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No.6318の一覧
[0] 異界の扉は⇒一方通行 『ゼロ魔×禁書』[もぐきゃん](2011/02/28 13:22)
[1] 01[もぐきゃん](2011/06/23 00:39)
[2] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
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[6] 06[もぐきゃん](2010/03/02 16:33)
[7] 07[もぐきゃん](2010/03/02 16:58)
[8] 08[もぐきゃん](2010/03/02 17:03)
[9] 00/後、風呂[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[10] 09[もぐきゃん](2010/03/02 17:15)
[11] 10[もぐきゃん](2010/03/02 17:27)
[12] 11[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[13] 12[もぐきゃん](2010/06/02 16:51)
[14] 13/一部終了[もぐきゃん](2010/03/02 17:58)
[15] 01[もぐきゃん](2010/05/07 18:43)
[16] 02[もぐきゃん](2010/05/07 18:44)
[17] 03[もぐきゃん](2010/06/11 21:40)
[18] 04[もぐきゃん](2011/06/23 00:41)
[19] 05[もぐきゃん](2010/06/02 17:15)
[20] 06[もぐきゃん](2010/06/11 21:32)
[21] 07[もぐきゃん](2010/06/21 21:05)
[22] 08[もぐきゃん](2010/12/13 16:29)
[23] 09[もぐきゃん](2010/10/24 16:20)
[24] 10[もぐきゃん](2011/06/23 00:42)
[25] 11[もぐきゃん](2010/11/09 13:47)
[26] 12/アルビオン編終了[もぐきゃん](2011/06/23 00:43)
[27] 00/おとめちっく・センチメンタリズム[もぐきゃん](2010/11/17 17:58)
[28] 00/11072・レディオノイズ[もぐきゃん](2010/11/24 12:54)
[29] 13[もぐきゃん](2011/06/23 00:44)
[30] 14[もぐきゃん](2011/06/23 00:45)
[31] 15[もぐきゃん](2010/12/03 14:17)
[32] 16[もぐきゃん](2011/06/23 00:46)
[33] 17[もぐきゃん](2010/12/13 13:36)
[34] 18/虚無発動編・二部終了[もぐきゃん](2010/12/13 14:45)
[35] 01[もぐきゃん](2011/07/22 22:38)
[36] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:47)
[37] 03[もぐきゃん](2011/07/22 22:37)
[38] 04[もぐきゃん](2011/07/26 16:21)
[39] 05[もぐきゃん](2011/07/27 16:48)
[40] 06[もぐきゃん](2011/07/27 16:59)
[41] キャラクタのあれこれ[もぐきゃん](2010/12/02 20:55)
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[6318] 06
Name: もぐきゃん◆bdc558be ID:9655c584 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/27 16:59


06/水の精霊





 馬車の窓から顔だけを出し、ルイズが見えたわよ、と元気いっぱいに叫んだ。
 一方通行は馬を操縦できない。ラグドリアン湖の場所も分からない。出発は夜。そんな理由で馬車による移動になった。
 ピクリとも動かないギーシュは無造作に足元に倒れており、一体何があったのか、それは御想像にお任せします、と言ったところである。
 

「その水の精霊ってやつ、そりゃ生きてンのか?」
 

 それは単純な疑問だった。
 こちらの世界の常識は、いまだに一方通行には存在しない。水の精霊なんて聞かされても、それは現実よりもテレビ画面の向こうに居るような、ビデオゲーム的な存在だ。
 どんな奴だろうかと、ほんの少しだけ興味があった。


「そりゃ生きてるわよ。ず~っと生きてる」


 ルイズがそう言って、


「ん~……、生きてるっていうより、存在してるって言った方がいいんじゃないかしら」


 モンモランシーが考えるように呟いた。
 またもよく分からない物の登場かと一方通行はため息をついて、どういうことかと問いただす。


「水の精霊はね、そりゃもう長い間生きてるわ。不変の存在なの。それは多分この先もそう。それって生きてるっていうか、在るものでしょう? だって、寿命が無いんですもの」

「死なねェのか?」

「殺すことは出来るわ。ラグドリアン湖の奥底に本体があるって話だし、それをどうにかして壊せば、うん、やっつけることは出来るでしょうね」


 だったら、脅しの類が効く存在でもあるということだ。
 不変。つまらない奴だな、と一方通行は憐れんだ。変わらずそこにいて、何が楽しいのだろうか。一方通行は常に変化を求める。その先を求める。現状に満足は無い。あるものは飢餓に似た力の追求。
 どうにも最近は色々あって手がつけられなかったが、レベル6を目指す一方通行は、常に先を求めているのだ。
 踏み出せ。自分自身にそう言い聞かせた。
 しかし待て、気持ち悪いのが居る。


「んむぉがぁ! んが、んがぁあ!」


 轡を噛みちぎる勢いで、足元のギーシュが目覚めた。
 一方通行は何のためらいも見せずにこめかみを蹴りつけた。


「あふっ───」


 そしてギーシュは静かになった。


「ちょ、ちょっと、死んじゃいないでしょうね……」


 ルイズが脈を測り、ほっと一息ついたところで、


「見えたわ……ラグドリアン湖よ」





 初めてみるような光景であった。月光を反射する水面はきらきらと輝いて、虫の鳴き声とともに聞こえるのは波の音。
 一方通行の心を震わせるには至らなかったが、これを見て普通の人間は綺麗だと思うのだろうな、と頷いた。水に二三度手を付けて、ふん、と鼻で笑う。
 そこで、精霊を呼び出すための準備をしているモンモランシーが、静かに言った。


「ヘンね」

「うん?」

「水かさが上がってる……。ほら、あれ見て。屋根が見えるわ」


 見れば、そこは村だったのだろう。チョコンと水面から顔を出すのは家だった。小屋のような、農民が住むそれ。
 

「怒ってるのかしら」

「はっ、ンだそりゃ、人間みてェじゃねェか」

「とにかく呼び出してみましょう。素直に応じてくれるといいけど……」


 モンモランシーが袋から何かを取り出した。
 隣にいるルイズがびくりと身をすくませる。
 目を凝らしてみると、黄色に黒の斑点が付いている、やけに毒々しいカエルだった。
 『あっち』でいうなら、熱帯の地方に住んでいるようなそれ。気持ちわりィ、と一方通行も呟く。

 モンモランシーがカエルに血を垂らし、湖に放つ。
 祈るように目をつむり、数分。


「きた」


 小さな呟きとともに、水面が不自然に揺れた。
 うねりは次第に渦を巻き始め、中央から水の玉がふわふわと浮かんでくる。ぐにゃりと歪んだり、また丸く戻ったり。何度かそれを繰り返し、最後はモンモランシーと瓜二つの姿になった。
 透明で奥が透けて見えるそれは、幻想的。精霊という言葉がぴたりと当てはまるほど、もはや胡散臭いほどに精霊だった。
 ルイズとモンモランシーが一生懸命に事情を説明し、どうか、どうか頼みます、と地面に額をこすりつけながら乞うのが何とも滑稽で、一方通行は顔をそむけながら咳払い。ここで大口をあけて笑うのは、さすがに空気が読めていないと気が付いたのだ。
 

「お願いします!」


 ルイズが言うと、水の精霊はにこりと笑った。


「断る」

「なんでっ」

「単なるものよ、我は人間を信用しない」

「信用なんていらないわ! 精霊の涙をくれるだけでいい!」

「お前たちは奪った。指輪。指輪。我と共に年月を過ごした指輪」

「し、知ったこっちゃないってのよ! 不用心だったんじゃないの!?」


 ルイズがそこまで言うと、水の精霊は姿を変え、また球状に戻った。水面が渦を巻き始め、帰ってしまう。帰ってしまう?


「だめ、まって!」
 

 ───ずしん!
 地震のような揺れと轟音。
 叩きつけた右足で不機嫌にリズムをとり、一方通行は口を開いた。


「よこせっつってンだよ」


 口元に歪んだ笑みを浮かべたのと同時、水の玉から何かが飛び出してきた。
 音もなく、細く、鋭い。
 胸の中央に当たり、反射の膜に触れ、理解。
 それはただの水だった。ただ、細く、鋭く、速く打ち出された水。ウォータージェット。
 よくやる。一方通行は笑みを深め湖へと歩を進めた。
 一歩。湖へと進めたそれは、沈まない。なんでもないように一方通行は水面を歩く。ちゃぷ、ちゃぷ、と水を蹴る音だけが響いた。


「死ぬか? ……ああいや、“終わる”か?」


 そこまで言うと、水玉はもう一度モンモランシーの姿に変わった。


「おお、おお……」

「……?」

「単なるものよ、おお、sphira/giに往くものよ……おお」

「あ?」

「lksoigへの道はf/ghuwaを示す。おお、単なるものよ、全なるものよ、お前のn/gwpoo^glに我の存在が必要か」


 理解できない。何か、その話す言葉にノイズのようなものが入るのだ。


「通じぬか。口惜しい。口惜しい。おお、おお、何と言ったであろう、この意味は。そう、これは───」


 ───ヘッダが、足りない。

 水の精霊はそう言って、身体の一部をその場に残して、そして湖の中に消えた。
 増えていた水かさは引き潮のように去っていき、水の上に立っていた一方通行は地面に立った。
 ちらりと後ろを振り返れば二人は?と小首をかしげており、つられて一方通行も首をかしげた。


「……なンだってンだ、こりゃ?」 





◆◇◆





 「わ、わ、わ! なになに!」


 勇んで水の精霊に会いに行こうと思ったら、いきなり水は引いて行った。ざざざざ、と不気味な音を立てるものだから、どこか緊張していた体は飛び上がり、思わずタバサに飛びついてしまった。
 もう何が何だか。引いた? なんで?
 む、む、とやや苦しそうな声が聞こえて、おっぱいで圧殺しかけるところだった、とタバサを開放。
 タバサも不思議そうな顔をしながら首を傾げるばかりで、二人はなんとなく顔を合わせ、そして笑い合った。


「ぷ……、何よこれ、ふ、ふふ」

「不思議」

「そうねぇ、ホントに不思議」


 さっきまで水に浸かっていたところを、二人は手をつないで歩いた。特に何を話すでもなく、自然にそうなっていた。
 視界の先に、人影をとらえた。三人と……、あと一人。
 キュルケはもう一度笑って、ほら、と指差した。


「どうせ、あの子たちよ」

「……不思議」


 説得する。出来なければ殺す。
 昨日、覚悟をもってそう語っていたというのに、結果はこれだ。
 湖に来た。問題が消えていった。
 考えて、キュルケはもう一度笑った。
 きっとあの四人も、何か用事があってここまで来たのだろう。一方通行とルイズが愛を誓いに来たというなら祝福するが、どうにもそれは無いようだし、何よりギーシュが縛られているのが非常に気になる。
 

「私たちが居ない間に、きっと楽しいことでもあったんだわ」

「どうせくだらないこと」

「でも、嫌いじゃないでしょ?」

「……うん」


 繋ぐ手に、小さく力がこもった。





◆◇◆





 そこは居るだけで気分が悪くなってしまうような、そんな部屋だった。
 魔法で固定され、逆さまに飾られた銅像。逆さまに飾られた絵画。矛を下に向けてバツ印を作る刀剣。不安定に積み上げられた、理解できないオブジェ。
 原色でど派手に飾ってあるかと思ったら、その隣には暗い色のものが置かれて、その隣にはまた黄色の派手なマスケット銃が転がっている。部屋の中央には大きなテーブルに立体的なモデルが作られていて、そこに人形が転がっていた。
 まるで万華鏡の中に迷い込んだような感覚。心が不安定になってしまいそうな、怖気の走るようなものだった。
 何もしていないのに呼吸が荒くなる。この部屋にいては、どうにかなる。そんな、確信にも似た何かに襲われた。
 ぐるぐると目を回しながら、しかしワルドは必死に必死に息をひそめた。
 来てみろ。来い。なるべく早く来い。
 王室。どこの馬鹿がこんな王室を許すのか。そりゃ決まっていて、無能の王様しかいないだろう。





 その老人はオルレアン公シャルルの部下だったという。ジョゼフの弟で、魔法の才にも長けた人物だったと語った。
 次代の王は、間違いなく彼になる筈だった。しかし前王が選んだのはジョゼフ。
 耳を疑ったよ、と老人は静かに呟いた。


「たしかにオルレアン公には野心があった。王になりたいと思う気持ちも、それはもう強かった。だが、それは当然ではないかね? 汚い真似をせずに王権を争ったものがおるのかね?」

「私は商人です。そんな私の意見が聞きたいと?」


 ワルドは用意された食事には手を付けずに、真剣に老人の話を聞いていた。
 どうにもこの老人は反ジョゼフの人間のようだ。いや、言ってしまえばこの国の貴族はほとんどが反ジョゼフ派。
 どんな話が飛び出すのだろうか。ジョゼフを殺せとでも言ってくるのなら、即刻ここを立ち去ろう。虚無に何の対策もなしに勝負を仕掛けるほど馬鹿ではない。


「君はもと貴族だろう?」

「所詮は平民に降った人間だ。そんな私に何を期待される?」


 老人は微笑んだ。
 懐かしいものを見るような、そんな瞳だった。


「君の瞳は輝いておるな」

「……は?」

「その輝きは、その先を見据えておるものだ。オルレアン公とよく似ておる」

「野心が瞳に表れている、と?」

「この国に何をしに来た?」


 核心を突く質問だった。
 ワルドは押し黙って、手元にあるナイフへと手を伸ばす。
 殺すか?
 いや、そのまえにこの老人は“どう”したいのだ?


「私は商人ですよ。宝石を売りに来たのです」

「そんな商人が居るものか」


 老人が片手の無いワルドを笑う。
 この野郎、と少しだけ腹が立った。


「私は王の失脚を狙っておる」

「───ッ」

「なぜこうも簡単に話すかというと、そこらの貴族に知られても問題がないからだ。王に忠誠を誓うものは……少ない。その私がお前に聞こう。なにを求めてここに来た」

「……失礼する」


 商人の皮をはぎ取ったワルドは立ち上がり、早足に老人の横を通り抜けた。
 

「衛兵の交代は昼と夜の二回。休憩は一回。狙うなら、昼の方が人間は少ない」


 そんな情報、誰が欲しいと言った!
 ナイフを突き立てたい気持ちでいっぱいになった。
 この老人はこの俺を、利用しようというのだ。殺してくれればラッキーか? ふざけるな。思い通りになんかしてやるか。
 ワルドは残っている右手で拳を握った。
 そもそも、殺しに来たんじゃない。いや、もしかしたらそうなってしまうかもしれないとは思っていたが、これでその線は消えた。なんだか意地になって来た。絶対に殺してなんかやらない。
 自国の未来を他人にすがるような、そんなやつらの思い通りになるものか、と。
 荒々しく廊下へと続く扉を開けた。
 背中から聞こえる老人の疲れた様なため息は、この時のワルドには聞こえなかった。




 で、こんなところにいる。
 別にかっとなって先を急いだわけではない。当初の予定通り、王に会い、どんなつもりなのかを問いただし、使えそうなら利用して───
 そこまで考えて、ああなんだ、結局は同属嫌悪かよ、と妙なところで納得した。
 たしかに、自分のような人物が目の前にいるのなら、きっと殺したくもなるだろう。
 はぁ、と小さくため息をついて、そこで王室の扉が開いた。正直な話、ここまでの警備はザルだった。不真面目というわけではないが、真剣見が足りなかったのは事実。なんといってもこんなに大きなネズミが入り込んでいる。
 目の前に王が居る。ワルドは顔を隠す布をもう一度きつく締めつけ、杖を握った。
 玉座に座ったら、行こう。運がいいことに、ジョゼフは一人だ。
 緞子の影に身を隠しているワルドはジョゼフの姿を追い───、消えた。


「───ッ!」
 

 声を出すような間抜けは無かったが、ジョゼフの姿が掻き消えたのだ。
 馬鹿な。そう思う暇もなく、肩に優しく手を置かれた。
 

「……人の持ち物に触る時は気をつけろ。銅像の埃が散っていたぞ」


 動けない。
 何が起こっているのか、理解が追いつかなかった。
 無能? 笑わせるな。いや、笑いなんてものが欠片も出る暇もなく、どこが無能だ!


「ジョゼフ王……、私は、あなたの部下の、部下でございます」


 声が震えていた。みっともない。そう思うも、今の現実はとても信じられそうになかった。
 だって、


「ふん、部下? 私に部下はそうそういないが、それはどの部下だ?」


 ジョゼフの声は、緞子の奥、玉座から聞こえてくるのだ。
 また、消えた。ワルドの背後に一瞬にして移動してきたと思ったら、返事を返す瞬間には玉座にいる。


「……オリヴァー・クロムウェル閣下でございます」

「クロム……? ああ、アルビオンをやった男か。いまいち印象が薄くてな、どうにも覚えられんのだ。俺は無能王。物覚えは悪くてな」

「ご冗談を」


 姿を隠す意味は無くなった。
 ワルドは潔くジョゼフの前に出、ゆっくりと跪いた。
 どんな男かもわからない。性格は? 何で喜び、何で怒る? どうやれば、これをうまく利用できる?
 心の中では様々な思惑が入り乱れるが、どこかで理解していた。この男を利用するなど、誰が出来ようか。
 超然的なのだ、ジョゼフは。口から出る言葉には重みがあり、それは伸しかかるようにワルドへと襲いかかってくる。何か仕出かそうなら、その瞬間にきっと死んでいる。そう思わせるものがある。


「それでお前はこの俺に跪いて、何を求める?」

「世界の、真実を……」

「くだらんな。世界の真実? お前には目が付いていないのか?」

「は?」

「空がある。大地がある。風が吹く。雨が降る。見ろ、それが世界の真実だ」

「ち、違う! その全てが崩れようとしているのです!」

「なんと!」


 ジョゼフは大仰に驚いてみせた。


「それは実に面白いな!!」


 ああ、駄目だ。この人は、こういう人なんだ。
 瞬間、ワルドは理解してしまった。無能王。無能になりたい王様。


「さて、どうする? わざわざ愉快な話を聞かせに来たわけではあるまい」

「……陛下は、虚無でしょうか?」

「いかにも」

「その力を、何のために振るうのですか?」

「もちろん、世界を壊すために」


 狂人の瞳ではない。ぎらぎらと輝くそれは、知謀と理性に固められていた。
 ワルドは、世界の真実を知りたいだけだ。この世界はこれから先どうなるのか。それが知りたい。暴いてしまえば、それがどうなったところで知ったことではない。
 胸元のロケットをきつく握りしめた。母親の肖像が入っているそれ。ワルドの決意で、ワルドのすべて。
 虚無の力さえあれば、母の思いを貫きとおすことが出来る。『砂漠』という、この世界にとって忌むべき場所へと入っていけるというのに。
 エルフという種族が居る。『反射』を操る彼らに、魔法は通用しない。しかし虚無ならば、という思いがあった。
 虚無は四人。これは絶対不変のルール。
 一人はルイズ。一人はジョゼフ。一人はミサカの召喚主。あと一人は……。


「あと一人の虚無は、誰だかご存知ですか?」

「問えば答えが返ってくると思うな」

「……あなたが世界を壊す前に、見たいものがあります」

「では行動しろ。お前の命は実に軽いぞ。吹けば飛んでいきそうだ」


 がっはっは、と力強くジョゼフは笑い、玉座から腰を上げた。
 杖を指揮棒のように振りながら壁ぎわへと歩き、そこに逆さまに掛けてある聖画を取る。
 描くのも恐れ多いという理由で、なんとなく人影がこちらに向けて手を広げているような、そんな絵画。


「部下の部下、お前にはこれが何に見える?」


 放られたそれはワルドの足元に、回転しながらたどり着いた。
 ワルド自身も信心深い方ではないが、さすがに始祖のイコンをこうは扱えない。
 

「何に見えるとは?」 

「そのままの意味だ。“それ”は何だ?」

「……始祖ブリミルの聖画です」

「ああ、残念だ。お前は虚無ではない」


 なんだってんだ!
 叫びだしたくなるのをぐっとこらえ、ワルドは静かに口を開いた。


「どういう意味です」

「ものごころ付いたころからだ。俺は“それ”に違和感しか感じなかった。なぜ逆さまに飾っているのだろうと、なぜこんなものを崇めるのだろうと」

「……?」

「弟とよく話したものだ。弟はいつも正しかった。これは始祖で逆さまなんかじゃない。偉い人だから崇めるのだと、そう言った」


 だがな、ともったいぶったように。


「俺にはそれが、こう見えて仕方がないのだ」


 いつの間にか、ワルドの手の中から聖画が消えて、それはジョゼフの手の中に。
 もう一度壁に掛けられた始祖の絵画は、相変わらず逆向き。
 それは、たとえばタイトルを付けるとして───『逆さまの男』だろうな、とワルドは混乱する頭で考えた。















・やっと胸を張ってクロスオーバーなんだぞって言える気がする。
・おじいちゃんはガリア編でもう一回出そうと思ってます。


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