頭をかかえ、うなることしばらく……



(……なぜでしょう。いつもならば私が素敵だと思う悶え状態というのに、今の姿は、素敵とは思えません。なぜでしょう……)
 彼の情けなく悶える姿&土下座フリークの茶々丸は、そう思った。
 普段彼の魂が発するポジティブネタのようなものは今はなく、今はただ、ネガティブな悲観だけが現れた状態を、彼女は機械ながら敏感に感じ取っていた……

 しかし、今の彼女に、そんな彼へかけられる言葉は見つからない。
 自身のマスターであるエヴァンジェリンならば、きっと彼を一瞬にして元気に出来るのだろう。だが、自分にそんな芸当は出来そうにもなかった……

 そう。茶々丸には……



「……そんな事はありませんよ」

 そんな優しい言葉が俺に降り注ぎ……

 ふわりと、俺はネギに抱きしめられた。


「え?」


「そんな事ありません。足手まといなんかじゃありませんよ。むしろそれで、自分をそんなに卑下しないでください……」

 まるで、子供をあやすように、俺の背中をぽんぽんと、優しく、なでるようにたたく。


「僕は、あなたを頼りにしているんですから」

 ネギの体だって少し震えている。
 いくら取り乱してはいないといえ、本当は、生徒の為に駆け出したいのだろう。
 なのに、俺をこうして慰めてくれている……



 ……なさけねぇなぁ。



 自分の情けなさを、はっきりと理解する。
 そうだ。今の俺は、本当に足手まといなんだ。
 『道具』も使えない、ただの人なんだ。

 そんな俺が、こんな姿で居たら、さらに足手まといになってしまう。
 ネギ達を不安にさせてしまう。

 そんな事、大人である俺が、やっていいわけがない。
 むしろ子供先生の精神的な支えになってやるくらいでないと、この足手まといを返上すら出来ないというのに。

 起きてしまった事はもう変えられないし、後悔しても仕方がない。
 これからどうするかの方が重要じゃないか。


 それを今、俺ははっきりと思い出した。



 それに、子供に幻滅されちゃ、大人失格だもんな。



「……ネギ」

「はい」

「ありがとな」


 抱きしめられたまま手を回し、その頭をぽんぽんと撫でる。


「君も自分の生徒の安否が気になるだろうに」

「大丈夫です。みんな、こういう時のために、訓練してきたんですから」


 ネギが震えているのが止まっているのがわかった。
 そういえば、少なくともイレギュラーな生徒が紛れこんではいないんだったな。
 バッジさえなくしていなければ、全員の安否は確認が出来る。
 だから、少しだけ心に余裕が出来たって事か。


「自分よりテンパった人を見ると人は逆に冷静になってしまう理論ですね」

「うん。的確な指摘をありがとう茶々丸さん」

「そ、そんな事……いえ、少しはありました」

 ネギが正直に答えてくれた。

 えらいなネギ! 正直な子はおじさん嫌いじゃないよ!


「ともかく、もう大丈夫だ。これからしばらく、色々な困難があると思うが、力を合わせてがんばろうな!」

 そうだ。このままネギと一緒に居れば安全だし、『四次元ポケット』という異物も使えない今、あの事件で原作と同じ流れに戻されたと仮定すれば、そのままネギが解決してくれるという事でもある!(ただし彼の知識は原作格闘大会終了後少し後くらいまで)
 『ポケット』に関しては元々偶然拾ったような力だ。色々頼ったが、正直なかったらなかったで生活に困るわけじゃない。
 便利ではあったが、所詮は道具。ずっとある。なんて思っているほど子供でもない。
 ないならないで俺は一般人。むしろ変な超人に狙われる事もなくなるというわけだから、悪い事ばかりでもない。
 そうだ。ネガティブに考えていても仕方がない。

 だから、きっと大丈夫!
 だからがんばれ主人公!


「はい!」


 ひとまず、ネギと握手!



 そして……!


「そして茶々丸さん! この事はどーかエヴァにはご内密にぃ!」


 今最新式の!

 くるりと体を回転させ、茶々丸さんの方を振り向く。


 回転を利用し、我が魂をこめた、砂の上でドゲザー!
 うむ。この流れるような土下座。たとえ『道具』を失おうと、衰えていないぜ。


 弱音を吐いた挙句、ネギに抱きしめられていたなんて知られたら、またエヴァに浮気かとか言われるから!
 情けないと、プゲラ笑いされるから!


 だから、ご内密にお願いしますぅ!!



 ぞくぞくぅ。
 その土下座を見て、茶々丸は、背筋に駆け抜ける、なにかを感じた。
 正体はわからないが、なにかの快感が自分の背を駆け抜けたのを、茶々丸は感じた。
 人が、美しい芸術品を見た時感じる、表現のしようもない電流が、彼女の体を駆け抜けたのだ。

 ……戻った!
 茶々丸は、その姿を見て、確信する。


「さて、いかがいたしましょう」
 記録を残しつつ、もう少し長く。長くと、引き伸ばす。
 真の魂が戻ったその土下座を見て、茶々丸は自分のメモリーにそれを記録しまくっていた。


「なにとぞなにとぞー」
 へへーと土下座を繰り返す少年。


 すばらしい。なんとすばらしい、素敵な土下座か。
 この魂まで光り輝いているかのような美しさ……
 これです。これが見たかった。しかも私にしてくれている。正面から最高画質で録画です。最高です。
 今なら人が、興奮のあまりなぜ鼻血を流すのか、理解出来る気がします。
 この芸術のような動作を、私はいつまでも見ていたい。


「おねげーしますだー」
 ぺこぺこ。


 ……あれって逆効果なんじゃ? 茶々丸のモエを知るネギは、そう思った。
 でも止める手段が思い浮かばなかった。



 彼の土下座を堪能して。



「わかりました。マスターに詳しく聞かれない限りはお話しいたしません」

「……主人であるエヴァに聞かれたのならばしかたがない。わかった。ありがとう!」


 顔を上げ、にっこり笑顔でありがとう!


「はい。ですから……」

「え? なにか条件ですか?」

「いえ。そのままの貴方でいてください」

「それなら大歓迎です。がんばります!」


 そんな簡単な事ならお安い御用さ!


「さて。そういうわけだから、とりあえずコタローと合流するためがんばろうか!」
 すっくと立ち上がりながら、ネギの方を再び見る。

「……あ」
 すると、俺の外れた視界の方で、茶々丸さんがそんな声を上げた。
 ずっと彼の土下座記録してたから気づくのが遅れたのは秘密の話。

「あ」
 ネギも声を上げた。


 なにかを見つけたような感じだ。
 なので、俺もそっちを見る。



 そこには……



「にーちゃーん!!」


 どごーんとつっこんでくる、犬っ子の姿があった……

 音が、あとから、ついてきた……dato?(単に反応出来なかっただけ)


「にーちゃんの匂い追ってここまできたー。やっぱにーちゃんやー。にーちゃーん!」


「ぶくぶくぶく……」
 ちなみにこれは、水辺につっこんで沈む、俺の生存確認音。


「にーちゃん!? にーちゃーん!! にーちゃーん!?」



 ある意味お約束で、俺は意識を失った。



 この後コタローのウエイトトレーニング機器として、ジャングルを進みます。
 わかりやすく言えば、おぶってもらって。

 それが一番移動早いからね!



 大人なさけなし!



 ちなみに、そんな子供におぶさった姿なんかも、これはこれで素敵と、茶々丸の画像フォルダがまた潤うのだが、それは完全に別のお話。




───ネギ───




 あの人は、一人で苦しんでいました。


 たった一人でゲートで起きようとした事を解決しようとして。
 でも、それはうまく行かなくて。

 僕達をまきこんでしまった事を悔やんで……


 情けないのは、僕達も同じです。
 あの時、異変に気づいていたのに、僕達はあなたの助けにもなれなかった。

 あれだけがんばって修行したのに、その背中にすら届かなかった。

 情けなくて、悔しくて。


 でも、それ以上にあの人は、自分を責めていました。


 だから僕は、ほんの少しでも、あの人の力になりたかった。
 いつもいつも影ながら助けてもらってばかりの恩を、少しでも返したかった。


 学園で、京都で、そして、村のみんなを助けてもらったお礼を、少しでも返したかった……


 僕はただ、無心であの人を、抱きしめる事しか出来なかったけど……


 それでも……


「……ネギ。ありがとな」
 背に回した手から、頭をぽんぽんとなでてもらいました。


 雰囲気が変わったのがわかります。

 僕の力かどうかはわかりませんけど、いつものあの人に戻りました。


 いつも学園で見る、飄々としたあの人に。


 少しだけでも、僕が力になれたら、とても嬉しいです。


 その後、僕から抱きしめたのだから、僕が悪いはずなのに、茶々丸さんにわざわざ土下座をして。
 でもどこか、楽しそうで。


 あの人がいるだけで、僕の心も軽くなる気がします。


 ……なんだ。全然足手まといなんかじゃないじゃないですか。

 いるだけで、僕をこんなにも強くしてくれるじゃないですか。
 こんなにも、心強いじゃないですか。


 力、全然なくしていませんよ……



 なんて思っていたら、コタロー君が現れて、まるで、学園に居る時みたいに、どごーんをやってくれました。



 不謹慎ですけど、笑ってしまいました。


 大丈夫。
 僕達も、皆さんも。

 不思議と、そう思えました。


「もー。コタロー君ダメだよー」

 今力を失っているんだから、抑えないとダメだという事を伝えるために。
 水辺に沈んでしまったあの人を助けるために、僕は砂浜を走り出した。




───エヴァンジェリンサイド───




「そう、か。それでか」
 エヴァが俺の説明を聞き、なぜ刀を自分の体につきたてたのか、なぜ力が使えなくなったのかを理解する。


「ああ。そんなトコ見れば、心配にもなるよな。すまない。心配かけた」

「……ああ。心配した。だが、必ず目を覚ますと、信じていた」

「サンキュ。でも、悪いな。これから色々大変なのに、足手まといになってしまって」


 それに、今一瞬、嫌な事を思ってしまった。
 『四次元ポケット』を失った俺。つまり、『ポケット』のない俺。それは、俺の魅力が9割以上減った事を意味する。
 別にない俺が嫌ななわけじゃない。偶然手に入れたような力だ。あったら便利だが、なくなったらただの俺に戻るだけで、執着がそこまであるわけじゃない。
 一般人の俺になって、超人に目をつけられるなんて事もなくなるわけだし。
 嫌なのは、それじゃない。ただ、思いついてしまったのは、『ポケット』の力を通じて俺を見ていたエヴァの心が、離れてしまうんじゃないかって不安だ。

 いかんな。そんな事を考えるのは、あいつに失礼な事だってわかっているのに……


「……それがどうした?」

「え?」
 まるで、俺の心を見透かしたかのような、エヴァの言葉。

「お前は、私が吸血鬼じゃなくなり、力を失うかもしれなかった時、なんて言ったか覚えているか?」

「あの時、か……」


 思い出す。
 橋の上で、語り合った事を。



 前略。


『人間に戻ったら、なにも出来ないかもしれないぞ?』
『俺が守るよ』


 後略。



「今度は、その言葉をそっくりお前に返そう」


 俺をじっと見て、エヴァンジェリンが、そう言ってくれた……


 その言葉を聞いた時、思わず笑みがこぼれてしまった。
 この不安が消えてゆく感覚。

 そうか。エヴァも、こんな気持ちだったのか……


「……俺、力をなくしたら、なにも出来ないかもしれないぞ?」
 だから俺は、あの時の言葉を真似て、返した。

「かまわんさ。今度は私が、お前を一生守る」

「ああ。よろしく、頼む」
 一生なんて、嬉しくてないちゃうぞ。



 ぎしぃ。

 ベッドがきしむ音がした。

 エヴァが、その膝をベッドに置き、両手を、俺の体へ乗せ、俺の元へせまってきている……


「へ?」



 そしてそのまま、唇を奪われた。



「これでもう一度、お前は私のモノだ。これが、その証。もう二度と、そんな不安を抱えるな」
 ゆっくりと、そのやわらかい唇を放し、力強く断言しやがった。

「……てめぇ」
 俺は我慢しているってのに、そう簡単に何度も俺の唇を奪うなばかー。
 あん時の流れだと、お前我慢する方だろうがー。自重する方だろがー。

「どうした? 今はお前が、守られるお姫様みたいなものだろう? 大体、私からする分には問題ないはずだぞ?」
 にやりと、意地悪そうに笑う。

「ちっ、恥ずかしい事を言いやがって……」
 ばかー。

「ふっ、恥ずかしい事ならお前の方が人前で連呼しているだろうが。それに、今回は誰も見ていないからな。いくらでも言ってやるぞ?」

「くっそ……」


 ダメだ。今回は完全に主導権を握られた。勝てそうにない。
 思わず顔を片手で覆って頬が赤くなっているのを隠す。


「ふふ、かわいいぞ」

「ああくそっ。お前に気持ちを察せられるわ、強引に唇を奪われるは、ダメダメだな俺は」
 涙を流していないのが唯一の救いってヤツだ。
 そしてさっきのキスは、このまま落ちこんでいたら、そのまま押し倒すぞとかいう意味もあったんだろうな。
 それでいいのか? 早く立ち直れって、言葉にない励ましが。


「かまわんだろう。たまには私も、お前を支えさせてくれ」


 ふっと、力を抜いたエヴァの笑顔が、俺に降り注いだ。


「……」
 ああ、ダメだ、今日のエヴァはきっと無敵だ。

「……ありがとよ」
 おかげで、楽になった。
 元気出た。

「ふふ、どういたしまして」


 だから、頼りにしてるぜ。


「でも、がんばりすぎないでくれよ」
「お前に言われたくはない。それに、私を誰だと思っている?」

「まったくだ。なら、安心だな」



 俺達は見つめあい、そしてまた、笑いあった。




───エヴァンジェリン───




 さしもの彼も、力を失えば、不安を感じたようだ。
 あれほどの力を失ったのだ。それも当然だろう。

 いや、違う。
 彼にとって、自分の力などどうでもよかったのだろう。
 普段から、力を極力使わず過ごしているのだ。そこに不都合が生まれる事はほとんどない。
 彼はやはり、こういう可能性を想定して、普段から力に頼らない生活をしていたのだな。

 本当に不安に思ったのは、私の足手まといとなって、共にいられないかもしれないという不安。

 確かに私は、元が知られれば狩られる可能性のある600万ドルもの賞金首。
 力を失えば、私と共に居る事も難しくなる可能性すらある。


 そのために出た言葉が、足手まとい……


 あれほどの力を、あの瞬間にすべて捨てると判断をして、全てを捨てる事の出来たあなたに生まれた不安は、私と共に居られないかもしれないという事。

 それはつまり、自分の力などより、私の方が大切だと告げてくれたのと同意ではないか。


 足手まといになる?

 それがどうした。


 私がお前を見捨てる?

 そんな事あるはずがなかろう。


 私は、お前の力だけに惹かれるような女ではないぞ。お前の力になどもう興味はない。

 私は、お前という人間に惹かれたのだ。

 お前の普段はダメなところも、人前で私をからかうところも。あの土下座も。
 どんな時も堂々として馬鹿な事を言っても、いざという時、とてもかっこよいところも。

 お前の力などなくとも、そんなお前が、大好きなのだから。


 なによりあなたはあの時、私が力を失っても守ってくれると言ったじゃないか。
 あの言葉に、私がどれだけ勇気づけられたか、知っているのか?

 あの橋で言われた事を、そのまま彼へ返すと告げたら、目を見開いて驚いていた。
 闇の中に、光を見つけたような顔。きっと、あの時の私も、彼と同じ表情をしていたのだろう……

 その表情は、あまりにも愛おしかった。


 だから私は、我慢が出来なくなって、彼の唇を奪ってしまった。
 あの時彼は、よく我慢したのだと思う(私はあの時逆に手を出すと言ったから問題ない!)


 これは、私からあなたへの誓い。
 それは、あの時したあなたが私のモノで、私があなたのモノであるという証の確認。
 さらに、これで立ち直らなければ、そのまま押し倒してしまうというぞという挑発。

 これらすべては、伝わったはずだ。


 ……しかし、この脳が焼き切れるかのような甘い感覚を、よく我慢するものだ。
 それだけ、将来のその日を大切にしているという証なのだろうが……


 彼の表情が、いつもの生意気な状態に戻った。
 そうだ。それでいい。お前はそのくらい生意気の方が、守りがいがある。


 ……なんだろう。この、守りたいと湧き上がる気持ちは。


 これが、母性本能とでもいうのだろうか?
 いや、違う。母性は、少し違う気がする。

 ただ、一つわかるのは、守る立場も悪くない。という事だ。
 守る者がいるというのは、すばらしいという事だ。
 600年知る事のなかったこの感情を知る事が出来たというだけで、このはじまったばかりの旅も、価値がある。


 それに、可愛い恋人の姿も見れたしな。



 普段はあれほどりりしいくくせに。



 ふふっ……




──────




 さて。

 俺の事がひと段落したところで、今度は他の子の事だ。
 ゲートがあんな事になったのなら、大騒ぎになっているのは間違いないだろう。


「とりあえず、他の子達は?」
「わからん。行き先を決めず転移させるのが精一杯だった。行き先までは不明だ。ただ、死者はいない。怪我人はいれどもな」
 その死者とは、ネギパーティーだけでなく、あの場にいたゲート関係者や他の人などもふくまれる。
 いくらランダムといえども、命の危険にある場所へ人を飛ばしていない自信を見せるエヴァ。なら、それを信じよう。

 死者がないなら幸いだ。ネギ達『白き翼』の面々にはバッジもあるし。


「そーいやあのフェイト達は?」
 バッグにしていたフェイトに虫かごに入れたあの仲間達。どうしたんだろ。

「転移はさせていない。が、あの程度で死ぬようなタマではないだろう。今後出てこなければそれまでだ」

「それもそうだな」
 確かに、考えてもしかたがない。


「あとの問題は、これくらいだな」


 と、エヴァが部屋に備え付けてあるファンタジーテレビをつける。
 電源を入れると平面の画面が飛び出してきた。さすが魔法。


「どうやらちょうどやっているようだ」


 そこには、あるニュースが流れていた。
 ニュースキャスターが、原稿を読み上げる。

『先日起きた、世界各所で同時多発的に起こったゲートポートの魔力暴走事件の続報です』
 あぁ。こいつは俺の知る記憶とおんなじ展開だな。


 ここまでは……


『メセンブリア当局より新たな映像が公開され、賞金600万ドルのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの生存が確認され、賞金が再認定されました。エヴァンジェリンは今回のゲートポート破壊の首謀者と見られており、強力な従者と共に、こちら側に潜伏していると思われます』


 そのテレビの映像には、エヴァンジェリンがゲートを破壊する映像が映し出されていた。


「これは、我々がいたのとは他のゲートを破壊したとされる映像だな」
「捏造か」
 そして、フェイト達が無事だったという証明でもある。


『これにより、エヴァンジェリンの賞金は700万に跳ね上がり、歴代最高額をさらに更新する事となりました』


 凶悪なエヴァの似顔絵と、さらにはその従者として、ネギとその他生徒達の写真が国際指名手配として紹介されてゆく……


「まあ、私をその首謀者にしたのは褒めるべきだな。万一あの小娘の下に私がいたというのなら、その捏造犯の首をねじ切っても足らんところだ」

「賞金再設定されてそんな事言うなよ……って、あれ?」
 賞金首となった子達を見て、俺は疑問の声を上げる。


「気づいたか」

「ああ。何人かあの場に居て指名手配されていない子が居る。それと、俺が指名手配されてない」
 かわりにゲート事件において王子様(俺)行方不明というニュースが流れている。

「小娘達の方は、なぜかはよくわからん。だが、お前の方は、アレのヨリシロであり、大切な体でもあろう。それを危険にさらす賞金首にするなど、奴等にしてみてもよい事ではない」

「そうだな」
 そして、俺の中で暴れたアレが、フェイト達と関係があったのが確実となったわけでもある。いや、ゲートの時から確実だったけど。やっぱ『造物主』だったかぁ。

「そして私。私は元々この世界最大級の賞金首だ。ならば、この私に罪を被せてしまった方が、捏造もたやすい。なにより、その罪がなくとも元々の賞金が600万だからな!」


 えっへん。と胸を張った。


「……悪かった」
 なぜか、思わず謝ってしまった。

「お前の謝る必要性がどこにある。それともなにか? お前は自分の意思で、あのゲートを壊したというのか?」
 きっとにらまれてしまった。

「……はは。お前にそんな事言われるとはな」
 今日はホントに立場が逆転しているぜ。

「なにを自嘲している。それに、私は気にしていない。たった100万増えたところでなんだというんだ」

「今日のエヴァは、なんだかすげぇ頼もしく見えるな」
「おい。今日のとはなんだ今日の。とは」

「ううう。お兄さん嬉しいわ。こんなにちいさかったエヴァちゃんに責任感が生まれたなんて……」
 なきまね。

「せい!」
「ばーぼん!」


 スパーンと後頭部たたかれた。
 くっそ。ベッドから体を起こしていてちょうどいい高さにあるからって!


「ま、そうだよな。起きちまった事を嘆いても仕方がない。このままトンずらして、みんなと合流。そして現実世界へ逃げ帰っちまおうぜ」
 幸いにも、超がバッジでどこに居るのか把握する機能をつけておいてくれた。それを使えば、どこに居るのかすぐわかる。
 原作よりも、把握がしやすいはずだ。

 まあ、結局合流は一ヶ月くらいあとにある祭りになるんだろうけど。


「その前に行くべきところへ行かねばならんがな。王子様」
「あー。確かに、王位継承権も消しておかないと迷惑かかるしな」
「そういう事だ。行くぞ」

「えー。もうちょっとねたーい」
「行くぞアホウ」

 もぞもぞとベッドに入りなおそうとした俺は、襟首つかまれて、部屋から放り出されましたとさ。

「ひどーい」
「これでも優しいくらいだ」


 一度ドアが閉まり、部屋から現れるのは、幻術を使い大人の女に変身したエヴァンジェリン。
 年齢詐称かー。


「では、行きましょうか、王子様」
「へいへい。んじゃあ護衛、よろしくお願いしますよ。ボディーガードさん」


 こうして俺達は、ひとまず俺が王位継承権を持つという、ある王国を目指すのだった。




─おまけ─

(しかし、万一本当に二人になっていたとして、その二人から愛されたりしたら、私はどうなってしまうんだろう……?)
 わりとしょうもない事を考えてしまったエヴァンジェリンであった。


 なに。いざとなったら『コピーロボット』があるからなんとかなるさ!




──────




「テルティウムよ」
「なんだいデュナミス?」


 サイズは戻ったが、いまだ氷の棺にとらわれ、首だけ出した男が言う。
 フェイトの方もゲートの爆発によってダメージは受けたが、従者によってなんとか助け出され、無事活動していた。


「我々の計画は続けるのかね?」
「もちろんだよ。主にこの計画をやめろと言われたのかい?」


「残念だが、あれ以後主の気配はない。あの少年は、主に見つからぬようみずからの力を封じたか、他になにか対策をとったのだろう」


「なら、僕達は僕達の計画を進めるだけだよ」


 例え主に、別の計画があったとしても。


「うむ。そうだな」
「じゃあ、僕は行ってくる」

「うむ。私もこの縛めをどうにかして解けるようがんばってみる」


 そう言って、もう何日そのままだろうか……

 この氷の棺は、呪いに近い。自動で氷を精製し、その身を封じ続ける。さすが『闇の福音』エヴァンジェリンの呪文といえる。
 しかしそんな氷だったからこそ、縮小され虫かごに捕らわれていた三人が、あの爆発の中無事でいられた。



 部屋を出てゆこうとして、フェイトが止まる。



「……ところで、あの賞金首の件は……」
「なにかな?」
「いや、なんでもないよ」

 主のヨリシロであるあの少年に、賞金をかけさせないよう手を回したのは、当然の話ではある。
 現在、真に主の意思が宿る器は封印されている。しかし、なんらかの理由で、あの少年の体を操る事が出来たのだ。ならば、その体を使って、復活するという方法もありえるからだ。


 だがフェイトとしては、賞金をかけ、始末しておいたほうがよいと考えていた。


 この計画を実行する中で、最も危険なのはあの器にすまう少年だと感じたから。
 主から逃れるため、力を封じたのなら、今が絶好の機会でもあるから。


 だが、さすがにそれは口に出さなかった。
 もう一つ、なんとも言えないモノが、胸の奥に存在していたから。

 それは、自分が今行っている計画を、主にとめられるのではないかというものだった。
 主がそう思うのならば、とめてしまえば問題はない。

 この世界を救う方法が別にあり、主がそう望むのならば、その方法を選択する。
 コマである自分に選択の余地はない。


 だが……


 フェイトにはそれが、受け入れがたかった……


 あの主には従いたくない。
 そう思えたから。

 そのような事を考える自分の胸のうちがわからない。
 胸の奥にひっかかったなにか。それがなんなのかわからない。

 だから、その事は口に出さなかった。



「……行ったか。目的意識も忠誠もないというのは、時として御しやすいものだ。主を復活するための目くらまし、がんばってくれたまえ」

 くくく。と笑う。
 君は、その計画の為に出来る限りの準備を進めればいい。
 旧オスティアへ魔力を集め、ゲートとあの場所をつなぎ、時間を稼げばいい。


 さすれば、あの地にて我等の主は蘇る。


「そして、何度もぶっ潰しにきてくれたタカミチとゲーテルを今度こそぼっこぼこにしてくれる!」


 やっぱり私怨で動いているこの男であった。
 ついでに氷の棺に入れられたまま言われても、全然しまらなかった。




───エヴァンジェリンサイド───




 あれから数日後。


 俺とエヴァンジェリンは、無事俺が王様になれる国にやってきた。

 当初の予定では、メガロメセンブリアというところの首都でその国の人と落ち合う予定になっていたのだけど、あのゲート一件による『四次元ポケット』紛失によって、連絡先をメモした手帳が取り出せなくなり、連絡がつけられなくなってしまったのだ。

 エヴァがその連絡先をわざわざ把握してくれているはずもなく。
 直接その国へむかっているというわけだったのです。


 道中そこそこ危険な事もあったけど、世界最強の魔法使いエヴァンジェリンがいるのだから、俺はぼーっと歩いているだけでした。
 いや、馬車とかそういう移動手段も使ったけどね。


 んで、その国に無事到着。


 国境というけれど、別に検問もなくフツーに素通りです。
 まあ、原作でもみんな普通に大陸移動してたから、そんなに厳しくないのだろうね。

 首都などの都市部は厳しいぞ。とエヴァは言ってたけど。

 つまり今から行くところはそんなメジャーな場所じゃないってわけです。
 詳しい事は知らないのでオラまだ説明出来ねーのでご了承を。
 そっこう王位継承権破棄して出て行く予定だったから、詳しく調べてないんだわ。


 ともかく、今度はその国の首都。
 俺を王子としてうつした宝石のある街へ向かっています。

 国境からそこまでは歩き。
 そこそこ近い位置に街があるようなのだ。


 青い青い空の下、幻術で大人になったエヴァとのんびり歩いていると……


「っ!」
 思わず、大変な事に気づき、立ち止まった。


「どうした?」


 俺の異変に気づいたエヴァが、少し心配したように声をかけてくる。
 ああ、これは、大変だ!


「悪いエヴァ。ちょっとお花を摘みに行かせてくれ」
「花?」

「おトイレって事だよ。言わせんな恥ずかしい」

「隠す気ないなら最初からそう言え」
 あきれられてしまった。

 それで気づいてくれればよかったと思ったんだよ。
 やっぱこの隠語は女の子が言わないと通じないよなー。

「ともかく、ちょっと行ってくるから、ここで待っていてくれ」
 ちょっともよおしてきてしまっただけだし。
 女と違って男は簡単に済ませる事が出来るからさ。

「しかたがないな」
 どうやら納得してくれたようだ。
 にしても、大人になって腕組んでふんと鼻を鳴らされると今度はカッコイイなお前。

「覗くなよ」
「覗くか!」

 おこらりちった。

「早く行って来いこのあほ。危険な獣は居ないが、用心はしろよ」

「へーい」


 ひらひらと手を振りながら、俺は道をはずれ、茂みの中へと入っていった。


 その後つるんと音がしました。なにが起きたでしょう?



 1、何事もなく、無事エヴァの下へと帰り着いた。
 2、ハッピーハプニング! 森の中で熊さんとの出会い!
 3、つるりと滑ってハプニング! 坂をころころどんぐりこ!


 お答えは……



 3! 圧倒的3!!



 俺は、坂を、駆け下りているのでした!


 茂みに入ったその先はちょっとした急勾配なくだり坂で、知らずに行った俺は見事に予測していなかった段差にかくんとなったのです。


 そして転ばないようにその反対の足を前に出して。でもそこは坂で。また足をだして。足をついてまだまだ坂の上でさらにバランスをとるため足を前に出して。出して出して出して……



 ……出して出して出して出して出し出し出し出しだだだだだだだだだだ!



 落下するかのごとく、交互に足を坂の上で交差させ、転がらないのが不思議なくらいの速度になりながら、どんどんと勾配がきつくなる坂を、駆け下りています。

 風景がものすごい勢いで流れていきます。
 止まれません。転がる選択肢も出せません。なぜなら草原の上にはまれに石が突き出しているから。


 転がろうものなら……


 ひぃ! 恐ろしい!


 石のサイズが大きいので、位置の確認は可能で足をひっかけないでなんとか進むのが精一杯です!
 逆にサイズが大きいから、倒れた時の危険度がめっちゃ高いのだけど。


「たす、たす、たすたたたたたたたたたた……!」
 転ばないようにがんばればがんばるほど足は加速し、ひたすらに坂を駆け下りて行く。



 そしてそのまま……



 坂が途切れる、小さな崖。


 俺はそこに、そのままの勢いで、飛び出した。



 あーいきゃーん。

「ノットだよー!」

 ふらーい!!



 空中に、俺の体が、舞う。



 まだ足が勝手に、交互に動いてるのがわかる。
 走り幅跳びで長く跳べるような跳び方だ。

 だ、大丈夫。万一高さが10メートルくらいあったとしても、五点着地をかませばきっと大丈夫!


 五点着地。
 正式名称を五接地転回法といい、体をひねり倒れこむ事により、落下の衝撃を5か所に分散させ、無事着地するという方法。
 実践できれば10メートルから飛び降りても無傷でいられるという。


 当然俺は、出来ないけど!!


 スローモーションになった世界の中、そんな事を思っていた。
 せめて、五点着地の真似事はと、足の裏から第一に着地しようとバランスはとる。



 そして……



 ごしっ。


 綺麗に足の裏が着地したそこ。

 そこにはなぜか、人の顔面があった。
 地面に立っていたその人が、最初の衝撃を吸収してくれる。


 そのまま俺は、坂をおりていた時の動作と同じく、バランスをとるように、前へもう一歩。



 めごっ。


 そこにはさらに、もう一人。

 反対の足を綺麗に顔面に叩きこみ、二人目がゆっくりと倒れ行くのにあわせ、俺はその人の顔面に乗ったまま、地面へと着地した。


 ……衝撃全部、足の下になった二人が吸収してくれちゃった。


 すたっと地面に着地し、そのまま崖の方へ二歩バックステップ。


 そこで、どんな事態に落下したのかがわかった。


 目の前には、なにやらファンタジーでいうところの山賊風体のおっさん達多数。とその背後にはぶっ倒れた馬車が一台。
 さらにその周囲に倒れている護衛と思われるファンタジー戦士や魔法使い。


 そして、俺が背に隠すよう立つ事になった、一人のいかにもなお姫様と、残りの護衛(怪我人)


 どうやら俺は、ファンタジー悪漢襲撃の現場に押しかけたようだ……


 だが今の俺は『ポケット』もなにも使えないどこにでも居る中学三年生。中身は三十路のおっさん。
 こんな屈強な荒くれ達にかなうはずもない。


「て、てめえ、なにもんだ! いきなり兄貴達をぶっ倒しやがって!」
 どうやら俺が踏み潰したお髭の二人は、この賊の偉い人たちだったようである。泥沼である。



 だからといって……

 襲われている女の人を、ほおって置くわけには、いかなかった。



「なにもの。か……」

 震えそうになる足をおさえ、俺は、ゆっくりと語りだす。

「そんなに知りたければ、教えてやる!」

 無駄に、仰々しく、芝居かかった風に、俺は片手を広げる。
 上着を無駄にはためかせ……


「我は、この国が王位継承権を得て現れた、王子であるぞ!」


 とりあえず、堂々と名乗りを上げておいた。


 王子と名乗ったのは、それなら誘拐して身代金をとれると思わせたかったから。
 そうすれば、エヴァンジェリンが助けに来るまで時間がゆっくりとかせげるというわけさ!

 ひゅー。さすが俺様。さっくしー。



 そしてこれが、俺の王様への道の、第一歩だった……




───姫───




 その方は、天空から突然現れました。


 わたくしの一団を襲った悪漢をいきなり二人ものして、わたくしと悪漢達の間に立ったのです。
 まるで、わたくし達を守る、勇者のように。


 何者かと問われ、あの方は、堂々と、こう答えました。


「我は、この国が王位継承権を得て現れた、王子であるぞ!」


 と。



 ざわっ!


 悪漢達に動揺が広がります。
 当然、わたくし達も、驚きを隠せません。


 なぜなら、あの方が救おうとしているわたくしは、同じ王位継承権を持つ、ライバルなのですから……
 言われて思い出します。確かに、あの方の姿は、王家の宝石が示した姿そのままでした。


「ええい、なぜ王子がこんなところに! ひけ、ひけ!!」
 悪漢達が引いてゆきます。


 それはそうでしょう。わたくしを殺そうとした理由。それこそが、あの方を王にすえ、権力を握ろうとする何者かの差し金なのでしょうから。

 この場にその王子がいては、手出しをする事も出来ません。


 ですが、ライバルであるはずのわたくしを、なぜ、助けたのです……?



 その答えは、シンプルでした。


「たまたま通りかかったから、つい……」


 自分に困ったように、あの方は言いました。



 わたくしが誰かなど、あの方に関係なかったのです。
 困っている者がいたから、手を差し伸べた。それだけでした……



 きゅん。



 そしてなぜか、わたくしの胸は、謎の高鳴りを見せたのです……


 いけないとはわかりつつも、わたくしは、ライバルであるその方に、恋をしてしまいました。




───エヴァンジェリン───




 お花を摘みに行った彼の背中を見て、ほっとする。
 どうやら完全にいつも通りに戻ったようだ。
 もう、心配はないようだな。


「っ!?」


 ……なんだ? これは、血の匂い?
 遠くから、血の匂いがする。しかも、小さいながら、戦いの音も聞こえてきた。

 そして、さらに気づいた。
 そこへ、彼が走ってむかっている事も。


 まさか、あのおせっかいは!


 いくら最強の力を失ったとはいえ、あの男の基本は高い。
 ただの中学生の体とはいえ、子供の力に封じられていた時の私同様、その『技術』、『感覚』に衰えはない。
 気づけば、どうするか。


 考えるまでもなかった。

 ひょっとすると、茂みへ行ったのはこの戦闘に気づいていたからかもしれない。
 私より先に、この血の匂いを嗅ぎ取っていても不思議はない男ではあるからな……


「あのアホウ。今力を失っているの忘れて動いていないだろうな」

 いや、元々そんな事を考えて動くようなやつではない。
 力があろうとなかろうと、動く時は、考えるより先に動いてしまう男なのだから。


 私の心配は、あたる。

「……やはりか」

 血の気配を追って行けば、そこに立つのは我が恋人と、戦闘の跡。



 そして、別の心配もまた、あたる。



 助けられているのは、一人の女。
 年のころは、20前の、美しい容姿をした、この国の姫と思われる女。

 その娘の見る目の質が、明らかに違ったからだ。


 私は思わず、ため息をついた。



 また、やっかいそうな女を……




─あとがき─

 今回、前半部は主人公がヒロインみたいだ。最後の最後でお約束な事やってますけど。

 『道具』を失ってただの人になった上に魔法世界へ放り出されれば、不安にもなります。
 心強い仲間と恋人の存在のおかげで、すぐに立ち直りましたけど。

 実は当初ネギの方では『四次元ポケット』からエッチな本がとりだせなくなってがっくり来たのを勘違いという案もあったんですが、落ちこむ機会は多分今回だけなので自己嫌悪してもらいました。
 原作ではネギが悩むのを肩代わりしちゃった形ですね。ますますネギの闇がなくなっていく……


 次回は魔法王国の王子様大奮闘記をお送りします。
 王国の詳しい説明などは次回に。

 ネギ拳闘士編はその後になります。他の生徒達の行方もその時に。

 それと、ゲートは一瞬にして破壊されてしまったので、タカミチや龍宮が魔法世界に来る事はありません。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030571937561035