<レシア・クライティ>
春眠暁を覚えずではないけれど、なかなか眠気の治まらない今日この頃。
まあ眠気が治まらないのは、先日借りた攻撃魔法の本が原因だけどね。昔から興味が出たものに、ひたすらにのめり込んでしまうタイプの人間だったから、つい夜更かしもしてしまう。
それが魔法となれば……思わず張り切ってしまう気持ちを理解して貰えると思う。
えーと、たしか期限は明後日までだったっけか。忘れないようにしないと。
のそのそと緩慢な動きでベットから這い出し、思わず倒れそうになりながらも、なんとかテーブルに辿り着いてそんな事を考えていた。
「こらレシア。夜更かししたわね?」
そんな本の心配をしている俺に、ルシィさんがトーストの乗った皿を運びつつ諌めるような口調で言う。
「うぐぅ…………」
「まったくもう。昨日言ったでしょ? 早く寝なさいって」
「だって……」
「言い訳しないの」
「…………ごめんなさい」
たしかに昨晩、ベットの中で本を広げている俺にルシィさんが言っていたよーな気が……正直、本に夢中になっていたので曖昧なんですけどね。
でも聞いたような記憶もあるし、素直に謝る。自分の非は認めていかないと。
それに実際半端無く眠い。さすがにこの身体での睡眠不足は結構な負担になるなあ……。
うん。これからはルシィさんの言う通りにしてもう少し早く寝よう。
ルシィさんが「わかればよし」と笑顔で頷いて、イスに座る。
今日の朝食はトーストにスクランブルエッグ、サラダ。まあ一般家庭のメニューです。
「……いただきます」
「はい、いただきます」
それでご飯を食べ始める挨拶をして、朝食を取り始める。
特に会話も無いが、居心地の悪い沈黙ではない。こういう雰囲気って良いよね。
トーストに噛り付き、ちょっと詰ったから牛乳で飲み下す。そんな俺を、ルシィさんは湯気の立ったマグカップ片手に微笑みながら見ていた。
しっかしルシィさんはコーヒーなのに、なんで俺は毎回牛乳かな? 別に牛乳が嫌いなワケではないんだけどさ。
前に俺もコーヒー飲みたいって自己主張したんだけれども、ルシィさんは「レシアにまだちょっと早いわねー」って取り合ってくれない。
見た目はこんなんだけど中身は大学生なのに……。たまにはあの苦味を堪能したいものですよ。
「そういえば……」
ルシィさんが何かを思い出したかのように呟く。
「どうしたの?」
「ん~、そういえばそろそろ文化祭の季節だなーって」
「……文化祭なんてあるの?」
「あら、知らなかった?」
「うん」
ええ、まったくもってご存知有りませんでしたとも。
しっかし文化祭ねえ。魔法学校の文化祭……どんなことやるんだろ。
魔法学校なんだから、やっぱ魔法をふんだんに使ったド派手なショーみたいな事でもするかもね。
…………おお、想像したらワクワクしてきた。
「……(ニヤッ)」
「……!」
だ、駄目だ……笑うな……堪えるんだ……いくら楽しみだからって笑うなって。傍から見ればいきなり笑い出す変人に……
「レシアあああ嬉しいのが顔に出てる可愛いいいいっ!」
「ちょ熱っ義母さんコーヒーこぼれてるってえええっ!」
~~~~~~~~~~~~~
「それじゃあ、これから私達のクラスが文化祭で何をするか決めたいと思いまーす!」
さて、そんなこんなで現在HR〈ホームルーム〉の時間。なにをするかは今壇上にいる先生が言ってくれました。
実際はこれから午後の授業が二時間分あったんだけど、今日はそれを取り止めてHRが二時間続きに変更。
俺としては嬉しい限りです。その理由は簡単、午後の授業である体育が潰れるからである。
別に運動は嫌いじゃないんだけど……俺が未だにこの身体に慣れないもんだからもう転びまくりで。
一ヶ月もすれば慣れるだろ……なんて思っていたけど、やっぱり二十余年に渡って使い続けた感覚はそうそう抜け切らないらしい。
日常生活は問題無いんだけど、普段しないような激しい動きをすると、やっぱり身体と感覚に齟齬が発生してしまう。
だから体育を本気でやると転ぶし、手を抜くと面白く無いから苦手意識が芽生えてしまった。
さて、そんな自分の身体云々はどうでもいいとして。
昼休みに魔法学校の文化祭について調べてみたところ、期待していたド派手なショーみたいなモノは無いようだ。
それもその筈。魔法は本来危険な力であり、学生のうちはそれを使いこなせていないと判断されているためである。
管理局では稀に魔法を使ったPR活動を行っているらしいけど、この魔法学校ではそういったものは皆無。
まあ人間としても未完成な時期な年齢の集団に、魔法を使ったショーの許可が下りるワケが無いよね。ちょっと残念だけど。
そんなわけで魔法学校の文化祭と言っても、日本で行うそれと大差無いらしい。
魔法が使えないから、しょうがないんだけど……期待していた分、肩透かしをくらった気分。
「それじゃあ何がやりたいかみんなで相談してくださーい!」
そんなちょっと低迷気味な気分の俺を他所に、先生のその言葉を受けてそれぞれが仲の良い人間同士で集まり始めた。
先程までは落ち着いていたものの、やはり幼い子供達。自由な時間を得ればまさに水を得た魚の如く騒ぎだす。
このぶんじゃ意見は出るけど、纏まりそうには無いないかもしれない。ちょっと先生も困った顔してるし。
まあ文化祭で何をやるかはもう何でもよかったので、俺はそんな騒ぎに耳を貸さずに、攻撃魔法の本を取り出す。
うーん、文化祭は「魔法を使って何かやりましょー」と言われたら率先して参加したんだろうけど。
雑音というより騒音に近い声があちこちから上がっているが、極力それを意識しないようにして栞を挟んでいたページを――
「レシアちゃ~ん。文化祭どうしよっかっ?」
――開こうとしたところで、天真爛漫を絵に描いたようなクレインちゃんが俺に話し掛けてきた。
軽い足取りで駆けて来て、俺の近くの席に着席する。
「う~ん、どうしよっかと言われてもね……わたしはなんも思い付かないかな」
どうする、と聞かれたのでありのままに答える。まあ厳密に言えば考える気も無いんだけどね。
「ふっふん、安心してレシアちゃん! あたしは思いついているから!」
そう言ってきゃははと楽しそうに笑う。
どうやら俺と違い、クレインちゃんは文化祭が楽しみのようで、普段より二割増しぐらい活力が滾っているご様子。
それを表すかのように、先程からにこにこ笑顔で俺の腕を取ってぶんぶんと振っています。ちょっと痛い。
「いたたた……それで、クレインちゃんは何を思い付いたの?」
このままでは脱臼しかねないので、クレインちゃんを落ち着かせつつ聞いてみることに。
「うん! あのね、あたしみんなで劇をやりたい!」
ああ、そういえば昨日行った図書館でクレインちゃんは絵本を読んでいたから、それに影響されたのかもね。
しっかし劇か……屋台とかのお客さん主体で運営して行くモノに比べると、劇って準備が面倒なんですよ。
例えば教室内でお化け屋敷をする時に必要なモノは、多少雑でも暗くすればそれらしい装飾、あとはちょっとした演出をする人ぐらい。
屋台なんかだと、内装、食材、調理する人、調理した料理を運ぶ人、レジぐらいか。
しかしそれが劇になると話は変わる。
クレインちゃんがどんな劇をやりたいかは知らないが、必要なモノ、人の数はかなりの量になる。
小道具、大道具、背景、演出、これらを作り出すために必要な材料がまず多い。
それにプラスして、主役、脇役、その他を決めなきゃいけないし。劇に配役された人は演技の練習もしなくちゃならない。場面ごとに背景も変えることもあるかも。
まあそんなワケで劇を行うには準備が大変なのである。
……と、否定的な意見ばかりを俺は述べていたのだが、考えてみればこのクラスの平均年齢は六歳。
大多数の人間が平均六歳のクラスが劇をやるよーなんて言っても、そこまで良い出来を期待などはしていないだろう。
そもそも文化祭は学校行事であり、こういった生徒主体で行う学校行事の目的のだいたいが、生徒の協調性を育てるためのモノである。
そう考えればぶっちゃけなんでもいいんだよね。何かをみんなでやれば。
「いいんじゃないかな。この後みんなの意見を纏めるだろうし、その時に提案してみよっか」
「うん!」
そう結論付けた俺はクレインちゃんにそう告げる。
告げたのはよいのだが、どうにも睡眠不足の影響が出たみたい。
さすがに寝るのはまずいかなーと思った俺は、重い瞼と格闘しつつ……クレインちゃんの話に耳を傾け続けた。
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さて、睡魔との格闘を二時間ほど楽しんで現在放課後。俺はクレインちゃんと一緒に図書館に来ています。
俺のクラスの出し物はクレインちゃんに御要望通り劇となったのだが、ここで一つ問題が生まれた。
劇とは、予め決められた物語を演じていくものであり、物語にはストーリーが必要で……すなわち台本が無いといけないワケですよ。
台本が無ければ劇なんぞとてもじゃないが出来るはずがない。
……それで、クレインちゃんは劇をやりたいとは言ったものの、どんな劇をやりたいかまでは考えていなかったみたい。
それで子供特有の"言い出しっぺが責任を持つ"というルールのもと、クレインちゃんが題材を決める事になり……台本は俺が作る事になった。
だって……クレインちゃんが困ってたんだもん。俺としては助けざるをえない。
さすがに六歳の子供が台本を作るのは不可能だし、仮に作らせてもメチャクチャなモノしか生まれないだろうしね。
俺自身は劇なんぞやったことも無ければ、もちろん台本も作ったことも無い。
まあ何事も挑戦が大事ということで。台本を作るということで俺自体は配役されないことになったし。それで良し悪しかな。
「じゃあクレインちゃん。なるべく短めのお話を探そっか」
「は~い」
図書館の一角、小説だとか童話なんやらが並んでいる棚の前で、俺はクレインちゃんにそう言った。
劇をやるといってもアレですよ。
演じるのが平均六歳なんだから簡単かつ短め。それに子供が演じても問題無いようなほのぼの系の作品を選ばなくてはならない。
日本でいう三匹の子豚とか桃太郎みたいな作品があればいいんだけど、ミッドチルダにそんな定番な童話があるのかすら俺は知らないし。
だからこうして探し回るしかないワケです。
でも童話って実際は子供向けでは無いんですよね。
世間一般に出回っている童話。その殆どが子供向けの修正が入っているのが当たり前。
まあ子供に見せるんだから当たり前っちゃあそうなんだけどね。
そんな事も知らなかった高校生ぐらいの俺は、何気なく童話を調べてしまいまして。
その無修正童話の生々しさといったら……。
うん、思い出すのはやめておこう。気になった人は自分で調べてみてください。責任は持てませんが。
さて、そんなことはどうでもいいとして……なかなか良い本が見付からない。
本を手にとってパラパラと大体のストーリーを見ているのだが、どれもこれも長かったり内容が子供向けじゃない。
やっぱり簡単には見付からないもんだね。
「レシアちゃん、いいの見つかったよーっ!」
少し気落ちしていた俺に向かって、右方約五メートルのところに居たクレインちゃんが大声を上げた。
あああ、ここは図書館なんだからそんなに大きな声出しちゃダメだって。ちょっと周りの人の視線が痛い。
しかしクレインちゃんはそんな視線も気にならないようで、本を両手に抱えながらトテトテと駆けて来た。
「はいっ、これ」
「あ、うん。ありがと」
「えへ、どういたしましてっ」
俺に厚さ1㎝も無い本を渡して、俺がお礼を言うと心底嬉しそうな笑顔。その笑顔に注意する気も失せて来ちゃいました。
でも……ちょっと周りの目が怖いから、本を持って図書館の端っこの席に移動しよう。そうすれば少しくらい騒いでも平気……かな?
移動中はクレインちゃんはにっこり笑顔。だけど俺は内心ビクビク。だってなんか凄い注目を浴びてるんだもん。おお、怖い怖い。
そんな視線の中、なんとか席に辿り着いた。
イスに隣同士に座って、クレインちゃんに渡された本を見る。
タイトルは『正義の魔法使い』 表紙には杖を持った男の魔法使いと変なドラゴン? みたいなのが描かれていた。ふむ、良い感じじゃない。
「あのねっ、とってもつよい魔法使いがわるいひとをやっつけるの!」
にこにこ笑顔のクレインちゃんが大体のあらすじを教えてくれました。
でもそれだけじゃ情報不足なので、表紙を捲りクレインちゃんと一緒になって読む。
この作品を簡単に説明すると、変な王国に住んでいる主人公の魔法使いは妻と幸せに暮らしていたのだが、悪いドラゴンが妻を連れ去ってしまい魔法使いはブチ切れ。王国からの依頼と私怨で魔法使いがドラゴンをぶっ倒してお終い。
まあ、実に王道的な作品な感じだねぇ。
王道故に台本も作りやすそう。子供にも分かりやすそうだし。それに文章量も良い感じ。読み終えるのに掛かった時間は十分ぐらいか。
「クレインちゃん、この本面白かった?」
「うん! おもしろかった!」
二十歳過ぎの俺と六歳のクレインちゃんでは価値観の差が激しすぎるので、面白いか聞いてみるとこの返事。
うん、クレインちゃんも面白かったみたいだし、この本で問題無いかな。
そうと決まれば話は早い。
後はこの本を借りて、俺が台本を作れば良い。配役とかは適当で。そもそもそこは俺が決めるようなことではないし。
でも多分クレインちゃんが主役やるんだろうな。劇に対するやる気はクレインちゃんが一番あるし。
演技する人は何人かな。えーと……魔法使い、妻、王国を治める王に……
「あの……」
そんな風に劇の構想を考えていた俺の近くから、控えめな声が聞こえた。
俺は座っているので、必然的に顔を上げて声の主を見上げる形になる。
「こ、こんにちは……」
ちょっと震えた声。その声の主は――民族衣装を身に纏った……ユーノ。
「うぇぁ?」
いやいやいや待って変な声出しちゃった。
ってかなんで!? なんでユーノが俺達に話し掛けてきてるの!?
お互い何にも接点が無かったはずなんだけどな。
あ~でも嬉しいっ! 原作キャラとの対話! もう俺にとっては悲願だったのですよ!
そんな風に脳内で一人盛り上がっていると、一つの不安が浮かんで来た。
……もしかして俺達が騒ぎすぎたのを注意しに来たのかも?
やばい。それはやばい。
俺としてはユーノと仲良くしたいし、ユーノは結界魔法のプロフェッショナルになるんだから教えて貰いたい。ここで悪印象を与えたくはないワケでして。
「お兄さん、だれ?」
そんな俺の不安を知ってか知らずか、クレインちゃんがユーノに疑問を投げかける。そういえば二人は初対面だったね。
「――あ、そ、そうだね。自己紹介しなきゃ。えーっと、僕の名前はユーノ・スクライアって言います」
そう言って恥ずかしそうに顔を俯かせる。どうしたんだろ。
「あたしはクレイン! クレイン・ティエスタって言うの。よろしくねっ」
ユーノの自己紹介に答えるように、クレインちゃんが元気満点の自己紹介。
……考えたら、俺も自己紹介しなきゃいけないんだな。
俺はユーノの事知ってるから、もう知り合いみたいな感覚だったけど、ユーノからしたら俺なんて初めて話す人だし。
「え~と、わたしは――」
「うん、クレインちゃんにレ、レシアちゃん。その……よろしく」
「――ってなんでユーノさんはわたしの名前を知ってるんですか?」
精神的には年下なんだろうけど、昔から年齢が上の人には敬語という母親に植え付けられた癖が出た。
俺としては違和感無いし、問題無いことだけれども。
それにしても、お互い話したのは初めてなんだから、俺の名前を知ってるのはおかしいよね。なんでだろ。
「え? あ、いや……その、レシアちゃんは……ゆ、有名だから……かな」
「有名? わたしがですか?」
「う、うん……(有名なのは、僕の中でだけど)」
う~ん、有名ねえ。いまいち実感沸かないな。
でも、考えてみれば俺みたいな六歳児が攻撃魔法とかのやたら難しい本ばっか読んでたら目立つかも。
それで教室とかでは噂とか聞かないけど、図書館内ではちょっと有名になったってところかな。
「まあ、それはいいとして。とりあえず自己紹介しておきます。レシア・クライティです。ユーノさん、よろしくお願いしますね」
クレインちゃんみたいな元気いっぱいの笑顔ではないけれど、ユーノと話せた嬉しさを笑顔という表情に変えての自己紹介に続けて、手を前に出す。
もちろん、握手するため。人間は初対面の人と自己紹介したら握手するのが定番。少なくとも俺が以前に通っていた小学校ではそうだった。
「ぁ……その、よ、よろしくお願いします……」
そう言ってまた俯きながら俺の手を握るユーノ。ほんと、どうしたんだろうね。
というかユーノ、風邪なのかも。今気付いたけど顔が真っ赤。握った手も熱が篭っているような気がする。
あ、もしかしたら勉強を頑張り過ぎてるのかも。ユーノは努力家なのはわかるけど、身体を壊したらしょうがないだろうに。
それは後で注意するとして……ユーノはなんで俺達に話し掛けてきたんだろ。
「それでユーノ君はどうしたの?」
俺の思考を読んだようなタイミングでクレインちゃんのお言葉。
「えっ? あ、うん。その……今度、僕達の学校で文化祭があるよね。それで……」
基本的に俺、たまにチラッとクレインちゃんを見つつユーノが答え始める。
「僕のクラスで、カレーを作ることになったんだ……」
なるほど。文化祭でユーノのクラスはカレーを作るのか。まあ万人向けの料理だし、大量に作れるしね。提案した人はなかなか頭が回るだろう。
「それで……良かったら、食べに来てくれないかな?」
そう絞り出すように言って、ユーノは俯いた。
え~と、これは文化祭のお誘い……なのかな?
でもなんで見ず知らずの俺達を誘うんだろうね。
それにさっきからユーノの態度はおかしいし…………あ。ユーノって、もしかしたら……。
自分の考えが合っているか確認するために、もう一度ユーノを見ると、ユーノはチラチラとクレインちゃんを横目に見ていた。
「(……このクレインちゃんって子、何時もレシアちゃんと一緒に居る……羨ましいな……)」
うん、間違い無い。――――ユーノはクレインちゃんが好きなんだなっ!
それで恥ずかしいけど文化祭にお誘いに来たと。うんうん、納得したぜ。
どうもさっきからおかしいと思ったんだよね。なるべく俺と視線を合わせようとしてたのは、クレインちゃんを見るのが恥ずかしかったからか。
それに加えところどころでチラチラと熱っぽい視線でクレインちゃん見てたし。バレバレだぞユーノ。
う~ん、純情だねぇ。アニメではなのはに気が有るみたいだったけど、いやはや、ユーノも人の子というワケか。
「わっかりました、それじゃあわたしとクレインちゃんで食べに行きますね」
やばい。俺の野次馬精神が刺激されている。お節介かもしれないけど、少しぐらいはユーノのお手伝いしてもいいよねっ!
「あ、うんっ! それじゃあ待ってるよ!」
俺がそう言うと、ユーノは嬉しさと恥ずかしさが混じったような顔でそう言って、走り去った。
おお、クレインちゃんが来てくれるからはしゃいでる。転ばないように気をつけてね。
「レシアちゃん、さっきの男の子変な子だったね~」
うむぅ……頑張れユーノ。初対面の印象がこれだと、前途多難の道になりそうだぞ。
<ユーノ・スクライア>
さっきから自室のベットで悶えている僕は浮かれっぱなしだ。
ああ……勇気を振り絞って良かったな。
でもちょっと失敗もした。レシアちゃんから見たら僕は知らない人なんだから、名前を知ってるのはおかしい。なんとか誤魔化せたみたいだけど。
それなのにレシアちゃんは笑って自己紹介してくれて、握手までしてくれて――――思い出しただけで身体が熱い。
文化祭。それは僕にとってはチャンスだった。
この機会に仲良くなって、レシアちゃんとたくさんお話が出来るようになりたい。
何時も一緒にいる……たしかクレインちゃん。僕もそんな関係になれたらいいな。
料理の出来る人と結婚――たまたま図書館でたまたまレシアちゃんの席の近くでたまたま聞いたこの言葉。
正直、僕は料理なんてしたことが余り無い。
以前、スクライアの人達の手伝いをしたことがある程度だ。
そんな僕がまともに料理を作れるわけがない。だから最初は簡単で、みんなが好きそうな料理を探した。
それがカレー。一度試しに作ってみたけど、そこまで難しくはない。
これならいける。そう結論を出した僕は、クラスの文化祭でなにをするかを決める時に真っ先に提案した。
カレーの作りやすさ、大量に作れるし、お金もそこまで掛からないという事をしっかりとみんなに説明。
そうしたらみんなも賛成してくて良かった。
もちろん作るのは僕だ。僕の作ったカレーを食べて貰わないと意味が無い。みんなは配膳とかをしてくれれば充分。
レシアちゃんはおいしいと言ってくれるかな……
そんな不安と期待に想像を膨らませながら、僕はベットで悶え続けた。