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No.5644の一覧
[0] 気が付いたら三国志。と思ったら……(真・恋姫無双憑依)[タンプク](2011/01/01 23:52)
[1] その1・改訂版[タンプク](2009/01/17 01:02)
[2] その2・改訂版[タンプク](2009/11/23 02:58)
[3] その3・改訂版[タンプク](2009/01/17 01:02)
[4] その4[タンプク](2009/02/10 22:32)
[5] その5[タンプク](2009/01/17 01:11)
[6] その6[タンプク](2009/01/27 01:01)
[7] その7[タンプク](2009/02/10 22:35)
[8] その8[タンプク](2009/02/11 11:20)
[9] その9[タンプク](2009/04/06 19:11)
[10] その10[タンプク](2009/04/11 02:36)
[11] その11[タンプク](2009/05/19 20:15)
[12] その12[タンプク](2009/08/11 17:04)
[13] その13[タンプク](2009/08/22 13:26)
[14] その14[タンプク](2009/12/15 00:17)
[15] その15[タンプク](2009/12/15 00:13)
[16] その16[タンプク](2011/01/01 23:50)
[17] 外伝1・私塾その1(朱里)[タンプク](2009/06/17 02:26)
[18] 外伝2・私塾その2(雛里)[タンプク](2009/06/17 02:26)
[19] 外伝3・私塾その3(元直)[タンプク](2009/05/19 20:11)
[20] 外伝4・呉その1(亞莎)[タンプク](2009/06/17 12:10)
[21] 外伝5・呉その2(蓮華)[タンプク](2009/08/11 17:03)
[22] 外伝5・呉その3(蓮華その2)[タンプク](2009/08/22 13:22)
[23] 外伝6・私塾その4(元直その2)[タンプク](2009/12/15 00:18)
[24] 外伝8・呉その4(蓮華・亞莎・元直)前編[タンプク](2011/01/01 23:52)
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[5644] その10
Name: タンプク◆2cb962ac ID:85b92d51 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/11 02:36
 袁術を追放して呉の再興は成った。
 物語としてはここでめでたしめでたし、はいおしまい。となるのだろうが生憎と俺の持っていた現実とはかけ離れているが、それでも虚構とはいえないこの世界。
 つまるところ、そうは問屋がおろしてくれなかった。
 そもそも、いくら人心が離れていたとは言え国のトップが替わったのだ、混乱が起きないわけがない、ていうか起きた。

 具体的に言うと、賊が出て呂蒙と二人制圧に行ったりしたが。詳細はまた別の機会に取っておこう。
 とにかく今は可能な限り早くインフラを整える必要がある。

 そうNAISEIの時間だ。

 戦場では全く役に立てなかったが、ようやく周ってきた俺のターン、このままずっと俺のターン。
 いきなりマジックカードを引いてしまわないよう気をつけなくては、と気を引き締める。

 幸いというか今回は戦闘らしい戦闘が無かったので建物自体に被害は少ない。しかし、人の方は色々と問題が山積みだった。ソレもこれも追放された馬鹿の所為。
 馬鹿だ馬鹿だと聞くたびに下方修正をし続けてきたが、それでも俺の予想を振り切る馬鹿さ。
 ヤツへ唯一感謝する事があるとすれば、それはやる気と国への執着心が薄かったところ。馬鹿がやる気出すと大抵が良い結果にはならない、という事はこっちの世界で痛いほどに学んだ。
 いなくなってくれただけ良い馬鹿だった。

 まぁ、そのお陰で苦労はしているのだが……。

 今は、あの人の事を考えるよりも大事な事がある。
 実は国をとったときの為に色々と考えてはいたんだ。

 点数は稼げる時に稼いでおこう。
 そんな思いと共にバッタリと廊下で出くわした伯符さまにいくつか提案した。

 結果。

 学校作ったら? →だめ、あほが変に頭良くなったら困るだろう。
 軍屯いけんじゃね? →今は無理、そもそもソレだけの下地が出来てない。
 戸籍調査は? →それだ。

 学校にダメだしされたのには驚いたがトップがダメというなら下っ端の俺がどうこう言う話ではない。個人的には学びの場は広く開けておきたいが、仕方ない。
 ま、3つ提案して一つ通ったんだから上出来だ。

 なんにしても戸籍調査の方はすぐに開始されてそれなりに良い結果が出ているらしい。
 らしいというのは俺が関わっていないから。実際にやってるのは 孫堅さんの時代からず~っと仕えているという爺さんだ。例によって何故か顔が良く見えないのは気になるが……。

 私的な場での提案だった事もあり俺の名は全くでなかったが、仕事を回避できたと思えばむしろラッキーといえる。
 頑張ろうと心に決めてはいても自分から死地へ赴くにはまだ人生先が長すぎるだろう、常識的に考えて。



 ………………。
 …………。
 ……。



 そして今、蓮華様に呼ばれて付いていったらいつの間にか軍議に出席していたというミステリー。
 身分的に問題あるような気がする。そもそも蓮華様の私的な家臣から出てきたという微妙な俺の立場。何と言うかあれだ、私的秘書 ?
 こんな感じだから蓮華様の腰ぎんちゃく的なイメージが確立してしまっている現状なのだが……事実だからなんとも言い返しづらい。
 現時点での懸念は1800年くらい後で発売されるどこぞの歴史戦略ゲームの武将列伝に変な事かかれそうで怖い、という事。能力値的には初めの方は内政でそこそこ使えるという感じだろうか。何故か使える技能もってるかなんかで重宝されたりしたら嬉しいな。
 チート的な能力値で敵を撃破していくとは想像の中ですら考えられないあたり寂しいといえば寂しいのだが、自分を知っているという事にしておこう。

「朱羅、お前からも何かあるのだろう?」

 もう二度とプレイできないんだろうなぁ、とぼんやり考えている俺に蓮華様が声をかけてきた。
 っと、軍議中だ。集中しろ、俺。

 正直軍略の辺りは口を出せる雰囲気じゃなかったけど、ただ居るだけでは評価を下げに行くようなものだしな。
 妹が敵国でバリバリ働いてます。などという事態になりかねない、というかなるのだから信頼を得といて損は無いだろう。
 その為の準備はしてきました。もっとも別の件用に作ったものだが。

「はい。とりあえずこちらを見て下さい」

 そう言って壁に掛けたのは、一言で言えば巨大な竹簡。
 プロジェクタどころか紙すら満足に使えないこの世界。いや紙に関しては俺の想像以上に普及はしているのだが、流石に俺が求めるサイズは存在しなかった。
 仕方ないので普通の竹簡をつなげて作った特性プレゼンテーション用竹簡を用いて俺はクエスチョン・マークを浮かべている孫呉の幹部武将の前に立つ。

「えー、こちらの折れ線が我が国の金銭収入を示しています」

 右手の棒でとん、と横軸時間、縦軸金額のグラフを指し示す。

「そしてこの1本引かれた縦の線が支配する勢力が変化した、つまり伯符さまがこの国の主となられた時期です」

「うむ。やはり、劇的に変化しているな」

 うん、まぁそうですね。収入が増えている事自体はさっきも話が出てましたから、みんな知ってる筈。
 それはいいんです。
 黄蓋さまが言った通り袁術が支配していた時期と比べると雲泥の差だ。
 というか、それだけの差がないとやばいんだって。

 このグラフを斜めにしてみると大差はない、むしろ袁術の頃の方が勝っている。
 などと言っても誰もわかってくれないので話を先に進めよう。

「そして……」

 グラフに一本大きく横に線を引く。

「朱羅、それは?」

「まだ途中なんですが戸籍調査によって得られた情報から推測する……」

 わざわざグラフ作ってわかりやすくしてるんだからくどくど言う必要もないか。

「簡単に言ってしまえば国を維持する為にこの位はないと拙い、という事です」

 …………。

 辺りを沈黙が覆った。
 公瑾さまは苦笑いを浮かべている。

 知っているだけに頭を痛めていたのだろう。その気持ちはとても理解できる、俺も気が付いた時愕然としたし。

 収入に余裕が無い事は知ってる人は知っている。
 その証拠に文官と呼べる人たちの表情に驚きは無い。
 その他にも伯符さまは、何か目が怖い。見ないようにしよう。
 てか……蓮華様、貴女が驚いた顔をしている事が驚きです。

 主に軍略方面の勉強に忙しかった呂蒙とあちこち飛び回っていた周泰はともかく貴女が知らないのは拙いでしょう。
 ふと、視線を逸らすと気まずげな興覇さまと目があった…………もはや語るまい。

 一応二人の名誉の為に言っておくと、水軍の編成などに忙しかった事は確かだ。

 だ・が。
 内のことは文官だけがやればいいというものではない。いや、もちろん小蓮さまみたいなのには正直来て欲しくないのだが。
 あ、言うまでも無く小蓮さまも知らなかった組ね。
 それはどうでもいい。

 忙しかったとは言え蓮華様には知っていては欲しい。それも実感を持って、だ。

 伯符さまという絶対的な当主が居るうちは良いが、もしもの事があったら越後にいる人たちがタイムリーに争ってる状況になりかねない。
 まぁ、アレは跡目争いだから少し違うが。文と武で二分されたりしたらソレこそ別の国の話だ。

 そして、コレだけ苦労しなくてはいけないのも、全ては。

「あー、見て分かりますように……」

「袁術が残した遺産よね~」

 言いよどんだ俺の後を継いで、凄く嫌そうに伯符さまが言った。

「ええ、絞れるだけ絞ってましたからね。それに立場上税を上げる事は出来ませんから」

 「袁術からの解放」という名目で民には受け入れられている今、税を上げる事など不可能。やったら第二の袁術になりかねない。袁術だからこそ国を盗れたが、袁術故にこうして苦労する。
 上手くはいかないものだ。

 そして、結局何が言いたいのかと言うと今は戦争むりっぽいっす。
 と言う事だ。

 蛇足だが、一つだけ言わせてもおう。
 出費の半分ほどを蜂蜜が占めてたとかありえねー。その蜂蜜で俺が苦しんでいたとかさらにありえねー。




 ………………。
 …………。
 ……。




「あ、そーだ。子瑜、貴方ちょっと残って」

 軍議が終了し蓮華様と興覇さまの後に続こうとした矢先に伯符さまに呼び止められ俺は足をとめた。

「え、えーと」

「お姉様が呼んでいるんだ。一々私に伺いを立てなくともいい」

 そうですか。

 蓮華様のからお許しが出たので。では、と挨拶をしてその場にとどまる。
 そして、向かうはいつものチェシャ猫じみた笑みを浮かべる伯符さま。
 しかし、直接俺に用事って……初めてじゃないか?
 何かあったのだろうか。

「さっき言っていた戸籍調査の方はほぼ完了したみたいよ」

「それは……早いですね」

 いつも思うがこの世界のタイムテーブルは俺の感覚よりかなり早い。

「そう?」

 首をかしげる伯符さまを見るに、違和感は無い様だ。

「成果は上々、本来は発案者の貴方の功にもなるはずなんだけど」

 その先は聞かなくても分かる。
 先程のとおり、これに関して俺の名前は全く絡んでいない。よって俺が勲章を受け取る理由が無い。

「いえ、この方が良かったです。むしろ気を使ってもらったようで……ありがとうございます」

「あら、やっぱり気付いてたんだ」

 そう言って笑う雪蓮さまに俺の方は苦味の含まれた笑みを返した。
 一時期死にかけたが、割と順調に出世してきている俺。そして順風満帆という事は周りからしてみれば 逆に取られることもあるわけだ。
 ましてや俺の場合蓮華様に取り入って云々という話になるのも無理は無い。最近では自分の事ながら間違いではない気がしてきたし。
 簡単に言ってしまえば、俺自重しろ。

「その辺りは興覇さまにもいらない苦労をかけましたね」

「へぇ、そこまで分かってたんだ」

「まぁ、始めは分かりませんでしたけど」

 前にも言った通りあの人の本質は「公平」だ。蓮華様の害にならない限り個人的な好き嫌いで見当違いな決断をする事はない。そんな人が何故俺を目の敵のように扱ったのか、少し考えるとすぐに分かった。
 やっぱり、何だかんだといっても蓮華様に迷惑がかからないよう細心の注意を払っているのはいつもあの人だということ。

 俺に対しても興覇さまがあえて厳しく当たる事で「アレなら仕方ないか」と周りに思わせ、矛先を逸らしていたわけだ。本当に感謝感激ですよ。
 もっとも、それでも怖かったのは否定しないけど。

「始めは完全に 警戒していただけだと思うけどね」

 伯符さまはくくっと笑った。
 この辺りのころころと変わる表情は小蓮さまと姉妹である事を改めて感じさせる。
 蓮華様もあれで激情家だし、飲んでる時は……まぁ、これ以上は言うまい。

「やっぱり俺の身分で軍議に出るとかまずいんですよね?」

 俺よりも上に人はいるしなぁ。

「……難しいところなのよねぇ」

 う~ん、と伯符さまは口元に手をやる。

「軍議に出てるみんなは納得してるし、半分蓮華の小間使い扱いだから、問題ないといえば問題ないのだけど」

「小間使いだったんですか……って、分かってていってますよね?」

「さぁ? 何のこと」

 小間使い……主人の身の周りの雑用をする女の召し使い。早い話がメイドだ。

 色々と突っ込みたいが仮にも相手は国主、いや仮というか完全に国主だ。
 それに俺自身秘書とかそんな凄そうな役職回ってくるわけねー、とか思っていたし。

「冗談はコレくらいにして。正式には違うけど、でも本当に私が思ったとおりの役割を演じてくれているわ」

「演じるも何も素ですけど」

 一応仕事モードを使ってはいるが、言葉使いと自制心以外は殆ど素だ。主に後者から来る理由で最近胃がきりきりするのだが。

「ならなおの事良し、よ」

 伯符さまは微笑いながらも「ただ」と付け加える。

「問題はないけど面白くないと思う人も出てくるのよね~」

「やっぱり、拙いじゃないですか」

 そもそも俺が軍議に出なくてはいけない必要性は薄いのだ。

「そうでもないわ」

「は?」

「そうね、貴方より頭が良くて身分も高い文官はいるでしょうけど、要点をつかんで噛み砕く能力は貴重よ。世の中全てが賢人というわけじゃないのだからね」

 孤軍奮闘するような人物ではないが、いれば便利な家臣だ。
 伯符さまは俺を称してそう言った。

 コレは評価されてるのか?

「そうまで言われると怖いですね、何か隠してませんか?」

 基本小市民だ。いい事の後には悪い事がある、とデフォで思ってしまうくらいには。

「あ、分かる」

 って、本当にあるのか!

「あ、いえ。別に無理に作る必要はないのですが」

「大丈夫、ぜんぜん無理にじゃないから。むしろその為に呼んだから」

 ははは……。

「劉備軍に諸葛亮ってはわわ 言ってる軍師が居たんだけど、身内かしら?」

 それか……いつかは来るだろうと思ってはいたが。
 恐らく、引き金は反董卓連合。
 同じ陣営に居たのだから会っていても不思議は無い、いや名を聞くだけでいいのだ。むしろ気付かない可能性の方が低いだろう。
 そして、この人がこうして直接尋ねるということはすでに調べは着いている筈だ。

「妹です」

 こちらとしても予想していた問いかけであったから答えによどみは無い。
 それに否定する必要も無い事だ。

「驚かない。という事は知っていたのね?」

「ええ」

 知ってるも何も、仕官するその場をストーキン……影から見守っていましたから。

「そう……ならいいわ」

 あれ?
 いきなり罰せられる事など無いと確信してはいたがここまであっさり済まされるのは予想外。

「いいのですか?」

「単純に知りたかっただけよ。それ以上は何も考えていないわ……何かをたくらんでいるのなら受けて立つまでよ」

 その辺りの豪胆さは流石、孫策というべきか。しかし、そんなだから最期はうっかりで終わるんだ、と忠告すべきか。

「ま、その可能性は限りなく低そうだけど……あ、そうそう。この事蓮華には早めに言っておいた方がいいわよ」

「そう……ですね。騙していたわけではないのですがいい気はしないでしょうから」

 むしろもっと前に話しておくべきだった。

「あ~、そういう意味じゃなくてね」

「は?」

 ニヤリ、と。
 あ、何か悪寒。

「すねるわよ? あの子」

 すね……何?




 ………………。
 …………。
 ……。




 所変わって場所は劉備さんの陣営。
 史実何それおいしいの? とばかりに彼女たちは時代を先取り、蜀攻めを模索していた。そんなわけで今劉備陣営は大忙しなのだ。
 そんな中、私塾を経由して届いた手紙を手に雛里は一人首をかしげていた。

「どうしたの雛里ちゃん」

「あ、朱里ちゃん。朱羅兄さんからの手紙なんだけど」

 朱羅からの手紙は二人に別々に届いているので、雛里の手紙の内容をまだ朱里は知らない。怪訝に思い、朱里は。

「また何か変な事が書いてあったの?」

「変といえば変なんだけど」

 そう言って雛里は手紙を裏返し朱里に見えるようにして、一文を指し示した。

「今回も弓には気をつけろって書いてるんだけど……なんでだろう?」

「さぁ、お兄さん弓に何か嫌な思い出あったかな」

 いつも元直にぼこぼこにされていたので剣になら分かるのだが、弓?
 不可解な兄の手紙に朱里も首をかしげる。

 実のところ、割と砕けたこの文面からは全くうかがうことは出来ないが、この時の子瑜の心配度はMAXを越えていた。正直彼には何時劉備が蜀取りに動くのかが全く読めなかったのだ。年代的にありえないだろ、とかいう考えはかなり前に捨て去っていた。そしてその考えは今まさに的中している。

「あと、ここなんだけど」

「え?」

『鳳凰が落ちそうなところには近づくな。後玄徳さんから馬とかもらうのも禁止』

 演技設定か史実設定か。もはや、その辺りも意味不明。下手な鉄砲の諺をそのまま使用した様な手紙だった。
 もちろんそんな事は当の二人には理解できなかったが。

「なんなんだろうね?」

「さぁ……」

 二人は首をかしげる。
 そしてとうとう首をかしげながらも彼女たちは蜀を手に入れてしまったりする。
 当然のように雛里は無事だった。



 ………………。
 …………。
 ……。



 やはり、と言うか何と言うか。立場的なものは別として、この時代に来ていくつか不満はある。
 もちろん空気が美味しいとか水が美味しいとか良いところもあるが。

 例えば、酒。
 何度となく蓮華様に誘われて呑んでいるのだがこの時代の酒って正直美味しくない。
 味が薄いしアルコール度数も低い。

 そんなわけで、ビールは無理でも日本酒なら原料的に作れるんじゃないかと思ったのだ。
 だって米ある、水綺麗……いけんじゃね? と思っても不思議は無い。

 だが。
 米、水、発酵。
 などなど、いくつかのは思い浮かぶのだが、ただの大学生だった俺に実際作れといわれると、無理と言うしかなくなる。
 というか、私立理系の俺が学んだ事なんてこの時代じゃ殆ど生かせない。

 2次関数とか言えば驚かれるだろうが……正直それで俺は何を得るのだろうか?

 昔、朱里相手に三権分立の話をしたら、得体の知れないものを見る目で見られた。
 あの時悟ったね。妹でさえコレなのだから、未来の知識と言うものは必ずしも俺に利益をもたらすものではない、と。

 この経験の元に、俺の提案は可能な限り元ネタがハッキリしている事にとどめている。

 戸籍調査や軍屯は実際にこの時代で行われている事だから問題は無い。
 しかし、例えば水軍に竜骨船を入れるとか言う事は冗談ではなく俺の命に関わる問題になりえる。

 だからこそ、今も情報を仕入れて何か使えないかと模索しているわけだが。

「あの、先生?」

 そんな俺に、最近になって勉強仲間が増えた。
 その仲間とは、鋭どく俺を睨む……いや恐らくは心配そうな視線を向けているはずの亞莎。この人、何故か俺の生徒という立場になっていた。

 そして師弟関係を結んだ時にお互い真名を許すようになったのだが、なし崩し的に明命と小蓮さまもついてきたけど、まぁそれはいい。

「あ、悪い……なんだったか…………侵攻目的と兵站についての関係?」

「弩の改良についてです」

 ぜんぜん違うな。

「兵站については前々回です」

「ああ、そうだったか」

 オーケー、正直に言おう。ちょっとボケてました。

「やはり弩の弱点は連射力だと思うのですけど」

 そう言って亞莎は机の上に広げられた弩の設計図を指差す。

「あらかじめ何本か仕込んでおけば……」

「う~ん、その辺りは難しい。余り構造を複雑にするとメンテナンス……整備の面で問題が出てくるし。構造を複雑化して使う時に壊れでもしたら大変な事になる。何より利点の射程、威力が落ちたら元も子もないからな」

「そう……ですね」

 まぁ、威力が落ちるのはある程度眼をつぶって連射能力に特化した部隊、という一つの方向性を持たせるという方法はあるが、この辺りは孔明のパクリだな。朱里もそのうち思いつくのだろうか?
 上手くいけば本物の元戎を見れるかもしれないなぁ。

「まぁ、完全な上位互換はそう簡単に生まれはしないか」

 ソレまでのものを産廃にするのだから、そうポンポン出たらたまらない。

「とすればその利点を上手く生かして欠点を補わないといけないんだけど、利点欠点をずらして後は運用で何とかするかなぁ」

 攻撃速度については信長の三段みたいにやってみるか?
 いや、無いな。弩にそこまでする価値はないし使える場面が限られすぎだろ。鉄砲だって実際は三段云々よりあそこにおびき寄せた事の方に信長の上手さがある。

「別の利点……運用法……」

 隣の亞莎はぶつぶつと自分の世界へダイブ中のようだ。

 こんな風に家庭教師と言っても実際は一方的に教えるより、二人で色々と考え込んでいた時間の方が圧倒的に長いのだからこれを授業と呼んでいいものか不明だ。
 それでも夜は更けていく。
 放っておくと亞莎は意識を失うまで勉強し続けるので、きりのいいところで止めるのも俺の役目だった。

 あ、弩の強化で思いついたが。竹束とか実用できそうか?
 どうでもいいけどアレを竹箒と思ってたの俺だけじゃないはずだ。




 ………………。
 …………。
 ……。




 劉備が蜀を取ったという驚天動地の報せが舞い込んできた。
 あり得るんじゃないかとは思っていたが実際今の劉備が蜀取るとか無いわ。どこから兵力持ってきたんだよ。戦略ゲームじゃないんだからさ、もう少しゆっくりいこうよ。
 しかし雛里が無事なので良しとしよう、俺の手紙が効いたのかどうかは不明だが結果として無事ならどうでもいいさ。

 最近少し体調が悪くなった気もするが……忙しいからだろう。

 蜀を取られたことに関して伯符さまや公瑾さまは苦笑いだった。国が落ち着いたら侵略を考えていたのかもしれない。天下二分の計を実行するのに必要だったし。

 目の前の獲物を取られた形だが、呉の国自体は今のところ順調だ。こういう時は心底思うね、やっぱり戦争なんて無い方がいい。

 そう、今のような生活がずっと続けばいい。何てことを思ってしまったわけだ。
 得てしてこういうときに事は起こる。実際起こった。

 ある平和な昼下がり……ではなかったが軍議の場でこれまた奇妙な話を聴くことになる。

 今度ばっかりは本当の意味で驚いた。
 その報せとは――定軍山の戦い。


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