第一話木ノ葉隠れの里から少し外れにある森の中を、凄まじい速さで駆けて行く一つの影。それは美しい金色の髪に、蒼い瞳の少年だった。「………ったく、俺にAランク程度の仕事をさせんじゃねえよ」愚痴をこぼしている少年の名は、『うずまき ナルト』。忍者アカデミーに通っている忍者候補生の一人であるが、学校の成績はダントツのどべだ。分身の術さえ満足に出来ず、手裏剣を投げても的に届きもしない。木ノ葉隠れの里の問題児。落ちこぼれ。そんな少年なのだ。………表向きは。そんな『うずまき ナルト』の裏の顔。僅か3歳で暗部―暗殺戦術特殊部隊―に所属。だが、任務時は常に一人で行動している。本人曰く―足手まといはいらない。邪魔になるだけ。三代目火影が何度も、部隊を組むように言ったのだが聞く耳を持たない。ある日、遂にナルトが妥協した。別に部隊を組んでも構わないと。その言葉に三代目火影は安堵したが、ナルトは続けてこう言った。―部隊組んでも良いけど、その度にそいつら殺すから。何を言っても無理だと理解した三代目火影はナルトの好きなようにさせる事にした。任務経験は―。Dランク―0回。Cランク―0回。Bランク―0回。Aランク―10回。Sランク―1219回。国家レベルの機密事項に関わる任務の中でも、要人暗殺やS級犯罪人の処理等を主に承っている。そんなナルトが現在受けている任務は、誘拐された名家の子を無事に連れ帰る事。誘拐されたのは、『日向 ハナビ』。『白眼』という特殊な血継限界を受け継いでいる日向家の末姫だった。時間にして数分、距離にして数Km。その場所にターゲットはいた。音も気配も無く、静かに地面に降りる。「何やってんだってばよ、ミズキ先生?」『ミズキ』と呼ばれた男は驚愕の表情を浮かべる。この男、忍者アカデミーの教師をやっている。見た目、柔和な表情と細かい心配りが第一印象な優男だ。そう見た目だけ。しかし、それは忍者アカデミー内での事であり、今のミズキの瞳はギラギラと野心を秘めていた。「あれ?ナルト君じゃないですか?どうしたんです、こんな所で?」相手が暗部では、中忍程度の実力しかないミズキは確実に死が待っているが、自分を見つけたのは『落ちこぼれのナルト』。この場で殺してしまえば、何の問題もない。柔和な微笑みを浮かべ、ポーチからくないを取り出し少しずつ近づく。「術の練習してたんだってばよ!俺もう三回も卒業試験に落ちたから……」「そうですか。練習は毎日しないと効果が出ないですからね。……でもナルト君?」「ん?何だってばよ、先生?」「お前はここで死ぬんだよ」簡潔な言葉と同時にナルトの胸に、くないを突きたて心臓に届くまで押し込む。心臓を一突きされた肢体は僅かに痙攣を起こしてから動かなくなった。ミズキは首筋にある脈に指を当て、生死を確認する。「まあ、心臓やられりゃ死ぬだろうが、こいつは『化け物』だからな。確実に潰しとくか…」口調がガラリと変わり、言葉通りくないを抜いては、突き刺す。この動作を数回繰り返す。「恨むんなら自分をの運の無さを恨むんだな、死体は後で始末してやるからよ」くないに付着した血を丁寧に拭いながら言った。「俺はこれからビジネスでね。日向家の『白眼』の秘密は高く売れるからなあ。くくく…幾らになるか楽しみだ」高額な取引がされる『大事な商品』の元へ歩みを進めるが、そこには縄しか存在していなかった。「日向って言ってもまだガキだ。どこに行った!?半日以上は動けないはずだぞ!?」辺りを見回すが、人はおろか動物の気配すら感じられない。「探してるのは、この子か?」突然、背後から声が聞こえ慌てて振り返る。そこには心臓を貫かれて死んだはずの『うずまき ナルト』が幼子を抱き抱えて、立っていた。「お前っ!死んだはずじゃ!!」左に少し視線をずらすと、胸の部分が赤く血で染まっているナルトの亡骸が転がっていた。「影分身の術って知ってるか?」ボンッ!と煙を上げてもう一人のナルトの姿は消えた。『影分身の術』―上忍レベルの術であり、チャクラの少ない者が使用すると生命の危険に晒される高等忍術である。ミズキの額から一筋の汗が流れ落ちる。「まあいい、お前をもう一度殺せば済むことだからな。そのガキは返して貰うぞ!」姿勢を低くし再び、くないを構える。「無駄だよ、あんたじゃ俺を殺せない。逆はあってもね」ハナビを抱き抱えながら、鼻で笑う。「下忍でもない、落ちこぼれのアカデミー生のお前がこのミズキ様を殺す?やれるもんならやってみろよ!!」瞳に更に殺気が篭る。「そんな事よりもさ、くないから手を離した方がいいぞ」「何ほざいてんだクソガキ!俺のくないがどうしたって………!!!!」くないには、黄色い紙が巻かれていた。「これは!!起爆札!!!」「ご名答。さっき俺の影分身体を刺した時に仕掛けておいたんだよ」口元をニヤリと歪ませる。「畜生っ!何だよこれ!?手が、手が離れねぇ!!」遠くへ投げ捨てようとするが、くないはミズキの手から離れない。「俺が受けた任務は、この子を無事に連れ帰る事。お前の生死に関しては何も言われてねぇ」大事の前の小事、とでも言うのだろうか。「だからよ、取り敢えず死んどけ」起爆札にチャクラを送り込む。「や、止めてくれ!助け…!!」最後まで言葉が繋げられず、ミズキは爆風を至近距離でまともに受け、上半身が完全に吹き飛んだ。「恨むんなら俺に会った事を恨むんだな。死体は後で始末してやるよ」下半身しか残っていないミズキに向かって吐き捨てる。爆風の際、ハナビが怪我をしないように背を向けていた為に、服が少し破れてしまっていた。「ま!いいか。それより、早くこの子をヒアシのおっさんの所に連れてかなきゃな」よっ!と掛け声を言って、抱き直す。そして、里にある日向家に向かおうと踏み出した瞬間。三つの黒い人影が行く手を遮る。「お前ら…日向担当の暗部だろ?何今頃来てんだ?」あんなカス程度に出し抜かれてちゃ暗部失格だぞ。そう口に出そうとした刹那、動物の型を模した面をつけた暗部達が、ナルトに向かって手裏剣を投げた。至近距離からの投擲だが、難なく避けるナルト。「成る程…お前らもあれか?俺の中にいる『あいつ』ごと、俺を始末しようって言うクチか?」ナルトの体内には『金毛白面九尾の妖狐』が封印されている。赤子の頃に、四代目火影によって封印された。そのせいで、里の大人達から毛嫌いされている。「別に俺の命を狙ってのは構わねぇけど……この子をミズキに誘拐させて、俺を誘き出すのは頂けないな」そっと地面に降ろす。このままでは被害が及んでしまう可能性があるからだ。「ヒアシのおっさんは、俺の事を気に入ってくれてるからよ」言い終わると同時に、ナルトの姿が掻き消える。完璧な隠行術。何も気配が感じられなかった。高速で移動する際には、砂埃が舞うものだが、それすらなかった。「手加減は無しだ」背後から聞こえてくる凍えるような冷たい声に、三人の神経伝達は停止した。そして悟った。―自分達はとんでもない奴を相手にしている。やっとの事で気づいたが、如何せん遅すぎる。暗部達、三人にそれぞれ二発ずつ突きと蹴りを叩き込む。突きで心臓に圧力を掛け捻り潰し、蹴りで首の骨を砕いた。「暗部ってのはこんなんばっかだな……俺も暗部だけど…」気を取り直して、静かにハナビを抱き抱え、今度こそ日向家に向かおうとする。だが、しかし。二度あることは三度ある。再び、影が現れた。それもかなり大柄な影である。次は誰だ?と思考を戦闘用に切り替えようとするナルト。「ま、待て!俺だナルト!」ナルトの殺気に慌てる大柄な男。「なんだ…イビキか」「『なんだ』は無いだろ、『なんだ』は……」少し不満げなこの男の名は、『森乃 イビキ』。暗部の拷問・尋問部隊隊長を務めている、特別上忍である。ナルトが5歳の時に偶然知り合い、それ以来割りと仲がいい。「後始末よろしく。俺はこの子を連れてくから」「おう、わかった。それと明日の夕方、いつもの場所でアンコが待ってる」「ん。了解!じゃなイビキ」挨拶も適当に日向家に向かう。その時、ナルトは一つの気配を感知した。―この雑な気配の消し方は、アカデミーの奴か?別にいいか、後で記憶でも消せば。後になってその短絡的な考えが、ナルト自身にある出来事が降りかかるそれは幸か不幸か?それはまだ、解らない。