うーん……俺の好みで言うなら、
「そうだな、毒島先輩は美人だと思うぞ」
「んなっ!?」
すらっとした体躯はピンと一本線が入っているように伸びていて、モデルばりのスタイルを更にカッコよく見せている。
たなびく黒髪も綺麗だがやはり印象的なのはその眼差しだろうか。
眦のきゅっと釣りあがった瞳は一見して鋭い印象を強く植え付けるが、それは決して冷淡なばかりのものではない。
先ほどの笑った顔もそうだが、その奥にもっと人を惹きつける強い意志のようなものを感じる。
赤く燃え盛る炎ではない。もっと静かに青く燃える火だ。
あるいはそう……まさに剣の切っ先のように、うかつに手の触れることの出来ない……、
「そうじっと見つめられると、流石に恥ずかしいな」
「あ"、いや、すみませんつい……」
「構わないが……存外フェミニストのようだな、君は」
なんていって満更でもないような顔をする毒島先輩だが……。
いや待て、なんかよく考えずにとんでもないことを口走ってしまった気がする……!?
「士郎……お前すごいな」
「流石衛宮、僕たちには出来ないことをやってのける」
なんで孝と平野はしみじみしてるんだ!
「いやっ、ちがっ、今のはそうじゃなくて……!」
「なんだ、女性を褒めておいて撤回するとは男らしくないし、失礼じゃないか」
「あらぁ~、ダメよ衛宮君。女の子に恥じかかせちゃ」
「うぐっ」
鞠川先生まで敵に回った!?
助けを求めて宮本や有瀬を見るも……目を逸らされた、がっでむ。味方はいないらしい。
そしてこうしている間にもお隣の沙耶さんから伝わる気配が氷点下を下回っていくのが肌で感じ取れるわーにんぐ!!
じとっと俺をねめつける毒島先輩と、プルプルし始めてる沙耶の間でうろたえていると、ややもして毒島先輩はぷっと吹きだした。
「くすくす……本当に衛宮君は実直と言うか、嘘がつけないらしい。短所になりうるが、君の美徳だな」
「や、からかわないでください……ホントに」
命に関るので。
毒島先輩にそんな風に微笑まれると真剣に寿命が縮みかねない気がするのだ、人生の幸運度的な意味で。
「士郎…………」
「はっ、殺気」
「この、この……こンのバカ士郎がああああぁぁぁぁ!!!」
「テンプル!?」
命の危機っていうのは2重3重に潜んでるんだなあ、と薄れ行く意識の中でぼんやりと考えた。
Dead End 4.5:三角関係のココロ
(トラの鳴き声的なもの)
タイガ:はいやってまいりましたー、恒例のタイガー道場のお時間です!
ブルマ:でーす!
タイガ:今回は早かったわねー、流石のお姉さんもオドロキ。
ブルマ:ま、女心の分かってないお兄ちゃんじゃ仕方ないわね。朴念仁、とうへんぼくの代名詞なんだから、下手に口説き文句なんていえばこうなるのは目に見えてるのに。
タイガ:弟子一号の言うとおり、たらしやジゴロなんてそういうのはどこかの絶倫眼鏡に任せておけばいいのよーーー!!
ブルマ:そうだそうだー!!
タイガ:更にこともあろうに年上お姉さん系キャラなんてダメよ、ダメダメ!! 士郎に相応しいお姉さんは、天真爛漫で、ちょっと野生的なー……。
ブルマ:分かってないわねタイガ、シロウに相応しいのはおしゃまで少し不思議な……。
「や、そもそも誰ですかあんたたち」
タイガ:……。
ブルマ:……。
タイガ:そう……ここは所詮二次創作の別世界……。
ブルマ:私たちにはヒロイン枠はおろか、出番さえこうしてお兄ちゃんが死んだときにしかもらえないッスね……。
タイガ:にもかかわらず士郎は女の子とイチャイチャ……。
ブルマ:うぅぅぅぅ、こんな暴挙が許されていいのかー!
タイガ:否! 否よ弟子一号!! 今こそ私たちはこの不条理を打ち破るべく立ち上がるときなのよ!!
ブルマ:押ッ忍、必ずや私たちのヒロイン枠を勝ち取ってみせるッスー!
タイガ:(ま、どうせ最後には)
ブルマ:(私の単独ヒロインは決まってるんだけどねー)
タイガ:よーし、まずそのためには……。
ブルマ:諸悪の根源のお兄ちゃんをボッコボコだー!
タイガ:私の虎竹刀が真っ赤に燃えるわー!!
ブルマ:やっちゃえ、バーサーCar!!
(爆発オチ)
「完全に八つ当たりだこれ!?」
勢いあまって叫びながら飛び起きた。
「あ、起きた。衛宮君、大丈夫?」
ここは……職員室のソファか。
「あ、あぁ、有瀬……剣道場で虎と巨人に襲われる夢を見た……」
「ず、ずいぶん具体的にシュールな夢だね……」
確かに。
あの空間はシュールと言うかこの世の特異点の集合体のようなものなのではないかと思う。
のだが、急な目覚めによくあるようにあの生きた人間の進入しちゃいけない異次元の夢の記憶にはすぐに霞がかかっていく。
代わりにとことこと決まり悪げな沙耶がやってくる。
「……その、悪かったわ、ちょっとやりすぎた」
「いや、こっちこそのんきに気を失ってる場合じゃないよな。どれくらい経った?」
「5分くらい。みんな休憩できたからちょうどよかったけどね」
宮本が時計を見ながら答える。
そんなものか。俺には長いとも短いともつかなかったが、皆が一息入れられたならば十分な時間だったのだろう。
「毒島先輩も、余計な時間取らせました」
「い、いや、君が平気ならいいんだ。私も少し悪乗りが過ぎたようだ」
発端は状況をわきまえなかった俺なので非はこちらにあると思うのだが、そう言って2度3度と謝りあったところでキリがないのでお互い気にしないということで決着した。
しかし困惑気味の毒島先輩も珍しいというか、俺が気絶している間に何があったんだか。
と、いけない、だから今はそんな場合じゃないんだったな。
こほんとひとつ咳払いをして、毒島先輩は場を仕切りなおす。
「さぁ、そろそろ休憩は終わりだ。皆、覚悟はいいな?」
扉に作ったバリケードをどかし外の様子を見る。
毒島先輩や孝らがここについたときに一掃しただけあり、職員室の前に<奴ら>の姿は見られない。
「最後にもう一度だけ確認する。決してまともに<奴ら>を相手しない、陣形を崩さない、可能な限り静かにすばやく移動する」
毒島先輩の言葉を聴きながら共に後方を固める宮本と頷きあう。
まず移動し続ける限り<奴ら>の足で追いついてくることはないだろうが、こちらは人数が多いしいかんせん何が起こるかわからない。
万一足を止めなければならなくなったとき下手を打てば一網打尽もありうる。そうなった時は俺たちが砦だ。
「でも……ふふ」
「ん?」
パイプレンチの具合を確かめていると、急に宮本がおかしそうに……どこか懐かしそうに笑い出す。
「ごめん、こうやってみんなで何かするのって久しぶりだなと思って。衛宮君や、高城さんと……それに孝と」
今はもっと仲間がいるけど、と付け足して、沈痛な面持ちを浮かべる。
宮本が何を考えているのかは分からない。
いつの間にか疎遠になっていた俺たちのことか……ここにいない井豪のことか。
いずれにせよ宮本の言葉は確かに頷ける。
ああ、そうだ。こんなときでさえなければ、こうして皆で集まれるのはきっとすばらしいことなのに。
「……生き残らないとね、絶対に」
「ああ」
「みんな、行くぞ!!」
先陣を切る孝の合図に、俺たちは職員室を飛び出した。
幸いにも校舎に残っている<奴ら>はそう多くはなく、先頭が転ばせたそいつらを踏まないようにして一気に昇降口への道を進んでいく。
足音を聞きつけて後ろからやってくるヤツもいるがこのペースなら追いつかれる心配はない。
だがひと休みして気が落ち着いたからだろうか、先ほどよりも校舎内の様子が目に付くようになっていた。
血に濡れた廊下。壊れた教室の扉。割れた窓ガラス。
────散乱する死体。
手足も首も無残にへし折れているのは最初の暴走の犠牲者だろう。
彼らは級友に押しつぶされて死んでいった。
もはや人の形をとどめないまでに肉を、臓物を散乱させているのは、<奴ら>の犠牲者だ。
<奴ら>に噛まれたものは<奴ら>になる……だがソレはもう<奴ら>として蘇ることすらできない、ただの"食べ残し"だ。
彼らは級友だったものに食い殺されていった。
沙耶も有瀬も、皆出来るだけそれを視界に入れないようにしているにもかかわらず、俺はそのひとつひとつを目に焼き付けていく。
なぜかは分からない。
ただ彼らの向かえた末路を……<奴ら>がもたらす死を刻み付けるように。
────キャァァァアアァァァァ!!
前方から聞こえた悲鳴にハッと顔を上げる。
「階段のほうだ!!」
足音を気にするのをやめ全力で足を動かす。
階段に飛び込むと、踊り場で3人の生徒が<奴ら>に襲われている!
「おらぁッ!!」
孝が躍り出て平野がそれを援護。
俺もそれに続き、3人に手を伸ばす<奴ら>の体に両手で構えたレンチを叩き込んだ。
道中<奴ら>から逃げ惑っていた生存者と合流していくうち、昇降口へたどり着く頃には俺たちは12人の大所帯になっていた。
もう隠密行動の出来る人数ではないだろう。
にもかかわらず、昇降口には強引に突破するには多すぎる数の<奴ら>が蠢いている。
「やたらいやがるな……」
とっさに皆で下駄箱に身を隠し、その陰から様子を伺った孝がうんざりしたようにつぶやく。
「見えてないんだから隠れることなんてないのに」
「じゃあ高城が証明してくれよ」
「え、い、いやよっ」
そりゃそうだ、いくら見えてないといってもあれの前に立つなんてごめんこうむりたい。
だが現状はそうも言っていられない。
選択肢としては全員で一気に通り抜けるか、1人ずつ息を潜めて進むか……。
ダメだ、どちらもリスクが大きすぎる。
あるいは平野の釘打ち機であればここから数を減らすことも可能かもしれないが、おそらくガスの抜ける音で感づかれる。
昇降口はコンクリート壁で囲まれているだけに音がどれほど響くかも分かったものではない。
……そうなると。
「誰かが<奴ら>をひきつけるしかない、か」
俺の考えを毒島先輩が引き継いだ。
皆が押し黙る。
誰か1人、あの中に歩み出て連中の気を引かなければならない……考えるだけでも血の気が引く仕事だ。行きたがるヤツなんていない。
まして女の子連中に任せるわけにもいかない、となれば俺たち誰かが行くしかない。
なら答えは決まってる。
「俺が、」
「僕が行く」
な!?
俺を遮ったのは孝だった。
「ちょっと、なんで孝が……!」
すぐさま宮本が食って掛かるが気持ちは俺も同じだ。
それに孝に危険な橋を渡らせて自分は見ているだけなんてとてもじゃないが耐えられない。
「それなら俺も、」
「2人で行ってどうするんだよ、士郎は毒島先輩とみなを頼む」
「けど」
「士郎、出番を取り合ってても埒がないぜ」
そういって一歩踏み出す孝を、しかし俺は止める言葉を持っていなかった。
確かにここでどちらが行くと言いあっててもキリがない、けど……!
「孝、なんで……? 全部面倒になったんじゃないの?」
「なんでかな」
孝は下駄箱の陰から一歩踏み出しこちらに背を向ける。
「今も面倒だよ」
そして顔だけ振り返った顔は、困り果てたような、泣き笑いのような、そんな表情をしていた。
1歩、1歩と慎重に、布ずれさえ殺すようにして孝は<奴ら>の傍へと歩み寄っていく。
見ているこっちの息まで詰まってくる。そのくせ静かにしたいという気持ちに反発するように心臓は高鳴っている。
ひとつ脈打つごとにその音が<奴ら>の耳に届きやしないかと不安になるが、今その恐怖の只中にいるのは孝だ。
それを見ていることしか出来ないのはもどかしいが、下手に動けばそれこそ全てが水の泡になる。それだけはなんとしても起こしてはいけない。
この危険なギャンブルの賭け金は俺たち全員の命なのだ。
<奴ら>の目の前まで歩みだした孝はどうにか<奴ら>のセンサーに捕らえられずにすんだらしい。ひとまずそのことに安堵の息をつく。
それから孝は、足元に落ちていた靴を拾い上げ遠くへと放り投げる。俺たちとは反対のほうに飛んでいった靴は奥の下駄箱にぶつかって大きな音を立てた。
ついその音に肩が跳ね上がりそうになったが、どうもそれは俺だけじゃなかったらしい。鞠川先生と目があってお互いに苦笑する。
やがてぞろぞろと<奴ら>がそちらへ移動したのを確認し、孝が合図を出す。
有瀬や沙耶、それに先ほど合流した女子たちを先に行かせ、俺や毒島先輩は最後尾につく。
ふと、壊れた傘たてが目に入る。
森田はあそこに串刺しになっていたはず……だが今その姿はどこにもなかった。
やはり<奴ら>はあれしきのことでは死ぬことはなく……そして森田は、既に<奴ら>だったのだろう。
ようやくそれを認識できたような気がしていた。
ともあれこれでどうにか校舎は脱した。
あとはバスに向かうだけだ。道中の<奴ら>も少なくはないだろうが、屋内と違って広い場所さえあれば、
だがまるで、神か運命か、そんなものがまるで俺たちが逃げ出すことは許さないと申し渡すかのように、獲物はそこだと<奴ら>に向けて打ち鳴らされた鐘のように。
その音は昇降口に長く長く響き渡った。
「!?」
「あっ……」
金属同士を打ち鳴らす不快な音に振り返ると、防犯用の刺又を持った少年が顔を真っ青にしている。おそらくそれがどこかにぶつかったんだろう。
何十、何百という目がこちらを向いた気がした。
「走れ!!!」
孝の怒声に弾かれるように、皆がいっせいに駐車場へ向けて走り出す。
先ほどの音に気づいた<奴ら>が、次は孝の声と俺たちの足音に標的を定めのろのろと歩き出す。
「なんで声出したのよ!! 黙ってれば手近なヤツだけで……」
「あんなに音が響くんだから無理よ!!」
沙耶と宮本が言い争っているが、それどころじゃない!
「とにかく走れ!! 早く!!」
思わず怒鳴り声を上げ、またその声に<奴ら>が釣られるのを見て悪態をつきそうになる。
くそ、なんて数だ……ッ!!
おそらく生徒ばかりではなく、外から侵入したヤツもいるのだろうが、それにしても数が多い。
あるいはそこらにいたやつらがこぞってここっちに押しかけているものだからそう見えるのかもしれない。
いずれにしろ一度つかまったら終わりなことには変わりがない。
群がる<奴ら>を突き、払い、打ち倒しながら俺たちは走り続ける。
やがて不気味に揺れ動く人垣の向こうにバスが姿を現す。
距離はもう……いや、最初からそれほど長い距離ではないのだ。だが<奴ら>の存在が、その道のりを倍にも3倍にも感じさせる。
けどそれももうすぐ……、
「うわぁ!?」
「!?」
「卓造!!」
声に振り返ると、卓造と呼ばれたバットを持った少年が首からかけたタオルを<奴ら>に掴まれている。
畜生ッ。
内心叫びを上げすぐさま戻ろうとするが。
「ぐ、ぎゃぁぁあああぁぁああ!!?」
噛まれた。
腕の肉を抉り取るように噛み千切られた。
────<奴ら>に噛まれたものは<奴ら>になる。
職員室で聞いた恐ろしい言葉がリフレインする。
少年の名を叫ぶ女子生徒が、彼の元に駆けつけようとして沙耶に止められる。
「あきらめて、噛まれたら逃げても無駄よ……!!」
「……ッ!!」
だが彼女は、戻った。
沙耶の制止を振り切り、今まさに犠牲になっている少年とその体に群がる<奴ら>の元へ。
「なんで、なんでよ!! ちゃんと教えてあげたのに……信じらんない!!」
ありえない、と叫ぶ沙耶に、しかし答えた鞠川先生の言葉はひどく絶望的なものだった。
「私、分かるわ」
「ッ!!」
「もし世界中がこんなになってしまったなら、死んだほうがましだもの」
……死んでしまったほうがまし?
だから、彼女は戻ったのだろうか。
それともただ彼の元にいたかっただけなのだろうか。一度かまれてしまえば、もう彼でも彼女でもいられなくなるのに。
噛まれたら、もう無駄なのに。
だから、
無駄だから、見捨てていく?
1.「そんな馬鹿な話が、あるか」助けに戻る。
2.「諦めるしか……ないか」助けに戻らない。
(ヒロイン人気であんまり参考にならなかった気がするけど、今回はまた5票先取に戻してみます)
/*/
「ヒロイン投票だし20人くらい釣れるんじゃね?wwwww」
感想数105→158
( ゚д゚) ……
(つд⊂)ゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚)……!?
5票先取であれば毒島先輩に即決していたところですが、開けてみればかなりのデッドヒートに。
スタートダッシュを決めたのは毒島先輩でしたが沙耶も負けじと追い上げ、一時は同点どころか抜きつ抜かれつの激しい攻防。
しかし後半、元祖お姉さま系の底力を見せ付けたか、怒涛の走りを見せ結果沙耶に8票の差をつけ勝利。
総票数50票、毒島先輩26pt、沙耶18ptという結果に終わりました。
え、有瀬? 地味に6票ほど頂いていました。よかったね。
結論:お前ら食いつきすぎである。
■感想レス
>士郎の剣化現象は固有結界の暴走。
・あ、はい、一応その辺の認識は持ってました。
ただそれがどういう過程で起こっているのかなとか思って……ちょっと……お願いもう突っ込まないで! 深く考えて言ったわけじゃないの!
>さて、どれが死亡フラグだ?
・いい感じに疑心暗鬼になってきてますNe。
流石の私もヒロインチョイスの選択肢に死亡フラグは仕込み…………マセンヨ?
これホント、インディアンウソつかない。
>剣、槍、弓……三騎士みたいだ。
・それ聞いて本編で採用すること決定。
>エミヤがまた磨り減るwww
・お疲れ様です抑止力さん。
まあ、ワールド的に学園黙示録メインなので抑止とかは単語すら出ないかと。
よかったねエミヤ!
>誤字報告。
・多謝です! 直します!
さて、次回で学園編終了。
それに伴いフローチャートの公開とタイトルナンバリングの整備を予定しちょります。
ではまた。