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No.6318の一覧
[0] 異界の扉は⇒一方通行 『ゼロ魔×禁書』[もぐきゃん](2011/02/28 13:22)
[1] 01[もぐきゃん](2011/06/23 00:39)
[2] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[3] 03[もぐきゃん](2010/03/02 16:24)
[4] 04[もぐきゃん](2010/03/02 16:35)
[5] 05[もぐきゃん](2010/03/02 16:36)
[6] 06[もぐきゃん](2010/03/02 16:33)
[7] 07[もぐきゃん](2010/03/02 16:58)
[8] 08[もぐきゃん](2010/03/02 17:03)
[9] 00/後、風呂[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[10] 09[もぐきゃん](2010/03/02 17:15)
[11] 10[もぐきゃん](2010/03/02 17:27)
[12] 11[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[13] 12[もぐきゃん](2010/06/02 16:51)
[14] 13/一部終了[もぐきゃん](2010/03/02 17:58)
[15] 01[もぐきゃん](2010/05/07 18:43)
[16] 02[もぐきゃん](2010/05/07 18:44)
[17] 03[もぐきゃん](2010/06/11 21:40)
[18] 04[もぐきゃん](2011/06/23 00:41)
[19] 05[もぐきゃん](2010/06/02 17:15)
[20] 06[もぐきゃん](2010/06/11 21:32)
[21] 07[もぐきゃん](2010/06/21 21:05)
[22] 08[もぐきゃん](2010/12/13 16:29)
[23] 09[もぐきゃん](2010/10/24 16:20)
[24] 10[もぐきゃん](2011/06/23 00:42)
[25] 11[もぐきゃん](2010/11/09 13:47)
[26] 12/アルビオン編終了[もぐきゃん](2011/06/23 00:43)
[27] 00/おとめちっく・センチメンタリズム[もぐきゃん](2010/11/17 17:58)
[28] 00/11072・レディオノイズ[もぐきゃん](2010/11/24 12:54)
[29] 13[もぐきゃん](2011/06/23 00:44)
[30] 14[もぐきゃん](2011/06/23 00:45)
[31] 15[もぐきゃん](2010/12/03 14:17)
[32] 16[もぐきゃん](2011/06/23 00:46)
[33] 17[もぐきゃん](2010/12/13 13:36)
[34] 18/虚無発動編・二部終了[もぐきゃん](2010/12/13 14:45)
[35] 01[もぐきゃん](2011/07/22 22:38)
[36] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:47)
[37] 03[もぐきゃん](2011/07/22 22:37)
[38] 04[もぐきゃん](2011/07/26 16:21)
[39] 05[もぐきゃん](2011/07/27 16:48)
[40] 06[もぐきゃん](2011/07/27 16:59)
[41] キャラクタのあれこれ[もぐきゃん](2010/12/02 20:55)
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[6318] 05
Name: もぐきゃん◆bdc558be ID:e4b7aa8d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/02 17:15



05/~赤色アルビオン・転~





彼らは傭兵だった。
雇われて、お金を貰うから戦う。もともと農夫だったものも居るし、それが戦争に行って、価値観が変わってしまって、入ってくるお金も違っていて、だから傭兵になった。
人を殺してお金を貰う。それで残してきた家族にお金を送る。

すぐに慣れた。

剣の一振りで簡単に人間が死ぬことを知った。剣じゃなくったって、石ころ一つでだって人間が死ぬのを知っていた。
ぼろぼろになった甲冑を着込み、少しだけ錆びてきている剣を振って、王様のため、王様から貰ったお金の分だけ戦った。愛国心なんてものは最初から存在しない。どころか、もともとアルビオンの人間ではない者だって沢山居る。だって傭兵だから。戦場が職場なのだ。彼らは戦ってなんぼの存在で、戦争に負けるような惰弱な王様には興味なかった。

戦況をギリギリまで見極め、金を貰うだけ貰って、そして逃げ出した。
なかなかに羽振りのいい王様で、まぁ、負けるのが分かっていたからだろうが、それでも傭兵にしてみればお目にかかれないだけの額を貰った。装備を一新して、久しぶりにきちんと『斬れる』剣でも買おうかと思っていた。
仲間達と酒を飲み交わし、戦場でいかに勇敢だったかを自慢げに話す。

俺は七人殺した。

俺だって五人も殺した。

俺はメイジもやった。

はっはっは、たいしたもんだ。

酒場は賑やかで、初めて会った人とだってすぐに仲良くなれる。
次は何処の戦場へ行くのかと論じ、だったら俺達は敵同士になるかもしれないな、と。
だけど今は一緒に生き残っている事を喜ぼう。戦争から逃げてきた身だが、それがどうした。雇われてなんぼの傭兵が、金を払えなくなってしまう依頼人のために戦うなんて、そんな事はありえない。

ただお金。
名誉なんてものは期待していない。彼らは自分達が汚れた存在だと理解していた。
仲間内には死体にしか興奮できないなんて危ない性癖を持つものが居る事だって、人を殺すときの、完全に興奮しきっている自分にだって、エキサイトして何が悪い。戦争をしているお前らのために戦っているんだ。このくらいの個人的な趣味は許して欲しい。

がちん! と杯を鳴らし、ごっくんごっくん酒を飲む。彼らは傭兵で、まだまだイケルと息巻いていたが十分に酔っ払っていた。

ぎぃこ。

はね扉が軋んだ。
またまたアルビオンのお仲間か、と傭兵達は視線を向けて、それが女だという事に気がついた。
フードをすっぽりと被っていて顔までは見えないが、入り口の近くに居た男が一人、すげぇいい匂い! と酔った勢いのままハッピー・タイムに突入していた。
傭兵達は各々顔を見合わせ、いやらしい笑みを浮かべる。
さて、どうやって手をつけようかと女の肩に手を置いて、その女は瞬時に杖を向けてきた。


「やぁやぁ臆病兵隊の諸君。酒は美味いかい? 私の話をちょっと聞けば、ゆっくり杖をおろしてあげるよ」


女はメイジだった。
貴族ではないが、メイジだといった。

何をしにきた、とちょっとの緊張感を持ちながら誰かが言った。


「雇いに来たのさ」


女が座るカウンター席に料理が運び込まれ、美味しそうに女は食べる。
久しぶりにまともなものを食ったと嬉しそうだった。

仕事の内容を聞けば、それはそれは簡単な事。
危険も少ないし、払いもいい。傭兵達はもう一度顔を見合わせ、仕事を受けた。愉快そうに笑いながら、酒をいっぱいいっぱい飲んだ。





思えば、そんな簡単な仕事で、そんなに羽振りのいい話があるものか。





雇われた傭兵は七人で行動していた。もっと人数を増やせばいいのにと言われたが、今の仲間が一番安心できた。
三つ前の戦争で仲間になった二人以外、幼い頃から知っている気のいい連中だった。
まず二人が死んだ。三つ前の戦争で知り合った二人が死んだ。
何をされたのかは分からなかったが、ただ、全身の穴という穴から血をだくだくと流しながら死んだ。

もちろん残りの五人は逃げ出そうとした。
だが、進む先の地面が盛り上がってきて簡単には飛び越えられない壁になってしまう。
絶望が男達を襲うが、相手は一つ提案を出してきた。

質問する。答えろ。それなら……、と。

まず一人がこう聞かれた。物盗りか、それとも雇われ者かと。


「はっ、知らないね! 俺達は───」


その先を言おうとしたやつの首がくるん、と一回転した。横に一回転した。
ただ単に、ちょこんと頬を触れられただけでそうなった。その傭兵は鼻と口からぶくぶくと血を吐き出しながら死んだ。

再度その人物は口を開いた。物盗りか、雇われ者か。


「い、いやだ、助け」


命乞いをした一人は上半身と下半身が反対の方向を向いた。ぴくりぴくりと二、三度震えて死んだ。

その人物は長くため息をついてもう一度。物盗りか、雇われ者か。


「う、あぁぁあああ!!」


傭兵の二人が剣を持って駆けた。
黙って殺されるくらいなら殺す。傭兵達は当然そのような考え方を持っていて、闘争か逃走の本能が、逃走が出来ないのなら、闘争を選んだ。
二人は昔馴染みだったし、息も合っていた。もしかしたら、二人でかかればメイジだって倒せるかもな、と酒を飲みながらそんな話をしていたのを思い出す。

傭兵の一人が剣を振った。薄く笑うその人物に向けて剣を振った。
肩口に当たった瞬間、殺したと思った瞬間、ぽきりと剣が折れた。
折れた先がもう一人の傭兵の首に突き刺さった。死んだ。


「えぁ」


困惑しながらの声が最後の言葉だった。斬りかかった傭兵は自分の胸にぽっかりと穴が開いていることに気がついた。
なんだかよく分からないけれど、とにかく死んだ。

さて、とその人物は面倒臭そうに前髪を持ち上げた。ただ単純に、話せと言った。

最後の一人の傭兵は全部話した。全てを話した。
メイジで、女で、切れ長の瞳に高い鼻。美人で、沢山金を持っていた。そう、土を操っていた事も話した。変な仮面をつけた男がやってきたのも話したし、最後の傭兵が持てる全ての情報を渡した。

ただ助かりたかった。
こんなときに限って、思い起こす事は先日飲んだ酒の種類ばかりだったが、それでも助かりたかった。
せっかく稼いだ金の使い道を、故郷に残した弟夫婦。彼自身は結婚していなかったが、甥っ子がとても可愛かった。彼にもよく懐いてくれた。弟夫婦は一緒に葡萄畑をやらないかと誘ってくれたが、それでも稼ぎがいい傭兵の道を選んだ。
だって、葡萄の栽培を始めるにはお金がいるし、これだけの金があればそれだって夢じゃなかった。幼い頃から可愛がっていた弟と、その妻。子供。傭兵という、ちょっとだけ汚い仕事をしている彼を、家族だといってくれた。


「これだけだ! 俺が知っているのはっ、これだけなんだ! 金で雇われたんだ、知らないんだ! 助けてくれ! いやだ、こんな死にかたはいやだ!!」


恥も外聞もなく彼は命乞いをした。唾を飛ばしながら死にたくないと願った。

呆れたように口を開いた人物はもういいといった。
どっちにも取れるその言い方に、ゆっくりと伸びてくる右手に、彼の心臓はもっともっと早く、動悸を起こし始めた。


「いやだ、助けてくれるって、話せば助けてくれるって!」

「ワリ。俺ってさァ、意外と嘘吐きなンだわ」


ぷつ、と最後の一人の命が消えた。





。。。。。





学院を出て半日ほど。
慣れないグリフォンの背中に、ついにルイズの尻は悲鳴を上げ始めた。


「ぅあ、お、お尻が、お尻が」

「どうかしたのかい?」

「お尻が痛いわ」

「乗馬は得意だったと思ったが……、あぁ、今日はいつもよりも身体が重いからか」

「お、重くないわよ! 例え重くてもそれは筋肉よ!」

「いや、僕はその剣とナイフの束のことを言っているんだが……」


ワルドは手綱を引きながら、少しだけグリフォンの速度を落とした。
ルイズは尻を浮かすのを止め、ワルドの目の前でふりふりしていたそれをグリフォンの背中に戻す。
ワルドの言うとおり、今日のルイズは重いのだ。ナイフは三十。何となく選んだデルフリンガーはルイズの身長を超える。これだけあれば馬に鍛えられている尻も痛くなろう。
ゆっくりと進むグリフォンにルイズはごめんね、と声をかけた。


「ところで、聞こう聞こうと思っていたんだが……、君は剣が使えるのかい?」

「うん」

「ふむ。どの程度?」

「んー……」


少しだけ考えて、そういえばルイズは自分がどの程度強いのかよく分からない事に気がついた。
一方通行との戦闘では負けたし、先日のフーケとの戦いも一方通行がいなかったら死んでいる。うむむ、と顎に手をやり考えて、


「……たぶん、相当な化け物でもない限りは負けないと思うんだけど……」

「それはいざという時、戦力になると考えてもいいのかな?」

「ん、それは任せて。ただの人間にならきっと負けない」


実際のところルイズの実力はそれなりに高い位置にある。
武器を使って、一対一での戦闘。それならば恐らく誰にも負けない程度の実力はある。しかしメイジの魔法のことを考えるとあやふやになって、そもそも一方通行が近くに居るのが悪い。一方通行は最強で、ルイズもその事を知っているものだから、強いといえば一方通行になってしまうのだ。
メイジの実力にしたって、仲がいいのはキュルケとタバサ。おまけでギーシュくらいか。
キュルケは強いし、タバサだって。ギーシュは置いといて、ルイズの母親など、とんでもないほどの実力を持っている。ルイズの周りには優秀な人間が多すぎた。だから自分になかなか自信がもてなくて塞ぎこんでいた訳だ。

しかし左手にあるルーン。今は籠手のせいで見えないが、これさえあればきっとという思いはある。
最強にだってもしかしたら届くかもしれないし、一方通行が言っていたように、本当に虚無の魔法使いなら伝説である。
むふふ、とルイズは笑いながら尻をさすった。


「ほら、あまりはしたない真似をするんじゃない。せっかく可愛く生んでもらっているんだ」

「だ、だって私のお尻は痛がってるのよ」

「貴族なら、屁をこくときも美しく、だろ?」

「あら、なかなか良い事言うじゃないワルド」

「光栄だよ、まったく」


くっくと笑うワルドは、ルイズにとって兄のような存在だった。
母の説教から逃げ出した先の小船。そこで泣いているところを見つけられて、いつもワルドは母と父に“もうその辺で”と口を利いてくれた。
ルイズが小さな頃は、ワルドだってお調子者で、ルイズと一緒に悪さばかりしていたのに、いつの間にか髭なんか生やして、いつの間にかグリフォン隊の隊長である。
離れたところに行ってしまったんだな、と思っていたところに“屁をこくときも~”。何だか昔を思い出して、ルイズはちょっとだけ嬉しくなった。


「久しぶりに見ると……、貴方けっこういい男ね。いい筋肉してるわ」

「今さら気がついたのかい? これでも交際の申し出が後を絶たないんだがね」

「な、何人くらい手篭めにした?」

「……今のところ……、二十二、いや、二十三かな……?」

「きゃー! いやらしいいやらしい! 降りなさいよ! えろ菌がうつる!」

「君が聞いたんじゃないか! あぁ、君は変わってしまったんだね、ルイズ。僕のルイズ。昔は僕の後をずっと着いてきて、ワルド様と結婚するって言っていたのに」

「貴方と結婚なんかしちゃったら二十三人の女達から謀殺されちゃうわ」

「最近は僕が殺されそうだよ。女は怖いね」


笑いながらワルドは髭をさする。
反省などしておりません。後悔もしておりません。しっかりと態度に出ていた。

ルイズもワルドのそんな態度に笑い、そこで視界の先の異変に気がついた。
ルイズたちが進んでいる道は一本道である。このあたりに分かれ道はない。しかし視線の先、一本道は何か妙なものに塞がれている。壁といえばいいのだろうか。それとも山か。
ただ土が盛り上がっていて、なかなか簡単には超えられそうにない高さまで。三方を囲うようになっていて、袋小路を思わせた。


「んー? 何あれ……」


じっと目を凝らし、


「───ぅあ、え、あ、あれって……?」

「……見ないほうがいい。目を瞑って、僕に捕まって」


闇に慣れた目が捕らえたのは奇妙なオブジェだった。死体だった。
いくら目を瞑ろうが強烈な印象を残したそれは簡単に忘れる事など出来ない。上半身と下半身が逆転している男が居た様に見えた。闇のせいでよくは見えなかったが、胸に大穴が開いている男だって、首に何か突き刺さっている男だって。

とたんに湧き上がる吐き気。
咽喉を這い上がってきたものを、ルイズは無理やり飲み下した。

ワルドが察してルイズの背中をさする。


「盗賊か何かだったんだろう。土のメイジに返り討ちにあったのか?」


ワルドはそういったが、ルイズはこの地面が盛り上がったような山を何処かで見たような気がした。
何時だったろう。何処だったろう。剣が折れている。身体が、反対を向いている。
もしかして、とルイズは思った。

ルイズが学院を出る頃、確かに彼は居なかったが、もしかして。
どくん、と心臓が一つだ跳ねて、


「キュルケぇ!」


ルイズが叫ぶと上空からばさりばさりと羽音が聞こえてきた。


「はいはい、どうしたのよ。って、うげぇ、何よこれぇ」


シルフィードに乗り、空から降りてきたのはキュルケとタバサ。
タバサはキュルケに巻き込まれたのだろうが、何も言わずに付いて来るあたり彼女らしい。

ルイズはグリフォンから飛び降りて、掴みかからんばかりの勢いでキュルケへと迫った。


「シ、シロ、上からシロ見えなかった!?」

「こんなに暗いのにそんな遠くまで見えないわよ」

「タバサは!?」


聞けばゆっくりと首を振る。

信じたくはないが、信じるなんて出来ないが、これが一方通行のやったことだとするといったいルイズはどうするのだろうか。彼女は自分自身、それがよく分からなかった。
すでに一万人殺していると聞いたが、それを超えて迫り来る現実。死体。ちょっとだけ一方通行のことが分かって、これを、あと、一万人殺している。

そんなはずがない。これは一方通行じゃない。ルイズはぶんぶんと首を振る。


「ルイズ、紹介してくれるかい?」

「あ、ああ、ごめんなさい。私の……、と、友達なの」

「一応、秘密の任務だと聞いているが……」

「うん。だから内容は教えてないわ」


嘘である。


「あんまりしつこく迫ってくるから、勝手になさいって言っただけ」

「ん、そうか……。ふむ、まぁ、いいか。お嬢さん方、名前を聞いても?」

「こんな奇妙なオブジェのあるところで乙女に名乗らせる気? あなた、顔だけ良くても駄目よ?」

「これは失礼を。……埋葬している時間はないか」

「貴族が平民を?」


キュルケは少しだけ意外そうに。


「貴族も平民も関係ない。人間なんて、死んだらただの肉の塊さ」


そのときのワルドの顔は暗がりでよく見えなかったが、少し怖いなとルイズは思った。

遠くのほうに明かりが見える。人の営みの明かり。町はすぐそこだった。
すぐ近くにある死体は何だか現実感が伴っていないように感じて、だからこそリアル。
ルイズは思わずキュルケとタバサの間に入り込み手を握った。

なんだか、空に浮かぶ双月は重なりかけていて、人が大きく口を開けているような、なにかの穴のような。
食べられちゃいそう。ルイズはそう思った。





港町ラ・ロシェール。
港町とはいうものの、近くに海があるわけではない。渓谷の山道、その間に作られた小さな町である。
なんと言っても、アルビオンは空を飛んでいる。ここでいう船は空を飛ぶものなのだ。

向こうの世界の常識は知らないが、船が空を飛ぶというのは聞いたことがない。一方通行にも見せてやりたかった、とルイズは小さく口を開いた。

一行はラ・ロシェールで一番上等な宿に泊まることにし、その一階、酒場になっているフロアでゆっくりと息をつく。
一日の大半を生き物の背中の上で過ごしたのだ。ルイズは疲れているという自覚はなかったが、自覚はなくともじわじわと出てくるのが疲労である。ワルドに休んでいたほうがいいと言われ、外に出て行こうとしたのを止められた。
そわそわと落ち着きなくあっちをきょろきょろこっちをうろうろ。相変わらずの挙動不審ぶり。


「何やってるのよ」

「いや、その……」

「シロ君?」

「う、うん」


ルイズは一方通行を探していたのだ。ラ・ロシェールに一歩入るなり道行く人波をじろじろと見、凝視して、観察して、そして目的の人影を捉えることができなくて落胆とも安心とも取れるため息をこぼす。
そんなルイズの様子を見、タバサがいつもの通りの表情で、


「見つからない。人が多すぎる」

「……うん」


何故かなど分かりきっているが、この街には人が多すぎる。
もともとがアルビオンとの中継点だし、更に今は戦時中ということで何処を見ても傭兵だらけだった。嫌でも耳に入ってくる戦争の会話。王様は終わっただとか、アルビオンは潰れるだとか。
ただでさえ心配事があるのにこれ以上余計な心労を増やさないでくれ。ルイズは心底祈った。

どうにも戦況はあまり良いとは言えないらしい。
アルビオンは王党派と貴族派に分かれて戦争をしている。ルイズが会いたいのは王党派のトップツー、ウェールズ皇太子である。このままだと、このラ・ロシェールの状況を見るに、多分数日中に王党派は潰れる。ウェールズは死ぬだろう。だからその前に姫の手紙を届け、以前の手紙を回収せねばならない。

自分の近い将来に不安を抱き、ルイズは深々とため息をついた。
いや、後悔はないのだ。軽々しく請け負った事に反省はしているが、後悔はない。

けどそのせいで自身の使い魔と喧嘩になってしまった。
しかもなんか人死んでるし。
さらに一方通行怪しいし。


「たまんないわ。ホント馬鹿、私……」


ご主人様の私よりも、キュルケのほうが一方通行の事を分かってるではないか。


「うかない顔だね。そんなに使い魔君のことが気になるかい?」

「そうね、気になるわ」

「正直者だ。……しかし人間を使い魔に、か」

「もういいでしょ。そんなにおかしい?」

「違うよ、馬鹿にしているわけじゃない。ただ、以前調べ物があって王立の図書館に行った事がある。そのときに興味深い文献を見つけてね」

「うん」

「なんとなんと、始祖ブリミルの使い魔も人間だったという。君と使い魔君はその再来かもしれないな」


はいはい出ました。
正直に言うとこの程度の反応である。もうその話は何度聞いたであろうか。虚無虚無虚無って、だったら早く魔法を使わせろ。
確かに使い魔は人間で、その使い魔もルイズのことを虚無だと言うが、ルイズは未だにそれを信じ切れてはいなかった。
最近はまったく信じていない訳ではなくて、そうだったら良いなとは思ってきているが、それでも自分が虚無だという話を信じるくらいなら一方通行が実は女だと言う話のほうが信じられると言うものだ。

とにかくそのくらい信じていない。
だって、期待しすぎると外れたときにつらいし。あんまり保険をかけるようなことは好きじゃないけれど、こればっかりは仕様のないことである。
一方通行からも言われているし。虚無は秘密に。二人だけの秘密である。ちょっと何だかむずむず。
だからルイズはわざとらしく気のない返事を。


「へぇー」

「……なんか反応薄いな。もっと喜んだらどうだい?」

「ん、まぁそんなモンなんじゃない?」

「……ほう?」

「ル───、っ」


ルーンなら私に出てるわよー、なんて言おうとした時だった。タバサが机の下で左足のつま先を杖でぐりぐり。ルイズはびくりと反応。


「な、なによ」

「カエルがいた」


凍りついた。


「潰した」


ざぶいぼが立った。


「あなたの足に臓物をぶちまけながらくっついてる」


ちょっとだけおしっこ漏らした。


「あ、蛆」

「ぎゃふーんっ!!」


失神した。





。。。。。





ワルドは紳士的で、食事中でも時折ジョークを混ぜ込む。
それが面白くて、あまり表情の変わらないタバサも何度か吹き出しそうになったのは秘密である。

失神したルイズはワルドに軽々と抱き上げられ、


「ちょっと狭いかもしれないけど、そっちの部屋に三人でも構わないかな?」


紳士である。
タバサはキュルケと顔を見合わせて一つ頷くと、ワルドはルイズをベッドの上へと。お休み、と背を向けるワルドにはいと答えた。
ルイズは寝ている。グーグー寝ている。
顔をつつきながらタバサは部屋の鍵がかかっている事を確認。


「それで?」


キュルケが口を開いた。少しだけにやついた表情は、わかっているのよとでも言いたそう。
タバサは頷き、部屋にディティクトマジックをかけた。探知の魔法。覗かれていたり、聞かれていたり、そういうのは困る。
別段何の魔法干渉もないことを確認したタバサは静かに口を開いた。


「あのとき目が怖かった」


ルイズが口を滑らせてルーンがどうとか言おうとしたときである。そのときのワルドの目は笑っていたが、その奥の光に嫌な感覚を覚えた。瞳の奥は決して笑ってはいなかった。
タバサには少しだけ特殊な事情があって、そういう汚いものを見てきたという自負がある。その直感が伝えた。紳士だけど、何かがある。面白い人だとは思うけれど、何処かが違う。
自分の気のせいならそれでいい。事実、彼がルイズを見るときの瞳は慈愛に満ちている。ような気もする。優しいし、風のスクウェアと言うのなら相当な努力もしてきたのだろう。グリフォン隊の隊長などなろうと思って簡単になれるものではない。地位があり、名誉も持っている。タバサは誰かのおかげで髭が嫌いなのであまり好きではないが、確かに美男子。

そんなワルドが、ルイズの言葉を聞きそうになったときの、あの瞳。


「注意が必要……だと思う」

「ん、了解」


タバサの煮え切らないその言い方が意外だったのか、キュルケは笑った。
ちょっとだけ不安になって、


「本当に?」

「ん?」

「わかってる?」

「分かってるわよ。あのね、私キュルケよ? あなたより男を見る目は、そりゃもう磨いてるんだから」


これにはタバサも素直に感心したものだった。
ちょっとだけむずむずする口元を笑みの形にしながらすごい、と呟いた。
事実、タバサはその一瞬しかワルドにおかしいところはないと思っていたのだ。しかしキュルケは見抜いていたという。タバサとは違って実践の経験などほとんどないキュルケが。嫉妬なんか感じなくて、だから素直に凄いと賞賛した。


「すごい。私は少ししかわからなかった」

「ふふん、見直したでしょ」

「どこで気付いた?」

「学院を出るときからず~っと!」

「すごい」

「でしょでしょ~?」

「なんで、どうして気付いた?」


若干興奮気味にタバサが言うと、


「だってルイズをあんな目で見てるのよ? あんなねっとりじっくり優しげに! あんなのロリコンよロリコン。ロリコン以外何だってのよ。嫌よねロリコンは。ロリコンは困るわよねタバサは。でも大丈夫。あんなね、この私のこと眼中にありませんみたいなロリコンはね、何かしでかしたときしっかりと燃やしてあげるの。この、おっぱいの大きな、このキュルケが!
 あのロリコン、こんなにいい女がいるのにルイズルイズって……、真性よ、あれ絶対にマジのロリコンだわ。もったいないわね、あんな美男子に限ってゲイとかロリコンとか。あなた見た? あの男カップ持つとき小指立ってたわよ? 信じられないわ。ゲイかロリコンで確定じゃない。
 まぁいいんだけどね。私ね、最近のマイブームはすっぽり収まる系なの。こう、何て言ったらいいから、ぎゅってして、すぽっと。そうね、あなたとかルイズはすっぽり収まる系女子よね。私はむっちり包む系女子かしら?」

「……」

「やっぱりいいわよね。おっぱいにね、顔をぐにっとされるとね、気持ちいいの。包んであげたくなっちゃうの」

「……包む?」

「そう。守ってあげたくなっちゃうわけ」

「守る」

「うん。だからね、あなたもルイズも、ま、このフォン・ツェルプストーに任せときなさい」


分かっているのかいないのか。キュルケはけらけらといつもの通りに笑いながら、タバサはその胸に包み込まれた。
やっぱいいわぁ、とキュルケが酒も入っていないのに酔ったように言うと、そのままベッドにダイヴする。タバサもそのまま引きずられて、ぐえ、とルイズの声が聞こえたが、キュルケに抱かれるのが気持ちよくて気にしていられなかった。

言いたい事は、何となくだが伝わっているようないないような。
タバサがキュルケを慕う理由。何だかこのあたりが大人なのだ、彼女は。物事をはぐらかすのは上手いし、怒るときは怒るし、たまに作ってくれる料理は美味しいし。
言えばお母さんみたいで、そういうのが足りていないタバサからするならば、もう大好き。


「頼りにしてる」

「まっかせなさい」






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