コレってなんてバタフライ? どこをどう間違えたか弟が妹に変わってしまった。
いやそれだけならいいんだけどね。諸葛量亮って諸葛瑾より7つ下だった、といううろ覚えの知識しかなかったから。この妹は諸葛亮の姉で来年か再来年諸葛亮が生まれる、こういう流れなら問題は無かった。
しかし……。
「何で女なのに諸葛亮」
止めようとはした。おかしいだろ、と。
そしたらおかしな物を見る目で見られた、実の親に。
俺は頑張った。しかし頑張るだけではダメ、世の中結果が全てだと早7歳にして一つの真理に到達した今日この頃。
結局、妹は亮と名づけられました。
うん、諸葛亮。いづれは孔明と名乗る稀代の大軍師だ。今はすやすやと眠っているが将来そのあふれんばかりの知略を持って劉備を蜀漢皇帝へと押し上げる……のかなぁ。
天使の微笑みを浮かべる妹に、当然ながらそんな影は全く見られなかった。
………………。
…………。
……。
早いもので亮が生まれて10年程過ぎた。年を正確に考えようとすると頭痛がする。何故だろう?
今俺は妹と共に水鏡先生の私塾に通っている。
おかしいおかしいと思っていたこの世界。しかしここ最近はおかしいのは俺の頭だったんじゃね? と深刻に悩むようになった。
「あ、あああ、あの」
原因は、額を押さえ主に精神から来る頭痛に耐える俺に、あわわと何事かを必死に伝えようとする幼女。
「何だ士元?」
士元、つまり鳳統。妹、諸葛亮の親友であり幼女。大切な事だから二度言いました。出会った瞬間「お前のどのあたりが鳳統だぁ!」と叫んでしまったのも今や懐かしい思い出である。
そしてその後普通に会話できるようになるまで半年を要し。その間妹からは白い視線を受け続ける事になったのは苦い記憶だ。
あと字を持っているのに幼女とかは気にしてはいけない。この物語の登場人物は18歳以上なんだ。10年"程"しか経っていない今も18歳以上なんだ。
……メタ発言はこのくらいにして。
正直頭がおかしくなりそうだ。果たして曹操はこいつの言で船を鎖でつなぐだろうか? 俺なら笑いながら言う。「村に帰れ」
「えええと、雛里でいいです」
そうそうこの世界では姓、名、字の他に真名というものがあった。最近信じられなくなり始めているが、俺の知る歴史では無かった筈だ。
真名とは特に親しい者のみ呼ぶ事を許される名らしい。
だったら字いらなくね? と疑問に思うのだが、おそらくは官職名<字<名<真名という順なのだろう。そうだと勝手に納得した。後にこの世界では名<<(越えられない壁)<<真名だということが分かった。
ちなみに孔明を呼ぶときは真名である朱里を使わないといけない。孔明と呼ぶとすごく悲しそうな顔をする。孔明、若しくは諸葛亮で慣れ親しんできた俺にとっては苦行……かと思いきやそうでもなかった。このときばかりは妹が妹で会ったことに感謝したね。
で、名前の事は良いとして。
このあわあわ言ってる幼女が鳳雛……妹で慣れているはずだったが、いやだからこそせめて鳳統には知将っぽい人であってほしかった。個人的イメージとしては諸葛亮が竹中重治、鳳統は黒田孝高いや山本勘助か。
きっと俺のイメージをハンマーで殴りつけ、チャッカマンで燃やして(放火は重罪です。ダメ絶対)、粒子分解機にかけ再結合させるとこうなるのかな。そして人はそれを別物と言う。
以下妄想。
「――じゃないか?」
「兄上それはおかしい」
「いやまて孔明。子瑜殿の言う事も一理ある」
俺と静かだが重みのある言葉を交わす二人の知将。
………………。
…………。
……。
妄想終了。
現実に目を向けてみるよ。
「はわわわ」
「あわわわ」
「…………」
儚い夢だった。
こいつと妹が並んでいる姿は微笑ましくはあってもそれだけで、こいつらなら天下ではなく1食のラーメンを3つに分けて喜びそうだ。
ていうか今俺の目の前で水鏡先生からもらった肉まんをどのような計算を行ったのか、正確に3等分して一切れ俺に渡してきた。涙があふれて止まりませんでした。何故かその後二人の好感度がアップした気がするが、気のせいだろう。
しかし、腐っても、じゃ無くて女でも諸葛亮に鳳統。頭の方はすごく良い。本当に、一緒に勉強していて俺がへこむ位に。
愚兄賢弟、いや賢妹か。
何故か青い狸の顔が浮かんだ。
ちなみに今の俺はともかく史実の諸葛瑾も信州にいたチート一族の兄も愚兄じゃないぞ。ここ、テストにでます。
「え、えと。それで」
必死に何かを伝えようとしている士元とその横で心底楽しそうに本を読んでいる孔明。こいつらを見ていると、俺は愚兄と呼ばれても文句を言えない。諸葛亮の兄とは言え中身はただの大学生。しかも才気に満ち溢れていたりとかいう補正はなかった。
最近は幼女に教えられながら勉強に打ち込む日々にも慣れたしな。プライド? 何それおいしいの?
そもそもこの世界に碌な娯楽は無いし遊んでる余裕も無い。イコールで勉強以外にする事がない。目の前の幼女二人がかもち出すほんわかした雰囲気とは裏腹に現状は割と切実だった。
「そ、それで、ここ間違ってます」
「…………サンクス」
「??」
でもたまに泣きたくなる。だって男の子だから。
最近切実に思うのだが。まだ見ぬ劉備、曹操、孫権よ……多くは望まん。ただ、男であってくれ。