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No.5644の一覧
[0] 気が付いたら三国志。と思ったら……(真・恋姫無双憑依)[タンプク](2011/01/01 23:52)
[1] その1・改訂版[タンプク](2009/01/17 01:02)
[2] その2・改訂版[タンプク](2009/11/23 02:58)
[3] その3・改訂版[タンプク](2009/01/17 01:02)
[4] その4[タンプク](2009/02/10 22:32)
[5] その5[タンプク](2009/01/17 01:11)
[6] その6[タンプク](2009/01/27 01:01)
[7] その7[タンプク](2009/02/10 22:35)
[8] その8[タンプク](2009/02/11 11:20)
[9] その9[タンプク](2009/04/06 19:11)
[10] その10[タンプク](2009/04/11 02:36)
[11] その11[タンプク](2009/05/19 20:15)
[12] その12[タンプク](2009/08/11 17:04)
[13] その13[タンプク](2009/08/22 13:26)
[14] その14[タンプク](2009/12/15 00:17)
[15] その15[タンプク](2009/12/15 00:13)
[16] その16[タンプク](2011/01/01 23:50)
[17] 外伝1・私塾その1(朱里)[タンプク](2009/06/17 02:26)
[18] 外伝2・私塾その2(雛里)[タンプク](2009/06/17 02:26)
[19] 外伝3・私塾その3(元直)[タンプク](2009/05/19 20:11)
[20] 外伝4・呉その1(亞莎)[タンプク](2009/06/17 12:10)
[21] 外伝5・呉その2(蓮華)[タンプク](2009/08/11 17:03)
[22] 外伝5・呉その3(蓮華その2)[タンプク](2009/08/22 13:22)
[23] 外伝6・私塾その4(元直その2)[タンプク](2009/12/15 00:18)
[24] 外伝8・呉その4(蓮華・亞莎・元直)前編[タンプク](2011/01/01 23:52)
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[5644] その3・改訂版
Name: タンプク◆2cb962ac ID:3c5cd96a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/17 01:02
「わ、わたしはここで学んだ知識で苦しんでいる人たちを助けたいんでしゅ!」

「オーケー、とりあえず落ち着け」

 かまない程度にな。

 額を手で押さえつつ、興奮して顔を赤くしている妹を押しとどめる。
 で、何だって?

 あぁ、黄巾の乱。張角さんね。…………黄巾の乱?
 いやいや待て妹よ。少し早まっていないか?

 お前が世に出るのはまだ後だろ……おとなしく書生しとこうよしょせー、出来れば一生。

「落ち着け、まだあわてるような時間じゃない」

 手のひらを大地に向け首を振る。

「たまにお兄さんの言う事が分かりません!」

 おかしい、この一言には皆に冷静さを取り戻させる不思議な説得力があるはずなんだが。
 あぁそうか、ネタが通じないのか。俺の年代ではほぼ全員が知っていたから失念していた。

 ヒートアップしていく妹。何とかなだめようと、肩に手を置こうとした瞬間。

「お兄さんの……バカァ!」

「ぐはぁあ!」

 朱里の右がカウンター気味に俺の左ボディを貫く。

 クリティカルな効果音が俺の頭に響き、続いてギシ、と嫌な音が。
 ……6番と7番持ってかれた!?

 わき腹に走る激痛に、俺はたまらずその場に崩れ落ちる。
 痛っ、ちょっとこれ……すごく痛いぞ。

 割としゃれにならない攻撃を食らい悶絶している俺の視界の端に走り去っていく朱里の背中が映った。その手には大きな袋が。衝動的な行動に見えるがちゃっかり準備をしているあたり朱里らしい。
 俺は走り去る妹の背に頼もしげな視線を向けたりしていた、のだが。

「ま、待って朱里ちゃん、私も!」

 ブルー、じゃない雛里、お前もか!

「ま、待て……お前はまずい…………」

 痛むわき腹を押さえつつ必死に雛里を止めようと手を伸ばす。
 朱里と一緒に行動してたら劉備に仕えてしまうじゃないか。連環どーすんだよ。

「ごめんなさい!」

 そう言って雛里は俺を突き飛ばす。詳しく言うとわき腹を押す感じ。
 頭はともかくとして力は見た目相応なので普段ならばものともしない攻撃も肋骨にヒビの入っている今は致命的だった。

「――っ!?」

 完全に折れたか……。
 さすがは軍略に定評のある鳳統。確実に急所を突いてくるぜぃ。

「ちょ――」

 よろけた俺は足元に転がっていた椅子に足を取られ。

「がっ……」

 あ、頭。
 机に頭を強打した。

 何と言う罠。
 孔明と士元の罠! これは誰も体験した事の無い合わせ技だ。
 俺は霞む視界の中、雛里の背中に手を伸ばすが折れた肋骨のおかげで大声が出ない。前しか見ていないロリ帽子につぶれた蛙の様な俺の声など届くわけがなく……。
 軋む蝶番の音、続いて大きな音を立てて扉が閉まった。

「…………」

 頭を強打した影響か視界が回る。
 そして外の光が閉ざされると同時に俺は意識を手放した。


 ………………。
 …………。
 ……。


 どの位寝ていたのか。目を覚ますと暗い部屋に部屋に俺一人。
 何故か怪我の手当されてるんですが……水鏡先生か?

 しかし、だとすると何故俺は一人でここにいるのだろうか。わざわざ手当てした後俺を放置した? 何故?
 疑問は次々に沸いてくるが答えてくれる人はいない。

 途方にくれて周りを見渡すと、そこは見た事もない……ではなく。間違いなく見慣れた私塾だ。

「水鏡先生? 元直?」

 嫌な予感に駆られ痛むわき腹と頭を庇いつつ起き上がろうとした時、カサリ、と手に何かが……。
 感触から、紙?

 見るとそれは一通の封筒で、表にでかでかと。


『破門状』


 とても分かりやすく書いてあった。
 開いてみる。

『二人にもしものことがあったら……』

 なんて続きがとても気になる内容。もう読めないであろうどの漫画の続きよりも気になる。それはきっと続きが俺の中にあるからで、どうなるか知っているからで。

「…………」

 絶え間なく流れる汗はわき腹の痛みだけではない。いや、俺の考えどおりならば痛みを感じる事が出来なくなる。

「死ぬ、冗談なくコロサレル」

 私塾で経験した数々の臨死体験が頭をよぎった。そう言えばお父さんとお母さんが慌てた様子で「こっち来んな」とか言ってたなぁ。
 何故私塾でそんな体験をするのか、そう問われても俺には何も言えない。ただ、普段はおっとりしている水鏡先生。しかしその内に般若の顔を持っているとだけ言っておこう。
 カタカタカタと歯が音を立てる。よくみると震えてるのは体全身だった。

 あれ? 巻かれた包帯に何か書いてある。



 …………『殺』…………。


「!?」

 ガバ、と立ち上がると破門状を握り締めわき目も降らずに私塾を飛び出した。こんな事をしている場合ではない、一刻も早く二人を見つけなければ!
 外に出るとあたりは既に暗く、当然二人の姿は影も形もない。

 どこに行った!?

 落ち着け落ち着け俺、こういう時こそKOOLにならなければいけない。そう、俺はやれば出来る子だと言われ続けてきた。
 小学校の先生に言われた時は褒め言葉だと思い、高校で言われた時には微妙だと分かっていた。
 しかし、すべては布石。今この瞬間のための!

「あいつらは人を助けに行った! ならばとりあえずは人里、どれほどの天才であろうと、人がいなければ人を助けられまい!」

 叫ぶと同時に走り出す、わき腹の痛みなどもはや忘却の彼方だ。
 今の俺はきっと、精神が肉体を凌駕しているのだろう。人はそれを脳内麻薬という。


 ………………。
 …………。
 ……。


 走る~走る~しょかぁつぅき~ん。ながれ~る……♪
 頭に流れるBGMが俺を励ます。良い感じにトンでる精神が俺の脚を動かしている。

「げ、はぁ、ぜ、ぐは」

 止まりたいけど止まれない。いやすでに俺は自分が止まりたいと思っているのかも分からなくなってきた。むしろ死ぬまで走り続けられそうだ。

「げ、ほ、がはっ、げふ」

 走っている間に事態を整理しておこう。

 妹が私塾を飛び出していきました。ついでにその親友も出て行きました。そして俺は先生から破門状をいただきました。
 まとめて見ると短いな。もっと大変な事があった気がするんだが。

 そう思い首をかしげた俺の目に飛び込む『殺』の一字。

 あぁ、そうだったか……。
 追わなければいけない、命を賭して。今や二人と俺は運命共同体、彼女達の身に何かあったら俺は水鏡先生に…………。

 大げさと言う事なかれ。
 私塾では色々あったんだよ……。特筆すべきは何故か被害は俺に収束する事。おかげで諸々の知識以上に危機察知能力の方が身に付いた、気がする。

 俺は走る。軋むわき腹に鞭打ってひたすら走る。今の俺ならばセリヌンティウスも疑念を抱かないだろう。

「ぐ、はぁ、ぜ、は」

 そしてようやく足を止める事が出来た。前方に見える特徴のある帽子を被った二つの小さな後姿。

 よかった。

 所詮はロリ足。身ふぇ



 ………………。
 …………。
 ……。


「ぐへへへ」

 あ?
 息を整え終わった頃、唐突に沸いた嫌悪感を覚える声。
 見るとそこには見知らぬ男が一人、しまりの無い顔で笑っていた。

 何だ変態か。
 困ったもんだ。
 ふっと、俺は首を横に振った。が、はたと気が付く。その変態の見つめる先にいるのは……朱里と雛里。
 しかもその変態が二人に向けて歩き出しやがった。

 ちぃ、しまったそっち方向の変態か!

「ちょっと待ったぁ!」

 顔面を殴りつけたくなる衝動を押さえて口を開く。
 とりあえずは話し合いだ。
 話し合う事で妥協点を見つけお互いに満足する結果に持っていく。いやそんな小難しい理屈は置いといて、とにかく今はこいつを朱里たちから引き離さなくてはいけない。俺は悲壮な決意で男の前に立ち塞がった。
 そのかいあってか男は俺を見て足を止めた。そして……。

「何だ嬢ちゃん」

 なに? ……制服のままだった。成るほど、この服装では女に見えても仕方が無い。この服だ・か・ら、女に見えても仕方ない。
 後で着替えよう、と心に誓っている俺の身体を舐めるように見た後。男はニヤリと笑った。

「どうした? 何か用か?」

 いや、用は無い。どっかに言って欲しいだけ。…………てかおま、こっちくんな。

「あの二人よりこっちの方が上玉だなぁ」

 んな事は聞いてない。
 そして色々な意味で間違ってるぞお前。
 顔が引きつるのをこらえつつ、俺は目の前の男を観察する。
 クマのような巨体にむさくるしいまでの男らしさ。

 自分に目を向ける。
 女物の服に女と間違われる細く白い身体。

 う、羨ましくなんてないし、僻んでもいない。
 ただ個人的な怒りがこみ上げてくるだけだ。

 話し合い、そんな事を考えていた時期が俺にもありました。
 話し合うためには双方にその意思が無くてはいけない。そして確実に、今の俺たちにそんなモノは無い。

 大股で近づいてくる男。顔に笑顔を貼り付け観察する。
 小さな頃の境遇の所為か俺は相手の顔を見れば何をしようとしているのか大体分かってしまう。もって生まれた才能ではなく生きるうえで身につけた技術だ。
 相手を見て思考を読み、可能な限り自分に都合の良い状況に持っていく。私塾に来たばかりの俺は、それはもう嫌なガキだっただろうな。妹二人以外は全て敵と認識していたのだから。
 しかし、冗談無くあの時の俺は精神的にやばかった。
 水鏡先生は善意で俺たちを引き取ってくれた事はすぐに理解したものの、お人よしの馬鹿とか思っていたしなぁ。消し去りたい若気の至りと言う奴だ。
 俺が精神的にはすでに30を超えていたから良かったものの、見た目そのままだったら絶対に社会不適合者になってたね。10代半ばで見るにしては、大人たちは汚すぎたよ。

 なんて過去に思いをはせている間に男はにやけ顔で手を伸ばせば届く距離まで近づいていた。
 その顔から油断しきっていることが読み取れる。しかしまだ早い、相手が動く一瞬先を狙い討つ。

 実際の戦いなんていうものはよほどの実力差が無い限り先に当てた方が勝つのだ。先手必勝、とまではいかなくともそれに近い確率で。

 そして、見かけから俺を書生の女だと思って無防備に近づいてくるこの男は二つ失態を犯した。
 一つは俺を武の心得が無い女だと思って油断している事。これによりほぼ無条件でこちらの一撃が決まる。
 もう一つは……。

 今!

 怒りと言うものは人に限界を超えた力を引き出させる。スーパーになる野菜の人と同じだ。
 つまり、誰が女だこのヤロウ!
 その気持ちを腕に込め、懐の小刀を握り締めた後神速のイメージで足を踏み出す。あくまでイメージ、俺にそんな身体能力はない。

 視線はただ一点を見つめ、そこを穿つ。

 上から聞こえるくぐもった声、腕に伝わる確かな手ごたえ。
 剣の鞘で人体急所の一つ、肝臓を貫いた。男ならばもっと下のほうにも急所はあるがそこを狙うと鞘を交換しなくてはいけない。それは不経済だ。

「ふっ」

 小さく息を吐いて男から離れる。

「―――」

 男の呼吸と思考を読みきり完全に不意を付いた急所への一撃。
 男は声も無く崩れ落ちた。
 この世界はわりと腕力がものをいうのでこういう輩はあふれんばかりだ。そんなわけで俺も一応剣の手ほどきは受けているが、はっきり言って才能は無かった。むしろ俺にある才能って何なんだろう。碁は7つ下の妹に負け続けるしね。

 おっと。
 そんなことより朱里と雛里は――。

 当初の目的を思い出し慌ててあたりに視線を飛ばす。探すまでも無く、目当ての二人組みは、こちらに気づきもせず談笑しながら歩いていた。
 やれやれだ。
 腰に手を当てて二人を眺める。それは私塾で何度も見た光景。

「――っ」

 内側から沸き起こる衝動に息がつまった。
 今でこそ人ごみの中自然に笑えているが、初めのうちは二人とも俺の後ろが指定席と言わんばかりにしがみついてきた。さすがにこれはまずい、と特訓したのだがそのときの苦労は筆舌しがたく、特に雛里の方は朱里と二人がかりだったよ。

 …………。

 そのまま過去に飛びそうになる思考を慌てて引き戻す。重要なのは今これからで、彼女たちは新しい道を歩こうとしていて……場合によっては俺が手を焼けるのもここまでだ。

 寂しくなって泡を吹いて痙攣している男を足の先でつつく。
 先ほどの一撃、そういった苛立ちもこめさせていただきました。
 ていうかお前みたいな変態に彼女たちの道を閉ざされてたまるか。

 なにより……。

「変態が、俺の妹達に近づくなっての」

 視線だけで孕みそうなんだよ!



 ………………。
 …………。
 ……。



 その後3日間二人をストーキングする日々が続いている。付け加えておくと服は買って着替えた。私塾の外でいつまでも女装していられるほど男を捨てていない。

 二人を見ている間に俺が沈めた犯罪者予備軍(数名犯罪者含む)は両手で数えられないほどに膨れ上がっていた。
 正直付いてこなかったら、と思うとホント心臓に悪い。
 そもそも武術の心得が無い少女二人だけで旅する事自体自殺行為なのだ。水鏡先生はその辺りも考えていたんだろうな、俺もその考えには行き着いただろうが先生のおかげですぐに行動に移せた。……強制的にな。
 とはいえ俺の武力など数値にして30位か? 今までは雑兵レベルだから何とかなっているが、武術を極めた変態が出てきたらどうするか。どんな変態だという突込みが来そうだが、この広い中国大陸、いないとは言い切れない。

「仕方無い、か」

 ぽつりと言葉が漏れる。
 次誰かに絡まれたら二人を私塾に連れ帰ろう。なるべく彼女たちの意思は尊重したかったが命あっての物種だ。

 そう決心した俺の前で早々に事件は起きた。それはもう計られているかのように。

 お爺さんが倒れた。黄巾の兵士が怒った。ミニ軍師スターズ(小軍師姉妹)が兵士の前に立ちはだかった。

 簡単に言うとこんな感じになる。
 ここで重要な事は朱里と雛里が黄巾の兵士の前に立ち塞がっているという事。

「…………何やってんだあいつら」

 いや、やってる事は理解できる。苦しんでいる人たちを助けたいと私塾を飛び出した二人だ。目の前に行動理念が飛び出してきたのだからどう動くかは明らか。
 しかし、何故その有り余る智謀を使わない。お前達が兵の前に立って何がどう変わるというのだ。

 何とかしないと。出来れば二人の前に姿を見せたくは無かったがそう言っていられる状況ではない。ここは――。

「待てぃ!」

 あれ?

 飛び出そうとした俺の先を制する力強い声。
 見るときれいな黒髪を伸ばした長身の少女が黄巾兵に向けて槍のような武具を突きつけていた。

「我が名は関雲長!」

「お前のどこが美髯公――っ! 落ち着け、落ち着け俺」

 飛び出して小一時間程少女に問い詰めたくなる衝動を必死に押しとどめる。今あの少女に詰め寄ったら青龍偃月刀で真っ二つだ。
 ああ、でも言いたい。突っ込みたい。
 最近ボケ(史実との差)に対して突っ込めていないから、体内の突っ込み分が不足している。
 振って沸いた突っ込みの好機。じわじわと誘惑の手が俺に迫る。

 問いたい、問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
 ぐぎぎぎぎ、と体の内側から湧き上がる何かに耐え、悶絶している間にも事態は急転直下。

 関羽と名乗った少女は圧倒的な武力で黄巾兵を退けた。早かった、瞬☆殺だった。
 朱里と雛里ははわあわ言いながら礼の言葉を述べている。うん、礼儀正しい。偉いぞ二人とも。

「…………」

 この二人は良い。何も問題は無い。むしろ今すぐ抱きしめたい。
 問題となるのは今関羽(♀)の元に駆け寄ってくる二つの影、赤い髪のロリと桃色の髪をした天然っぽいの。……すごく嫌な予感がします。
 そして始まる自己紹介タイム。


 どうでもいいが今の俺って不審度MAXだな。
 ……今更か。


 影からこっそり聞いていて分かった事。
 黒髪は先ほど名乗ったとおり関羽。
 そして桃色天然娘は劉備、赤ロリは張飛とそれぞれ名乗った。

 俺はこの世界を過去ではなく並行世界だと結論づけたヨ。もう誰が女でも驚いたりしない。

 劉備と言う事で予測はしていたが自然な流れで仕官を申し出る朱里と雛里。少々(恐らく見た目の関係で)驚いた義姉妹だが、最終的には受け入れた。
 あれ? 三顧の礼は? この頃の劉備ってまだ義勇軍時代だよね? 若しくはそれよりも前か?
 頭を幾多の疑問符が回る。
 歴史的なイベントをすっ飛ばしての進行に俺は呆然と立ち尽くした。

 その俺の目の前で三顧の礼というしち面倒臭いイベントをこなすことなく諸葛亮を得た、しかも鳳統まで同時に手に入れた劉備。
 何も考えていないと分かるパーな顔で笑っているが、奴は今自分がどれほど幸運か理解していない。
 その能天気な笑顔にお前がどれだけ得がたい人材を得たのかを日が暮れるまで切々と語りたかった、泣いて謝っても許しはしないぞ。

 せめてとばかりに劉備に毒念波を送ってい俺に、関羽が鋭い視線を向けてきた。

「!?」

 俺は慌てて建物の影に隠れる。

「愛紗ちゃんどうかした?」

「いえ……」

 俺のことに気づいたのだろうが向こうから手を出す事はしない。来るなら来いということか。
 上等だ。
 ならば逃げよう、脱兎のごとく。
 劉備はともかく関羽、張飛がいれば二人は安全だろう。性別は変わっているが武力の方は伝え聞くまま、つまり90台後半だった。
 俺は二人から視線を切り、背を向けた。そのまま多大な労力を要しながらも足を動かす。

 正直なところ俺も劉備に使えようと、楽な考えを選びそうになった。実際足は一歩彼女たちに近づいた。
 しかし、出来なかった。足を踏み出した瞬間体と精神が乖離するような、奇妙な感覚に襲われたのだ。

 今はもう治まっている。

 もしかしたらこの狂った世界でも歴史の修正力のようなものがあるのかもしれない。
 今更どう修正するのかと疑問はあるが、あの感覚を味わった以上気軽に試せるものでもない。
 どうせ試すのならもっと大切な時に、だ。この世界がまだ史実と完全に離れていないならば一つ、どうしても変えたい出来事がある。試すならその時がいいだろう。

 考えが堂々巡りする。いや、むしろ考えと呼べるほどまとまっていない。
 ぐるぐるする頭に対して一度動き出した足は勝手に前へ前へと進む。
 故にどういう道を通ったのか覚えていない。気が付くとずぶ濡れで私塾の前に立っていた。
 ずぶ濡れ?

「あー、雨か……」

 いかん。ダメージがでかすぎる。下着まで濡れているのに気づかないとは。

 諸葛亮、鳳統。小説、ゲームの中に登場した名軍師。

「…………」

 朱里、雛里。水鏡私塾で一緒に学んだ妹達。

 二人が見た目どおりの、ただの女の子だったら強引に引き止めた。それを出来る自信があった。
 だけど、中と外の差がバーロー以上だからなぁ。いつまでも私塾に押しとどめているわけにはいかないか。
 いかんなぁ、こういうのを妹離れできない兄というのだろう。

 私塾にたどり着いた俺は門を叩く。そういえば服、男物のままだった。まぁいいや。


 …………。


 あれ?

 しかし、いくら叩けど、私塾の門は開かなかった。はて? と辺りを見渡すと。
 門の横にに立てかけられた1本の傘と大きめの袋。

「そっか、破門……か」

 破門状なんてものをもらっていたなぁ。
 恐らく先生なりの背中を押しているのだと思うが……。結局最後まで手間を掛けてしまった。

 袋を掛けてみると俺の私物と、一番上に一枚の手紙、その下にはが小さな包みがあった――お菓子だ。

 手紙は……均か。相変わらず前衛的な文章だ。正直何を言わんとしているのか理解できない。
 続いてお菓子の方は、元直だろうなぁ……。相変わらず上手い、食べてみると少ししょっぱかった。

「俺にも行けって事か」

 それがみんなの答え。
 そうだ、いつまでも二人の後を追っているわけにはおかない。

 俺は私塾の門に深々と頭を下げる。
 その後は振り向く事はせず私塾を後にした。



 ………………。
 …………。
 ……。



「そう言えば愛紗ちゃん、さっき誰かいたの?」

「……変態でしょう」

 思い出したかのような桃香の声に愛紗は苦虫を噛み潰すような顔で答えた。

「この辺りでは筋金入りの変態が出没すると聞きました。恐らくそいつではないかと」

「どんな変態なのだ?」

「何でも妹は俺のものだ、貴様らが目に映す事すら許さん! とやみ討ちした後に叫ぶそうだ」

 実際の噂ではその後に放送禁止用語が連発されるのだが、淑女である愛紗にはとても口に出来るものではなかった。

「まったく気に入らん。変態の上に卑怯だ。叫ぶのなら攻撃する前に叫べ」

 頬を赤く染めながらもしきりに青龍偃月刀の石突で地面をたたく。どうも愛紗はその変態がお気に召さなかったようで、というか変態を気に入る愛紗ではない。

「あわわ。た、多分ですけど」

「む?」

 デフォルトで目つきが鋭い愛紗に視線を向けられ、恐る恐る口を開いた雛里は帽子のつばに顔を隠し沈黙、そしてあたりに流れる気まずい空気……。

「いや、別に責めてるとかそういうんじゃ」

 本気で怖がられているのを見てさすがに愛紗は傷ついた。

「それは妹に手を出すなと言っていたんだと思います」

「え? 二人ともその変態さん知ってるの?」

 朱里のフォローに桃香が驚きの声を上げた。幼いながらも礼儀正しい二人がそういった人物と関わっていたことが意外だったのだ。

「変態じゃないですよ」

「うん、少し変な人だけど」

 見ていてくれたんだ。
 朱里と雛里の小さな胸が温かくなった。
 一緒に来てくれなかった事は寂しいが、これは二人が勝手に選んだ道だ。あの人にも別の道があるのだろう。
 桃香達3人が不思議そうに首をかしげる中、と朱里、雛里は心底嬉しそうに微笑んでいた。


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