初出 2009/05/12 以後修正
─第13話─
ネギ、師匠を求めるの巻。
──────
HEY YO。みんな、お手紙コーナーの時間だZE!
なになに? 『日常的にバリアとか張っておいた方が安全じゃね?』
OH! そいつはいい考えだぜスティ~ヴ。早速修学旅行の最終日にそいつはやってようじゃないか! なにせ『三番目』に喧嘩を売った形だからな!
これで、いきなりダンプに轢かれても安心DAYO!!
でもそうしたら、幼女に「敵を誘っているのか。お前らしい」と言われました。
バリアがわかるのかと聞いてみたら、見る者が見ればよくわかるのだと言ったとです。
魔力は感じないが、バリアによって空気の流れなどに違和感が出るのだそうだ。わかる奴は相当なレベル。つまり、幼女や『三番目』クラスをおびき寄せようとしているようにしか見えないんだと……
早い話、こうして対策をした方が、『三番目』に見つかりやすくなるという事なのだ。
一般生活では安全になるが、魔法使いやその道のプロなどの超一流にはわかり、逆によってこられてしまう。
そのレベルの者は、必ずといってこの不可視バリアに興味を持つだろう。だって。
つまり、バリアを張っていると、『三番目』はおろか、それ以外の超一流にも目をつけられる可能性があるわけだ。
……それ、逆に意味ないよね。
ちょう意味ないよね!
せっかく学園ではワリと平穏に暮らせているのに、自分から他の人にアピールするの逆に無意味だよね!(ちなみに彼は自分がすでに学園長に目をつけられているとは夢にも思っていない)
結論として、学園で平穏にすごしたければ、むしろバリアはなしで今までそのままの方がいいってさ。
ちなみに幼女んちと寮に作ったゲートは平気みたい。直接出入りを見られない限りは。
だから俺は、バリア装備は諦めて、今までどおりそのまま生活する事になりましたとさ。
そもそも普通に生活している分なら、この安全大国日本において『道具』を使うほどの危険もないわけだしな。
どうせ修学旅行が無事終わった今、次のイベントは学園祭。夏休みの魔法世界までは安全なんだしな。ひゃっほー。
そう、思っていたんですが……
修学旅行も終わり、次の日日曜の昼間。
そんな平穏な日常の中、俺は今広場で黒服の方々に囲まれて、冷や汗だらだら流しているんだ!
おかしいなー。なんで俺、命の危機を感じてるー?
誰だ? 普段生活している分には命の危険なんてないなんて思った奴は。
「……心当たりがない。とは言いませんわよね?」
そして、黒服の中央。俺の目の前には、現在俺最大の天敵(?)とも言える、委員長兼お嬢。雪広あやかが腕を組んで立っているのでした……
まあ、アレだよねアレ。全部修学旅行のおかげだよね。
修学旅行が終わるとさ、ネギ、今後のために弟子入りするじゃん?
なんかさ、なんでかさ。それでネギが師匠と求めたのが、俺っぽいんだよね……
そりゃ、修学旅行にスクナ倒したの、俺だけどさ。
幼女に押しつけようと思ってたんだけどさ。
その前に、こんな事が起きるとはね……
簡単な経過説明。
修学旅行が終わっての日曜日。明日菜が起きると委員長withクラスメイトが襲撃してきたコミックス第7巻最初の話のアレ。
原作と違うのは、このかと一緒に刹那が帰ってきたという事。
↓
ギャーギャー騒ぐクラスメイトに明日菜爆発。全員退室させようとする。
↓
その明日菜がクラスメイトを押し出している際ネギが
「刹那さん。あの人の連絡先を教えてもらえませんか?」
と耳打ち。
↓
だがネギ限定ぢごく耳の委員長は聞き逃さなかった。
↓
このままネギ先生に会わせるわけにはいかない!
↓
会わないよう釘をさそう。
そんなわけで、雪広財閥の力を使って呼び出し。
のこのこやってきた俺は、こうして委員長さん&執事。それと子飼いの黒服さん(執事)達に囲まれて、今に至るというわけでありました。
金持ちの本気というヤツを、今見てます。
お金持ちにかかれば、俺の携帯番号なんて楽勝ですよね。
「……あのー」
おずおずと、俺が口を開こうとすると、ギン。といった感じで、にらまれます。
ネギっ子LOVEのいいんちょさんに。
ネギは絶対守るオーラが出てます。
いやはや愛されてるなぁネギ。
「修学旅行の時は逃げられましたけど、今度はそうはいきませんよ?」
「確かに、もうヤサ(寮)も連絡先も知られてるしなぁ」
手で顔を覆って、うめいてみる。
下手に寮は襲撃するなよ。中身幼女がいたりしたらお前等逆に返り討ちだから。
幼女本体は今家で修学旅行の疲れを癒しているから幸運だったな!
「私も、鬼ではありません。そりゃ、ネギ先生に素敵な方が現れれば、その方に任せるのがスジと思っていますよ? ですが、今私の評価では、まったくもって駄目駄目です」
アレですね。お父さんならぬお姉さんは認めません! というヤツですね。
安心してください。そんな気はサラサラありませんから!
「いや、俺も、平穏に過ごしたいなーと思ってます」
「それを実現したいならば、まずはその身の潔白を証明していただきましょうか!」
ぱちんとお嬢が指を鳴らすと、黒服さん達が丸くてでっかいマンホールみたいな石を持ってきた。
……あれー。これ、どっかでみたことあるよー。
確か、『真実の口』とかいうどこかの観光名所じゃないかなー?
「さあ。ここに手を入れ、私はネギ先生にやましい事はなにもしていません。と宣言してください。そうすれば、一瞬にして身の潔白が証明できます。そうすれば、私も認めざるえませんわ」
あー。俺の知ってる奴そのままだね。
たしか手を口に入れると、偽りの心がある者はその手首を切り落とされたり、手が抜けなくなったりするんだよねー。
ローマの休日は名作だよねー。
ちなみに、雪広あやかは、修学旅行の時彼が本当にネギへ後ろめたい事をしたのかは調査は行っている。
だが、幸か不幸かあの時は関西呪術協会の天ヶ崎千草による近衛木乃香誘拐計画が動いていた。そのため、あの温泉騒動を知る者は当人達以外に存在せず、事実は確認出来なかった。
調査だけを見れば、あの件は自分の勘違いかもしれない。それでも、彼の態度はなにかやましい事をした事を示している。それゆえ、当事者に対し、こうして確認もしようとしているのである。
「……本物?」
「当然ですわ」
「なんでここに?」
「ちょっとレンタルしてきました」
「レンタル出来るモンなのアレー!?」
すげぇやお金持ち。
つーかこの世界だと魔法があるからマジ判定されても不思議はない。ちょう怖い。
「ところで、手が抜けなくなったりしたらどうなるの?」
「ご想像の通りですわ」
つまり万死に値してノーロープバンジーもありえるって事ですかー!?
「さあ! 手を! 私に認めて欲しくば、身の潔白を証明なさい!」
「ちょっ! こら、待て! そっちの用意したものだとそれが嘘だろうが本当だろうがそっちの自由に出来てもおかしくないだろ!」
「私がそんな事する人間だと思いますか!?」
おもいませーん。お嬢そういう面でもすっごい公明正大な子だと思うからー。
「大体コレは本物なんですから、そんな必要はありません! そもそも後ろめたい事がなければ抵抗する必要もないはずです!」
くっ、痛いところをついてきやがって!
こうなったら道具で……
がしっ。
……って、黒服執事さん!? なんで俺の両腕をつかみますか!?
両手つかまれていたら道具出せないんですよ!
や、やばい! ひょっとしてコレ、今までで一番ピンチなんじゃないかー!?
まさか、一番の危機が魔法使いではなく、ただの人間の手で引き起こされるとは。
ふっ、人間の敵は、やはり人間か……
なんて厨ニ的な言葉に酔っている場合じゃねー!
ぐいぐいと、手を『真実の口』へ引っ張られる。
「ちょっ、ちょっと待て。落ち着け。安心しろ。決して、決して手は出してない!」
少しでも時間を稼ぐのため、俺の口から出た言葉。
「まあ。それは安心」
お嬢が笑顔で答える。
だが、むしろそれは、致命的。
「って、出来るわけないでしょうがー!!」
お嬢が『真実の口』をちゃぶ台返しした。
くるんくるんと石で出来たマンホールが宙を舞う。黒服執事さん大慌て。
お嬢。ネギに関するとたまに人間超えるよね。
「つまりそれは、それに近い、やましい事をしたって事でしょうがー!」
しまったぁぁぁぁ!
ちゃうねんー。
でもやましい事をしてしまったのは確かにほんとやねんー。
でもちゃうねんー。
「もう手を入れるまでもありません! あなたの存在は、万死に値します!」
やっぱり万死ですかー!
なんか黒服の人とか、手袋とか装備してなにやらアップをはじめているんですけど。なにこれ。俺今から某顎と鼻の鋭いカイジ的な地下労働所にでも送られちゃうの?
それともやっぱりノーロープバンジー!?
「ネギ先生にもうちょっかいをかけるなと言おうと思いましたが、いっそ行方不明となり、永遠に会えないようにした方がよさそうですわね。ウチの会社のタメに地下へレアメタルでも探しに行ってきていただきましょうか。安心なさい。一生使い切れないくらいのお給料は与えますわ」
ひょぇー!!
お金持ちを本気で怒らせてしもうたー。俺外国留学フラグオンー!
てゆーかそのお給料ってそもそも使い道がなくないー!?
「あ、すみませんいいんちょさーん!」
「ハイなんでしょうネギ先生!」
あやかの、すごい、変わり身。
背後から声をかけてきたネギの方へ振り返るお嬢。
般若が女神に変わる様を、俺は見た。
「人を探しているんですけどー、って、あ」
「あ」
しまったという委員長の声。
ネギの視線の先には、俺。
見つけたー。というような感じで、ネギがやってくる。
「ちっ」
いいんちょと黒服執事達がいっせいに舌打ちしたぁぁぁぁぁ!
「お嬢様、さすがにここでは……」
「しかたがありませんわね」
「次の機会に……」
聞こえてる。聞こえてるよそのちょう不穏な会話!
つまり、ここでどうにかしても、根本的な解決にはならないということか!
……はっ、ならば!
「ネギ、今、俺がいなくなったら困るか?」
近づいてきたネギに聞く。
「はい。困ります!」
笑顔でネギ回答。
「くっ……!」
そう。ネギが困るのならば、ネギを想うネギっ子LOVEの委員長は俺をそう簡単に行方不明などには出来ないはずだ!
OKネギ! いつもは地獄の使いだけど、今は天使に見えたよ!
まあ。根本的な解決にはなってないけどね。むしろ悪化した気もするけどね。
「あなたなかなかえげつない手段とりますわね」
「君に言われたくないよ」
お嬢がまたくるりと振り返り、ネギには聞こえないよう顔を突き合わせ二人でひそひそと。
正確には俺の襟首をお嬢がつかんで顔を近づけてきた。
「絶対認めませんよ?」
「認めなくていいから許してください(平穏に生活する事を)」
「(交際を許せと)本気で言っているんですか?」
「本気で言えば許してくれますか?」
「許すわけないでしょう!」
「ですよねー」
「絶っ対、認めませんわ……!」
こうして、誤解は深まっていく。
そしてそうやって顔を近づけてひそひそ話す二人は、はたから見るとちょっとアヤい関係にも見えた。
そんなひそひそと話す二人を見て。
「お二人とも仲が良いんですね~」
ネギはそう素直な感想を言った。
この剣呑な雰囲気の俺達を見てもその感想。ある意味君は大物だよなネギ(はたから見た自分達の姿に彼は気づいていない)
「ほーっほっほほ。その通りですネギ先生。ですから、今度彼に連絡を取る時は、私を通してくれると助かりますわ」
「あ、それは助かります!」
お、それは、俺にとっても悪くはない。
委員長を通せば、俺とネギが接点を持つ事が少なくなって、俺が巻きこまれる可能性が減るしな。
だが、本人気づいていない。
委員長を通さないで来る接点とは、ずばり彼が巻きこまれたくないと思っている件である事に。
「どころで、彼となにか? どこかへいらっしゃるのでしたら、お供いたしますよ」
「あ、すみません。いいんちょさんにはちょっと……」
ガーン!
あ、すっげーショック受けてる。
だから、すねた感じで睨まないで。お願いだから睨まないで。
ちょっとかわいい。とか関係ない事思って現実逃避するから睨まないで。
「あ、安心しろ。天に誓ってなにもしない。俺嘘つかない」
「当然です! ネギ先生。気をつけてくださいね!」
「? なにをですか?」
なんという無邪気な笑顔。俺を完全に信頼している笑顔。
ガガーン!
再び大ショックのお嬢。
「お、覚えていらっしゃーい!」
そしてそのまま、走って去ってった。
黒服執事達がマンホールをごろごろ転がして行ったのが印象的でした。
「……どうしたんでしょう?」
「気にするな」
「ダンナも大変だなぁ」
天然でなにが起きていたのか気づかないネギ。
それと、哀愁を漂わせる俺がいた。
あと小動物に同情されても嬉しくない。
「あの……」
「なにを言いたいのかわかっている。だがとりあえず、場所を移動しよう」
「え……?」
いろんな意味で、早いところネギとの関わりは切っておいた方がいい。日常の平穏のタメに。
そう思ったので、さっさと目的地へと歩き出した。
どうにもネギはツインテちゃんと手分けして俺を探していたみたいだけど、いざという時の集合場所が目的地だったのでそのまま出発した。
……この時、その集合場所の違和感に気づいていれば、よかったんだよなぁ。
──────
幼女の家を襲撃した。
元の体に戻ってぐーすか寝ていた幼女を叩き起こす事にする。俺がネギに頼まれる前に、幼女に師匠になる事を頼んでおかないとならないからだ。
ネギが勝手に入っていいんですか? とか言ってるけど、茶々丸さんが普通に入れてくれたんだから気にしない。
(遠慮なく家にあがれるなんて、やっぱりエヴァンジェリンさんとも仲が良いんだなぁ)
叩き起こした。
「き、貴様いきなりなにをする!」
「おはようネギを弟子にしろ。お願いがあってきたんだネギを弟子にしろ。聞いてくれないかネギを弟子にしろ」
「全然お願いする気などないだろう貴様!!」
「頼むよ。な? 俺がこうして頭を下げているんだ。な?」
「全然下げてないだろうが!」
「下げてるだろ。ふんぞり返った分通常より下に」
「それは下げるといわん!!」
「うん。俺もそう思う。ちょっとやってみたかったんだよ。ネタとして。というわけで、ネギを弟子にしろ」
「なにがどういうわけだ意味わからん!! 大体なんで私が弟子を取らねばならんのだ! アホか!」
お前の方こそアホか! お前に師事しないで誰に師事するってんだよ!
お前以外にいないじゃないか。
これ以上俺に原作剥離の心配をさせないでくれ!
ただでさえ魔法世界行きが怖いんだから!
主に俺が『三番目』に色々やっちゃったせいで!
……とは、もちろん口が裂けても言えないんだが。
「大体、魔法くらい貴様が教えてもいいだろうが!」
それこそアホかー!
俺は反則技で使っているだけで、お前達みたいに身についてるわけじゃないの!
大体お前達の魔法形態なんて知らねーから教えられるはずもないだろ!
ついでに言えば『魔法事典』なんてあんな主に優しい気の利いたド利口道具2度と取り出したくもないし使ってやりたくないの!
なにより委員長が怖いんだよ!
「俺が教えていいなら教えてるっつーの! それが出来ないからお前に頼んでんだよ! お前は意外に面倒見もいいし、魔法の知識も豊富だ。戦いの厳しさも教えられる。いいところを上げだしたらキリがない。俺以外にそれが出来るのはお前くらいしかいないんだ! だから頼む!」
土下座とまではいかないが、ベッドに両手をつけて、頭を下げる。
しーん。
……あRE? なんでしーんとなりますか?
みんな引いてる?
やっぱいきなり土下座モドキはやりすぎかな?
(エヴァンジェリンさんの事、すごく信頼しているんですね。でも、それは僕のためなんですね……? なんだろう。それなのに、胸がざわざわする……)
(なんでそんなに必死で頼むのだ。なぜ、そこまでこの小娘の事を気にかけるのだお前は!! だが、お前はそこまで、私を信頼してくれているのか……複雑な気分だ……)
(……ダンナ、オレっちにはその擬態能力が高すぎて感知できねーんだが。い、一体、どっちがどうなんだー!? それとも本命は別にいるのかー!?)
「た、確かに、貴様に匹敵する魔法使いは私くらいしかいないからな。しかたない。今度の土曜日もう一度ここへ来い。弟子にとるかどうかテストしてやる。それでいいだろう?」
しばらく静かだったが、幼女がなんとか知ってる流れの答えを出してきた。
「おう。それでいい」
「これで駄目だったら文句は言うな!」
「OKOK。俺はそれで全然OK。ネギもそれでいいよな?」
「え? あ、はい! 僕は、不満ありません」
「そうだぜダンナ。助かったぜ。元々エヴァンジェリンに頼もうと思ってたからよ。手間が省けたぜ」
オコジョがそう答える。
「……え?」
「本当にありがとうございます」
「ダンナは先生にはならねえって断言してたからな。ダンナもなにか理由があるんだろ? わかってるよオレっち達も!」
……え? あれ?
「それじゃ、さっき俺を探してたのは……?」
なんで?
「探していたのはですね。あの、その……」
……なんで、語尾がどんどん小さくなってくの?
「せ、責任についての話を……」
ネギが、ぽつりとつぶやいた瞬間。
……空気が、凍った。
「なななななな、なんの話だー!」
幼女大爆発。
俺、フリーズ。
責任……? 責任て……あ、あー。あれかなー。ほら、あれ。あれあれ。そうソレ。ボケるまでもなく散々ネタになってる、後ろめたい事。修学旅行初日の、お風呂、の、事、かなー?
「ふ、ふつつかものですが……」
ネギが俺に三つ指立ててきました。
「誰に習ったのそんな事ぉ!?」
「刹那さんですけど」
ああ。電話番号聞く時とかに聞いたのね。納得納得超納得。
じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!
「いや、あれは温泉ハプニングの罰という意味でね。人生全部の責任を言ったわけじゃないんだヨ?」
……あの時の会話を思い出してみる。
『責任をとってくださーい!』『──エヴァンジェを裸にひん剥いた時に、あれを娶らにゃならんだろうが!』『──俺は納得して、責任は全部俺が取るから!』省略ダイジェストより。
「……あ、れ? そう、とれ、なくも、ない?」
「つーか、あの時あの流れでああ言ったらそれ以外とれねーぜダンナ」
横になってプカプカタバコをふかしているオコジョがいた。
そういやお前もあの時一緒にいたな。
(へへへへへ。修学旅行中は記憶を封印していて忘れていたが、これでダンナに責任を取ってもらえれば、ネギのアネさんの戦力も超パワーアップ!! そしてアタイも、ダンナとずっと一緒。えへへ)
パオーンのトラウマを別の欲望でいつの間にか乗り越えたカモは、そんな事を思った。
「ほら、証人もいます!」
くそっ、カモ助め! そこまでして俺に仮契約させたいか! 修学旅行の時は駄目だったから、今回はこのような直接的手段で来たのだな!
「おい、どういう事だ!? 責任とはどういう事だ!!」
「ぐげ。ちょっ、ストップストップ……きまってる……首に……」
幼女俺の首を後から絞めないでー。タップターップ!
ネギ事情を説明中。
俺、冷たい床でぐったり。
茶々丸さんすら俺放置。
超放置。
そういえば、チャチャゼロいないな~別荘の中かな~。それとも自由に動けるからどこか出かけてるのかな~。
ぐったりしながら、そんな関係ない事を思った。
あ、意識がちょっと薄れてきた……
「ちょっと待て。それなら、私も橋の上で同じ目にあったぞ! しかも逆さづりにまでされた!」
「でも僕には責任を取ってくれるって!!」
「それならば私はヤツと一緒のベッドに寝た事があるぞー!」
「ええええええー!?」
「や、やっぱダンナとエヴァンジェリンは……」
「マスター……」
「……」
俺はゆっくりと起き上がり。
幼女二人に近づいた。
そして。
「ふん!」
ごちん!!
ネギと幼女の頭をがっちりキャッチし、ぶつけあわさせた。
「いたたたた」
「ぐぐぐぐぐ」
「アホかお前達は!」
「だがな!」
「ですけどー」
幼女二人が涙目で俺の方を見る。
「ったく。誰も責任を取らないなんて言ってねーだろうが」
「なっ!?」
「えっ……?」
一方青くなって、一方が赤くなった。
「ああ。女の子の柔肌を見た責任、俺の命で償おう!」
俺は、ポケットから、一本のカッターを取り出した。
「……カッター?」
『なんでもカッター』
乗用車だってらくらく真っ二つ。なんでもきれいに切り落とす万能カッター。線なんて見えなくても17分割だってらくらく可能DEATH!!
※一瞬でそれ成す場合は使用者に相応の技量も求められます。
「これで、自分を真っ二つにして、お前達に詫びようじゃないか!」
ぱぱらぱっぱぱー。
「ちょ、まっー!」
「だ、駄目ですよー!」
「ダンナー! さすがにそれはやりすぎー!」
「さすがに、それは……」
上から幼女1、幼女2、オコジョ茶々丸さんと続く。
「止めてくれるな! 少女達の柔肌を見てしまったのならば、コレくらいせねばワビにもならぬというもの! いうものなのだー!」
切腹するように、上着をはだけようとする。
「茶々丸、とめろ!」
「はい。マスター!」
「ダンナー。ストップストップー!」
「離せー! 離すんだー!」
「わかりましたー。わかりましたからー! 責任は取らなくていいですからー!」
「そうだー! ネギがこう言っているんだ。やめろー!」
幼女はおろかオコジョまで飛びかかってきて俺の自害を阻止する。
「……しかたないな」
俺は、しぶしぶカッターの刃をしまい、ポケットにしまった。
「そうだ。それでいい」
「そうです。死んじゃったら駄目です!」
そしてそのまま流れるように。
「本当に、スマンカッタ。これで許してくれ」
今度は少女達全員に向けて、土下座。
「は、はい。わかりましたから、頭を上げてください」
「そうだ。許してやる! もういい!」
くくくくくく。
計画通り!!
頭を下げながら、俺は某新世界の神のように笑う。
あ、ここでこうやって笑うの2回目だな。
ネギならばきっと止めてくれると思っていた!
そして、このとどめの土下座!
ふはは。この俺様は、観衆100人の前で土下座を敢行出来る男。平穏のためならば、土下座などたやすい事なのだ!
情けないだろう! 幻滅するだろう!!
おっと。
駄目だ。まだ頭を上げるな。
長くすればするほど、情けなく見える!
30秒過ぎたら頭を上げよう。
いや、35秒過ぎたらだ!
見ろ! 俺のパーフェクトドゥゲェーザを!!
そして、幻滅するんだ! 俺の情けない姿に!!
土下座。確かにそれは、一見すると情けない行動だ。だが、時と場合。さらに魂のこめ方によっては、これほど堂々と、雄々しく、気高い姿はないのである。
彼の土下座は、その土下座として、姿、形、気位。すべてが、パーフェクトだった。
(そんなに、誠実に、僕の事を考えてくれたなんて……)
(……こいつ、ここまで誠実な男だったのか)
「さすがダンナ。男の鑑だぜ……」
「……素敵です」
「「「!?」」」
なぜかそう言った茶々丸にネギエヴァカモは驚きの視線を向けた。
──────
「はー。ひと段落ひと段落……」
俺の割腹騒ぎもひと段落し、みんなでお茶を飲む。
これで、ネギも俺なんてヘタレを諦めて、目が覚めただろう。
しかし、なんか知らんけど、茶々丸さんがお茶を目一杯入れてくれた。表面張力一杯に入れてくれるのはいいんですが、飲みにくいです。
テーブルにあるカップに体を曲げ、顔を近づけて飲むその姿を茶々丸は見て「そのヘタり具合……やっぱり素敵です……」と、つぶやいていた。
変な萌えに茶々丸が目覚めた。
「すみませんでした。勘違いしてしまって」
「いやいや。俺も言い方が悪かったよ。そんなわけで、あの件はもうこれで手打ちな」
「はい」
「まったく。はた迷惑な」
「ああ。正直俺もスマンカッタと思う」
幼女がむくれている。
そうだよな。なんで怒ったのかと思えば、万一お前がナギとーさんとうまくいって、きゃっきゃうふふになった時、俺が責任とってたりしてたら、俺、お前の息子だもんな。お前にとっては悪夢だよな。
俺にとっても悪夢だよ。ネギと将来が決まるなんて、死刑死亡フラグ立ちまくりじゃないか。委員長とか委員長とか委員長とか。
『責任』の話とか出されたらソレこそ本気で消されるよ。「10歳の少女になにしたんだー!」って。
弁解の余地もなく土に返れるよ。
それに夏休みの魔法世界一周旅行も拒否できなくなるじゃないか。
そんなの困るよ。
困るので、この件については、もう他の人には言わないよう、ネギに釘を刺しておいた。
ただ、一つ言っておくが、ネギが嫌いというわけじゃないからな。他の要因が問題だ。ネギがただの女の子で、現在20歳だったら大歓迎だったよそりゃ。喜んで責任取ったよ。
でもそうじゃないんだ。すまないな。
ネギの方だって、俺があの時不用意に「責任を取る」なんて言っちゃったからこうなのであって、実際俺に恋してるとかはないだろうし。
原作の『ネギ』だってまだまだ恋とか2の次だっただろ。本屋ちゃんの時、告白されただけで「結婚しなきゃー」とか言って悩んでた気もするし。
変なところで律儀なんだからよ。
ま、今後関わりが薄くなってくりゃ俺の事なんてすぐ眼中にもなくなるさ。
こんなヘタレなおじさんの事はわすれてくんさい。
「あ、あの!」
「ん?」
ネギが、なにか決意したような目で、俺を見た。
「僕、必ず、あなたの隣に立てるくらいまで強くなりますから!」
「は?」
どゆこと……?
俺みたいなパンピーの隣なんて……
……ああ、そっか。俺スクナも倒した上『サウザンドマスター』名乗ってたっけ。つまり、俺と同じくらいになる。イコールパパンに近づくって事だもんな。
目標があるって事は良い事だよ。
つってもすでに君、素の俺より100倍くらい強いだろうけど。
「ああ。楽しみにしているよ」
「そ、そうしたら……」
「ん?」
「ふん小娘。まだテストにも受かっていないのに気の早い話だな」
「あ……」
「すでに言ったからには、弟子入りテストの件は反故にはしない。だが、私のテストは厳しいぞ」
「が、がんばります!」
よし。がんばれネギ!
俺は応援はしているぞ。遠くから!
いざとなったら『道具』でドーピングとか認めるし。絶対弟子になるんだ!
……あー。てことは、もうしばらく見てないと駄目って事かぁ。
はー。おかしいなぁ。もう原作と関わりない平穏な日々が続いてるずなのにー。
まあ。夏休みまでは平穏だから、いいかー。
夏は『三番目』が心配だから、いくつかの『道具』と俺の知識を与えてあげてもいいよなー。
『道具』があれば、ネギ達だけで解決出来るようになるし、魔法世界には行かなきゃ俺は安全だろうし!!
お前も行けよってのは聞こえない。
もう何度目かわからんが、俺はヘタレなのだ。ノットバトラーなのだ。執事じゃなくてバトルする人って意味だぞ。
あんな気も休まらないトコいってられっかよ。
ま、そのあたりは夏休みが近づいてからでいいだろ。
もう学園祭までは危険もないんだし、それが終わってからでさ。
だが、彼は、忘れている。学園祭の前に、爵位級の悪魔がやってくる。という事を。
すっかり、忘れていた。
もっとも今まで一度も話題に上がっていない事から、最初から存在そのものを忘れている。というのが正しいのかもしれないが。
この後ツインテ少女明日菜がやってきて、ネギは他に用事があるからと、帰って行きました。
取り残されるのは俺と幼女。
「それじゃ、俺もいったん帰るわ。ネギの事、頼んだぜ」
「む? あ、あああ~」
なんで手をさまよわせてんの?
「そ、そうだ。せっかくだ。夕食くらい食べていけ」
「茶々丸さんが作る料理があるなら食べよう」
「ふん」
それはあるのかないのかどっちなんだ?
結局ご馳走になってワープペンの通路を使って帰りました。
ああそうそう。幼女側の出口って押入れ(クローゼット)なんだよ。
どっちかというと、幼女の方がドラえもんぽいよねコレだと(逆に考えればクローゼットに自分の部屋があると言えるのだが、それに気づかない彼だった)
……ところで幼女。なんでTVゲームもって俺の部屋に押しかけてきますか?
明日授業あるんですけどー?
ちなみに俺、格ゲーはストⅡからの格ゲー黄金世代(ゴールデンエイジ)だぜぇ!!
───エヴァンジェリン───
ったく。修学旅行中なにをしているんだアイツは!
あんなに温泉にこだわっていたのは、あの小娘と一緒に風呂に入るからだったのか!?
そのせいでのぼせたというのか!?
いや、男湯と女湯のノレンが入れ替わった事故だとは聞いたが。
だが、なぜあの娘には『責任をとる』と言い、ソレより早く、橋の上で見られた私にはなにも言ってこないのだ! 私なんて逆さづりにまでされたんだぞ!
しかも、あの娘のタメに、私に頭を下げるなんて。
お前が、頼むなら、頭など下げぬとも、受けてやるさ……
なんでお前は、そこまであの娘に、気をかけるんだ……
それは、ナギの娘だからか?
それとも、ネギだからか……?
……しかし、なんなんだ、この気持ちは。
奴を、ネギにとられるかと思ったら、一瞬目の前が真っ暗になった。
それゆえ、ムキになってしまった……
なんなんだ、この気持ちは……
彼女はまだ、その気持ちがなんなのか、完全に把握出来ていなかった。
なぜかは、ナギが女性であるから。こう言えば、もうわかっていただけるだろう。この気持ちは、彼女が初めて持った気持ちなのだ。
いや、本当は最初からわかってはいるのかもしれない。だが、まだ、認める勇気がないだけなのかもしれない。
600年にもおよぶ孤独。そして、それまでに犯してしまったその悪に、彼女はその光を求める事にためらいと、恐怖を覚えたのかもしれない。
たった一人で生きてきた彼女が──他者を最も求めるその感情──それに気づいてしまった時、彼女は、最も恐れる、拒絶による孤独に戻る恐怖とも、向き合わねばならなくなるから。
それは今が、あまりに、心地よすぎるから。
それゆえ、彼女がそれをはっきりと認識するのは、もうしばらく、時がかかりそうである。
……とりあえず、テストはものすごく難しくしてやろう。
成功率はそうだな。一桁。いや、5パーセント以下くらいの難易度だ。
元々私は弟子をとる気はない。奴の頼みでしかたなく、テストをしてやるだけだ。
それに、これくらいクリアしてもらわねば、真祖の吸血鬼の弟子など務まらん。
奴の期待にも答えられないだろう。
そのテストに合格が出来たのなら、色々不服だが、最強に育ててやろう。
奴が私に任せたという事は、そういう事なのだろうからな。
そしてネギは、茶々丸に一撃を入れるという成功率3パーセント以下のテストは成功させた。
……やはり、あのナギの娘だな。
しかたがない。奴に頼まれた事でもある。その信頼を裏切ってはならないからな。
私がお前を、最強に育ててやるよ。
例えそれが、最強のライバルを作る事となっても。
彼女は、彼の信頼に答える事を、選んだ。
京都で彼女の信頼に、彼が答えたのと、同じように……
もっとも授業をするのは主に彼女のコピーで、彼女本体は彼の隣にいるが。
彼は、テストの結果を見て、ほっと胸をなでおろす。
大きな変化があるようには見えなかったから。
ちなみに、ネギの怪我は、『すぐ傷の治る絆創膏』で跡も残らず治りました。
───おまけ───
ネギの戦いのスタイル選択のところ。
その日はたまたま、エヴァ本体が授業していた。
「修学旅行での戦いから、お前の進むべき道は二つ考えられる。二者択一だ」
『魔法使い』
前衛をほぼ完全に従者に任せ、自らは後方で強力な術を放つ安定したスタイル。
『魔法剣士』
魔力を付与した肉体で自らも前に出て従者と共に戦い、速さを重視した術も使う変幻自在なスタイル。
「修行のためのとりあえずの分類だ。どちらも長所短所はある。小利口なお前は『魔法使い』タイプだと思うがな」
「……一ついいですか?」
「なんだ?」
「『サウザンドマスター』のスタイルは?」
「言うと思ったよ」
エヴァはふっと笑う。
「私やあの白髪のガキの戦いを見ればわかるように、強くなってくればこのわけ方はあまり関係なくなってくる」
「……」
ネギは、あの戦いの数々を、思い出す。
「が、あえて言うならば。奴のスタイルは『魔法剣士』。ついでに、もう一人の方も一緒だ。従者を必要としないほど強力なところまでふくめてな。私も時々血が繋がっているのかと思うほど、奴等はその出鱈目さが似ているよ」
「……」
「やっぱりって顔だな」
「えっ、いえ……」
「ま、ゆっくり考えるがいい……」
考えて考えて考え抜いて、そして、ウチにためこんで……
……そして、一人で、闇に、落ちて……
……
「……いや、やはり、やめだ。お前は、『魔法使い』タイプにしろ」
「え?」
「お前は、一人で溜めこむタイプだ。それは確かに私の弟子向き、『魔法剣士』向き、とは言える。だが、お前はその溜めこんだモノに押しつぶされ、自滅するのがオチだ」
そうだ。お前の本質は、光。お前が輝き、そして、他者も輝かす、光。
確かにお前は、守る者がいて、それを守る時、もっとも力を発揮するだろう。だが、『魔法剣士』ならば、お前はその守る者の重さに押しつぶされるだろう。
逆に。光を仲間と補いあい、高めあえば、さらなる高みへと進めるはずだ。
人間とは本来、一人で戦うものではないのだから。お前には、ソレの出来る才能がある。多くの仲間を集め、人を惹きつけ、その力を最大限に発揮し、発揮させるという才能が。守り、守られるという才能が。
それに、一人は、やはり、辛いから……
お前は、私と同じ道を歩む必要はない。お前は、私達とは違う道で、最強になるべきだ。
闇しか選べなかった、私と、違って……
「その点『魔法使い』は役柄パートナーと様々なモノを分かち合う。だから、お前は、お前の仲間と共に……はっ」
全員の視線が、エヴァンジェリンに集まっていた。
しまった。うっかり言わなくてもいい事を言ってしまった!
「あ、いや。決めるのはあくまでお前だ。こ、これは参考程度に聞いておけ。近衛木乃香。話がある。こっちへ来い!」
近衛木乃香をつれ、エヴァンジェリンは階段を降りていった。
「エヴァちゃんはやさしいな~」
「ふん」
彼との関わりゆえか、エヴァンジェリンは思わず、そんな事を口走っていた。
それだけ、エヴァンジェリンは、ネギの事を気に入っていると言ってもいい(彼とのあの感情は別にして)
そういう意味でも、ネギの本質は、光なのだろう。
だがこれは、彼の知る原作にはなかった言葉。彼の知る本来のエヴァンジェリンならば。彼と出会わなかった彼女ならば、そもそもそんな事も思わなかっただろう。
それが、どう効果するのかは、今は誰にもわからない。
その言葉を聞いたネギは、その後、丁度喧嘩していたアスナと仲直りしようとするが、結局原作と同じく風呂に入っていた明日菜を呼び出し失敗。同じようによりこじらせる事となったのだった。
─あとがき─
ネギ、弟子入りをするの巻。
弟子入りというより、その後の騒動のが重要かもですが。
エヴァ気持ちに気づく第1段階に突入。
あそこまで想いにあふれてて自分で気づいてないんかい!? とか思われそうですが、あえて無視している可能性のが高いです。
600年分の孤独は刹那と違ってそう簡単に溶けはしないって事でしょう。
まあ、しばらくしたら気づくので、もうしばらく理解できない気持ちにモンモンする彼女をお楽しみください。
それと、彼の知らないところで、ちょっとずつ、彼の知る展開との齟齬が発生し始めました。
まあ、エヴァといつも一緒にいるんですから、影響が出ない方がおかしいわけですが。
これが、どのような結果をもたらすのでしょう?
次回は海に行きます。
サービス回? さあ?
ネギ弟子テストの件とか図書館島地下の件とかは気が向いたら番外編や別ルートで補完します。
あとエドと携帯買いに行った話とかも。
ネギルートがあったりした場合、師匠にしてほしいと頼まれたり、あの責任の話はもっと、彼が逃げられない致命的な場面で切り出されたりするのかもしれません(もしくは責任の話を盾に師匠にさせられたりとか)
たぶん。
今回はエヴァルートなので、さくっとバレ&誤解解消されてしまいました。ここだとネギは彼に『憧れ』以上の感情は持たない……のかな?