初出 2009/03/27 以後修正
─第11話─
ついに修学旅行編もクライマックス!
──────
ふー。どうやら、修学旅行も無事に終わりそうです。
初日。お嬢様の温泉での誘拐未遂のところにいたが、完全背景だったので問題なし。
二日目。ネギの唇争奪戦に巻きこまれたが、速攻棄権し、予定は狂うことなく本屋ちゃんの仮契約も成功。問題なし。
そしてなにより、関西呪術協会の奴等とは一切接触していない。
初日俺が背景に少し関わったくらいじゃ結果は変わっていないようだった。
ならば、幼女の時のようなイレギュラーは発生していないはず! 敵が警戒するとか、戦力を増強させているとかはないはずだ! よって、問題なし!!
今日さえ俺が干渉しなければ、きっと原作と同じ流れのまま進むだろう。
幼女の時みたいにネギ敗北とかなる事もないだろう。
あとは夜幼女があのでっかい鬼を倒しに行けばいいだけ。
たしか、リョウメンノスクナだっけ? いや、リョウメンスクナ? スクナでいいや。
それを倒して、お嬢様が本部を回復させて、めでたしめでたし。と。
そこに俺が絡む余地はまったくない!
だが、ここ初日二日目を見ていると、俺がほいほい外に出るのは危険だ。非常に危険だ。
もう「俺が歩けば原作に当たる」というような格言が出来そうなくらい危険だ。
日程の2/2で原作イベント遭遇。しかも二度ある事は三度あるということわざがあるから、部屋の外に出るだけで危ない。
よって俺は、今日はこの宿の部屋に引きこもる事を決断した!
『病気になる薬~』
ぺけててってて~。
未来の世界の子供たちがお医者さんごっこに使う薬で、これを飲むと偽の病気となり、顔が真っ赤になって熱が出たり、顔が青くなって体温が氷のように冷たくなったりする。本人の気分はなんともなく、水を飲めば元に戻る。
これを使って、本日の観光はお休みするのだー!
か、完璧だ。今日ほど俺がネギ達の邪魔をしない完璧なプランはないぜ。
俺が歩かなければ原作に当たらない!
これで、ネギ達の、邪魔をする事は、絶対に、ない!!
ベッドの中で、ひょいっと服用する。
「……顔が赤いな」
服用して上を向いたら中身幼女が目の前にいた。
おいおい。なんで俺のベッドを覗きこむようにしてんだよ。恥ずかしいじゃないか。
顔が赤いのは薬の効果のせいだが。
……あ。
幼女を見て気づく。
しまった!
幼女が一人で観光に行くという可能性を失念していた!
本来なら他に人がいるから問題ないはずだが、今は俺と幼女のみ。
だとすると、他の班に入れられて回る可能性がある。しかも、ネギ達を避けていないコースで。
こいつも俺と同じイレギュラー。
俺よりむしろこいつが乱入する方がもっとまずいだろ!
や、やばい。だが、もう薬を服用してしまった。
これは、しかたがない!
俺を置いて部屋を出ようとする幼女のすそをつかむ。
「……いて、もらえないか?」
こうなったら悪いが、俺を看病してもらって、一緒にここで時間をつぶしてもらおう。
悪いな。明日、『サウザンドマスター』の住居に行けるから。
今日は我慢してくれ。
「……し、仕方ないな。盛大に感謝しろよ!」
「ありがとな」
「っ!」
俺の手を払いのけ、ドアの方へ走っていってしまった。
げっ、まさかあれか? イエスと言っておいて実はノーという極悪なプレイなのか!?
「た、担任に伝えてきてやる! 看病してやるから起き上がるな! 大人しく寝ていろ」
「あ、はい」
体を起そうとした瞬間、そう言われ、俺は安心してベッドに戻った。
ふ~。これで安心だZE!
───エヴァンジェリン───
修学旅行三日目。
今日から京都におけるナギの住居探しの本番だ。
幸いと言ってはなんだが、他の班員もいない事だし、自由行動すべてを住居探しに当ててしまっても問題はないだろう。
私の行きたいところは昨日行ってしまったからな。
どうせ奴は文句を言いながらもついてくるはずだ。
なにせ奴は、私の下僕候補1号だからな!
などと考え、奴が起きる前に着替えを済ませたのだが、奴の様子がおかしい事に気づいた(ちなみに着替えは部屋風呂の脱衣所でしている)
「おい」
「んっ……」
奴のベッドを覗きこむと、その奴は、息が荒く、顔も赤かった。
明らかに、体調を崩している。
見た限り、風邪だろう。
私も魔力を封じられていた時は花粉症などにかかった事もあるからな。この程度ならわかる。
こいつも、風邪くらいは引くのだな。
……そういえば、一昨日は風呂でのぼせたのか、そのままロビーで放置され、昨日は私が遅くまで説教していたな。
しかも、ここは疲労も溜まる旅先。
ならば、体調を崩しても、ある意味不思議ではない。
一般人なら。の話だが、そんなところまで一般人を擬態しなくてもいいだろうに。
「……顔が赤いな」
大丈夫か? そう声をかけたつもりだが、出た言葉は見下した声。
まったく私は。こんな時くらい優しい言葉もかけてやれないのか。
私の声に気づいたのか、奴がこちらを見た。
熱によって上気したほお。
艶っぽく濡れた唇。
潤んだ瞳。
荒い吐息。
……少し、色っぽいとか思ったが、気のせいだ。
目の前に私がいる事に認識しているのか、いないのか、それもよくわからない。
視線を虚空にさまよわせている。
これは重症だな。
しかたがないな。担任に言って、薬と、今日の観光は無理だと伝えてくるか。
そう思い、私が立ち上がろうとすると。
熱で真っ赤になった奴が、私の服のすそをつかみ……
「いて、もらえないか?」
……そう言った。
どきっ。
思わず、心臓が高鳴る。
いつも、堂々とし、私にも一歩も引かない強気の男。
それが、今、私にだけ見せた、弱さ。
いて欲しいなど、言うような奴には思えなかった。
こいつもナギと同じで、ひょうひょうと、一人でどこまでも歩いてゆく奴だと思っていた。
その奴が、熱にうなされたとはいえ、そんな姿を、私に見せたのだ。
しかも、「ありがとう」と言われてしまった。
……
ま、まったく、しかたがないな。
看病くらいしてやるろう。
こいつに恩を売っておいてもまったく損はないからな。
感謝しろよ。この私。真祖の吸血鬼に看病された者など、今まで一人もいないのだから。
特別に、ナギの住居を探しに行くのは、後に回してやろう。
私の予定を崩したのだから、貸し一つだな。そうだ。貴様にちょっかいをかけないというのを無効にしてもらうか。
これはいい考えだな。
うん。私に迷惑をかけたのだ。これくらいでなくてはな。
うん。
──────
無事、今日はこの旅館で中身幼女と観光はお休みとなりました。
幼女が担任に報告と、薬を貰ってきてくれました。
医者にかかるか? と言われたけど、今日一日寝ていれば夜には良くなるので、明日まで寝て駄目だったらかかる。とやんわり断った。
風邪と診断されるのが目に見えてるからね。
「……お前でも、風邪をひく事もあるんだな」
薬を持ってきた中身幼女が、バカにしてきました。
はっ、安心しろよ。実際風邪なんてひいてねーから間違いじゃないんだぜ!
「修学旅行だから、少しはしゃぎすぎたみたいだな。まあ、今日の夜までには治るよ」
「そうか。……というか、お前ならばこの程度の病。あっさりと治せるんじゃないか?」
「命の危険もないのに、なんでも超常の力に頼ってたら堕落するばかりだからな。このくらいならのんびりと治すくらいがいいのさ」
実際には水を飲むだけで治っちまうからなぁ!
ソレっぽい事言って誤魔化すしかないのさ!
「ふん」
悪いな。愛しのナギ住居を探しにいけなくてよ。
まあ、明日には行けるから気にすんな!
「おい」
しばらくして、声をかけられました。
……あれ?
なんでお前幼女の姿に戻ってんの?
「お前、その姿になっちゃ駄目じゃん」
「気にするな」
そう言いながら、幼女が俺のオデコに手をのせる。
あ、ひんやりつめてー。
これ、ホントに熱がなくても気持ちいいわ~。
あー。そういや、昨日正座で説教されていたから、寝不足だったっけ。
丁度いいや。このまま、二度寝するべかー。
「すー」
───エヴァンジェリン───
……寝たか。
熱でつらいくせに無茶をするな。
私も、ひどい風邪のつらさ位は、理解している。
思わず、元の姿に戻り、この手で奴の熱を奪ってしまった(魔術的処置だ。悪化を促すとか勘違いするなよ。氷嚢と同じようなものだ)
人としての温もりまで、一時的に戻ったのを、感じる。
……力にばかり頼っていると、堕落する。か。
だからお前は、普段から一般人とかわらない生活を続けているのか?
こいつが、徹底して一般人を装う気持ちは、私にはよくわかる。
大きすぎる力。人と違いすぎる力は、悪意しか呼びこまないからだ。
この男は、自らの平穏を乱す敵には容赦はないが、敵とみなさないものには、優しすぎるきらいがある。昨日見せた、修学旅行を休んだ班員への配慮などがそうだ。
それゆえ、周囲を守るためにも、擬態を徹底して行っているのだろう……
あの、桜咲刹那に言った、「変身は、身近な者を守るためにする」この言葉のように。
こいつにとって、その『一般人』の仮面は、まさにその変身そのものだ。
それなのに、私という平穏を乱す可能性のある異物が、傍らにいる。
本当に平穏を望むのならば、私を追い出すのが筋だ。
こいつが本気になれば、それも簡単だろう。
それなのに、こいつは、それをしない。
私は、お前の敵でしかないはずなのに……
なぜ、私を傍に置いたままにするの?
なぜ、エドの正体を知っても、普通の友達と同じようにつきあえるの?
なぜ?
なぜ?
なぜ?
こいつといると、吸血鬼として当然だと思っていた事が、次々と剥がれ落ちてゆく。
だが、それも悪くないと感じる、自分がいた。
今、彼女にとって、この日々はとても新鮮で、かけがえのないものだった。
この日々は、ただ、普通の日々を過ごすという事。
『サウザンドマスター』が、彼女にしてみるがいいと、言った事。
だが、呪いという枷のせいで、逆に実現しきれていなかった事。
しかし、普通の日々を体験した事のない彼女にとって、それがなんなのか、まだ理解できていなかった。
それゆえ彼女も、悪意を呼び寄せると知りつつも、彼の傍を、離れられないのだ。
そして、彼女もまた、気づかない。
彼が追い出さないのもまた、彼が、彼女を、すでに敵とみなしていないのだという事に。
なぜ、私は、こいつの事が、こんなにも気になるのだろう……?
「ふん」
私の目の前でぐーすか寝おって。
寝首をかかれても知らんぞ。
本当にバカな奴だ。
そう思いつつ、奴の顔をつつく。
つついていると、私の指が、奴の唇に触れた。
ふっ。
奴の息が、私の指に触れる。
「っ」
まるで、指が熱を持ったように、熱く感じた。
「……」
その熱が、指を伝わり、そのまま、頬へ、頭へと移り、私の脳を、焼く。
「……」
そのまま私は……
「……」
奴に、引き寄せられるよう、自分の唇を近づける……
とくん。とくん。とくん。
自分の鼓動だけが、とても大きく響く……
とくん。とくん。とくん……
私の唇が、奴の……
とくん。とくん。とくん……
唇に……
こんこん。
「マグダエルくーん。いるかしらー?」
担任の声が、響いた。
「ひゃぁぁぁあ!!?」
思いっきり飛び跳ねた。
ちょっ!? ま、まぁっ!?
「ど、どうしたの!?」
担任がドアを開けようとしている。
ま、まずい。今エドの姿ではない。この姿はさすがに見つかるのもまずい。
変身。ああ、間違えた! 違う。これでもない!
あせあせ。
───担任───
はい皆さんはじめまして。彼等の担任です。
今から他の子達の引率のために旅館から出なければならないんですが、『彼』の方を一応見ておこうかと思い、部屋にやってきました。
マグダエル君が『彼』を看病すると言ってきましたが、生徒だけに看病させるのも問題かと思って。
それに、『彼』の悪い噂。私は今年からこのクラスの担任となったので、『彼』の『事情』は聞いているけれど、その『過去』は完全に把握していない。なので、彼の悪い噂が本当なのか嘘なのかは完全に判断できない(だから最初職員室に呼んだ)
授業態度などは非常に良好で真面目。そんな噂があるとは思えないのだけど、念のためにね。
でも、ノックしたら、中から少女の悲鳴が聞こえた。
何事!?
「大丈夫!?」
私が入ってみると、大慌てしているエド君と、ぐっすり寝ている彼がいた。
あれー? 少女はー?
なんでマグダエル君の服が少し乱れてそんなにあわててるのー?
見た限り、人の隠れられるスペースや怪しい場所もないわよねー?
ひょっとしてさっきのかわいい声、あなたが出したのー?
「な、なんのようだ!」
「い、いえ、私も一度外へ出なくちゃならないからね。マグダエル君にそれを伝えておこうと思って」
とんでもない剣幕だったので、一体なにがあったの? とは聞けなかった。
「でもいいの? 他の班に入って観光してきてもいいのよ?」
そう。これも聞かなければならなかった事。
なんなら先生が看病するし。
「ふん。こいつのいない班と一緒にまわるつもりはない!」
わぉ。
「そう。なら、彼の看病お願いね」
「当然だ」
ものすごい勢いで扉を閉められた。
どうやら、彼の事はマグダエル君に任せておけばよいようだ。
「やっぱりあの二人転校当初から怪しいとは思ったけど、やっぱり。腐腐腐腐腐腐腐」
タイミング的にマグダエル君が。アレしてコレしようとして。こいつはすまんかった。
教師としてはアレだが、このくらいの趣味はいいだろう。
これは漫研員の一人であるパルちゃんにも教えてあげた方がいいわよね。
腐腐。腐腐腐腐腐腐。
先生、心の中では応援するわよー。
──────
一方その頃。
ネギ一向は無限回廊に閉じこめられ、関西呪術協会の刺客と戦っていた。
「俺は、女は殴らんのや!」
「僕女ですけど!?」
「お前みたいな、ズボンはいとる奴が女なわけあらへん!」
「えぇー!?」
こんなかわいい子が女の子のはずがない。
それと同じくらい理不尽な理論であった。
──────
昼になった。
なにやら、いいにおいがして、目が覚めた。
「ああ。丁度良く目が覚めたな」
そこには、お粥を入れた土鍋を持った幼女が立っていた。
ひょっとしてお前ずっと幼女の姿のままだったのか?
「粥を作ってきた。感謝しろよ」
「……え? 作ってきたってまさか?」
そのまさかだった。
宿の従業員に頼んで厨房を借りたのだそうだ。
「……ちゃんと頼んだのか?」
「当たり前だ」
催眠術的に。
「全然お願いしてねーじゃねえか」
「いいから食え!」
「えー」
だってどう考えてもアレな料理しか考えられないじゃーん。
「わがままな奴だ。しかたがないな。ほれ、口をあけろ」
幼女にあーん強要されたぁ!
なんたる屈辱。
「どうした? ほら、口をひらけ」
うわ、なんか面白そうに笑ってやがる。
「このやろう」
「なんなら流しこんでもいいぞ?」
「病人にも容赦ないなお前!」
「強引に流しこまれるか、口を開くかだ。どうする?」
「俺が自分で食べるというのは?」
「ない」
即答でした。
「へいへい。あーん」
「あ、あーん」
おい、なんでそっちが少し恥ずかしそうにする。
「……はぐ」
「ど、どうだ……?」
「……意外に。美味しいじゃないか」
「意外にとは、貴様今舌も麻痺しているようだな」
おい、だからって連続で俺の口に運んでくるな。熱い。熱い。熱い。
「火傷するだろーが!」
カウンター気味にチョップを一発かましておいた。
「い、いたいじゃないか……」
「障壁があるくせに嘘つくな」
「き、貴様の前では障壁は展開していないんだ。気をつけろ!」
「はぁ?」
意味がわかりません。
「うるさい! いいから食え!」
「はいはい、あーん」
素直に口を開いたら、またすごい勢いで詰めこまれました。
「あむぅ、熱い! 熱いつーの!」
結局全部食べさせてもらいました。
……これ、仮病とかわかったら、たぶん俺殺されるな。
ちなみに粥は水をふくんでいるので、『薬』の効果が一度切れるが、もう一回風邪薬と見せかけて『薬』を飲んだので問題ないさ!
───エヴァンジェリン───
……もう昼か。奴を見ていただけなのに、時間がたつのは早いな。
昼。し、しかたがないな。病人のために、粥くらいは作ってやろう。
本当に、しかたがないな。
私は厨房を借り、病人のため仕方がなく、粥を作った。
粥を持っていくと、丁度奴も目を覚ましたところだった。
私が作ったものだと教えたら、少し引いていた。
失礼な。私が作ったのだ。まずいはずがあるわけあるまい。
2、3失敗したがな。
厨房の床にコックが数人倒れているがな(ちなみにエヴァが粥を作るのは当然初めて。教えたのは彼等。コックに拍手を!)
「いいから食え!」
「えー」
だからこれは大丈夫だ。味見もした。
病人のために体のいいものもちゃんと入っている。
食え!
それでも嫌というならば、しかたがない。
「わがままな奴だ。しかたがないな。ほれ、口をあけろ」
最終手段だ。
き、貴様が悪いんだぞ。
素直に食わんから!
「どうした? ほら、口をひらけ」
さすがにお前も、これは恥ずかしいようだな。
ふふふふふ。私の加虐心に少し火がついてしまうではないか。
もう貴様に拒否は許されんのだ。
「へいへい。あーん」
観念した奴は、口を開いた。
そうそう。素直が一番だ。
「あ、あーん」
……だ、だが、この行為、思ったよりも、恥ずかしいな!
「……はぐ」
「ど、どうだ……?」
「……意外に。美味しいじゃないか」
「意外にとは、貴様今舌も麻痺しているようだな」
お、美味しいだと?
まさか貴様が、素直にそんな事を言うとは思いもよらなかったぞ!
そうか。美味しいか。美味しいか!
そのまま、スプーンを何度も奴の口へと運ぶ。
「火傷するだろーが!」
あ、すまない。つい……
うれし……いわけじゃないからな! 貴様が熱がるのを見たかったからだ!
まったく。チョップなどかましおって。
障壁を張っていると貴様の体温や匂いが感じられない事を逆手に取るとは、貴様策士だな。
すべては貴様が悪いのだ。
「はぁ?」
「うるさい! いいから食え!」
「はいはい。あーん」
ちっ、こいつもう慣れたのか。
私の方は、まだ慣れないというのに……
「ご馳走様でした」
「うむ」
「そしてこの屈辱は忘れない。次お前が寝こんだら同じ事をしてやる」
「ぶっ! な、なにを言っているんだ!」
本当に、貴様はいきなりなにを言い出す!
「はっ、愚か者め。魔力が戻った私はもう風邪などひかぬわ」
「げ。そうだったか。それは盲点だった」
……この時ほど、魔力が戻ってしまった事を悔やんだ事はない。
別に深い意味はないがな!
──────
一方その頃桜咲刹那はせっちゃんシネマ村大活劇の巻。をしていた。
あとネギはちゃんと勝利&脱出し、一時休憩中。
──────
飯を食べた後、さらに3度寝。
目を覚ましてみると、俺の腕を枕にして、幼女が同じベッドに寝てました。
シィット。腕の感覚がねーぜ。
やってくれましたね。俺が病人だからって容赦したりはしませんか。
ったく。こんな狭いトコで寝るな。オデコに肉とか書いたろか。
「ん……んん……」
寝返りをうって外側を向いていたのが俺の方を向いてくる。
そのまま、俺の胸に顔をうずめはじめた。
それはまるで、子供が親の温もりを求めるように……
あー、そういや友達の娘(3歳)もこんな感じだったな。集まった時日向で昼寝していると、いつの間にか腹の上で寝てるとか。
子供のそういう無邪気なかわいさはいいよね。思わず守りたくなる。特に赤子の愛らしさは異常。
そんな事を思い出したせいか。俺は思わず、感覚のなくなった手を気合で動かして、幼女の頭をなでた。
……キレーな髪してんな。
「……ったく。ホント、こうして寝ている分にはただの幼女なのにな」
そしてそのまままた眠くなったので、4度寝へと洒落こむ事にしたのであった。
これだけ眠いって事は、俺、ホント疲れてたんだなぁ。
実はマジで風邪ひいてたりして。まさかなー。
───エヴァンジェリン───
昼食も終わり、土鍋を厨房へ戻して戻ってみると、また奴は寝ていた。
病人は寝る事が仕事だ。
しっかり寝て、しっかり治せばいい。
「……」
奴の寝顔を見る。
「ふあ……」
そうしたら、私も少しだけ、眠くなってきた……
弱点は克服しているが、やはり昼は眠くなるな。なにもしていないと特にだ(──食後だから吸血鬼とかあんまり関係ない気もするけどネ。ばい天の声)
「……」
目の前に、ベッドがある。
だが、私のベッドには今寝具がない。
ふと、思いついた。
奴は、寝ている。別に、自分が仮眠をとるわけではない。少し、休むだけだ。
奴が目を覚ます前に、抜け出してしまえばいいのだ。
うむ。これはまさに、パーフェクトプラン!
もぞもぞと、奴のベッドへともぐりこむ。
……暖かい。
熱があるから、少し暑い。かもしれんが。
だが、この暖かさは、とても、心地よい……
彼の温もり……彼の、におい……
……なぜだろう……
ナギと一緒にいた時よりも、安心する……
「……すー」
……はっ!
い、いかん。思わず寝てしまった!
周囲を見回す。
どうやら、奴はまだ寝ているようだ。
あ、危なかった。
もし、奴が先に目を覚ましていたら、もう、恥ずかしさで死んでいたところだ。
危なかった。本当に、危なかった。
さ、今のうちに脱出を……
がし。
……あれ?
頭が、なにかにしっかりと、つかまれている。
体には、腕らしきものがまわされている。
ちょっ、こらあぁぁぁぁぁぁ! 私の事を抱き枕の替わりにしているんじゃなーい!!
いや、私も抱きついていたが!
おまっ、このままお前が目を覚ましたら大変な事になるだろうが! 主に私の羞恥心的に!
今でもすでにマックスハートだというのに!
力でひきは……いや駄目だ。起きる!
このままだと私は、ある意味一生こいつに頭が上がらなくなる!
「なんだ? さびしかったのかさすがお子様」
なんてこいつに、もう一生バカにされるに違いない!
私の人生最大のピンチだ!
放せ! はなせー!!
奴が目覚めそうになったところで、コウモリ変身で脱出すればいいと気づいた。
本当に、危なかった……
……そういえば、担任が来た時も催眠術を使えばよかったのだな。
あの時もパニックを起して気づかなかった……
──────
そのころネギ一行は、無事関西呪術協会総本山に到着していた。
──────
夜になった。
よし。無事夜。予定通り進んでいれば、すでにネギ達一向は本部に到着している。これでもう、俺が病気でいる理由はない。
よって水を飲んで、復活!
「なんだ。もう平気なのか?」
もうばっちりさ幼女!
ただ、一個疑問なんだが、目を覚ました時、なぜか幼女がものすごく荒い息でいたのだが、なにがあったんだ?
「なんでもない! 全然なんでもない!!」
念のため熱を測ろうとデコに触れようとしたら逃げられた。
病気をしないはずのこいつでも、あの『薬』を誤って飲んだりしたら外見上は病気に見えるから気になったのだが、そもそも『薬』はポケットの中だった。昼の時しまい忘れたのかと思ったけど、違ったし。
おかしいな。じゃあなんでだ?
その後夕飯も風呂も済ませ、二人でインディアンポーカーをしていた時、それは起こった。
600歳のクセにこういうのあんまり強くないのな。
ちなみに風呂は部屋風呂で済ませた。温泉入りたかったけど外出てカンフー娘&忍者に捕まったら洒落にならんから。その際幼女に「風呂、覗くなよ」と言ったらぶん殴られた。冗談なのにそこまですっことねーべ。
「……どうやら、呪術協会本山が壊滅したようだな」
「ん?」
「じじいが電話を受け、そう言っている」
そういえばこの幼女、コピーとリンクしてむこうの事も把握できてるんだっけ。便利やなあ。
どうでもいいけど、誰が入ってくるかわからんから幼女のままでいるのやめれ。
看病したから貸し一つで約束なしとかなんやねん。
「ああ。そうなんだ。てことは、大人が出てきたのかな」
「そのようだな」
どうやら、ちゃんと俺の知っている通りの展開になっているようだ。
今日観光を諦めた価値もあったというもの。
あとは、幼女が救援に行って、終わりと。
「んで、学園長はどうするって?」
「私にネギを救出しに行って欲しいと言ってきたな」
「なら安心だ」
「ああ。これはいい機会だ。ふふふふふふ」
「みょーに嬉しそうだな」
修学旅行に行けるというのは、すでにかなっているのに。
「当然だ。これで私は、この呪いとも完全にオサラバ出来る」
「……は?」
ぱーどん?
なに言っとりまんねん?
「言っている意味がわからんか? 今回の事で、呪いが一時的に私から離れる。つまり、その後呪いをコピーに誘導し、私と完全に切り離してしまえば、呪いはコピーに残り、私は完全に解放されるというわけだ!」
つまり、ここで一度切れる呪いのリンクを、『コピー』の方に繋ぎ直させるのね。それで、『コピー』とのリンクを切り、自分ははれて自由の身。と。
「まじ?」
「マジだ」
ちょっ、マジか!?
『コピーロボット』をあげた影響がこんなトンでもないとこに!?
「わははははは。ついに、ついにこの時が来た! この時が来たぞー!」
幼女が立ち上がり、両手を天へ掲げると、幼女から、光があふれ出した。
「ふははははは、ははははははははははー」
うわ、やべー。でもネギ救出行ってもらわないとならないから止められねえぇぇぇぇぇ!
どうする!? どーすりゃいいのー!?
PON☆
そんな軽い音と煙があがった。
「へ?」
そこにいたのは、どこか人形チックに、二頭身になった、幼女だった。
とってもチャチャゼロ風味。
「わははははは。わはははははははは。は、は?」
高笑いをあげていた幼女も自分の姿に気づいた。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「それは俺の台詞じゃあぁぁぁぁぁ!!!」
「……どうやら、コピーの方と混線してしまったようですね」
「ほわっ!?」
突然茶々丸さんの声がして、驚いた。
声は、SD幼女からしている。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」
まだ叫んでいる幼女の体から。
「……どゆこと?」
「現在、マスターの本体が学園の方にあり、マスターの意識のみが、そちらに残っています」
「つまり、コピーの体がこっちに来て、本体はあっちに行っちゃったわけ?」
「はい。状況から見て、呪いをだました瞬間に、マスターがさらに刺激を与えた結果、本体の方へ呪いがまた戻り、登校地獄の力で、学園に引き戻された。という可能性が考えられます」
んで、中途半端に呪い解除も成功して、精神は開放。それにより、残ったコピーの体が魔術的つながりのあった精神に引きずられ、こっちに来てしまった。と。
茶々丸の声が聞こえるのは、幼女の体が『コピーロボット』だから。だからこうやって他の音声出力が出来てるってワケね。電話みたいに(茶々丸が学園で実際しゃべってるかは不明だが)
そんな事も出来るのか。すげえなハイテクロボズ。
ちなみに学園にいる本体インコピーは気絶(仮死)状態だそうだ。SD幼女を見ればわかるが、『コピー』状態になっていない。つまり、一度機能が解除されたのだろう。
混ぜるな危険。
そんな言葉が、俺の頭に浮かんだ。
「これ、元に戻すには?」
「学園へ戻り、もう一度マスターが再び『コピー』への呪い転化を行えばよいかと思われます」
ちなみに本体の指でコピー(SD幼女)の鼻を押して起動。『コピー』の体で儀式。成功すれば『コピー』に呪いが発動し、正常化(エド現状に戻る)。そうすれば本体精神が押し出され、本体に精神が戻る。こんな流れ。
「……それ、今日中に出来る?」
「こちらにマスターを連れて来ていただければ、今日中も可能ですが、現状を打開するには間に合いません」
「ですよねー」
そもそもエド状態に戻しただけじゃ全力出せねーじゃん。この質問前提からして無意味だった。パニクってんな俺。
とりあえず、ため息ついて、ひと呼吸。
「えーっと、エヴァさん? いけますか?」
思わずちょっと優しく声をかけてしまった。
「無理に決まっているだろう! この体、『分身』ではなくただの人形の体だ!」
つまり動くSDキティ人形。
髪とかが生えているのは、魂部であるエヴァ本人の精神にあわせ、『コピーロボ』が変化しているせいだろう(外見のみ)
販売すれば大売れ間違いなし!!
じゃねぇ!
「じゃあどうすんだ!? このままじゃ鬼神が復活してネギ達全滅だぞ!」
「……こうなったら貴様が行け」
「……え゛?」
「大人が出てきたら貴様が出るのだろう!? そんな鬼神など、神話の龍を従える貴様なら、いくら病みあがりでも勝てるだろうが!」
シリアスな幼女の声。それが、どんな事態かを、物語っていた。
……
……ああ、そうきた、かー。
─あとがき─
みんなすまない。クライマックスと言ったが、次回に続く。嘘ついた。
ふと書きあがってみれば、エヴァといちゃついていただけだった。本当にすまない。
……なんて謝らないがなー!!
今回はスーパーエヴァンジェリンタイム。
二日間放置されていた分拡大1話のスペシャルタイムでお送りいたしました。
なんというか、彼等だけ見ると、普通に修学旅行しているなー。エヴァ、普通に修学旅行を楽しんでるなー。
とりあえず担任グッジョブ。キスミスは基本! 拍手をお願いいたします。
もういろんな意味で彼は死ねばいいと思うヨ。
責任もってエヴァンジェリンを泣かせばいいと思うヨ。
というわけで、次回ついに真クライマックススクナ戦。再び彼が表舞台に立ちます。