13/~女子力-JOSHIRYOKU~
その日はやけに月が印象的だった。赤と蒼の双月は各々輝き、暗い空を淡く照らす。雲にグラデーションが出来るのがなんとも美しい。
城からの帰り、心臓の付近に嫌な感触が残っているものだから、この光景は彼女の心を潤わせた。
竜の背に乗る彼女、タバサはぶる、と一度だけ身震いし、風に流れる外套を手繰り寄せる。いくら春だと言っても、さすがに夜、しかも上空の空気は冷たい。祈るように両手を擦り合わせた。
すると、タバサを背に乗せる使い魔は一度ぐるりと回転して、楽しそうな声を上げる。
「もうちょっとなのね」
使い魔がそう言って、まぁ、人前ではないから喋るのはよしとして。
シルフィードは韻竜と呼ばれる種族であり、知能指数がそこらの竜とは違う。当然、いまこうして話しているように、人間の言語を使う事も出来るし、精霊魔法を使って人間に化ける事だって可能。
ただ、韻竜はすでに絶滅したとされる種族。存在がばれてしまうと、研究に使われてしまう可能性も高い。だからタバサは普段、シルフィードに言葉を話さないように、と深く念を押していた。……深く、念を押しているのだが、
「見えたのね、学院! ただいま。ただいま?」
「そう。ただいま」
「きゅい、ただいま、るーるる」
どうにもシルフィードはまだ子供のようで、人間でいうと、十歳。らしい。韻竜に関する書籍など、普通の本屋に売ってあるはずはなく、タバサは図書室で本を探すとき、ついでに韻竜の事が書かれている本も棚から抜き取る。生体に関してなど、本によって書いてあることがばらばらな事も少なくない。そういうギャップもタバサは楽しんでいた。
「お姉さまお姉さま、今日は月がとってもきれい。もう少し飛んでもいい?」
タバサは少しだけ考えて、
「かまわない」
今夜の月光は、タバサも中々綺麗だと思う。まるで独り占めしたような、ほんの少しだけ得した気分。
ぼんやりと夜空を眺めて、きらり、と星が流れた。
「あ」
「おー」
月と重なるように流れたそれは、
「……」
「お姉さま、あれはあれなの、あれなのね」
「喋っちゃだめ」
髪を、服を、ばたばたとなびかせて、彼は落ちてきた。本当に、ただ落ちてくるのだ。両腕を大きく広げて、こちらに背を向けて。まるで舞台から飛び降りる役者のようだとタバサは思った。そこにあるのが一番自然で、月から落ちてきたようなその光景。白い髪の毛は月光を反射して赤色にも蒼色にも輝く。
依然、こちらに気がついたような挙動はない。まっすぐ、まっすぐ落ちてくる。ぶつかるかも知れない。そう思ったときにはすでにシルフィードが動いていて、衝突コースはもちろん避けた。
ごうッ───。
風を切る音。一瞬の交差。すれ違いのその瞬間。
薄く開いた彼の双眸は、背筋を凍らせるほどに美しかった。
「……ンだよ」
着地後、タバサがその姿を追うと、彼、一方通行は不機嫌そうに(恥ずかしそうに?)眉根を寄せた。どうにも月光浴をしていたのを見られたのがおきに召さなかったらしい。
そんな子供のような反応に、タバサは口の端が持ち上がりそうになってしまい、根性で無表情を貫く。気性の荒い一方通行を怒らせるのは避けたい。
「なにをしていたの」
聞くと、一方通行は余計にしわを寄せて、
「べつに」
最近、ハルケギニアでも蔓延している現代っ子発言。子供達にやる気がなく、何を聞いても「べつに」。大変な社会問題である。
そしてタバサも、心中はどうあろうが、そう、と短く返した。
タバサは一方通行の事が嫌いではない。何か一本、軸が通っているような、そんな生き方をしている人間だと思っている。発言は高慢、行動は傲慢。だけれど、それを不自然だと感じさせない強さが、一方通行にはある。我侭がどうした。自分勝手で何が悪い。そんな、ある種の開き直りが彼の数少ない人間的魅力だと感じている。
ぼんやりと突っ立っているタバサを、一方通行は興味無さ気に一瞥し、そして歩き出した。寮の方向ではない。はてさてどこへ行くのかと。なんとなく、そう、なんとなく、タバサは背中を追った。
タバサは、吸血鬼を殺して帰ってきたところだった。深くは語らないが、とりあえず殺して、そして帰ってきた。生き残ったのだ。残るのはムラサキヨモギの苦味と、心臓の付近に存在感を漂わせるムカムカやモヤモヤ。
この、彼の後を付いて行くのは、そういうものがあるからなのだろうな、と冷静に自己判断。
一方通行が顔だけをタバサに向けて、
「……ンだよ」
「べつに」
「あァ?」
「べつに」
っち。聞こえる舌打ちは、実によく彼の心情を表していた。
男と女と竜。三人(?)で星を見上げながらぐるりと学院を一周して、そして一方通行が広場で座りこんだ。以前ギーシュやルイズと大立ち回りを演じたこの場所。いまだに芝がめくれてしまっているところがちらほら。
タバサは一方通行の隣に、スカートを尻に巻き込んで、静々と座りこんだ。シルフィードが気を利かせて背もたれになってくれる。うむ。なかなか良い使い魔である。
「……」
「……」
雲の合間に見える星が、きらきらと輝いていた。
そしてふと、一方通行が何かに気付いたように鼻を鳴らす。すん、すん、と。
「風呂、行って来い」
「くさい?」
「くっせェな。蛋白質。肉が焼けて、髪の毛が焦げる、独特の臭いだ」
「……」
「殺したろ、オマエ」
城から一分一秒でも早く離れたくて、風呂にも入らずに帰ってきたのが良くなかったようだ。こうまで敏感か。
タバサは一方通行の瞳に剣呑な輝きが宿るのに気がついて、ふるふると首を振った。
「吸血鬼」
「あン?」
「吸血鬼退治の仕事」
「……あァ、ンなモンも居るわけ。さっすが、ファンタジーしてンのな」
ふん、と鼻で笑う一方通行は、またも星を眺めた。
言えば、初めから気が付いていたことなのだが、どうにも様子がおかしい。というか普通、この時間はみんな眠っているはずの時間である。空で遭遇すること自体が驚きなのに、部屋にも帰らずに、こうしてタバサが付いて来ても姿を消さずに、一方通行は一体何をやっているのだろう。
タバサは疑問を表情に出さず、ただ一方通行の横顔を眺めた。無表情に、そのどんぐり型の瞳を開いて。
何かを期待していたわけではないが、一方通行が横目でこちらを捕らえると、なんだか落ち着かない。この不思議な空気と空間がなければ、もしかしたら顔が赤くなっていたかもしれない。
「どうかしたの」
タバサが聞くと、
「あァ。皇太子、俺が殺したンだよな」
一方通行の視線の先。星は、変わらずきらきらと輝いた。
◇◆◇
はぁ、はぁ、と少しだけ荒い息遣い。階段が長い。教室が遠い。
ルイズは杖をついていた。どうにも足の具合がよろしくなくて、完治までもう少しかかるとの事。その間は無理をせずに杖を突くように言われたので、仕方無しに松葉杖をついている。ようやく医務室の暇空間から開放されたものだから、杖をついてでも授業に出たい。
「足の、ありがたさが、わかるって、もんよねっ」
こつん、こつん、と杖が階段を叩く。
誰か手伝ってとも言えず、ど根性で階段を上っているわけだが、これがまた辛いもの。普通だったらこういう時、魔法を使って飛んでいくのだろうが、ルイズは魔法が使えない。
そして使い魔である彼、一方通行がルイズの手を取って「大丈夫か?」など、夢の中ででもありえない。
ルイズは一方通行の事を思い、小さくため息をついた。
最近、姿を見ない。一体何をしているのか分からないけれど、朝ルイズが目覚めるとすでに部屋に居なくて、授業を受けている間はもちろん姿は見えないし、夜、ルイズが眠ってしまったあとに部屋に戻ってきているらしく、それこそ夢の中でしか会ってない。
ルイズはなにかしたかな? と首を傾げるが、覚えがないのである。
戦争に行ったのどうので怒っているならわかるが、それはもう過ぎたことだし、謝ったのだ。ルイズが「ゴメンね」と言うと、一方通行は「あァ」と言った。一方通行が言葉足らずなのは随分前から理解しているので、あの「あァ」は分かったとか、うんとか、いいよとか、そういう「あァ」なのだ。だって、一方通行が納得していないなら無視だもの。
「ん~……、何かしたかなぁ……」
べつに、怒っているという感じではないのだ。少ない機会を利用して何か話しかければきちんと返ってくるし、一応部屋にも帰ってきているし。
何時からだっただろうか。何をしたからだろうか。
「アルビオンでのこと話してて……、ウェールズ様に亡命勧めたこと話して……、ワルドと戦ったこと話して……ん~……」
そう、ルイズは話してしまったのだ。ウェールズが死ぬことを受け入れていた事も、それに納得した事も。嫌だったけれど、皇太子の覚悟は固く、けれどもワルドに刺されて、だから、こんなところで死んで欲しくないから、一方通行に助けてあげてと頼んだ事も。
まさか、一方通行が皇太子を殺しただなんて、毛ほども考えてはいない。一方通行が死んでいたといったから、死んでいたんだろうと。己の使い魔への信頼は耐震強度マックスで、揺れる事を知らない。
間に挟んだ、たった一人の男。ワルドのせいで起きたすれ違い。ルイズはいまだ、気がつかないで居た。
頭から煙がのぼる勢いで考え込んで、当然、杖のつき方は不規則に。微妙に階段を踏み外したルイズはおふっ、とあまり少女らしくない苦悶を上げて、階段をゴロゴロと転がっていった。
火の授業。担当教員はコルベール。
彼の授業は、そこそこに人気のあるものであった。ルイズにはさっぱり分からないが、コルベールの授業は『魔法が上手になる』授業なのだとか。理論指導はそこそこに、とりあえずやって見なさい、というのが彼のスタンス。研究員を名乗っているわりには随分いい加減だな、と進級以来ルイズはずっと思っていた。
一時間半の授業はコルベールの場合、一時間で終わる。残りの三十分は、なにやら怪しい研究自慢のようなものが始まるのだ。生徒は各々、騒がなければ好きなことをやっても良いし、コルベールが披露する『研究成果』に興味があるものは、教卓の周りに移動する。
ルイズは基本的に理論指導以外がまったく分からないので、一時間を過ぎるととたんに暇になってしまうのだ。
「ほら、へびくんが! へびくんが!」
「おお~」
まったくもって興味がわかない研究成果である。 四、五人集まっている生徒達はけたけたと笑いながらコルベールのそれに杖を振ったりしているが、ルイズがやれば爆発必至。研究成果を粉々にしてしまうのは心もとないので、黙って席に座って今日の授業の復習でもしようと羽ペンを握った。
魔法を使うには術者のイメージが重要となり、イメージの強さ、込める精神力、瞬間のテンション、その全てが最高潮であるなら、トライアングルでもスクウェアクラスの魔法が扱えたり、ドットがラインを超え、トライアング───、
「ルーイズ」
「おっぱいが大きい女は私に近づかないでください。私に近づく事の出来るおっぱいは、家族とシエスタと姫様を除くとBまでです」
「あらやだ。だったら私、ゲルマニアに帰ってもまだ足りないわ、あなたとの距離。国境を挟むくらいじゃどうしようもないもの」
ルイズはため息をついて、胡乱気な瞳を向けた。
国境を挟んで隣の領地はキュルケさん家である。
「なによ」
「お姉さんが相談に乗ってやろうかと思って」
「なんのよ」
「あら、とぼけちゃうの? いいの? 私ね、とっておきの情報持ってるのよ?」
「うん?」
にたぁ、とキュルケはいやらしく口元をゆがめた。嫌な予感しかしない。
「シロくんがぁ、こないだぁ、タバサとぉ……、うふ♪」
ミサカオリジナル最大電流くらいの衝撃がルイズを襲った。大体十億ボルトの衝撃である。
ぎらりとタバサを睨みつければどこ吹く風で読書中。ぶるぶるとルイズは震えて、右足だけでキュルケに飛び掛った。
「うふ、じゃあるもんか! 吐け! シロとタバサはなんばしよったとかーッ!」
粘着物のようにルイズはキュルケに取り付き、憎きおっぱいを引きちぎろうともぎゅもぎゅ。
そもそもなんだ、このおっぱい。ずるいずるい。私にもこんなものがあったらシロを逃がさずに側にはべらすのに! とルイズはギャンギャン騒ぎ、キュルケはからからと笑いながら「タバサ>ルイズ」と。
コルベールから注意を受けるまで騒ぎは収まらず、クラスメイトの一人がぽつりと呟いた。
「仲良くなったなぁ、あの二人」
授業が終わり、ルイズはキュルケのレビテーションでふわふわ移動。残りの授業、もちろんサボります。
ルイズ、キュルケ、タバサの三人は、まだお昼でもないのに広場へ。
というか、まだ一限しか終わっていないのにこれである。ルイズはもともと『お勉強』の方しか上手く出来ないので、授業をサボった事は、一方通行を召喚するまで一度もなかった。なのに、彼を召還してからと言うもの、授業には出させてもらえないし(一方通行に捕まる)、アンリエッタからの妙なお仕事は入るし、最近はよく授業を休んでいるなぁ、と少しだけ背中が寒くなった。
そして、昼食をとるのに利用するテーブル。ルイズは広場にぽつぽつとある一つに決めて、椅子を引いて、何か三人とも牽制したような面持ちで。
どっかりと座りこんだルイズは「問題ない」とでも呟くかのように肘を立て、口元を隠した。
「……さて、一体どういうことか、教えてちょうだい」
ルイズがそういうと、まず反応したのはキュルケ。
彼女はタバサのほうにちらりと視線を送ると、少しだけ楽しそうな口調で言った。
「ほらタバサ、言っちゃいなさいな」
「やましいことはない」
いつもの通り、無表情にタバサが口を開く。
やましいことはない? ルイズはふん、と鼻息荒くそんなことは分かってる、と。
当たり前である。ここまで普段の生活、風呂、実家、夜、ベッドの中、ルイズが一体どれだけのモーションをかけたと思っているのか。一方通行の食べ残しを腹に収め、あらやだ間接キスだわとルイズだけがドキドキし、夜中に風呂に入る一方通行について行っても彼は欠片とも興奮した様子を見せず、実家に帰って家族に紹介した時だって緊張のきの字も表さず、ベッドの中で手を握ろうが抱きつこうが迷わず『反射』されてしまう。
ここで簡単にタバサになびいてしまうようなら、彼は、本物のアレだ。小さな女の子が好きな、アレ。
ルイズだって十分小さいが、さすがに小ささではタバサに負けてしまう。大きさではキュルケに負けてしまう。言えばルイズは中途半端なのだ。突出しているのはラリッた時の脳みそくらい。
ルイズははぁ、とこれ見よがしにため息をついた。
「聞きたいのはね、ここ最近帰って来ないシロのことなの」
「飽きられちゃったんじゃない?」
「飽きられるほど堪能されてないわよ。シロったら私の魅力の百分の一も理解してないんだから」
「み、魅力?」
「なにその顔は。その顔はなに。私に魅力がないって言うの? このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールお嬢様に、魅力がないって言うの?」
「ほらそれよ。なんかいちいち笑いを取ろうとするその感じ。だからシロ君も疲れちゃうんじゃないの?」
「分かってないのね。笑いは人間の活力なのよ? ほら、シロも元気いっぱいで暴れてるときはギャハ! とかひゃっはっは! とか言ってるじゃない」
「……なんか根本が違うわ、きっと」
「うん。自分で言っといて何だけど私もそう思う」
こく! と力強くルイズは頷き、そしてタバサを見やる。彼女は微妙に口の端をヒクヒクと震わせて、必死に表情を殺そうと努力していた。
ルイズはタバサのことを人形みたいだと思っていたが、それは違った。タバサにももちろん感情はある。どんな理由でそれを押し殺しているのかは分からないが、面白ければ笑うし、悲しければ泣く人間なのだ。
だから、そんなタバサだからこそ、こちらの気持ちも察してくれるはずだと感じた。
ルイズは寂しいのだ。隣にあの冷たい使い魔が居ないと、夜がとても長いのだ。これってなんだか悔しいことだわ、とむらむらしてくるが、事実、一方通行が居るのと居ないのでは、寝つきが違う。
ルイズは頭をわしゃわしゃとかき回し、なんだか熱くなってくる頬っぺたを手のひらで冷やして、テーブルに突っ伏して、顔を上げて、視線を微妙にうろうろとさせながら、タバサに。
「あのね……、そのね……、さみ、ささ寂しいの、わたし。ここ一週間くらい、アイツから罵倒されてないし、殴られてもないわ。なんだかペース狂っちゃう。べ、別にいじめられるのが好きなわけじゃないわよ? ただね、だから、なんて言ったらいいのかしら、その、……側に、側にいないと、なんか不安なの。あの白いのが視界に居ないと、こう、なんか、ね?」
むはーっ! とルイズは顔を真っ赤にして、またも突っ伏して、
「だ、だから、シロのこと……教えて?」
ちらりと視線だけを上げて言うと、タバサは非常に微妙な表情をした。無表情は少しだけ代わって、微表情。
珍しいそれにルイズは少しだけ期待を大きくしたが、
「……、本人から聞くのが、一番だと、思う……」
タバサは悔しそうにそう言った。悔しそうに言ったのだ。
ルイズは空気の読めない女ではない。むしろそういうのは、わりとよく気が付くほうだ。だから、タバサが『言いたいけれど言えない』と言う事にももちろん気がついた。口止めされているのか、それともタバサ自身がそう思っているのか。それは分からないけれど、ただタバサがこちらの事をそれなりに心配してくれているのは分かった。
ルイズはそっかぁ、と小さく呟き、
「役に立てなくて……」
表情はまた無くなったが、寂しそうな声色でそういうタバサにいいのいいの、と慌てて両手を振った。
それはそうだ。タバサの言うとおり、自分の使い魔の事は自分で決着をつけるのが一番である。タバサに責任を感じさせるなんてのは、筋違いもいいところ。
結局、自分の事は自分でやる。そういうシビアな世界が貴族であり、メイジなのだ。
ルイズはよし、と立ち上がった。うむうむ、と二度頷き、
「シロのとこ行ってくる!」
杖をついて駆け出そうとしたその瞬間、キュルケに首根っこを掴まれて、ぐえ、と潰れたカエルのような声を出した。
「無理だから。絶対無理だから。一週間も避けられるって、結構深いから、それ」
「んなもん、やってみなきゃ分かんないわ。原因がわかんないんだから、行かなきゃなんないじゃない」
「あのね、玉砕覚悟でいくのは格好いいかもしれないけれど、ホントに玉砕しちゃうと結構“くる”わよ?」
「……、じゃあ、どうしたらいい? 私いやよ、こんな、原因不明で離婚寸前みたいな空気」
するとキュルケは懐から……、いや、胸元から何かを取り出して、テーブルの上にばさりと広げた。
「ラァヴラヴ・レクリエィショーン……」
「へ?」
「んふ。宝探し、行っちゃうかい?」
取り出したるは宝の地図。
ルイズは目をまん丸にしてそれを見つめて、視線をキュルケに送ればぱちり、と似合いすぎる流し目にウィンク。
この時ばかりは、彼女が神よりも輝いて見えた。