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No.6318の一覧
[0] 異界の扉は⇒一方通行 『ゼロ魔×禁書』[もぐきゃん](2011/02/28 13:22)
[1] 01[もぐきゃん](2011/06/23 00:39)
[2] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[3] 03[もぐきゃん](2010/03/02 16:24)
[4] 04[もぐきゃん](2010/03/02 16:35)
[5] 05[もぐきゃん](2010/03/02 16:36)
[6] 06[もぐきゃん](2010/03/02 16:33)
[7] 07[もぐきゃん](2010/03/02 16:58)
[8] 08[もぐきゃん](2010/03/02 17:03)
[9] 00/後、風呂[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[10] 09[もぐきゃん](2010/03/02 17:15)
[11] 10[もぐきゃん](2010/03/02 17:27)
[12] 11[もぐきゃん](2011/06/23 00:40)
[13] 12[もぐきゃん](2010/06/02 16:51)
[14] 13/一部終了[もぐきゃん](2010/03/02 17:58)
[15] 01[もぐきゃん](2010/05/07 18:43)
[16] 02[もぐきゃん](2010/05/07 18:44)
[17] 03[もぐきゃん](2010/06/11 21:40)
[18] 04[もぐきゃん](2011/06/23 00:41)
[19] 05[もぐきゃん](2010/06/02 17:15)
[20] 06[もぐきゃん](2010/06/11 21:32)
[21] 07[もぐきゃん](2010/06/21 21:05)
[22] 08[もぐきゃん](2010/12/13 16:29)
[23] 09[もぐきゃん](2010/10/24 16:20)
[24] 10[もぐきゃん](2011/06/23 00:42)
[25] 11[もぐきゃん](2010/11/09 13:47)
[26] 12/アルビオン編終了[もぐきゃん](2011/06/23 00:43)
[27] 00/おとめちっく・センチメンタリズム[もぐきゃん](2010/11/17 17:58)
[28] 00/11072・レディオノイズ[もぐきゃん](2010/11/24 12:54)
[29] 13[もぐきゃん](2011/06/23 00:44)
[30] 14[もぐきゃん](2011/06/23 00:45)
[31] 15[もぐきゃん](2010/12/03 14:17)
[32] 16[もぐきゃん](2011/06/23 00:46)
[33] 17[もぐきゃん](2010/12/13 13:36)
[34] 18/虚無発動編・二部終了[もぐきゃん](2010/12/13 14:45)
[35] 01[もぐきゃん](2011/07/22 22:38)
[36] 02[もぐきゃん](2011/06/23 00:47)
[37] 03[もぐきゃん](2011/07/22 22:37)
[38] 04[もぐきゃん](2011/07/26 16:21)
[39] 05[もぐきゃん](2011/07/27 16:48)
[40] 06[もぐきゃん](2011/07/27 16:59)
[41] キャラクタのあれこれ[もぐきゃん](2010/12/02 20:55)
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[6318] 09
Name: もぐきゃん◆bdc558be ID:4020f1db 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/02 17:15



本日も晴天。春に相応しいぽかぽか陽気だ。
いつも早起きをしているだけに、まさか自分が太陽に起こされようとは、とルイズは眠い目を擦る。
今日も今日とて体の節々が痛むが一方通行を召喚してから数日、もうそれは毎日の事なので慣れ始めている自分が怖い。

上半身だけをベッドから起こし、隣に眠る一方通行を欠伸を噛み殺しながら見た。


「ふにぃ、ん~……っはぁ! あぁまったく……眠ってれば可愛いのにねぇ」


天使の寝顔とはまさにこのことだろう。
肌の色が白く、ともすれば死人にも見えてしまいそうだが、しかし一方通行は美しかった。

寝床を同じにするのはこれで何度目だろうか。
絶対に嫌がると思っていたのだが特に何か考えた調子もなく“かまわねェ”と。
やけに素直なものだなとも思ったが、しかし一方通行は一方通行だった。

彼はいつもの調子でベッドに横になる。真ん中に横になる。そこでルイズが叫ぼうが暴力を振おうがまったく聞かないし効かない。自分の体を痛めつけるだけと諦め、ベッドの隅のほうに小さくなりながら眠るしかないのだ。
いくら春といっても、布団も取られてしまえばやはり寒い。そして恥ずかしい事に、眠っている自分は暖かい所を求めて一方通行へと擦り寄ってしまうのだ。だから朝起きるといつも一方通行は傍にいる。たまに抱きついている時もある。

勿論ルイズは男の心に潜むという野獣を呼び起こしてしまう可能性も考えたが、一方通行はまるでルイズに興味を持たなかった。色気の無い身体をしているのは自覚しているが、しかしここまで無視されると逆に悲しくなってくる。
初めて一緒に寝る時なんかルイズはドキドキしっぱなしで一睡も出来なかったのだ。いつ野獣になるのか心配で心配で眠れなかったのに、それなのに一方通行はまったく、どういうことかまったく素直にすやすや眠っていた。
こんな時だけ素直になるんじゃない!と怒りを感じたのは女として当然だと思う。


(私って割と美少女だと思うんだけどなぁ。筋肉付いてるけど)


釈然としないものを感じながらルイズは眠っている一方通行の頬をぷにぷに突付く。
可愛い事に寝ているときの一方通行は子供のような反応をするのだ。む、ん、と何事か呟き、そして逃げるように背を向けてしまう。


「寝ぼけシロたん萌え~」


なんて事は決して起きているときには言えない。
一方通行は寝ているからこそその美人度を発揮できている。起きてしまえば最後、それは冷たい何かに変わって、その性格も相まってとんでもないものの出来上がりである。

昨夜遅くまで何かしていたのでまだ起きないだろうが、だからこそ『反射』されないこの一瞬の時間はルイズにとってとても大切なものになっていた。

相変わらず何もかも反射してしまう彼はまだ心の一部すら見せてくれない。元の世界でなにをしていたかを詳しく教えてくれない。
信用が無いとかそんなものではなく誰にだってそうやって生きてきたのだろうが、しかしルイズはご主人様なのだ。
いつかきっと、という思いを、めげてしまわない様にこの時間で補給する。

そしてそこから数分一方通行を眺めていた時、不意に扉をノックする音。
こんこん、と。


「……? はい?」


せっかくの虚無の曜日なのに一体誰だろうか。
わざわざ休日を自分に会うために潰す馬鹿など今のところシエスタしか知らないのだが、と失礼な事を考えながらもベッドから降り、扉を開いた。


「やぁルイズ、今日もいい天気だね。暖かな太陽はまさ───」

「お呼びじゃないわ」


そしてぱたりと扉を閉めた。

ベッドの上に戻り、己の召喚した可愛い可愛い使い魔で補給開始。
そこから数分一方通行を眺めていた時、またも部屋の扉が鳴った。
こんこん、と。


「……? はい?」


せっかくの虚無の曜日なのに、一体誰だろうか。
わざわざ休日を自分に会うために潰す馬鹿など今の───。


「おはようルイズ。今日は虚無の曜───」

「チェンジ」


そしてぱたりと扉を閉めた。

ベッドの上に戻り、またも一方通行の寝顔を見ようと身体を乗り出す。しかしその瞬間、示し合わせたようにパチ、と何か機械の様に一方通行の目が開かれた。
ビクッ、と肩を震わせながらルイズは一応、


「お、おはよ」

「……何やってンだ、お前ェ……?」

「べ、べべ別に何も! それより眠たそうね、昨日は晩くまで何やってたの?」

「……あァ、何だろォな……頭が働かねェ」


頭痛でもするのだろうか。一方通行はこめかみを押さえながら身体を起こす。
酷く疲れたような顔で、召喚して以来始めての表情だった。

何かあったのだろうか、と流石に心配になり、ルイズは一方通行の額にゆっくりと手を当てた。


「熱はないみたいね」

「俺ァ風邪はひかねェ……ふぁ、ねみィ……」


本当にただ眠いだけなのだろう。
今日は虚無の曜日で、どうせなら一方通行を連れて何処かへお出かけしようと思っていたので少しだけ落胆。
休日を寝て過ごすのは行動派であり部屋の中より外が好きなルイズとしてはとても許されない。今日は一人で限界腕立て(何もかもが嫌になるまで腕立て伏せ)かぁ、と小さくため息をつきながら一方通行の隣にぺたんと落ち着いた。

そしてまた、こんこん。


「あぁもうっ、しつこいわねぇ……!」

「……ん、誰だァ?」

「きもちわるい男よ」


一方通行が目を擦る様は非常に可愛いのに、しかしとんでもなく邪魔な存在が。
鼻息荒くルイズは立ち上がり、そして扉を開けた。


「ルイズ、ルイズ! 今日は一緒にお出かけしようじゃないかルイズ!!」


先ほどからしつこくルイズへアプローチしてくる男は勿論の事ギーシュである。
顔だけは美形と言って差し支えないのだが、おつむの足りない彼は今までマリコルヌと共にルイズをこれでもかと言うほどにこき下ろしてきた人物の一人だ。
それが先日の一件以来、人が変わったように殊勝になり、そしてルイズを女神と呼び始めた。
とても相手をしていられない。気持ちが悪いのだ。学校の制服ではなく私服を着て授業を受けるのも気持ちが悪いし、いつも第三ボタンまで空けて貧相な胸筋を見せてくるのも気持ち悪い。


「街まで出よう! 君にお似合いの剣を見繕ってあげるよ!」


堪らなくイラッとくるのは自分だけではないはずだ。
ルイズは一度だけ嫌だと言い、


「そんなこと言って本当は期待しているはずさ。僕には君の心が手に取るように分かるんだ! まるで子猫のようだよルイズ!」

「ギーシュ、もう一度言ってあげる。私は、貴方と、街へは、行かない! お分かり? あんだすたん?」

「照れているのかい? そんな君もプリティーだ!」

「きもちわるい!」


そしてルイズは硬く拳を握りこみ素早くファイティングポーズを取った。


「ま、待ってくれルイ───」

「やかましっ!」


まずは左のジャブで牽制。たたんっと二発、小突くようにして額を打った。
そしてくあ、と間の抜けた声をあげ頤を晒したギーシュに、その顎をめがけて右ストレート。ゴキ! と右手に確かな手ごたえを感じた。
身長差の為、顎を下から打ち抜く形になったそれはギーシュの脳を揺さぶりたたらを踏ませる。
よたよたとたよりない足つきで、しかしギーシュもまだ諦めてはいなかった。自由にならない両手を伸ばして何と抱きついてこようとするのだ。
ここまでアグレッシブな男だったか、とルイズは更なる嫌悪感を感じる。


「るいるい、るいひゅ……っ」

「きもちわるいっ!」


叫びながら向こう脛を強かに爪先で蹴りつけた。
ああっ! と気持ち悪い悲鳴の後にしゃがみ込んだギーシュを尻目にルイズは背を向け部屋の中へ入ろうと───、


「き、君の愛情表現は過激だね、ルイズっ」


なんと言う男だろうか。
今までの男たちはここまですれば全員引いていったと言うのに、ギーシュは脛をさすりながら微笑んで見せた。
ルイズはもう意識を刈り取るしか他に方法が無い事を悟った。気持ち悪い男の意識を刈り取るしか、この一週間に一回しかない休みを謳歌する事が出来ないのだ。

ふしゅぅぅぅうううと息を吐き、助走を取る為に部屋の中へと。


「っくく、何やってンだアイツ?」

「きもちわるい事してるのよ」


初速を最大限上げる為に身体を前傾、そして床がきしむほどにダッシュ。
ギーシュは涙目ながらも微笑んでいた。しかし跪いた彼の顔面は、身長の低いルイズにとってとても良い位置にあり、そして両足のしっかりと揃ったドロップキックが吸い込まれるように、


「だりゃぁぁああ!」

「こぷぶぅッ!」


決まった。

廊下を一回転二回転しながらギーシュは転がり、ルイズはすぱぁん、と両手で受身を取る。
息が若干乱れたルイズはこれでどうだ、と睨みつけるようにギーシュを。
しかし、ルイズの目に映るのは、またも予想に反して大の字に伸びたギーシュではなかった。


「ぐ、ぐぅ……ま、またも救いの蹴りを貰うとは、ははは、嬉しい、限りだッ! ……不思議かい、ルイズ? 僕がここまでされて起き上がれる理由が。これはねルイズ……これは愛だッ!!」

「愛!?」

「そう! 僕の胸のうちにある想い。……熱く、火竜のブレスにだって匹敵する想い、受け取ってくれ! 愛しているぞ、ルイズゥゥウウウ!!」

「このッ、歪んでるのよ、アンタァ!!」


でかい口を叩きつつも、もう動けないギーシュはそこに留まるばかり。
ルイズはもう一度駆け出し、今度は己の跳躍力に任せ飛び膝蹴りを叩き込んだ。顔面へと叩き込んだ。メメタァ、と自身の膝に水っぽい感触。ギーシュは鼻血を噴出すも、それでもにやにやとした笑みを崩す事は無い。
ルイズの背中にゾッとしたものが走り、それはそのまま嫌悪感へと様変わり。さっさと仕留めようと素早く背中へと取り付き、ギーシュを羽交い絞めにした。


「るいず! るいず!」


とてもきもちわるい事にギーシュは元気を取り戻すようにジタバタと暴れ始めるが、もう遅い。
この体勢に入ってしまえば最後。ギーシュは後頭部の心配しか出来ないのだ。
ルイズはギーシュの膝裏に蹴りを入れ、身長差による技の誤爆を防ぐと同時に背筋へと力を込める。

そして、


「んぉぉおおッ! ッドラゴォン!!」


ゴチャッ!!
羽交い絞めにしたまま、そのままの体勢でのスープレックスを決めた。
ギーシュは強かに後頭部を打ちつけ、そしてやっと静かに。それほどルイズの繰り出したドラゴンスープレックスは強力だったのだ。
とんでもない男だった、とブリッジのままため息をつき、そしてちらりと部屋の中に視線を送れば一方通行がけらけらと笑っていた。
途中から悪乗りして笑いを取りにいっていたために少しだけ嬉しくなり、ギーシュを物の様にポイして部屋へともどる。


「えへへ、面白かった?」

「わからねェ感性だ、貴族ってのは全員アレなのか?」

「気持ち悪いでしょう、アイツ。こないだシロと暴れて以来ああなのよ。変な事したんじゃないの?」

「俺ァ殴っただけだぜ? テメエの蹴りのせいだろ」

「そうかしら」


何かツボにでもはいったのだろう。未だに肩をプルプルと震わせる一方通行を見、こんな顔をして笑うんだなと再確認。
知らない事が多すぎる同棲相手は、どんなに怖かろうがやっぱり人間なのだ。
ルイズは少しだけ勇気を出し、


「き、今日ね、学院はお休みだから……だから、王都に買い物に行かない?」

「王都?」

「うん」

「何買いに行くンだ?」

「ほら、貴方の着替えとか色々よ、色々」

「……」

「……ダメ?」


きゃるるん♪ と小首をかしげ可愛いオーラを全開に。
予想に反し一方通行はすごく嫌そうな顔をした。正直ショックだった。シエスタにだったらビチョビチョの下着を洗ってもらえる程度には効くのに。


「……テメェは武器でも買ってろ」


それだけ言い残し、一方通行は一人でさっさと部屋を出ようと。
やっぱり一緒には行ってくれないのか、と肩を落としかけた時、


「何やってンだ。買いに行くンだろォが、服」

「へぁ、う、うんっ!」


ルイズはもしかしたら、とその考えに至った。
一方通行はもしかしたら服が好きなのかもしれない。本人は決して見せないように、悟られないようにしているのだろうが、それにしたって雰囲気がわくわくしている。アレは絶対にわくわくしている。
いつも大股で歩く一方通行だが、その歩幅がいつもより広くは無いだろうか。

じぃ……と目玉をくりくりさせながら観察。
両手を頭の後ろに組みながら歩く一方通行は今にも口笛でも吹きそう。とんでもなく機嫌がいい事に気付く。
もう疑う事は出来ない。ルイズの疑念は確信へと変わった。

一方通行は買い物orファッションが好きだ。絶対好きだ。間違いなく好きだ。そういえば一方通行は潰したモンモランシーの香水を気に入っていたようだった。
これからは何かをさせたい時にファッションを餌にしよう。


「服、好きなのね」

「別に好きでも嫌いでもねェ。着れりゃ何でもいいだろが」

「何よ、素直じゃないわね。好きなものくらい好きって言ったらどうなの?」

「あァ? 何様だお前ェ」

「ご主人様よ」

「……」

「あんまり上手い事言われたから反論の仕様が無いのね?」


ふふ、とルイズは一つ笑い可愛い所あるじゃない、と続けようとした。
したのだが、一方通行の右手が伸びて、


「っなんちゃって! そうねごめんなさい使い魔のルーンが自分に出てるご主人様なんていないわよねっ!!」

「……っち」


そして一方通行は歩いて行く。
ルイズの疑念は変らず、絶対にわくわくしながら。
ぼそりと、


「……わくわくシロたん萌え~」

「あン?」

「な、なんでもないっ!!」


殺されるのを何とか回避したルイズであった。





09/『わくわくシロたん』





馬。馬である。予想よりも、実際に見ると随分大きい。
当然だが一方通行は馬には乗った事は無い。乗馬なんていう優雅な趣味は持ち合わせてないし、見る機会もテレビでやっている競馬くらいしかなかった。


「ほら、早く乗りなさいよ」

「……」


乗れない、と泣くのは一方通行の美学に反する。反するが、実際に乗れないのだ。
まさか馬で移動だとは思わなかった。いや、当然この世界の文化レベルを考えれば自動車などあるはずもなく、納得は出来るのだが。
しかし納得できるからといっても、とてもじゃないが乗りたいとは思わない。


(コイツはどうやって『運転』すンだ……?)


車の運転ならお手の物だ。バイクだって簡単に乗り回してやろう。求められれば戦闘機だってショベルカーだって動かしてみせる。しかし、馬だ。目の前の乗り物は機械ではなく生物。言ってしまえば乗り物ではなく、生き物なのだ。

黒色の毛並みの良い馬に乗っているルイズは早く乗れと急かしてくるが、


(ンな目で見るンじゃねェ)


一方通行にあてがわれた馬はまるで見透かすように一方通行の瞳をじっと覗き込んでくる。
大人気なくも睨み返すと馬は興味なさげに顔をそらした。そしてテクテクと歩いて何処かへ行ってしまう。追う気にもなれずそのまま何処かへ行く馬を何となく見ていると、馬上のルイズがクスクスと笑っている事に気が付いた。


「ンだァ?」

「ふ、ふふ、シロ、もしかして乗馬出来ないの?」

「生憎『向こう』じゃ馬なンかで移動してる奴ァはごく一部でな。生で見るのも初めてなンだよ」

「何よそれ。長距離はどうやって?」

「馬なんかより随分速ェ乗りモンだ」

「グリフォンとか?」

「……俺ァ何でテメエ等が生き物に乗りたがるのか理解できねェよ」


そもそも一方通行には乗り物は要らない。
どこか遠い場所に移動しようというなら取って置きの方法がある。もといた世界では使った事すらないが、理論上は可能なはず。文化レベルの低いこっちならではの移動法になるかもしれない。

ルイズは馬で二時間くらいかかると言っていた。馬で二時間。距離にするとどのくらいだろうか。70km位だろうか? 馬がどの程度のスピードでどの程度の持久力を誇っているのか知らないが、絶対に一方通行の方が速い。

一方通行は一度だけ目を閉じ、


「ほらほら、おいで。私の後ろに乗りなさいよ」


方目を開けて腹の立つ笑い方をするルイズを視認。
馬鹿にしている。ルイズは間違いなく馬鹿にしている。
度肝を抜いてやるから少し黙っていろ。

ムカつく顔をもう一度闇の中へ投じ、反射設定のパターンを構築していく。
自身の肌に感じる力を。
生まれた時から当たり前に存在するものの為、設定が少しだけ面倒くさい。当たり前は当たり前ではなく、自分にとっての現実は、全てのベクトルを操る一方通行にとっての現実は、『それ』もまた一つの力。
地球に生まれれば当たり前。ハルケギニアに生まれても当たり前。

人は、星に引かれる。
中心へと向かっていて、常に『ここ』あり続けるベクトル。引力。


「……捕らえた。先に行ってるぜ、お馬さんに乗ってゆっくり来な」

「へ?」


瞬間、一方通行は空へ落ちる。
いや、落ちるのではなく、それは押し出される。無重力ではなく斥力。引かれる力は押される力に変換され、一方通行は空へとすっ飛んでいった。
ドンドン小さくなっていくルイズはポカンと口をあけている。面白い事に、馬鹿みたいな速度で高まる高度。隣を見れば、


「───へぁ? ダーリン何やっ、て、ぇ……」


最後まで聞こえなかったが、何と竜が居た。その背中に二人の人間を乗せて飛ぶ姿はそれなりに美しい。青い翼を広げ旋回している。なるほど、あの二人はルイズを拾う気なのだろう。
さすが、本物のファンタジーは一味違う。


(小せェな、ドラゴンさんよォ)


大の字になりながらまだまだ上昇。
薄い雲をつきぬける前に遠くに城らしきものを見つけた。王都。あそこへ向えばいいのか、と確認。
雲の中は湿っぽく、これが雨を降らせるものなのか、と当たり前の事を当たり前に考え、そこを抜けてしまえば、太陽はかなり近付いたが気温は低い。咽喉を通る空気に冷たさを感じ、年甲斐もなく、恥ずかしい事にわくわくしてしまった。

そこは空だった。

一面は蒼く、何にも邪魔される事の無い太陽はぎらぎらと輝き、下を見れば白い絨毯が。
一方通行は今まで景色に関心を寄せた事は無い。生まれてから一度も。
春の桜は花びらを除去する掃除ロボットを哀れに思い、夏の太陽はいつもより強い紫外線の反射が面倒で、秋の紅葉は視界に入れても心は動かず、冬に雪が降ればただ寒いだけ。

しかし今居る場所。
何にも邪魔される事無く、たった一人の、しかし広大な空間。地上から35000フィートの、一方通行だけの場所。対流圏を超えて成層圏の目前まで。地球だとジャンボジェットが隣を飛んでいてもおかしくない高度だ。地上の百倍近い宇宙線が降り注いでいるが、一体一方通行に何の関係があるというのか。そんなものは無意識レベルで反射している。
ッハ、と思わず笑いが漏れ、


「……悪かねェ。悪かねェな、ここは」


もう一度だけ目を閉じて反射設定をリライト。
急上昇を続けていた身体は頂点で一度だけ止まり、そして降下を始めた。
ここで真っ直ぐ落ちてはただの馬鹿なので、勿論身体にかかる風、空気の流れを『操作』。両腕を広げ、感じる大気に循環を発生させ揚力を生み出す。
ジェット気流の流れるこの高度は、風さえ掴めば面白いように一方通行の身体を運んでくれるのだ。さらに正面から受ける風は具合よろしく後方へとベクトルを。それだけで一方通行の身体は滑空を始めた。

ばたばたばたばた! と服がうるさくはしゃぐがまったく気にならない。
スカイダイビングをしたがる奴の気持ちが分る。空との一体感。自身が風になった気分だ。
以前一方通行は世界中の風を手中に収めようと考えた事があったが、その時になったらスカイダイビングをする奴の邪魔はしてやるまい。やっててもいい。これは、いいものだ。

たったの一分考え事をしていただけで王都が近付いてくる。

星の力を知った気分。
一方通行は『力』を操る能力を持っている。ただそれだけの人間。一方通行がレベル6になろうが、最強で無敵でどんな人間だろうが星にとっては『事も無し』。

そして風を受け、引力に引かれ、斥力を感じ、一方通行の現実はゆっくりと広がっていく。


(……星、か)


そこまで考えて、勿論何度か上昇と滑空を繰り返し、そして王都から約500mくらい離れた所に着地した。
身体にかかるベクトルを全て地面に弾き返すとそこには隕石でも振ってきたかのような穴があいてしまい、ちょうどその時運悪く通行人に目撃されぎゃああ! とでかい声で喚かれる。
一方通行はさりげない調子で近くに立っている木の幹へ背中を預け、そして座り込んだ。
もう一度だけ目を瞑る。

今感じている力。ベクトル。当たり前に存在しているもの。
巨大すぎて扱えないだろうか。研究員たちが大好きな言葉、『理論上』ではいける筈だが。

もったいない事をしてきた、と一方通行は感じた。
頭が良すぎるのも困りものだ。いや、当然頭が良くないと計算を立ち上げられない為、馬鹿でも困るが。

一方通行は子供の頃から宇宙を知っていた。恐らく誰だって知っているように、無重力、真空。だから頭の中に正解があって、それ以上を求めようとはしていなかった。自分だけの現実の中で正解を作り上げて、事実それは正解だろうが、まだ新しい発見もあったかもしれないのに。
一方通行最大のミスは研究員たちに捕まった事だ。
幼い頃から周囲は大人たちに囲まれ、大人たちの固まった脳みそで自身の能力を伸ばそうとする。それでは駄目だったのだ。
一方通行の能力は認識力と計算能力に依存する。
計算能力の『開発』には感謝してやっても良いが、しかし認識力は凝り固まったままだ。

極論、今の一方通行は『当たり前』を『当たり前』と捉えてはいけない。
風が吹いているのは大気の流れと捉えるし、人間は電気信号で動いていると捉える。
しかしそれだけではまったくもって足りないのだ。

もっと子供の頃、見るもの聞くものに疑問を感じれる子供の頃に知りたかった。きっと疑問を感じれば見に行ったろう。
宇宙とは何なんだろうと考えればそこに行く方法を考え、引力を知り、斥力を知り、そして宙へ。宇宙を感じ、血液が沸騰してしまわないようにするにはどうするか考え、重力圏から離れる前に帰還を願ったろう。
そしてその体験は『自分だけの現実』になり、そういうものなんだと捉えるようになったはずだ。

風は風だ。
一方通行の『自分だけの現実』中では空気の流れだが、そうではなくて、風は風だろう。
頭が固まった今、一方通行は風⇒空気の流れ⇒操作可能の考えをしているが、『体験』を『経験』していれば違ったのかもしれない。風を風として捉えたままでの操作だって、空気そのものだと捉えたって、ワンクッションおくこと無く操作可能だったかもしれない。

ベクトル⇒何でも出来る。

こういう考えが、レベル6なのではないだろうか?
一方通行の馬鹿なところはレベル6になる為に計算能力を重視しすぎた事。大切なものは、認識力と『自分だけの現実』。

とはいえ、


(今更バカになれっかァ?)


ふん、と自嘲にも似た笑みを吐き捨て、


「……俺ァ今の俺のままで無敵になる」


瞳を閉じたまま地面に手を付き、星を知覚する。
触れたもののベクトルを操作する。空気だって、何だって。この肌に触れてさえしまえばその操作権は一方通行にある。

知覚。脳内で演算。深く、もっと深く。奥まで覗いて、触れて、ベクトルを感じて。
気付いていなかったが、このとき一方通行は自身の反射が曖昧になるほどの計算量の演算をしていた。
額に汗をたらし、そして、


「……こう、か?」


一方通行が呟いた瞬間、先ほど自身であけた大穴が盛り上がり、地面が競り上がって来た。
地震のような響きを鳴らし、土や石を巻き込みそれはどんどん高く。
馬鹿のような泥山は止まる事を知らず高く高く、漸くになって動きを止めたかと思うと、それはすでに周りの景色を楽しむ事の出来ない高さ50mほどのとても邪魔くさい遮蔽物へと成り果てていた。


「……ッハ、なンだそりゃ」


一応、穴を埋めるつもりだったのだ。
『星』の運動ベクトルを操り、内部に流れる地脈を感じ、そしてやってみれば計算が間に合わない。
くそったれと唾を吐き捨て、近々ここでは小規模な地盤沈下か地震が起こるだろうなァととんでもない事を呟いた。

思ったよりも疲れる作業だ。
当然だが、ベクトル操作にも『慣れ』がある。毎日毎日同じような事をしていればいずれ上手に扱えるようになろう。『星』を操る事が出来れば、風を操るよりももっととんでもない事が出来る。
しかし、


「ままならねェな、実際」


ため息をつきつつ空を仰ぎ、そして青い竜が目に入った。
思ったよりも長い事考え事をしていたようで、たったあれだけの事を起こすのに時間も忘れて操作しなければならない。素敵な素敵な殺し合いではとても使えるものではあるまい。

竜の背中には三人乗っているようで、突如として出来た山に驚いているのだろう。何を喋っているのかは聞こえないが、こっちを指差したりあっちを指差したり。実にわずらわしい。
ゆっくりと一方通行に向って降下してくる蒼い竜はきゅい、と一声ないた。


「ちょ、ちょっとシロ、あれ何!? こないだ街に来た時は無かったんだけど!」

「あァ? 知るかよンなモン。誰かがスコップ持って童心に還ったンだろうよ」

「んなわけ無いじゃない!」


耳をほじりながら適当に。
まさか自分がやったとは思うまい。

一方通行が適当にスゲースゲーとアホの子みたいに興奮するルイズの相手をしていると、くいくいと袖を引く感覚が。
袖を引かれる事に良い思い出が無いのでどうせ今度も碌な事ではないのだろうな、と諦め半分で振り向けば、いつぞやの馬鹿な色の髪の毛をした足りない子供だった。


「ンだァ?」

「……眼鏡」

「あン?」

「眼鏡」

「……俺ァお前ェの言ってる事が何一つ理解できねェンだが、脳ミソは起動してンのか、おい」

「ふふ、眼鏡を壊したのはシロ君だから弁償して欲しい、ですって」

「……、……あァ、あの時……ありゃ眼鏡か」


聡明な一方通行は憶えていた。
そう、香水を踏み潰す前に潰していたのは眼鏡だったのだ。恐らく部屋から出る前だ。確かに踏み潰した感覚がある。

キュルケはクスクス笑いながら、


「ルイズに出させなさいよ。あの子はシロ君のご主人様なんだから」

「子っていうな!」

「眼鏡」

「それよりシロ君はどうやってここまで来たのかしら。空飛んでたみたいだけど?」

「だいたい何でキュルケがシロの事シロって呼んでるのよ! シロって呼んで良いのは私だけなの!」

「眼鏡」

「あら嫉妬? なかなか可愛いトコあるのね」

「っはん、私から可愛い抜いたら筋肉しか残らないじゃない。人間一つや二つ取り得があるものよ」

「眼鏡」

「気持ち悪いわねぇ。筋肉も程々にしておかないとおっぱい大きくならないわよ?」

「いいの。良くないけどいいの。私、大胸筋を育てるわ」

「眼鏡」

「そんなかっちかちのおっぱい触って嬉しいのかしらね、男は」

「……筋肉ごと愛してくれる人のところに嫁ぐわ、私」

「眼鏡っ!」


女が三つで姦しいだが、本当にその通りだ。
しかもこの中の一人が一方通行ですら理解できていない物質を操っているのだから驚きである。
一度だけため息をつき、辟易した顔で静かに呟いた。


「……たまらねェ」


来なければよかった、とひそかに後悔しているのかもしれない。






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