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No.6296の一覧
[0] クソゲーオンライン(銀英設定パロ)[あ](2020/02/21 23:53)
[1] クソゲーオンライン2[あ](2009/02/06 20:54)
[2] クソゲーオンライン3[あ](2009/02/15 16:18)
[3] クソゲーオンライン4[あ](2009/02/24 21:54)
[4] クソゲーオンライン5[あ](2009/03/01 15:46)
[5] クソゲーオンライン6[あ](2009/03/06 22:32)
[6] クソゲーオンライン7[あ](2009/03/08 20:06)
[7] クソゲーオンライン8[あ](2009/03/14 18:30)
[8] クソゲーオンライン9[あ](2009/03/15 16:48)
[9] クソゲーオンライン10[あ](2009/03/29 16:34)
[10] クソゲーオンライン11[あ](2009/04/13 21:12)
[11] クソゲーオンライン12[あ](2009/04/26 23:20)
[12] クソゲーオンライン13[あ](2009/05/24 17:54)
[13] クソゲーオンライン14[あ](2009/05/31 15:30)
[14] クソゲーオンライン15[あ](2009/06/20 18:00)
[15] クソゲーオンライン16[あ](2009/06/29 23:02)
[16] クソゲーオンライン17[あ](2009/07/04 21:08)
[17] クソゲーオンライン18[あ](2009/07/06 22:26)
[18] クソゲーオンライン19[あ](2009/07/11 16:54)
[19] クソゲーオンライン20[あ](2009/07/19 22:44)
[20] クソゲーオンライン21[あ](2009/07/27 22:30)
[21] クソゲーオンライン22[あ](2009/08/10 21:04)
[22] クソゲーオンライン23[あ](2009/08/12 19:50)
[23] クソゲーオンライン24[あ](2009/08/16 18:43)
[24] クソゲーオンライン25[あ](2009/08/16 19:21)
[25] クソゲーオンライン26[あ](2009/09/05 20:39)
[26] クソゲーオフライン27[あ](2009/09/12 18:46)
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[6296] クソゲーオンライン23
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:e0b0b385 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/12 19:50
未だに燻り続ける黒煙と焼け焦げた臭い

横たわるのは理不尽な制裁を受けた人々と
自らの醜い欲望を実行に移したことによる報いを受けた人々


夥しい数の被害者と加害者を生み出した惨劇は
『夢の国』を悪夢に染め、その終焉を決定付ける



■夢の跡に・・■


惨劇から一夜明けたデスティニーランドは
皇帝暗殺という大逆の事件現場として、一時的に国有化され
『私有地』から安全な街フィールドへと生まれ変わる


もっとも、その惨劇の後始末までしてくれるほど
官吏NPCは優しくなく、グルック以下の生き残った従業員や
二度と動かない人々の遺族や友人達は、暫くの間は後片付けに追われることとなる



■■



『こんなことになるなんて、ううん、言い訳だね。安全面や警備面の配慮が
 足りなかったのは事実。一応、経営者の立場にいた私が一番悪いだよね・・』

 
「そうだな」




『そうだなって・・、ヘイン君って結構きついね。でも、下手な慰めされるよりいっか
 私ね諦めないよ。いつか現実世界に戻ったら、ここよりずーと、ずっと凄い楽しい
 テーマパーク作って見せる。あの人が悔しがっちゃう位のみんなが幸せになる場所を・・』


『それ良いですわね。その時は私とリアにもお手伝いさせて下さいね
 きっと、あの子なら一緒にお手伝いしようって言ってくれる筈ですわ』



くしゃくしゃの顔で強がる二人に掛ける言葉をヘインは見つける事は出来なかった
義眼を喪ったときに、どんな慰めの言葉も役に立ちはしない事を彼は知ってしまっていた

そして、自分が精々出来る事は彼女達の話を聞いてやり
友人として傍にいてやること位しか出来ない事を分っていた


傷心の二人をやりきれない思いで見詰めながら
ヘインは惨劇の終幕間際に滑り込んできた
少女達の誘いを真剣に考え始めるようになっていく





■お嬢さんのお願い■


ビーストガールと一部のファンから呼称されるサビーネ
侍女姿と手に持つデッキブラシが妙にマッチするカーセ



彼女達は手負いとはいえ、あっという間に『レンネンカンプ』
史上最強プレイヤーの獣王オフレッサーを屠った

その事実を目の当たりにしたヘイン達三人はただ驚きつつ
黙って二人を見詰めることしかできなかったのだが



そんな彼等の事情などお構い無しとばかりに
乱入者の二人、サビーネとカーセは自己紹介が終わるや否や
本来の目的でもある非常に大胆な提案を彼等三人に行う


■■


『挨拶もそこそこに不躾な話をする非礼をまずお詫び申し上げますが
 本日、お嬢さまとこの地を訪れたのは、ブジン閣下とレンハイト中将に
 お願いしたい儀があってのこと、決してお時間を取らせませんので
 どうか、お嬢様の言に耳を傾けては頂けないでしょうか?お願いします』



そう言って、ヘインの手を両手で優しく取るカーセと名乗る侍女は
不必要にその美しい顔をヘインの顔に近づけて『お願い』をする

その攻撃に予想通りどぎまぎしながらも堕ちたヘインは
首をカクカクと縦に動かしながら頷き
彼女の要求を全面的に呑むことを言葉ではなく態度で示していた

 
その姿をジト目で見つめる少女が、直ぐ傍にいることには全く気付くことなく



「じゃ、みんなお疲れみたいだし、ちゃちゃっと説明しちゃうからね♪
 私達といっしょに大魔王レンネンカンプ殺しに行ってくれませんか?」



可愛らしい笑顔でさらりと物騒な発言をするサビーネに
またもや三人は絶句させられる事になる

それも当然であろう、今しがた倒した化物ですらレベルは2000を超えた程度
先程の戦闘で自分達も大幅にレベルを上げたとはいえ
ヘインと食詰めは1800台、アルフィーナに至っては1500にようやく達した程度
自称530,000レベルの大魔王にとても挑めるとは思えなかった



「貴女、正気ですの?魔王のレベルを知らない訳では無いのでしょう?
 レベルが2千にも達しない私達が、大魔王に敵うわけありませんわ!!」



その少女の無謀な発言に些か気がたったアルフィーナは
彼女から出された提案は一笑に付すような荒唐無稽な話だと断じる

先程の闘いで500以上レベルの高いオフレッサーと
絶望的な差をその身をもって実感した彼女やヘイン達にとって
その誘いは暴挙以外の何物でもなかった


だが、主に代わって答えを返した侍女の見解はヘイン達三人とは全く異なるものだった


『私は大魔王レンネンカンプがオフレッサー以上の化物とは到底思えません
 彼は間違った方向であったかもしれませんが、レベルを超越した力を持っていた
 そう私達は考えております。また、その彼を打ち倒すほどの力を見せた貴方達と
 協力すれば、必ず傍若無人な立振舞いをする愚かな男を打ち倒せると信じております』


「うん、直ぐに返事はしなくてもいいから。でも、私達は今日から三週間後には
 レンネンカンプ城の攻略に取り掛かる予定だから、それまでに返事欲しいかな♪
 そうそう、他にもレベルが1000超えてる人がいたら、誘ってくれると嬉しいな」



二人は言いたい事を言い終えると、もう用は済ませたとばかりに
くるりと回ってスカートをヒラヒラとはためかせながら
颯爽と踵を返し、デスティニーランドを後にする


連絡先を記した紙切れをヘインの前に残しながら・・・




■一つ屋根の下で■



『血の惨劇』から一週間、ようやく後片付けも終わりかけ
グルックの奮闘もあって残された人々達の身の振り方に目処が付き始めた頃

ヘインは寝室で窓から差し込む月明かりに照らされながら
静かな寝息を立てる少女を物思いに耽りながら眺めていた

毎日、精一杯背伸びしながら、震える手を必死に隠しながら
自分と共にここまで歩いてきた大切な仲間の心底安心しきった寝顔を

汚れた手と自らの業の深さに怯え、手を握ってやらなければ
震えて一人で眠る事も出来なくなってしまった少女の穏やかな顔を・・・



■■



レンネンカンプのクソッタレがいなけりゃ
こんなことに巻き込まれなきゃ、俺も食詰めも平凡で退屈な生活を
なんにも有り難がらずに、ただ漠然と過ごしてたんだろうな


それが、血みどろの生活を3年以上も続ける羽目になるなんて
ほんと、勘弁してくれよ。どこかの並行世界の俺が良い目に遭い過ぎた
報いかなんかが理不尽に降りかかってるんじゃないかって思えてくるぜ




      「ヘイン・・・、お前も眠れないのか?」




なんだ起きてやがったのか?とっとと寝ろよ。子供はもう寝る時間だぞ
たぬき娘の世話はどっかの誰かさんの仕事で俺の役目じゃないからな



「相変わらず子ども扱いか・・、私の気持ちなどとうの昔に気付いていながら
 卿は冷たい男だ。その・・、もう少しだけ、女の子扱いして欲しいです・・・」



そんな事ねぇよ。ちゃんと家のかわいい子だって思ってるさ
なんたって3年もいっしょに暮らしてる家族だろ?俺たちは


「ほんとうに卿は残酷だ。分っていながら敢えてそんな発言ができるんだからな
 まぁ、家族という響きは悪くないが、続柄が妻若しくは呼称が嫁ならばより嬉しいが」



悪いが、それは無理な注文だ。何度も言ってるだろ?
ここはあくまでも仮想世界なんだ。とびっきり最悪のって言葉がつくな
そんな所で芽生える感情なんて、一時のものに過ぎない

お前は俺よりも若いし、焦って相手を直ぐに決める必要なんてないさ
現実世界に戻ったら周りに良い男は幾らだって転がってるかもしれないぜ?


だから、今は妙なこと口走ってないで子供らしく寝てろ
俺がちゃんと責任もってホントの家に帰してやるさ

まぁ、半人前の保護者だから、お前にも色々手助けして貰うだろうけどな





           「・・・、ヘインの馬鹿」







相変わらず人の良い笑みを見せながら、自分を子ども扱いし続けるヘインに
頬を膨らませながら可愛らしい文句を言い終えると
食詰めはシーツを顔まで被り、素直に眠りにつく

強力なライバルがいない現状では、無理に攻める愚を避けたほうが得策
まだ、慌てる時間じゃないと彼女は判断したのだ


何といっても自分はヘインに取ってこの世界で唯一無二の『家族』なのだ
この揺ぎ無い事実が彼女に大きな余裕を与えていたようである


もっとも、その言葉が少女に無理な背伸びをさせたくないという
ヘインの中途半端なやさしさから出たものとは気付いてはいなかったが




■それぞれの決意■


『血の惨劇』によって甚大な被害とフェザーン資本の容赦ない引上げによって
債務超過に陥った株式会社デスティニーランドは帝国更生会社法7条が適用され
事件から二週間後には清算手続きが開始されていた


また、その手続きと並行して監督者責任の追及も行われることになり
帝国労安法上の使用者責任を負う立場にあるグルックは
帝国上級労審にて裁かれるため、帝都第三拘置所に拘留されることが決定し
その結審後に有罪が確定すれば帝都女囚専用監獄に収監される予定になっていた


無駄にリアルな『レンネンカンプ』のゲームシステムは
とことん弱者になった者に容赦なかった



■■



『どうして、どうして貴女がここまでの仕打ちを受けなければならないのです
 悪いのは襲撃してきた無法者達の方ではないですか!貴女は命を賭けて最善を
 尽くしました。それは褒められる事はあっても、罰せられることは無い筈です!』



         「う~ん、経営者だからかな?」




グルックが裁かれ、やがて牢獄に捕らわれだろうという話を聞いたアルフィーナは
その理不尽にしか思えない彼女に対する仕打ちに不満を爆発させるが

当の本人が、別に何でもないことのようにサラリと答えた為
二の句を継げず、納得できないという顔で黙らざるを得なかった


そんな正義感に溢れる自分より少しだけ年下の友人の姿に
グルックは苦笑しながら、やさしく諭すように語りかける




「入場者と従業員を守るのは経営者の責任だよアルフィーナ
 私はそれを果たせなかった。だから、その責めを負うのは当然!
 その上、補助金に眼が眩んで皇帝の行幸なんか受け入れてるしね」


『それでもっ!それでも貴女だけがこんな仕打ちを受けるなんて!!』

「うん、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。貴女達の上司は
 こんな事ぐらいでへこたれる程、弱くないんだから、そんな顔しないの♪」




沈んだ顔を見せ始めたアルフィーナの頬をふにふにと引っ張りながら
最高の笑顔を見せたグルックは経営者として最後の責任を果たす為
大切な人と創った『夢の国』を後にする


帝国治安当局の二人に連れられながら、彼女を見送る人々に心配無いと
馬車に乗せられる最後まで、手を振りながら笑顔を見せ続けた彼女は
尊敬し、未だ想い続ける男に負けないくらい魅力的な人間へと成長していた






こうして、デスティニーランドは経営者グルックの逮捕拘禁を持って
その長いようで短い歴史を終えることになったのだが
その終わりは新たな始まりでもあった


残された彼女の親友は何事にも全力を持って挑戦し続けるのに必要な
『情熱』をしっかりとその胸に宿し、その想いを受継いでいた


アルフィーナは最後まで前を向き続けた友人、最後まで自分の心を癒してくれた友人を

大切な二人を救うため、大魔王レンネンカンプを殺すことを決意した



■■



『お嬢、今日は仮想世界であることが惜しいぐらいに良い天気ですね。もっとも
 天気など差して気にしないお嬢にとってはどうでもいい事かもしれませんが・・』



動かなくなった少女の横で久しぶりにデスクワークに励むフェルナーは
溜まりに溜った申告書の処理を手早く進ませながら、最近の出来事を語り続ける

その光景は、物悲しくも『レンネンカンプ』の世界では大して珍しくないものだった



「よっ、フェルナー大変そうだな。夏休みの最終日に宿題に追われる小学生みたいだな」

『その原因を作ったのは閣下ではありませんか、後始末まで狩り出されるとは
 さすがに思っていませんでしたよ。閣下の人使いの荒さには驚くばかりです』


「悪いね。頼りになる大人の知り合いが、フェルナー以外に思い浮かばなくてね」



自分の文句に全く悪びれずに答えるヘインの相変わらずの姿に肩を竦めると
フェルナーそれ以上は何も言わず、いつも後ろに付いているお嬢さんの所在を尋ねた
四人が揃わなければ、パーティーの今後を決めることなど出来はしないのだから



■■



『成る程、レベルの差は決定的な戦力差にならないですか?中々、
 興味深い解釈ではありますね。無論、安易に信じる気はありませんが』


『たしかに、オフレッサーの強さはレベルの枠を超えた物であったとは思う
 直接対峙して私もそう思った。だが、それが他のケースにも当て嵌まるのか
 いや、対象を限定しよう。大魔王やその居城にいる敵にも同じ事が言えるかだな』




パウラのために髪飾り道中の露天で買い求めて
少し遅れた食詰めが到着すると、恒例となりつつある四人での攻略会議が始まる

今回の議題は突如として現われた二人の少女が出した
大魔王討伐協力要請に応じるかどうかというものであった


基本的に彼等も我慢の限界に達しており
これから直ぐにでもレンネンを殺しに行こうか~?状態であったが
雄図と無謀が同一でない事を、よく理解している四人は

些か希望的観測に過ぎるように思える謎の少女達の提案に
ほいほいと飛び乗る気にもなれないでいた



「とは言ったものの、三年以上命を賭けて戦ってレベルは2000にも届かず
 レンネンカンプの馬鹿と同じ所まで到達するのに下手すりゃ300年だぞ?」

『確かに、その計算で行くと現実世界でも3年は経ってしまいますね』

『それに、その間にいつバッテリーが飛んでもおかしくないのは変わらない
 必死の思いでレベルを上げ終えた所であの世行き、笑えない未来予測だな』




後発組の情報で初期ログイン組みのバッテリーが信用ならないことを知り
グルックからもシルヴァーベルヒの死因を知っている三人は
自分達が置かれる非常に不安定で危険な状況に溜息をつかざるを得ない

現状を維持した所でいつ死ぬとも分らぬ状況は変わらず
再び皇位継承絡みの戦争イベントや、その帝国の混乱に乗じた同盟の攻勢で
ここに静かに座る仲間と同じような境遇になってもおかしくはないのだ


ただ、言えることは二つ、いつかは答えを出さなければならないという事と
そして、その答えを出すために彼等に与えられた時間は
一見して無限のように見えるが、間違いなく有限であるという事




『ここは閣下にお任せするのが良さそうですね。きっとお嬢も同じよう思っています』

『そうだな。准将の言が正しかろう。ヘイン、お前が決めろ
 お前が私達四人の、パーティーのリーダーだ。それに従おう』


「おいおい、いつのまに俺がリーダーになったんだよ?ったく仕方ねぇーな
 後悔して文句言うなよ?まぁ、答えは決まってるけどなレンネンカンプの
 クソ野郎をぶっ殺すぞ!パウラやリアの目をさっさと覚ましてやろう!
 それに、あんまりモタモタしてると、グルックが臭い飯に馴れちまって
 お勤めが終わるころに味覚がおかしくなっちまうかもしれないからな!」



最後は下手な冗談で締めたヘインはサビーネ達の誘いを受ける事を決意する
再び、レンネンカンプが無茶なルール改変を行うかもしれないことも考慮すると
多少のリスクを取ってでも、前に進む選択肢を彼は選んだ

何よりも、横に座る大切な仲間をこれ以上このままにして置きたくなかった
その想いは他の二人も同じだったため、ヘインの決断に異を唱える事は無かった





■指導者の品格■



『夢の国』で『血の惨劇』が盛大に上演されている頃
フェザーンで補佐官という要職に付くボルテックは

彼の飼主であるルビンスキーと懇意にしている男
帝国とはことなる政体によって成り立つ国家の頂点に立つ男

同盟政府最高評議会議長の地位に就いて間もないトリューニヒトの私室を訪れていた
彼に有益な情報を与え、主人の思惑通りの行動を取らせるために



■■




『これはこれは、ボルテック補佐官、遠路はるばるようこそお越し下さいました
 同盟政府を代表して歓迎させてもらいますよ。どうぞ、こちらに御掛け下さい』



柔和な表情を張り付かせながら、ボルテックを来賓の間に通した主は
彼を下にも置かない扱いで席に進め、極上のワインによってもてなす

その一連のトリューニヒトの所作は洗練されており
彼が現実世界でも間違いなく、上流階級に属していることを証明していた
もっとも、彼は属するだけでなく、その階級に相応しい力量も持ち合わせていたが




「いやはや、議長自ら私のような者に斯様な手厚い持成しをして頂けるとは
 感激で言葉も出ませぬと言いたい所ですが、我が主ルビンスキーより
 一刻も早く、議長閣下に極めて有用な情報をお伝えするよう言付かっております」



上機嫌な交渉相手の様子に今回の任は比較的に楽に済みそうだと
勝手に思い込んだボルテックは、挨拶もそこそこに本題を切り出す

フェザーンの安定とその安全を守り続ける為にも
凋落しつつある同盟には、皇帝暗殺事件後に帝国で起こるだろう混乱を好機として
捲土重来を計って貰わなければならない
これ以上に帝国側に勢力比が傾けば、フェザーン侵攻イベントが発生しかねない

そうなれば、戦争イベントを一度も経験することなく
圧倒的な富を背景に安寧と惰眠を貪りつづけたフェザーン市民の多くは
その惰弱さに対する報いとして、デスペナを受けることになるだろう


その最悪の事態を避ける為にも、フェザーンはここで同盟を動かし
理想的な勢力比へと傾きかけた振り子を押し戻す必要があった

もっとも、そんな彼等にとって都合の良い提案を聞きいれる必要は
帝国と同盟の双方には無く、そんな彼等を動かすために
毎回、フェザーンはおいしい『エサ』提供しなければならない

今回の美味しい『エサ』は勿論、意図的に起こした『帝国の混乱』の情報である



『ふむ、自治領主閣下が同盟のために常に正確で有用な情報を
 提供していただける事に、先ず感謝の念を表明致しましょう』


「これも偏に、議長閣下に対する我が主ルビンスキーの強い友愛の現われ
 フェザーンの心は常に同盟の、いや、閣下の方を向いていると御考え下さい」



『ほぅ、それは心強いですな。ところで、今日のご用件はこれで終わりですかな?
 それならば、私はそろそろ失礼させて頂きます。大事な公務が待っているのでね』




用件を述べ終えた途端、急に冷淡な態度になった交渉相手に
ボルテックは俄に慌てて、トリューニヒトのいう『大事な公務』が
帝国侵攻のための準備であるか、問わずにはいられなかった




『は?国政についてこの私が部外者に、口外するとでもお考えですかな?』




必死なボルテックに返された返答は、先程の態度以上に温度を低くしたものであった
外交のイロハも知らぬ男に向けられた哀れみが篭った視線はただ冷たかった



「まさか、議長閣下はこの好機に座して動かないと言われるのですか!!
 このまま座して帝国の伸張を許せば、必ずや同盟の引いては閣下にとって
 重大かつ、極めて喜ばざる事態が招かれる事になるのですぞ!お分かりか!」



もう、ボルテック必死だなとトリューニヒトの秘書官が噴出しそうになっているのにも
気付かず、ボルテックは口から泡を飛ばしながら、退出の準備をする議長になお言い募る

だが、なんとしても満足の行く回答を得ようとした残念な男に返された返事は
期待する物とはかけ離れた、彼を絶望させるものであった




『補佐官はなにか勘違いをされているようだ。私はこの同盟の元首であり
 フェザーンの希望だけを叶える君達の走狗ではないのだよ。それに私は
 愛国者であり、帝国に対する主戦論者ではないのだよ。帝国の臣民もまた同盟市民と
同じで守るべき日本の国民だ。私のすべき事は常に両者にとって最良の選択をする事だ』




日本共和国において総理局政務参事官という高級官僚の地位に就き
次の選挙で国政に打って出ようとする彼は、輝かしい自分の未来を守る為
最大限、保身の為に努力する気であったが、この世界での覇権などに
なんら興味を示しては居なかったのだ。

それ以上に、彼が重視したのはこの異常事態という好機を利用して
今後、政界に打って出た際に確固たる支持を得る為に上手く立ち回ることに
主眼を置いた行動を取ろうとしていた。そのために、復讐心を満足させるべき時は
主戦論を唱え、時には無謀な出兵を諌める停戦論を唱えることによって


多くの人々に常に正しい見識を持って行動できる男と印象付けてきたのである
彼はこの世界の事を最も仮想世界に過ぎないと割り切っていたのだ


だからこそ、帝国を打倒する好機であろうと、むやみにデスペナを増やしたと
『レンネンカンプ』事件が解決し、現実世界へと帰還した際に
後ろ指を刺されるような動きを取る気は全く無かったのだ


彼にとって一番重要なのは保身を図りつつ、いま人々から得ている高い支持を
そのまま現実世界にフィードバックすることなのだ
こんなクソゲーの戦略パート上での勝利など、彼にとってクソ以下の価値も持っていない


フェザーンの黒狐も優れた男であったが、二つの世界で利害を冷静に計算する点では
遠くヨブ・トリューニヒトには及ばなかった



一人、同盟元首の客間に残された補佐官は項垂れ、交渉の失敗を悟る


■魔王討伐隊■


帝都中央門前広場にはサビーネとカーセの二人の誘いに応じた
レベルが1000を超える『求道者』立ちが集っていた

彼等の目的は大魔王レンネンカンプ殺害することによって
ゲームをクリアし現実へ帰還すること
勿論、大魔王出鱈目なレベルもあり、レンネンカンプ城を一回で攻略し
大魔王を倒せると考えている者はおらず

まずは、新たに現われたダンジョン『レンネンカンプ城』を下見しようという考えが
参加者達の大半を占めていた。高レベルまで生き残っただけはあって
皆、ヘイン達と同じように慎重な考えを持っていた


■■


『お嬢様、もうそろそろ刻限です。今集っている方々で全員かと?』

「へぇ~、意外と集ったね。うん、じゃぁ、そろそろ出発するからみんな注目!」


カーセに促されたサビーネが集った人々に声をかけると
一斉に視線が彼女に集る。ある者は彼女の実力探り品定めをするような
また、ある者は今後の展開をどう運ぶのかと興味深そうに
そして、そのどれにも当て嵌まらぬアホな男はかわいい~と
全く場違いな思いを抱きながら彼女に熱い視線を送っていた

そんな、様々な思惑の篭った視線を一身に浴びながら
サビーネは全く臆することなく、天真爛漫そのものといった感じで
元気一杯に今回のレンネンカンプ城攻略の方針を集った聴衆に語りかける


「まずは、私達の呼びかけに応じてくれてありがとう!ほんと嬉しいです♪
 今回のミッションはとても厳しい物になると思うけど、皆となら必ず乗越えれる
 私達はそう信じています。最初はダンジョンの地図の作成とかモンスターの
 調査とか地味な作業が続くと思うけど、我慢して手伝ってください!よろしくね♪」


分り易く単純明快な方針は好意的に受けとめられる
俄作りの協力体制で無理に連携を取って、複雑な行動指針を立てても
百害あっても一利無しということを、歴戦の猛者たちは良く知っていた

それに、こんな辛い環境の中、満面の笑みで明るく笑う彼女姿は
日々の闘いに疲れ始めていた彼等を引き付けて止まない魅力があったのだ

横で『ご立派になられて~』と感涙を流しつつハンドカメラを片手に
鼻血をいつものように垂流す侍女などは、もう彼女の魅力完全に堕ちていた






簡単な指示を終えた後、魔王討伐隊の面々は特に問題も無く
目的地であるレンネンカンプ城の前に到着し
そこで、突入前の部隊編成が行われることになった


攻略部隊の編成は先行部隊としての4パーティと支援部隊の2パーティに分けられる
パーティーの人数は4人で組まれることになり、ヘイン達はいつもの三人に
アルフィーナを加えた四人パーティーで先行部隊として城を探索することになる

その他の先行部隊は第一部隊にサビーネをリーダーとして
カーセ、エルフリーデ、エリザの三名が従う女性パーティー

第二部隊はラインハルトをリーダーにキルヒアイスとキスリングに
皇帝の御守りから解放されたアンネローゼを加えたバランス型パーティー

第3部隊は黒猪を大将に据え、鉄壁、沈黙、義手の三人が続く特化型パーティー

そして、最後に先に述べた四名からなるヘインのパーティーが第四部隊として編成される


そして残った機動力と攻守のバランスに優れる双璧コンビが率いる2パーティが
支援部隊として予備戦力として、その任に当たることになる



帝国が誇る最精鋭部隊によって、最高難易度を誇る『レンネンカンプ城』の攻略が始まる



  ・・・ヘイン・フォン・ブジン公爵・・・電子の小物はレベル1867・・・・・


                ~END~


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