春眠暁を覚えず。
布団の中というわけじゃなく、二度寝をしたわけでもない。
ただ、春の気持ちいい日差しを浴びていると眠くなってそんな言葉が頭に浮かんだだけだ。
今日は授業も無く、朱里と雛里は学友と一緒に街へ出かけた。
久しぶりの一人の休日を満喫せんと、のんびりまどろんでいる俺だが。何か、顔がくすぐったくなって目が覚めた。
銀色の髪が頬をなでて……いる?
ぼんやりとピントの合っていない思考の中。
うっすらと光が差す視界。そこから送られる情報に首を傾げる。
はて、銀といえば元直だが…………まて、奴の髪って朱里と同等の長さ。
ソレが俺の顔にかかっていると言う事は。
「――っ!?」
行き当たった考えへの驚きで目が覚めた。
案の定、目と鼻の先に見慣れた顔があって、そのチェシャネコじみた笑みは予想通り、級友のもの。
「やっと起きてくれたか」
「やっと」って何だ?
始めに沸いた疑問はあえて問わない。答えが返ってきてしまうとソレが俺の現実になるから。
知りさえしなければ俺にとってのリアルではない……とか何とか。
驚きでクルクル空回りする思考の片隅で一握り残った冷静な回路が動いてただ一つの言葉を作った。
……何やってんだよ元直。
………………。
…………。
……。
徐庶、字を元直。
始めは剣をならっていたのだが、ごたごたがあって現在は私塾で学問に励んでいる。
ステータス的には撃剣の名手の為か武力も高め。
歌って踊れる……じゃなくて策立てて戦える軍師。ゲームによっては抜群の使い勝手を誇ったとか何とか。
例によって例のごとく性別反転してるんだけどね。
それでも朱里と雛里という、ある意味よりひどい前例を知っているので俺の精神の平静は保たれた。
慣れって偉大だ。
「何やってんだお前は」
大いに驚いたし、現在進行形で驚くべきなのだが、そういった態度を取るとこいつはさらに悪乗りしそうなのであえて平静を装う。
「見て分からないかな?」
なるほど、確かに一目瞭然だな。
それでは質問を変えて。
「何だこの体勢」
言いながら周りを見渡す風を装って目を逸らす。顔が近いんだよ。
逸らした視線の先にある光景は俺の記憶どおりで桃の木の下なのだが、頭から伝わってくる感触が大きく異なっている。
簡単に言ってしまえば柔らかくて気持ち良い。
具体的に言うと膝枕。
「何だとは心外だな。僕がいなかったらキミの頭は大変な事になっていたかもしれないのに」
む……。
そう言えば寝る前は木に寄りかかって座っていたような気がする。
つまり、グラっときてバタンと言う事か。
大変な事まではいかないと思うが、進んで痛い思いをする趣味は無い。
その事については感謝すべきだ。
「あー、そうか。それは……?」
だから、俺は「助かった」と言って起き上がろうとした……のだが。
何故か、元直に額を押さえられあえなく失敗。
「元直?」
「ところで、妹さんはどうしたんだい?」
「? ……雛里他3人ほどと街へ行った」
思わず答えてしまったが、ちょっと待て。露骨に話を逸らしたよな。
今は朱里がどーこー言う時じゃなくて、俺の体勢を何とかしようよ。
「そうか」
アイコンタクト不成立というよりは分かってて無視している線が濃厚だ。
俺から視線を外した元直は澄ました表情で桃の木に背を預けた……相変わらず俺の身体を拘束したまま。
何この羞恥プレイ。
………………。
…………。
……。
どのくらい時間が流れたのか、状況が状況だけに体感時間の精度への信頼はゼロだが、殺人光線を出す合図となるランプが点滅するよりは長かっただろう。
むしろ俺の主観ではその10倍はあった気がする。
最後の方はもうこのままでいいやと思いかけたのは秘密だ。誰にも知られるわけには行かない。
そうなる前に強引に抜け出せばいいだろ、と思うかもしれないが。
この人単純な筋力はさして無いくせに、武術の経験からか力のかけ具合が凄まじく上手い。
と言うか寝ている体勢で頭を押さえられたら普通起きるの無理だって。
飽きたのか、他に理由があるのかは知らないが開放された後、俺は3点リーダを連発しながら元直の横に腰掛けた。
そして、肩を並べて座る少女にじっとりした視線を送る。
その中にわずかならざる量の非難を込めたのだが、涼しげな青の瞳はその全てを華麗にスルーした。
はぁ……。
歴史上の人物としては結構人気のある軍師なので俺の知る活躍は省くとして、こいつは私塾の中で特に仲の良い部類に入る女性だ。というかここ女しか居ないんだけどな。
見ての通り性格的には一癖あるが、何故か気が合い、よく二人で話し込んだ。そこに朱里と雛里が入って4人になったりもしたな。
それだけなら21世紀の学生と変わらないのだが、話の内容が政治的だったり軍事的だったりするあたりに時代を感じる。
付け加えると、こいつと二人だけの時は主に後者についての話が殆どだ。
そんなわけで、今日も記憶の中からネタを発掘したわけだが……。
「く……」
話の途中から元直の様子がおかしいと思ってはいたんだ。
「そんなに笑う事か?」
「いや、だって」
淡河定範が羽柴秀長を破った雌馬作戦を話したらどうやらツボに入ったらしい。
結局、戦自体には負けたがこの策で局地的な勝利を収めているのだから策としては成功したのだ。
その辺りはこいつも理解しているのだろうが……まぁ、確かに面白いといえば面白いか。
「相手の馬が雄だったら上手くいくだろ」
「それはキミの経験からかい?」
ツーカー、と言う感じのカウンター。
元直は目じりに涙を浮かべながら問うた。
つまりは今の俺の状況を言っているのか。
「大丈夫だよ僕達以外誰も居ないさ」
「……確認はしていたんだろうけど、自然な流れでその話出されると心臓に悪い」
現在私塾で俺の性別を知っているのは5人しか居ないのだ。もう少し慎重になってほしい。
それにどう答えろと言うんだよ。
「答えは聞かないことにするよ。それはそうと朱里と雛里からいずれ私塾を出るつもりだって聞いたんだけど。キミは知っているのかい?」
「ん、ああ。話自体は」
「へぇ、反対すると思っていたけど。その様子じゃそうでもないのかな?」
うーん、俺の中で孔明と士元が表舞台に立つというのは驚くに値しない事だしな。
できれば止めて欲しいとは思うが。
「自分でそう決めたんだったら俺が何言っても無駄だよ。その辺りは頑固だし」
何より俺に強く反対する為の理由が無い。
「そうか。それじゃあ、キミはどうするんだい?」
話のついで、そんな風なのか、そうと装っているのかは分からないが元直は矛先を俺へと向けてきた。
内容的に話して困ることではないが、具体的に考えて居なかったことに今更気付き少し愕然とする。
ここを出たら、か。
漠然とは呉に仕える未来を想像していたのだがその動機となると……無いな。
いやあることはあるのだが、朱里と雛里に比べてひどく情けない理由だからいいたく無いし、言えない。
かと言って二人のように世の為人の為とかいう曖昧な物の為には働けないしなぁ。
暮らしやすい世の中になればいいと思うが、その為だけに命をかけられるかと問われると、無理ですとしか答えられない。
その逆、例えば董卓みたいなことをする気も力も無いけど。
「正直なところここの生活は気に入ってるし、しばらくはここでのんびりしたい」
できれば一生。
「今のキミはそうなんだね」
「お前は……すぐにでも出たいのか?」
何故か、元直の言葉を聞いてそう感じた。どこか否定的な響きを感じたからかもしれない。
「あぁ、いや……そういうわけじゃないよ。ただ何時までもこのままで良いのか、とは思うんだ」
そう言って浮かべた微笑はいつものものとは違って見えた。どこが? と問われると返答に困るが。
それにしても……何時までもこのまま、か。
良い悪いを論じる前に、それは成り立たない仮定だ。
きっと朱里と雛里は劉備に仕えるだろうし、元直は……最終的には曹操か?
この世界で俺の記憶どおりに進むかは不明だが、兄として友人として付き合ってきて3人とも私塾に収まる器では無いことは理解している。
故に遅かれ早かれ、外の世界へ飛び出していくだろう。
人事のように言っている俺だって何らかの選択を強いられる可能性はある。
その時どうするのかは、まだ思いつかない。しかし、自分勝手な願いとしては皆が後悔しない道を選べればいいと思っている。
「僕としてはキミこそ、ここを出るつもりだと思っていたんだけど?」
「何でそう思う?」
「キミほど知識を"使う"事に結び付けている生徒はいないよ」
そう言って元直は目を細めた。
「そもそも、キミは隠し事が多すぎるしね。もしかしたら人を余り近くに置きたくないんじゃないか、とも思ったんだけど」
そっちの方は考えすぎだった、と思いたいけどね。
と、元直は薄い笑みを浮かべて言った。
こうまでハッキリと言われて、意外だが驚きは無い。むしろやっぱり、という納得の方が強いな。
それなりに長く、そして深く付き合ってきた。
こいつほどの頭があれば違和感くらい覚えて当然だ。
もしかしたら朱里達も同じ思いを持っているのかもしれない。
何も言ってこないのは、いずれ話すと思っているのか。それとも初めから気にしていないのか。
元直の指摘どおり、私塾では俺の持つ最大のアドバンテージである歴史的知識をどうやってこの世界に当てはめるか、に最も重点を置いていた。
そしてもう一つ。バタフライ効果を考えると無駄なことなのかもしれないが、それでも有名人には極力干渉したくない、とも思っていたし気をつけてもいたのだが。気付くと有名どころベスト3をコンプリートしてしまった現状。
いやまぁ、一人は妹だからしょうがないんだけどさ。
そんな訳でこっちは既に諦めている。
「何かあった時に何もできないのは困るから。それだけだ」
かろうじて口から出た言葉は返答と呼ぶには程遠いものだが、同時に今の俺にとっての精一杯でもある。
俺の身に起きた想像の斜め上をいってさらにワープした現象については、この世界の誰にも打ち明けることができない。少なくとも今のところは。
何より、その記憶が正しいことなど誰にも証明できないのだ。
俺自身そう思い込んでいるだけ。という仮説を否定する明確な証拠は存在しない。
…………いや、違う。
もし、そうだとした時。じゃあ、俺は一体何なのか。その答えが俺の中に無いのだ。
そんなヘタレだから、全てを話した時「じゃあ、お前は一体誰なんだ?」という問いを向けられる事が心底怖い。
既に以前の俺でもなく、かといって諸葛子瑜と言う自分に対する確信も無い。
だけど……。
「色々と難しいみたいだね」
「う、まぁ……」
何と言うヘタレ。自分で情けなくなってくる。
恐らくは何らかのイベントをクリアする事で精神的なパワーアップを果たすのだろう。そういうことにしておこう。
「それについてはキミの気が向いた時に話してくれればいいさ。ある意味でここは箱庭だから。少なくともこの中では、今のキミについて何か言う人はいないよ」
出た言葉は限定を付けた上での肯定。
「じゃあ、ここから出たらどうなるんだ?」
「さあ?」
さあ、ってお前。
「隠している内容も知らないのだから分かりようがないよ。僕は妖術師じゃないからね」
「む」
非難をこめた言葉は的確なカウンターで切って落とされた。本当にその通りですね。
「僕個人の予測だと、キミのことだから回りを巻き込んで何とかするんじゃない?」
「お前の中で俺はどういう奴なんだよ」
俺は大きく肩を落とし、元直は口元に手をあて小さく喉を振るわせた。
「よくよく考えてみると随分な言い方だったね。でも、厄介ごとに巻き込まれるのはしょっちゅうだったけど、それを一人で解決したことがあったかい?」
う…………、そう言われると何も返せなくなるな。
ていうか、元直に言われるほど色んな事に巻き込まれている事がまず問題な気がする。
トラブルメイカー?
冗談だろ。ここじゃそれだけで死亡フラグだ。
「ずっとここに居よう」
それがいい。
むしろ私塾でさえ危険な目にあってる俺って一体……。
「無理だと思うけどね」
「人事だと思って……」
それは、深く考えず、会話の流れに乗っただけの言葉だった。だから言葉とは裏腹に別に非難を込めていたわけでもない。
俺としても「まぁ人事だしね」くらいの返事が返ってくると予想しており、実際にその返しも考えていた訳だ。
が、そんな予想に反して元直は心外だと首を振った。
「意外と人事じゃないんだけど?」
何?
「それはどういう……?」
「基本的に僕は嘘が嫌いなんだ」
??
それは以前に聞いたことがある。
しかし、一体今の話とどうつながりがあるんだ?
唐突に全く別と思われる話を振ってきた元直に怪訝な視線を向けると同時に、頭は最速で回転する。
そうだ、こいつとの話は面白いだけじゃないんだ。
特に口だけで笑みを表現しているこの表情。コレがヤバイ。
何かしらの厄介ごとが降りかかってくる前振りだ。考えろ、考えるんだ俺。
「勿論今まで一度も言った事は無い、何て事は無いし。それを他人に強要するつもりも無い」
早いよ。
今考えてるんだ。頼むから待ってくれ。
「でも、親しい友人相手には可能な限り正直でいたい。だから、言いづらい事は言わないという形で今まできたんだけど」
む……。
確かに……"一応"と頭につくが嘘をつかれた記憶は無いな。意図的にミスリードさせる事は多々あったが。そして、そのシワ寄せが俺に降りかかる事が殆どだったが。
「それを理解した上で、本当に聞きたい?」
つまり、正直に答えた結果が俺にとってよろしくないものだと?
聞くか聞かないでおくか。
正直な話、元直が何を考えているのか知りたい気持ちはある。
単純な好奇心の他に徐庶として立ち位置を知っておきたい、と言うのが理由だ。
問題は、こいつが言うにはだが、ソレが巡り巡って俺に災いをもたらす。と言う事……うん、意味不明だ。
しばらく考え込んでみたが答えが出るはずも無く、時間だけが過ぎていく。
制限時間を設けられたワケではないが、余り遅すぎると自動的に「聞かない」という選択肢を選ばされそうな雰囲気。
史実を考慮すると、朱里と雛里が予定通り劉備に仕えたらきっと元直も……って順番逆だな。
しかし、ハッキリ言って朱里の方が意欲的に就職活動しそうな雰囲気だしなぁ。
どのくらいかというと、今の朱里に三顧の礼なんて必要ない程だ。募集を見かけたらフラフラと行ってしまいそう、ってコレは言いすぎか。
とりあえず今は朱里の事は置いておこう。考えるべきは、元直の話を聞くか否か。
そもそも友達の進路を聞くだけで何故こんなに考えないといけないのだろう?
そう考えると一気に思考がクリアになった。
これはアレだ。前の世界でよくあった、お前どの大学行く? とかそういう感じだ。
確かに元直みたいな仲のいい友人といった関係の異性に「貴方と同じところ」なんて言われた日にゃ相手の真意を測りかねて、随分と困るのだろうが。
予想外な、例えば大工に弟子入りする、とか言われても驚きこそすれそれだけだ。
こんなに意味深な前振りをする以上俺にとって予想外の答えが返ってくるのだろう。
しかし、甘いな元直よ。
俺は既に結果を知っているんだよ。流石のお前も今回ばかりは相手が悪かった。
「大丈夫だ、全く問題ない。微塵たりともな」
「キミが自信に満ち溢れている時って大体失敗するよね」
「…………」
えーと……。
「大丈夫、きっと大丈夫……大丈夫な筈」
途端、弱気になるのは元直の言葉に思い当たる節がありすぎるから。脳裏に消し去りたい敗北の記憶が蘇る。
「あぁそうだ。一つ付け加えておくけど、些か恥ずかしい内容でね。聞いたからには反対して欲しくないのだけど、快く賛成してくれるかな? もちろん、キミに害を及ぼす事は……まぁ無いよ」
さりげなくかなり重要な条件を、本当に今思いつきましたよ的な雰囲気で元直は付け加えた。
「待て、今一瞬間を置いたよな。しかもまぁってなんだよまぁって」
「深く気にすることじゃないよ」
「気にするなって、お前な」
あれ? ちょっと待て。
俺の災いとなってかつ、害にはならない?
何ソレ……日本語、じゃなくて中国語的にありえるの?
分からん、マジで意味不明。
強いて訳すなら「俺にとってマイナスにはならない。しかし大いに困るだろう」って事か?
「さて、どうする?」
「……先生が聞いたら反対するような話じゃないだろうな?」
「流石にそれはないよ。むしろ水鏡先生には背中を押された位さ」
あ、そーなんだ。
何だ、だったら問題ないじゃないか。 よくよく考えてみたらこいつが考えなしな発言をするはず無いか。
そう考えると一気に気が楽になった。
「分かった、言ってくれ。ソレが何であれ俺は賛成する」
「ん……ありがとう」
元直は一度大きな呼吸をして……。
何故こんなに緊張しているのだろう?
「僕は――」
…………。
「あ、お兄さん!」
「朱羅さん」
そして放たれた空気を読まない横槍。
矛先で突かれ、限界まで膨らんだ風船から空気が抜けていく、そんな音を聞いた気がする。擬音で表すとシュルシュル、という感じだ。
苦笑いを浮かべながら振り向くと、案の定とてとてと走りよって来る朱里と雛里。
「元直ちゃんも一緒だったんですか」
「あ、ああ……うん」
ニコニコ笑うちんまい二人。いつもどおり邪気の無い笑顔がまぶしい。この二人が色々と策謀を張り巡らしていくのかと考えると、少し泣きたくなる。
対して引きつった笑みを浮かべる元直。こちらは進行形で珍しい表情だ。
「あ――、悪い。元直、もういっか……」
あれ?
なんか、背中から黒いオーラが出て。
「何となくこうなるんじゃないかとは思っていたけどね」
何故か意気消沈しているように見える元直に首を傾げながらも、
「いや、だから続きを……」
「物事は天の時を得てこそ成功を収める事ができるんだよ」
何故ここで孫子?
問いかけようと手を伸ばすが朱里、雛里と談笑を始めた元直の横顔は既に私塾でのソレであって、どうやらマジで喋るつもりは無い様だ。
……仕方ない。
どうせ誰かに仕えるとかそういうのだろう。目の良いこいつの事だ、必然的に選ぶ武将は限られてくる。
「そうだ、そうに決まってる」
だから、いーや。
と、自分を納得させたりするのだが、そんな俺に何かを感じたのか前を歩く元直が振り向き俺の鼻先に指を突きつけた。
「何かあったら、いやキミの事だからあるだろうから。その時は手伝うよ」
青の瞳が近い。
その関係で仰け反った姿勢のまま元直と視線を交差させるが、そこから何かを読み取る前に銀糸が舞って、元直は軽やかなステップで俺から離れて行った。
勝手に人の将来を波乱万丈にしないで欲しい。
それに手伝うという事に関しては今更だろう。今までだって……まぁ頻度的には俺:元直=1:5位だったが。
にもかかわらずあえて言ったということは気にするなということか? よし、俺のためにそういうことにしておこう。
ついては、昨日出された宿題を手伝ってもらうとしよう。
朱里の兄と言うだけで分不相応な難問ばかり出されるからな。
心なしか元直の足取りがぎこちない気もするが……気のせいだろう。
人間分からないものは都合よく解釈するものだ。
だから、俺はこの出来事を深く考える事もせず日常に埋もれさせた。