さて、俺がルシィさんに引き取られて二週間が経った。
俺は現在ルシィさんの優しさに甘える形で生活している。
衣食住全てをいきなり与えられて、さらにスティレットの整備をしてもらったりでおんぶに抱っこ状態。
こんなにしてもらって、ルシィさんに悪いな~なんて思ったり。そう思ったから掃除、洗濯とかの家事全般を手伝ってはいるんだけど……。
中身は二十歳過ぎた男なのだが、世間一般から見た俺は小学生にやっと入学したんだねぐらいの姿である。
それに俺がリリカルなのはの世界や事件を知っていたところで、日本の、それもごく限定的な地域での生活しかしたことの無い俺には、足りないものがあるのですよ。
それすなわち生活力。
ごく一般的な家庭かどうかは知らないけど、それでもそれなりに平穏な暮らしをしてきた人間が、いきなり今までと違う世界に放り込まれて生活出来るワケがない。
前世の姿のまんまだったら働き口を探すぐらいは出来たんだろうけど、いかんせん今の俺の見た目は少女……いやどっちかと言えば幼女と言っても過言ではない。
そんなんで働きたいんですっ、なんて言っても哀れみの目で見られるのがオチである。
つまり、俺は何かの庇護下に入らざるをえないというワケでして。
だから今しばらくはルシィさんの好意に甘えるしかない。ヒモとか思わないでね。
ルシィさん曰く「あなたはもう私の娘! さあ遠慮無く甘えなさいっ!」とのこと。この恩は何時か返させていただきますっ。
さて、話は変わるけど……リリカルなのはを見ていた人間ならミッドチルダという地域をご存知だろう。
ミッドチルダ――時空管理局の運営に大きな影響を持っている世界で、魔法文化が最も発達している世界なんだとか。
それとミッドチルダ式魔法の発祥の地。名前の通りだけど。
なんでそんなことを思っているのかというと……驚いたことにルシィさんはミッドチルダ在住で、しかも魔法学校の保健室の先生なんだそうです。
ミッドチルダに行きたいな~なんて思ってたけど、気が付いたらミッドチルダに居てビックリ。全部運なんだけどね。
それで……ルシィさんが言っていた魔法学校にも通わせてあげるとの言葉通り、俺は明後日にでも魔法学校に入学することになった。
そのことが確定した時の喜びといったらもう……思わず涙目になりながらルシィさんにお礼を言ったね。
そしたらちょっと複雑そうな表情をされた。喜び過ぎて引かれたのかも。
しかし入学と言っても、現在の季節は日本で言う秋。植物達が色付き始めた頃に入学するのだから、どちらかといえば編入に近い。
もちろん別の世界の学校に入学するのだから、当然のように問題が生じる。
いきなりこの世界に来た俺は、ミッドチルダの言語における知識が皆無。
当たり前だけど、ミッドチルダで日本語が共通語であるはずもないわけでして。一部地域では使われているとか聞いたけど、この世界ではマイナーな存在なので。
学校に行きながら学びなさいとのルシィさんの言葉を撥ね退け、俺はミッドチルダの言語を勉強した。
何故そんなことをしたかというと、理由は二つ。
一つは周りに迷惑が掛かるから。普通に入学した生徒なら既にある程度の言語の知識を得ているはず。俺の存在で授業が遅れるのは避けたいし。
そしてもう一つは魔法を早く学びたいからである。字が読めなきゃ教科書も読めないどころか、魔法を勉強するなどとても無理。
やっぱ魔法とか撃ってみたいし……この先絶対に必要にもなるしね。
そんなワケで、学校の授業でちんたら学んでいくよりも、短期集中学習のほうが効率的だと判断。
そんなことを考えて勉強するとあら不思議、もう本が読めちゃうわ。さすがに分からない単語が出てきたらルシィさんに聞いたんだけれども。
昔に見たテレビの番組で、英語をマスターするのに1~2年、日本語は10年とか聞いたけど、案外なんとかなるもんだね。
まあこの身体の脳がまだ幼くて、与えられた情報を記憶しやすいってのもあったのかも。
まあ、以上の理由で俺は学校に行くのが二週間遅れました。
言語云々の話はここまでにして。
一般的に、魔法学校へ入学するには必要なモノがある。
それは魔法学校で重点的に学ぶ魔法――それを行使出来るかの魔法資質である。
魔法資質がない人間が、魔法学校に入ったって意味が無い。
それで一週間ほど前に、それの検査に行くことになって……魔法学校専属の病院みたいなところに。
ルシィさんが言うには簡単な検査らしいのだけど……ちょっと怖い。注射とか大嫌いなんですよね。
そんな俺の想像は外れて、検査事態は至極簡単に終わった。
検査結果は資質あり。やったね。
それでルシィさんと二人、ホクホク顔で帰ろうとしたところにストップがかかる。
帰ろうとしたルシィさんと俺を引き止めた理由は、なんでも詳しく検査したいとのこと。
正直……このことを言われた時は、何か変な病気でも見付かったのかと冷や汗が出たけど、単純に魔法資質以外に魔力出力値や保有量の検査もしたい。と言われてちょっと安心。
何故慌てているのかわからなかったけど、とりあえず受けてみることに。
この検査事態も簡単で、ハンディスキャナみたいな機械であっという間に終了。
その結果――
平均魔力出力値55万。
最大魔力出力値103万。
本人の成長に伴いさらなる上昇の可能性が高い。
――というかなり高スペックであることが判明。この身体が誰のクローンかはわからないけど、これは嬉しい。
九歳時点でのなのは(平均127万)やフェイト(平均143万)と比べると多少見劣りする感じはあるけどね。
まだ成長の可能性もあるらしいし。うむぅ……これで俺の管理局入りの夢が現実味を帯びて来た。
そんな先のことは後に考えるとして、ひとまず俺が魔法学校に入学するのに必要なものは全て揃ったと言える。
「レシア~ご飯よ~」
「あ、はーい。今行きま~す」
う~ん、魔法学校が楽しみだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「レシア~準備は平気~?」
「ん……大丈夫~」
さて、日本には無いミッドチルダの文化の中で暮らしていると、何もかもが目新しくて、時間がやたらと早く感じる。
そんなこんなで、あっという間に時間が過ぎて本日初登校。
うぐぅ……前世で何回か転校したから慣れてるとはいっても、面識の無い大多数の人間の中に飛び込むのは……やっぱり緊張するもんだね。
『マスター、緊張していますね』
そんなことを思っていると、ネックレスのようにして首から下げたスティレットが声を上げてきた。
「スティレット……余計なこと言わないで。緊張しているのなんてバレたら義母さんがなにしてくるか……」
ちなみに俺はルシィさんのことを義母さん〈かあさん〉と呼ぶ。
最初はルシィさんだったのだが「私達は家族っ! 他人行儀な呼び方は許しません! 敬語も禁止!」の一言でこれに落ち着いた。
当然俺の感覚としては有り得ざることなので、ちょっと直すのに時間が掛かった。
今では呼び方も、敬語で話さないのも、なんとか慣れたから問題無い。俺の一人称と同じく脳内ではルシィさんだけども。
さて、そんなルシィさん。なんというか……コミュニケーションが非っっ常に激しい性質なので、ちょっと困っちゃうなーなんて。
毎朝これはおはようの挨拶よとか言って頬っぺたにキスするわ、何かにつけて抱きしめるわ、風呂も一緒に入って来ようとするし。
あと俺のこの身体は、三半規管がまだ未熟のようで大変転びやすい。前世と体格が著しく変わったってのもあるのだと思うけれども。
それで……魔法資質の検査のために外に出て、歩いてる最中に転ぶとさあ大変。
「きゃあああレシア可愛いいいっ!」とか言って人目なんぞお構い無しに抱きしめて、高い高いのコンボを繰り出してくるのである。
それ以外にもコンボも経験したけど……恥ずかしいなんてモンじゃないですよ?
これは俺の精神が見た目相応だったら許される行為であって、既に心は成人している俺にとって拷問でしかない。
で、やめてと何とか抵抗の意を示したところで「照れてる照れてる可愛いいいっ!」とかなって悪循環。どないせーっていうのさ。
結局のところ……ルシィさんが落ち着くのを待つしかないという結論に至った。くそぅ。
これがカルチャー・ショックと言うものなのかもしれない。ヤック・デカルチャーでもいい。
意味合いは多少違うけど、どちらも俺の心情を表してくれてるしね。
そんなコミュニケーションの塊のルシィさんに、緊張しているなんてバレたらどんなコンボが繰り出されるか……。
「いい? スティレット。君もインテリジェントデバイスなんだからね。マスターの不利になるようなことはしちゃダメだぞ」
だからスティレットに釘を刺しておく。いや本当に恥ずかしいんですからね。
『………………了解です。マスター』
ちょっと意味深に空いた間が気になるけど、一応これで大丈夫だろう。
「レシア? なに言ってるの?」
「うっ、なんでもないよ。うん。スティレットと話してなんかいないからね」
「ふ~ん」
なんでもないと言ったあたりで疑惑の目で見られたから、多少の誤魔化しを混ぜておく。これでバレないはずっ。
「ねえスティレット、レシアとなにを話してたの?」
「うぐぅっ、ちょ義母さん! わたしスティレットと話してないって言ったよ!」
「うふふっ、そんなんじゃ話してましたって言ってるようなものよ?」
うぬぅ……なんて鋭い人だ。感付かれた以上、スティレットが余計なことを言わないことを期待するしかない。
『……特になにも』
「ふ~ん……そうなんだ、へえ~、誰がスティレットの整備をしていると思っているのかなぁ?」
『マスターは学校に入学することに緊張しているようです』
「スティレットが裏切ったあああっ!」
ちくしょう! 整備して貰えなくなるからってスティレットに売られた!
『私が整備されなくなったら、マスターが不利になると思い発言しました』
「変なところで知能を発揮しないでいいからね!?」
そんな風にツッコミつつルシィさんを見ると、既に手に持った荷物を放り投げ……俺に手を伸ばしていた。
「レシアあああ緊張してるなんて可愛いいいいっ!」
ああ、もう好きにしてくださいな…………はぁ。
…………若干の諦めを顔に浮かべつつ耐える。
ルシィさんが五分ほど俺を弄んだあと、ようやく離してくれた。
なんだかんだあったがまだ家すら出ていない。
まあルシィさん宅から、学校まではかなり近いから問題無いけれど。大人なら徒歩十分前後。俺だと二十分近くかかるけどね。
靴を履いて、筆記用具とか入った鞄を片手に持ち、さあ出発というところでルシィさんに右手を取られた。
「また転んじゃうかもしれないから、手を繋いで行きましょう」
「……大丈夫だからっ」
そう言ってルシィさんに手を離して貰う。やれやれといった視線で俺を見下ろすルシィさん。
『マスター、無理はしないでください』
「無理なんかしてない」
実はこのやりとり、出掛けるたんびにやってるのである。
なんというか……出掛けるたびに転んで、ルシィさんにハグされているうちに意地になってきちゃいまして。
今日こそは転ばないでルシィさんを見返してやるっ……といった感じ。
「はいはい、それじゃあ頑張ってね」
俺の意地を見透かすようにして、微笑むルシィさん。
ルシィさん、見ているがいいっ……俺は今日、絶対に転ばない……!
目線と同じくらいの位置にあるドアノブに手を掛け、玄関を開く。
第一歩を踏み出し…………
「うぶっ」
玄関にあるちょっとした段差を失念していた俺は、呆気なく転んでしまった。
慌てて立ち上がり後ろを見ると、ルシィさんがそれはもう大変ステキな笑顔でいらっしゃった。
<ルシィ・クライティ>
私が抱きしめると、レシアは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
……ああ、なんて可愛いのかしら。
出掛けるたびに転ぶレシア。危ないから手を繋ぎましょうと言っても、意地になって繋いでくれないのも可愛い。
私が学校に出掛けているうちに家を掃除してくれたり、家事を手伝ってくれたりもして、とっても良い子。
恥ずかしがりやで、ちょっと意地っ張りなんだけど、この子はとても聡明な子。
この子は今六歳と言っていたけど……とてもそうとは思えないほど落ち着いていて、大人びているし、頭もとても良い。
この歳なんだから文字がわからないのが普通。実際わからなかったけど。
だから学校に行って、授業で学んでいきなさいと言ったら、ものすごく勢いでダメだと言われた。
――わたしのせいで授業が遅れるのはイヤ――
とても六歳児の発言とは思えない。この年頃の子は、物事を自分中心で考えるはずなのにね。
それで私が教えることになったんだけど……二週間で大人が読むような本まで読めるようになった。
とても、子供の理解力とは思えない。
可愛くて、とっても良い子で、頭もよくて――いったいなんの不満があってこの子は捨てられたのだろうか?
顔も知らないが……レシアの親には腹が立つ。
もしかしたら、そいつらの影響でこんなにも大人びてしまったのかもと思ってしまう。
もしそうだとしたら……いや、もうこのことを考えるのはやめておこう。
なんにせよ、今のこの子は笑って暮らせているのだ。なら、それで良い。
「さ、もうすぐ学校に着くわよ」
「うん。……うぶっ」
あ、また転んだ。
<レシア・クライティ>
ルシィさんに散々と弄ばれたあと、ようやく登校することになり、学校に着く直前まで行って……はぁ。また転びましたよ。
で、当然ルシィさんにアレされてワケです。ちくしょ。
そんな過去の醜態は忘れるとして、辺りを見渡す。
身体が小さくなったからか、道行く人々やちょっとした木がとても大きく見える。
考えると……昔の俺はだいぶ成長してたんだなぁ。小学校のグランドに高校生ぐらいになってから行くと途端に狭く感じたし。
今はあの時と逆の状態。本当にいろんなものが大きく感じてちょっと新鮮。
そんなことを考えながら、魔法学校の門を越え、俺はグランド内に入った。
魔法の訓練などをする為なのか、そこらの学校より一回りは広い。このグランドの外周を回るだけで何分掛かることやら。
それ以外にも……寮やら専門の施設やらで建物もいっぱいで、なんかこの学校が一つの国に思える。ちょっと誇張が入っているけど。
「まずは職員室に行くわよ。付いてきてね」
そう言ってルシィさんが歩き出す。俺の歩調に合わせて、ゆっくりと歩いてくれるルシィさんの細やかな気遣いが嬉しい。
俺が通う魔法学校だが……今の時間帯はまだ人は少ない。
まあ余裕を持ってかなり早く来たからね。現在時刻七時十分。そんで授業開始が九時。人が少ないのも頷けるよね。
さて、ミッドチルダの魔法学校は初等部と中等部に別れている。
それぞれ日本で言う小学、中学と考えて差支えは無い。
そして初等部が五年制、中等部が二年制とやや日本の学校とは違う。
ちなみに、成績優秀者は飛び級が可能で、その気になれば2~3年で卒業出来るとのこと。
俺が編入するのが当然初等部。しかも検査の時に六歳って言ったから最下級学年。早く飛び級して、高度な魔法を学べたらいいね。
そんなことを想像しつつ、歩いてたら職員室に着いて……俺の担任になる先生に挨拶。時間があるから八時過ぎまで、時間を潰してきなさいとのこと。
それで俺が向かったのが、図書室である。
当然ながら場所を知らないので、ルシィさんに案内してもらい別れる。
ルシィさんも仕事があるから、俺ばっかりに構うわけにもいかないし。
図書室から職員室までの道順も覚えたし、迷子になることはないと願いたい。
魔法に関する本も読みたいし、今後お世話になるだろうね。
さて、そんな感じで図書室のドアを音を立てないようにスライドさせ、中に入る。
……が、そんな気遣いはいらなかったようで、誰もいない。
時間が時間だし、当たり前なのかな。
朝の明瞭な空気と、図書室特有な雰囲気があいまって心地よい。
それにしても……広いなぁ。
それもそのはず。図書室なんて言ったけど、建物自体が教室なんやらがある建物と別なので……表現としては図書館が正確だね。
そんな図書館、本の数は十万どころじゃ足りないかも。
数えるのが馬鹿らしくなるくらい、本棚がたくさん並んでる。
さて、図書館の考察は置いといて。
あと一時間もあるんだし、適当に本を選んで時間を潰しましょうか。
適当に目に入った本を手に取る。背が低いから……高いところの本が取れなくて、選択肢事態は少なかったけどね。
選んだ本を持ち、窓際かつ端っこの席に陣取る。
座った席は、窓から薄く陽光が差してきて……なかなかリラックス出来る。うん、次回来る時もこの席に座ろう。
しかし一時間とは長いようで案外短い。
そのことをちょっとだけ考慮して、なるべく薄めの本をチョイスしておいた。まあ実際パッと見で選んだからあんまわかんないけど。
さて、読書スタートといきますか。
……と思ったところで静寂を保っていた図書館に異音が響く。
カラカラと控えめにドアをスライドさせる音。ふむ、俺以外にも暇潰しに来た人が居たか。
何気無しに開いたドアを見て…………え?
見覚えがある。
入ってきた人物を、俺は見たことがある。
あの民族衣装。茶に近い髪の毛。
民族衣装と言ったら、そう。スクライア一族なワケでして。
つまり――ユーノ・スクライアがそこに居た。
お、おお、おおおおお――――っ!
きたきたきたっ! 原作キャラ登場ですよっ!
ユーノっていったらあれですよっ、結界魔法とかが得意で、スクライア一族で、ジュエルシードをあれしちゃうんだけど……っていうかこの魔法学校に通っていたんだ!
う~ん話し掛けようかなっ。あ~でも緊張するしっ。どうしましょっ?
こんなに慌てたのは久しぶりかも。いやだって憧れていたアニメのキャラに実際に会えたんだからね? もう嬉しくって!
ん~ユーノも勉強しに来たのかな? 確かユーノは飛び級で卒業したっていうし。頑張ってるんだろうな~。
あ、こっち見た。それで視線も合って、なんかもう俺嬉しくなって笑い返しちゃいましたっ。えへっ。
「……(ニコッ)」
「……!?」
……あ、本持ってどっか行っちゃった。まあ、初対面でにこやかに笑われても対応に困るよね。
いや、しかしこれはラッキー。まさかこんなところで原作キャラに会えるとは。
うん、これは良い学校生活が送れそうっ。
それで……その後、終始ニヤニヤしながら読書してたらあっという間に一時間が過ぎました。
「……(さっきの女の子、なんて綺麗な笑顔なんだ……)」
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さて、ユーノとの出逢いがあった図書館を出て、職員室に着くと……ルシィさんが声を掛けてきた。
「あら、レシア。なんか良い事でもあったの?」
「え?」
うむぅ、なんとも鋭い御人である。なんでと聞くと顔に書いてあるわとのこと。そんなにニヤけてたと思うと恥ずかしい。
「じゃ、後はあの先生に付いて行けば大丈夫だからね」
「ん、わかりましたっ」
キーンコーンと前世で聞きなれたチャイムがなる。
現時刻八時半。時間から察するに多分予鈴。それにしてもこの音はどこ行っても共通なのかな。
「それじゃレシアちゃん。先生に付いて来てね」
俺の担任になる先生が、優しく微笑んでから歩きだす。
どうせクラスに着いてからやるのは……自己紹介なんだろうね。名前間違えないようにしないと。
職員室から歩いて二分ほどの距離に、俺のクラスはあった。
まず最初に先生が先行してクラスに入って、俺は先生に呼ばれたら入るというお馴染みのパターン。
人生で三回目かな~なんて、どうでもいいことを考えつつ待つ。うむぅ……やっぱり緊張する。
「それじゃあみんなの新しいお友達を紹介しま~す! レシアちゃ~ん、入って来てくださ~い」
その言葉にちょっと脱力。いやまあこの身体の年齢を考えれば、正しいんだろうけどさ。
カラカラとドアを開く。注がれる興味満々の視線がちょっと恥ずかしい。
さて、俺の学校生活の始まり始まり……ってね。