初出 2009/05/14 以後修正
─第14話─
南国バカンス編。
──────
ハローハローでこんにちわー。
メイデイメイデイおたすけあれー。
ただいま俺は、南の島へ来ておりまーす。
ほら。ネギとツインテ少女が喧嘩して、委員長がネギを励ますために南の島につれてきたってエピソードがあったじゃん?
俺はよく覚えてないけどたぶんあったよ。このあたりの事良く覚えてないよ。これほどの大喧嘩イベントなかったら泣くよ(原作崩壊的な意味で)
そこに巻きこまれたんだよね。
3-A半数くらいの女の子+エドと一緒に南の島へご招待されてるんだよねー。
なんで委員長に敵視されている俺が一緒に来てんだよテメー。ハーレムじゃねーか。とか思う子もいると思う。
だが、違うんだ。
あのお嬢、ここで俺を消す気なんだ。
実は俺、お嬢に招待とかされたわけじゃないんだ。
学園でやっていた福引で幸運にも南の島行きのペアチケットを当てたら、この南の島へつれてこられたんだ。
つまり、孔明の罠だったんだよ!
じゃーんじゃーん。
げぇ! いいんちょぅ!!
お前『フエール銀行』で無制限に金が増えてくクセに福引旅行なんかに喜んでノコノコ来てんじゃねー。とか思う人もいるかと思う。そりゃ、南の島を買うくらいの金は貯まっている。その気になれば星だって作れる。
だが、福引当たってご招待なんてのは、お金とは別の問題だろ!? 俺こういうのはじめて当てたんだよ!
だから、一度経験してみたかったんだ!! 貧乏性とかそういう次元じゃない。福引を当てて、旅行! これはある種のロマンなんだ! わかってくれとは言わない。だが、仕方がないな。と思ってくれ……
……誰に言い訳しているのかといえば、うかつな自分に。なんだが。
視界にちらちらと黒服執事さんが見えます。
前回、地下王国留学ご招待にとアップを開始していた人達ですよ。
クラスメイトの安全と、俺の危険を担っているわけですよ。
前回のネギ発言遭遇もあってか、行方不明とかだとネギがいぶかしむかと考えたのか、事故死とかを狙ってるんだよきっと。
しかもここ海外。さらにお嬢の私有地。その後ネギを慰めるオプション付き。
もう完璧すぎるほどだよネ。
俺のあまり役に立たない危機感知能力がすでにレッドアラートを鳴らしているのだからどれほど危険な場所につれてこられたのかよくわかります。
なんというデンジャラスゾーン。
金持ち(権力アリ)の本気という奴を、俺は今見ているぜ!
───雪広あやか───
この時、雪広あやかは本能的に感じ取っていた。
ネギ先生が、あの男に惹かれはじめているという事を。
彼をネギ先生に近づけないよう努力しても、ネギ先生が彼に近づいてしまったら意味がない!
くっ、ちょっと悪そうな奴に真面目な子があこがれてしまうのは、いつの時代も一緒なのですね!
だからといって、ネギ先生に、「あの男は危険です。近づいてはなりません」とは言えない。
「その危険がいいんです」とか回答されたらもう涙目だし、「あの人はいい人なんです。いいんちょさんなんて嫌いです」なんて言われたら自分が立ち直れなくなってしまう。
そもそもこういうものは、人に言われて気づけるものではない。
感情が理屈などではどうにも出来ない事は、自分でもよくわかっているからだ。
ならば、ネギ先生が彼を嫌いになればよいのだ!
ネギ先生があの男の危険性を認識すればよいのだ!
というわけで、南国幻滅作戦を計画したのであった!
計画的にはこうです。
南の島で開放的な気持ち。奴、その駄目な姿をネギ先生に過分なく見せつける。
↓
ネギ先生奴の正体を知り、幻滅。
↓
私が説得。ネギ先生真実の愛に目覚める。「もう2度と近づきません!」
↓
ハッピーエンド。
か、完璧! まさに完璧ですわ!!
……という予定だったのですが。
「海だー!」
なぜか、クラスメイトの大半もネギ先生について一緒に来ているんですか!
これでは奴に見つからないようネギ先生に奴の駄目さを見せるのは難しくなってしまうじゃないですか!(3-A面々が騒がしくて彼にこちらが来ているのを隠すのが難しくなる)
「和美とハルナさんにもれたのはマズかったわねあやか」
私のルームメイト、ちづるさんが私にそう言った。
「あなた達もです!」
勝手についてきて!
この場にはあの危険な男がいるんですよ!!
私の心配も知らないで!
「あらあら」
……ちづるさんなんで奴の方を見ていますか? 駄目ですよ、アレは危険な男です。獣で野獣なんですから。
まあいいですわ。これで一緒に他のクラスメイトも奴の危険性を認識して、クラス全体の安全を図りましょう。
聞けば、ネギ先生以外にも彼にたぶらかされかねない子達も多いようですし。
奴の周囲には黒服さん方の配置してありますから、いざという時はすぐ対処できるようにしてありますから、安全も完璧ですしね(主にネギへ近づけさせないため)
さあ。この南国で、開放的な気分になってネギ先生に幻滅されるとよいですわ~。
ほーっほっほっほっほ。
さすがの彼女も、彼を抹殺とか嫌がらせとかは考えていたりはしなかった(前回ネギがいて欲しいと言ったから)
今までの反省からか、彼の排除ではなく、ネギの心変わりを促すというやり方にアプローチを変えたのだ。
ずばり彼の勘違い。彼のレッドアラートってマトモに機能した覚えがないな。
──────
ふふふふふ。どうやら黒服は俺を亡き者にしようとしているようだが、そうは問屋がおろさない!
俺は見切っている! 俺が一人にならない限り、不審な事故死など出来ないという事を!
お嬢の子飼いではない誰かが見ていれば、狙撃や怪しい事故など起せないからだ!
それに3-Aの子の前で死亡事故なんてのは、いくらお嬢とて望むまい!
よって、誰かの視界に必ず入るよう心がければ俺は安全という事なのだー!!
不意打ちに超弱い俺だが、それを阻止するすべは道具を使わずとも、心得ているのだー!
ふふふふふ。完璧。完璧すぎる。
最後の飛行機事故とかは危険だが、幸いにもエドが一緒に来ているので、さすがに墜落とかはないだろうし、帰りなら『どこでもドア』とかで逃げてもいいしな。
つまり、もっとも危険なこの南の島を生き残ればよいという事だ!
危険だと思うならさっさと帰ればいーじゃねーか。という言葉は理解するが、この目の前に広がる海を堪能せずに帰るなど、泳ぐの好きだと宣言した俺様の沽券に関わるというもの。
ああ、綺麗な海。透き通った海面。泳ぎたい。死ぬほど泳ぎたい。
いや、海に入ったら思う壺なのだが。死にたくない。
バリアとかは泳ぎを堪能するのに邪魔だから使いたくないし……
くっ、お嬢は俺が泳ぐの大好きだと知っての策か!? だとすれば、なんという孔明。
この旅行といい、なんたる策士!
スクナなどより手ごわいわ!
しかたない。溺れる事のない浅瀬でのんびり危険を感知させながら泳ぐとしよう。
なぜ危険を感知させるかと言うと、それはずばり!!
「なー、エドー」
「……なんだ?」
俺と一緒に、ビーチでパラソルの下、ベンチに座って横になっていた中身幼女に声をかける。
福引はペアチケットだったので、こいつが勝手についてきた。
最初はなんでやねんと思ったが、今はむしろ好都合!
「泳がないか?」
ウホ、いい誘い。
「断る」
「えー」
貴様、こんなにもすばらしい海があるというのに、泳ぎに行かないとは何事だ!
生命とはすべて海から生まれたんだぞ。すなわち泳ぐとはえーっと、いいから泳ごうぜ!!
「……ああ、そうか。そういやお前泳げなかったっけ」
「ぐっ……」
……そういや、こいつ泳げないんだよな。吸血鬼だから。は関係ないのか? この世界だと。まあ、泳げないのは事実だからどうでもいいか。
つか、それなのになんで強引についてきたんだ?
泳げないエヴァンジェリンがなんで来たか。なんてのは、そろそろ説明するだけ無駄だと思うので、省略するよ。
それと、ペアチケットだったのは彼ならエドをつれてくるだろうというのは雪広あやかも予測の上。
この二人は怪しい関係との噂もある。それが事実だったりすれば、ネギ先生も「不潔です!」とか言って目を覚ますだろう。という計算もあったからだ。
この計算力。さすが雪広あやかである。
だが、あの二人を見せても「仲良しですよね!」と純粋な一言で片付けられ、その純粋さに悶えつつ悔しがったのは余談である。
「私は、泳ぎがちょっと苦手なだけだ。決して泳げないわけではない」
まー。お前吸血鬼だからなー。泳げなくても不思議はないんだけどよ。
だが、見張りがいないと困るのだ。主に俺の命的に!
というわけで!
「OK。なら、泳ぎを俺が教えてやる。そして、一緒に泳ごうぜ」
「なっ!?」
「はいけってーい。ほら来い」
強引に手をとって、浅瀬の方へと行く。
「ちょっ、ちょ、まて。待てというに!」
「浮き輪いるか?」
「いらんわ!」
「なら行くぞー」
「そうじゃなーい!」
「聞こえない聞こえなーい」
俺は泳ぎたいんだ。だが、ブラックメンが怖いのだ。だからいるだけでいいから来るのだ。
あんまり暴れるから、持ち上げて運ぶ事にした(いわゆるお姫様抱っこ)
幻術で中身は幼女で軽いから楽勝だぜ。
「ちょっ、こらー!」
「U・RU・SAーI」
本気で逃げる気になりゃ楽勝のはずなのに、そうしないんだから、気にせず連れて行く。
何度も言うが、俺はこの美しい海で泳ぎたいんだ。
そのまま、深さが俺の腹くらいまである浅瀬まで運び、海へ放り投げた。
───3-Aの面々───
エドを海に放り投げる様を見ていた、3-Aの面々。
「あの二人は、顧問先生の言ってた……」
「……あの二人って、怪しいよねー」
「むむむむむー! ラ、ラブ臭を感じるー!」
「やっぱりー!?」
「くはー! 創作意欲が沸いてきたわよ! きたきたきたあぁぁぁぁぁあ!」
海の中なのに彼女は原稿用紙を取り出した。
「パル、それどこにしまってあったですか……?」
「大丈夫。防水仕様だから!」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
ちなみに四次元ポケットを持っているわけではなくギャグ時空だからなのであしからず。
──────
「と、いうわけで、泳ごうぜ☆」
「無茶言うなこのアホが!」
ざばーっと跳ね上がる中身幼女。幼女本体だと、浅瀬でも息継ぎが厳しいのか、あっぷあっぷしてる。
「つか、お前なら、吸血鬼として泳げない事なんて克服できるだろ。だから、少しくらい練習してみろよ」
「……」
「な?」
そのまま、俺は手を伸ばし、幼女の手をとる。
ふふふふふふ。こうして泳げない幼女の手を引いていれば、うかつに手は出せまいブラックメン!
泳げない者がいるところで、俺だけをおぼれさせたりなど、出来まい!!
身を守りながら、泳ぎも堪能出来る。
か、完璧だ。自分の策略に、ほれぼれするぜ。
幼女には悪いが、泳ぎの練習にもなるのだ。損はない!
「し、しかたないな。少しくらいは、つきあってやる……」
「OKOK。ちょっとずつ深いところ行くからな。手は離すなよ」
ちなみに俺は、立ち泳ぎどころか、5メートル飛びこみだっていけるぜ!!
「ちょっ! ぜ、絶対に放すなよ! 絶対にだ!!」
「へいへい」
ばしゃばしゃきゃっきゃ。
本当なら、その図はエヴァの手をとる彼の図なのだが。
見える姿はエドという美少年の手をとる彼の姿なので、色々アレであった。
絶対に放すなよと言われたので放したゆえちょっと溺れかけ、彼の胸に美少年が納まったりしている図とか。
彼の首につかまって一緒に泳いでいる図とかが見える。
「きたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
海から上がってパラソルの下、望遠鏡と共に原稿を広げる少女が叫んでいた。
「今年の夏は、もらったわぁー!」
ぐっとこぶしを握った少女の見る空の上には、彼等の担任がサムズアップしている姿が浮かんでいるのが見えた気がした。
──────
結局幼女はまともに泳げなかった。
道具を使えば別だが、そこまでして幼女も泳ぎたがらなかったので、戻ってきた。
「浮かぶ事が出来るから、泳げるようにはなると思うんだけどな~」
「う、うるさい……貴様なんて、きらいだ……」
ベンチでぐったりの中身幼女。
「よし。そのうち泳ぎの特訓でもするか。お前のとこの別荘に海あったよな」
「あ、あほか貴様は!!」
そんなに泳ぐの嫌ですか。そうですか。お前にも泳ぐの好きになって欲しかったが、ならしかたないな。
ちょっと幼女がすねているので、ご機嫌をとる事に。
「飲み物とって来るけどなにがいい?」
「……トマトジュース」
「あいあい。少し休んでろ」
「……ああ」
だいぶ疲れてるな。やっぱり種族的に水の中はつらかったのか?
だとすれば謝ろう。違ったら気にしない。
んじゃ、ちょっと飲み物とってきますかね。ブラックメンに注意しながら。
飲み物置き場まで、約250メートル。
その間に、必ず近くにいる3-Aの子達の視界に入る事を心がける!
そうすれば、ブラックメンも手は出せない!
やしの実が落ちてきて頭部命中とかも注意!
油断はしない! 油断は即、死に繋がる!!
飲み物を取りに行くだけで命がけとは。南の島恐るべし!
───雪広あやか───
くっ、なんという事でしょう。
これは、予想外ですわ……
獣のような男だと思っていたのに、この南の島にあっても陽気に当てられずあくまで紳士的に行動するとは……!
双子がやしの木を見上げ、ココヤシジュースを飲みたそうに見上げていると、どこからともなくパチンコを取り出し、二つ打ち落とし、一部を切り取り、ストローをさし、渡した。
……あのパチンコとストロー一式はどこから取り出したのかしら。手品? だとすれば、ソレによって興味もひけるわけですか。
探し物を探している子達に向かい、さりげなく、探しているモノを置いて去ってゆく。
ものすごくさりげなく。だが、去る背中はその子の視界に入るように。まさか、これを計算しているのですか!?
ジュース置き場に着けば、他の子達へジュースを手際よく作り、渡す。しかもかなり好評。
あの綾瀬さんの好みに答えるモノを作るとは、様々な意味で恐るべし。
さらにジュースを運んで、そのまま去ってゆくという紳士的態度。
なにやら早乙女さんに絵のモデルとか言われていたようですが、断ったようです。詳しい内容は聞こえませんでした。
おふざけでオイルを頼まれても、やんわりと断る物腰。
むしろ、きちんと危険性を教え、優しく叱るという態度。
などなど。
そして、そのまま友人の元に戻り、自分は休憩。
周囲の少女達にいやらしい視線を向けるわけでもなく、景色を楽しむ余裕。
なんという、紳士。
よ、予想外でしたわ。こうして、外面は良くして、次々と毒牙にかけているのですね!!
人目のある場所では決して油断しない!
私の考えが、甘かった!!
ここまで筋金入りだったとは!!
これでは、単純なクラスメイトは騙されてもしかたがありません!
ですが、私は騙されませんよ!!
クラスメイトも、ネギ先生も、守ってみせますわ!
くわっ!
あ、でも彼ばかりにかまっている場合ではありませんわね。
ネギ先生もなにやら落ちこんでいたご様子。
お伺いしなくては!!
ちなみに、彼の悪い噂は、朝倉&カモにより、3-Aに関しては逆に悪くは伝わっていない。
なので、委員長を除いた3-Aの面々は周囲より彼を好意的に見ていた(ただし男色説は今回でかなり強まったが)
──────
中身幼女が「散歩をするぞ!」とのたまわった挙句、俺を引っ張って島の散歩に連れ出しやがりました。
おぉーい。人の視線がなくなったらあからさまに俺消失のチャンスじゃんかよー。
いや、お前がいればブラックメンは敵じゃないかもしれないけどさ。
ただ森の中じゃ海の中と違って、くっついているわけにもいかないから不安なんだよー。
俺不意打ちだけは超苦手なんだってばー。
だがまあ、機嫌をとるためにはしかたがないか。
下手するとブラックメンより怖いからなこの幼女。
それに、ちゃんとエドの目があればブラックメンも無理な行動は出来まい。
むしろエドこと変身幼女をレーダーとして使えばよいのだ!
そこを注意して、幼女の散歩につきあうとしよう。
……でも、飲み物持って帰ってきてから余計に機嫌が悪いんだよなぁ。無理に泳がしたのそんなに嫌だったのか? だとしたら本当に悪い事したな。
しばらく島の中を散策していると……
「ササササ、サメー!?」
そんな声が、海岸の方から聞こえてきた。
「なんだ……?」
「委員長さんの声だね」
何事かと森の茂みから顔を出してみると、そこは小高い、切り立った崖。
眼下には、二匹のサメに囲まれ、あっぷあっぷしているネギがいた。
それを見た俺は──
「ネギ!」
──躊躇なく、ネギのところへ、飛びこんでいた。
「あ、こら!」
幼女がなにか言っている。
制止しているのだろうか。
だが、考える間もなく、飛びこんだので、なにを言っているのかまで聞こえない。
サメ相手に俺が飛びこんだところで足手まとい。とか考える前に、もう飛びこんでいたのだから。
そんな冷静な判断をする前に、本当に、体が動いてしまったのだから。
飛びこむと、そこにはツインテ少女もいた。
どうやら、彼女も俺と同じで、なにも考えず、飛びこんできたようだ。
「サメが拳法使ったー!?」
「ネギ!!」
ツインテ少女アスナが叫ぶ。
……あ。
この時、俺はこれがどういう状況か、思い出した。
あのサメの中には、人が入っていて、ネギとアスナを仲直りさせる作戦。
やっと、この展開が原作にあった事を、思い出したのだ。
やばい!!
そう思ってポケットに手を入れ、道具を出そうとした時には、もう遅かった。
ツインテ少女が、アーティファクトの剣を引き抜いているのが見える。
「サメなんかー!」
海が割れ、俺をふくめたサメ2匹とネギは、一度上空へ吹き飛ばされた。
「海が割れたー!?」
浜辺にいたお嬢達の声。
……あー。これ、あったねー。
青い空に吸いこまれつつ、俺はそんな事を思った。
無駄な行動、乙。
どこからか、そんな声が聞こえた気がする。
べちゃりと海面に着水し、ずるーりずるーりと浜辺に戻ると、サメの中からカンフー少女+1がいたのがばれて、ネギがぶん殴られ、お怒りツインテ少女が去ってゆくところだった。
「あああああああ……」
去るツイン手少女の背に、そんな事しか言えないネギ。
「やっぱり、少しやりすぎたでしょうか」
「スススススス、スミマセンネギセンセイ……」
がっくりと肩を落とし、ネギはとぼとぼと去ってゆく。
俺の存在にも気づかない。よほどショックだったんだろうな。
近くにいた半デコちゃんとこのかのお嬢ちゃんが俺にお辞儀してくれた。俺はそのまま手で挨拶し、ネギを追うように手を返す。
ここに俺がいるのはホント無意味だからな。
一応気絶しているカンフー少女ともう一人の様子は見ておくか。
原作じゃ何事もなかったようだけど、ほおっておくのも気分が悪いし。
『お医者さんカバン』を取り出して、診察。
さくっと診察すると、カンフー娘+1は二人共気絶しているだけなので、しばらくすれば目を覚ますとわかった。
んじゃ、あとはタンカを持ってきた黒服執事の人に任せるか。
「……少しだけ、見直しましたわよ」
「ん?」
診察を終えてカバンをしまうと、背後からお嬢にそう声をかけられた。
「なにが?」
「まさか、ネギ先生を助けるために、明日菜さんと同じように躊躇無く崖から飛びこむとは、思いませんでしたわ」
「まあ、無意味だったけどさ」
「それでも、サメがいるのに飛びこむその勇気は、驚嘆に値します。少しだけ。本当に少しだけ、認めて差し上げますわ」
「そっか、わざわざありがとな。君等の思惑の邪魔をしたというのに」
「……あなたは、怒らないんですの?」
「もう叱られた君等をまた怒ってどうするよ。確かに、ちょっとやりすぎだけど、君達は反省している。なら、同じ事はもうやらないだろうから、俺が怒る必要はどこにもないよ。むしろ、彼女達と君達の仲が悪くならないかが心配だな」
「……はぁ」
なんかため息つかれましたよ。なんで?
───雪広あやか───
(自分の事は差し置いて、私達の方を心配する。もし、これが演技なら、手に負えませんわね……)
彼女は、不思議だった。
これほど自分が彼を邪険に扱っているというのに、結局彼は、一度も自分を非難したりはしていない(逆に褒めた事すらある)
そして、先ほどの行動を見て、失礼な話だが、実は彼は、明日菜さんクラスのおバカさんなんじゃないか。そう思いはじめていた。
単純に、人が良くて。他人を優先して考えてしまう。だから、自分が泥を被って悪く思われても、他人が笑えるようになれば、それでいいという。自分は嫌いじゃない、おバカさん。
そう考えると、命の危険があるサメのいる海へ、躊躇なく飛びこむのも、理解出来てしまう。
そう考えると、今まで見ていた彼の行動は、計算などではなく、ただ、人の良い、親切な行動に見えてきてしまう。
彼の悪い噂は、どれも事実無根だった。なんらかの裏があるかと思ったが、むしろ裏がない。そう考えると、とても自然に思えてしまう。
ネギ先生に後ろめたい事をしたのは事実だろう。だが、先ほどの行動を見ると、『危険』はないように見えてきてしまう。むしろ……
たった一度の行動。
だが、事実を知らないならば、命すらかかっている、真に勇気が必要な行動。
彼は無駄な行動かと思ったが、その行動は、きちんと人の心を動かしていた。
困りましたわね。
噂に聞く悪いあなた。他の方と接する紳士的なあなた。目の前にいるちょっと間抜けなあなた。危険をかえりみず行動するあなた。
どれが本当のあなたなんですか? 本気で答えが帰ってくるとは、思わない。でも、なにを考えているのか、聞いてみたい。そう、彼女は思ってしまった。
「あなたは……」
私の言葉が、さらに続く前に。
「こんのドアホがー!」
ヤシの実が、彼にむかってすっ飛んできた。
──────
「はぐあ!」
すこーんと俺の後頭部に、なにか硬いものがぶち当たった。
多分、ヤシの実……
投げたのは、どう考えても。
「このドアホ! あんなの見れば中に人が入っている事くらいひと目でわかるだろう! それなのに、それなのに、なにを考えているんだ!」
俺の着ているパーカーの襟首をつかみ、ぶんぶんと中身幼女が振り回す。
「ネギが溺れているのも見えたし、体が勝手に動いたんだよ。しかたがないだろーが!」
「もっと冷静に周囲くらいを見ろ。明らかに不審だったろうが! いいか、心配したんじゃないぞ! お前のアホな行動に怒っているんだからな!」
「うるせーな! しかたねーだろ! 危ないと思ったら、考える前に体が動いたんだ。しかたねーだろ!」
本当に、仕方がないだろ。としか言いようが無い。
そりゃ、俺だってサメが二匹もいる海に飛びこむとか馬鹿だとしか思えねーよ。
でも、体が勝手に動いたんだから、しかたねーだろ。
「……まったくもう」
がくがく首を振られている俺を見て、お嬢がまたため息をついた。
なんでそんなに満足そうなの? ねえ、なんで? 俺が痛い目見てるから?
(本当に、ただのおバカさんなんですわね。なんだか、彼を敵視しているのも、疑っていたのも、バカバカしくなってきてしまいましたわ。まあ、だからといって、ネギ先生の事は任せませんが)
ぶんぶん振り回される彼を見て、答えを得た雪広あやかはそう思った。
「あの、すみません」
がくがく揺さぶられる俺と揺さぶる変身幼女に向かって、泣きぼくろのある女性が声をかけてきた。
身長170センチ超えてて、すごいナイスバディ。名前は思い出せないが、ここにいるという事はネギのクラスの子なんだろ。ビーチでも何度か見かけたし。
これで14、5歳って、なんというか、規格外だねぇ。モデルさんみたい。
「は~い。なんですか~?」
がっくんがっくん揺られつつも、俺が答える。
中身幼女は無視して俺を揺さぶっている。
泳ぎで機嫌が悪い。飲み物を取ってきてさらに機嫌悪化。散歩を放り出してさらにさらに機嫌悪化での怒りゲージ3本爆発状態なのだから仕方がないだろう。
なので俺はそれを大人しく受け入れつつ、彼女の言葉に答える。
こういう場合は気が済むまでさせておくのが一番だ。
だが、彼女の発言で、すべての時が、一瞬止まる。
「ぶしつけで悪いのですが。私と、結婚を前提にお付き合い願えませんか?」
彼女は、俺を見ながら、そう言った。
「……」
「……」
「……」
俺と幼女とお嬢停止。
「なにいぃぃぃぃぃぃ!?」
これは、活動再開した中身幼女の声だ。俺の耳元で叫びやがった……
ぎゃー。耳が。ミミガァ。
「いいい、いきなりなにを言い出しているんですかちづるさん!」
「はい。だってとても素敵な人じゃありませんか。何度かお見かけしましたけど、真面目で誠実な方ですし。ネギ先生のタメにあのような事もできる。こんな方、滅多にいませんよ」
にこにことしながら、彼女はそう答えた。
俺と中身幼女は、完全に固まっている。
いや、彼女以外全員が、固まっている。
「それに……」
なにかふくみがあって俺を見ていたようだが、固まっていた俺達は、それに反応は出来なかった。
「……」
あ、お嬢が頭をかかえ、なにか悩んでいる。
きっとネギ先生と天秤にかけてるんだぜ。
そして……
「応援いたしますわ!」
そう言って、ちづると呼んだ子の両手をつかんだ。
そーきますかー。
むしろたしなめるべきでしょー。
「どうでしょうか?」
少し不安そうな少女の顔。こうして見ると、やっぱり年相応の女の子だわ……
「……お、お友達から、で、よろしいですか?」
中身幼女に首をつかまれたまま、俺は、そう答えた。
「はい。お願いします。あなた」
「ちょっと待てえぇぇぇぇぇ!!」
そしてそのまま俺は、襟首をつかまれたまま持ち上げられ宙吊り。中身幼女にシメ落とされたのでした。
な、なにするだー。
い、いきなりの爆弾発言だからって、絶叫と、共に、力、入れすぎ、です……
幼女、俺をつかんでるの、忘れてるよね……(告白からずっと彼ではなく千鶴を凝視してた)
どうでもいいけど、俺のレッドアラートが鳴りまくってます。
なんすか、これ?
あ、今が、俺、生命の危機、だからですね……
彼がシメ落とされた後。
彼女(那波千鶴)と、彼(エド)の間に、火花が散っているのが見えました。
そうコメントするのは、タンカで二人の少女を運びつつ、事態を見守っていた執事達であった。
ちなみにネギの方は、次の日朝、無事、仲直りが出来たようだ。
めでたしめでたし。
───エヴァンジェリン───
那波千鶴。
3-Aの中でも数少ない、落ち着いた精神を持つ、精神的に成熟した者の一人だ。
保育園で保母のボランティアをしているせいか、この3-A連中のあつかいも非常に上手い。
そして、クラス最大の巨乳。
ネギや永遠の10歳である私などとは圧倒的に違う身体スペックを持つ娘だ。
その娘が、いきなり奴に結婚を前提とした付き合いを申しこんできた。
突拍子もない行動や発想をする娘だとは知っていたが、いきなりすぎだろう!
今までそんな接点まったくなかったじゃないか!
だが、聞けば会話こそしていないが、修学旅行の時奴を見ているし、それ以前。あの100人乱闘事件の事情も正しく知っているのだそうだ。
なんでも、天文部の知り合いが、その時奴に助けられた者なんだという。
あの顛末を聞いて、情けないと思うよりも、すごいと思ったのだそうだ(実は修学旅行の時、直接聞けばいいとあやかの背中を押したのは彼女)
さらに、先のビーチでも何度か顔はあわせているという。
そして、危険をかえりみず、ネギの元へと飛び込んだ行動。それが、決定的だったそうだ。
つまり、奴を見て、その誠実さに惹かれたのだという事。
噂などに騙されず、その心根を見抜いたという事だ。
修学旅行から今までで、ほとんど会った事もないのに、奴の本質を見抜くとは、侮れない奴だ。
それにしても、奴も奴だ!
あっさりと友達からでもと、OKするとは!
そこはあっさりと断るところだろう!!
やはり胸か!? 胸なのか!?
おっぱいなのか!? おっぱいはないと駄目なのか!? ゆれるほどたわわに実っていないと駄目なのか!?
おっぱいがいっぱいじゃないと駄目なのか!?
確かに奴は凹凸のない体には興味はないと断言している(しかも幻は効きそうにない)
ソレはつまり、あの娘ならば問題ないという事!!
……ふにふに。
こ、これは、まずいのではないか!?
なんでかよくわからんが、ネギ以上のとてつもない危機感を感じる!
ネギといい那波千鶴といいその他といい、最近は奴の周りにはこう女が集まってくるのだ!
奴に、最初に目をかけたのは私だぞ!
私なんだぞー!!
─あとがき─
最初に言っておこう! 委員長が彼をここまで敵視してきたのはずばり、ここでエヴァと彼を一緒に海に入れるためといっても過言ではない!
それはさておき。
とうとう委員長ことお嬢の敵対関係も少しだけ改善が見えはじめました。彼に対する委員長の評価が、明日菜と同系列になったようです。ずばりかなり高くなりました。
やっと彼にも幸運が舞い降りはじめて来たのかもしれません。
でも、命の危険がなくなっただけで、彼女の言動が変わるかというと、そうでもないわけですが(明日菜に対する態度と一緒)
そしてなんと『彼』の魅力に気づいた人がもう一人。
しかも、その身体スペックは3-A最高!
凹凸のない体に興味はないと断言していた彼は一体どうする!?
ネギ以上の最強最大のライバル出現にエヴァンジェリンはどうする!?
というわけで、そろそろエヴァも自分の気持ちに気づきそうです(どういうわけさ)
次回、コタロー参上の巻。
ちなみに当初の予定だとあの100人乱闘事件の時助けられていたのは村上夏美だった。という予定もありましたが、色々あってここでは没になりました。