初出 2009/07/06 以後修正
─第21話─
エヴァンジェリンルート、第1部、完結!!
──────
ぼー。
はっ!
い、いかん。意識が跳んでいた。
状況を整理しよう。
ネギの親。ナギ・スプリングフィールドが女だった。
以上。
つまりTS。トランスセクシャルの略ですね。わかります。
ネギや小太郎が女の子だったんだから、このくらい起こりえると想像はしておくべきだった。
なかなかすごい衝撃だったぜ……
……
……いや、違う。TSの衝撃はもう3度目だ。たいした衝撃じゃない。
呆然としていたのは、あの後。あの後、それ以上の衝撃を受けたからだ。
『麻帆良際二日目世界樹周辺では中夜際二日目に突入します。学園生徒の皆様は……』
校内放送が響いてきた。
……うん。こんな事前にもあったね。ここ、俺の部屋だね。
ぼーぜんとしつつも、第4話の時と同じようにまた戻ってきたみたいだね。
血だらけだった俺の服もちゃんと着替えてある。
武道大会決勝から、さっき部屋で気づくまで、色々あった事は覚えている。ただ認識していなかっただけだ。
それほど、あの言葉は、インパクトがでかかったのだ。
もう夜中。前回ボーゼンとしていた時は4時間ほどだったけど、今回は8時間ほど脳みそがソレを理解するまでかかった計算になる。
……そりゃ、するよな。
はっきりとしてきた頭で、あの時あった事を思い出す。
あの時。
俺が、エヴァンジェリンに、「お前は誰が好きなのか」と聞いた時。
エヴァは、きっぱりと、「俺が好きだ」と答えた。
正面から俺を見て。
「私が好きなのは、お前だ」
そう言ったんだ。
そして、俺の答えは夜、かつて戦った橋の上で聞かせてくれればいいといい。そう言い、エヴァはその場からいなくなった。
あの時まだ呪いがかかったままだったから、エヴァは走っていった。頭がパニックを起こしていなければ、追いつけたのかもしれない。
だが、今はそんな事はどうでもいい事だ。
俺はずっと、『ネギま』原作どおり、エヴァはナギが好きなんだと思っていた。
だって、そうだろう? 俺の知っているナギは男で、エヴァが、その男にどれだけ慕情を募らせているか、知っている。
だからこそ、エヴァの気持ちが、他の人間に向いているなんて、想像も出来ない。
そういう先入観があるからだ。
だから、そんな事、考えもしなかった。
全然気づかなかった。
だが、その先入観は、ナギが女だと、自分の目で見て、崩壊させられた。
そして、その想いは、俺に向いていた。
エヴァの気持ちが、俺に向いているなんて、想像もしなかった。
異邦人である俺が、そんな風に思われているなんて、考えもしなかった。
だが、俺の気持ちは、どうだ……?
俺が呆然としていたのは、そのせいでもある。
「ふー」
息を吐く。
一度、心を落ち着けるために。
落ち着け。これは、現実だ。いつまでも、頭の中で現実逃避しているわけにはいかない。
あいつは、この世界に生きる、一つの個人だ。きちんと考えてやらねばならない。
「ケケケケケケ」
「お?」
声のした方を振り向く。
そこには、チャチャゼロがいた。
「あー、チャチャゼロか」
そういえば、エヴァといれかわるように、俺のとこに現れていたような気がする。
「ケケケ。ココ二来ルノモ久シブリダゼ」
「つっても一週間ぶりくらいじゃないか?」
チャチャゼロはワリとよく遊びに来る。エドになれるエヴァと違って、一人で自由に動ける範囲が少ないからな(人形だから)
「ソーダッタカ?」
「……はともかく。なんかようかね? エヴァンジェリンが時間待てずに答え聞きにきたか?」
「イヤ。約束ノ場所デ待ッテルゼ」
「そか」
「カワリニ別ノ奴ガイルガナ」
「は?」
「おお、正気にもどったのかね」
そう言い、ドアを開けて入ってきたのは、学園長だった。
「あ、学園長」
「うむ。あの決勝直後君のところへ行ったのじゃが、どうにも目の焦点があっとらんかったからな」
「あー、すみません。もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
俺はぺこりと頭をさげた。
「……」
「……?」
入り口にいた学園長は、そんな俺を、無言で見ていた。
意味がわからず、思わず疑問符をあげてしまう。
すると学園長は。
「本当に、すまんかったぁ!!」
俺お得意のジャンピング土下座をかましたのだ。
う、うつくしい……
それは、土下座スペシャリストの俺も、思わず見とれてしまうほど、華麗で素敵な土下座だった。
……じゃなくて。
「い、いきなりなんですか?」
ぺこぺこと一方的に謝ってくる学園長の話を聞く。
なんでも、勝手な推論で俺を悪い奴だと断定した事を謝りに来たのだそうだ。
別に学園長が俺になにかしたわけでもないと思うけど、ここで謝らなくては、お天道様に顔向けが出来なくなるから、こうして謝りに来たのだそうだ。
だが、俺は別に学園長になにかをされたわけでもないし、俺の方も学園の面倒ごとに巻きこまれるのが嫌だから関わらなくしてもいたので、むしろ俺の方が悪い気がしてきてしまう。
つーか、別に学園長悪くないと思うけど。
俺の方がどっちかというと不法侵入者だから、謝るのは俺の方だと思うんだが……
でも、そこで俺も悪いんです。なんて謝りだしたら、収拾がつかなくなる雰囲気だ。
だから……
「頭をあげてください。あなたは学園を守ろうとしただけ。当然の事をしたまでです。あなたはなにも悪くない。俺の方も、黙っていたのですから、おあいこですよ」
と、とりあえず、笑顔を向けておいた。
手を差し出した俺を、学園長が見る。
そのまま学園長は一瞬呆然とし、よろよろと、俺の手をとった。
「……こ」
「こ?」
「木乃香の、婿に、ならんかね?」
「は?」
今度は俺が呆然とする羽目になった。
どうしてこう、今日は立て続けにインパクトのデカイ事が起きるんだ。
俺の中で木乃香お嬢様の嫁は刹那君だし。それに俺の嫁は……
……
そして、嫁という言葉が頭にしっかりと響いたとき、俺は、気づいた。
その事に、気づいてしまった……
答えは、すごくシンプルだったんだ。
「……あー。学園長」
「なにかね孫よ?」
「申し訳ないんですが、お断りさせていただきます」
「なっ!? なんじゃとー!」
「俺を気に入ってくれたのはうれしいんですが、先約があるんで」
「先約、じゃと?」
「ええ。これから捕まえに行かなきゃならないじゃじゃ馬なんですがね」
そして、時計が夜の、ある時間が近い事を指し示す。
「げ、もうこんな時間。学園長。悪いんですが、これから用事があるんで、失礼してかまいませんか?」
「ケケケケケ」
「む、そうかね。これは悪い事をした。ワシの方は気にせず行ってくれたまえ」
「ありがとうございます。それじゃ、行かせてもらいますね。なにか他に話がありましたら、後日呼び出してください」
「いやいや。ワシの方からそちらへ行くとするよ。君は、学園はおろか、この星の守り神なんじゃから」
「そういうわけじゃないんですがねぇ。っと、こんな事している場合じゃなかった」
「フォッフォッフォ。行きたまえ行きたまえ」
「それじゃ、また後日!」
「フォッフォッフォ」
「あ、ドアは開けっ放しで問題ないので、そのまま閉めるだけで平気ですから! それと……!」
部屋を飛び出す時、必要な事を学園長に告げ、答えを聞き、俺は約束の場所へ向かった。
───学園長───
あの戦いの後、超君からの連絡を受け、試合のある高畑先生を大会に戻し、ワシ等は彼の元へと向かったが、彼はエヴァンジェリンの膝枕で、眠っていた。
あの怪我から再生、復活してきたのじゃ。疲れが出るのも当然じゃろう。
「こいつはただ平穏を望んでいると言っておいただろうが」
ワシを睨み、エヴァンジェリンに叱られてしもうた。
まったくもってその通り。
ワシも申し訳なく思うよ。
彼が寝ていたため、ワシをふくめた魔法先生は一度、告白阻止などの仕事へ戻った。
その後、彼が目を覚ましたのを確認し、ワシが代表し彼の元へと向かったのじゃが、今度はなぜか上の空であった。
なにがあったのかはわからんが、エヴァンジェリンの従者チャチャゼロ(なぜか彼の頭の上にいた)によれば、ただ驚いているだけだと言う。
なので、ワシは彼が正気に戻るまで待つ事にした。
そしてその夜、彼はやっと正気に戻る。
それを確認すると、ワシは彼の目の前で、土下座をした。
勝手な推論で、一方的に彼を悪いと断定していた事や、疑っていた事。そして、それで彼に大怪我をさせる原因を作った事。それらをその程度で償えるとは思えんが、精一杯の誠意をこめ、土下座した。
彼は、一方的な被害者でもあるというのに、ワシを笑って許した。
「頭をあげてください。あなたは学園を守ろうとしただけ。当然の事をしたまでです。あなたはなにも悪くない。俺の方も、黙っていたのですから、おあいこですよ」
それどころか、自分にも責任があるような言い方までして。
彼の言葉がきちんと脳に届くまで、しばらく時間がかかった。
おろろ~ん!
思わず、泣いてしまうかと思ったくらいじゃった。
ワシは、ワシはこんな誠実な若者を疑っておったのかー!
足手まといでしかないワシ等まで気遣ってくれるとは。なんと大きな懐を持つ男なんじゃ!
ワシ等のせいで死ぬほどの怪我をし、それでもワシ等を護り戦ったというのに、それなのに!!
直後ワシは彼の手を取り、思わずワシの義理の孫ならんかと持ちかけていた。
だが、その直後、彼はあっさりと断りを入れてくる。
それは、なにか自分の気持ちに気づいたような、晴れ晴れとした顔であった。
ふむ。
どうやら、彼にはすでに、想い人がいるのだと、悟れた。
そして、この場にいるエヴァンジェリンの従者……
彼は、約束の場所へと向かった。
取り残されるワシと、彼女の従者チャチャゼロ。
「いやはや。いつの間に……」
「ケケケケケケ。残念ダッタナ。ウチノ御主人ノガ先約ダゼ」
「うむむう。力ばかりに目がいって、彼の本質を見抜くのが、ちと遅かったようじゃ。惜しい事をしたのう」
ひげをなでつけながら、ワシはそう思うのであった。
じゃが、もう一つの気がかりでもあった少女。
彼女が幸せとなるのならば、黙って見ているしかない。
手のかかる少女であると思うが、是非幸せにして欲しいものじゃ。
──────
一方そのころ、ネギは、超と対峙していた。
「超さん。どうして、退学届けなんかを?」
超の退学を、クーフェイから聞き、その事について、問うているところである。
ちなみに、超の計画は途中で実行する事が無意味となったので、まほら武道大会での映像はネット上に流出していない。
それでも、大会後それを見ていた観客にネギは追い回される事となったが、原作ほどの大騒ぎではなかった。
もっとも、巨大化したジャスティス仮面と『ジュド』はサイズ上誰からでも見れたので、アレはアレで別の意味で話題となり、最終日火星ロボ襲来全体イベントのデモンストレーションとして、ネット流出の代わりの大きな宣伝となっていたが。
「やっぱり、全部終わったからですか? この世界が、守られたから」
「その通りネ。私の全てだた計画は消えた。もうここには用はない」
「……」
ネギも、それはわかっていた。大会後聞いた、超が現代に来た理由。
さらに、超の体に施された呪紋処理。あれは、正気の人間がやったとは思えない。
あれは、術者の肉体と魂を食らい、それを代償に力を得る狂気の技。
それを施してまでやってきたのだ。
あの計画への。鉄人兵団と戦う事への決意が伝わってくる。
もっとも、その食らわれた魂などの傷は、すべて彼が癒して(戻して)しまったが。
「この時代の、この星が救われた。それだけで、十分ヨ」
「でも!」
ネギは、超に近づく。
「それが、全てだなんて、嘘ですよ。それに、それを確認せずに帰るなんて、とんでもない! 超さん。せっかくですから、この平和になったこの時代で、僕と一緒に、『立派な魔法使い』を目指しませんか?」
「……一緒に、『立派な魔法使い』を、目指す。か」
超は、リルルと戦った、あの感覚を思い出した。
彼女と共に歩めるというは、きっと、とても心地よいだろう。
「そうネ。そんな未来も悪くないかもしれぬナ」
「それじゃあ超さん。ここに残って……」
「いや、帰るネ」
がーん!
「超さんどうして!?」
「いや、ぶっちゃけるト、学園祭終了時に帰らないと、次は22年後まで故郷に帰れなくなる。目的を失ってしまった今、さすがにそこまで待てないヨ」
「そ、そんな……」
「異常気象がなければ、もう1年いれたけどネ」
「なら、答えは簡単だ」
突然そこに、彼がふってきた。
「わっ!」
「ナゼ、ここに?」
「ちょっとした野暮用があってね。君等はついでだ。仲裁するぞ。超。俺は世界樹の魔力に頼る必要のない個人用タイムマシン(『タイムベルトなど』)を持っている。それを使えば、22年なんて制限もなく、未来へ帰る事が可能だ」
「え?」
「……あ、相変わらず、出鱈目な人ネ」
実際彼は、時間停止を魔力なく可能にしている。それならば、タイムトラベルすら可能にしていたとしても、なんら不思議はなかった。
「だが、君の主張も理解出来る。だから、シンプルに、なにかで勝負でもして、勝ったら相手の言う事を聞くとかでもしろ。ネギが勝ったら超は卒業までいる。超が勝ったら勝手に帰るなりなんなりする。そんな感じだ。詳しい事は自分達で決めればいい」
「それ、いい考えネ。ネギ先生。明日、新しい私主催となった全体イベントがあるネ。私はそこでラスボスを勤める。ネギ先生はそれに参加し、私に見事打ち勝てば、私は卒業までいるとしよう」
「ほ、本当ですか!」
「未来人嘘つかないネ。ただし、私が勝ったらネギ先生の方に私のお願いを聞いてもらうヨ」
「わ、わかりました!」
「あ、ちなみにネギを未来に飛ばして不戦勝。なんて事は考えない方がいい」
「ぐっ。そ、そんな事しないネ」
「確かカシオペアにセットしてあったはずだ。気をつけなさいネギ」
昼間は忘れていたが、今の会話をしていて思い出したようだ。
「は、はい!」
「……なぜそこまで知ってるネ」
ちょっとすねたように超が言う。
「そいつは企業秘密だ」
「……残念無念ネ」
「というわけで、俺は基本中立で見物してるから、ネギ先生もがんばりなさい」
「はい!」
「それじゃ、俺は忙しいので、さらばだ!」
杖を二回ぽてりぽてりと倒し、そのまましゅぽーんと、彼は飛び出す。
「なにをしているんでしょう?」
「気になるネ」
彼女達の問題は片付いた。それゆえ今度は彼へと興味が移るのは、ある意味当然だった。
その後彼は、超鈴音のお別れ会を準備していた会場へ出没する。
那波千鶴と話をするためだ(その通り道でネギ達を見かけた。ちなみに『どこでもドア』を使わなかったのは出現地点が不明で人目につく可能性があったから)
「ちづるさん。ちょっといいですか?」
「はい?」
───エヴァンジェリン───
「お前、誰が好きなんだ?」
武道大会決勝中。
ナギVSネギが行われている最中。
彼が、突然まじめな顔で、私にそう聞いてきた。
不意打ち過ぎる言葉。
私は、混乱し、そのまま、「お前だ」と答えを返してしまった。
あの直前。私は、彼を失うかと思った。
実際、一度、彼の命の灯火は、消えた。
あの時、私はもう、彼を離したくないと思った。
二度と、失いたくないと思った。
それゆえ、不意打ち過ぎたその質問に、そのまま、自分の素直な気持ちが、出てしまった。
結果。私の気持ちが、彼に伝わってしまった。
自分の気持ちを、彼に教えてしまった。
だが、答えた私は、彼の返事を聞くのが怖くて、時間と場所を指定し、逃げ出してしまった。
家に戻り、その事に悶えても、時間は止まらない。
時間はそろそろ約束の時間。
彼の答えを聞く約束の、時間。
怖い。彼の返事を聞くのが、怖い。
そもそもなんで時間を設定してしまったんだ。
彼が拒絶する事はないだろう。少なくとも、嫌いという事はないはずだ。
だが、結局私の事をなんとも思っていない。という事は十分にありえる。
もしそうだったとすれば、私は、この心地よかった関係を、自分で捨ててしまった事になる。
さらに。万一私の事が嫌いで。
「はっ!」
なんて鼻で笑われたら再起不能だ。
想像するだけで恐ろしい。
出会った当初ならともかく、今なら、そんな事は、ないとは思うが……
可能性が絶対にないとは言えない。
だがこうなってしまっては、もう逃げる事も出来ない。
私は、結果を受け入れるしかないのだ。
彼が、どのような答えを出したとしても。
ふっ。ふふふふふふ。
だが、私はもう、彼を離したくない。
失いたくはない。
もう、この気持ちは、抑えようがない。
どうせ効かないとは思うが、いっその事世界樹の力でその心を縛ってもいいと考えてしまうほどに。
こうなったら、もし「ノー」と言われたとしても、力ずくで私のものにしてやる!
私は悪の魔法使い! 彼の意思など無視して当然!
力ずくなんて無理? そんな事はない。恋する乙女をなめるな。
こちらの準備は万端だ。
茶々丸に命令し、超鈴音のところにあった、あの時間停止に対抗出来きる航時機の2号機と、あの田中というロボットを拝借してきてある(カシオペアは起動出来ない可能性があるが)
私の時間さえ止まらなければ、止まった時の中全力が出せる。しかもロボットを『人形使い』で操る事が出来る。
さらに、あいつに返していない(偶然回収されなかった)『マリオネッター』という道具もある。
『マリオネッター』
伸びた1本の糸を人につなげると、マリオネットのように人を意のままに操ることができる。
操るのはかなり難しいが、人形使いであるエヴァンジェリンならば使いこなせるだろう。
リルルとの戦闘中リルルを動けなくする糸の一本として使われたが、時間停止解除は阻止できなかった(糸をつけても意識、糸をつけていない物までは操れないから)
田中と戦っている間に、彼にこの『マリオネッター』を取り付ける事が出来れば、私の勝ちだ!
ふふふ。完璧。完璧じゃないか!
「ふふふふふふ。ふははははは」
色々テンパったせいか、思考が変な方向へ走り出してしまったエヴァンジェリンであった。
彼を私のモノとすべく、準備万端とし、私は、橋の上で、彼が現れるのを待った。
橋の照明はすべて落としてある。場に他の者が現れないようにするためと、彼の視界を少しでも不自由(私は吸血鬼だから問題ない)にし、勝率を上げるためだ。まあ、意味はないだろうが。
そして、時間通り、彼はやってきた。
「ふふふふふ。よくやってきたな!」
橋の上で腕を組み、私は言う。
そのまま彼の答えを聞く前に、勝負だ! 私が勝ったら、お前は私のものとなれ! そう言うつもりで、口を開こうとした。
だが、その前に、彼が口を開く。
「エヴァンジェリン!」
彼の声を聞いただけで。
呼ばれただけで、私の胸は、高鳴った。
自分の名を呼び、そのまま、無人の野を歩くがごとく、歩いてくる。
橋の下。湖の中にロボットが待機しているが、そんなもの気づいていないかのように。
いると気づいているはずだ。だが、そのようなモノ関係ないように。
ただ歩いてくるだけなのに、私は、目を離せなかった。
彼に、なにも、言えなかった。
橋の上を堂々と歩く彼を、ただ見ているしかなかった。
なぜ? 彼がこちらへ歩くだけなのに、なぜ、こんなにも、期待に胸が高まってしまうの?
彼が目の前に迫る。
がばっ!
そのまま、私は、彼に抱きしめられた。
「俺は、お前が、好きだ」
「え……」
耳元でささやかれた、言葉。
私は、目を見開いて、口をぱくぱくとさせるしかなかった。
それは、あまりに予想外の答えだったからだ。
きちんと認識するのに、数秒かかるほどに。
「か、からかって、いるの?」
「違う。本気だ。俺も、お前が好きだ」
「わ、私は、お前の好みの女じゃないぞ。凹凸もまともにない、子供の体だ」
「10年もすれば立派な女だ」
「私は吸血鬼だ。人のようにこの体は成長など……」
「人間に戻ればいい。呪いも、吸血鬼も、俺が取り除いてやる」
それが、本当に出来る事を、私は知っている。
『タイム風呂敷』。それがあれば、記憶をそのままに、戻せる事を、私は、知ってしまっている。
「どちらも、学園長に許可は貰ってきた」
彼が部屋を出る時、最後にした質問が、それだ。
「呪いどころか、エヴァンジェリンを人間に戻せるとはのう。こりゃとんでもないお方じゃ」
フォッフォッフォと、夜道を歩きながら、学園長は笑うのであった。
「那波千鶴はどうするんだ」
「ちゃんと断ってきた。謝ってきた」
超のお別れ会会場の裏。
「ちづるさん? どうしましたの?」
一人、屋上の隅でいる千鶴を、雪広あやかが見つけた。
「ううん。なんでもないわ。ちょっと、失恋しちゃっただけ」
「ええっ!?」
涙をぬぐう千鶴は、あやかの胸で泣く事となる。
(……明日菜さんと連続して胸を貸す事になるとは思いませんでしたわ)
委員長こと雪広あやかは、千鶴に胸を貸しながら、そんな事を思った。
「私で、いいのか?」
「お前じゃなきゃダメだ」
「私は、性格も、素直じゃないぞ」
「知ってる。それをふくめてお前が好きだ」
「嫉妬深いぞ?」
「俺だって」
「ひどいわがままを言うかもしれないぞ」
「全身全霊でかなえてやるよ」
「600年間、悪行を尽くしてきた、賞金首だぞ?」
「今までの不幸や、悪なんて関係ない。人間としてやり直すんだ。これからを考えろ。これから、俺と一緒にいて、幸せかどうかを考えろ」
「人間に戻ったら、なにも出来ないかもしれないぞ?」
「俺が守るよ」
「一生離さないぞ?」
「望むところだ」
「ずっと一緒だぞ?」
「死ぬまで離さないさ」
「大好きだ」
「俺もだ」
そのまま、二人は、どちらとなく、その唇を……
……重ね合わせようとして、彼が、自重した。
「なぜだ!?」
「エヴァ。俺はこれから、お前の初めてを全部貰うつもりでいる。だが、手を出すのは少なくとも、5年は先だ。もー流されん」
那波千鶴に対しても、結婚出来る年齢になるまで触れないと断言しただけはある。
10歳の体である私に対しても、手は出さないという事か。
変なところで固いヤツめ。
ますますあの時超鈴音に阻まれチャンスを逃したのが惜しまれる。
「……」
だが、私はもう、止まらない。
お前が欲しいという欲求は、止まらない。
私はお前のもので、お前は私のものだという証が欲しい。
それゆえそのまま、私は彼の襟を引っ張り。
「んっ」
「……!?」
自分から、強引に、彼の唇を、奪った。
その直後、世界樹が大発光を開始する。
22年に1度の大発光。
やわらかい光が、私達を照らしだす。
それはまるで、私達を祝福しているかのようだった。
「お前が、手を出さなくとも、私は、出すぞ……」
「ま、真っ赤になってるくせになにほざいてんだ……」
「ふん」
「だが、それ、盛大な自爆だぞ」
と、彼は、自分の肩越しに後ろを指差した。
「は?」
世界樹大発光。全然祝福じゃなかった。
その先には、3-Aの面々が、自分達を、見ていた。
彼ばかりに集中し、こそこそ隠れてやってきた彼女達に、エヴァンジェリンはまったく気づかなかったのだ(超、ネギ、刹那その他もいるので、なんらかの小細工もあっただろう)
「なにーっ!?」
「きゃー! エヴァちゃんがー!」
「だいたーん!」
3-Aの面々が、きゃいきゃい声を上げている。
「お、お前、知っていたのか!?」
「そりゃぁ、ここに来る途中ちづるさんのトコ行ってきたからな。このくらいは覚悟してたよ。もーロリコンだと言われようが、また変な噂が立とうが、気にしないさ」
やれやれと、彼は肩をすくめた。
そのまま超鈴音お別れ会&エヴァンジェリンお祝い会へとなだれこむ事となった。
いろんな意味で、エヴァはからかわれる事となる。
一気にクラスと少女との距離は縮まったようだ。
そうそう。余談だが、エヴァコピー。現エドは彼のクラスの中夜祭の打ち上げに顔を出している。
その際彼がいないのを自分のオリジナルエヴァとよろしくやっているからと、後々のクラスメイトにまたボコられるような報告をして外堀を埋めていたりするが、まったくの余談である。
──────
エヴァがからかわれるのもひと段落し、一度超お別れ会会場へと戻ろうとなった時(橋の上じゃジュースもなにもないから)
彼が、エヴァを呼び止めた。
その周囲には、出遅れたネギと刹那もいる。
「なんだ?」
「実は今日、俺の誕生日なんだよ」
「え!?」
「そうなんですか!?」
ネギと刹那が驚きの声を上げた。
「なんだ? 誕生日プレゼントでも欲しいのか?」
「そう。だから、この場でお前を人間に戻す」
「は?」
彼は、エヴァの答えを聞かず、そのまま頭から、『タイム風呂敷』をかぶせた。
「それは……?」
刹那が聞いてくるが、彼は、今は見てなさい。とジェスチャーで示す。
ちなみに、これでなにがどうなるのかは、説明を受けていないネギにも刹那にもわからない。
よって、これで時間が戻せる。という事に、これだけでは思い至らない。
ほんの少しの時間。
少女がくるまれていた感覚は、その程度。
だが、その布が取り払われた時、エヴァンジェリンは感じた。
とくん。とくん。とくん。
感じる。正しい、命の流れを。
吸血鬼にはない、正しい、生命の流れを。
わかる。
私が、人間に戻ったのだと……
それが、わかる。
戻った……
私は、人に、戻った……
「……本当に」
私は……
「戻った……私は、人間に、戻ったんだ……」
自分を抱きしめるよう、彼女は、その両手でその鼓動を、かみ締める。
エヴァンジェリンは、刹那やネギに見られているのも気にせず、涙を流した。
「「……綺麗」」
その奇跡を目の当たりにしたネギと刹那は、エヴァンジェリンの涙を見て、思わずそうつぶやいていた。
「エヴァンジェリン」
彼が、私を呼んだ。
「10歳の誕生日。おめでとう」
そして彼は、エヴァンジェリンに向け、優しく微笑んだ。
「え?」
思わず私は、驚いてしまう。
「あれ? 吸血鬼になったのって、10の誕生日じゃなかったっけ? つまり人間に戻ったって事は、お前今誕生日の日の体って事だろ?」
「「……」」
その言葉に、そこにいた、ネギも刹那も呆然とする。
「あれ? なんでみんな呆然としてんの? 俺変な事言った?」
「い、いえ。よく知ってるな。と思って」
「え? 刹那君とか知らなかったっけ?」
「いえ、知りませんけど?」
「あれ?」
ちなみに、刹那と明日菜がエヴァの過去を知るのは、武道会中ではある。が、そもそもここのエヴァは途中で彼を膝枕して武道会を途中棄権してしまっている。
それゆえ、エヴァの過去を聞くというものがすっぽり存在しなかったりしたのだ。
「あれー?」
首をひねる彼に。
「……どうして?」
「は?」
彼は今、ハッピーバースデー(誕生日おめでとう)と言った。
確かに私は、10の誕生日の朝、目が覚めた時には吸血鬼となっていた。
時を戻し、人間に戻るという事は、誕生日その日の肉体に戻ったと言ってもいい。
だが、それを知っている人間は、いるはずなどない……
いるはずはない……
「どうしてお前は、そんな事まで、知っているんだ……?」
「あー、気にするな。どーせ無意味な事だ。これからの事に関して言えば、もうほとんど知らない。特に、エヴァが人間になってからの未来なんてな」
「……」
「さっきも言ったが、必要なのは、これからだ。そして、これからは、一緒に作っていこうぜ」
過去は知っていても、これからには無意味だと言いたいらしい。
そしてさらに、彼は、私の過去を本当に知りながら、私を受け入れたという事でもある。
私の過去。私の行った所業全てを知った上で、過去などまったく気にせず、私を受け入れ、これからを見ろと言っているのだ。
この男は、私の六百年を全て奪いながら。その全ての私と共に受け止めてくれているのだ。
それは、エヴァが悩むかもしれなかった、生まれの不幸も、生きてきた悪も、罪も、全てを跳ね除ける言葉。
ここから、再び、人間としての人生がはじまるという事。
彼は、その意味を、知っている。知っていて、手をさしのべている……
それは、エヴァンジェリンにとって、とてつもないほど、心強い言葉だった。
まさに、彼と一緒ならば、世界を受け入れ、どこまでも歩いていける言葉だった。
「……そうか。つまり、今日が、私の新しい誕生日というわけだな」
「奇遇にも俺と誕生日が一緒だから、祝いやすくていいな」
彼は、笑う。
「……ふん。図ったような、奇遇だ」
「まったくだ」
「……だが、悪くない」
そして、エヴァンジェリンは、彼に抱きつき、その胸(どっちかというと腹)に顔をうずめた。
「……あ、ありがとう」
顔をうずめ、表情が見えないようにし、少女は言う。
「……どういたしまして」
男は、それがほほえましく、優しく笑い、答えた。
彼のぬくもりを、感じる。
人間として、人として、また、人のぬくもりを感じる時が来るとは、思わなかった。
吸血鬼で感じていた時よりも、なお、暖かい……
これが本当の、彼の、体温……
これほど、うれしい事はない。
ああ。私の吸血鬼であった時間は、彼と、出会うためにあったんだ。
闇を抜けた光の先は、ここにあったんだ……
彼と出会えた事。これほど、これほどうれしい事はない……
ちなみに、彼に抱きついているのも、なかなか来ないのを連れ戻しに来た3-Aの面々に見られ、更なる大騒ぎの火種となるが、余談である。
そして、ネギと刹那が、少し切ない表情をしていた事も。
翌日。
火星ロボ軍団VS魔法使い達は、緊迫度以外。派手な祭りとなった事以外は、皆の知る内容と大きく変わらない展開であった(超が呪紋展開しなかったなどの差異はあるが)
結果はネギの勝利となり、超は約束どおり卒業まで学園に残る事となる。
それと、ふと思い出した白パクティオカードの件については、契約ではなくもっと出鱈目なモノだと説明したら、エヴァンジェリンの納得が得られたようだ。
「……他人のアーティファクトが契約なしに使えるとか、出鱈目にも程があるだろう」
とエヴァンジェリンは憮然とし、だがほっとしていた。
──────
「と、いうわけで、エヴァは人間に戻りました」
学園祭後。振り替え休日二日目。ネギ達がクウネルに呼ばれ、お茶会に参加する日。
彼女達がその場にやってくる前。
俺達は、学園長も交え、エヴァが本当に人間に戻った事などの報告をしつつ、一足先にお茶会をしていた。
「本当に、人間に戻ったんじゃなぁ」
学園長がひげをなでつけながら、人間に戻ったというエヴァを見ていた。
「なーんもかわってないように見えるんじゃが」
「当たり前だ。登校地獄の呪いを受けていた時もほぼ人間だったのだからな」
「それもそうじゃな」
「もっとも、人間には戻ったが、知識と魔法は健在だ」
種族人間。とはなったが、魔法使いレベルと経験は元のままなのである。
吸血鬼としての種族ボーナスがなくなっただけと考えればいいだろう。
「世界最強の魔法使いは健在というわけじゃな」
「そういう事さ」
「ちなみに、吸血鬼になる事も可能です」
と、俺がさらっと言う。
「む?」
「こら。このじじいにそこまで説明してやる事もないだろう」
「いや、ちゃんと説明はしておいた方がこの前みたいな事はなくなると思ってね」
この前の事とは、俺が学園長に危険視されてしまった事である。
今後の事も考えて、俺は学園長とは仲良く行きたい。だから、俺は、エヴァに『ヴァンパイアセット』の『マント』を渡した事を学園長に報告した。
ちなみに普段はエヴァの影にしまってあるみたいです。魔法の四次元ポケットです。俺と違って手を入れなくても自動で射出とか可能らしいです。ちょっとうらやましかとです。
「それで、まあ、吸血鬼になれます」
「……つまり、吸血鬼エヴァンジェリンも健在というわけか」
「ふん。そういう事だ」
秘密にしておく気満々だったエヴァは不満そうだ。
ちなみに、エヴァのマントは『デラックスライト』を当ててあるので、太陽やにんにくがあっても能力が失われなくなっている。
エヴァにとっては人間になって彼から貰ったはじめてのプレゼントである。だからというわけでもないが、ちょっと特別仕様。
実はこっそり、エドイコールエヴァというのは説明していなかったりする。
俺が説明すべき事じゃない。って事で。他の理由は察するように。
「最強の魔法使いは健在と。つまり、世界最強のカップルがここにおるわけか」
「ばっ、馬鹿な事をいうなこのじじい!」
「おぬしはワシより年齢は上じゃろうが」
「私はもう、十の体に戻ったんだ。肉体の年齢ならこの場の誰よりも若い」
「ですが、これから時間がたてば、成長するのですね。ああ、このちっこいキティがもう見れなくなるなんて、もったいない……」
アルビレオことクウネルが、楽しそうに笑う。
「貴様もなにを言っている」
「ある意味これはこれで芸術だと思っていたので」
「あー。それはわからないでもありませんけど」
「お前は私がこの体のままでいいというのか!?」
「そうなら吸血鬼のままにしているよ。そんな時こそ人類の英知ってヤツを使えばいい」
「む?」
「ほうほう。どうするのですか?」
「答えはシンプル。写真にでも残しておく。それだけさ」
「……それだけか?」
「それだけさ。人は元々変化していくんだ。それを残したいと思うから、写真が生まれた。残したければ、それを使うだけさ」
「……これは一本とられました」
「フォッフォッフォ。姿の変わらない魔法使いには逆に出ない発想じゃな」
まあ、魔法で立体画像みたいに残してもいいわけだけどなー。
閑話休題。
「そして、俺の件ですが……」
今回の本題。
俺が何者か。の説明を開始する。
……ああ、思い出す。刹那君に『宇宙刑事』と誤解されたあの時も、こうして自分が何者かを説明しようとして、一回おふざけしたら、とんでもない結果を招いた事を。
今回もまたなにかふざけた事を言ってしまえば、『鉄人兵団』の件とかで、俺が『宇宙刑事』であるとか誤解が広がる可能性が大きい。
むしろ確定してしまう。なにせ敵は宇宙の侵略者。『宇宙刑事』の説得力はばっちりだ!
だが、そんなのはお断り! あんな失敗は二度としない!
刹那君の時のようなミスはしない! 不幸な事故だが、クウネルの半生録も俺が普通の人だという事を補足してくれるはずだ。
それは、俺が自分で説明するよりも確実! 俺一人だけではなく、他人が一般人だといってくれるのだからな!
ふふふ。完璧。完璧じゃないか。
よっておれは、誤解のないように正しく俺の事を伝える事にした!
俺が、こことは異なる世界から来た事を。
この体が、平行世界である『俺』の体である事を。
目が覚めたら、この世界にいた事を。
そして、この体の持ち主は、すでに死んでいるという事を。
もっとも、自分でも説明できない事が多くて困る。
『四次元ポケット』がなぜあるのかとか、なんで俺がこの世界にきたのかとか。言いたくても説明不能でホントに困る。
それと、この世界が、俺の世界のマンガにあったとも伝えていない。
そもそも、ネギナギが女で、鉄人兵団が攻めて来ていては、もう完全に違う世界だからだ。
ここは『ネギま』によく似ている世界。そう考えるしかない。
……よく考えてみて、いっちばん最初に鉄人兵団見つけた時に考えろって話だよなこれ。ま、まあ、あの時は思いっきりテンパってたから。ほら、あれだ。あれ。てへ。
まあ、そのあたりが必要なら、俺の半生を手に入れたクウネルが補足説明するだろう(ポケットを持つ理由が説明できない以上、他人がしないと俺が一般人だと信じてもらえるから)
「というわけで、俺の件で説明不足なところは、さっき半生貰ったクウネルが補足してくれると思うのでヨロシクです」
「その件なのですけど」
俺の言葉に、クウネルが答える。
「ん?」
「彼の体であるこの世界の彼。その彼の、遺言を預かっています」
「は?」
この世界の、俺?
「実は、先ほどの儀式であなたの半生は得られませんでした。かわりに、その体の持ち主であった子の半生を得たのです」
「え? それってつまり?」
「はい。完全再生すれば、あなたではないあなたが現れます。これは、あなたになにかを伝えるための、彼の、最後の意思なのかもしれません」
クウネルのアーティファクト、『イノチノシヘン』は半生の書に記録した人物の完全再生。
10分間その人物を再生するというもの。いわば、歩く遺言。
本来ならば、死者を記録しても、再生するのは不可能だ(死んだ状態を再生してしまうから)
この世界の彼は確かにもういない。だが、彼の体は、まだ生きている。
それゆえ、その体に残った、この世界の彼を再生可能にしたのかもしれない。
それとも、死した彼が、本当に、なにか伝えたくて、クウネルの力を利用したのかもしれない。
どのみち、正しい理由は不明だ。
ただ言えるのは、この世界の彼の遺言が、ここにある。という事である。
「つまり、話を聞けば、なぜ彼がこの世界に来たのかもわかるかもしれない。という事じゃな?」
「そうかもしれません」
「あー。そっか。それは、興味があります」
クウネルが俺が普通の人である事を証明してくれないのは痛いが、半生流出を防いでくれたのはやっぱりちょっとうれしい。
ついでに俺がこの世界になぜ来たのかとかを説明してくれるかもしれないなんて、さすが俺。このまま俺が一般フツーの人だという事も説明してくれ。
「それでは、再生をはじめますよ」
「お願いします」
クウネルの体が光に包まれ、もう一人の彼が、その場に現れた。
「……これが、この世界の、俺」
この世界の彼が、ゆっくりと、目を開く。
「……はじめまして。どこかの世界のぼく」
「ああ。はじめまして。この世界の俺」
俺達は、互いに挨拶を交わす。
同じ顔。同じ声で会話をするなんて、変な気分だ。
「最初に言っておきます。ぼくは、彼がこの世界に来る前に、あの森で、死んでしまいました。ぼくが死んで、彼がこの世界に呼ばれたんです。だから彼が、ぼくを殺して体を奪ったとか、彼に責任があるとか、そういう事は一切ありません」
学園長が、うなずく。
「むしろ、彼も被害者なんです。この世界に、強引に呼ばれたんです」
この世界の俺は、申し訳なさそうに、俺を見た。
「そして、なぜ、彼がこの世界に呼ばれたのかですけど……」
その瞬間。空気の温度が下がったように感じた。
ごくり。
誰かののどがなる。
「ぼくにもさっぱりわかりません」
この世界の俺は笑顔で言い切った。
「ここまでひっぱっておいてそれかぁぁぁぁ!」
エヴァがキレた。
「ご、ごめんなさーい。だって、ぼくが死んだあとの事ですからー」
涙目で頭を抱えてうずくまる『ぼく』と、それに襲い掛かろうとして、俺に羽交い絞めされもがくエヴァの図。
「つまり、君が俺を世界に呼んだわけじゃない?」
「はい。ぼくがあの時死んで、その後。あなたがこの世界に呼ばれたのは確かです。でも、その理由は、ただの中学生だったぼくにはわかりかねます」
「まあ、確かにそうじゃよな」
期待した全員が、ちょっとがっかりした。
「ただ、あなたの中にあるあの憎しみ。あの『闇』。あれは、ぼくだけのものではありません。ぼくは、確かにあの日、死にましたけど、世界を破壊したいと思うほどの憎しみはありませんでした」
俺の中で暴れた、『闇』。
この世界を憎む、『ナニカ』。
あれは、この世界の俺だけの憎しみではなかった。
確かに、それなら納得出来る。
仮にも『ぼく』は、俺だ。
なにか不幸な理由があったにしても、その俺が、あそこまで世界を憎むとは思えない。
死者としての念だとしても、アレは異常だ。
だが、『ぼく』以外のモノもあるのならば、納得がいく。
「では、その『闇』が、彼がこの世界に現れた、原因というわけか……」
ふむ。と学園長があごをなでる。
「そうだと思います。ただ、どうしてそれが、ぼくの体に宿ったのかも、わかりませんけど」
この世界の俺。『ぼく』が申し訳なさそうに言う。
「確か、あの日、強力な召喚師が結界内におったな……」
「ああ。刹那が戦っていたあれか……」
「じゃが、それでも彼程の存在を呼べるとはとうてい……」
「いや、むしろきっかけの一つなのやもしれんが……」
学園長とエヴァが、二人であの日の事を話しあいはじめる。
だが、当然の事ながら、答えは出そうになかった。
老人と幼女の推論は『ぼく』には関係なく、彼は俺に話を進める。
「でも、ぼくはこうも思うんです。あの時。ぼくの命が消えるあの時、ぼくは『強い力』と、『強い心』がほしい。もしもぼくが……と願っていたかもしれません。そしてそれが、なんらかの形で、かなってしまったのかもしれない。と」
「は?」
「ぼくの願いが、あの『闇』を呼びこんで、その願いを叶えさせてしまった。あなたを、呼ぶ原因は、やっぱりぼくだったんじゃないかって」
「……」
「あなたは、本当に強い人だ。あの心の『闇』が暴れだした時、あなたは、たった一人でそれを押さえつけた」
「……あの時、か」
学園長との推論をしつつも聞いていたエヴァンジェリンが、納得したように言う。
あの時。うん。あのヘルマン伯爵の時だね。
「あの世界を滅ぼそうとする憎しみにも負けなかった。ぼくの欲しかった、『強い心』。そして、『強い力』。でも、もしそうだとすれば、なんの関係もないあなたが、この世界に来た事になる。この世界と関係ないのに、心に宿った憎しみの『闇』と戦っている事になる」
少年の目に、涙がたまる。
「ぼくが望んだから。あなたが、なんの関係もないあなたが、この世界に呼ばれて、何度も戦いに巻きこまれて、『闇』まで背負わせてしまって……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
そして、涙は決壊し、流れはじめた。
彼が『力』と『強い心』を望まなければ、『彼』は、この世界に来なかったかもしれない。
そもそも、そんな事とも関係なく、あの憎しみの『闇』のせいで、『彼』がこの世界にやってきたのかもしれない。
誰がこの世界に『彼』を呼びこんだのかはわからない。
だが、『ぼく』は、その責任が、自分にあると思っていた。
死ぬ前に、もしもと願ってしまった、自分にあると感じていた……
「ごめんなさい。ごめんなさい……ぼくが、ぼくが……」
「ストーップ! それ以上謝るな。俺はお前に怒っていない。気にしていない! 罪を感じているのなら、俺がお前を許そう。今お前のやる事は、未練を断ち切って、笑顔でいる事だ。だから、これ以上謝るな!! 笑え!!」
ドきっぱりと言ってやったら、この世界の俺は、呆然としていた。
「それに……」
エヴァを見たら、明後日の方を向かれた。
「俺は楽しくやっているからさ」
微笑んだ俺を見て、この世界の俺は、安心したように。それでいて、呆れたように、笑った。
「……本当に。あなたはすごいや……」
「よせよ。照れるぜ」
ったく。ガキの癖に、余計な気ばっかり使いやがって。
大体、ただの中学生に世界を破壊出来るほどの力。『四次元ポケット』とおまけの俺を呼べるわけがないだろうが。これだから思春期真っ只中の子は。
最大の問題は、よくわからない『闇』の方でお前には責任のかけらもないだろうに。
「ありがとう、ございます……」
そして、『ぼく』は、俺に抱きついて、静かに嬉しさゆえの涙を流した。
「気にするなよ。他に気がかりはあるか?」
「この世界、弱いぼくの代わりに、お願いしてもいいですか?」
「ああ」
「父さんや、母さんを、クラスのみんなを、お願いします……」
「全部、任せておけ。俺」
「はい。あとは、任せました。ぼく……」
この世界の俺は、その身を離し、静かに微笑んだ。
「これでぼくも、悔いを残さず、天にのぼれます……あなたに会えて、本当に、よかった……」
「そうか」
俺の方も、感謝しなくちゃならない。
なにせ、君がこうして出てきてくれたおかげで、俺の人生30年もクウネルにとられずにすんだ。
感謝するのは俺の方かもな。
ゆっくりと、その姿が消えてゆく。
「さようなら……」
「ああ。またな」
『ぼく』が、空へと消えてゆく。
光が消えた後。そこには、微笑むクウネルがいた。
俺も、感謝の笑みをこめ、微笑み返した。
「この世界の俺も、案外いいやつだったよ」
そう言った彼の頬には、一滴の涙が、流れていた。
その彼の姿は、なぜかとても、神々しいほどに美しかった。
そう、その場で彼の姿を見た者達は、思った。
「……しかし、結局なにもわからんかったのう」
「そうだな」
エヴァと学園長がうなずいている。
確かに。結局わかったのは、この世界の俺。『ぼく』が無事成仏した。って事だけだ。
むしろ『闇』について謎が増えたくらいだ。
「……『闇』については一つ、心当たりがあります」
クウネルが、その疑問に答えた。
「ほう」
「そういえば、大会の時、『力』について知っているような口ぶりだったな」
学園長とエヴァがソレに反応する。
「彼の力。それとまったく同じかはわかりませんが、かつて私達は、同じようなモノを見た事があるのです」
「なにっ?」
「それを目の当たりにした時、私達は、この世界であの化け物を倒す事の出来る者は誰もいない。絶対に勝てないと感じました」
オイオイ。それってひょっとして……
「もっとも、そんな化け物も、ナギが倒してしまったんですがね」
「なんだそれは……」
絶対勝てないのに勝ったという、あまりに荒唐無稽な話に、エヴァがあきれた声を上げる。
俺は、その絶対に勝てない。というのには、心当たりがあった。
確か、ジャック・ラカンが昔話で語っていた……
「……ん? ちょっと待て。それだと俺は、あれか? 『造物主』と同じ雰囲気を持ってるって事か?」
「はい」
やはり知っているんですね。
と、感心されてしまった。
「あなたと相対した時、私はソレと同じ感覚に陥りました。あの、世界を消滅させようとしたバケモノと、同じ気配を感じたのです」
『造物主』。もしくは、『始まりの魔法使い』、だったか?
た、たしかアレだよな。いわゆるナギパーティーと戦った最大の敵で、過去ナギ編のラスボス。
あの生けるバグキャラジャック・ラカンにも勝てないと言わしめた。
復活ラスボス候補ナンバーワンの大フェイト(?)の親玉。
「あなたはそれと、同質の存在。下手をすると、あなたは、その『造物主』そのもの。もしくは、その『器』となりえる存在かもしれません」
「おいおい」
「ただ、確証は持てません。同じ雰囲気と言っても、あなたには勝てない。そう感じている。それだけが根拠ですから」
「つまり、全然関係ない可能性もあるって事?」
「はい。といってもその相手も世界を無に返そうとしましたけど」
「……すっげー嫌な符合しかしませんねー」
アレと俺が関係あるとか、やめてくれよ。
思いっきりネギの物語に関わる事になるじゃないか。
……あれ? もし関係あった場合、あの時のヘルマンて、ひょっとしてなにかのトリガーとして使われたとかないだろうな。
でも、フェイトは俺の事知っているようなそぶりは見えなかったから、実際は関係ないのか?
ただ雰囲気が同じってだけ? フェイトが知らなかっただけ? それともあの時俺が発見された?
だめだ。原作知識にフェイトも『造物主』もその目的や正体はまだ不明だったから判断出来ねえや(彼にあるのは魔法世界武道大会決勝まで)
まいったな。
今一番必要な知識がねーじゃねーか。
つか、関係あったら、この『四次元ポケット』って元々は『造物主』の持ち物?
そうだとすると、『造物主』に勝ったナギかーさんマジで最強っすね。
でも、もう一つ可能性はある。
この世界に『ドラえもん』の物語はなかった。ここで『ドラえもん』を知っているのは『俺』だけなのだ。
つまり、俺がこの世界に呼ばれたから、『造物主』かもしれない『闇』の力に、俺の知る最強設定(強い力)が反映された。とかいう可能性も捨てきれないのが怖い。
ぼくのかんがるさいきょうきゃらくたーはどらえもんです。ってヤツー!?
でも鉄人兵団がいたわけだから……
いや、そこを考えるのはやめよう。頭と心がインフェルノペインしてくる。
あるものはある。それで俺がなにをするかしないか。それでいいだろう。
「しかし、これなら、あなたが彼女の娘。ネギ・スプリングフィールドに目をかけた理由も納得が出来てしまいます」
「ハハハハハハ」
乾いた笑いを上げる俺。
いや、全然そーいうわけじゃないんですがね! ないんですがね!!
しかし、『造物主』の、器の可能性。か……
……なんか、また一つ厨二設定が増えた気がするぞぅ。
いや、むしろ発展したといえばいいのか? もう俺がラスボスもやれそうな勢いだぞぅ。
心に『闇』を宿した最強系主人公だぞぅ。
世界、滅ぼしちゃうぞぅ。
ホント、やめてけろよ。
相変わらずレベルのたけぇ房設定だぜ。どこまでこの俺を苦しめるんだ。
どこまで厨二設定を貫けば気が済むんだ。
つーか器とかってナギかーさんの役目とかじゃねーのかなー。俺と同じ雰囲気のヤツに勝利してるし。
まあ、本当に関係あるかは不明だしなー。
「もっとも、まったく逆の可能性もありますが」
「逆?」
「復活する『造物主』。もしくは別の世界の破壊神など。もしくはその体に宿る、『闇』を。あなたという『闇』を律する者が止めるという役目です」
「世界の守護者。というわけじゃな」
『闇』に対するカウンター。それが、『俺』の呼ばれたかもしれない理由。
「あー」
例えば、今回の鉄人兵団。とかな。あれは目的が世界の破壊とかじゃないから関係ないか?
「20年前のナギのように。私としては、こちらの方が可能性が高いと思います」
「その力は、まさに表裏一体というヤツじゃな」
「ええ。体に『闇』が宿った反動で、『光』もまた宿ったというわけです」
「ま、よくある話ですね」
「……よく、ある?」
学園長とクウネルが俺の方をちょっと驚いた目で見た。
「ああ、お気になさらず」
やべえやべえ。あまりの事にうっかりさっきまで考えていた厨二設定に関しての感想が出ちまったよ。
そうか。と、なにか納得したように学園長はうなずいてたけど、どこに納得するところがありました今?
「結局のところ、『造物主』イコール俺でも俺ががんばれで、別に世界を破壊する者出現イコール俺がんばれで、さらに世界破壊しないように俺自身もがんばれって事ですよね」
「そうなりますね」
笑顔できっぱり言われました!
「がんばりまーす」
はあ。どうやら俺には、なにやら壮大な宿命(笑)があるようだ。
世界の上に物語にも関わってきたかもしれないなんて。
しかしイコール『造物主』はイヤだなー。
『造物主』イコールおとうさんで実は俺が四番目DEATHよもヤだけど。
いろんな意味で。
「というわけで、その認識に立ち、これからどうするのです?」
「どうしようましょうかねー。このまま俺がなにもしないのもある意味世界を守る行動にもなるし」
「確かに。心の『闇』を刺激しない生活というのも大切ですね。大変すばらしい答えです」
「いやいや。褒めてもなにも出ませんよ」
「そういう事でしたら、どうです? 私と一緒にここで暮らしませんか? ここならば、たいていの干渉は撥ね退けられます。食っちゃ寝生活も、結構快適ですよ」
「は?」
「具体的に言えば、私のお婿さんになってみませんか? という事ですが」
「ぶー!!」
今まで静かに紅茶を飲んでいたエヴァンジェリンが紅茶を噴出した。
……なんかこれ、俺の位置がネギで見た事あるような気がする。弟子とそれ以外という違いはあるが。
というか、クウネルって女だったの? こいつもTS組!? いや、単にからかっているだけの可能性も無きにしも非ずだが。
「ちょっ、ちょっと待てい! アルビレオ!!」
「そうじゃ待つんじゃ! それならうちの木乃香をー」
学園長はエヴァアッパーで吹き飛ばされた。
「ここだけの話、エヴァンジェリン。あれはいけません。あなたの人生を棒に振ってしまいますよ」
吹っ飛ばされ、空中を舞う学園長を無視し、クウネルは話を続ける。
「なんだとアル貴様ー!」
「確かに、今考えてみれば、こいつに振り回されるのは目に見えている」
せっかくだから、おちょくるのに乗ってみる。この人、エヴァをおちょくるために労力をいとわない人だからな。
それに本気なら、大会優勝の『お願い』を人生録ではなくコレに使っただろうし。
「お前までー!?」
「そうでしょうそうでしょう。エヴァンジェリンをおいしくいただくにはあと5年はかかりますし。それに比べ私ならば……」
「聞こえているぞコラ! アルビレオ!」
「くっ、その提案はずるい!」
本当に女かどうかすらもローブのおかげで判別もつかないが、話にあわせ相槌を打つ。
「コラァ!」
「というわけで、お買い得ですよ」
「クウネル!!!」
「はい、なんでしょうキティ?」
くりんと笑顔で振り返った。ホントにクウネルと呼ばないと反応しないねんこの変人。
「私の所有物をとろうなど、貴様なにをたくらんでいる!」
「なにが目的って、貴女がムキになって慌てふためく姿が見たいからにきまっているじゃないですか」
「俺はそれにのって一緒にからかっただけ!」
ぱぱーんと二人でポーズをとり、その後俺とクウネルは、硬く握手をかわした。
アンタとはいい友達になれそうだ!
「死ねぇー!!」
クウネルを攻撃するけど、スカッと外れ。
「ぎゃーす!」
当然俺には攻撃が当たる。
しまった……クウネルはんは、無敵なんやった……
「冗談! 冗談なんです! 愛してるよ! だからやめ、やー!」
当然俺だけフルボッコ。
ぶすぶすぶす……
「いやはや、貴女の嫉妬する姿というのも、なかなか見ものですね」
「私がいつ嫉妬したー!!」
「ふぉふぉふぉ。仲良き事はよき事かな」
俺と同じく床でぶすぶすしてる学園長が、なんか老人らしい事を言っていた。
はっきり言ってカオスです。
そうやってぽこすかしていると、ネギ達がやってきた。
学園長は、用件が終わったので帰り、クウネルはネギ達の相手をはじめる。
これでネギの母。ナギが生きている事が知らされ、夏休み魔法世界行きが決定するだろう。
その場に残されるのは、俺とエヴァンジェリン。
周囲に誰もいない事を確認すると、エヴァは自分の膝をぽんぽんとたたいた。
俺も、それに従い、素直にその膝に、頭を乗せる。
あの日からしばらくして、いつの間にか、これは当たり前になってしまった。
エヴァの手が、優しく俺の頭をなでる。
「私は、お前が何者でも、かまいはしないぞ」
「ありがとよ」
「むしろ、どれほどの化生かと思っていたら、体は本当にただの人間だったんだな」
「お前、俺をなんだと思ってんだよ」
「……『王子様』」
「……」
ぽつりと言われ、俺達二人は、そのまま赤面する事となった。
こ、この馬鹿エヴァはいきなりなに恥ずかしい事を言っとんじゃ! なんつー乙女な事を。
「エヴァンジェリン」
「なんだ?」
「世界、お前と一緒にいるために、守るよ」
「当然だ」
そしてそのまま、エヴァの顔が、俺に近づいてくる。
……逃げ場ねーやん。
───学園長───
彼の、『正体』を、聞かされた。
異世界から召喚された者。この世界を破壊出来る『力』を律する者。
誰も発言はしなかったが、彼の『力』。それを狙い、この世界の彼の体に、その『闇』が宿り、『力』を呼び寄せたとも考えられる。
もっとも、呼び寄せた『力』には『彼』という強固なセーフティがかけられておったわけじゃが(学園長は結局『四次元ポケット』は彼の力と思っている)
『闇』に対する、『光』。
それが、彼の立ち位置。
しかし、実は大きな謎が一つ残っておる。
それは、彼が、異世界の何者か。という事。
この世界の彼と平行世界の彼とは聞いた。じゃが、その彼が、元いた世界では、真に何者であったかは、語られなかった。
じゃが、推測は出来る。
彼は、自身の説明に対し、驚いていたそぶりはなかった。
世界を無に返そうとしたという『造物主』というものもすでに知っておった。このような事態なのに、「よくある事」と言っていた。
彼はすでに、自身の宿命というものを、知っているのだろう。
異なる世界から呼ばれ、全てを捨てさせられ、それでも、何事もないかのように、彼は、この世界に立っている(それゆえ、彼は元の世界の事を話さなかったのかもしれない)
この世界を、護るために……
全てのものの営みを護るために……
この世界の彼を見送った彼は、あまりに神々しかった。
世界の破壊と創造を司る力と意思。それを律し、相対する事が出来る。それはすなわち、『神』の領域といってもいい。
人の身を借り、もしくは、人の姿を模し、『神』が降臨する事は、神話においてよくある事だ。
もしかすると真の彼は、その類なのかもしれない。
そう考えれば、神話の怪物を平然と召喚するのも、人知を超えたサイズに巨大化出来るのも納得がいく。
この世界の未来と過去の事をある程度把握しているしているというのも納得がいく。
ワシは今、まさにその神話を目の当たりにしているのかもしれん。
となれば、ワシに出来る事はもう、ただ祈る事のみ。
彼が、『世界の破壊者』にならぬように。彼が、『世界の破壊者』に負けぬように。と。
じゃが、それも杞憂に終わるじゃろう。
彼は強い。そして、彼と共に歩む者もまた、強い。
彼は、『闇』などには負けない。そう、確信が出来た。
いやはや、しかし、ワシはとんでもないお方の機嫌を損なうところじゃったんじゃなぁ。
くわばらくわばら。
とりあえず、拝んでおこうかのう。
結局、彼本人が一般人だ。という認識は、彼の話を聞いた3人にも、存在しなかった。
むしろ出来るはずもなかった。
なぜなら、彼自身の説明はアルに放り投げていて、そのアルは説明していない(出来ない)上、自身もこの世界の身の上を聞いたショックとその後の騒動でその説明をすっかり忘れていたのだから。
この後学園長に神社に祀られるくらいの待遇を受け、彼はたいそう悶絶する事となる。が、それはまた別の話。
───エピローグ───
夏休み。
俺はエヴァと、ネギパーティー一向と共に、魔法世界のゲートを目指していた。
当初の予定では、成長したネギパーティーに『道具』と『知識』を渡して、心の『闇』を刺激しない事を理由に魔法世界には行かない。と、俺は安全平穏という予定だったのだけど、そうもいかないこの世界。
すでに知っている人はいると思うんだけど、俺の祖先に魔法世界の住人がいたらしいんだよ。
おかげであの時魔法使いとして覚醒もしたし、生き返れたわけなんだけど……
なんと俺、魔法世界にあるとある王国の、王子様なんだってさ……
なんでも、そこは血筋と魔力によって王が選別されるんだって。
あの日、魔法使いとして覚醒した俺の姿が、王家の宝石とかいうのに映し出されたんだって。
よって俺は、その国の王となる権利を得たんだって。
それで、調べて、学園に連絡が来たと、学園長からお話がありましたとさ。
「王位継承のゴタゴタが生まれたから、夏休みには来て欲しい。だそうじゃ」
「行かないと?」
「その国の内政が大変な事になるじゃろうなぁ。手間をかけさせ大変申し訳ないのじゃが……」
少なくとも行って、王位継承権を放棄するとか宣言しなくてはならないようだ。
代理宣言とかはダメなんだってー。
というか、直接行ってその俺を写した宝石から、俺の姿を消せばいいらしいんだけど、それを消せるのが本人のみだから、行かなきゃならないワケだ。
精神的に大人になっているせいか、魔法もマトモに発動出来ないってのにいらない面倒だけはやってくるってなんぞこれ。
そんなわけで、結局ネギ達と一緒に魔法世界へと行く事になりましたとさ。
ネギにフェイトがゲートに来る事を伝えておこうかと思ったけど、もう俺とエヴァが直接出向くので、そのままこっそりぶっ潰そうと思います。
ネギ一向はそのまま平穏無事に魔法世界観光でもすればいいさ。大人の残した負の遺産なんて大人がどうにかするよ! 子供は知らなくていいさ!
原作の流れ? もうそんなの知った事かなのよ!!
ちなみに、魔法世界についてきちゃう3-Aの子等は、委員長に監視を強化させてついてこさせないように手配済みです。
部屋から出させません!
……まさか、対俺用に増やされたあの黒服執事さん達がここで大活躍するとは、思いもよらなんだ。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
エヴァが俺に聞いてくる。
「ああ。ゲートに現れるフェイト一行をとっ捕まえて、計画やその背後にいるヤツを白状させる。そして、丸ごと叩き潰す!」
俺達とネギ一行がゲートに行く日、フェイトがゲートに現れる事は、的中率100パーセントの『○×占い』で○。しかも俺達が来る事に気づいているかは×が出ている。
ならば逆に、そこでフェイトをとっ捕まえて、根本から叩き潰してしまおうというわけである。もし俺と黒幕(『造物主』?)がなにか関係あっても、エヴァもいるから心強い。
先手必勝。そうすれば、ネギも安全俺も平穏ゲットだぜ。
「あの人形がそう簡単に自白するとは思えんぞ」
「だーいじょうぶ。まーかせて」
懐から取り出すのは……
『白状ガス』
スプレー缶に入ったガス。これを吹き付けられた人は、どんなに秘密にしていたことでもペラペラしゃべって白状してしまう。
エヴァにふきかける。
「はい、しゅっとかけて。エヴァ」
「? なんだ?」
「俺の事、どう思う?」
「大好き」
エヴァの口が勝手に動いた。
「っ!」
エヴァがあわてて口を押さえるが、周囲にいる人達大注目。
「もう一度」
「大好き」
「せっかくだからもう一回」
「大好き!」
「とまあ、このように、効果は抜群。なんでも白状してしまうのさ」
「お、おまっ……!」
人前では絶対に言わない事を言わされたエヴァンジェリンは真っ赤だ。
「それでも俺の事は?」
「大好きだ!」
「俺も好きだ」
ぶん殴られました。
「こ、こ、この、アホ!! お前なんて、大好きだ!! ああもう!!」
頭をかきむしるエヴァンジェリンでした。
「ふむ。ちゃんと動けないようにしておかないとダメだな。欠点がわかってなにより」
背中をぽかぽか殴られているが、気にしない。
そんなわけで魔法世界、行ってきます!
第1部、完!!
─あとがき─
……後半はずっとエヴァとイチャイチャしてただけな気もする第1部終了のお話でした。
最後という事からか、主人公がこちらの世界に呼ばれた理由もなんとなく判明でござる。
彼と『造物主』の関係は、原作でもどういう存在かまだわからないからあえてつなげてみただけでござる。これがどう作用するのかはまだ書いてる人もわかりません。
クウネルの勘違いでした。とか原作の展開しだいではありえるから注意。マヂで。
学園長とも誤解が解けてこれから学園では平穏平和かと思ったら、今度はよりでっかい世界レベルのなにかと因縁が発生したでござる。
魔法使いになったら王子様で魔法世界行き決定でござる。
物語からも逃げられないようでござる。
しかも学園長には神として祭られそうなレベルでござる。
本気で神社とか像とか建てられたらもう、もう一回死ぬかもしれんね。いろんな意味で。
最初の予定は当然『宇宙刑事』に落ち着くはずだったんですが、気づいたら学園長からは『神』として祀られるレベルになってました。おかしいな。
そのうち事情を察した学園長が『宇宙刑事』としてあつかいだしたりしたらある意味完璧?
『宇宙刑事』と『神』。どっちにあつかわれた方がダメージ少なかったかは、読者の皆様の判断にお任せいたします。
しかし、敵視されていた方がダメージ圧倒的に少ないという不思議。
このままフェイトの背後が『造物主』で関係があったらフェイトにどう思われるのやら。彼イコール『造物主』(黒幕?)とかなったら彼が憎いのにフェイト従わなきゃならないとかで、わくわくになりそうです(彼の精神ダメージ的な意味で)
あー。千鶴が魔法世界の住人だったら面白い事になるんだけどなー。さすがにないよなー。
でもこれからというところで、いったん終了です。
第2部やるにしても、原作魔法世界編が終わってからな!!
少なくとも、フェイトの背後関係や目的が判明してから。
それと、この世界の彼が、どのようにして死に到ったのかは、明かしません。
すでにあの時、死んでいた。という事実のみを語るのみです。
その経緯は、想像に任せるという事で。
数年後とか後日談書こうかと思ったんですが、なんか砂が吐けそうなイチャイチャカップルしか思い浮かばなかったのでやめました。
これ以上もういらねーよな! いらねーよな!! それとも砂吐きたいか!?
数年後人間に戻ったころの写真を見てイチャイチャパラダイスなの見てもしゃーないやろ!!
しゃーないやろー! ないやろー! やろー! ろー!(エコー)