初出 2009/06/29 以後修正
─第20話─
満を持して、真打、登場!!
──────
さて。覚えておいでだろうか?
彼には魔法使いの血が流れている。という事を。
知っているだろうか?
大隔世遺伝という、2度目の死亡と共に、主人公が魔族として復活する超展開を。
さらに知っているだろうか?
とある条件のまま30歳に到達すると、魔法使いになれるという伝説を。
彼の命の灯火が消えようとした、その瞬間。
かちり。
時計の針が、丁度、その時間を、指す。
運命の時間を、指し示す。
彼の魂が誕生し、30年を経過した、その時間を。
この時!!
この時彼は、このすべての条件を、クリアし、『魔法使い』として覚醒したのだ!!
どくん。
「これは……」
彼の死を見取ったアルが、驚く。
魔力が、渦を巻き、彼の体へと流れこむ。
失われた体を、魔力が再生する。
消えたはずの命の炎が、再び魔力によって燃える。
どくん。
人としての死。そこからの、魔法使いとしての覚醒。
どくん。
死者の、復活。
どくん。
『それ』を見るのは、アルビレオといえ、初めての事だった。
だが、それに呼応し、目覚めようとするモノがもう一つ。
どくん。
『壊せ』
どくん。
『壊せ壊せ壊せ!』
どくん。
『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!!』
鼓動と共に、その内に秘めていた『闇』が、狂気が、あふれ出す。
彼の覚醒と復活を待ち受けていたかのように、彼の魂が、『闇』に、塗り替えられてゆく。
「こ、この、気配、やはり……」
その絶対的な圧力に、思わず後ずさるアルビレオ。
場が異界で助かった。これが外であったら、どのような影響が出たかもわからない。
男は、なんの反動もつける事なく、直立のまま起き上がった。
その背には、『闇』の翼が見える……
覚醒した、禍々しい、魔の力。
その両の目が今、ゆっくりと開かれてゆく……
『壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ!』
誰にも止められない破壊の力。
『壊せ!!』
完全にソレが目覚めようとした、その時。
「───」
彼は、自身を呼ぶ声を、聞いた。
彼が、拳を握る。
その声と共に、彼は、目を覚ます。
一度、その拳で、顔面を殴りつけて。
その瞬間。闇色だった翼がはじけ、一転して、光に変わった。
「いってぇ。おちおち死なせてももらえねーのか」
少年は、ぺっと、口の中にたまっていた血を吐き捨てながら、自嘲するように、言う。
彼を呼ぶ声。それが、彼を、本当に呼び覚ました。
「……は、ははは」
呆れたように、アルは笑った。
その滅茶苦茶なありようは、アルビレオ自身もよく知る、友の姿を思い出させた。
こうして。
こうして彼は魔法使いとなり、自らの体を再生し、自らを呼ぶ声と共に『闇』を払いのけ、死の淵からよみがえったのだ!!
『四次元ポケット』の恩恵を受けず、自身の力のみで、死を、覆したのだ!!
そして時が動きはじめた今、光を纏い、自らの魔力で空を飛び、落下するエヴァンジェリンの元へと彼はやってきたのだ!!
その姿はまるで、無敵の星を手に入れ、きらきら光る、スーパーなイタリアン配管工! もしくは聖光気を纏った元霊界探偵の様相をイメージすればいいだろう(配管工や探偵の姿まで想像する必要はありません)
これが、彼復活の真相である!!
アルビレオのイノチノシヘンでの完全再生ではない。
この彼は、正真正銘。本物の、彼なのである!!
だが、最初に言っておこう。魔法使いに覚醒したからといって、魔法が使えるわけではないという事を!(魔力が生まれても魔法を学んでいないから。近衛木乃香が良い例え)
ただし、今空は魔法の力で飛んでいる。
あふれた魔力により、勝手に体が浮かんでいるのだ。
舞い散る光の粒子は、むしろ勝手にもれてる魔力なのだ。
いわゆる魔力を纏うという行為。これは、覚醒直後の今だけ使えるパワーである。
──────
まほら武道会会場上空。
動きはじめた時の中。
そこにいた、誰もがその姿を、呆然と見ていた。
なぜなら、そこに彼が、現れるはずなどなかったからだ。
だが、流れ出た鮮血の汚れそのままに、彼はそこにいた。
光り輝く魔力を纏い、彼はそこに、現れた。
とくん。とくん。とくん。
彼に抱きとめられながら、彼女は、その音を聞いていた。
彼の胸から、消えたはずの、命の音が、聞こえる。
心臓の鼓動が、聞こえる。
これは、本物だ。
私が、彼を見間違えるはずがない。
これは、彼だ。
私が彼のポケットに吸いこまれた時、命が消えるのを感じた彼そのものだ。
命を再生させたものなど、死から復活した者など、600年生きた彼女ですら、知らない。
だが、彼は……彼は……!!
生きている!!
生きているんだ!!
「ど、どこまで、どこまで出鱈目なんだお前は!」
「泣くなよ」
「な、泣いてなどいない!」
「……はは。そうだな。それじゃ代わりに、お前泣かしたあいつぶっ倒すから。ちょっとどいてろな」
彼は、優しく微笑む。
そしてエヴァは、彼のポケットより取り出された『魔法のじゅうたん』に乗せられた。
その時、泣かしたのはお前だ。とは誰もつっこめなかった(あと、彼は元々『サウザンドマスター』と認識されているので、魔力で空を飛んでいても不思議には思われない)
「……なぜ、貴方がここに? あの傷で、なぜ、貴方が生きている……? それに、それは、魔力……?」
ありえない事に電子頭脳がエラーを起こしていたリルルが、やっとそこから復帰し、その言葉を搾り出す。
「そいつは企業秘密だ」
ちっちっち。と、彼は指を振る。
実は本人も、なんで復活したのかさっぱりわかっていなかったりするのだが、それも秘密だ。
「……ですが、貴方が復活したところで、同じ『力』を使える私に、ヒトである貴方が勝てると?」
原因はわからない。だが、それならば、もう一度殺してしまえばすむという事。
例えまた復活しても、何度も何度も殺してやろう。永遠に戻れない宇宙の深淵まで飛ばしてやろう。リルルは、そう結論づけた。
「勝てるさ。だって、あんたのその道具の使い方。この世界じゃぁ2番目だからな」
「ならば世界一は誰だというのです!」
「当然。俺さ」
そう言い、彼は自分を親指で指差した。
「くっ!」
あまりの自信に、思わず気おされるリルル。そのままリルルは、『スペアポケット』へと手を伸ばそうとする。
「だが、それはもう使わせない」
リルルの伸ばした手は、そのまま空を切った。
「っ!?」
「はいざーんねーん」
彼の手には、リルルも見た事のない婦人用バックが握られていた。
そして、その反対の手には、彼女の元にあったはずの、『スペアポケット』。
『とりよせバック』
女性用ショルダーバッグの形をしている道具。バッグに手を入れ、取り寄せたいものを思い浮かべるだけで、それを取り寄せることが出来る。
取り寄せる際手だけがその場に現れるため、もしそこに誰か人がいたら、その手を見られ、場合によっては手をつねられてしまう事もある。
だが、気づかれなければ、どのようなものも、どのような場所にあろうと、とりよせる事が出来るのだ。
ポケットの中でバッグを操り、そこで『スペアポケット』を奪い取っていたのだ。
「それに、これとこれも没収です」
さらに、『タンマ・ウォッチ』と『復元光線』。
リルルの『体内』に収められていたそれらがすべて、彼の手に収まり、そして、正しい『四次元ポケット』へと収まってゆく。
ついでに、落下していた『秘剣・電光丸』『ショックガン』も。
ちなみに回収の仕方は、自身が把握していない、四次元ポケットの外に出ている『道具』と考えて手を入れている。それゆえ、上記の物以外に、エヴァンジェリンのつけていた『ウルトラリング』も回収してしまっているが気にしない。
「な、なんなの、その道具は……」
「知らないようだね。そりゃそうだ。ここでこれ使ったのはじめてだもん。あんた、俺の使った道具しか使えないだろ」
「くっ……」
「だから、世界じゃ2番目なのさ」
情報として知らなければ、リルルは使えない。
リルルは、ロボットであるがゆえ、明確なビジョンを持って道具を取り出している。逆にいえば、アバウトな思考で道具を取り出す発想がない。ロボットゆえ、知らない物を取り出す想像が出来ない。
それゆえ、知らない『道具』は取り出せない。
「ならば!」
リルルは、その手を空へと掲げた。
広がる光の幾何学の模様。
「これは……」
超が、それを見て驚きの声を上げる。
なにがこの場に現れようとしているのか、気づいたのだ。
「来なさい。『ジュド』!!」
そこに現れるのは、人のサイズを大きく超えた、全高20メートルを超える巨神。
外宇宙より来訪した機神。
未来の道具と同様。この星には存在しない、破壊の化身。
この星を更地に変える存在が、その場に現れた。
リルルはワープでコックピットへと跳ぶ。
「いざという時、最も信頼出来る武器を選ぶのは正解だ。だが、それじゃぁ勝てないぜ」
だが彼は、それを見ても、自信に満ち溢れていた。
ちなみに、なんでこんなに自信満々なのかというと、体に魔力が満ちているため、脳汁出まくりでテンション上がって、いわゆるハイってヤツになっているからである。
───ギャラリー───
まほら武道会大会会場。
ネギと高畑先生の試合がはじまろうとし、選手入場でネギが舞台へと向かっていたその時。
彼等の目には、突然舞台床板の一部が吹き飛び、高畑の対戦相手、舞台へ向かっていたはずのネギが忽然と消えたように見えた。
『い、一体どういう事ー!?』
解説席にいた二人も、パパラッチ朝倉も、ギャラリーも、選手席にいた明日菜も刹那もびっくり仰天である。
さらに、その直後。
大会会場である龍宮神社の後方。
そこに、巨大なロボットが現れたのだ。
ピピッ。
「え?」
朝倉のイヤホンに通信が入る。
『あーっと、どうやら舞台が一部修繕の必要があるようです! ですので皆様。明日開催予定の火星ロボ軍団襲来のデモンストレーションをご覧ください!』
超から受けた通信を、そのまま言葉にし、この場での混乱を抑える朝倉。
(一体なにが起きてんのよー)
ギャラリーの混乱は巨大ロボへの注目で収まっているが、直っていたはずなのにいきなり壊れた床板や、いきなりいなくなったネギ。さらにいきなり現れた巨大ロボなどの説明はなく、彼女は一人混乱するしかなかった。
さらにその直後。巨大ロボの前に、今度は光を纏った巨人が、現れた。
(今度は光の巨人ー!?)
『あれは、先ほど失格になったジャスティス仮面選手。ですね』
『いいえ違います』
茶々丸の言葉を、解説席に座るもう一人のリーゼント。豪徳時が否定する。
『違うのですか?』
『ええ。あのサイズ。光り輝くその体! そう、今の彼は言うなれば、ウルトラジャスティスです!!』
ウルトラかっけー! 豪徳寺が目を輝かせ、興奮したように言い放った。
(それ完全にアンタの趣味だー!)
隣で聞いていた長谷川千雨は、心の中で思わずつっこんだ。
だって男の子だもん。
──────
「よりにもよって『ザンダクロス』か。だが、そいつが相手なら、むしろ都合がいい」
彼はにやりと笑い、自分のポケットに、手を入れた。
「あんたの知らない道具、もっと見せてやるよ!」
彼はポケットの中から、一本の懐中電灯のようなものを取り出した。
「超鈴音!」
「は、はい!」
「一瞬で終わらせる。周囲の混乱の収拾。任せた!」
「わ、わかたネ!」
そして俺は、その道具のスイッチを入れた。
「じゅわっ!」
俺はこの時、『ビッグライト』と『変身セット』を使い、光の巨人になった。
『ビッグライト』
これの詳しい説明は不要であろう。光を浴びるとサイズがそのまま拡大されるというものだ。
本来なら、ホントに光の巨人スーツを着たかったのだが、それを可能にする『きせかえカメラ』は対象にシャッターを切るという、自分にピントを合わせるという行為があの一瞬では出来なかったのであきらめた。
それゆえ、大会に出場した時のマスクオブジャスティス。ジャスティス仮面のまま、巨大化する事にした。
今の俺はウルトラ俺。変身くらい、なんともないぜ!(気分がハイになってます)
周囲に光が瞬き、一瞬、人々の目を焼く。
その隙に、俺、光を纏いつつ巨大化。
そして、ザンダクロスと対峙。
「同じサイズになれば互角になったなんて思わない事ね」
ジュドのコックピット内で、リルルが言う。
その言葉は、『変身セット』で強化された俺の耳にも届いた。
「ああ。思っていない。だから!」
俺はさらに、『ビッグライト』を自分へ照射した!
ぐんぐんぐん。
さらに照射。
ぐんぐんぐんぐん。
どんどん照射!
ぐんぐんぐんぐんぐん。
さらにおっきーく!
観客達の視線が。首の角度が。どんどん上にあがっていく。
完了!!
どどーん。
うん。サイズ的に大人が空き缶(ザンダクロス20メートル超)を踏み潰すようなサイズになりました。
「これで、どうだぁー!」
俺の言葉一つで、すでに大気が震えるレベルだ。
「んなぁー!?」
ザンダクロスコックピット内で悲鳴を上げている少女が思い浮かぶ。
ぽかーん。
観客達は、全員口をあけているしかない。
いや、学園祭に来ていた人全員が、それを見上げ、あんぐりしているだろう。
「死なねーように注意しろよー! ぺしゃんこでも気にしないがー」
そのまま俺は、足を上げ。
ぷち。
ザンダクロスを踏み潰した。
ぷち。
ザンダクロスを踏み潰した(同じ行動を観客視点から)。
ぷち。
ザンダクロスを踏み潰した(同じく今度はすごく遠くの視点から)。
俺!
大・勝・利!!
しーん。
まほら武道会会場は、そのまま沈黙に包まれる。
『えー、以上、明日開催予定の火星ロボ軍団襲来のデモンストレーションでしたー』
そんな沈黙の中に、テンションの低いパパラッチ朝倉の声だけが響いていた。
……あれ? なんか、会場の反応がアレじゃね?
なんか盛り上がらなかった。的じゃね?
みょんみょんみょんと小さくなりながら、ハイになったテンションが抜けてきた俺は思う(魔力が抜けきってきた。幸い『変身』しているので落下はない)
ついでに、ぺらぺらになったザンダクロス&リルルは自身が小さくなるのと一緒に『スモールライト』で小さくしてポケットの方に回収(『とりよせバック』で)
ちなみに外宇宙から来たザンダクロスを、サイズがでっかくなっただけで潰されるとは思わない方もいるだろう。
そんな貴方にお答えします。
実は『ビッグライト』ででっかくなる時(周囲に光が瞬いた時)、その光にまぎれてザンダクロスにこれを照射していたのだ!
『材質変換機』
この道具から放つ光線を物に浴びせると、その物の材質を変える事が出来る。
材質としての性質は変化するものの、外観は変化しない。窓ガラスを割れないように鉄板にしたり、紙を細く丸めて鉄に変えて金属バットがわりにしたり、紙で作った服を布に変えて本物の服にしたりと、さまざまな使い道がある。
これで、ザンダクロスをアルミ缶レベルの硬さにして、踏み潰したのだ。
まさに、空き缶を踏み潰すかのごとく。
……にしても。
しーん。
この盛り上がらなっぷりは、ひどいな。
実は地球の命運をかけてた戦いなんだけど、見てる人から見れば、超の用意したただのデモンストレーションだもんな。
そりゃあんな手段でロボット倒したら、もりあがらねーよなー。
戦隊モノでヒーロー側が敵の巨大ロボよりでっかいロボで出てくる展開だもんなー。
光の巨人が敵怪獣よりでっかくなったわけだもんなー。
そんなわけだからー。
「ジャスティス!」
しゅっといつものポーズで俺は逃げ出した。
その言葉と共に、会場に音が戻る。
はっと気づいた観客が、やっと声を上げた。
「ずりぃー!!!!」
「最低だー!!」
「卑怯者ー!!」
ギャラリーから大ブーイングが上がった。
『あー。あれは、ダメですよねー』
立ち直ったリーゼント豪徳寺が言う。
『戦術的に正しいとは思いますが……』
『ヒーローとしてアレはダメだと思いますねー』
『まあ、ジャスティス仮面ですから』
『あー、ジャスティス仮面ですからねー』
特攻反則ヤロウのジャスティス仮面だからしかたないかー。
なんて解説席には、そんな空気が流れていた。
「いやはや。彼がどれほどすごい事をしたのか、本当にわかっている人は何人いるのかネ」
「あはははは」
外宇宙の機神を宣言どおりああもあっさりと倒した彼を見た超が、あきれるようにつぶやいた。
ネギもそれに関しては、笑うしかなかった。
「いやはや」
会場の隅で、それを見上げていたアルビレオも、あまりの事に少し困惑したような声を上げている。
ちなみに選手席にいた明日菜達は、当然の事ながら、なにが起きていたのかさっぱり理解出来なかった。
唯一刹那は、『宇宙刑事』としてなにかあったのか? と思うが、さすがにそれ以上はわからない。
あと、時間停止の解けた学園長や魔法先生も、あの戦いは、呆然と見ているしかなかった。
ただ、一つ、わかるのは、無事だった彼によって、この星は救われた。という事である。
───リルル───
これは、学園祭後の出来事である。
「……」
私は、ゆっくりと、覚醒した。
「……生き、てる?」
私はあの時……そう。あの時、『ジュド』の体と共に、ぺしゃんこにされたはずだ。
それなのに、なぜ?
そもそも、ここはどこだろう。
どこか、ホテルのようなつくりにも見えるが……(『キャンピングカプセル』という道具の中)
「ああ。目が覚めたみたいだね」
そこに現れたのは、私を踏み潰した、あの男だった。
なぜ、あの男が?
「……なぜ私を助けた?」
私はそのままその疑問を、奴へぶつけた。
あの状況からして、私を助けられるのは、この男しかいない。
だが、私を生かしておく理由がわからない。
「なんでって言われてもなあ」
ぽりぽりと奴は頭をかく。
「だって君、調べたところ、今まで『俺』以外に誰も殺していないみたいだし……結局無事だったし……」
いや、それだけで十分なのではないか? こいつは、自分が殺されそうになった事は、許すと言うのか?
それに私は、この星の生き物すべてを奴隷にしようとしているのだぞ。
「……人間のする事って、わからない」
「時々理屈にあわない事をするのが人間なのさ。それに、君が壊れてしまったら、メカトピアは本当に全滅してしまうからね」(それによくよく考えてみて、本星ふっ飛ばしただけじゃ完全な解決になってなかった。とリルルに襲われ彼は気づいた)
「……は?」
「ああそうだ。自己紹介がまだだったか。僕は彼。彼の代わりに、君と新しいメカトピアを創る者さ」
「……はぁ?」
自己紹介も、意味不明だった。
貴方は人間ではないか。それとも、メカトピアの伝説にあるような、メカトピアを創った『神』にでもなる気なのだろうか?
「いやいや、違うよ」
私の疑問に答えるように、彼は苦笑して、答えた。
「彼と僕は、本質的には一緒だ。ただ、一つだけ違うところがある」
僕? 彼? 貴方は私をつぶした彼ではないの?
「彼は人で、僕はロボットであるという事。彼はあなたと歩む事は出来ないけど、僕なら出来るという事」
……! そう言われ、やっと気づいた。
そうか。違う。目の前にいるのは、その彼ではない。
目の前の彼は、ロボット。私と同じく、人間そっくりのロボットだ!
貴方は、彼をコピーしたロボットという事か! あの、真祖の吸血鬼へと手渡した、アレと同じモノ!
「そういう事です。これから、よろしくお願いしますね」
つまり、私の監視。という事か……
「……私は、あきらめませんよ。何度でも、使命を果たそうとしますよ?」
「かまいませんよ。そのたびに、僕と彼があなたを止めます。何度でもね」
彼は、平然と言い切った。
「……」
「それに、あなたはすぐにわかってくれると思います」
「なぜ、断言できるのですか?」
「貴女が心を持てる事を、僕とオリジナルは、信じていますから。あなたはそのうち、人を殺せなくなる。その命令に、従えなくなる」
そう言い、彼は微笑んだ。
「……か、勝手にしなさい!」
私はそのまま、シーツをかぶってベッドで丸まった。
……なんだろう。動力部が、おかしい……
いくらコピーだからとはいえ、元はあの男だ。なのに、自分を殺そうとした存在に、なぜ、ああも微笑めるの?
意味がわからない。彼の行動も、自分の行動も……
「そうそう。伝言を忘れていました。忘れていて、ごめん。あとで俺を傷つけた事、後悔する事になるかもしれないけど、俺は気にしていないから気にするな。だそうです」
忘れていた? ごめん? 後悔する事になる? なにを言っているのかわからない。
私は、貴方の敵なのに。それなのに。ナゼ……?
ワカラナイ。
解らない。
わからない……
そしていずれ、彼女達は、外宇宙へと帰る事となる。
メカトピアを、再生させるために。
本星以外に取り残された、鉄人兵団を、回収するために。
この星に負けない、新しい、メカトピアを作るために……
彼女は、地球に潜伏するため、地球人そっくりに作られたロボット。
それゆえ、メカトピアで唯一、自分の意思と、心を持てる、ロボット……
ちなみに、彼と同じ『力』はなぜかコピーロボットにはなかった。が、同じ事は出来るようにしてある(つまり『スペアポケット』(『フエルミラーコピー版』)を持っている)
──────
会場の隅っこの屋根の上に着地し、変身を解いてため息をつく。
会場の方では、ぶーぶーといなくなったジャスティス仮面にブーイングを浴びせている観客が見えた。
「まぁ、被害がなくてなによりってとこかな」
変身していたから、観客のブーイングも俺自身にはダメージないし。なにより、アレが世界の危機だったなんて誰も思っていないという事だ。
俺の服が自分の血で汚れているけど、俺自身なぜか傷一つないから問題ないだろ。
にしても、俺一回死んだと思ったんだけど、わりとふつーに目が覚めたなー。
しかも一時『道具』を使わずに飛んでいた気もする(あの時は気分がハイだったので疑問にも思わなかった)
なにがあったんじゃろ。
「……おい」
はぅ!
背後から声をかけられました。
思わずびっくーとしてしまった。
なんか懐かしいねこれ。
このパターン。この声。そう。声の主は、エヴァンジェリンその人だ。
「……あ、あのー」
恐る恐る、彼女の方へ振り返ろうとする。
お、怒ってるかな? あんなに心配させて、無事でしたー。なんて。
いや、怒ってるよな。
死ぬ死ぬ詐欺みたいなもんだもんなこれ。
絶対怒るよな。
ああ。乗っけた『魔法のじゅうたん』に腕を組んで仁王立ちしている姿が目に浮かぶぜ。
「!?」
ぎゅうっ!
だが、恐る恐る振り返ろうとする俺の背中に、なにかが抱きついた。
「……え?」
「本当に……本当に、お前なんだな……」
そう抱きついてきたのは、エヴァンジェリンその人だった。
「このぬくもりも、お前のにおいも、すべて、すべて、お前なんだな!!」
彼女は、俺が生きていることを確かめるように、俺の背中に、その体を押しつけてきた。
「え? え?」
俺の背中に抱きついたエヴァンジェリンは、泣いている。
泣いている。
そういえば、俺が死ぬ時も、泣いていた。
エヴァは優しいから、死ぬ俺に泣いてくれているんだと思った。
だが、こうして無事だった時、泣くようなキャラだとは、俺は思っていなかった。
「お前が、生きていて、本当に、本当によかった!!」
……エヴァに泣かれているが、なぜか俺は、それが、とてもうれしくなった。
「ああ。俺だよ。正真正銘の、俺だ」
彼女を安心させるように、俺は言う。
そして、なぜか無性に、このエヴァの顔が見たくなった。
そう思い、ふりむこうとするが、エヴァが背中から離れない。
「あれ?」
こう、エヴァを背中にくっつけたまま、くるくる回る事になる。
「なあ」
「ダメだ。絶対に、ダメだ」
「だからこそ余計にお前の顔が見たい」
「……やだ」
「だが断る」
そう言い、そのまま俺は、エヴァの手を引き剥がして、強引に彼女を見た。
両手を押さえ、彼女の顔を見る。
「や。いや……」
涙にぬれた頬。
白い肌にうっすらと朱に染まった頬。
そこに残る、涙の後。
俺のために流してくれた、涙……
恥ずかしさからか、彼女は俺から目をそらす。
普段のエヴァからは、想像も出来ない、弱々しい表情。
どきり。
それに、俺の胸は、なぜか、高鳴った……
「……」
「……」
そのまま俺は、自分の両手を彼女の頬へ添え。
その唇へ……
「あー、非常に申し訳ないのだガ、イイカナ?」
すぱーんと俺とエヴァは、ものすごい勢いで、離れた。
あ、ああああああ、あぶな。アブなかったぁぁぁぁ!
なにしてんだ俺!?
なにやってんだよ!
一時の激情で、守備範囲外の上他に好きな人のいる女の唇を奪うところだった!
幼女の唇を奪うとか犯罪じゃろうがぁぁぁぁ!!
流れに乗ってとんでもない事をするところだったぁ!
なにを、なにを考えてんだ俺えぇぇぇえ!
頭を抱えもだえる俺。
ちなみにエヴァンジェリンも同じく隣でもだえている。
「いやー、お楽しみのところ非常に申し訳ないネ」
「「楽しんでない!!」」
俺とエヴァ二人の声がハモる。
ついでにお前の声全然申し訳なさそうじゃないぞ未来少女。
半分嫌がらせもかねているだろ未来少女。
でも助かった。ありがとう。
でも許さない。おぼえとけ。
「事後処理を頼まれたのはイイが、私では対処できない上、早急に処理せねばならない事案が一つあってネ」
「ん?」
そうすると、杖の上でぐったりしているネギがふよふよとやってきた。
どうやら俺がジャスティス逃走した後、緊張の糸が切れたのか、このように倒れたようだ。
「おおぉう!?」
こんなにネギボロボロなのかよ!
「次はネギ先生の試合なのダガ、肝心のネギ先生が説明不能のボロボロさ。これを、貴方にお願いしたくお邪魔させてもらたヨ」
「あー」
ネギはまじめだから、こんなボロボロでも試合に出ると言ったのだろう。
試合中の怪我ならトーナメント上しかたないが、まだはじまる前の上それとは関係ない怪我&疲労。
超なら傷を治せるだろう。だが、ボロボロになった服や消費した魔力などはさすがの超といえど、この短時間でどうにかするのは無理だ。
それで、俺に頼ってきた。と。
「すみません。お楽しみのところを……」
朦朧としたネギが言う。
「……見てた?」
「いいえ。ただ、言わなきゃならないと思って……」
そうか。子供に悪影響なモノ、見られなくてなにより。
「意味わかっていないのにそういう事は言わなくていいよ」
俺はあきれつつネギの頭をなで、ポケットから『タイム風呂敷』を取り出した。
「色々面倒なので、これを使用しまーす」
「風呂敷ネ」
「おい、これは!」
風呂敷の存在に気づいたエヴァが驚きの声を上げる。
「エヴァの発言は無視して、かぶせーる!」
そのままネギに『タイム風呂敷』をかぶせた。
「はいしゅうりょー!」
そして、すぐにはずす。時間停止があったので、戻す時間はほんの少しですむ。
「え? それだけカ?」
「これだけネ。ほら、ネギ先生は先の戦闘直前のネギ先生アル」
すると、杖の上にいたネギはぱちりと目を開き、驚いたように体を起き上がらせた。
服だって新品綺麗さ!
「わ、わわわ。本当ですよ。魔力も体調も、全部治ってますよ」
驚きながら、ぐーぱーと手の感触を確かめるネギ。
「なんとも出鱈目ネ」
「君もどうかね?」
「私は平気ヨ」
「だが答えは聞いてない」
そのまま超の頭から風呂敷をかぶせ、その上から、一度頭をくしゃりとなで、すぐはずす。
ふはは。些細な復讐だ。
「はいこれで体のダメージもすっかりなくなりました」
「……」
「どした? ほうけて? さっきの戦闘以前からなにか怪我とか病気とかしてたのか? ついでに治すぞ?」
そう言われた超ははっとして。
「……違うネ。ひどい人ヨ。この痛みは罰だというのに」
そう言いながら、彼女は目の辺りをぬぐう。
「シリマセーンって、え? 泣くほどの事か?」
「だ、大丈夫ネ。なんでもないヨ!」
「そう言われても……」
「そんな事ヨリ。ネギ先生、これで平気ヨ」
俺の疑問を振り切るよう、超がネギに言う。
聞かないでくれって事ですか。しゃーないな。
「はい! ありがとうございました!」
「いえいえ」
ぶっちゃけリルルと戦った時の肉体経験値が消えてるかもだが、高畑先生となら問題ないだろ。
というか、経験値が本当に消えるのか。という実験でもある。という壮大な考えもあるのだー。……どんな道具出すのか考えるの面倒だから。じゃないよ。チガウヨ。
「え? あ……お、お前達、記憶は、どうなんだ……?」
一人困惑しているエヴァが、ネギと超に聞く。
「え? どういう事ですかマスター?」
「記憶がどうしたネ?」
「いや、ほら、さっきの戦いとかの事……」
「イヤですよマスター。あの戦い、忘れるわけないじゃないですか。あ、助けに来てくださり、ありがとうございました!」
と、救援に来た事に礼をいい、深々と頭を下げるネギ。
超の方にしても、『タイム風呂敷』の情報は茶々丸からも受け取っていないので、エヴァがなぜそう言っているのか理解出来ない。
それを見たエヴァは、ぎぎぎぎぎぎっと首を回転させ、俺の方を見る。
俺はなんの事やら。といった感じで、風呂敷をポケットへ。
「それじゃネギ先生。詳しい事は大会が終わってからゆっくり話すネ。今は目の前の大会を楽しんで欲しいヨ。それと、ありがとう。助かったネ」
「はい」
「がんばってこいよー」
「はい! 行ってきます!」
そう言い、ネギは試合会場の方へと走っていった。
がんばってなー。
そうやってネギを見送っていると……
「おい」
怒りのエヴァ声が背中に突き刺さります。
「怒ってる?」
「怒っていないとでも思うか?」
「あっはっは。イヤだなー。俺はあの時こう言ったはずだ。可能性がある。と!」
「つまり貴様は、知っていたんだな? 知っていてそう言ったんだな?」
「ザッツライ!」
ぶん殴られた。
「ザ、つらい!」
「貴様が最初にそれを私に渡していればさっき私は負けなかったものをー! あの京都の時だって、貴様が貫かれる事だってなー!」
「勝手に勘違いしたのはそっちだイタイイタイイタイイタイ」
「ははは。仲がいいネ」
「「良くない!!」」
「……それより、一つ質問はイイかね?」
「にゃにかにゃ?」
ぐにゅーっと背中に馬乗りになられてほっぺたを引っ張られた俺が答える。
「あの偵察機は、貴方を『敵』と言った。貴方は何者なのカネ? そして、どこまで知っているのカネ?」
「あー」
そういえば、最初はそのあたりの確認のため俺に学園長と接触してきたんだっけ。
でもその前に、リルルに襲われた。
あれってリルルが俺達が手を組むのを恐れたってのもあるんだろうな。
んで、リルルを倒したから、再び俺の背後関係って事だね。
「貴方の、知っている事を教えて欲しい」
「んー。非常にシンプルに言うと」
背中にエヴァを乗せたまま腕立ての要領で体を上げ、エヴァを振り落としつつ語りはじめる。
「さっきの、彼女。アレ、が、鉄人兵団、最後の、兵! なんだよ」
すごく重要な事を話しつつ、エヴァのほっぺたをひっぱったりデコピンしたりアイアンクローしたりひっかかれたり噛みつかれたりを平行でこなす。
「……ハ?」
「つまり……」
俺は、エヴァと壮絶(笑)な戦いをしながら、未来少女超へしばらく前に鉄人兵団の本星。メカトピア帝国を粉々に吹き飛ばした事を説明した。
「んで、(地球の)残りがさっきのあの子とあのロボットってわけ」
エヴァと戦うのもひと段落し、ネギとタカミチの戦いを観戦しながら、俺は説明を終える(正確にはネギの戦いがはじまったから争いをやめた)
お。どうやら、体の経験値は……って、パンピーの俺が見たからってネギが違うのか違わないのかわかんねーっつーの!
まあ。最終的にネギが自分を弾丸にして突撃勝利したけど。これは(もうあんまり意味はないけど)原作と一緒。……だよな?(ちなみに経験値は体にも残っているようで、体で覚えたともいえるオーバードライブも使いこなし、思わず本気になってしまった高畑とぶつかり、それでも勝利となった)
「は、ははははは……」
「ん? どしたの?」
俺の説明を聞き終えた未来少女が、なにか壊れたように笑いはじめていた。
「いや、私の計画はまったくの無駄だった。が、私が来た意味はあったようダ」
なにか満足したように、彼女は俺に微笑んだ。
「そーいや、鉄人兵団が壊滅したとなると、君の目的そのものも終わったって事か」
鉄人兵団壊滅を説明している時、超が歴史を変える真の目的も聞きました。
そっかー。超の来ない未来。俺がいない(と思われる)未来は、鉄人兵団に地球が乗っ取られてるのかー。
そりゃそうだよなー。あの時半デコちゃんがザンダクロス脳見つけなかったら、本隊が普通に来てるわけだもんなー。
魔法使いもいなかったら人類勝てねーよなー。
ただ、俺が彼女の未来にいないのは彼女もわからない。だそうだ。
そもそも彼女が来た事により、鉄人兵団襲来が10年早まっているというから、彼女の知る歴史も役に立たない。との事。まあ、俺がいるのもその影響なのだろうと言ってた。
正解かどうかはわからないようだが。
「ま、私はもう目的が達成できただけで十分ネ。これで悔いなく未来へ帰れるヨ」
「あー」
そういえば、この学園祭が終わったら帰る予定なんだっけか。
「そっか。お疲れ様」
鉄人兵団に関しては、あとは俺に任せなさい。
「はは。その言葉は、この星を救った貴方に言うべき言葉ヨ。星の救世主サマ」
「よせよ。俺はただ、自分の平穏を守っただけさ」
そう言って、なんとなく、エヴァの頭をなでた。
ぺしっと無言で跳ね除けられたけど。
「ハハハ。貴方は、本当に不思議な人だヨ」
「そーかな」
君等のがよっぽどだと思うが。
「ま、計画をただ無駄にするのももったいないカラ、明日の全体イベントにでも使わせてもらうヨ。宣伝もしてしまったしネ」
「それは楽しみだ」
どうやら最終日はネギ企画ではなく、超企画であのイベントが行われるようだ。
今学園長とつながりもあるから、武器とか道具とか調達するのも楽だろうしなぁ。
あのイベント、こっそり楽しみにしていた身としては、なくならないようなのでなにより。
「せっかくだから、世界征服でもしてみようかネ」
「やってみたら? 今度はネギがとめるだろうけど」
「貴方はとめないのカ?」
「俺の出る幕じゃないよ」
原作と同じ事するなら、ネギがとめるだろうし、そもそもあの魔法じゃ世界征服は無理のはずだからな(彼は認識魔法が強化されているとは知らない)
でもこの時。超の計画が成功する未来も存在していた事を、すっかり忘れて答えている彼であった。
「残念ネ」
あれ? なんでそんなにがっかりしてるの?
(どうやら私では、彼の敵にも見てもらえないようダ。いや、最初から私など相手にされていなかった。という事カ)
「ま、イイネ。この武道大会、そして、明日のイベント、楽しんでいって欲しいヨ」
「おう」
「それじゃ、続きの方、ドウゾ。お邪魔したネ」
「「できるか!!」」
すたすたと去ってゆく超にむけ、俺とエヴァは同時に叫んだ。
「ったく。そんな事を言うのなら、空気を読んでもう少し遅れて出て来い……」
なんかエヴァがぶつぶつ言ってたけど、俺にそれは聞こえなかった。
なぜなら、超が去ったら、ものすごく眠くなってきたからだ。
戦闘の緊張から開放されたからかだろうか? まさに、急に眠気が。というヤツだ(なれない魔力を使った反動がきた)
「ふあ。あー、つっかれた。エヴァ。俺、ちょっと眠らせてもらうわ」
試合は見たいが、どうせあれは大会側で録画されている。計画がポシャった今、ネットに流れるかはわからないが、超に言えば見せてくれるだろう。
だから今はそのまま、睡魔に負けてしまおうと思う。
そのままごろりと、屋根の上に横になろうとすると……
「ん」
そしたら、『魔法のじゅうたん』を引っ張り戻し、座ったエヴァンジェリンが、なぜか自分の太ももを、ぽんぽんとした。
恥ずかしそうに、頬を朱に染めながら。
「は?」
「ん」
そのまま、もう一度、俺の頭を膝。というかその太ももに乗せろといわんばかりに、ぽんぽんと太ももをたたいた。
「え? いや……」
思わず驚く。お前がそんな事してくるなんて、明日は隕石でも降るんじゃないか?
「いいから従え! お前が寝ている間にまた死なないかをチェックもかねているんだ! そういう事だ! あとはなにも言うな!」
そう言われ、俺は強引にエヴァの膝に頭をのせられた。
「あー。まぁ、いっか。寝ている間にまた死なないか、頼むわ……」
眠くて考えるのも面倒になってきた俺はそう言い、そのまま眠りに落ちていった……
「ああ。任せろ……」
眠る前に聞こえたエヴァンジェリンの声は、とても優しく感じた。
だが、目が覚めた俺は、とんでもないショックを受ける事になる。
たぶん。今までで、一番の。
───超鈴音───
彼の話を聞いて、私はもう、笑うしかなかた。
まさか、すでに、この時代の鉄人兵団が壊滅した後だたとは。
本星が滅び、命令系統が失われた鉄人兵団は、次の命令が更新されない。奴等はロボット。本星という統括頭脳の決定した命令がなければ、行動も起こせない。奴等は自己意思があるようで、ないのだ。
すなわち、鉄人兵団はもう滅んだも同然(あのリルルですら、残された命令。『人類総奴隷化』を実行した後、自己意思を得ていない限り、本当にメカトピアを再建したのか怪しい)
最も、その彼(コピー)とリルルの手によりメカトピアは再生し、生き物との共存を模索する道を歩む事となるが、それは彼女も知らない話だ。
まさに、出鱈目としかいいようがない。
私の計画は完全に無意味だったが、この時間に来た意味は、確かにあった。
星の外から現れた救世主。
正確にどこから来たかまでは聞けなかったが、少なくとも、私がそれを聞く資格などない事は確かだ。
彼には、多くの迷惑をかけてしまったカラ。
しかし、彼のその懐は、その強さに比例してか、とんでもなく広い。
彼は、私をあっさりと許した。
鉄人兵団の仲間と疑い、拘束までしようとしたというのに。
彼のやる事を、邪魔し、さらには、死ぬかもしれないほどの傷を負わせる一因を作ったというのに。
それなのに、彼は自分の疲労も無視して私の傷も癒し。私のやった事は無駄ではなかったとでもいうように。頭をなでてくれた。
彼は、あの呪紋のリスクを、肉体と魂を食らって行使するという事すら理解していたのだろう。
答えすら聞かず、私の罰すら奪ってしまった。
しかもその後、褒めるように、「ご苦労様」とまで言ってくれた。
私は彼の足を引っ張る事しかしかなかったのに。それなのに彼は、それを認めてくれたように感じた。
無駄ではなかったと言ってくれているように感じた。
それはとても、うれしかった。
思わず、彼の目の前で、泣いてしまうかと思ったほどに。
誰もに悪と罵られると思っていたのに。正しく認められ、褒められた気がしたから。
ただ、悲しいのは、私は彼と対等にはなれないという事。
努力は認められたが、結局私は、皆と同じく、彼に見守られる側という事。
それが、少しだけ悲しいネ。
卒業までいたりすれば、少しくらいは彼に認められる事は出来るだろうか……?
私は思わず、そんな事を考えてしまた。
イカンイカン。決心が鈍ってしまいそうだヨ。
……でも、なぜ、あの人は、未来にいないのだろう……
私は、ふと、そんな事を思った。
───エヴァンジェリン───
結局、聞きたい事はなにも聞く事が出来なかった。
彼の手にしていたパクティオカードの事。異星より敵。鉄人兵団と敵対していたという事。星の外よりやってきたという事。
聞きたい事はなにも聞けず、むしろ、逆に謎が増えたと言ってもいい。
「知りたいですか?」
「……背後から現れるなアル」
寝ている彼の髪をすいていたら、背後に小憎らしいアルビレオが現れた。
「そうそう。今の私は、その名ではなく、『クウネル・サンダース』とお呼びください」
「そんな事はどうでもいい。お前はなにか知っているのか?」
「いえ。今はまだ。ですがこのまま私が優勝すれば彼の半生を書として手に入れると約束しましたから」
「……あ」
この時私は、大切な事を忘れていた事を思い出した!
あんな騒ぎがあり、それどころじゃなかったため、忘れていた!
そうだ。この大会。彼に願いを聞いてもらうという賞品があったじゃないか!
彼の無事に安心して、それを完全に忘れていた!
だがしかし、この時点で私はすでに、私の試合はすでに終わり、私は戦闘を放棄して棄権あつかいとなっていた。
彼を膝枕するという至福の時間に、そんな事すっかりわすれていた!
なんという事だ!! なんといううっかりだ!
「そこで、エヴァンジェリン。古き友よ。賭けを一つどうです?」
「なに?」
「そうですね。私はアスナさんの勝ちにかけましょう」
「……明らかに今の神楽坂明日菜にはドーピングが入っているように見えるぞ?」
私が棄権した事となった試合の次。第1回戦最後の試合。
そこで、桜咲刹那VS神楽坂明日菜の試合が繰り広げられていた。
ちなみに、こっそりここの試合順だけ皆の知るものとは繰り変わっていたりするが、トーナメントの一つの山での順番変更。二つの勝者が次の対戦相手となる山なので、大きな流れに変化はない。
いや、エヴァンジェリン失格という変化はあるが。
「はてさて」
「貴様の仕業か」
舞台で戦う刹那VS明日菜。
今の私にはその戦いに興味がなかったが、今の二人の実力ではありえない、互角の戦いが繰り広げられていた。
その神楽坂明日菜の健闘はこいつがなにかしているのだろう。
「まあいい。それでも私は、あの桜咲刹那が負けるとは思わん」
「おや」
「あの娘は光を知って弱くなるかと思ったが、逆に強くなった。甘くなるかと思ったが、逆に鋭くなった。それを、私は知っているからな」
腑抜けてスライムに捕らえられる事もなく、刃の鋭さが増した。それでいて、木乃香という立派な鞘を手に入れている。
そして、それは、いつか彼に追いつきたいという目標があるからでもある。
あれなら、あの明日菜にも負けまい。
「ならば、賭けは成立ですね」
「それで、掛け金はなんだ? 貴様の権利でもくれるのか?」
「そうですね。アスナさんが負けたら、あなたの知りたい事をこっそりお教えしましょう。例えば、ナギの事。あのアスナさんの事。そして、彼の事を」
「……ふん」
権利だけでは聞けない事を出してきたか。それに、こいつの力なら、色々。それこそ色々聞けてしまう。
「そして、あの神鳴流剣士のお嬢さんが負けた場合……」
この時、アルの言い出した事は、たぶん一生忘れないだろう。
「……私と彼の仲をとりもってください」
「ぶー!!!」
ちょっ!? なぁ!!?
というか貴様……あれ? そういえばこいつの性別はどっちだ!?
どっちだった!?
「彼の頭が落ちますよ」
「ぐっ……」
くそっ、こいつ私が今呪いを受けた状態であり、彼を膝枕しているからって!
「なに。勝てばよかろうなのです。ふふふふふ」
「き、きさまあぁぁぁ!」
私をおちょくっているのか本気なのか、さっぱりわからない。
こいつは、昔からこうだ。
こういう奴だ!!
「ええい、桜咲刹那! なにがなんでも勝てー!!」
私は彼が寝ているのも忘れ、思わず叫んでいた。
「ふふふふふふ」
ええい、楽しそうに笑うんじゃないー!!
刹那VS神楽坂は、ハラハラさせられたが、桜咲刹那の勝利で終わった。
「か、かった、か……」
ふう。と、最後、神楽坂明日菜の刃が真剣になったところを見たアルも、さすがに安堵のため息をしているのを感じた。
さすがに私も、神楽坂明日菜があの雰囲気になった時はあせった。
このアホが。ああいう馬鹿に慣れない事をさせるな!
……だが!
「ふっ、ふはははは。どうだ見たか! 賭けだろうがなんだろうが、私に勝とうなどとゆーのが愚かなのだ!」
「ええ。私もひさしぶりにあなたの慌てふためく姿を堪能できて満足です」
「なっ!?」
くくくくくくと、私を馬鹿にするように笑う。
「貴様、最初っからぁ!!」
膝の上に彼の頭がなければ、今確実にくびり殺してやっているぞ!
「それはもう賭けなどなくとも教えるつもりでした」
「おお己はぁ!」
「というわけで……といきたいところですが、あなたの望みをかなえられるのは学園祭後になるでしょうから、もう少しお待ちください」
「ふん」
「それと、彼の『力』についてもね」
「……なにか知っているのか?」
「詳しい事は、学際の後。お茶を用意してお待ちしていますよ」
「ん? 貴様今どこに?」
「私の住処は、ネギ君とそのカワイイお友達が知っています」
「なに?」
「おっと、次は私の試合です。行かなくては」
そう言い、アルはすぅっと消えていった。
ええい。あいつはなにをしにきたんだ! 私をおちょくっただけか!?
「ああ、そうそう」
「……行ったんじゃないのか?」
再び背後に現れるアルビレオの気配。
「いえ。最後に言っておきたい言葉が」
「なんだ?」
「綺麗になりましたねエヴァンジェリン。彼の、おかげですか?」
「ばっ!!」
思わず頬が赤くなる。
ばっ、馬鹿な事を!!
そのまま、アルの気配は消えた。
……な、なにが言いたいんだあのアホは!
「……本当に。綺麗になりましたよあなたは。そして、変わりましたね」
どこかうれしそうに。でも、さびしそうに。アルビレオは、そうつぶやき、2回戦の第1試合へ向かうのだった。
──────
試合そのものの流れは、エヴァンジェリンが1回戦から棄権(試合放棄)するという事があったものの、それ以外に大きな変化は生まれなかった。
小太郎はクウネルに破れ、屋根の上で涙を流し、運よく勝ち上がった事となるモブは刹那にあっさり倒され、ネギは脱げ女を裸にして勝ち上がる。
刹那自身は、この時エヴァと戦わずとも、すでに原作でエヴァと戦った時と同じか、それ以上の力と、心構えを持っているので、この後を心配する事はない。
準決勝も同様に変わらない。
原作より強くなっていた刹那だが、ネギも同様で、リルル、タカミチと戦った経験により、より強くなっていた。それゆえ、ネギは立派に、正面から刹那を倒す。
一方クウネルは皆が知るのとまったく同じく、楓にパクティオカードを使い、勝利した。
その際、彼はぐっすり眠っていたので、どちらの試合も見ていない。
もうじき決勝というところで、彼は、ようやく目を覚ます。
来るべき時が来たともいえる、決勝で。
「んあっ……」
目が覚めた。
どうやら今から、決勝のようだ。
「目が覚めたか」
「おはよー。相手は~?」
「ネギとアルだ」
「あー。順当だねー」
てことは、これからおとーさんと、感動の再会か……
そう思って舞台を見ていた俺は、とんでもない衝撃を受ける。
クウネルが変身したその姿……
光が舞い。真っ白な鳩が舞い。
現れた、その姿。
変身したナギ・スプリングフィールド。その姿は。
その姿は!
女!
女性だったのだ!!
「……え? あ、レ?」
俺は、盛り上がる会場の中で一人、呆然とするしかなかった。
ぎぎぎぎぎぎっと、エヴァを見る。
「なんだ?」
そして、ナギを見る。
エヴァを見る。ナギを見る。エヴァを見る。ナギを見る。
「なにをしているんだお前は」
「……だって。ナギ、女だよ?」
「そうだぞ」
「女だよ?」
「それがどうした」
「だって、お前、ナギとーさん、好きなんじゃなかったっけ?」
「んなわけあるか!! 相手は女だぞ!」
「え? だって……あ、あれ? え? あれ?」
「お前はなにを言っているんだ?」
「え? だって、お前、ナギはかーさんで、お前の初恋じゃなくて。え? あれ?」
混乱の極みに達した俺は、そこで、思わず、聞いてしまう。
「じゃあ、お前……」
「なんだ?」
「誰が、好きなんだ……?」
ざざざざあ。と、風の音が、吹いた。
一瞬の沈黙の後。
一瞬見せた、戸惑いの、後……
決勝で盛り上がる会場の歓声が響いているというのに。その言葉は、はっきりと、聞こえた。
「お前だ」
エヴァの、答え。
「私が好きなのは、お前だ」
俺を見て、彼女は、はっきりと、そう言った。
─あとがき─
彼復活! 彼復活! 彼復活!!
魔法使いにならない方がよかった。とか聞こえてきそうですが、私は気にしない!(魔法使い覚醒自体は魔法世界行フラグですが)
彼が本当に蘇った理由は、魔法使いの血が流れているとか、条件を満たしたからだとか、そんな事ではないからだ!!
というワケで、今回は最初から最後までクライマックスでした。さらに次回もクライマックスです。
ついにナギ女バレ! このタイミングのためにエヴァルートは学園祭三日目を切り捨てたと言っても過言ではありません!! このためにエヴァ個別ルートがあったと言ってもいいくらいです!
そーんなわけで、次回、エヴァンジェリンルートクライマックス!
彼、自分の気持ちに気づく。
スーパー学園長土下座タイム。
ぶっちゃけ第1部完! の3本でお送りします。
ちなみに、魔法使いに覚醒した彼ですが、その潜在魔力は測定不能です。
ものすごくあって測定不能なのか、全然なくて測定不能なのかはわかりませんが、測定不能です。
あと、最初に言ったとおり、魔力があっても魔法は使えません。そもそも習ってないから。習えば使えるって事ですけど。
ついでに、超の彼がなぜ未来にいないのだろう。という思いは、色々複雑なものをふくんでいました。
本当に、複雑な気持ちでしょう。