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No.6434の一覧
[0] とある竜のお話 改正版 FEオリ主転生 独自解釈 独自設定あり [マスク](2017/08/15 11:51)
[1] とある竜のお話 第一章 前編[マスク](2009/07/29 01:06)
[2] とある竜のお話 第一章 中篇[マスク](2009/03/12 23:30)
[3] とある竜のお話 第一章 後編[マスク](2009/03/12 23:36)
[4] とある竜のお話 第二章 前編[マスク](2009/03/27 07:51)
[5] とある竜のお話 第二章 中篇[マスク](2009/03/12 23:42)
[6] とある竜のお話 第二章 後編[マスク](2009/03/27 07:50)
[7] とある竜のお話 第三章 前編[マスク](2009/03/27 07:50)
[8] とある竜のお話 第三章 中編[マスク](2009/04/14 21:37)
[9] とある竜のお話 第三章 後編[マスク](2009/04/26 22:59)
[10] とある竜のお話 第四章 前編[マスク](2009/05/06 14:49)
[11] とある竜のお話 第四章 中篇[マスク](2009/05/16 23:15)
[12] とある竜のお話 第四章 後編[マスク](2009/05/26 23:39)
[13] とある竜のお話 第五章 前編[マスク](2009/07/05 01:37)
[14] とある竜のお話 第五章 中篇[マスク](2009/07/20 01:34)
[15] とある竜のお話 第五章 後編[マスク](2009/07/29 05:10)
[16] とある竜のお話 幕間 【門にて】[マスク](2009/09/09 19:01)
[17] とある竜のお話 幕間 【湖にて】[マスク](2009/10/13 23:02)
[18] とある竜のお話 第六章 1[マスク](2009/11/11 23:15)
[19] とある竜のお話 第六章 2[マスク](2009/12/30 20:57)
[20] とある竜のお話 第六章 3[マスク](2010/01/09 12:27)
[21] とある竜のお話 第七章 1[マスク](2010/03/18 18:34)
[22] とある竜のお話 第七章 2[マスク](2010/03/18 18:33)
[23] とある竜のお話 第七章 3[マスク](2010/03/27 10:40)
[24] とある竜のお話 第七章 4[マスク](2010/03/27 10:41)
[25] とある竜のお話 第八章 1[マスク](2010/05/05 00:13)
[26] とある竜のお話 第八章 2[マスク](2010/05/05 00:13)
[27] とある竜のお話 第八章 3 (第一部 完)[マスク](2010/05/21 00:29)
[28] とある竜のお話 第二部 一章 1 (実質9章)[マスク](2010/08/18 21:57)
[29] とある竜のお話 第二部 一章 2 (実質9章)[マスク](2010/08/21 19:09)
[30] とある竜のお話 第二部 一章 3 (実質9章)[マスク](2010/09/06 20:07)
[31] とある竜のお話 第二部 二章 1 (実質10章)[マスク](2010/10/04 21:11)
[32] とある竜のお話 第二部 二章 2 (実質10章)[マスク](2010/10/14 23:58)
[33] とある竜のお話 第二部 二章 3 (実質10章)[マスク](2010/11/06 23:30)
[34] とある竜のお話 第二部 三章 1 (実質11章)[マスク](2010/12/09 23:20)
[35] とある竜のお話 第二部 三章 2 (実質11章)[マスク](2010/12/18 21:12)
[36] とある竜のお話 第二部 三章 3 (実質11章)[マスク](2011/01/07 00:05)
[37] とある竜のお話 第二部 四章 1 (実質12章)[マスク](2011/02/13 23:09)
[38] とある竜のお話 第二部 四章 2 (実質12章)[マスク](2011/04/24 00:06)
[39] とある竜のお話 第二部 四章 3 (実質12章)[マスク](2011/06/21 22:51)
[40] とある竜のお話 第二部 五章 1 (実質13章)[マスク](2011/10/30 23:42)
[41] とある竜のお話 第二部 五章 2 (実質13章)[マスク](2011/12/12 21:53)
[42] とある竜のお話 第二部 五章 3 (実質13章)[マスク](2012/03/08 23:08)
[43] とある竜のお話 第二部 五章 4 (実質13章)[マスク](2012/09/03 23:54)
[44] とある竜のお話 第二部 五章 5 (実質13章)[マスク](2012/04/05 23:55)
[45] とある竜のお話 第二部 六章 1(実質14章)[マスク](2012/07/07 19:27)
[46] とある竜のお話 第二部 六章 2(実質14章)[マスク](2012/09/03 23:53)
[47] とある竜のお話 第二部 六章 3 (実質14章)[マスク](2012/11/02 23:23)
[48] とある竜のお話 第二部 六章 4 (実質14章)[マスク](2013/03/02 00:49)
[49] とある竜のお話 第二部 幕間 【草原の少女】[マスク](2013/05/27 01:06)
[50] とある竜のお話 第二部 幕 【とある少年のお話】[マスク](2013/05/27 01:51)
[51] とある竜のお話 異界 【IF 異伝その1】[マスク](2013/08/11 23:12)
[55] とある竜のお話 異界【IF 異伝その2】[マスク](2013/08/13 03:58)
[56] とある竜のお話 前日譚 一章 1 (実質15章)[マスク](2013/11/02 23:24)
[57] とある竜のお話 前日譚 一章 2 (実質15章)[マスク](2013/11/02 23:23)
[58] とある竜のお話 前日譚 一章 3 (実質15章)[マスク](2013/12/23 20:38)
[59] とある竜のお話 前日譚 二章 1 (実質16章)[マスク](2014/02/05 22:16)
[60] とある竜のお話 前日譚 二章 2 (実質16章)[マスク](2014/05/14 00:56)
[61] とある竜のお話 前日譚 二章 3 (実質16章)[マスク](2014/05/14 00:59)
[62] とある竜のお話 前日譚 三章 1 (実質17章)[マスク](2014/08/29 00:24)
[63] とある竜のお話 前日譚 三章 2 (実質17章)[マスク](2014/08/29 00:23)
[64] とある竜のお話 前日譚 三章 3 (実質17章)[マスク](2015/01/06 21:41)
[65] とある竜のお話 前日譚 三章 4 (実質17章)[マスク](2015/01/06 21:40)
[66] とある竜のお話 前日譚 三章 5 (実質17章)[マスク](2015/08/19 19:33)
[67] とある竜のお話 前日譚 三章 6 (実質17章)[マスク](2015/08/21 01:16)
[68] とある竜のお話 前日譚 三章 7 (実質17章)[マスク](2015/12/10 00:58)
[69] とある竜のお話 【幕間】 悠久の黄砂[マスク](2017/02/02 00:24)
[70] エレブ963[マスク](2017/02/11 22:07)
[71] エレブ963 その2[マスク](2017/03/10 21:08)
[72] エレブ963 その3[マスク](2017/08/15 11:50)
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[6434] とある竜のお話 第六章 1
Name: マスク◆e89a293b ID:6de79945 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/11 23:15

時間が経つのは早いものである。
特に一日一日を何かに夢中になり、楽しんで過ごすとそれが良く実感できるだろう。


一時間一時間を24回繰り返し一日が過ぎて、それを約30回繰り返し一月、そしてそれを12回繰り返せばあっという間に一年だ。



特に人より遥かに永い寿命を持った竜族は時間に対する感覚が人間とずれている者も少なくない。
竜にとっては鮮明に思い出せるつい、この間の出来事でも人にとっては何年も昔の事だったという事も多々ある。


だが、それも仕方ないだろう。根本的に寿命が―――生物としての生きる時間が違うのだから。こんな簡単な事、説明されれば子供でも分かる。



それでも。


その何処までも過酷で残酷な現実を分かっていても。
竜と歩む事を選択した身の程知らずだが勇気ある人間、短い時間だが人と歩む事を選択した優しい竜、と言うのはほんの数える程度だが確かに存在する。


そして、人の姿を取った竜との間には子供を作る事も可能だという。
両者の間に生まれた人でも竜でもない新たな種――それらは『竜人』と誰とも無く呼ばれ、それが正式な呼び名として何時の間にか浸透していた。


この種族を超えた愛の結晶に対する反応は竜、人問わず様々だった。強いて言えば竜は喜びと興味と嫌悪、人は畏怖と恐怖だ。全ての者がそうとは言い切れないが。



ナーガは直ちにこの『竜人』の生態――具体的には寿命や身体能力、エーギルの質や量の平均、竜化の可否
身体的特徴、その他、などを徹底的に調べ上げた。勿論、その子の両親には許可はとってある。人体実験などはやってはいない。半分は守るべき同族なのだ。


……裏を返せば半分は人間だが。


調査の結果分かったのは
寿命は竜の血の濃さや種類にもよるが大体が人の寿命の約数十倍から百倍程度――これは半分が竜の血の場合である。
しかし、中には人と全く同じ寿命の者もいた。個体差がとてつもなく激しいのだ。



更に『竜人』が人と交わって、孫やひ孫になれば血は薄くなり、寿命は更に短くなるだろうと竜の魔道師は予想した。
……最も、その孫やひ孫は今のところはほんの片手で数える程度しか存在していないので平均を出そうにも、確かめようがないのだが。


『竜人』が『竜人』と交わるケースも全くとは言わないが、本当に極僅かなため調べようがない。


人と同じ寿命の者についてはさっぱり分からない。俗に言う「お手上げ」状態だ。単に竜の永遠の寿命を受けつぐ確立があるのかもしれないという結果に取り敢えず落ち着いた。



エーギルについては親の竜の属性をある程度受け継ぐ事が分かった。しかも人としてのエーギルとは別にだ。
つまり、『竜人』は人と竜、二つのエーギルを持っていることになる。


竜化が出来るかどうかも寿命と同じく個体差がある。竜化出来る者と出来ない者に分かれた。
原因はまだ不明だ。これも単に確立の問題かもしれないし、そうでないかも知れない。


もしかしたら竜が元の姿に戻る時の、イデアも経験したあの独特の感覚が分からないだけかもしれない。事実、質問では戻れないほとんどの者がそう答えた。
そんな竜に成れない『竜人』も自らの血に宿る竜の力を固めて竜石を作り出すことは出来る。


竜石から力を引き出しても竜化こそ出来ないが、変わりに超人的な身体能力や魔力を手に入れる者が多い。
これも個人差こそあるが、ナーガの調査では大体そうだった。



何せ……こう言っては悪いが『竜人』はサンプルが少なすぎるのだ。平均が取れないので、それなりの人数を調べなければ分からない課題については謎が多いのも仕方ない。



しかし、人から見れば自分達と同じ姿こそしているが中身は全くの別物


―――むしろ人の姿をしながら人外の力を有する『竜人』は畏怖と恐怖とそして羨望の対象でしかない。
人の姿をして、その姿で竜の力が振るえるからこそ恐ろしさが倍増する。そして更にその親である竜への恐怖が増加する。


だから人は信仰というご機嫌取りを表向きは竜へ行うのだ。
どうかその力をこっちに向けないでください。どうかその力を私達を守るために使ってくださいと言いながら。


信仰を受け取る竜もその裏に隠された、いや、隠れてさえ居ないか。人の本心を見ながら信仰を受け取るのだ。今の関係を崩したくないから。
もっと単純に言ってしまえば嫌われたくないから。


だが、中には本心から竜を敬い理解し、共存を試みる人間も居るという事を忘れてはならない。そういった者も確かに居るのだ。


歪な関係の人と竜。その関係が完全に崩壊する日は決して遠くはないだろう。その時は恐らく――未だかつてない大規模な戦争が起きるだろう。
人という生き物は決して自分達を脅かす存在を許しはしないのだ。













そろそろ夏……かな? 


『殿』の自室のテラスからに出て部屋から運び出した木製の椅子に腰掛けて、
頂に万年雪を被った広大な山々の連なりを見ながら、涼やかな風を感じていたイデアはおぼろげにそう思った。
同時にこれがエレブに産まれて大体3か4回目の夏になるという事を思い出した。


しかして、イデアの外見は大体10歳前後。産まれた当時は4~5歳ほどの外見だったのを考えれば、驚異的なスピードで成長を続けているといえよう。
全ては竜族の成長を促進させる『殿』とただその場にいるだけで竜族全ての力を育む空間を形成する神竜の力の恩恵だ。


特にイドゥンとイデアは『殿』や最強の神竜であるナーガの力だけではなく、常に傍にいるため両者が両者の成長を促進させているのだ。当然の結果といえよう。


今の時間はおおよそ昼前。ナーガがそろそろ昼食を持ってくる筈だ。天辺に上った太陽が暖かい日光を届けてくれるお陰で風が吹いても大して寒くない。
エイナールの部屋で焼き菓子作りでも習ってる姉のイドゥンもそろそろ戻ってくるだろう。


本当はイデアも一緒に行きたかったのだが、残念な事に彼にはやりたい事があった。とても熱中できる事が。
物思いをやめたイデアがうーっと両腕をピーンとさせ背伸びをして、少々の休憩時間を終了させると、膝に置いておいた二冊の本の内一冊の古びた分厚い本を手に取る。


竜の文字で書かれた本の名前は【エルファイアーの魔道書】中級魔術の発動媒体だ。もう片方の本には【精霊との交信】と書いてある。
どっちも既に穴が空くほど何回も読みつくした物だ。


下級魔術をほぼ完全に覚えたイデアの今の悩みは思うように中級魔術が思うように使えないことなのだ。
正確には発動そのものは、させる事はできる。しかし、使いこなしているか? と、聞かれれば首を横に振らざるを得ない。


その事について授業の中でナーガに言われた対策と言えばたった一つだった。「経験を積み。失敗を重ねろ」だそうだ。
これ以上ないくらい分かりやすい対策だ。


だが、現に彼が言ったとおり一回一回練習し、失敗を重ね、それを乗り越える度に着実に会得に近づいているのがイデアには分かっていた。だからこそ止められない。
勿論、やりすぎで身体を壊したりしないように適度な休憩を挟んではいるが。そしてナーガが万が一に備えて監視してるだろうという事も知っている。


「よしっ!」


パチンと頬を叩いて渇を自分に入れると、【エルファイアーの魔道書】を開き、細く白い人差し指をバルコニーの柵のはるか先、広大に連なる山々へと向ける。
意識を集中させ魔道書に【エーギル】を注ぐと同時に書が注がれたエーギルの色である金色に輝きだし、【ファイアー】よりも強大な力を持った炎を形成し始める。



産み出された【エルファイアーの炎】が書からイデアの指元へと酸素を燃やしながら移動していく。しかしイデアは全くと言っていいほど熱を感じていない。
当然だ。自分の力で産み出した炎は完全に制御されている限り、術者を傷つけることなどない。


最も暴走したらその限りではないが。特に闇魔道などで術を暴走させてしまったら術者はもれなく世にも悲惨な眼にあうだろう。


指先に創った直径20センチメートル程の火球を見てイデアが満足げに口元に薄く微笑を浮かべる。以前よりも素早く火球を形成し、且つ威力の上昇も達成できたのだ。
だが直ぐに笑みを引っ込めて再度意識を研ぎ澄ませる。今回扱ってる力は昔ベッドの上で爆発させた【ファイアー】よりも遥かに巨大なのだ。
もしもあの時と同じように爆発などさせてしまったら指どころか、手が吹っ飛んでも可笑しくない。


最も今のイデアなら爆発する前に何処かに火球を飛ばしてしまうなりなんなり出来る程度の技術はあるのでそんな事は滅多に起きないが
だからといって真面目にやらない者に訪れるのはいつだって手痛いしっぺ返しだ。


すぅぅぅぅっと、息を吐き、次いで静かにゆったりと大きく息を吸い、そしてまた吐く。
これを何回か繰り返し、精神を落ち着かせてからイデアが指先の火球に渇を入れた。


火球が指先から弓矢のごとく飛び出す。
そのまま視界の彼方に存在する山の肌へと向かっていき数瞬後、草木一本生えてない荒れた肌を晒す山の中腹辺りで赤い小さな光が発生した。


恐らくは今光っているあの場所に着弾したのだろう。遅れて微かにだが、どぉーんという音と共に空気が振動してくる。


「ありゃぁ……ちょっと強すぎたかな?」


イデアが遠く離れた場所からでも分かる程の光を上げるそれを見て、額から冷や汗を流しながら呟く。
当初の彼の予想ではここまで強力な威力で放つつもりはなかったのだ。

もしもあそこに生き物がいたら、恐らくは無事ではすまないだろう。
まだまだ未熟な腕とはいえ、莫大なエーギルと魔力を持った神竜が本気で撃った中級魔術が直撃したら、並みの生き物はこっぱ微塵になること間違いない。


イデアが未だに少し煙を上げている指を顔の前に持ってきて、それにふっと息を吹きかけ煙を消す。
そして、もう一度遥か彼方の着弾点を見て、ぶるっと小さく身体を震わす。


「危なかったぁ…」

もしも暴走したらどうなるか考えてしまい、少しだけ怯える。


と。


パチパチ……。


イデアの後方から手と手を叩き合わせる独特の音、拍手の乾いた音が響いた。
イデアが振り返る。


「お見事ですイデア様」


そこに居たのは口元に人を和ませ安心させる柔らかな微笑を浮かべた、蒼い長髪と紅い眼をした氷竜エイナールと、その隣にもう一人。
イデアにとってエレブで生きていく上で絶対に居なくてはならない人物。彼の半身と言っても過言ではない存在。


「凄かったよイデア」



無邪気な笑みを浮かべてイデアの魔術を称えたのは彼の姉。数少ない純粋な神竜のイドゥンだ。


その容貌は数年という時間を経て、成長し、美しく、可憐になっていた。
上質な絹のようだった紫銀色の髪は質はそのままに腰まで伸びており、リボンの様な純白の布で纏められており
同じく胸の辺りまで伸びたもみあげも、激しく動いても大丈夫な様に布で纏められている。



何処か気品漂う、だが未だ幼さが残る顔には徐々に可憐さとは別に大人の美しさが開花し始めていた。
その身体は女性特有の男性には無い丸みと服の上からでも分かる柔らかさを身につけ始めている。


10歳前後の外見でこの美しさならば、成人したらきっと誰も勝てないだろうなと、一番近くでその成長を見ていたイデアは思っていた。


最も双子の弟であるイデアもそれに負けず劣らずはあるのだが、自分の外見にあまり興味を持っていない当の本人はそのことには気がついていない。
まぁ、仮に気がついたとして特に何も変わらないのだが。


イドゥンの言葉にイデア魔道書を椅子の上に置き頭を掻いて、はにかみながら答えた


「ありがと姉さん。これからも頑張るよ」


素直に褒められるのが嬉ばしく、だがやっぱり恥ずかしいため何とも言えない表情をイデアは浮かべた。


“トントン”


不意に木製の扉を誰かがノックした。
いや「誰か」と言うのは間違いだろう。何故なら既に三人とも誰が訪ねて来たかは知っているからだ。


青い澄み切った空を見れば太陽が先ほどよりも更に高く昇っていた。俗に言う正午である。昼食の時間だ。
そしてこの時間にこの部屋を決まって訪れるのはナーガしかいない。


「では。私はこれで失礼します」


エイナールが深く一礼し、背から水色の光の翼を展開させて自室に戻っていく。


「またねー!」

イドゥンが手を振りながらそれを見送る。イデアも喋りこそしないが、片手を揺らしてそれを見送る。


「……? 姉さん、それは何?」


ふと、イデアが、姉がもう片方の手にバスケットを持っているのに気がついた。ついでにそれからとても甘くて良い臭いがするのにも。
聞かれたイドゥンが待ってましたと言わんばかりに心底嬉しそうな笑みを満面に浮かべた。


「私が作った焼き菓子だよ。お父さんに食べて貰うの!」


何処か興奮した様子でそう告げる姉にイデアが苦笑いを浮かべた。
あのいつでも何処でも無表情なナーガが娘の焼いた菓子を食べたらどんな反応を示すか彼には全く予想できなかった。


いや、さすがに面と向かって「マズイだの」「要らぬ」とか言うとは思えないが。
何年間も顔を毎日の様に合わせて授業などを受けたりすれば、大体の人格はつかめてくるのだ。


『冗談は通じないが、決して愚かではない。むしろ賢人と言える部類』これがイデアの中の彼の評価だった。むしろ愚かでは竜の長は務まらないだろう。
最もそれでもナーガに対する苦手意識は消えないし、色々な感情が大分欠落してる男だとイデアは思っているが。


「勿論イデアの分もあるから、後で一緒に食べよ」


バスケットを見つめながら色々と考え事を始めたイデアを見て
イデアも焼き菓子が食べたいのだろうと思ったイドゥンがバスケットを部屋の隅の机の上に置きながら答える。


「デザートを楽しみにしてるよ」


イデアがバスケットに視線を固定させたまま言う。バスケットから放たれる甘い香りは昼飯前の彼の胃袋に強烈な刺激を与えていた。
後から後から溢れてくる唾を飲み込む。体内から本人にしか聞こえない程度の音量でぐ~っと言う音が聞こえてくる。


「どうぞー」


イデアが扉の先に声を掛ける。早く昼食を食べたいのだ。そして姉の手作りの焼き菓子に早く舌鼓を打ちたい。
ガチャリと扉が開かれ、予想通りナーガが入ってくる。今日もいつもと同じく『殿』の二人の周りはある程度は平和だった。












 






双子の我が子に食事を届けて、執務室に帰ったナーガの手には白い布で幾重にも包まれた焼き菓子があった。これを焼いたのは彼の娘であるイドゥン。
それは知ってる。遠見の術で見ていたから。しかし、これはイデアやエイナールと行った親しい者達と食べると思っていた。

まさか自分に渡すとは思いもよらなかった。


「…………」


じぃーっと片手に持ったそれをしげしげと見つめるナーガ。毒などが入ってない事は分かっている。何せ造っている過程を直接見ていたのだから。
もしも入ってたとしても毒など彼には効果がないが。


「……………」


玉座に腰掛けて、焼き菓子をそっと机の上に置いてそれをまたも見つめるナーガ。その色違いの瞳からは何も読み取れない。


「………………」


おもむろに手を伸ばして、包みを丁寧に取り去る。解き放たれたフワッとした甘い香りが彼の鼻腔をくすぐる。
中から出て来たクッキーの様なそれを一枚掴んで口元に運ぶ。


咀嚼すると濃縮された甘さが口の中を満たす。
正直な話、味や食感などは専門の者が作った菓子の足元にも及ばない。


だが、ナーガはこの菓子を美味だと感じていた。旨いと。
何故かは知らないが、美味いのだ。


もう一枚掴んで口元に運ぶ。やはり美味い。甘い物も案外悪くないと彼は思った。


「…………………」


彼以外誰も居ない執務室で神竜王ナーガは黙々と娘の焼いた菓子を食べ続けた。



あとがき


第一部の後半戦開始です。
既に初期の予定から大分離れていってしまってるので、ビクビクしながら筆の滑りに任せて書いておりますw

何はともかくこれからも頑張って行きます。


では、また次回の更新にてお会いしましょう。



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