「兎にも角にも頑張って『五行封印』を解くしかないからのォ」思いっきり他人事の発言である。「まあ、本来なら『九尾』のチャクラを持ってすればどんな拘束も打ち破れる…後はお前次第だ」「要するに自分で何とかしろ…って事だろ?」ナルトは頭が痛くなってきた。封印を解いて貰ったら一目散に消えようと思っていたのだ。「エロ仙人…本当に『伝説の三忍』なのか?」「そうだ、ワシが有名な『伝説の三忍』の1人だのォ」「…でも、『五行封印』解けないじゃん」「幾らワシでも万能ではない…無理な物は無理だ」胸を張って言い放つ自来也。「それで…どんな修行をしてくれるんだ?」ナルトは既に諦め気分だ。何を言っても無駄だと悟ったのだろう。「今からお前に教える術は…『口寄せの術』だ!!」「……口寄せ?」聞き覚えない言葉に、ナルトは小さく呟く。「そう…あらゆる生き物と契約を交わして置き好きな時に忍術で呼び出す!『時空間忍術』の一種だ」「……へェ」少しだけ興味を持ったようだ。「百聞は一見にしかず、まずワシが手本を見せるからのォ」右親指の腹を噛み切り、滲み出た血を左の掌に付着させる。そして、慣れた手付きで印を結ぶ。「良く見とけ!!」『忍法 口寄せの術ッ!!』最後に力強く左手を地面に押し当てると、白煙が立ち込めた。その白煙の中には巨大な物陰が膨れ上がり、尋常ではない体躯のガマが姿を現す。歌舞伎役者のような構えを取るガマ、その姿が異様に似合っている。「これが『口寄せの術』だ…名立たる忍は皆、専属と言うべきの口寄せ動物達と契約しとるからのォ」ガマの頭上に跳び上がった。「お前も覚えて置いて損はない…ガマよ、そこの坊主に巻物を渡してやれ」自来也に命じられた通り、口に咥えていた大きな巻物を下を伸ばしてナルトに渡した。「何だってばよ…これ?」「それはワシが代々引き継ぐ口寄せのガマ達との契約書だ」巻物を開くとそこには多数の名前が書き記されていた。「自分の血で名を書き、その下に…片手の指全ての指紋で押せ!!」ナルトは少し考えた素振りを見せたが、親指の腹を噛み切る。「後は呼び出したい場所に…チャクラを練って契約した方の手を置く…印は『亥・戌・酉・申・未』だ」名前を記入する蘭に『うずまきナルト』と血で書き、右手の指紋も押す。「これで……良いのか?」何処となしか半信半疑。「まあ、試しに1度やってみろのォ」「…分かったよ」体内でチャクラを練り上げ、ナルトは印を組む。『亥・威・酉・申・未』そして、右手を地面に押し当てた。『忍法 口寄せの術』ポワンと言う音と共に立ち込める白煙。その範囲は極めて狭く、爽やかな微風で掻き消されるほどであった。そして中から現れたのは………「………オタマジャクシ?」何時の間にか覗き込んでいたハナビが可愛らしく呟く。自来也に至っては眉間に皺を寄せ、苦々しい表情をしている。(まあ、『五行封印』でチャクラの流れを散らされとるからのォ…この程度が限界って所か)軽い溜息を一つ、ふとナルトの姿が視界に見えた。自分の掌を見つめ、眼を見開いている。「ナルト、ワシは今から昼飯を買ってくる…でもって暫くは此処で暮らすからのォ、食料や寝袋も調達してくる…しっかり修行しろよ」だが、ナルトは未だ自分の掌を凝視していた。「取り合えず、限界まで『口寄せの術』を使用する事…封印の事は暫く置いといてのォ」それだけ告げると、自来也は道なき獣道に姿を消す。残されたナルトとハナビ。未だ固まっているナルトにハナビはソッと近づいた。「どうしたんです、ナルトさん?」ナルトの掌を覗き込むが、別段変わった所はない。しかし、何も答えないナルト。辺りを見渡し、手頃な巨岩の近くまで歩いて行った。「ナルトさん…無視ですか?」本人に聞こえるように皮肉を言うハナビ。だが、ナルトはお構いなしに巨岩と対峙。「チャクラを練り、圧縮して…留める」小さく呟くと、右の掌にチャクラを収束させる。大気に風の流れを作る程だ。『奥義 螺旋丸ッ!!』眼前にそびえ立つ巨岩に対して、己の最強の奥義を叩き込む。普通なら文字通り粉々になり、跡形もなく吹き飛ぶ。【チィ……まさかと思っていたが…】苦々しい言葉を吐く。そして砂塵の中から巨岩の姿が再び現れた。一部が抉れているが殆ど原型を保っている。【チャクラの放出量が減退してやがる…此処まで衰えているとはな…】拳をギュッと握り締める。ナルトが固まっている理由はそこにあった。渋々とは言え、ナルトは『口寄せの術』にかなりのチャクラを練りこんだ。だが、結果はどうだ?ガマではなく、現れたのはオタマジャクシ。無意識の内に手を抜いていたと思い、『螺旋丸』を放ってみたが案の定………恐ろしいまでに弱体化が進んでいた。一方、シカマルは奈良家の私有地である山へと足を運んでいた。「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」肩で荒い息を吐き、グッタリと寝転がっているシカマルがいる。「ダメだ…もう、限界……」幼い頃に連れられた修行場まで来たのは良いが、それだけで身体中が悲鳴を上げている。普段、楽ばかりしているからだろうか?特にふくろはぎがパンパンに張っていた。「思ったより…体力ねェのな…オレって…」自嘲気味に呟く。『影真似の術』は発動している最中、チャクラを放出しなければならない。この程度で音を上げていたらお終いだ。「さて…と、修行を始めるか…」徐々に呼吸を整えて行き、クナイを両手に持つ。そして、一気に駆け出した。その勢いを殺さず、眼の前に並んでいる木に狙いを定めて投擲。空を切り、一直線に飛んで行く。小気味良い音を立てて次々と刺さった。「…手裏剣術はまずますだな…ならお次はッ!!」体勢を低く構え、木の腹に体術を打ち込む。ドスッと鈍い音を立て拳の跡が残る。「体術も『まあまあ』にしちゃ『まだまだ』って所か?」一息入れると適当な岩に腰を降ろす。「でもなァ…たった一ヶ月そこらで上達するとは思えねェ…何か効率の良い方法はねェもんか?」普段の癖でシカマルはそのまま寝転がった。考え事をすると自然に楽な体勢になってしまうのが癖だ。その時、シカマルの視界に人影が映った。逆さまに見えているが、金色の長い髪…スラッとした細身、何処かで見覚えがある。「ん?……お前が何でこんな所に居るんだよ…『いの』」言わずも知れた『山中いの』、その人であった。澄み切った瞳がシカマルを捉える。「シカマル…アンタ、何か効率の良い方法がないかって聞いたわよね?」口元を楽しそうに歪ませる幼馴染に嫌な予感が炸裂。「自分より強い相手と戦うってのが、一番手っ取り早いわよ」そう言うと、指の関節を盛大に鳴らす。「ちょ、ちょっと待て!!…お前、この山を登って来たのか!?」「そうよ、それがどうかした?」「どうかした?…じゃなくてよ!!」シカマルが眼を大きく見開いた。その理由はいのの身なりにあった。自分が山に登って来た時は息も絶え絶え、全身がボロボロになっていた筈……だが、眼の前にいる少女は埃一つ付いていない。「シカマルのパパとママに聞いたら山にいるって聞いて…急いで登って来たのよ」既に呆れるしかなかった。「ほら、私も強くなってナルトを驚かせたいし…人知れず修行できるって言ったら此処ぐらいしかないじゃない?」シカマルも一緒に強くなれて一石二鳥-と笑顔で言うが、シカマルの耳に入っていない。(ナルトだけじゃなくて…いのとの差も相当でけェんじゃねェか?)その予感は当たっていた。まず『絶対的な体力の差』が大きい。忍術よりも体術を重点的に鍛えているから仕方がないと言えば仕方がないが………「じゃ、早速始めましょ~」腕を思い切り上に伸ばし、伸びをするいの。「…ってちょっと待て!!オレがいつ了承したよ!?」「あ~ら、シカマルってば私みたいな女の子に負けるのがそんなに怖いの?」身を乗り出し、明らかな挑発。「んな理由ねェだろ!!良いぜ、思う存分に闘ってやろうじゃねェか!!」普段は冷静沈着なシカマルだが、いのが放った挑発に簡単に乗ってしまった。プライドなんて腹の足しにもならねェ-と思っていたシカマル。だが、今回ばかりは違う。「本気で行くからな…覚悟しろよ!!」腰を低く落とし、構えを取った。「言っとくけど…今の私は無茶苦茶に強いわよ?」ニッコリと笑みを浮かべ、片手を腰に当てている。構えなど必要ないと態度で物語っていた。「…行くぜッ!!」先にシカマルが動いた。下忍にしてはかなりのスピード、あっと言う間に懐に飛び込む。完全に自分の間合いだ。「そりゃ!!」上半身を捻り、次いで下半身も同調させ中段回し蹴りを放つ。いのはしゃがんで避ける。「まだまだ!!」それを読んでいたのか、シカマルは地面に片手を突いて更なる蹴りを繰り出す。しかし、いのは余裕の笑みを浮かべたまま手を足首に添えて軌道を外した。予想外の受けにバランスを崩すシカマル。咄嗟に体勢を立て直し、再び構えを取る。(当たる所が…かすりもしねェ……)闇雲に仕掛けても無駄な体力を消耗するだけ。少し間合いを取って相手の隙を覗う。「さ~てと…今度は私の番よね?」シカマルの攻撃が一区切り付き、いのが更なる笑みを浮かべた。その刹那、いのが駆けた。(は…速ェ!!)瞬きした間、既にいのは眼前まで迫っていた。シカマルは確信する。眼の前にいる幼馴染は自分より遥かに強い。「チィ!!」自分の顔面に向かって一直線に掌底が繰り出される。直撃までの一瞬。シカマルは考えてみた。①直撃を喰らう―生命の危機。②避ける―絶対に無理…オレ程度の反応速度じゃあ…③受け止める―最もダメージが低く、上手く行けば捕まえて反撃の機会が生まれる可能性あり。効率の良い3番目の対処法を実行すべく顔面を防御。いのが放った掌底を受け止めようとする。「ふふ…無駄よ、シカマル」微笑を浮かべ呟くいの。そして、シカマルが掌低を受け止めた刹那……(なッ!?…オレの方が力負けしてやがるだと!?)腕が外側に向かって弾かれた。余りの威力に防御した腕が耐えられなかったのだ。途端に無防備になるシカマル。腹部はがら空きだ。その事に気付いた時、いのは既に次の攻撃に移っていた。そこで再び選択肢を出してみる。①直撃を喰らう―生命の危機。②避ける―絶対に無理…生命の危機。③受け止める―間に合わない…生命の危機。④覚悟を決める―生命の危機。どれを取っても結果は同様、直撃は免れない。そんな事をしている内に、いのが掌低を放つ。狙いはシカマルの鳩尾、鍛えようがない人体急所の一つである。「ぐッ…うッ!!」いのの掌が腹部に触れた瞬間、凄まじい衝撃が伝わって来た。更にその衝撃はシカマルの身体を宙に飛ばす。視界が歪み、思考が徐々に薄れて行く。そして、綺麗な弧を描いて地面に激突した。「ちょっと強過ぎたかしら……?」地面に大の字になって転がっているシカマルに対して一言。苦笑いを浮かべ、冷や汗を掻いているいのであった。