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No.6434の一覧
[0] とある竜のお話 改正版 FEオリ主転生 独自解釈 独自設定あり [マスク](2017/08/15 11:51)
[1] とある竜のお話 第一章 前編[マスク](2009/07/29 01:06)
[2] とある竜のお話 第一章 中篇[マスク](2009/03/12 23:30)
[3] とある竜のお話 第一章 後編[マスク](2009/03/12 23:36)
[4] とある竜のお話 第二章 前編[マスク](2009/03/27 07:51)
[5] とある竜のお話 第二章 中篇[マスク](2009/03/12 23:42)
[6] とある竜のお話 第二章 後編[マスク](2009/03/27 07:50)
[7] とある竜のお話 第三章 前編[マスク](2009/03/27 07:50)
[8] とある竜のお話 第三章 中編[マスク](2009/04/14 21:37)
[9] とある竜のお話 第三章 後編[マスク](2009/04/26 22:59)
[10] とある竜のお話 第四章 前編[マスク](2009/05/06 14:49)
[11] とある竜のお話 第四章 中篇[マスク](2009/05/16 23:15)
[12] とある竜のお話 第四章 後編[マスク](2009/05/26 23:39)
[13] とある竜のお話 第五章 前編[マスク](2009/07/05 01:37)
[14] とある竜のお話 第五章 中篇[マスク](2009/07/20 01:34)
[15] とある竜のお話 第五章 後編[マスク](2009/07/29 05:10)
[16] とある竜のお話 幕間 【門にて】[マスク](2009/09/09 19:01)
[17] とある竜のお話 幕間 【湖にて】[マスク](2009/10/13 23:02)
[18] とある竜のお話 第六章 1[マスク](2009/11/11 23:15)
[19] とある竜のお話 第六章 2[マスク](2009/12/30 20:57)
[20] とある竜のお話 第六章 3[マスク](2010/01/09 12:27)
[21] とある竜のお話 第七章 1[マスク](2010/03/18 18:34)
[22] とある竜のお話 第七章 2[マスク](2010/03/18 18:33)
[23] とある竜のお話 第七章 3[マスク](2010/03/27 10:40)
[24] とある竜のお話 第七章 4[マスク](2010/03/27 10:41)
[25] とある竜のお話 第八章 1[マスク](2010/05/05 00:13)
[26] とある竜のお話 第八章 2[マスク](2010/05/05 00:13)
[27] とある竜のお話 第八章 3 (第一部 完)[マスク](2010/05/21 00:29)
[28] とある竜のお話 第二部 一章 1 (実質9章)[マスク](2010/08/18 21:57)
[29] とある竜のお話 第二部 一章 2 (実質9章)[マスク](2010/08/21 19:09)
[30] とある竜のお話 第二部 一章 3 (実質9章)[マスク](2010/09/06 20:07)
[31] とある竜のお話 第二部 二章 1 (実質10章)[マスク](2010/10/04 21:11)
[32] とある竜のお話 第二部 二章 2 (実質10章)[マスク](2010/10/14 23:58)
[33] とある竜のお話 第二部 二章 3 (実質10章)[マスク](2010/11/06 23:30)
[34] とある竜のお話 第二部 三章 1 (実質11章)[マスク](2010/12/09 23:20)
[35] とある竜のお話 第二部 三章 2 (実質11章)[マスク](2010/12/18 21:12)
[36] とある竜のお話 第二部 三章 3 (実質11章)[マスク](2011/01/07 00:05)
[37] とある竜のお話 第二部 四章 1 (実質12章)[マスク](2011/02/13 23:09)
[38] とある竜のお話 第二部 四章 2 (実質12章)[マスク](2011/04/24 00:06)
[39] とある竜のお話 第二部 四章 3 (実質12章)[マスク](2011/06/21 22:51)
[40] とある竜のお話 第二部 五章 1 (実質13章)[マスク](2011/10/30 23:42)
[41] とある竜のお話 第二部 五章 2 (実質13章)[マスク](2011/12/12 21:53)
[42] とある竜のお話 第二部 五章 3 (実質13章)[マスク](2012/03/08 23:08)
[43] とある竜のお話 第二部 五章 4 (実質13章)[マスク](2012/09/03 23:54)
[44] とある竜のお話 第二部 五章 5 (実質13章)[マスク](2012/04/05 23:55)
[45] とある竜のお話 第二部 六章 1(実質14章)[マスク](2012/07/07 19:27)
[46] とある竜のお話 第二部 六章 2(実質14章)[マスク](2012/09/03 23:53)
[47] とある竜のお話 第二部 六章 3 (実質14章)[マスク](2012/11/02 23:23)
[48] とある竜のお話 第二部 六章 4 (実質14章)[マスク](2013/03/02 00:49)
[49] とある竜のお話 第二部 幕間 【草原の少女】[マスク](2013/05/27 01:06)
[50] とある竜のお話 第二部 幕 【とある少年のお話】[マスク](2013/05/27 01:51)
[51] とある竜のお話 異界 【IF 異伝その1】[マスク](2013/08/11 23:12)
[55] とある竜のお話 異界【IF 異伝その2】[マスク](2013/08/13 03:58)
[56] とある竜のお話 前日譚 一章 1 (実質15章)[マスク](2013/11/02 23:24)
[57] とある竜のお話 前日譚 一章 2 (実質15章)[マスク](2013/11/02 23:23)
[58] とある竜のお話 前日譚 一章 3 (実質15章)[マスク](2013/12/23 20:38)
[59] とある竜のお話 前日譚 二章 1 (実質16章)[マスク](2014/02/05 22:16)
[60] とある竜のお話 前日譚 二章 2 (実質16章)[マスク](2014/05/14 00:56)
[61] とある竜のお話 前日譚 二章 3 (実質16章)[マスク](2014/05/14 00:59)
[62] とある竜のお話 前日譚 三章 1 (実質17章)[マスク](2014/08/29 00:24)
[63] とある竜のお話 前日譚 三章 2 (実質17章)[マスク](2014/08/29 00:23)
[64] とある竜のお話 前日譚 三章 3 (実質17章)[マスク](2015/01/06 21:41)
[65] とある竜のお話 前日譚 三章 4 (実質17章)[マスク](2015/01/06 21:40)
[66] とある竜のお話 前日譚 三章 5 (実質17章)[マスク](2015/08/19 19:33)
[67] とある竜のお話 前日譚 三章 6 (実質17章)[マスク](2015/08/21 01:16)
[68] とある竜のお話 前日譚 三章 7 (実質17章)[マスク](2015/12/10 00:58)
[69] とある竜のお話 【幕間】 悠久の黄砂[マスク](2017/02/02 00:24)
[70] エレブ963[マスク](2017/02/11 22:07)
[71] エレブ963 その2[マスク](2017/03/10 21:08)
[72] エレブ963 その3[マスク](2017/08/15 11:50)
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[6434] とある竜のお話 幕間 【湖にて】
Name: マスク◆e89a293b ID:6de79945 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/13 23:02
ある日の晴れた昼下がり。
その日の勉強を終えた双子は以前の約束通りエイナールの木笛の音色に呼ばれて、彼女の部屋を訪れていた。


あの、主にエイナールとイデアにとって衝撃的とも言える初対面の日から早くも数週間が過ぎて、双子が彼女の部屋を訪れた合計回数は既に十を軽く超えていた。
最初は人の姿で空を飛ぶ事に軽い恐怖を抱いていたイデアも、エイナールの部屋に頻繁に通うに連れて飛行に対する恐怖心は徐々に薄れていった。



今では、姉の手助けを借りずに一人の力でもエイナールの部屋に行けるほどに進歩していた。
しかし、突如として横からの強風などに煽られると、落ちる恐怖で吹き出る冷や汗で背中をびっしょりと濡らすが……。



何はともあれ大分進歩したとはいえ、まだまだ発展途上なのは確かである。




二人がエイナールと定期的に談話しているのをナーガは知っていたが彼は特に止めようとはしなかった。それどころか、二人がエイナールの部屋に通うことも半ば承認していた。
許可した理由として考えられるのは自分の考えに賛同しているエイナールが信用できる存在と言うことと、双子の飛行の練習と言ったところか。



しかし。
もしかしたら。



『自分は立場上余り時間を取れなくて、二人に様々な事を直接教える時間は少ない。
だからといって、自分が短い時間を作って赴くまで、いつまでも双子をあの狭い部屋に閉じ込めておくのも気が引ける』



そんな事を彼は思ったのかも知れない。あくまでも予想だが。真実はナーガのみが知る。イデアがもしもこの仮定を知ったら、「あの男に限ってはありえない」と、一笑に伏すだろうが。




彼が行ったのは、二人が落下した際に備える為に二人の部屋のバルコニーとその真下周辺一体に捕獲結界をびっしりと念入りに張り巡らせた事と注意事項を伝えたことぐらいである。



結界の発動条件は一定の重さを上回る物体が一定の速度を上回る速度で直上から落下してくる事。つまり、落下する子供をキャッチするのだ。
少々手荒とも言える方法だが、単純で最も効果的と言える。



二人には「夜と風の強い日や雨の日の飛行は許可しない」と、少々大人気ないが普通の子供ならば竦みあがる程の威圧感を滲ませて言いつけてあるので問題は無い。
エイナールも安全面を考えて、そういった日は呼び出しの合図である笛を吹かず、自分の部屋で次の姉弟との雑談の際の話題を整理していたりしていた。














「外の世界か~~」


ふかふかで肌触りがいいクッションに腰を下ろしたイドゥンが、左右に身体を揺らしながら感慨深そうに、羨望が篭もった声を上げた。
エレブに産まれてからまだ一度も切った事がない、紫銀色の上質な絹を思わせる長い髪がゆらゆらと動く身体の動きに合わせて音も無く軽やかに揺れる。



ここは氷竜エイナールの「殿」での住まう部屋。いつもの様にナーガとの勉強が終わり、暇を持て余した神竜の姉弟は彼女の部屋を訪れていた。
勿論空を飛んで、だ。


イドゥンとイデアの部屋に比べれば一回りも二回りも小さいが
それでも人一人が暮らすには十分過ぎる大きさと、ベットや暖炉、調理場やクローゼットを始めとする設備が完璧に整った部屋だ。



双子はいつもこの部屋でエイナールから外の世界――大陸エレブの様々な国や地域についての話や、他には古い御伽噺や魔術に関する話なども聞いていた。
そして今は丁度、エイナールにとって馴染みが深い場所であるイリアについての話を聞き終わったばかりである。


「行きたいなぁ~……」



イドゥンが未だ見た事がないエイナールの話にだけ聞く外の世界に対して、さっきよりも羨望が更に篭もった声で続ける。
尖った耳がパタパタと忙しなく上下運動を繰り返し、彼女の現在の内心を的確に外部に表していた。



エイナールの話すイリアのお話は……いや、外の世界に関する話題の全てと言っていい、は幼い神竜イドゥンの心を強く、強く惹き付けていた。




「殿」の自室からでも窓から山々の頂にあるのを遠目に見るが、未だ一度も触ったことの無い「雪」や、大地を力強く走り抜ける「馬」という存在に白い翼を生やし、天を駆ける「ペガサス」


これまた一度も実物を見たことのないナーガやエイナールの話の中でだけ聞く、自分達が模している姿である「人」がいっぱい居て暮らしている「エトルリア王国」の王都アクレイア。
そして様々な『部族』という「人」の国とは少し違う集団が馬を駆り、自由に駆け巡る一面緑だけという広大な「サカ草原」




どれも触れたり、直接行って見たいと強く思えるものばかりだった。




……何よりも、どんな場所でもいいから思いっきり外の世界を走り回ったり、飛び回りたいと言う強い想いが彼女の心にはあった。



イドゥンとイデアは未だ、ナーガと竜の姿に戻る練習を行ったあの荒野以外の場所に行った事はこれまでなかった。其れゆえの外の世界に対する羨望である。
イデアに限ってはこの世界に暮らす「人間」に会ってみたいと思う気持ちが強くあった。


勿論純粋に姉と同じく外の世界を見て、触れたいと思う気持ちもあるが。


そんな二人に姉弟のすぐ隣のクッションに腰掛けたこの部屋の主――氷竜エイナールが柔らかく微笑みながら語りかける。



「もう少し、大きくなれば見にいけますよ」


「それって、どのくらい?」


イドゥンの無邪気な問いにエイナールが少し困った顔を浮かべ、小さく「うーん」と唸るり思考を巡らす。
2~3秒そのままにした後、彼女の中で問いの答えが出たのか、喉を震わし天使のような美しい声を朗々と紡ぐ。



「この『殿』は神竜族の御力で竜族の成長を促進する効果がありますし、お二人が外に出られるほど成長なさるのはそう遠くはない事と思います」



だから、気長に待ちましょう? とエイナールはイドゥンの顔を見て、丁寧に優しく続ける。
イドゥンがその美しい顔を見て少々の不満が混ざった声で「うー」と暫く唸っていたが、やがて諦めた様にゴロンッと特大のクッションの上に両手両足を広げて、大の字に寝転んだ



それを見て、彼女の弟がフフッと小さく、笑みをこぼした。微笑ましい姉の動きに思わず笑ってしまったのだ。
だが次の瞬間彼も何かに引っ張られるようにイドゥンの隣にドサリ、倒れこむ。



「えっ、え、え!?」



イデアが自分に何が起きたのか理解出来ずに戸惑いの声を上げ、立ち上がろうとするが――立てない。背中に縄を付けられ、グイグイと引っ張られる感覚だ。



そのままクエスチョンマークを頭上に大量生産しながらイデアがゴロゴロと転がりながらもがく。



よく見れば、イデアの背中や肩などに細い、細い、少し引っ張ってしまえば呆気なく切れてしまうのではないか? 
と、何も知らない第三者が見れば思うだろう、金色の光で編まれた糸が数本絡み付いているのが見えるが当の本人であるイデアは気がつけない。それほどまでに混乱しているのだ。




では、一体誰がイデアに糸を纏わりつかせたのか? 
そんなものは最初っから決まっている。この部屋の中で金色の【エーギル】を持っている存在など二柱しか存在しないからだ。



「イデア~~」


もふっとイデアの顔に柔らかい物体が密着した。勿論イデアの姉、イドゥンの布に包まれた胸部である。
彼女はイデアに抱き枕に抱きつくように身体ごとくっつくと、そのままその小さな手で弟の金色の髪をワシャワシャと優しく、且つ力強く撫回し始める。



「ちょ、ちょっと!?」


イデアが抗議の声を上げるが、イドゥンの手は止まらない。そのままイデアの背に両手を回して、ぎゅっと力の限り抱きしめる。
もっとも幼子のイドゥンの腕力などたかが知れてるのでイデアは苦しくなどはなかったが、それでも動けず、そして何よりも恥ずかしかった。


しかし、イデアに出来た唯一の抵抗と言えば、精々耳を高速で上下にバタバタ振る程度だ。


「離して~~」


イデアが情けない声で直ぐ傍にある姉の顔に向けて要求するが。


「いや」


即答だった。おまけに抱きつく力が少し強くなった。イデアが小さく溜め息を吐き、また情けない声をだす。彼の耳が諦めたかの様に動きを止めて垂れる。


「エイナ~ルうぅう~~」


頼りになるであろう大人に向けての救援要請、だが。


「……姉弟の仲がよいのは素晴らしい事です」


顔を少し逸らして、苦笑いを浮かべながら、眼だけを動かしてチラチラと見てくるエイナールに希望は簡単にこっぱ微塵に砕かれた。
イデアが絶望したかの様に真っ赤な顔をしたまま、ぐったりと脱力する。






「イデア」


「うん?」


不意に抱きしめる力を弱めて、自分の顔を後少し近づければイデアにくっ付きそうなほど
弟の顔の直ぐ傍に持ってきたイドゥンにイデアが顔をトマトを思わせるほど赤くして返事をする。


「はやく、大きくなって皆で行きたいね」


「……うん」


イデアが恥ずかしさを堪えてじっと姉の顔を凝視する。
今はまだ幼いこの少女が大人になったらどれほどの美人になるのか想像してみようと思ったが……やめた。後での楽しみに取っておくことにする。



その次に漠然と想像したのが【皆】での旅行の風景。
自分と、イドゥンと、エイナールと……正直、入れたくはないがナーガの四人でエレブの色々なところに行く場面。



悪くない。まるで家族旅行みたいだな、と、イデアは思った。いや、事実イドゥンにとっては家族旅行そのものなのだろう。



……ふと、家族の母が居る場所に居たエイナールと、前の世界の母が重なった。
ゾクリッと嫌な寒気がイデアを襲った。眼と鼻の奥に少しだけ痛みを覚える。このままではマズイと思い慌てて思考を別の話題に逸らそうとするが……。



パンッ。



イデアの思考そのものが唐突に響いた軽い手を叩き合わせる音で無理やり中断させられた。
姉弟が身を少しだけ起こして、音の発生源であるエイナールを見る。


何かを思いついたのか、その眼は外見に似つかわしくキラキラと子供の様な輝きを宿していた。



「もしかすれば、近い内に外に行けるかもしれません。私から申請してみようかと……丁度いい場所もありますし」


「丁度いい場所?」


「はい。ここからの距離も、そして景色も最高と自信を持って言える場所です」


エイナールが相も変わらず子供の様な自慢げな笑顔で姉弟に告げる。


「私にお任せください」


ドン、と、豊満な胸を張るエイナールに姉弟は顔を見合わせ、その子供の様な動作に思わずクスクスと笑みをこぼした。










翌日






「おぉーー!」


イドゥンが始めて見る殿の巨大な入り口に興奮が多く混ざった感嘆の声を上げる。


彼女の眼の前に悠然と存在するそれは、雄雄しい山々と芸術的なまでに一体化し、樹齢千年を超える大木の如き太さを持ち、幾つもの強化の術式を刻まれた強靭な柱に支えられており
何処か神殿の様な神聖ささえも感じさせる灰色の石造りの建造物だ。


そう。これが竜族の住まう巨大な殿の入り口である。



イデアは声も出せずにそれを眺めていた。自分はこんな凄い入り口を持っている建物に住んでたのかという驚愕の気持ちと一緒に。
そして竜と言う種の持っている技術力の高さに驚いていた。イデアの持っていた既存の竜に対するイメージがまた一つ塗り替えられた。
竜は穴倉に住んでるというイメージが、だ。




この姉弟はいつも外に出る時や、逆に戻ってくる時はナーガの行使する転移の術で部屋と外を直接行き来してるため、殿の玄関とも言える箇所を直接その眼で見るのは初めてだった。
それ故のこの反応である。


「では、行きましょうか?」


殿の入り口に期待通りの反応を示してくれた神竜姉弟に心が和みながらもエイナールが声を掛けて、自分に意識を向けさせる。
このままではずっと『殿』の入り口を見続けてそうだ。



「今日は何処に行くの? お父さんも来る?」


イドゥンが興奮で少し赤くなった顔で問う。よほど感動したのだろう。
エイナールが右手の細い人差し指をぴっと音が出るほど素早く立てて質問に答えた。



「長は……恐らく来られないかと。そして今回私達が行く場所はですね……」


姉弟に今日は殿から少し北にある、飛んで約15分ほど、人の足で3~4時間程度の場所にある湖に行くと告げる。


それにしても、思ったよりも呆気なく許可されたものだとエイナールは姉弟に詳細を説明しながら、ふと思った。


彼女が姉弟を湖に連れて行きたいという旨の申請書と、何時に「殿」を出て、何時に帰って来るだけではなく、その他の行動までを事細かく記した「予定表」とも言える
資料をナーガに提出してから、その答えはエイナールの想像をはるかに上回る速度で帰ってきた。



まさか1時間で返答が帰ってくるとは思わなかったのだ。最低でも半日は掛かると彼女は踏んでいた。



結論から言えば二人を連れ出す事は許可する、だそうだ。
勿論遠見の魔術で行動は細かく観察されるだろうが。今この瞬間もナーガに監視されてるのだろう。



イドゥンとイデアは人間に例えれば王族なのだ、当然といえよう。もしも事故などで二人の身体や精神が酷く害されたら
直接的な意味で自分の首が宙を飛んでも可笑しくはない。



……もっとも、そんなことは絶対に起こさせないが。
自分の眼の前で嬉しそうにはしゃいでいるこの無邪気な双子を害する事など、何者であろうがエイナールは許さない。



神竜だとか、長の子息だとかを抜きにしてもだ。



「少し飛ぶので、竜の姿に戻ってください」


二人から歩いて少しの距離をとり、懐に手を差し入れて竜石を取り出す。転移の術なら直ぐに行けるが、それでは味気ない。


「……おぉ」


イデアが取り出されたエイナールの竜石を見て反応する。
エイナールの竜石は彼が以前本か何かで見たサファイアという宝石にそっくりだったからだ。


但し、大の男の拳よりも大きなサファイアはさすがに始めて見たのだが。



「ちょっと眩しいですよ」


エイナールが注意を促して、姉弟が4つの瞼を瞑るのを待つ。
それから5秒ほど経ち、二人が瞼を下ろしたのをエイナールが確認してから彼女を中心に青い光が放たれた。


雲ひとつない澄み切った青い空を思わせる色が周囲に迸り、エイナールの身体が人から竜の姿、本来の姿へと急激に変わっていく。
イドゥンとイデアが更に強く瞼を瞑り、思わずローブの袖を顔に押し当てる。


やがて辺りを塗りつぶしていた光が収まり、イドゥンとイデアが恐る恐る眼を開ける。少しだけチカチカする眼を何度も瞬かせながらエイナールを探す。
エイナールは直ぐに見つかった。否、見失うことなど出来なかった。






何故なら――。          






「エイナール……?」



イデアが何処か呆けた声で眼の前の「それ」に問う。
「それ」――全身をキラキラと夜空の星の様に輝く水色の鱗に覆われ、頭部に一国の女王が戴くティアラに似た角を持った『氷竜』がその細い顔を小さく頷かせ答える。


「……」


イデアは何も喋れなかった。それどころか身体を動かすことさえもせずに、記憶に焼き付けるかのように竜の姿に戻ったエイナールを凝視する。



――綺麗だ。



イデアの胸中はこの単純な想いで埋め尽くされていた。
かつて見た恐らくナーガであろう神竜ほどの神々しさこそ無いが、今のエイナールの姿はあの日祭壇から見たどの竜よりも飛びぬけて美しかった。


正に存在そのものが完成された芸術だな、とイデアは何処かフワフワする頭で漠然と思う。
奇しくも人の姿を取っていたエイナールに始めて出合った時と同じ感情を彼は抱いていた。


なるほど。イリアの人々がエイナールを氷竜様とまるで神の様に敬い、信仰する気持ちが分かった気がする。



「イデア、わたし達も」



言葉を失い、食い入るようにエイナールを見つめているイデアの服の裾をイドゥンがクイクイっと引っ張り、耳元でよく聞こえるように急かす。
何処か間の抜けた声を出して、コクコクと頭を人形のように縦に何度も振ってイデアが答えた。


「え? あぁ……うん」


距離を取る為に小さな歩幅で走り去っていくイドゥンを尻目に、イデアが懐に手を入れたままチラッともう一度エイナールを見る。
視界に入った美しい氷竜は人の姿のときと同じ、優しげな紅い眼でイデアを見ていた。


同時にイデアに一つだけ素朴な疑問が浮かぶ。即ち――――


(どうやって飛ぶんだろ?)


見たところ、翼に該当する部位が存在しないエイナールがどうやって、空を飛ぶんだろ? という物だ。


しかしその疑問はエイナールがその背に水色に輝く光の翼を展開した事によって解消された。









その湖は「殿」の入り口からしばらく北に向けて飛んでいて、直ぐに見つける事が出来た。


「……!」


イデアが風を切るビュウビュウという喧しい音を近くに聞きながら、声にならない声をその巨大なアギトから漏らす。
そして、何気なく直ぐ隣を飛んでいる姉を盗み見る。


金色の竜、神竜の姿に戻ったイドゥンはじぃっと紅と蒼色の瞳で雲の狭間に見える、
眼下に広がる山々に囲まれた巨大な水溜り―――始めて見る「湖」をその大きな眼で眺めていた。



(……ふふ)


一目で姉が何を考えているのか、手に取るように分かってしまったイデアが内心で笑みを浮かべる。
何故分かるって? そんなものは簡単だ。恐らくは自分も同じ事を考えているからだ。



と、イデアの、違う。姉弟の脳内に直接エイナールの声が響く。念話と呼ばれる魔術を利用した交信手段だ。



(着きました。アレが湖ですよー)



見ると、先頭を飛んでいたエイナールが眼下の湖に向けて徐々に高度を下げて行くのが見えた。
それに呼応して直ぐ隣を翼がぶつからない程度の距離を取って、イデアにつかず離れずに飛行していたイドゥンも高度を下げていく。


抑えきれない胸の高鳴りを心地よく感じながら、イデアも翼の動きを調整して姉の後を追った。





「あーー!!!」


地平線まで続く空の色を地上にそのまま映したかの様な湖を見て、人の姿にその身を変えたイドゥンがたまらないと言わんばかりに
子供特有の甲高い大きな声を上げた。



あー…。


あー……。


あー………。


周囲の山々がその声を反芻し、山彦として何度も何度も辺りに響き渡らせる。



「んーー……!!!」


両手を大きく上に伸ばし、深呼吸。何度か息を吸ったり吐いたりを繰り返す。


「行こっ!」


「ちょ、まっ、待ったぁぁあああ……!!」


そして、隣で辺りをキョロキョロと眺めていた弟の手をがしっと掴んでそのまま湖へ向けて引っ張りながら全力で走り出す。



「水の中には入っちゃ駄目ですよー!!」



まるで狩人から逃げるウサギのような速度で走っていく姉弟にエイナールが注意の言葉を投げかける。
遠くから「……わかったぁああぁ」というイデアの声が帰ってくるのを確認したエイナールが、ふぅと小さく息を吐いた。


「見てないと、入っちゃいそうですねぇ……」



この湖の水は温度が低いのだ。下手に入ったりしたら体温を根こそぎ奪われてぽっくりと逝きかねない。
成体の竜ならば問題にもならない環境だろうが、まだまだ幼体から少し成長した程度の姉弟では危ない。




溺れたりでもしたら一大事だ。今の自分はあの二人の保護者とも言える存在だ、二人の行動を監督する義務がある。
力を少しだけ使い、フワリと身体を僅かに宙に浮かばせ、そのままエイナールはゆったりとした速度で姉弟を追うように飛んでいった。







湖のほとり、水の上にイドゥンとイデアは「いた」 文字通り、水面の上に座ってるのだ。
正確には水の上に氷の薄い膜の様に【エーギル】を展開し、その上に座っているのだ。


言われた通り水の中には入っていない。


「ねぇねぇ、イデア」


「うん?」


宙空にエーギルを塗り固めて作った畳み一つ分ぐらいの大きさの足場に二人で腰を下ろし、ブーツを隣に揃えて置いておく。
そして白くて細い素足を冷水に浸しながら語り合う。


どこからか、微かに鳥の鳴き声が山彦となって聞こえてくる。




イドゥンがその足を上下に動かす度にパチャパチャと水音がなる。
イドゥンの着ている紫色のローブは限界までたくし上げられていて、健康的な彼女の太もも辺りまでが露わになっている。


ふっくらとした魅力的なそれをなるべく見ないように勤めながらイデアが返事をする。


「なに、姉さん」


「お父さんは、来るかなぁ……」


イデアが一瞬だけ険しい顔をするが、直ぐに引っ込めて。


「わかんない」


無難な答えを返した。ざぱーん、ざぱーんと、水が動く音を尻目に、二人並んで青い空を反射し吸い込まれる様な青に染まった湖を眺める。どこかで魚が跳ねたのかポチャンという音がする。
いつの間にか、イドゥンの手が強くイデアの手を握っていた。



と。



「私も座ってよろしいですか?」


いつの間に来たのか、エイナールが姉弟のすぐ後ろに居た。イデアがその足元を見ると、彼女の足元にも薄い水色の膜、エーギルで作られたのであろう足場があった。


「どうぞ」


イデアがイドゥンの手をやんわりと解き、足場に新たに【エーギル】を込めて少しだけ強度を上げると、姉から少し離れて、二人の間にスペースを作る。


「ありがとうございます」


エイナールが一礼し、そのスペースに腰を下ろす。そして、どこに仕舞っていたのか赤や青と言った色とりどりの布で覆われたバスケットを取り出す。



「今日は焼き菓子や果物も持ってきたんですよー」


「ほんとっ!?」



ガバッと言う擬音が聞こえてきそうな程素早い動きでイドゥンがバスケットに注意を向けた。
そして、そのままバスケットを熱い、それこそ愛しい存在を見るかの様な潤んだ眼で見つめる。


心なしか、目尻には微かに涙さえも浮かんでる様に見える。


そっとイデアがエイナールに耳打ちした。


「……姉さんは、果物とかが大すきなんだ」


「……そうなんですか」


そして、ふふっと万人を安心させるであろう笑みを浮かべる。
その笑みをまともに見てしまったイデアの頬がバスケットに入っていたりんごの様に赤くなった。













「実は……今日はお二人に言わなければならない事があるのです」


バスケットの中身の焼き菓子や果物をほとんど食べ終え、果汁や菓子の破片で汚れた手をナプキンと湖の水で荒い終えた二人にエイナールは唐突にこう切り出した。


「「うん?」」


姉弟が揃って両脇からエイナールを眺めてくる。二対四つの無邪気な眼に見つめられながらエイナールは続ける。


「冬の季節が近いので、私、そろそろイリアに帰らなければならないのです……ですから」


「居なくなっちゃうの……?」


イデアが瞳を揺らしながら、心に湧いた不安を声にする。
正直な話、自分でも何でこんなにショックを受けているのかがイデアにはよく分からなかった。まだ彼女と出会って1月ぐらいなのに。



「……………はい」


「…………………なんで、冬になった、ら、帰るの?」


上下に揺れる音程が今のイデアの内心を切実に、且つ的確に表していた。 即ち――嫌だ、と。
エイナールがその赤い眼でイデアを真正面から覗き込んで答える。



「イリアに住む人々は冬の寒さや、雪にとても困っているのです。 だから私が助けてあげるのですよ」


涙ぐむイデアの頭にエイナールが手をやり、優しく撫でる。


「また、会え……る?」


「ええ勿論。冬の季節が終わったらまた会えますよ。冬以外ずっと会えますよ」


にっこりと、安心させるように微笑む。でも納得できない。駄々っ子の様に涙ぐんだ眼でエイナールをキっと睨む。
と、突如イデアの手をエイナール以外の誰かが優しく包む様に握った。姉のイドゥンだ。


イデアに変わってエイナールに再度問う。


「すこし、待てば……また会えるんだよね…?」


エイナールが強い意志を込めた声で断言した。まるで姉弟の不安を断ち切るように。


「はい。絶対に会えます」


イドゥンがぎゅっと弟の指を握る手に少し力を込める。そして


「じゃぁ、イデアと一緒にまってる。だから――ぜったいに、かえってきてね」


イデアが姉の手に更に力を込める。爪が少しだけ食い込んだ。


「姉さんは、いいの……?」


握られた手をもっと強く握り返しながらイデアが姉に問う、しかし返答は簡潔だった。


「うん。また会えるから、いいの」


笑顔で簡単に返してくるイドゥンにイデアは毒気を抜かれてしまった。
強く握り締めすぎた手から力を少し抜く。


本来は精神は自分の方が年上の筈なのに、何だか自分の方が子供の様な気がしてきた。いや、第三者が見れば事実自分の方が子供なんだろう。



ふぅ、と溜め息を吐き、気分を落ち着ける。胸の動悸が落ち着いていくのが手に取るように感じ取れた。


「ごめんなさい」


ペコリと頭を下げて謝罪する。が、エイナールは先ほどとは打って変わって慌てた声で。
恐らくはナーガに監視されているのを思い出したのだろう。最初にあった時の様な取り乱しようで必死にイデアに頭を上げるように説得する。



「い、いえ! 謝罪など不要です!! 悪いのは中々言い出せなかった私ですから、だから頭を上げてください!!」



手を上下に振り回して、わたわたするその姿に姉弟は笑みを浮かべ、同時に母親に甘える子供の様に彼女に抱きついた。









その後は単純だ、2人で湖の周りを走り回ったり、飛んだりして遊んでいる内に日は西の果てに落ちていき、周囲の温度も下がり、
遂に帰宅の時間となった。


そして意外な人物が迎えに訪れる。


「えー……?」


「何だ?」


信じられない、と言った声をだすイデアに答えたのは感情の起伏が全くない事務的とも言える若い男の声。
そう、イドゥンとイデアの「父」ナーガである。「殿」には分身を置いて来ており、今ここに居るのは本体(本人)である。


「お父さん、あのね!、あのね!!」


ナーガの足元に駆け寄り、イドゥンが今日という日がどれほど楽しかったか、お世辞にも多いとはいえない覚えている言葉で表そうと四苦八苦する。
それを片手で頭を撫でて制しながら、主の来訪に際して頭を下げ、傅いているエイナールに労いの言葉を与える。


「苦労だった」


「いえ……」


エイナールがいつもの彼女とは違う、主に対する敬意と共に事務的な声で答える。


「イドゥンとイデアが世話になったな。礼を言う……これからも頼んだぞ」


「……はい!」


ナーガの言葉に今度は強く答える。そしてその身が光に包まれて消える。ナーガが「殿」に彼女を転移させたのだ。



「来い。イデア」



クルリと背を向けて立ち去ろうとするナーガにイデアが慌てて駆け寄ろうとするが、今まで散々遊んでいて体力を思ったよりも消費していたのか、ガクッと
膝から崩れ落ちる。


「あれ……?、ん!んん!?」


何度足と腰に力を入れても立てない。力を入れてもスルスルと抜けていってしまう。まるで腰を抜かしたみたいに。
ナーガが足を止めて、その様子を見る。



彼の指に暖かい光が収束する。回復の魔法【リカバー】だ。



「ま、待って!」


魔法を自分に向けて使われそうになったイデアが慌てて叫ぶ、そして次の一言でナーガの手に集っていた光は霧散することになる。



「…おぶってくれない、かな……?」



それを聞いたナーガはイデアの近くまで歩いてくと彼を浮かばせて、自らの背中に優しく下ろす。
娘が自身の手を握ってくる感触を何処か心地よく感じながら彼は転移の術を発動させ、姉弟を連れて「殿」に戻った。










数ヵ月後



「エイナールから手紙だ」


ナーガがイドゥンとイデアに一枚の羊皮紙を手渡す。
朝食を食べ終えた後にいつもナーガが持ってくるこれが姉弟の今の大きな楽しみとなっていた。


結局エイナールはあの遠足の翌日にはイリアに帰ってしまったのだが、こうして定期的に手紙を送って近況などをイドゥンとイデアに知らせている。


イドゥンが一回り、いや、反回りほど大きくなったその白く、美しい手で手紙を受け取り弟にも見えるように広げる。
ナーガは羊皮紙を手渡すと、食器類を周りに浮かべて部屋からさっさと出て行った。どうせ中身は一回読んで知っているのだ。



暫く手紙を黙読していた二人だが、そこに書かれていた事に対して喜びの声を上げる。
手紙を近くの机の上においてから、ベットの上で二人でごろごろ転がりまわり、キャッキャッと黄色い声を出す。



机の上に無造作に置かれた手紙には竜族の文字でこう書かれていた。


『そろそろ冬が終わるので殿に帰れます。お土産を是非楽しみにしていてくださいね』、と。



そして、その下には具体的にいつ頃帰れるか記されている。
偶然か必然か。エイナールが「殿」に戻って来るであろう日はイドゥンとイデア、神竜姉弟の一歳の誕生日であった。







あとがき

お久しぶりです。少し流行病に掛かって入院していましたw
自分は大丈夫だと思ってたら見事に菌をうつされるとは……。


皆様も十分お気をつけください。


今回の湖は封印の剣、23章にあったあそこです。

何はともあれ、これにて第一部の前編を書ききることが出来た……。


しかし、本当に何年で完全に完結させられるのか自分でも検討がつきませんww


では、次回の更新にてお会いしましょう。
そしてこれからもよろしくお願いします。


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