初出 2012/02/22 以後修正
─第13.5話&16.5話─
番外編。時間軸は13話と14話の間と16話と17話の間の話です。
───13.5話───
時は、修学旅行が終わり、南の島へのバカンスへに行く前の話である。
簡単に今の状況を説明すれば、中身幼女と携帯を買いに行って帰ってきた。
そういう状況である。
ただいま。
ふいー。疲れた疲れた。
女の子の買い物はやっぱり時間がかかるなぁ。
だが無事目当ての携帯も買えたし、これで一安心だな。
契約の方どうするのかと思ったら、やっぱちゃんとダミーの身分証とか色々用意してあったんだな。
そりゃまあ学園にエドとして入りこんでいるんだから、そういったものをちゃんと用意してあっても不思議はないわな。いざとなりゃあ催眠術も使えるし。
今日買って今ポケットの中に必要のないものや、部屋に置くものを『四次元ポケット』から取り出し、片付ける。
幼女の方は手に入れた新しいおもちゃ(携帯)で遊ぶために今日は自分の家に帰って行ったし、ひさしぶりに一人でのんびりってわけか。
整理も終わり、次は今日の疲れを癒すために、俺は風呂に向かった。
目指すは男子寮の大浴場である。
そしてその間に、エヴァの代理、コピー変身エドがポスターに作られたゲートを通ってこの部屋に来ていたのに、俺は気づかなかった。
さっぱりして部屋に帰ってくると、携帯にメールが届いた。
誰からかと思えば、幼女からだった。
そーいや携帯購入特典に俺のメアドと番号を教えたんだっけか。
───エヴァンジェリン───
風呂上り。
今日の疲れを湯船で流し、さっぱりとして部屋へと戻った。
窓を開け、その風を体に浴びる。
吸血鬼の体であるが、どこかすがすがしいと感じてしまうのは、今が夜だからだろうか?
それとも、別の理由があるのだろうか……?
テーブルの上に、袋から出された真新しい箱と、その中身である携帯電話が置いてある。
今日の戦利品。今日の目的の品であるそれがだ。
箱から取り出されたばかりの、真新しいそれを手に取り、見る。
暗かった画面に光がともり、現れるのは、電話帳。
そこに登録された、一番最初の名前。
そこには、あいつの名前と電話番号、メールアドレスがあった。
メールはまだ、一通もない。
『せきがいせんつうしん』とやらでアドレスなどをもらったから、電話もメールもまだ真っ白の状態だ。
「……」
袋の中にある、説明書を取り出す。
……なんでこんなに分厚いんだ? 世の若者は、ここに書かれるこの小さな箱に詰まった機能すべてを使いこなしているとでもいうのか?
人間の進歩。科学の進歩とはあなどれんな。
ともかく、私はベッドに座り、その説明書を見ながら、メールを打ちはじめた。
「……あ、行き過ぎた。うぅ? 違う。これじゃない」
変換に手間取る。
説明書とにらめっこをし、どうすれば文字を打ちこめるのかを確認し、また打つ。
あいつは手馴れたように文章を打ちこんでいたが、なんだこの複雑な仕様は。魔法のように言葉や思念を文字に変えて伝えろ。不便な!
文章を作り、納得がいかず、また打ち直す。
「なぜだ。日本語が打てなくなった? 今度は数字だけ? ええい。ややこしい!」
不慣れな操作を繰り返し……
「……よし」
だが、出来た。
これはこれで、ちょっとした達成感があるな……!
あとは、このメールを……
送れるのは今、あいつしかいない。
だから、しかたがない。
しかたがないから、あいつに送ってやるしかないのだ。
わ、私のはじめてを、あいつにくれてやる。
「と、というわけだから。な……」
ぷるぷると、なぜか指が震える。なかなかその『送信』ボタンが、押せない……
な、なにを恐れる。
時間など、私が考慮してやる問題ではない。
無視される可能性など、きっとない。ない! はず。
「……っ!」
意を決し、ボタンを押す。
ぴっ。
画面に、メール送信と現れた。
「お、送ってしまった……いや、だがこれで、本当に送れたのか……?」
携帯をじっと見る。
送信完了の文字は出ている。
こ、これでよかったのか?
はじめましてって変じゃないだろうか。
本当に届いたのか……?
なにかミスしていないだろうな。
じっと、手の中にある携帯を見る。
そうしていると、いきなり音が鳴った。
「なっ!?」
びくっと思わずベッドの上で跳ね上がり、携帯をお手玉するが、すぐにメールの着信だと気づく。
わたわたと、届いたメールを開く。
そこには……
『こちらこそ、よろしく』
私の初めてのメールが、とどいた。
──────
二段ベッドの下。俺のベッドに座り、届いたメールを開く。
「……」
見て、思わず微笑んでしまった。
タイトル『はじめまして』
本文『めーる、送ります。まだまだ使い慣れませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします』
そこにつづられた文は、いつもの生意気な言動をする幼女からは想像も出来ない、とても礼儀正しく、素直なお嬢さんのものだったから。
まだ慣れないからこれなのか、それとも文章だからこうなのか。
ただ、なれない携帯でこれを必死に打っているところを思い浮かべると、なぜか微笑ましいと思ってしまった。
最初はやっぱり届いたか不安だろうから、すぐに返信を返す。
『こちらこそ、よろしく』
送信完了。短いが、届いた事を知らせる分には十分だろ。
パタンと中折れ式の携帯を閉じる。
「……ちょっとはかわいいところ、あるんじゃねえか」
閉じたその時、あの丁寧な文章を思い出し、そんな言葉が出てしまった。
そしてこの時俺は、上にコピーエドがいるのに、さっぱり気づいていなかったのだ。
「な、なにを言っているんだあいつはー!」
耳に響いてきた彼の言葉をコピーを通じて認識し、家にいたエヴァンジェリンは、思わずベッドで転がりまわった。
これは、彼女がはじめて彼にメールを送った時のお話。
───16.5話───
時はヘルマン侵入事件が終わり、学園祭がはじまる前の話である。
より正確に言えば、茶々丸メンテナンスのお話です(第9巻75時間目)
……あの方の事を考えると、不思議な感覚が、私を包みます。
その件に関係があるかはわかりませんが、ハカセが興味を持ち、メンテナンスをする事となりました。
なぜかそのメンテナンスに、ネギ先生達もきました。なぜでしょう。
ちなみに、私の名前は絡繰茶々丸。よろしくお願いいたします。
ハカセの下へと到着し、点検、診断、メンテナンスから、いつの間にか実験へと変化し、ついには私の記憶ドライブが検索される事になりました。
「えー、そんな事できるん?」
「ちょっ! さすがにそれは、プライバシーの侵害なんじゃないの!?」
「科学の進歩のためには少々の非人道的行為もむしろやむなしです!」
「「ええー!?」」
私の記憶ドライブをいじるハカセに、アスナさんとこのかさんが止めるよう言い、ネギ先生と桜咲さんが大変おどろいています。
ですが、問題はないと私は考えます。
「むむむ、何度も何度も再生している映像郡がお気に入りにフォルダわけされています!」
ハカセが私のファイルを見つけたようです。
「これですー!」
それは、ハカセのパソコンの画面に、映し出されました。
──もぎゃーんと飛び出したのは、三種に分類された画像。ネコ、ネギ。そして、ある黒髪の少年の姿だった。
「こ、これは……」
最も再生されている映像。
ソレを見て、その場に居た彼女達は、固まった……
そこに映し出される黒髪の少年の映像。ソレを見て。
少年が動く。
流れるような動作で床に膝を突き、大地を手で押さえ、重力に逆らうことなく腕を曲げてゆき、そのまま頭をこすりつけるかのように、地面へと落とす。
ああ……
「本当に、スマンカッタ。これで許してくれ」
魂を揺さぶるような、よく通り、力強い声が、スピーカーより響く。
あああ……
そこに映し出されたその姿。
彼女達もその名は知っている。
その行為の名を、知っている!
平身低頭の構え!
すなわち、DO・GE・ZA!!
ああ、なんて、素敵な姿なんだろう……
あの方は、よくマスターのオリジナルに連れられ、マスターの自宅へ遊びにやって来る。
そして、よく喧嘩し、よく吹っ飛ばされている。
とてもお強いのに、マスターと対等に、平等の力で、戦っている。
むしろ、よくからかっている。
その悪ふざけの結果生まれる、彼の謝罪や、わざと生まれる敗北の姿。
やられ、ぐったりとする姿。それを見ると、私は、頬があつくなる。
マスターと共にだらだらとだらけている姿もまた、私の視線を釘付けにする。
なにより、土下座するその姿は、胸の主機関部の発熱がとまりません。
スライディング土下座、ジャンピング土下座。扉を開けたらそこに土下座。雨が降っても雪が降っても玄関前で土下座。極めつけは土下寝。しかし私はこの土下寝は邪道であると考えます。
やはり座して頭を下げるという過程が重要ですから。
かの有名なドゲザー1080手を描き、その土下座一つで王まで上り詰めたといわれるシャルル・ド・ゲイザー伯爵も土下寝は邪道とおっしゃっておられましたし。
あの方の計算された膝の落とし方。この流れるような腕の流れ。頭の位置。背中の流麗さ。どれもこれもが、私のメモリーに刻まれて、消す事が出来ません!
こんなにもメモリーを魅了するあの構えを思い出すたび。私は不思議な感覚に包まれるのです……!
──ネギや猫の画像がかすむほどに存在感を示す、彼の情けない姿集(エドの姿は写さないよう注意してある)
それが、ネギ達の前に、もぎゃーんと映し出されていた。
「……」
全員沈黙。
みんなで顔を合わせ、茶々丸を見る。
その画像を見て、茶々丸は胸をきゅんきゅんさせている。
そして視線に気づいた茶々丸は──
「この気持ち、人はモエと呼ぶと聞いた事があります」
──きりっとそう言うのであった。
なんかソレちがう!
そこにいるメンバー全員が、そう思った。
「……こ、これは、見なかった事にしましょう」
そっと、全員一致でファイルを閉じるのであった……
「あの人も、こんな情けない姿。するんですね……」
桜咲さんが複雑そうな顔をしています。
「滅多にない姿を逃さずしっかり記録しましたので、そう見れるものではありません。私のお勧めとしては……」
「見せなくていい! いりませんからー!」
「厳選作品なのに……」
しょぼん。
「……あ、あはは」
みんな苦笑するしかなかった。
「……今なんか、すごい勢いで哀れまれた気がする」
「いきなりなにを言っているんだお前は」
部屋で彼と一緒にゲームをしているエヴァンジェリンは、そう言った。
(……はっ! いや、一般人の擬態の一環として情けなく見えるよう演じているのか! さすがです……!)
「あ、せっちゃん立ち直ったー」
─あとがき─
番外編です。
番外編というよりも、追加補足と言った方が正しいかもしれません。
今回主人公はほぼ脇役なので、そういう意味で番外編という事で。うん。
ちなみに茶々丸が変な萌に目覚めたのは第13話のドゲザーからです。