「安心して良いぞ…追っ手の心配はなくなった」「それって…シカマルの足止めが成功したって事?」「凄い。シカマルってボロボロだったのに…」追跡役のパックンを先頭に、いのとサクラは森の中を駆け抜けていた。我愛羅達を追ったサスケを更に追うナルトと合流する為にである。それはカカシから受けた任務-サスケを無事に連れ戻す事。砂の化身を纏った我愛羅に『呪印』を暴走させたサスケ。決して一筋縄では行かないのは一目瞭然であり、サクラといのだけで心許ない。因みに忍犬であるパックンは見た目からして戦闘タイプじゃないので除外。「それでシカマルは大丈夫なの?」「あの小僧の臭いは凄まじい速度で移動しておる…進路からして木ノ葉の里じゃな」「傷だらけの身体で…?」「いや、小僧の他にも臭いが二つ…人間じゃない」パックンがそう言い切るのも無理はなかった。この忍犬が感じ取った臭いがシカマルが『口寄せ』した白銀と黒曜の巨大な狼なのだから。「少なくとも敵とは思えん…大方、『口寄せの術』でも使用したのだろう」「嘘ッ…シカマルってそんな術を使えたの?」「私に聞かないでよ、サクラ…でも、シカマルの腕に何かの術式が刻まれたけど…」薬師カブトが襲撃した同日、木ノ葉病院でシカマルが眠っていた時に見た事がある。自分が知る限りでは『口寄せの術』は難易度の高い代物。とてもじゃないが、面倒臭がり屋のシカマルが習得できるとは思えない。「そんな事よりもお前達…目標の臭いが止まった。速度を上げるぞ」「目標の臭いってナルトの?それともサスケ君?」「お前が着ている衣服の臭いと同質…カカシの言っていたナルトって奴だ」追っ手を気遣う心配が消え失せ、サクラ達は更に速度を上げた。それからしばらくして、僅かだがサクラの呼吸を乱れ始める。多少広めのオデコにも薄っすらを汗が浮かぶ。「サクラ、アンタ…大丈夫なの?」「へ、平気だって。早くナルトと合流しないと…」一方、いのの呼吸は普段と変わらずに正常のまま。基礎体力の差が明確に現れて来た証拠だろう。(ん?臭いが動き始め…違う。もう一つ大きな臭いが…)パックンが内心で呟き、数十本目の大木を抜けた瞬間に事は起きた。巨大な質量を持った何かが辺り一面の大木を薙ぎ払う。「ちょ、ちょっと…何が起こってんのよ!?」「私が知る訳ないでしょ。行けば分かるわ」遠巻きに見ていたサクラ達は驚愕の表情を浮かべ、更に進んで行った。すると幾本もの大木が薙ぎ倒され、少し広い空間に出くわす。そこで視界一面を占めたのは口から大量の血を流した巨大蛇であった。既に白目を剥き、生命活動は感じられない。【何で木ノ葉の郊外に…余計な手間を喰った】一本の大木から生えた木の枝、そこに巨大蛇を見下ろしているナルトの姿。どうやらこの巨大蛇を仕留めたらしいが、信じろと言う事が無理な話。「ナルトッ!!」【サクラちゃん?それといの…とブサイクな犬?】不意に声を掛けられ、ナルトは振り向いた。その表情は忍者アカデミーの時とは違い、何処か大人びている。「ムッ、ブサイクってのは訂正せい」「そんな事はどうでも良いの!!」「ナルト、私達…カカシ先生から任務を受けてサスケ君を……」サクラは試験会場の状況、任務内容を簡潔に説明する。【取り合えず、動きながらの方が良い…先に進もう】追跡要員のパックンを先頭に、再びナルト達はサスケを追う為に森の中を駆け抜けた。【そうか。カカシがそんな事を…】「アンタが優先する程、我愛羅って奴は危険なの?」【危険なのはサスケの方だ。試合中、手も足も出なかったアイツが勝てると思うか?】少なくとも『呪印』が暴走する前はサスケの敗北は必至。【それでなくとも、あの状態を続ければ生命が危ない】「カカシ先生が言ってた『呪印』って奴?」【肉体の限界を無視してチャクラを引き出す…実質、寿命を縮めている物だ】サクラの問いにナルトが答えた時、遥か前方にチャクラの揺らぎを感じた。数は二つ-殺気も混じっている事から戦闘中の可能性が高い。パックンもその事に気付いたのか、潰れた鼻をヒクヒクと動かす。「サスケの臭いが近くなって来たぞ。だが、別の臭いがもう一つ…」【砂隠れのカンクロウって奴だ。チャクラに覚えがある】「お主、分かるのか?」【幼少からの癖でな…それよりも、どうやら急いだ方が良さそうだ】言葉とは裏腹に、ナルトはその場に急停止を行う。【いの、どの位までの速度なら動ける?】「そうねェ…全力を出せば倍近くは行けるわ」【分かった。サクラちゃん…少し我慢してくれ】そう言って、ナルトはサクラの腰に手を回して密着させた。「え、ちょっと…ッ!!」突然の出来事に戸惑いを浮かべるサクラだったが、決して嫌悪は感じていなかった。髪の色と同じように薄っすらを頬を染め、異性の体温に心臓の鼓動が速まる。【忍犬はいのが持ってくれ】「了解。そうそうサクラ、密着してるからって変な気は起こさないでよ?」「おッ、起こす訳ないでしょ!!」「ど~かしら?」【お喋りはそこまでだ。サクラちゃん、移動中は喋らない方が良い…舌を咬む】声に出さず、サクラは何度も頷いた。そして、ナルト達は今まで以上の速度で移動を開始。森の中を疾風と化して駆け抜けて行く。サクラ達がナルトと合流する少し前……《どうした、バカ兄貴…急に立ち止まりやがって》「オレは此処に残るじゃん。お前達は先に行け」背負っていた戦術カラクリ・カラスを降ろし、カンクロウが言い放つ。《テメェ…逃げる気か?》「カラスの応急処置…それと邪魔者を潰して置くじゃん」我愛羅が求めているのはナルトとの生命を賭した殺し合い。そんな中、サスケに邪魔されたら厄介だ。本音を述べるなら、不完全燃焼を起こしている自分のストレス発散。自身の実力に絶対的な自信を持っているカンクロウ。砂を纏った我愛羅に僅かだが傷を負わせたサスケと戦って見たかった。更に贅沢を言えば、中忍試験で勝利を譲った蟲使いとが好ましい。《仕方がねェな…ヘマをするんじゃねェぞ》そう言って、守鶴とテマリが再び移動を始めた。残ったカンクロウはカラスの包帯を解き、破損箇所を確認。直に追い付くであろう獲物を待ち伏せ、静かにその時を待つ。