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No.6377の一覧
[0] Flag of the Dead(Fate×学園黙示録 Highschool of the Dead)[ふぉるく](2010/08/17 18:40)
[5] 1-1[ふぉるく](2010/07/11 17:03)
[6] 1-2A[ふぉるく](2010/07/16 00:27)
[7] 1-2B[ふぉるく](2010/07/16 00:27)
[8] 1-3C[ふぉるく](2010/07/16 00:27)
[9] 1-4A[ふぉるく](2010/07/16 00:28)
[10] 1-4B[ふぉるく](2010/07/16 00:28)
[11] 1-5[ふぉるく](2010/07/16 00:28)
[12] 1-6A[ふぉるく](2010/07/21 09:26)
[13] フローチャート:学校脱出まで[ふぉるく](2010/07/16 00:30)
[14] 2-1[ふぉるく](2010/07/21 09:25)
[15] 2-2A[ふぉるく](2010/07/26 06:56)
[16] 2-2B[ふぉるく](2010/07/26 06:55)
[17] 2-3B[ふぉるく](2010/07/31 17:54)
[18] 2-4A(前編)[ふぉるく](2010/08/06 19:54)
[19] 2-4A(後編)[ふぉるく](2010/08/11 22:21)
[20] Extra 1[ふぉるく](2010/08/17 18:41)
[21] フローチャート:南リカの部屋まで[ふぉるく](2010/08/17 18:39)
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[6377] 2-4A(前編)
Name: ふぉるく◆f250e2d7 ID:b82d47da 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/06 19:54



 孝に戻ってもらおう。孝なら道も分かってるし、こっちも毒島先輩がいればいざというときに心強い。

「じゃあ俺と毒島先輩で希里さんや有瀬の家族を探して、孝に……あー、この子を送ってもらうってことでどうかな」

「この子じゃないもん、ありすだよ!」

「悪い、えっと、ありすを」

 そう提案すると毒島先輩は少し考える様子を見せ、「まあ妥当だな」と頷いた。
 孝もそれに続いて同意した。

「分かった。じゃあ毒島先輩、士郎を頼みます」

「ああ、任せておけ」

 待て。

「なんでそこで俺なんだ!」

「そりゃ……士郎だからだよ」

 当然とばかりに言い切る孝にさもありなんと頷く毒島先輩。よく見ると有瀬まで首を縦に振っている。
 なんて扱いだ。流石に納得でき……あ、いや、心当たりはないわけではないというか、自分がへっぽこな自覚くらいはちょっと、ある、けど……。

 追い討ちをかけるように、

「扱いに不満があるなら自分の行動を改めることだ」

 なんていわれる始末。
 自業自得なのは分かってるけど……ッ、くそう……ッ!

「あの、えっとその、大丈夫だよ! 衛宮君良いところいっぱいあるから!」

「お兄ちゃん、泣いてるの? 大丈夫?」

 2人のフォロー(?)がざくざくと胸をえぐる。
 いっそこのまま走って逃げ出したくなるが流石にそれをやると本当に取り返しのつかないことになるので針のムシロで我慢。凄く、痛いです。



 若干一名(俺)心に傷を負いながらも方針は決定したので、あとは行動するだけだ。
 既に空も暗くなり始めている。
 これ以上無為に時間を浪費するのは避けるべきだろう。

「では可能な限り急いで戻る。小室君、その子を頼んだよ」

「沙耶たちにも、俺たちが無事だって伝えておいてくれ」

「ああ、そっちこそ無理するなよ」

 隣では希里さんたちが一時の別れを済ませている。お兄さんの言うことをよく聞くんだよ、という父親の声が耳に届いた。

 ────この子のためにも、必ず母親の無事を確認しないと。

 ぐ、とバットの握りを確認。毒島先輩も横で鉄パイプを軽く振っている。
 出来れば有瀬や希里さんにも獲物があればいいのだが、孝の金属バットを取り上げるわけにもいかないだろう。

「あ、私も宮本さんから武器を借りてきたんです」

 と思ったら有瀬は宮本からどこで手に入れたのやら、警棒を預かってきていたらしい。
 うーむ、おっとりした有瀬に警棒というのは……似合わないというか、むしろシュールだ。

「これ、良かったら希里さんが使ってください」

「それは……ありがたいけど、いいのかい?」

「私が持っててもあまり役に立たないだろうし……」

 有瀬は警棒を希里さんに渡す。
 俺はそれを複雑な気持ちで見ていた。

 確かに有瀬を戦力に数えるのは難しいし、彼女に武器は似合わない。
 だがいずれそうも言っていられなくなるときが来るかもしれない。いや、あるいはもう既にそうなっているのかもしれない。
 けれど出来ることなら彼女や、あるいはありすのような子に武器を持たせるなんてことはしたくない。甘い考えだといわれたとしても。
 本音を言えば毒島先輩や宮本もだが、女の子が武器を持って<奴ら>を倒すような姿なんてあまり見たくはないのだ。
 けど正直彼女たちは俺よりも強い。実際問題俺のほうが守られていることが多いのが現状だ。

 ならばせめて。
 俺よりもか弱い有瀬たちや……それに沙耶たちだけでも守れるようにならなければ。

 彼女たちが武器を持つ必要がないくらいに。

「っと、そうだ士郎。これもそっちが持ってたほうがいいだろ」

「これ……拳銃? どこで……」

 孝に手渡されたのは、丸いレンコンのような弾倉のついたリボルバー型のピストルだ。弾は5発入っており撃鉄を起こし引き金を引くだけで簡単に撃てる。
 握ってみると少々小さいが、大きさの割にはずっしりと重い。

「まあ、ちょっとね……。念のため持ってろよ」

「……わかった、ありがとな」

 戻って来いよ、と右手を突き出した孝に、こちらも軽く拳をあわせて応える。

「よし、それじゃあ行くぞ」

 毒島先輩が号令を出す。

 それに頷いて、俺たちは住宅街に

向け走り出した。










 ─Interlude─



 士郎たちが角を曲がって見えなくなったところで、孝はもう一度安堵のため息をついた。

 ────生きていた、2人とも無事で。

 彼らが放り出されてからというもの麗は紫藤のこともあって酷く荒んでいたし、智江はずっと不安げで落ち着きがなかった。
 唯一沙耶は冷静を装っていたが、内心不安を押し殺していたに違いない。

 そしてそれは孝も同じだった。
 沙耶の言葉もあり士郎たちの生存を信じて……いや、むしろ極力考えないようにしていたものの、その実最も心穏やかではなかったかもしれない。
 その日のうちに親友を2人も亡くすことになるのではないかという恐怖が常に頭の隅にあった。
 バスを降りてからは自分たちが生き残ることに必死でそれどころではなかったが、当座の宿を確保したところでまたその不安はぶり返してきた。
 反対する麗たちを押し切って智江の家に向かおうとしたのは、それを振り切りたい思いもあったのだろう。

 それが吉と出た。出来すぎたほどの幸運が重なってどちらも欠けることなく再会を果たせた。
 いや、むしろ増えてたけどな。と、ありすに顔を向けるとあどけない表情で首をかしげている。

 ともかくまた別行動を取ることになったが、それでも安否が全く分からなかったときよりは断然マシというものだ。

 早く戻ってみんなに知らせてやろう。孝はバイクに向き直ると後部にくくりつけられたバッグを再度調整した。
 冴子たちが持ってきた荷物はこちらで引き取ることになった。全員両手が使えるのが望ましいし、徒歩で余計な荷物は命取りだと言う判断からだ。救命物資に足元をすくわれては笑い話にもならない。
 あとはここにありすを乗せれば完了、すぐに発進できる。お菓子や飲料水のボトルで座りは悪いだろうが体の小さな彼女なら問題ないだろう。

「お……お兄ちゃん……」

 服のすそを引っ張ったのはそのありすだった。なにやらもじもじと顔を赤くして膝頭をすり合わせている。

「ん? どうした?」

「お、おしっこしたい……」

「うぇ!? が、我慢は!?」

「ちょっとなら……っ」

 そういう間にも限界が近づいているのか、せわしなく足踏みをはじめている。
 慌ててありすを荷台に乗せ、自分も飛び乗るようにしてサドルにまたがった。

「ちょ、ちょっとだけ耐えてくれ! ゆれるけどしっかりつかまってろよ!」

「ゆれると出ちゃうよぉ~~~……っ!」

 エンジン音と幼い悲鳴の混ざった尾を引きながらバイクは急発進する。
 <奴ら>がその音に引かれて近寄ってきたが、唸りを上げる鉄の馬に追いつくことはなかった。









 徐々に近づいてくるバイクの音に最初に気づいたのは麗だった。
 平野たちと行っていた武器探し……という名の家捜しを放り出して慌ててベランダに飛び出る。期待に違わず通りの向こうから近づいてくるのは先ほどここを発ったバイクだ。

「孝たちが帰ってきたわ!」

 中にいた沙耶や鞠川にともすればややおざなりに声をかけ、玄関を出て門の前に待ち構える。
 頑丈な鉄柵で出来た門の外には<奴ら>がうろついてはいるが、幸いバイクに気を取られてこちらには気づいていない。

 震えるようなエンジン音が大きくなっていき、麗はタイミングを見計らう。
 そして、

「いまだ、開けろ!!」

 バイクの音に負けじと張り上げられた声に合わせて勢いよく門戸を開け放つ。
 そして孝たちが飛び込んだのを確認し即座に閉じる。上手いことに<奴ら>は一匹も入っていない。打ち合わせもしていないにしては神がかった息の合い方だった。

 玄関前に飛び込んだバイクは後輪を滑らせながら停車。
 そのサドルには出て行ったときと同じ少年と少女が……、

「孝……って、え!?」

 乗っていなかった。
 孝は間違いなく孝だ。だが後ろに乗っている少女は、一緒に出て行った有瀬智江ではない見覚えのない幼い女の子に姿を変えている。
 しかもよく見るとその少女が座っていたところには出掛けにはなかったバッグが積まれているではないか。

 最悪の想像が麗の脳裏に浮かぶ。

「ちょっと孝、有瀬さんは……まさか!?」

「今それどころじゃないんだ、玄関開けてくれ!!」

 だが孝はそんな麗に目もくれず、何かに急かされるように大慌てで少女を抱きかかえる。

「ちょっともう、1人で行かないでよ! 何かあったら、ってきゃ!」

「み、宮本さん、小室、大丈夫………っととうわぁ!?」

 ちょうどそこに沙耶や平野が玄関を開けて出てくると、それを孝は押しのけるようにして部屋に飛び込んで行く。

「何なのよもう!」

 悪態をつく沙耶にこっちが聞きたい、と肩をすくめると同時、奥から情けない叫びが聞こえてきた。

「鞠川先生ーーーーっ! トイレってどっちですかあああぁぁぁ!?」

「もうもれちゃう~~~~~~~っ!!」

「………………なんなのよ、ホントに」



 あわやというところでありすをトイレに放り込み事なきを得た孝は、リビングで全員を集め事のあらましを説明した。
 途中で士郎たちと出会ったこと。そこに一緒にありすとその父親がいたこと。彼らはそのまま智江とありすの家を捜索しに行ったこと。

 その報せを聞いた瞬間5人で囲んでいたテーブルに身を乗り出したのは鞠川だった。

「ホントに!? ホントに衛宮君も毒島さんも無事だったのね!?」

「ああ、2人ともぴんぴんしてたよ」

「よかったぁ~~~~……私のせいで2人ともって思ったら私、もう……」

 鞠川もまたずっと2人の身を案じていた。
 殊更に士郎たちが投げ出された瞬間ハンドルを握っていたこともあり、自らのせいで彼らに何かあってはあまりに申し訳ないと罪悪感に押しつぶされかけてさえいた。
 その不安や落胆を露骨に表に出すのは年長者として相応しくない態度だったが、そこで"大人"になるには彼女はまだ若すぎたし、また冷静でもなかった。

 対していの一番に食いつくかと思われた沙耶は、むしろ淡々とどこか冷めた顔をしている。

「ふぅん……で、そのまま行っちゃったわけね。こっちに顔を見せもしないで」

 神経質そうに眼鏡を直しながら話す口調はやはり冷たい。

「いやまあ、だから僕が報せに戻ったっていうのもあるんだけど」

「どっちでも同じよ全く。ホントにあのバカは死んでも治らないみたいね」

 切って捨てるように言うと、沙耶は席を立ちそのまま2階に続く階段に向かう。

「あの、高城さん、どこに……」

「なんだっていいでしょ! こっち来ないでよ!!」

 心配そうに声をかける平野をすげなく振り払い、どすどすと重い足音を響かせながら上に引っ込んでしまう。
 弟の無事を聞いてもまるで嬉しそうな様子を見せない沙耶をコータは訝しんでいたが、孝と麗は握った拳が震え、目の端が眼鏡のレンズ以外のもので歪んでいたことに気づいていた。あえて追求することはしなかったが。

 どうにも素直でない沙耶にため息をつき孝は話題を変える。

「そっちはどうだった? 何か見つかったか?」

「そうだ!! すごいよ、見てくれ小室!!」

 興奮した様子で平野が取り出したのは、長身の二丁の銃。
 そのマットブラックの塗装や、複雑ながらも洗練されたデザイン、各所に取り付けられたオプションを見るにライフル……いや"軍用"ライフルと形容するのが最も相応しいだろう。

 全体的に細長い印象を与えるのはスプリングフィールドM1A。第二次大戦期に製造され現在に至るも改良を重ね一線で活躍を続けるロングセラーライフル、M14シリーズのコマーシャルモデルだ。
 基本的にはM14からフルオート機能を排除したモデルだが、その射撃精度や造形の美しさから米国においてはライフルマニアの間で絶大な人気を誇っている。
 平野が持つ鞠川の親友……彼女の話では警官だという南リカのものはバリエーションのひとつであるスーパーマッチを元にカスタマイズされており、ぱっと見ただけでもダットサイト、増設されたレイルシステムにフォアグリップ、フラッシュライトとオプションが惜しげもなく取り付けられている。

 もう一方は孝にもどことなく見覚えのある銃だった。
 米軍制式採用銃であるM16の前身となったAR-10を徹底的に改造し、SR-25狙撃銃風に仕立て上げている……とは平野の説明だが、孝には何がなにやらさっぱりだ。
 こちらは銃身下部に二脚バイポッドが取り付けられており、上部には光学スコープが鎮座している。

 ギャグでも玩具でもない、どちらも実銃だ。
 いずれも中~長距離射撃に適した仕様になっている。

 さらに平野の話ではこの他にもポンプアクションのショットガンとクロスボウを一丁ずつ発見したらしい。
 ごとりとテーブルに並べられたライフルを前に、孝は盛大にため息をついた。

「……一体何者なんですか、静香先生の友達って」

「えぇ? 普通のおまわりさんだと思うけど~……」

「どこがですか……けど見つけたのはいいけど、使えるのか?」

「弾薬もあったし整備状態は良好。むしろやばいくらいだね、こんな即撃てるような状態で置いておくなんて完璧違法だよ」

 うふふふふ、と笑う平野は陰を背負ってる割に妙に生き生きとしている。

「僕はこのくらいなら余裕だし、小室たちも少し慣らせばすぐ使えるようになると思うよ。ただ……」

「ただ?」

「使いどころは難しいね。下手な距離で銃声を響かせればたちどころに<奴ら>の餌食だ。十分距離をとって使うのが理想だけど、そうするとあえて撃つ必要もないってこともある」

 伊達にガンマニアをやっていない平野は銃を手にして興奮してはいたが、その運用に関してはむしろ最も冷静だ。
 先の2丁はいずれもあくまで狙撃銃だし、手に入れた銃の中では唯一ショットガンが中~近距離での制圧力に長けているもののやはり銃声がネックとなる。強いて真価を発揮する状況があるとすれば、<奴ら>に囲まれているときだろうが……、

「そんな状況には陥らないのが一番……ね」

「そういうこと」

 げんなりした様子の麗に平野は頷く。

 孝はそれを聞くと険しい顔で立ち上がり、カーテンの引かれた窓に寄ってそっと外を覗いた。

「もしかしたらすぐ必要になるかもしれないぜ」

「どういうこと、孝?」

 麗も傍によって来て並んで外を覗くと、すっと通った細い眉をハの字にしかめた。

 通りには<奴ら>がうろついている。ぱっと見ただけでも5,6体。少し見回せばもっとだ。
 幸いにもこちらには気づかずメゾネットの前は素通りしているものの、孝らがここに来たときよりも確実にその数を増やしていた。
 低い呻き声が部屋の中まで届いてくる。怨嗟の唸りのようなその声に麗は背筋を震わせた。

「<奴ら>、どんどん増えてる。士郎たちが戻ってくるときに援護が必要かもしれない」

「…………何とかならないか考えてみるよ」

「頼む」

 言うが早いか、平野はああでもないこうでもないと銃を弄繰り回し始める。既に周りのことは目に入っていないほどの集中力だ。

 それを呆れるべきか頼もしいと思うべきか複雑な心境で眺めていると、腕に暖かいものを感じた。
 麗が寄り添ってきている。その顔は酷く不安げだった。

「……みんな大丈夫だよね、衛宮君も毒島先輩も有瀬さんも。それに私や孝の家族も……私たちも」

「………………わからない」

 正直な答えだった。
 希望、なんて言葉が今ほど遠いと感じたこともない。離れた場所にいる誰かはおろか、自分たちの安全でさえ確固としたものではないのだ。
 孝には誰が無事とも、自分たちがどうなるとも答えることは出来ない。単純に分からないからではなく、それを深く考えれば考えるほど、最悪の結末しか思い浮かばないからだ。

「けど、何とかするしかないだろ」

「…………そう、ね」

 麗の暗い顔は晴れなかったが、先ほどよりも強く孝の腕を抱きしめる。

「そうだ、あのカバンってどうしたの?」

「ああ、なんか士郎たちが途中のコンビニで……」

 少なくとも今はただ、待つことしか出来なかった。



 ─Interlude out─







 有瀬家は通りに面した何の変哲もない戸建ての民家だった。
 外門から入ってすぐに猫の額のほどの庭と駐車場があり、見たところ車は停まっていない。庭にある申し訳程度のガーデニングプランターは無残にひっくり返っている。
 外から様子を見て真っ先に目に入ったのは庭に繋がる割れた窓ガラスだった。風にカーテンがたなびき、何者かがそこから侵入したことを物語っている。

 俺と毒島先輩、有瀬、そして希里さんは玄関前に身を潜めて中の様子を伺うが、だがやはりここからでは屋内がどうなっているかはよく分からない。

「連絡は取ってみたのか?」

「さっき小室君に携帯電話借りて……一回だけ繋がったんだけど、誰も出なくて……」

 有瀬の顔は青い。
 自宅に<奴ら>が侵入したかもしれないと言うのは、どう軽く見積もっても愉快な想像ではなかった。
 車がないと言うことは出かけたかあるいは既に逃げたあとかもしれないが、こればかりは中の様子を見て見ない限りなんともいえない。

「とにかく、中に入ってみよう」

 ドアに手をかけ皆に合図を出す。
 毒島先輩がすぐ横で鉄パイプを構え、希里さんは有瀬を挟んで後方の警戒をしている。

「開けるぞ」

 俺は戸板に身を隠すようにしながら出来るだけ音を立てないようにドアを開け、何が飛び出してきても対応できるように毒島先輩が鉄パイプを構えて中の様子を伺う。

 入ってすぐのところには何もいなかった。玄関には靴がたくさん並べられていたが、どれも雨靴やサンダルなどこの時期頻繁に履くものではない。ただやはり子沢山の家らしく圧倒的に子供用の靴が多いのが印象に残った。
 軋む床板に気をつけながら1歩1歩奥に進んで行く。
 玄関から伸びる廊下は真っ直ぐで突き当たりに洗面所が見える。その途中にリビング、2階へ続く階段、物置と思われる扉があるが今のところそのどこにも<奴ら>の姿はない。

 先頭を進む毒島先輩がリビングにつながるガラス戸に顔を寄せる。そのままこちらに振り返らずにそっと口を開いた。

「有瀬、君の家族構成は? 今の時間家にいるとしたら誰だ?」

「え? えっと、両親と私たち兄妹4人の6人で……今の時間なら、お母さんと弟たちの4人だと思います」

「ならばあれは不法侵入者ということになるな」

 毒島先輩がその場を譲り、俺と有瀬も室内を確認してみる。
 そこにいたのは大学生くらいの男……男だったものだ。正体なくぼうっとした様子で立ち尽くしている。ちらちらと見えるシャツのシミやあちこちについた噛み傷、それに光のない白濁した眼をを見るに間違いなく<奴ら>だ。
 アイツが窓ガラスを破った張本人だろう。その証拠によく見ると服といわず肌といわずあちこち裂けて、ガラス片が刺さったりしている。
 念のために確認するが有瀬は見覚えがないと首を振る。

 もう一度中を見回すが、室内にいるのはどうやらそいつだけのようだった。

「よし、俺が行ってくる」

「……分かった。見えないところにまだいる可能性もある、十分注意するんだ」

「衛宮君、気をつけてね……」

 有瀬たちに見送られながらそっとドアを開き、バットをぶつけないように注意しながら体を滑り込ませる。ドアは閉じずに念のため有瀬に開けたまま押さえておいてもらう。
 なるべくすり足のようにして足音を殺しながら男に近づいて行く。
 テーブルを回り込み背後を取る。ちょうど窓から差し込む夕日を背にする形になり、男の姿を見誤ることもない。

 残り2mとない距離を慎重に、息を殺しながらゆっくりと近づく。
 もう手を伸ばせば届く距離に来て、俺はバットを振り上げた。

 かたん。

 バットの柄がテーブルにぶつかり軽い音を立て、俺の心臓もひとつ脈を飛ばして打った。
 のろりと振り返る男の脳天に全力でバットを振り下ろす。

 硬いものを叩き割った感触を手に残して男はあっけないほど簡単に床に崩れ落ち、それきり動かなくなった。

 ひとつ息をついて辺りをもう一度確認する。
 もう<奴ら>の気配はしない。台所の陰や居間のほうにも誰の姿も見られない。

「よし、もう大丈夫だ」

 安全を確認して廊下で待機していた3人を呼ぶ。
 毒島先輩の後について入ってきた有瀬はびくびくと落ち着きがなく、まるで他人の家に預けられた臆病者のリスのようだ。

「有瀬、平気か?」

「衛宮君……うん、だいじょうぶ。でもなんだか自分の家じゃないみたいで……変だよね、こんなの」

 そういって笑う有瀬の頬は引きつっていていつもの朗らかさはうかがえない。

 自宅は、誰にとっても最も落ち着きや安らぎを得る空間であるはずだ。誰に気兼ねすることなく寝起きし、食事をとることができ、自らを形作る多くのものが息づき、そして家族の待つ場所。
 人によって違いはあるかもしれないが少なくとも寮生である学生たち……そして有瀬にとって間違いなくここは最後に帰ってくる場所だったのだ。

 そこに見知らぬ他人が、招かれざる<奴ら>が侵入した今、彼女は帰る家を失ってしまったに近い。

 ここはもう、有瀬にとって安息を与えてくれる我が家ではなくなってしまったのだ。
 俺に今の彼女の気持ちを推し量ることは、きっと出来ない。

「あ、でもホントに大丈夫だよ! それより早くお母さんたちのこと確かめて、みんなのところに戻らないと」

「……ああ、そうだな。そういえば希里さんは?」

「えっと、さっき2階の様子を見てくるって」

「2人ともちょっといいか?」

 毒島先輩の声に振り返ると、彼女は台所のほうからお皿に並んだおにぎりを持って来た。
 おにぎりにはラップがかけられており、その上からメモ書きのようなものが貼り付けられている。

「台所に置いてあった。君の弟宛てではないか?」

 ────浩太へ、聡が熱を出してしまったので美雪と一緒に病院にいってきます。遅くなりそうだったら冷蔵庫のカレーを温めて食べてね。母より。

 メモにはそう書かれている。ごく普通の、何の異常も感じさせないメッセージだ。

「あ、これ……多分川の向こうの総合病院だと思います。聡、一番下の小学生の弟なんですけど、たまに熱が出ることがあって」

 どうやらしばしばあることらしい。
 つまるところ彼女の母と下の弟妹はこの異変が起こる前に家を出ていたのだろう。

 加えて浩太というのは第一中学校に通う上の弟で、よく部活で遅くなることもありまだ帰宅していないだろうという。

 決して安否が確認できたわけではないが、それでも彼女の顔には安堵の色が伺えた。
 少なくともこの家で何かがあったわけではなくまだ別の場所で生きている可能性があると言うのは、多少なりとも有瀬の希望になったといえるだろう。
 それに第一中学校といえばやはり川の向こう側。孝の母親が働く小学校にも近いし、今後立ち寄ることは可能なはずだ。

「じゃああとは希里さんちか……」

 仕事で県外にいるという父親にはまた別に連絡を試みるほかない以上、もうここに留まる理由はない。

「何か持ち出したいものがあればかさばらない程度に、」

『うわぁ!?』

「!?」

 がたがたとものをひっくり返したような音と共に聞こえた声。
 今の声は……希里さん!?

「二階だ!!」

 まさか。
 まさかまさか。


 ────他にもいたのか!?


 毒島先輩と弾かれたようにリビングを飛び出し階段を駆け上がる。だが先輩は階段の途中で不意に足を止めた。
 つられて上を見ると、当の希里さんが泡を食った様子で上から降りてこようとしていた。

「び、びっくりしたよ、まさか上の階にもいただなんて」

 そういう希里さんは右手に警棒を持ち、そのYシャツには……べったりと血がついている……ッ。

「希里さん、まさか……」

「ああいや! 私は大丈夫だ、これは襲ってきたやつの血だから」

 うめくような俺の声に乱れた服を直し、巻くってていた袖を伸ばしながら答える彼は大きな怪我を負った様子もない。
 本人の言うとおり返り血がついているだけなのだろう。

 よかった……けれど入り込んでいたのが一体だけだと思っていたのは完全に油断だった。

「そいつはどうしました?」

「倒したよ……多分有瀬さんの家族じゃないとは思うんだが……」

 襲ってきたのは女だったらしいが、やはり有瀬の知っている顔ではなかった。下の階の男と一緒に入ってきたのだろう。

 毒島先輩は大きくため息をついて首を振る。
 その顔には苦いものが浮かび、恐らく自責の念に駆られているのだろう。

「申し訳ない、貴方を一人で行かせたのはうかつでした。今後はどんな場所でも決して単独で行動しないようにしよう」

「私も軽率だったよ。これからは気をつけよう。うん、これからは……」






 ひとまず有瀬家の捜索はこれで終了となった。
 有瀬は下着を含めたかさばらない程度の着替えと救急箱、それに役に立つかもしれないということで魔法瓶型の水筒をカバンに詰め、万一<奴ら>に捕まってもすぐ手放せるよう肩から下げる形にして家を出る。

 玄関を出るとき、有瀬はもう一度かつて我が家だった場所を振り返った。
 その表情に浮かんでいる色を表すのは難しい。不安、悲しみ、あるいは郷愁か離別か。

「私……ここで生まれて、ずっとここで暮らしてきた。また、戻ってこれるかな」

 その希望が叶う見込みが薄いことは俺にも、そして有瀬にも分かっているのだろう。
 当面この家には、少なくともこの異変が続く限り戻ってくることはない。そして<奴ら>の脅威はいつ消えてなくなるともしれない。

 これが例えば震災のようなものであれば、全てが通り過ぎたあとにまた戻ってきてやり直すことはできる。辛く苦しい時は続くかもしれないが終わらないものではない。

 だが<奴ら>は違う。<奴ら>は動き続け、歩き続け、そして人を襲い続ける。
 あるいはそのうち腐り落ちていく可能性もないではない。だがそれがいつになるとも全く分からないのだ。

 ────<奴ら>が動き続ける限り、恐怖も悲しみも絶望も、永遠に続いていくのだ。

「きっとまた戻ってこれるさ」

 しかしそれを正面から受け止めてしまえば俺たちはきっともう先へ進むことは出来なくなる。
 だから俺は、ハリボテの希望を口にすることしか出来なかった。

「そうだね……きっとそうだよね」

 その声は弱弱しかったが、それでも笑顔を……日ごろ回りのみんなを暖めていたあの笑顔を浮かべられる有瀬は、きっと凄く強いんだなとぼんやり思った。





 希里さんの家までは2分とかからない距離だったが、家の前についた頃にはもうすっかり日が沈んでしまっていた。
 幸いまだ電気系統が生きているらしく街灯やいくつかの家々には明かりがともっている。だがもうこれ以上時間をかけることはできないだろう。

 時間が経過するにつれ目に見えて<奴ら>の数が増えている。
 まだ俺たちの移動を阻害するほどではないが、いずれ徒歩での移動は困難になるに違いない。

 どこからこれほどの数がやってきているのかはわからないが、どこに向かっているのかだけは一目瞭然だ。
 ここでも一際光と大音量を放っている場所が分かる。
 御別橋だ。有瀬の話では渡河制限がかかって酷い混雑に陥っていたらしい。

 増設されてるらしいライトの明かりと拡声器を通した声が聞こえてくる。距離もあり内容は分からないが、<奴ら>がそれを標的に動いているのは確かだ。

 皆がそこでバスを降りたのは正解だったかもしれない。
 恐らく御別橋は時をおかず地獄絵図と化すだろう。いや、あるいはもう既に。

 その様を想像し、あまりにやりきれない思いが胸に沸き起こる。
 だが今はそちらに気を揉んでいる場合ではない。


 俺は振り返り、目の前にある希里さんの家を眺めた。


 基本的には有瀬の家とそれほど変わらない一戸建てだが、こちらのほうがやや小奇麗な印象を受ける。
 モダンな洋風建築でそれほど広くは見えないが家族3人で暮らすには十分だろう。やや建ててから時間がたっていると見えた有瀬家もそうだったが、それぞれの家柄をそのまま表しているように見える。
 こちらの家にも小さなガーデニングプラントが置いてあり、有瀬の家よりもいくらか手が込んでいる。奥さんの趣味だろうか。

 しかし。

 もう日も暮れたというのに、その家には明かりが灯っていなかった。どの窓も暗く沈黙し、中に人の気配を感じさせないでいる。
 外部から荒らされたり侵入されている様子が見られないだけに、静まり返った家はむしろもの寂しさを助長している。

「………………」

 緊張を隠しきれない様子で希里さんが玄関の戸を開ける。ゆっくりと、慎重に。
 そして恐る恐る声をかける。

「………………君子?」

 奥さんの名前であろうか、小声で二度三度と呼んでいるが返事はない。
 希里さんの向こうに見える玄関はやはり暗く、人の気配がしない。

 彼はこちらに振り向き目で合図すると、玄関のうちに入り手探りで室内灯を灯した。

 玄関とその奥に続く廊下にはやはり誰もいない。
 だが玄関には女性ものの靴が一足、ちょっと乱れて置かれているし、それに。

「………………ッ!!」

 それに、廊下に。


 ────血のあと、が。


 ぽたぽたとたらしながら移動したような跡は、玄関から廊下を通り、奥の居間に繋がる扉に続いている。

「君子ぉッ!!」

「待て、気をつけろ!!」

 毒島先輩の制止も虚しく希里さんは弾かれたように走り出し居間へと駆け込んで行ってしまう。
 先輩がひとつ舌打ちし、俺たちもすぐにそのあとを追いかける。

 居間の中はやはり暗い。
 だが外から差し込むわずかな明かりに、ぼんやりとソファに誰かが横になっているのだけが見て取れた。

「君子、しっかりしろ君子!!」

 希里さんはその傍らに膝をつき、必死に体を揺さぶっている。

 ぱちん、と。
 毒島先輩が戸口の横にあったスイッチを入れると、蛍光灯の明かりに室内の様子が浮かび上がる。
 
 居間は洋風の調度品で揃えられた落ち着いた空間で、よく整頓、掃除されおり家事をしている人間の几帳面さが伺える。
 サイドボードには写真立てが並び、そのどれもありすを中心として家族で写っているものばかりだ。ひとつだけ両親だけが写っていて少しピントがぼけているのはありすが撮ったものかもしれない。
 部屋のすみの観葉植物も青々と茂っており、よく丁寧に手入れされていたことが分かる。

 まるで絵に描いたような幸せな家庭の、ここはその中心部だ。

 そしてそこにいま、1人の女性が……写真にも写っているありすの母親が、憔悴した様子で横たわっていた。

「……あな、た……おかえりなさい。今帰ってきたの……?」

「ああ、ああ。僕だよ、今帰ったよ!」

 彼女は綺麗な人だった。
 おっとりと穏やかな印象を与え、肉体を描くラインも緩やかな女性らしさを持っている。
 ありすと同じ色をした髪、全体的な顔の造形から間違いなく彼女たちが親子であることや、きっとありすも成長すれば母親に似た美人になるだろうこともわかる。

 だが彼女の腕にあるあの傷は。

 大きさはそれほどでもない。だが今までに何度となく見て来た以上見間違えたりはしない。
 あれは間違いなく<奴ら>に噛まれた傷だ。

 まだ辛うじて人間として生きているものの、息は荒く、口の端から血液混じりの唾液がこぼれている。

 嫌でも理解できてしまう。


 ────もう彼女に、ありすの母に未来はない。


「あなた……さっきから、街の様子が変なの……。お隣の奥さんが襲ってきて……すごく頭がいたいわ……」

「大丈夫だ、もう何も心配要らない。僕がいるから、安心するんだ」

「ん……ねえ、あの子は? ありすはどこ、一緒じゃないの……?」

「ありすは無事だよ、今は安全な場所にいる。彼らの仲間が匿ってくれてるんだ」

 希里さんが1歩脇に退き俺たちを指し示し、それで初めて彼女はこちらの存在に気づいたらしい。
 「まあ、いらっしゃい」と場違いな挨拶をすると、やつれた頬に笑みを浮かべる。俺たちもつられて頭を下げた。

「よかっ……た、ありすは無事なのね。ふふ、きっと心配、してるわ……はやく顔を見せてあげないと」

「そうだね、大丈夫、すぐに会えるさ」

 それが叶わないということは、もう誰の目にも明らかだ。
 いつ噛まれたのかは分からない。だがもう間もなく彼女は息絶えるだろう。

 ありすに再会することなく。

 娘の成長を見届けることも出来ず。


 そして、変貌するのだ。
 たとえ相手が娘であろうと、容赦なく喰らい殺す化け物へと。


 ぎり、と音が聞こえる。
 見ると毒島先輩が固く歯を噛み締めていた。鉄パイプを握る手は力が入りすぎて真っ白になっている。

 有瀬が耐え切れず、俺の腕にしがみついて嗚咽を漏らし始めた。
 俺はそれを慰めるでもなく、ただ呆然と目の前で起きていることを眺めていた。

 眺めていることしか、出来なかった。
 俺には、


 彼女を救うことは……出来ない。
 死に至りつつある女性を前にして、俺は、


 ────ただ見ていることしか、出来ないのかよ…………ッ!!


「ごめん、なさ……少し疲れたわ。ちょっと休んだら……お夕飯を、」

「君子? 駄目だ君子、しっかりするんだ! 君子!!」

「今、夜……は、あの子の好きな……こほ」

 小さく咳き込んだ拍子に、形のいい唇からどろどろと黒ずんだ血があふれ出す。
 まるで何かおぞましいものに支配されていくように、こぼれでた血はありすの母の体を汚していく。




「そんな……ああ、ウソだ……君子、君子…………ああぁぁあぁぁあああぁぁぁぁあぁ……!!!」




 それきり、彼女の体はぐったりと弛緩し、二度と人として動くことはなくなった。
 希里さんの悲痛な慟哭だけが部屋の中を満たし続ける。

 何の罪もない、ささやかで平凡で、だけど幸せだったであろう希里家は…………今ここで崩壊した。
 もう彼らの愛した女性は、永遠に失われてしまった。

「なんで、君子…………ああぁぁ、ごめんよ、僕がもっと早く帰ってれば……ッ」

 奥さんの亡骸にすがってうなだれる希里さんに、毒島先輩がそっと寄り添いその肩を叩いた。

「…………酷なようですが、もう行かないと。それにこのままでは、奥方も」

 そうだ。
 <奴ら>のもたらす死は彼女を安らかに眠らせてはおかない。
 それを防ぐためには…………もう一度彼女を殺さなければならないのだ。

 この上なく残酷な決断を迫られ、希里さんは重い沈黙を背負う。
 <奴ら>はこうして2度3度と愛おしい人間を奪っていく。形のない敵に耐え難い怒りが沸き起こる。

 希里さんは彼女の亡骸を汚すことを拒むかもしれない。あるいはその時は俺たちがそれを代わるべきなのだろうか。
 いずれにしろ彼の出す結論次第だ。

 だというのに、彼は。



「すまない……君たちだけで行ってくれないか。僕は、妻とここに残るよ」



 なん、で…………ッ!!

「何言ってるんだよ! それじゃああの子は、ありすはどうなるんだ!!」

 奥さんを喪って絶望する彼の気持ちが全く分からないとは言わない。
 だけどそれで死を選ぶだなんてあまりにも馬鹿げてる!

 第一そんなことをすれば、ありすはたった一人この世界に取り残されることになるんだ。実の父親がそんな選択をして良いはずがない!

 けれど希里さんは、泣きはらした赤い目で、なぜか顔に笑みを浮かべて首を振った。

 ────違う、笑みなんかじゃない。


 あれは、単に何もかもを諦めた、そんな顔だ。


「まさか、貴方は……」

 何かに気づいた毒島先輩がハッと息を呑むと、希里さんはそれを肯定するように頷いた。

「僕も、もうありすに会うことは出来ないんだ」

 そう言いながら彼はYシャツの袖をめくる。
 あらわになった腕に刻まれた赤い傷跡に、俺も有瀬も、毒島先輩も言葉を失うしかなかった。

 ────なんでだよ……どうしてそんな……。

「有瀬さんの家でね……油断したよ。いや、ありすを君たちに預けて安心してしまってたのかもしれない」

 自嘲気味な希里さんには覇気……あるいは生気が感じられない。

「……それは、その……」

「いいんだ、あの時1人で行動したのは僕の責任だよ。早くこっちに来たくて焦っていたんだ」

「っ…………」

 珍しく押し黙る毒島先輩に彼は弱弱しい笑顔を向ける。
 その顔が、逆に胸をえぐる。

 あまりにも致命的な失敗だ。このままではありすは本当に家族全員を失うことになる。

 なにか。
 何か手はないのか? どうにかして<奴ら>にならずに済む方法はないのか!?

 無意味な言葉の羅列だけがぐるぐると脳裏を駆け巡り、何一つ実りのある案は浮かんでこない。

「衛宮君」

「あ、え……?」

「ひとつ、いやふたつだけお願いしてもいいかな?」

 なんと答えるべきだったのだろう。
 俺は結局何も言えずに彼の次の言葉を待った。

「ありすを、娘を頼む。会ったばかりの君たちにこんなこと言うのはおかしいけれど、君たちなら任せられる気がするんだ」

「………………」

 少し悩んで、ひとつだけ頷いた。

「ありがとう。それから、君のそのピストルをもらえないかな」

「ッ!!」

 思わず腰のベルトに手が伸びる。
 そこには孝から受け取った拳銃が差してある。黒光りするシリンダーに装填された5発の弾丸は、まだ一発も使っていない。
 どうしてもなくてはならないものではない。
 むしろ<奴ら>の特性を考えれば下手に使ったところで自分を窮地に追い込みかねない代物だ。孝から預かったものではあるが、ここで手放すこと自体に抵抗はない。
 
 だが希里さんが何を思ってそれを必要としているのか考えればこそ、ここで素直に手渡すのは憚られた。

 返答を渋っているうちに希里さんは立ち上がり、さっと俺の腰から拳銃を引き抜いた。
 結局、俺は抵抗するともなくそれを受け入れた。

「すまない、君たちには本当に感謝している。けど……最後だけは、妻と2人で過ごさせて欲しいんだ」

 もうそれしかないのだろうか。

 ただ黙って彼らの死を見過ごすしかないのだろうか。
 希里さんの死は彼1人の問題じゃない。この人が死んでしまえばありすはたった一人だ。

 この狂った世界で。

 死と破滅が支配する中で。


 "あの時"の俺と同じように。


 だから俺は────。




















 ぐ、と腕を引かれた。しがみついていた有瀬が俺の手をとって外へと促している。
 毒島先輩も被りを振って踵を返した。

 思いのほか強く腕を引く有瀬に連れられるようにして、俺も希里家を後にする。

「あの子に謝っておいてほしい」

 背中にそんな言葉を投げかけられる。




 玄関の戸を出てすぐ、住宅街に乾いた銃声が2度響いた。









/*/


 長くなってきたので泣く泣く分割。
 オリジナル展開してると構成の悪さに皮が剥けてくる思いです。もっとまりっとしたい。

 もう2話ほどでチャプター2も終了。
 一区切りしたところでちょっとお休みさせてもらい、別所で更新停滞していたほうのSSの執筆をしたいと思います。
 出来れば交互に進められる位にはしたいんですが……ちょっとペース落ちるかもしれません。で、でも頑張る。

 あと9月半ば頃からはまた別に更新が滞る可能性があります。
 理由? い、忙しいからに決まってるじゃない!
 余談ですがHALO:Reachが楽しみでなりません。買ったら誰か一緒に遊びませんか。


 これも余談ですが希里母の名前について。

 希里夫妻の名前が不明だったため君子は捏造です。
 実はちょっとだけ君子という地味な名前を気にしており、娘には可愛らしい名前をつけたがったという妄想。
 女の子らしく裁縫とかガーデニングとか教えようと思っていたのだが、親父さんの仕込んだマウンテンバイクとか思いのほか活発に育ちつつありあらあらどうしましょうとか思いながらも幸せに暮らしてました、とかそんな設定。

 奥さああああああああああああぁああああああああああ(ry


■関係ないゾンビ話 

 なんか最近ツイッターとかでもとみにゾンビトークが盛り上がって楽しい日々。みんななんか感染してるんじゃないだろうか……。
 そしてサバイバル・オブ・ザ・デッドが観たい。
 
 ま た 知 能 派 ゾ ン ビ か !!

 バイオハザードIVはWOWOWかなにかでやるまで放置でいいや……完全にゲームとは別物になったと思ったらウェスカーだけ原作再現ってどういうことなの。
 あとレオン出演キャンセルとか。4まで音沙汰なかったと思ったらディジェネレーションやダークサイド・クロニクルズで頑張りすぎたんだろうか。レオン好きなのに。

 なんか面白そうなゾンビものの話題とかあったら是非教えてくだされ。




■レス返し

>孝と先輩を行かせたら孝がフラグ立てちゃいそうだし。

・かといって士郎とフラグが立つわけでもないんだぜ……ッ。いやまあ、ヒロイン枠ってことで読者諸兄の『毒島先輩とちゅっちゅしたいお!』という欲望に突き動かされてる感はないでもないですが。
 こういうこと言うとホントかよ、って思われそうですが私は麗が好きです。なので彼女には素直に孝とくっついて幸せになってもらいたい。
 べ、別に沙耶や毒島先輩をヒロイン枠に入れてる言い訳じゃないんだからね!


>毒島先輩も子守役が板についたなあ。

・っていうか士郎と絡むと大体みんな子守ポジションに。
 衛宮君マジ聞かん坊。桜くらいではないでしょうか、彼を下から支える人間というのは。


>士郎と孝がノンストップで暴走は必然。

・作者的には孝が割とブレーキ役なんじゃないかなーと思ってたり。原作読む限り結構冷静と言うか、醒めてるキャラだったようですし。でもいざとなったら突っ走るのかな、やっぱり。
 幼少時、普段は2人とも常識的に遊んでるくせにいざとなると士郎が暴走、孝はそれにツッコミながらも結局引きずられて悲惨な目に、みたいな?


>個人的には沙耶ルートも見たい。

・私もそろそろ沙耶さん書きたい。


>士郎って弓だけでも出鱈目よね。

・普通にチートだと思います。


>ありすと親父さんの行動。

・はい、おおむねそんな感じを想定してました。


>詰み選択肢=どれを選んでも色恋の修羅場回避不能な選択肢だらけ!

・Nice boat.
 だから何故そんなにマゾい方向に持って行きたがるのかと小一時間。


>士郎はロリコンだからな。

・HAHAHA、そんなわけないだろう。
 さてと、ありすを妹化する計画はと……。





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