10/~赤色アルビオン・王~
船の中、乗組員の一人が言った。あれは何だ。
別の乗組員が言った。わからない。
そして王子様は、ウェールズは蚊の鳴くような声で。
「……何だ、あれは」
遠見のレンズを覗いても小さく小さく映る影。遠見の魔法を使ってもその影ははっきりと映る事は無い。本当に小さく、人間の視力の限界範囲ほどで、どんなに目を凝らしたってはっきりとは映らない。
しかし、何かが起こっているのは確かだった。
空賊の真似事をして、せめて貴族派の補給線だけでも絶とうと空に出て、何の因果かトリステインからの大使を乗せている。
トリステインはゲルマニアとの同盟を結ぶようで、それは、うむ、寂しさを感じるも、いい判断だといわざるを得ない。
アルビオン王党派は負ける。それは間違いのないことだった。トリステインの国力は年々減少傾向にある。少しでも対抗したいのなら、民のことを思うなら、ゲルマニアとの同盟は一番の策である。
トリステインが大使を遣わせたのも分かる。手紙だ。あれがあっては、そりゃまずかろう。なぜなら王党派は負けるのだ。どうあっても覆らない戦力差で、王党派の戦力は今でもどんどんと減少しているだろう。いろんな命が散っていって、貴族も平民も、どうあっても死んでいる。あの手紙が貴族派の連中に見つかってしまえば、それを口実にゲルマニアとの同盟を破棄させ、トリステインへと攻め入る足がかりとなる。
王党派は負ける。
ウェールズは、もって後一日程度だと考えていた。
でも、王党派が負けるのは、間違いのないこと『だった』のだ。
「奇跡が、起きているぞ」
上空から城へと向かうこの船の中、それはもう戦場が綺麗に見えるというものだ。
王党派の連中は頑張っているが、攻め込まれれば、このまま終わってしまうだろう。長い長い蛇のような大群。敵の隊列は太く、長く、硬そうだ。我がニューカッスル城へと移動しているそれは、見るだけで背筋が凍る。
なのに、それなのに、あれはどういうことだ。ぶつ切りになっている蛇の腹はどういったことか。城へと向かって前進している兵隊は、後ろから追われるような形で、崩壊している。いや、崩壊しているように見えるだけで、実際はそうではないのかもしれないが、しかし、あれはどう見たって『なにかから追われている』。そう見える。急いているのだ。
「一体何が起こっている、戦場をああまで混乱させて……! 城へと急げ! 何か起きているぞ!」
もしかしたら。そういう思いが心中に湧き上がってきた。
そうなってしまうと、そう思ってしまうと、なぜだか余計な恐怖が。覚悟を決めていた心臓は揺れて、指先が小さく震える。それは血液を通じて全身に回って、ウェールズは震える肩を抱いた。
(いまさら希望を見るな……。私の覚悟は、この程度なのか!)
死への恐怖が無い人間などいない。誰だって怖い。だけれど、覚悟することは出来るのだ。それを受け入れる準備をすることは出来るのだ。
君は明日死ぬ。君は一年後に死ぬ。これなら、誰だって後者を選ぶのではないだろうか。準備が要るのだ、死ぬのには。覚悟がいるのだ、死ぬのには。
ウェールズは覚悟した人間だったのだ。戦争が始まる前から、貴族派の連中が不穏な動きをしていたときから。もしかしたら死ぬかもしれないと準備を始めて、死んでしまうだろうなと心を決めて、華々しく散ろうと覚悟を決めたのだ。
あなた……覚悟してきてる人……ですよね?
もちろんイエスと答えよう。
なのに、それなのにアレは何だ。あんなものを見せられたら、それに縋ってしまいたくなる。奥のほうに隠した恐怖が、また表に出てきてしまう。
クソ、とウェールズは小さく、王子様には似合わない毒を吐いた。
◇◆◇
三百六十度、全方位を敵に囲まれた状況で、それでも口元は吊りあがったまま降りてはこない。
傭兵が一斉に剣を持ってきても、
「反射」
魔法使いが呪文を唱えても、
「反射!」
どう見ても人外の化け物、それが奇声を上げながら襲い掛かってこようとも、
「反射ァ!!」
その一切が変換された。折れたブレードは持ち主の胸に刺さり、放たれた魔法は行く先を変え、人外の棍棒は宙を舞う。
雑魚雑魚雑魚。どいつもこいつも木っ端ばかり。こんな程度で戦争なんかして、どう考えても頭が悪いとしか思えない。いや、きっと頭が悪いから戦争なんか起こすのだ。
何故なんだろうかと考える一方通行の視点は、それは上からものを見ている者のそれである。上から下を。↑から↓を。レベル6。ベクトル操作。思えば、神ならぬ身にて天上の意志にたどり着くもの。そうなる筈だった一方通行が『人間』を下に見るのも当然か。
『その可能性』がある一方通行は、もしかしたら半分くらいは人間をやめているのかもしれない。
なっちゃいねェ。口の中だけで呟きながら、一方通行は大仰に両手を振るった。
肌に触れ、知覚できるベクトルを操作。操るは風。高い位置にあるアルビオンはとてもいい風が吹いている。周囲を取り囲まれてもそれは揺ぎ無く空間を支配しているし、そもそも空間というのが、惑星上の空間というそのものが風。気圧の高低差で起きるそれは、空間の全て。
お前はあっちへ行け。お前はこっちで、お前はそっち。
一方通行の脳内演算を言葉にするならこの程度。圧縮ではなく渦を巻く。回れ回れ、くるくる回れ。意思が無いなら従える。お前たちは風で、俺にとっては素敵な武器。
一方通行の頭上から渦がゆっくりと降りてくる。ゆっくりゆっくり降りてくる。もうすでに、ただの『強い風』は、一方通行の知覚能力がなくったって、一般人にだって分かる形で発現した。
竜巻。
ごうごうとうねる様に身体をくねらせ、そして中心には一方通行。本来の竜巻とは違い、結局は馬鹿でかいただの上昇気流なので雹も雨もふってはこないが、そこには一方通行が居るのだ。
「……テメェ等が俺の先を進ンでンじゃねェよ。そこは俺の領分だろォが、あァ?」
ゴミのように舞い上がっていく者。暴風に吹き飛ばされる者。飛んできた何かに当たってしまう者。運がいい奴以外は全て死ぬ。
当たり前である。なぜなら一方通行なのだ。そこに居るのは一方通行(アクセラレータ)なのだ。
「分かってンだろォ……?」
爆音の中でも聞こえる、聞こえてしまう小さな笑い声。
あは。
「そっから先は、俺だけの一方通行だ」
ごッ! 風が騒いだ。
威力を増す風は、傭兵だって魔法使いだって人外だって皆を運んでいった。死へと運んでいった。
おおよそ百ほどの命が空へと消える。一方通行の世界で言うところの『自動車』すら持ち上げる風は、人間の命など「軽い軽い」と言わんばかり。
どんな人間が死んだだろうか。それは悪党だったろうか。殺してもいい人間だったろうか。
一方通行は考える。考えるけれど、それは別に大したお話ではない。ただ人が死んだだけの話なのだ。すでに決めた道。今更後に引けるわけが無いであろう。だってこれこそ一方通行。踏み出す足しか持っていないわけで、後に引けばそこには道は無い。許されないことだ。先を行くのだけは、許さない。一方通行である一方通行の先を一方通行で進むのなら、そりゃ死んでしまうのが道理であろう。
脳内で作ったくだらないギャグ(つまらない!)にくすりと笑って、風は止み、最早爆心地のように周囲からは一切の影が消えた。
とは言うものの、消えたのは一方通行の周囲のみ。先を見ればまだまだ的(てき)は沢山いるのだ。
皆々様敵意しか映さない素敵な視線。体の芯から熱くなって、これを鎮めるために殺しているのかと錯覚するくらい。
そうじゃない。目的はある。忘れてはいけないのだ。でも、あは、ちょっとだけだけど、
「楽しくなってきちゃったなァ」
◇◆◇
城に着いたと思ったら、やけに急ぎ足で居室へと向かう皇太子ウェールズ。
何か様子がおかしいなと思いながらも、まさか王子様の足を止めてしまうわけにはいかず、ルイズとワルドは少しだけ小走りで付いていった。タバサはガリアの人間なので別室である。
ウェールズの居室は質素で、王子がこんなところで寝ているのかと驚かせるもの。粗末なベッドに小さな机と椅子が一組。ついついルイズは部屋に入るのを躊躇って、
「入れ」
そしてやや乱暴ながらも部屋に招かれた。
ウェールズが手に取るのは小さな箱。それもあまり豪勢とはいえないようなもので、ルイズが目ざとくじろじろ眺めていたのに気付いたのであろう。ウェールズは「宝箱だ」とはにかむように笑った。
開き、出てくるのは手紙。ボロボロに端が擦り切れて、何度も読み返したのだろうと思わせる。
「殿下……」
「女々しいと笑うか?」
「とんでもない!」
ルイズが両手と首をぶんぶん振りながら言うと、後ろに控えたワルドが小さく笑った。
「こら!」
「ああすまない。いやなに、女の心を男は一生理解できんが……、男の心も女は一生理解はできんな、と」
「ふむ……、なかなか分かったような口をきく」
「……殿下、失礼を承知で申し上げます」
余計な事を言うなというルイズの視線を何のその。ワルドは口を開く。
「守ってあげて。アンリエッタ姫はそう申されました。はて、私は船に乗るまでそれはルイズのことだとばかり。いや、この言い方は正確ではありません。もちろんルイズのことも入っているのでしょうが……、殿下。殿下のその手紙、恋文では?」
一つ間が空いて、ウェールズが困ったように頭をかいた。
「……よい男ぶりだな、子爵」
「で、ではやっぱり!」
正直なところ、ルイズだってうすうすは感じていた。こいつらからゲロくせぇラブ臭がただよってくるぜぇ! と言ったところだろうか。
アンリエッタがルイズに手紙を渡してと頼むあの様子、ただ事ではなかった。ルイズの女の感は、姉には負けるがなかなか鋭いのである。
恋仲だったのだろう、二人は。そして、たった今ルイズが受け取った手紙には、愛を誓う言葉が綴られているのだ。今からゲルマニアと結婚しようと言う女が、それはよろしくない。だから手紙を回収して、証拠隠滅。はれてゲルマニアとの同盟を結び、国力を上げるのが狙いか。
恋人が戦争で死んで、自身は望まぬ結婚へと。
他人事ではない。アンリエッタのことなのだ。もちろんルイズはどうにかしたいと思った。思ったけれど、一体何をどうすればいいのか。
とにかく言えるのは、目の前のこの男に死なれては、アンリエッタがひどく悲しむであろうと言う事だけ。
ルイズは口を開き、
「あのっ……、えと……」
「よい、申せ」
閉じて。
もう一度開き、
「トリステインへの、亡命を考える気は……、ございませんか?」
小さく呟いた。
自分でも分かっているのだ。これはいくらなんでも無茶がすぎると。
王族であり、皇太子であるウェールズ。誇り高い瞳に、獅子を思わせる金髪。この人は『王』なのだ。きっと、自分ひとりで逃げ出すことなどしない男。それが分かってしまうのである。
さらに言えば、亡命したところでどうなるという問題もある。アンリエッタはゲルマニアへと嫁いでしまうだろうし、アルビオン貴族派には『ウェールズを匿っている』という進攻理由を与えてしまう。
政治などに詳しくないルイズにだってこのくらいのことが想像できるのだ。水面下で何があるか分かったものではない。
「……ミス、分かってくれぬか?」
ウェールズは特に何を言うでもなく、ただその一言。
分かってくれぬか? 分かっているけれど、それをどうにかしたいと思っているのだ。
ルイズはうんうんと頭を悩ませ、そして肩に手を置かれた。ぽん、と優しげなそれはワルドで、
「亡命……、なかなかよい案に聞こえますが」
なんとワルドまで亡命を勧めたのだ。
これには驚いた。国のためを想う魔法英士隊隊長が、爆弾と同義の存在をトリステインへと持ち込むか。
ルイズはえ、と間抜けな声を出してしまった。
「子爵……、私に恥をかけというのかね」
「恥で人は死にますまい」
「そうだな。確かに人は死なん。だがな、貴族は、はたまた王族はその恥で死んでしまうのだ。分かっているのだろう? もとよりどうにもなりはせん。我が軍は三百。対して敵軍は五万。亡命したとして、その五万がトリステインへと向かう事を考えてしまうなら、私はここで散りたい。勇敢に戦ったという事実を残して、ここで死にたいのだ」
死ぬ。その事実は間違いなくそう。
誰かさんを召喚してやたらと人の死や『そういう思考回路』に敏感になっているルイズは、
「そ、そんな簡単に死ぬ死ぬ言わないで! 生きる事の、その先を模索する事はいけない事!?」
「よせ、ルイズ」
「誰だって生きていたいに決まっているじゃないッ、簡単に死ぬなんてことを覚悟しないでください!」
そう。ルイズは皇太子に生き残って欲しいのだ。
それがどんな事を招くかは、ルイズが想像しただけでも最悪だが、それでも生き残って欲しいのだ。
触れ合った機会など、トータルでもほんの数十分。それでもルイズはウェールズに死んで欲しくはなかった。目の前の、いま話している人間が死んでしまうというのは気分が良くないし、何よりアンリエッタが不幸すぎる。
王家に生まれたと言うだけで好いた男と死に別れねばならないのだ。
そんなのって。ルイズは俯いて、拳を振るわせた。
「そんなのって、ないわ……」
「泣くな、ルイズ・フランソワーズ。私、ウェールズ・テューダーは勇敢に戦ったとアンリエッタに伝えて欲しい」
「姫様の事を考えてください。お願いします、お願いします」
「アンリエッタのことを考えぬときなどない。いつも想っているさ。だから、幸せになって欲しい。私が亡命する事はアンリエッタにとって幸せかね?」
「……」
「きっとな、個人ではそうだ。アンリエッタ個人では、私と一緒に居るのは……。いやはや、照れてしまうな」
口元を揉むように、ウェールズは上がろうとした口角を止めた。
「だが、王族はそうも言ってられんだろう。どこで何をどう上手くやっても戦争は起こるのだ。無くなりはすまい。人間と亜人。貴族と平民。王族と貴族。簡単に考えてこれだけの衝突材料がある。そこに力が加わってみよ。王族同士が争い、貴族同士が争う。平民だってそうだろ」
「でも、それじゃあ戦争がなくならないから、殿下は死ぬのですか?」
ルイズが涙を瞳いっぱいに溜めながらそう言うと、ウェールズははっはと豪快に笑った。
「いやいや! さすがに人柱になるつもりはないな、神頼みはもう飽きたよ!」
「それでは……?」
「うむ。私はそうだな、戦争を終わらせるために死ぬのだと思う」
「終わらせるために?」
「ああ、そうさ。私はな、アルビオンが好きだ。物資の流通すら、いちいち他国の顔色を伺うほどに不便だが、それでもこの空中国家を誇りに思っている。美しかろう、艦から見るアルビオンは。白の国。私の先祖はネーミングセンスにあふれ出る才能を持っているよ」
「……」
「だから、もう終わらせなくてはならんだろう。博愛主義とは違うのだが、同じアルビオンの人間がこの美しい国を血で染めるわけにはいくまい。……そんな顔をしてくれるな、ミス。いやなに、これは諦めとは違うところにあるものでな」
ウェールズは少年のように笑い、ルイズはそれはそれは似合っていると思った。
そしてそのままに口を開き、
「まぁ、悟りの境地ってやつか?」
嘘だと思った。ルイズは嘘だと思った。
どんなに格好よくったって、どんな言葉を並べたって、誰だって、何だって終わるのは怖いはずなのだ。やせ我慢のハードボイルドだ。怖いのなら怖いといえばいいのに、それを許されていないのが王族。
ふと、アンリエッタのことを思い出した。こういう立場に立っているお友達。戦争が起きれば真っ先に死を覚悟しなければいけない立場に彼女は居る。
そもそも、この手紙の不始末というか不備というか、とにかくこの旅の原因はアンリエッタだけれど、ルイズはそれに大して何か思うところは特になかった。友達を助けられるのなら。そういう思いでここまで来たのだ。
けれど、ここに来て少しだけ考えが変わってしまった。
(ああ、お友達だけれど、それは昔の話なのかもしれない)
嫌いになったとかそういう事ではない。
ただ、住む世界が違いすぎる気がした。アンリエッタはお友達だって言ってくれるけれど、それはどうだろうか。
どこまで考えてルイズにこの依頼を託したのか。アンリエッタは知っていたはずである。ルイズが魔法をまったく使えない事を。何故ルイズなのか。単純に考えて、誰かが戦女神(心情的に戦女神(笑)だが)を洩らしたのだろう。別に口止めしているわけではないし、それはいい。それはいいけれど、アンリエッタが戦女神を知った上でこの依頼をルイズに持ってきたとするなら、なかなか打算的で、頭のいい選択である。
混乱の上でルイズに依頼してしまったというなら可愛げもある。しかし、もしかしたら死んでしまうかも知れない旅に、そういう情報を取り入れて、その上でルイズに依頼したというならば、それは、うん、なかなか、それはもう、何と言うかそれはもう『王』ではなかろうか。
ルイズはウェールズの思いに触れて、初めてアンリエッタのことが分かった。
いや、もちろん分かった気になっているだけかもしれないけれど、たぶんこれが正解。ウェールズを心配するあの様子が演技だとは思わないが、しかし腹の中では何を考えていたのかは分かるまい。
もう一度言うが、決して嫌いになったというわけではない。
ただ単に、昔のままではいられない、そう思っただけだ。
そして。
コンコン。
扉が二度叩かれた。
ウェールズが入れと言うと、扉を開いたのはルイズがヘッドパッドをかました痩せぎすの男であった。
男は空賊の格好から一転し、貴族らしく小奇麗に。印象がガラっと変わってしまって、気付いたのはおでこにあるたんこぶのおかげである。
失礼しますと一声置いて、こちらに気が付くと、パチリと不細工なウィンクをかましてきた。
「殿下、敵が近づいてきております。ご用意を」
「……足が速いな。追われる羊はいつも全力かね?」
「追い足が犬か狼ならどれほどよかったことでしょうか」
「笑えんな」
ルイズに理解できたのは敵が迫っているという事だけ。
足が速いと言っているところを見ると、予想よりも貴族派の進攻が早かったのであろう。あまりグズグズしている暇はないかもしれない。
ルイズに出来る事は、終わったのだ。手紙を受け取り、それでお終いなのだ。
「子爵、ミス、君達の仕事は終わりだ。帰りの船を用意させる。早々にアルビオンから出たほうがよかろう」
御武運を。
そう言ってお終いのはずだったのに。
「いえ」
ワルドが小さく首を振った。
「申し上げたい事があります、殿下」
二度目だった。
ワルドの笑顔を怖いと思ったのは、この旅で二度目だったのだ。