所変わって波の国にある森の奥深く…再不斬達の隠れ家に場面は移る。再不斬は一度、仮死状態になった身体を回復させる為に、ベットで横になっていた。その傍らには、お面を被っていたと思われる少年の姿も見える。その少年の名は『白』。カカシと再不斬の戦闘の際、首筋に千本を投げ付けた『霧隠れの追い忍』の正体であった。忍者としての天性の資質を持ち、一度見ただけでカカシの『写輪眼』のシステムを看破する程、頭も切れる。幼い頃、再不斬に拾われて依頼、忠実に付き従い、彼の戦闘道具として数々の戦果を上げた実力者。しかしその仮面の下は、女性のような美しい容姿をしており、性格も温厚で素直…。だが、再不斬の為に戦い、自らの存在見出す彼は正に『鬼人の刃』の名に相応しい。「あんたまでやられて帰って来るとは…霧の国の忍者は余程のヘボと見える!!」乱暴に扉を開け、入るなり無遠慮な言葉を吐く小柄な男が一人。その左右には『ガトー専属のボディーガード』である刀を持った侍が立っていた。小柄な男の名は『ガトー』…身体は小さいが態度はデカイ。左右の侍はそれぞれ『ゾウリ』・『ワラジ』と言う名で、趣味が物を切るという厄介な人間である。「部下の尻拭いも出来んで何が鬼人じゃ…笑わせるな」嘲笑と侮蔑を含んだその言葉は再不斬に向かって放たれる。しかし当の本人である再不斬はベッドに横になったまま、無言で返答した。その不躾な態度に『ゾウリ』・『ワラジ』は腰に挿してある刀に手を掛けた。(…居合か?)白の視線が2人に向けられる。「まぁ待て……なぁ…」ガトーは左右の侍を手で制すと前へ出る。そのままベッドに近づくと横になっている再不斬の口元へ手を伸ばす。「黙っている事はないだろ…何とか…!!」その時、白がガトーの手首を掴んだ。「汚い手で再不斬さんに触るな……」その容姿から想像できない程の低い声。握り締められた手首からは『メリメリッ!』と骨が悲鳴を上げている。「ぐっ!…お前…!!」ガトーの小さい悲鳴を合図に、『ゾウリ』・『ワラジ』の2人は刀を抜き、居合斬りを放った。しかし両者の手には何も握られておらず、自分達の首元にお互いの刃が当てられている。2人の間には白の姿があり、それぞれの刀の柄を交差して握っていた。(バ…バカな…)(一瞬で…移動した…)余りにも信じられない事が起き、2人の額には大量の汗が浮かんでいた。「やめた方がいいよ……僕は怒っているんだ」言葉で表せなくても、声色だけで全てが分かる。(化け物かよ…)そう言って生唾を飲む『ゾウリ』。ガトーは自分が雇った『専属ボディーガード』よりも相手の方が実力が上だと言う事を思い知らされた。「次だっ…次、失敗を繰り返せば…此処にお前らの居場所は無いと思え!!」それが気に入らなかったのか、声を荒げるとガトー達は隠れ家から去った。「白…余計な事を…」此処に来て初めて口を開いた再不斬。シーツの下にある再不斬の手にはクナイが握られている。白が止めなかったら、ガトーは間違いなく殺されていただろう。「分かっています…ただ、今ガトーを殺すのは尚早です。此処で騒ぎを起こせば又奴らに追われる事になります」白の言葉に視線を向ける再不斬。するとニッコリと笑顔になる白。「今は我慢です」「ああ…そうだな」そう呟くと再不斬は再び体力回復の為に眠りに付いた。その様子を見ていた白は、とても幸せそうに見えた。「うォオオ……いってェ―っ!!」その叫び声の持ち主は、言わずと知れた『うずまきナルト』。『うちはイタチ』との戦闘の後でナルトは、波の国へ急いで戻って来たのだ。早朝にタズナの家へ着くと、今まで自分の代わりに修行をしていた『影分身』と入れ替わった。今此処にいるナルトは、正真正銘…本物のナルトである。ナルトにとって『木登り修行』など、簡単過ぎて朝飯前だが、『落ちこぼれ』『ドベ』で通っているのでワザと失敗していた。先程から何回も失敗して見せて、木から落ちているから全身泥まみれになっている。―ワザと失敗すると言うのも難しいな。ナルトは心の底からそう思った。隣りに視線を向けると、そこには肩で荒い息をしながら、膝を突いているサスケがいた。更に奥へ視線を移すと、サクラが大の字になって横になっていた。呼吸が荒い…相当疲れている様子だ。(もうヘトヘトよ…2人とも何てスタミナしてんの…)これが『男子』と『女子』の差なのだろうか。(でもナルトの奴、全く上達してないわね……そろそろ諦めてダダこね始めるわね…きっと…)ここ最近、サクラの視線は殆どナルトへ向けられていた。普段のサクラなら、サスケ以外は視界に入らないのに……。好きと言う意味の視線ではなかったが、何故か気になるのだ。偶に見せる別人のようなナルト…そして今見ているナルトの姿。何かが決定的に違っていた。「くそ!…分かんないってばよ!」悪態をつくナルト。(ホラね!性格の読みやすい奴ね、まったく…ホン…)「あのさ!あのさ!コツ教えてくんない!」「え?」聞き分けの無い幼子のようにダダを捏ねると思っていたが、その読みは違っていた。少しでも木登りが出来るように、自分に教えを請いに来たのだ。(アイツはどんどん強くなるな…何処まで強くなるが…)ナルト、サスケ、サクラの木登り修行を監督していたカカシが胸の内で呟く。(何せナルト…お前のチャクラの潜在的な量は恐らくサスケ以上…そして…このオレすら超えている…楽しみだよ…全く)そのナルトが当の昔に己を追い抜き、火影以上の戦闘能力を有しているとは露程にも思っていない。自分が手も足も出なかった暗部の正体を知った時、カカシはどんな顔をするだろうか。「どあぁあ!!」タズナの家から少し離れた森の中…ナルトの雄叫びが響き渡る。ナルトとサスケはまだ木登りの修行を続けていた。サクラはカカシから合格を言い渡され、午後からは橋作りの工事をしているタズナの護衛に着く事になった。勢いよく登って行くナルト…だがその視線は常にサスケの方を向いていた。―さっさと上まで登れ…失敗するのも疲れる。ナルトは常にサスケの登った場所の一歩手前で、ワザと体制を崩し落ちるフリをする。此処に来て再び、ナルトのストレスが溜まりつつある。サスケはナルトよりも数メートル程上まで駆け上がると、クナイで傷を付けた。(ちィ…くそ、段々追いつかれてんな…)2本の木の間を蹴りで、スピードを落としながら降りる。それを横目で見ているナルト。―いい加減…嫌になって来たんだが…どうしようか?取り敢えずサクラに聞いたチャクラコントロールのコツを思い出してみる。『いい?チャクラってのは精神エネルギーを使うんだから、気を張り過ぎたり躍起になっちゃダメよ 絶えず一定量のチャクラを足の裏に集めるようにリラックスして木に集中すんのよ!』サクラからコツを聞いた時、ナルトは無意識の内に感心していた。3歳の時に暗部に入ったナルトは、チャクラの事を考えた事がなかった。ただ相手を殺す手段として、いつの間にか身体が覚えていたのだ。サクラが家族と幸せな時を味わっていた時、サスケが家族に稽古をつけて貰っていた時……。既にナルトは数千の人間を幼い手で殺めてきた。ナルトとサスケ達の絶対的な差がそこにある。―仕方ない…木登りを続けるか…。渋々納得するとナルトは印を組み、チャクラを練り込む。足の裏にチャクラを収束させ、いざ行かんと一歩を踏み出した瞬間………。「オイ!ナルト!」突然サスケに声を掛けられ、出鼻を挫かれたナルトは盛大に打っ倒れた。「何なんだってばよ、お前は!集中してんのに邪魔すんな!!」―無駄口叩く暇があるなら、さっさとやれ!初めて表と胸の内の感情が重なった。「……そ…その……なんだ」「な……何だよ!」―何を口篭ってるんだ?「サ…サクラ、お前に何て言ってた…?」少し照れた表情を見せるサスケを見て、ナルトは嫌らしい笑みを浮かべる。「絶対に教えな――――いっ」―こいつ…俺に追い付かれたと焦って、行き詰まったんだな。一生懸命、勇気を振り出して言ったであろうサスケの言葉はナルトには届かなかった。「いや―――超楽しいわい。こんなに大勢で食事するのは久しぶりじゃな!」ナルト達は森の中が真っ暗になるのを見計らって、適当に修行を切り上げた。そしてお世話になっているタズナの家で夕食を食べる。その中で一際異彩を放つのがナルト。サスケも勢いよくガツガツとスプーンを口に運んでいるのだが、ナルトには適わない。無茶苦茶な量の料理を平らげて行くその様は、見ているだけでお腹一杯だ。何せ、イタチとの戦闘で負った重傷を『九尾』の治癒能力で癒したが、使われているのはナルトの身体。お腹が減って仕方ない。「「おかわり!」」ナルトとサスケが同時にお茶碗を差し出した。でもって2人の視線がバチバチと火花を上げる。「「うっ!」」今度は2人同時にうめき声を出す。頬を限界まで膨らませている2人は、口の中の物を吐き出した。正直言って…少し失礼である。「吐くんなら食べるのやめなさいよ!」食卓に手を乱暴に叩き付けるサクラ。「…いや食う!」口元を手の甲で拭うサスケ。「そうそう!我慢してでも食わなきゃ、早く強くなんなきゃなんねーんだから…」そう言ってスプーンを口に運ぶスピードを更に加速させるナルト。念の為に言っておくが、ナルトは食い過ぎで吐いたのではなく、気管に異物が入り込んだ為に咽たのだ。(うんうん…けど吐くのは違うぞ♪)首を縦に振り何度か頷き、何やら勘違いをしているカカシであった。楽しい夕食が終わり、それぞれが食休みをしていた頃…サクラはふと壁に飾ってある写真に眼を向けた。「あの~何で破れた写真なんか飾っているんですか?」サクラの言葉が示す通り、タズナ・ツナミ・イナリが写っている写真があるが、右上の部分がない。「イナリ君、食事中ずっとこれ見てたけど…何か写ってた誰かを意図的に破ったって感じよね」何気ないその言葉に、3人は口を紡ぐ。「……」眠たそうな目でその様子を見つめるカカシ。「……夫よ」「嘗て…町の英雄と呼ばれた男じゃ…」タズナが口を開くと同時に、イナリは立ち上がり、自分の部屋へ戻って行った。「イナリ!何処行くの…!?…イナリ!!」母であるツナミの呼び声も虚しく、イナリの部屋のドアが閉められる。「父さん!イナリの前ではあの人の話はしないでって…いつも…!」口調を荒げるが、最後の方は言葉にならなかった。そして、ツナミはイナリの後を追って行った。「…イナリ君、どうしたって言うの?」サクラには何が何やら分からない。「何か訳ありのようですね…」カカシが何ともなしに言った。「イナリには血の繋がらない父親がいた…超仲が良く、本当の親子のようじゃった」タズナの視線が破れた写真飾りを見る。「あの頃のイナリはホントによく笑う子じゃった」ナルトも攣られて視線を向ける。その視界の片隅に、タズナの身体が震えているのが見える。「しかし…イナリは変わってしまったんじゃ…父親のあの事件以来…」更に涙を浮かべていた。「この島の人間…そしてイナリから『勇気』と言う言葉を永遠に奪い取られてしまったのじゃ…あの日…あの事件をきっかけに…」「あの事件?イナリ君に一体何があったのです?」「…その事件を説明するにはまず…この国で英雄と呼ばれた男の事から話さにゃならんだろう」眼鏡を外し、目元を押さえるタズナ。「3年程前の事じゃ…イナリはその男と出会った」ある日、イナリは大切な友達である犬を盗られた。犬を盗った典型的な苛めっ子は、イナリの態度に腹が立ち、遂にその犬を川に投げ捨てた。これまた典型的なカナヅチであったイナリは、川に飛び込む事は出来なかった。しかし苛めっ子に蹴りを入れられ、川に落とされる。ジタバタと足掻くイナリを余所目に、犬は本能的に泳ぎを覚え、九死に一生を得た。だが、イナリはそのまま溺れて気を失っていしまった。「気が付いたか坊主…あの悪ガキどもはオレがモロ叱っといてやったからな…ほら食え!」捻り鉢巻を巻き付け、顎に十字の傷がある男が焼き魚を差し出した。その時イナリは、『神様』と思った。「自分に本当に大切なモノは…辛くても悲しくても…頑張って頑張って…例え命を失うような事があったってこの2本の両腕で守り通すんだ!!」右腕をグイッ!と突き出すと力こぶを作る。「そしたら例え死んだって男が生きた証はそこに残る…永遠に…だろ?」「ウン!」力強く頷いたイナリの顔には満面の笑みがあった。「名をカイザと言い国外から夢を求めて、この島に来た漁師じゃった…それ以来イナリはカイザに懐くようになった」思い出されるのは、イナリとカイザの本当に仲の良い姿。「まだ物心のつかない内に本当の父親を亡くしたせいもあるんじゃろうが…まるで本当の親子のように…」ナルトは食卓に肘を突きながら、適当に聞いていた。生まれた時、既に両親が居らず、孤独の道を歩んでいたナルトには理解できなかった。もし理解したとしてもナルトはこう一言述べるだけだ。【人が死んだぐらいで一々喚くな】イタチとの戦いで『守るべき者』を見つけたナルトだが、自分以外の事には疎い。はっきり言って興味がないのである。タズナは更に語り出す。ある豪雨の中、イナリ達のいる地区は河の氾濫で壊滅の危機に陥った。しかしそれを防いだのが、イナリの父カイザであった。激流の中に身を投げ込み、自慢の両腕でロープを堰に引っ掛けた。町の男達はその姿に士気が高まり、自らの手でロープを引っ張った。「国の人々はカイザを『英雄』と呼び、イナリにとってカイザは胸を張って誇れる父親じゃったんだ…しかし、ガトーがこの国に来て…」「……そこである事件が起きた」カカシがタズナの言葉を続ける。「………」しかしタズナは中々言い出さなかった。「一体…何があったんです…?」「カイザは皆の前で……ガトーに公開処刑にされたんじゃ!」その決死の告白でサクラは息を飲む、サスケまでもが驚愕を浮かべていた。―それがどうした?唯一、ナルトだけが眉間に皺を寄せ、疑問に思った。「いいか!この男は我が『ガトーカンパニー』の政策に武力行使でテロ行為を行い……」ガトーの声が響く中、カイザは十字型の丸太に縄で貼り付けられていた。よく見てみると、カイザの両腕は切り落とされている。流れ落ちる鮮血が生々しい。「この秩序を乱した…よって制圧しこれより処刑する!…二度とこんな詰まらぬ事が起きぬよう、私も願うばかりである」言葉とは裏腹にガトーは嫌らしい笑みを浮かべている。丸いサングラスの下にあるその瞳は、歓喜に彩られている事だろう。「父ちゃん!!」イナリは金網を鷲掴み大声で叫んだ。公開処刑が行われるカイザの元へ行くのを金網が邪魔をしている。その必死の叫びが届いたのか、カイザはイナリの方を向いた。カイザの顔は血と埃塗れであり、右瞼が醜く腫れ上がっているのが見える。「やれ……」その言葉を合図に『ゾウリ』が無言で刀を抜き、居合斬りでカイザの体躯を切り裂いた。「父ちゃ――――んっ!!」イナリの叫びも虚しくカイザの生命の灯火は…消えた。だがその死に顔は、何故か笑顔だった。「ボクを…国の人を…2本の腕で守るって…守るって言ったじゃないか―――っ!!」瞳からは留め止めも無く流れ落ちる涙。「……父ちゃんの嘘吐き―――――っ!!」「それ以来イナリは変わってしまった…そしてツナミも…町民も……」『ヒーローなんてバッカみたい…そんなのいるわけないじゃん!!』ナルトの脳裏には、イナリの事が思い出される。カカシは兎も角、サスケやサクラ達に今の話は重すぎた。人の生死に関わってない、成り立ての下忍では仕方ない。「………」ガタン!と音を立てて、ナルトは立ち上がる。そしてその足取りはタズナの家の玄関に向かう。「…修行ならやめとけ…チャクラの練り過ぎだ。…これ以上動くと死ぬぞ」カカシは横目でナルトに視線を向きながら、忠告する。【……俺に指図するな】返って来たのは暗部としてのナルトの言葉。その口調を聞いたカカシは原因不明の頭痛に襲われた。(…一体何なんだ?…この頭痛は…何を恐れている?)サクラ、サスケ、タズナの3人もナルトの変わり様に驚いていた。「ちょ、ちょっと何処行くのよ!?」何とかサクラが、気を取り直し尋ねる。【……気分が悪い…少し散歩に行って来る】それだけ言い残すとナルトは外へと出て行った。余談だが、一夜にして波の国にある山々の一つが粉々に吹き飛んで平地になった話は後々有名になる。―――修行開始から6日目の朝―――ナルトは木登り修行をしていた場所で一晩を過ごしていた。気持ち良さそうに眠るナルト、その上に乗りエサと間違えているのか啄ばんでいる小鳥達。その寝顔からは、実の正体が暗部と言うのはとてもじゃないが信じられない。ナルトが眠っている場所から少し離れた所に、人の気配を感じる。地面にしゃがむと草を摘み取っているのが分かる。何かの薬草なのだろうか。女性のような着物で、長い漆黒の髪…美しい容姿。それはお面の追い忍であった『白』…その者であった。白の綺麗な心が理解できるのか、一羽の小鳥が肩に止まる。それを見て、純真無垢な笑みを浮かべる白。だが暫くして小鳥は飛び立ってしまう。自然に小鳥に視線が向いてしまった白は、大の字になって寝転ぶ子供を一人発見する。左手にはクナイ、頭にあるのは忍者特有の額当て。それを確認した白の瞳が心成しか険しくなった。何故ならば大の字になっている子供を以前に見た事があったからだ。再不斬を仮死状態にして救出した時に、その場にいた忍者の子供。白は一歩一歩ナルトに近づき、手を伸ばす。突然の事に驚き、慌てて逃げて行く小鳥達。「ふぁ~~~~」大きなお口で大きな欠伸をしているのはサクラ。幾ら口元へ手を当てているとは言え、少しはしたない。「なるとの奴、夕晩も帰って来んかったのか?」「オジサンの話聞いてから、毎晩一人で木に登ってるわよ。…単純バカだから…」ショボショボしている眼を擦りながら答える。「チャクラの使いすぎで今頃死んでたりして!」「……ナルト君、大丈夫かしら?子供が一人真夜中…外にいるなんて」「な――に…心配要りませんよ。…ああ見えてもアイツは一端の忍者ですから……」「それなら良いんですけど……」一児を持つ母であるツナミがナルトの身を心配しているが、サクラやカカシ達は気楽なモノだ。その頃ナルトは……。「こんな所で寝てると風邪ひきますよ」伸ばされた白の腕は、ナルトの肩を揺すっていた。「…ん…?ん――?…アンタ…誰――?」眠たそうな眼を擦りながら起き上がるナルト。「あのさ!あのさ!この草取ればいいの?…この草が薬草?」「すいません。…手伝わせちゃって」今摘んでいるのが薬草らしいが、一瞬にして怪我が完治してしまうナルトにはどれも同じに見える。「姉ちゃん、朝から大変だな」「君こそ!こんな所で朝から何をやってたんです?」ナルトは自分の事を棚に上げて人の心配をする。「修行オ!!!」「君…もしかして、その額当てからして忍者か何かなのかな?」「!!…そう見える!?見える!?そう!俺ってば忍者!」「へ――凄いんだね、君って」会話に華が咲き始め、段々と盛り上がってきた。「何で修行なんかしてるんですか?」「俺ってばもっと強くなりてーんだ」唯でさえ強すぎるナルト…これ以上強くなってどうする気だろうか。「ん――…でも君はもう十分強そうに見えますよ」「ダメ!ダメ!俺ってばもっともっと強くなりてーの!」その言葉に白は沈黙し、再びナルトに尋ねた。「それは…何の為に…」「俺の里で一番の忍者になる為!皆に俺の力を認めさせてやんだよ!」拳を突き出し、力強く握る。「それに今はある事をある奴に証明する為!」ナルトが語った言葉は、あくまで『表側』。「……それは誰かの為ですか?それとも自分の為ですか?」「………は?」理由の分からぬ質問に拍子抜けする。その間抜けた表情を見てクスと笑みを溢す。「何がおかしんだってばよ!」「君には大切な人がいますか?」それは自分に向けて言っているのだろうか。白は幼き頃の自分を思い出していた。「人は…大切な何かを守りたいと思った時に…本当に『強くなれる』ものなんです」ナルトの脳裏に浮かぶのは、自分の事を知っても認めてくれる人達の事。『山中いの』『奈良シカマル』『秋道チョウジ』『日向ヒナタ『日向ハナビ』『日向ヒアシ』『イノシカチョウ家の当主』『森乃イビキ』『みたらしアンコ』「うん!それは俺もよく分かってるってばよ!」それは心の底から出た素直な言葉。白はナルトの返事に満足すると、静かに立ち上がる。「君は強くなる……また何処かで会いましょう?」背を向けている為、ナルトには見えなかったが、白の表情は真剣その物だった。そしてその後ろが完全に見えなくなってから、ナルトは豹変する。【また何処かで会いましょう…か。…近い内にそうなるかもな】ナルトは今『話していた少年』と『お面の少年』の情報を照合していた。【背丈・姿勢・髪質・声色・足の運び……それにチャクラの性質…間違いない】その台詞からして最初から疑っていたようだ。【それにしても命拾いしたな…アイツ。…少しでも殺気を含んでいたら…今此処で始末していた所だ】見え隠れする『裏側』のナルト、この頃…頻繁に地が出ているが大丈夫だろうか。翌日―――修行開始7日目の朝「ナルトの奴どこ行ったんだ?昨日も一人で夜から出掛けて無理しやがって…」「もう朝ゴハンだって言うのに…サスケ君も散歩行くって言ったっきりいなくなるし…」カカシはサクラを連れて木登り修行の場所へと足を運ぶ。朝食の時間になっても、一向に姿を現さないナルトとサスケを探しに来たのだ。その時だった…突然上から一本のクナイが落ち、地面に突き刺さる。「どうだ!どうだ!オレってばこんなとこまで…登れるようになったってばよ!」ふと上を見てみると、そこにはナルトの姿があった。しかもかなりの高さに位置する木の枝に登っていた。「ナルトがあんな所まで登れるようになったわけ?」(スゴイ)胸の内でも感嘆の声を上げるサクラ。「よっこら…しょ…って!!」木の上に立ち上がろうとしたナルトだったが、体制を崩してしまい足を滑らす。「あ!バカ!!」「マズイ!!この高さから落ちたら…!!」焦るカカシとサクラ。「うわあ!!」絶叫を上げながら木の上から落ちて行く。「キャ―――っ!!」(くそ!まだ身体が…)サクラは咄嗟の事で身体が動かず、カカシは『写輪眼』の後遺症で身体の自由が効かない。2人がもう駄目だと思った矢先の事……。「な―――んちゃってェ―――!!」してやったりと言った表情でナルトが叫んだ。その身体は地面に落下せずに、木の枝に足の裏だけで吸い付いていた。「ハッハ――!引っ掛かった!引っ掛かった!」その様子を見てサクラの頬が引き攣っている。「びっくりするじゃない…このバカ!!」(しゃーんなろ!…後で殺す!)表向きは女の子っぽく、胸の内ではかなり過激な事を考えていた。「あ…やばい。…落ちるってばよ」ナルトがぼそっと呟くが、カカシとサクラは冗談と受け取り笑う。だがそれはウソではなく、本当の事だった。足の裏に集結させ一定量のチャクラを維持していたが、ふとした気の緩みで途切れてしまった。「ナルト…遊んでないで降りて来い…朝ゴハンの時間…って…あ”」「あ”あ”――!!ナルトのバカ!調子ぶっこいてるからよォ!」そんな事言っていても何も解決しない。今度こそ地面に激突すると思った瞬間、一つの影がナルトの足首を掴んだ。「このウスラトンカチが……」その影の正体はサスケであった。「キャ――!さすがサスケ君!痺れるゥ!!」(こいつら…よく成長してやがる)部下達の成長ブリに思わず笑顔になるカカシだった。「おう今帰ったか!…何じゃお前ら超ドロドロのバテバテじゃな」丁度、夕飯時になってナルトとサスケの2人が修行から戻って来た。「へへ…2人共…テッペンまで登ったぜ…」―たかが木登り程度に何で此処まで時間が掛かるんだ?内心にて愚痴を垂れるナルト。(動けるまでやるなってーの…このウスラトンカチ)サスケもサスケで悪態をつく。「よし!ナルト、サスケ…明日からお前らもタズナさんの護衛つけ」やっとの事でカカシから合格が言い渡された。―これで…木登りから開放される。ナルトは心底安堵した。「フ――ワシも今日は橋作りでドロドロのバテバテじゃ!何せもう少しで橋も完成じゃからな」「ナルト君も父さんも余り無茶しないでね」ツナミが2人の身体を心配して言った。ナルトは食卓へつくと疲れたのか、うつ伏せになる。彼の戦闘タイプはチャクラを一気に放出して戦う。木登り修行のようなチマチマとチャクラを使い行為は正直言って苦手なのだ。グッタリしているナルトをジッと睨んでいるイナリ。ドロドロになるまで頑張っているその姿を見て、父カイザを思い出していた。『大切なものは…この2つの両腕で守るんだ』『泣くな…イナリ』(何で…何で!)自然と涙が溢れてくる。「何でそんなになるまで必死に頑張るんだよ!!修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!!」音を立て乱暴にイスから立ち上がり、イナリはナルトに向かって叫ぶ。「幾らカッコイイ事言って努力したって!本当に強い奴の前じゃ弱い奴はやられちゃうんだ!!」その余りの剣幕に誰もが言葉を失う。「うるせーなァ…お前とは違うんだってばよ」面倒臭そうに答えるナルト。「お前見てるとムカツクんだ!この国のこと何も知らない癖にでしゃばりやがって!」イナリは更に癇癪する。「お前にボクの何が分かるんだ!辛い事なんか何も知らないで…何時も楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよォ!」喉が張り裂けんばかりの絶叫に変わっていた。ナルトはそれを、眼を瞑って聞いていたが、次第に青筋が額に浮かび上がる。そして、静かに眼を開けるとイナリを睨みつけた。その瞳は人のモノではなかった。真っ青な碧眼であるナルトの瞳孔が縦に裂けるように細くなる…それは正に獣の眼であった。【…努力したって無駄だと?…強くなる努力すらした事のないガキが何を吠えてやがる! それに…お前の言う辛い事って何だ?…精々、虐められて河に落とされる程度だろうが!? 自分の住んでいる里にいる奴ら全員に命を狙われる事と比べれば『ゴミ』同然だ!! 俺もお前を見てるとムカツクんだよ…いい加減泣くのはやめろ!鬱陶しい!!】ボロクソに言いまくるナルトの剣幕にイナリは完全に怯えている。サスケ、サクラの2人はナルトの雰囲気が豹変したのに驚愕する。一方、カカシはナルトの言葉を聞いて苦い表情をしていた。 「ナルト!!アンタちょっと言い過ぎよ!!」ハッと我に帰ったサクラが、ナルトを注意する。サスケとサクラの2人は余りの出来事にナルトの言った言葉が理解できなかった。『自分の住んでいる里にいる奴ら全員に命を狙われる事』そうナルトが言った事である。【フン……気分が悪い…外に行って来る】この場合、『気分』ではなく『機嫌』と言った方が正しい。夜遅く、イナリは家の外で膝を抱えて座り込んでいた。「ちょっと…良いかな?」そう言ったのはカカシであった。大分身体の調子も戻ってきており、松葉杖なしで歩けるまで回復している。「ま!ナルトの奴も悪気があって言ったんじゃないんだ…アイツは不器用だからなァ」カカシはそう思っているが、実際の所…ナルトは器用である。器用でなければ、すぐに正体がばれてしまうだろう。「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ…ナルトの奴も君と同じで子供の頃から父親がいない」脳裏に浮かぶのは今は亡き四代目火影であり、自分の尊敬する師だった。「……というより、両親を知らないんだ…それに奴には友達の一人すらいなかった。ホント言うと君よりツラい過去を持っている」「え?」里の大人達は憎悪の視線でナルトを見ている。「けど!ツラとイジケたりスネたりして、泣いている所は一度も見た事が無い…アイツは何時も… 誰かに認めて貰いたくて一生懸命で…その『夢』の為だったら何時だって命懸けなんだ…」イナリは無言で聞いていた。「あいつはもう泣き飽きてるんだろうなァ…だから強いっていう事の本当の意味を知ってる… 君の父さんの同じようにね…ナルトは君の気持ちを一番分かってるのかも知れないな…」「え?」「アイツはどうやら…君の事が放って置けないみたいだから」その言葉を聞いて、イナリはナルトに対しての考えを改める事になる。しかしカカシが言っている事は全て『表側』のナルトの事。普段見ているナルトはウソの塊なのだ。本当のナルトを知っている者は、ナルトが気を許している者だけである。翌日、太陽も元気良く昇った良い天気…カカシ達はナルトを置いてタズナの護衛任務に付く。「じゃ!ナルトをよろしくお願いします」丁度出掛ける所のようだ。「限界まで身体使っちゃってるから…今日はもう動けないと思いますんで…」ナルトは毎晩着用しているナイトキャップを被り、眠りに付いている。因みにこのナイトキャップは、いのからの贈り物であり、しかも強制的に着用させられている。「じゃ!超行ってくる」「ハイ、行ってらっしゃい!」気分良く送り出すツナミ。それから数十分後……。「あ―――!寝過ごしたァ―!!」慌てて起き上がると、カカシ達の姿を確認するが何処にも見当たらない。「あのさ!あのさ!みんなは?」「あ!ナルト君、もう起きたの?…今日は先生がゆっくり休めって言っ……」最後まで聞かずにナルトは自分の部屋に急いで向かい、着替える。【再不斬達が仕掛けてくるとしたら、間違いなく今日だ。…あのお面と戦う為に戻って来たんだぞ】下忍のフリを長い事していたせいか、珍しく寝坊してしまった。「行って来ま―――………」ナルトはドップラー効果を残し、大急ぎで作り掛けの橋へと向かった。誰も見ていないのを良い事に、かなりの速さで木の枝を飛び移って行く。―何だ…この幼稚な殺気は?…タズナのオッサンの家へ向かっているな。大した実力も無い雑魚が、これ見よがしに殺気を放っているのを感じた。