第十五話 波の国の戦い 其の一
場所は再びナルトたちに戻る。
「ナルト・・・・・・景気良く毒血を抜くのはいいが・・・・・それ以上は・・・・・・」
カカシは、ドクドクと流れるナルトの手の甲を見ながら
「出血多量で死ぬぞ♡マジで」
カカシはニッコリと満面な笑顔を浮かべる。
「ぬおぉ!ダメ!それダメ!こんなんで死ねるかってばよ!!」
その言葉を聞き慌てふためくナルト。
こういうところはまだまだ子供である。
「ちょっと手を見せてみろ」
カカシはそんなナルトの左腕を掴み手の甲を見る。
「ナルト!アンタって自虐的性格ね。それってマゾよ!」
サクラもあきれたように言う。
カカシはじっとナルトの手の甲を見る。
「!」
(・・・・・・・傷口が・・・・・・もう・・・・・治りかけている・・・・・・・)
毒を抜いたおかげで自己治癒が始まったようだ。
さっきのかすり傷は毒のせいで回復が遅れたようだが今回の傷はかなりの速さで回復している。
「(回復してく・・・・・・九尾の力が働いてるのかな?)あのさ、あのさ。先生、オレってば大丈夫だよな?」
一応カカシに聞き返すナルト。そのナルトを見てカカシは・・・・・・
「・・・・・・・ま!大丈夫だろ(やはり・・・・・・九尾の力か・・・・・)」
ナルトの手に包帯を巻きながらカカシはそう言う。
「・・・・・・・・先生さんよ」
ナルト達の様子を見ながら、少し離れた場所にいたタズナが声を掛けた。
カカシはそんなタズナのほうを向く。
「ちょっと話したい事がある」
今までのタズナとは違いその表情は真剣そのものだった。
「すごい霧ね、前が見えない!」
濃い霧がたちこめる海。サクラが余りの霧の濃さに思わず驚きの声を上げる。
現在ナルト達は小さな小船で波の国へ向かっていた。
「そろそろ橋が見える。・・・・・・・・その橋沿いに行くと、波の国がある」
今この船を漕いでいるのは渡し舟を漕いで20年の大ベテランでタズナの友人のカジと言う男だ。
そして船がだんだん進むにつれ、ナルト達の前方に大きな建造物が現れる。
それは巨大な橋。
だがまだ作りかけのようであちこちに建築用の資材も見える。
「うひょう!でけェーーーっ!」
ナルトはその大きさを見て思わず大きな声をあげた。
「コ・・・・・コラ!静かにしてくれ!この霧に隠れて船出してんだ。エンジン切って手漕ぎでな・・・・・・ガトーにあったら大変な事になる」
その言葉には焦りや恐怖といった感情が入り乱れている。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・うっ!」
サスケはその言葉を無言で聞きながし、またナルトは自分の失言に気づき両手で口を塞ぐ。
サクラに至っては、かすかに額に汗を流す。
『先生さんよ』
「・・・・・・・・・」
その中でカカシは、舟に乗る前にタズナが話した事を再び頭の中で思い起こしていた。
「ちょっと話したい事がある。・・・・・・依頼の内容についてじゃ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「あんたの言う通り、おそらくこの仕事はあんたらの『任務外』じゃろう・・・・・・実は、わしは超恐ろしい男に命を狙われている」
「超恐ろしい男?」
「・・・・・・・」
カカシが聞き返すとタズナはすこし目をうつぶせ黙る。
「誰です?」
「あんたらも名前ぐらい聞いた事があるじゃろう」
タズナはその人物を思い出すとため息をついた。
どうやらよっぽど嫌な相手なのだろう。
ナルトもその相手が気になるようでカカシの後ろで聞き耳を立てている。
「海運会社の大富豪・・・・・・ガトーと言う男だ!」
「え・・・・・!?ガトーって・・・・・・あのガトーカンパニーの?世界有数の大金持ちと言われる・・・・・!!?」
ガトーという名前を聞き、カカシは多少驚いた声をあげる。
カカシもその名前は良く知っていたからだ。
「そう・・・・表向きは海運会社として活動しとるが・・・・・・裏ではギャングや忍を使い麻薬や禁制品の密売・・・・・・果ては企業や国の乗っ取りと言った・・・・・悪どい商売を生業としておる男じゃ・・・・・・」
事実これまでもガトーのために潰された企業が多くあった。
歯向かう者には容赦しない残酷な男で今まで多くに人々がガトーのせいで大変な目にあっていた。
「1年ほど前じゃ・・・・そんなガトーが波の国に目をつけたのは・・・・・・・財力と暴力をタテに入り込んできた奴はあっという間に島のすべての海上交通・運搬を牛耳ってしまったのじゃ!島国国家の要である交通を“独占”し、いまや富の全てを“独占”するガトー・・・・・そんなガトーが唯一恐れているのが、兼ねてから建設中の・・・・・・あの橋の完成なのじゃ!」
「・・・・・なるほど・・・・・で!橋を作ってるオジサンが・・・・・邪魔になったって訳ね・・・・・」
顎に手を当て、サクラはフムと納得した。
「じゃあ・・・・・・あの忍者達はガトーの手の者・・・・・・」
口を開いたのはサスケ。サスケもさすがで今の話を完璧に理解した。
ナルトも一応この話は理解できた。
「しかし分かりませんね・・・・・・相手は忍すら使う危険な相手・・・・・・何故それを隠して依頼されたのですか?」
「波の国は超貧しい国で大名すら、金を持ってない・・・・・もちろんワシらにもそんな金はない!そんな高額な『Bランク』以上の依頼をするような・・・・・・」
その表情にはかなり苦い思いが込められていた。
そしてそんな表情をカカシは静かに見ていた。
「まあ・・・・・・お前らがこの任務を止めれば、ワシは確実に殺されるじゃろう・・・・・が・・・・・・なーにっ!お前らが気にする事はない!ワシが死んでも10歳になる可愛い孫が一日中泣くだけじゃ!!あっ!それとワシの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで、寂しく生きて行くだけじゃ!いや何っ!決してお前達の『せい』じゃないわい!!」
途中からもうヤケクソとばかり大きな声で話す。
また『せい』のところをかなり強調する。
その姿を見てナルトたちはただただ呆れるしかなかった。
「ま!仕方ないですね。・・・・・・・・国へ帰る間だけでも護衛を続けましょう」
(まさに最悪の依頼人だ・・・・・・)
小声でそんなことを言いながらカカシはため息をつき、しぶしぶと了承した。
(勝った!)
タズナはそんなカカシに背を向けながら内心でそんなことを思っていた。
「もうすぐ国に着くぞ」
その言葉通り、薄っすらとだが陸地が見える。
「タズナ・・・・・・どうやらここまでは気付かれてないようだが・・・・・・・念のため、マングローブのある街水道を隠れながら、陸に上がるルートを通る」
「すまん」
舟は静かにトンネルのような水路の中を進んで行く。
その中は薄暗く、かすかに天井に取り付けられている電灯の光があるだけだった。
そして暗い穴を抜けると、マングローブの森が見えて来た。
「アハーー、へーー」
ナルトはマングローブが珍しいようですこし興奮している。
そのマングローブ林を静かに進む舟。
しばらく進むと舟は岸に止まった。
「オレはここまでだ・・・・・・・それじゃあな、気ィつけろ」
「ああ・・・・・超悪かった」
タズナの言葉を聞き終わるとカジは急ぎエンジンをふかせその場を後にした。
「よーしィ!ワシを家まで無事送り届けてくれよ」
「はいはい」
カカシはやる気がなさそうに言う。
(次に奴らが襲って来るとしたら・・・・中忍じゃなく、上忍レベルに違いない・・・・・)
『あー、やだやだ』と内心で心底いやそうな言葉を思い浮かべてもいた。
そして五人はタズナの家に向かう。
ピク!
ふとナルトは誰かに見られているような気配を感じた。
まだ薄っすらとしか感じないが確かにいる。
まだカカシは気づいてはいないがナルトには分かる。
それも場所はかなり近くだ。
ここまで接近されているのにナルトでもほとんど気配を感じない。
上忍・・・・・・・・・・・・・・それもかなりの使い。
この間戦った雨隠れの忍び達よりもかなり上だ。
今の自分ではまず間違いなく勝てない。
五行封印がない状態ならいい勝負だが、この状態では返り討ちに会うのが関の山。
(どうするってばよ・・・・・・・・・・・・)
しばし考えるナルト。
そして突然、ナルトはキョロキョロと辺りを見回し始めた。
ナルトはすばやく手裏剣を取り出し・・・・・・・・
「そこかぁ―――っ!!」
力いっぱいに近くの草むらに向かって投げ付けた。
「!?」
「!!」
「!」
「!!」
いきなりのナルトの行動にさすがのカカシ達も驚いた。
だがナルトが手裏剣を打ち込んだ場所は・・・・・・・・・・・・
し~~ん
まったく変化なし。物音一つ聞こえない。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「フ・・・・なんだネズミか」
きざな台詞を吐きつつ、ナルトは前髪を掻き上げる。
「って何カッコつけてんの!!そんなとこ、初めから何もいやしないわよ!!!」
ガミガミとナルトを怒鳴りつけるサクラ。
「コ・・・・・・コラ!頼むからお前がやたらめったら手裏剣使うな・・・・・マジでアブナイ!!」
かなり焦りながらカカシはナルトに注意する。
その様子はマジで焦っている。
タズナにいたっては腕に青筋を浮かべながら身体がプルプルと震えさせている。
「こら!チビ!!紛らわしいこと、すんじゃねェ!!!」
マジ切れ状態である。
まあ今までの緊張感が台無しであったわけだから、当たり前とも言えなくは無いが。
「む!あそこに人影が見えたような…!」
皆の言葉をまるで聞いていないように、さらにキョロキョロしてあちこちを見回す。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
カカシとサスケはそんなナルトの様子を見てかなり呆れている。
「!」
一瞬にして、カカシの表情が険しくなった。
ナルトにはカカシが気づく前にすでに気がついていたが・・・・・・・・・
実力ではナルトはまだカカシには若干及ばない。
だがその五感はカカシを遥かに上回る。
特に相手の気配を探るということに関しては天才的なのだ。
「そこかァ――っ!!!」
今度は完全に相手を捕らえた。
再び手裏剣をホルスターから取り出し、気配のした草むらに向かい投げ付ける。
「だから・・・・・・やめろ――っ!!!」
サクラの拳が、ナルトの後頭部を思いっきり殴りつける。
「ぐがぁ!」
この時、ナルトは今迄で味わった中で最高のダメージを頭に喰らったとか・・・・・・・・
「ホ・・・・・ホントに、誰かがこっちをずっと狙ってたんだってばよ!」
ナルトは後頭部を左手でさすりながらサクラに言う。
「はい、ウソ!!」
即効でなるとの意見は却下された。
本当に敵の気配を掴んでいたのだが・・・・・・・・・・・
哀れナルト・・・・・・・・・
そんな会話がなされている時、カカシはナルトの投げた手裏剣の場所に歩いていった。
そこには・・・・・・・・・・・
ピクピクと泡を吹きながら痙攣する一匹の白いウサギがいた。
その頭のほんのすこし上の木には先ほどナルトが投げた手裏剣が刺さっている。
「あ!ナルト!なんて事すんのよォ!」
「・・・・・そ、そんなつもりは・・・・・・・ごめんよ!うさこう!」
ナルトは未だプルプル震えているウサギをギュッと抱きしめウサギに謝っている。
「何だ・・・・・・・ウサギか!」
タズナもいたのがウサギだったのですこし安心したようだ。
だがカカシだけは・・・・・・・・いやナルトも内心ではそこにいたウサギに疑問を持っていた。
(あれはユキウサギだ・・・・・・・今は春。・・・・・・・あの毛色は何だ?)
ユキウサギは太陽の光を受ける時間の長さによって毛の色が変わる。
白色は日没が速くなる冬の色だ。
つまり冬は白く、春は茶色でなくてはいけない。
だが先ほどいたのは白いウサギ。
これは明らかにおかしい。
(これは光があまり当たらない室内で飼われた、変わり身用のユキウサギ・・・・さっそくお出ましか)
カカシはかすかに汗を流す。
そして辺りを警戒する。
ナルトもほかの人間にはわからないレベルで警戒する。
気配が強くなる。
おそらく向こうはいつでも攻撃できる位置にいるのだろう。
「なるほど・・・・・こりゃ、あいつら『鬼兄弟』レベルじゃ無理だ・・・・」
ナルト達からほとんど離れていない木の上。
うっそうと生い茂る木の中にその男はいた。
「木ノ葉隠れのコピー忍者・・・・・・写輪眼のカカシがいたんじゃなァ…」
その男は葉っぱの間から一人の男を見る。
両手をポケットに突っ込み、左眼を額当てで隠している男を。
サッ!
次の瞬間、男はすばやく動いた。
「!!」
その気配をいち早く感じ取ったカカシ。
「全員伏せろ!!」
一刻を争うような口調で叫ぶカカシ。
その言葉にすばやく反応しサスケはタズナをまたナルトはサクラを庇う様に伏せさせる。
ブン!
何かが空を切るような音と共に、大きな黒い物体が先ほどまで全員が立っていた場所を通り過ぎる。
ガッ!
何かが木に突き刺さる音。
それは大きな黒い包丁。
そしてその柄の上に大柄の男が現れた。
(コイツは確か・・・・・・・・)
カカシはその男を知っていた。直接の面識はないがその男の事えを以前、手配書で何度か目にしたからだ。
「へ―――こりゃこりゃ…霧隠れの抜け忍、『桃地 再不斬』君じゃないですか」
サスケ、サクラそしてナルトは相手を警戒するように身構える。
いつでも攻撃できるように。
しかし、そんな彼らをカカシは手で制した。
「邪魔だ。下がってろお前ら。こいつはさっきの奴らとは“ケタ”が違う」
「・・・・・・・・」
相手は鋭い眼光でカカシを睨んでいる。
「(こいつが相手となると・・・・・・・・)このままじゃあ・・・・ちとキツイか・・・・・・」
その言葉と共にカカシは自分の額あてに手をかけた。
「写輪眼のカカシと見受ける・・・・・・・悪いが・・・・じじいを渡してもらおうか」
カカシは額あてに手を掛けたまま、再不斬を睨み付ける。
(写輪眼?それって確か兄ちゃんが言ってた・・・・・・・・・・・)
「?」
(写輪眼!?)
ナルトは前にその言葉を聞いたことがある。
兄が教えてくれた特殊な力のことを。
サクラはその言葉を始めて聞いたようで首を傾げている。
またサスケはその言葉に過剰に反応する。
「卍の陣だ。・・・・・・タズナさんを守れ・・・・・・・お前達は戦いに加わるな。・・・・・・それがここでのチームワークだ」
カカシは額あてを握る手に力を入れる。
「再不斬・・・・まずは・・・・・」
「あ!」
ナルトは驚きの声を上げた。
「オレと戦え」
額あての下から現れたカカシの左目。
その瞳には三つの巴形の印がある。
凄まじい眼光。
カカシが本気になった証拠だ。
ナルトも始めて見る写輪眼に多少なりとも驚いている。
「ほ――噂に聞く 写輪眼を早速見れるとは・・・・・・・・光栄だね」
まったくその眼光に恐れをなした様子はない。
むしろどこかうれしそうだ。
「ねえ、先生!シャリンガンって・・・・・・・一体何なの?」
この中でサクラだけが写輪眼を知らないようだ。
ナルトは実物を見るのは初めてだがその能力のことは兄から何度か聞かされていた。
「…写輪眼いわゆる、瞳術の使い手は全ての『幻・体・忍』術を瞬時に見通し、はね返してしまう眼力を持つと言う…写輪眼とは、その瞳術使いが特有に備え持つ瞳の種類の一つ・・・・・しかし写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない・・・・・・」
カカシの代わりにサクラの疑問に答えるサスケ。
それは写輪眼というものがどんな物かよく知るかのような口調だった。
「え?」
「クク…御名答。ただそれだけじゃない。それ以上に怖いのは・・・・・その眼で相手の技を見極め、コピーしてしまう事だ。オレ様が霧隠れの暗部にいた頃、携帯していたビンゴ・ブックにお前の情報が載っていたぜ。それにはこうも記されていた・・・・・千以上の術をコピーした男・・・・・・コピー忍者のカカシ」
その言葉が終わるとカカシと再不斬は無言でにらみ合う。
(な、何なの・・・・・火影のじいさんにしろ・・・・・・この先生にしろ・・・・・・そんなにスゴイ忍者だったの!?)
カカシが予想以上の忍者だと知り、驚くサクラ。
(・・・・・・どういう事だ・・・・・写輪眼はうちは一族の中でも一部の家系にだけ、現れる特異体質だぞ)
サスケは横目でカカシを見る。
本来うちは一族だけの瞳をカカシが持っていること自体を不思議に思ったのだ。
「さてと…お話しはこれぐらいにしとこーぜ。オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねェ」
「!!」
殺気を向けられるタズナ。その顔に恐怖の表情が浮かぶ。
ザッ!ザッ!!
その気配を感じナルト、サスケ、サクラは指示通りタズナを中心とした卍の陣で構える。
「つっても・・・・・・カカシ!お前を倒さなきゃならねェーようだな」
一瞬で首切り包丁を木から引き抜くとすばやく姿を消す。
そして次の瞬間には、ナルト達の右側にある湖の水面の上に姿を現せた。
「あそこだ!!」
「!!!」
「しかも水の上!?」
水面の上に立つ再不斬は右手を胸の前置き、中指と人差し指を立てる。
そして左手を空に向けて伸ばす。また右手と同じく人差し指と中指を伸ばしている。
(かなりのチャクラを……練り込んでやがる!)
カカシは再不斬から放たれる殺気、そしてチャクラを感じていた。
「忍法・・・・・・霧隠れの術」
スーーーー
再不斬は白く薄い霧に包まれながら、だんだんとその姿を消していく。
そして再不斬がいた場所には木の葉が一枚浮かんでいるだけだ。
「消えた!?」
姿が見えなくなり慌てるサクラ。
そんな中でナルトは冷静に再不斬の気配を探る。
「まずはオレを消しに来るだろうが…奴は霧隠れの暗部で無音殺人術(サイレント・キリング)の達人として、知られた男だ」
かつて霧隠れの里にスパイ行動中だった、木ノ葉の特別上忍“酉市クマデ”が当時里の暗部であった桃地再不斬に遭遇。
かなりの使い手であったにもかかわらず、無音殺人術の前になす術もなく惨殺されたのだ。
そのことを思い出すと、カカシは額に多少の汗を浮かべる。
「気が付いたらあの世行きだった・・・・・・なんて事になり兼ねない。オレも写輪眼を全て上手く使いこなせる理由じゃない・・・・・・お前達も気を抜くな!」
その言葉を聞くと、全員が不安の表情を浮かべる。
「どんどん霧が濃くなってくってばよ!」
『8ヶ所』
「!!え?なっ・・・何なの!?」
どこからともなく響く声。
その言葉を聞きあせるサクラ。
『咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓』
「!!」
「!!」
『・・・・さて・・・・・どの急所がいい?クク・・・・』
カカシを含めが全員が少なからず動揺する。
だがナルトだけはいたって冷静だった。
冷静に相手の気配を探る。
いかに姿を隠そうと、音を消そうと、殺気を消そうと一つだけ消せないものがある。
それは術を使うためには必要不可欠なチャクラ。
術を発動させている今なら確実にそれをたどれる。
普通の・・・・・・・・・・・いや、いかに訓練された忍でも、たとえ五影や伝説の三忍であろうが他人の発するほんのかすかなチャクラを探るのは不可能だ。
しかしナルトには感じ取れる。
そのかすかな気配を・・・・・・・・・・・
(すげースピードで移動してるってばよ・・・・・・・・・・けどなんだこれ。チャクラがいくつもあるってばよ。影分身か?)
ナルトはいくつものチャクラを感じ取っていた。
全部で3つ。だがそのうち2つはやけにチャクラが小さい。
「・・・・・・・・」
カカシは右目を閉じ、胸の前で印を結んだ。
そして辺りにはものすごい殺気が放たれる。
(ス・・・・・スゲェ、殺気だ!・・・・・・眼球の動き一つでさえ、気取られ殺されるそんな空気だ・・・・・小一時間もこんな所に居たら、気がどうにかなっちまう!)
サスケは顔からすごい量の汗を流している。
彼ほどの実力があるならば相手の実力を否応なしに感じ取れてしまう。
そして自分と相手の実力の差を理解した。
(上忍の殺意・・・・・・自分の命を握られる感覚・・・・・・ダメだ・・・・・これならいっそ死んで楽になりたいたらいだ・・・・・)
クナイを握りながらも体全体が大きく震える。
かなりの恐怖が体を支配しているようだ。
「サスケ・・・・・」
「!」
カカシがサスケに声をかけた。サスケはその声で体が少し震える。
「安心しろ・・・・お前達はオレが死んでも守ってやる」
汗を流しながらサスケはカカシのほうを見る。
「オレの仲間は絶対に殺させやしなーいよ」
その言葉にサスケもサクラも少しだけ表情がよくなった。
そしてナルトもカカシの言葉にどこか優しく暖かいものを感じていた。
兄やイルカ、自来也と同じく自分に対して優しくしてくれる人物。
カカシの言葉はそんな彼等と同じだと思えた。
(!来る!!)
だがそんな思考も再不斬の気配が近くに現れたことで遮られた。
「それはどうかな・・・・・・・?」
不意に聞こえる声。
そして現れる再不斬。
「!!」
「!!」
「!!」
卍の陣の中に再不斬は現れた。それもタズナの目の前に・・・・・・・・・・・
「・・・・・終わりだ」
そう言い放ち、再不斬は一気に首切り包丁を振るおうとした。
「!」
カカシの左目が大きく見開かれた。
そして一瞬で移動するとクナイで再不斬の腹部を貫いた。
と同時に全員を弾き飛ばした。
そしてクナイで貫かれた部分からは血が出てきる。
だがその血は無色の水。人間の赤い血ではない。
(水分身の術!?だからチャクラが小さかったのか!?)
そしてナルトは新たに接近する気配を感じた。
それはいきなりカカシの後ろに現れ首切り包丁を振るおうとした。
「先生!!後ろ!!」
「!」
叫ぶナルト。
だがカカシは動かずそのまま再不斬の一撃を喰らう。
そしてその体は真っ二つになる。
「ギャ――ッ!!!」
サクラが悲鳴を上げる。
しかしカカシの体はその姿を水へと変えた。
(『水分身の術』!?・・・・・・・!!まさか・・・・この霧の中で・・・・・・『コピー』したってのか!?)
その一瞬の出来事にさすがの再不斬も驚きを隠せなかった。
そして音もなく再不斬の首元にクナイが向けられる。
「動くな・・・・・・・・・」
「!!!」
「終わりだ」
カカシが再不斬にクナイを向けいつでも殺せる準備をしていた。
さすがの再不斬も焦っているのか額には汗が見える。
その状況に安心したのかサスケとサクラの表情は明るい。
だがナルトだけは違う。まだ再不斬の気配を感じる。
(カカシ先生、まだ本体がいるってばよ!けどどこだってばよ!?早く探さないと!)
ナルトは五感を集中し再不斬を探す。
「・・・・・・クク」
不意に再不斬が笑い声を上げた。
「・・・・・ククク・・・・・終わりだと?」
「!」
「・・・・・・分かってねェーな。サルマネ如きじゃあ・・・・・・このオレ様は倒せない・・・・・絶対にな!」
「・・・・・・・・」
この絶対的に不利な状況でなおも強がる再不斬。
カカシの額にも汗が浮かぶ。
「クク・・・・・・・しかしやるじゃねェーか!あの時、既に『水分身の術』はコピーされたって訳か・・・・・・・」
『オレの仲間は絶対に殺させやしなーいよ』
「分身の方いかにもらしいセリフをしゃべらせる事で・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「オレの注意を完全にそっちに引き付け・・・・・・本体は『霧隠れ』で隠れて、オレの動きをうかがってたって寸法か・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「けどな・・・・・・・・・」
「カカシ先生後ろ!!!」
「!?」
再びナルトが叫ぶ。だが少し遅かった。
「オレもそう甘かぁねーんだよ」
カカシの背後に現れる三人目の再不斬。
そして今までカカシの目にいた再不斬は水になり崩れ落ちた。
「危ない!!」
再不斬は両手で首切り包丁の柄を握りカカシの胴をめがけて横なぎに力いっぱい振るう。
だがカカシは体を沈め、はいつくばる様な形でその攻撃を避ける。
首切り包丁が空を切り凄まじい音がする。
だが再不斬の攻撃は終わらなかった。
首切り包丁を地面へ突き立てその遠心力を利用。
また今まで柄を持っていた右腕を放し、左腕を柄の先端へ押し当てるとそのままカカシめがけて回し蹴りを放った。
「!!」
余りのスピードにさすがのカカシも完全に対処しきれず胸部に直撃を受けた。
そしてそのままかなり吹き飛ばされる。
(今だ)
再不斬はさらに追い討ちをかけるべく首切り包丁を握りカカシを追う。
「!!」
だがその歩みは急に止まる。
(まきびし・・・・・!)
再不斬の進行方向にばら撒かれた大量のまきびし。
「・・・・・・・くだらねェ」
だがそれは大した効果を発揮しなかった。
再不斬はそう呟くとその姿を消した。
またカカシは湖に落ちた。
いやこの場合一時湖に逃げ込んだといったほうがいいかもしれない。
「せんせーーー!!」
ナルトも思わず声を上げる。今まで自分以外の誰かが苦戦するところなど見たことがなかったナルトだ。カカシのことを本気で心配した。
(あのカカシ先生が…蹴飛ばされた!?)
(体術もハンパじゃねェ…!!)
サクラもサスケもあのカカシがやられていると言うことで激しく動揺していた。
「!(・・・・・・な、何だ?この水・・・・・やけに重いぞ・・・・・)」
カカシは水の中で態勢を整えようとするが思うように体が動かない。
「フン・・・・バカが!」
「!!」
いきなり背後の出現する再不斬。両手では高速で印を結んでいる。
『水遁 水牢の術!』
(・・・・・・しまったっ!!)
カカシの周りの水がカカシを中心に球形になる。
再不斬が作り出した水の牢獄。一度閉じ込められたら内部からの脱出はほぼ不可能。
(水中に一時逃げ込んだつもりが・・・・・・・・大失策だ!!)
カカシは自分の行動を激しく後悔した。だがすべては後の祭り。
今更言ってももう遅い。
「ククク・・・・・・ハマったな。脱出不可能の特別牢獄だ…お前に動かれると厄介なんでな」
カカシは何とか体を動かそうとするがまったく動けない。
「・・・・・さてと・・・・・カカシ、お前との決着は後回しだ。・・・・・まずは、アイツらを片付けさせて貰うぜ。水分身の術!!」
「!(くっ…ここまでの奴とは…!)」
ナルト達の眼の前の水面が盛り上がる。
水は再不斬のチャクラによって人型になった。
「ククッ・・・・偉そーに額あてまでして忍者気どりか・・・・だがな・・・・本当の『忍者』ってのは幾つのも死線をこえた者の事を言うんだよ。つまり・・・・・オレ様のビンゴ・ブックに載る程度になって・・・・・初めて忍者と呼べる・・・・・お前らみたいなのは忍者とは呼ばねェ・・・・」
再不斬が左手で印を構える。するとその姿がだんだんとぼやけてくる。
「また消えた!」
サスケやサクラにはその姿は見えなかった。
だがナルトには見えた。
自分の前方から迫り来る再不斬を。
再不斬は強烈な蹴りをナルトめがけて放つ。
(くっ!)
ナルトはその攻撃をガードするもののその衝撃で後ろに弾き飛ばされる。
またその衝撃で額あてが外れた。
そして再不斬は地面に落ちた額あてを踏みつける。
(ほう・・・・・・・・・ガードしたか。この三人の中では一番ましか・・・・・・・・・・)
再不斬は今の攻撃をガードできるとは思っても見なかった。
そのため一瞬で防御態勢をとったことに少なからず感心した。
だがそれでも雑魚であると再不斬は思っていたが。
「ナルトォ!!」
ナルトが吹っ飛ばされたのを見てサクラは思わず声を上げた。
「くく、その程度か?やはりただのガキだな」
「くっ!お前らァ!!タズナさんを連れて速く逃げるんだ!!オレを水牢に閉じ込めている限り、こいつはここから動けない!水分身も本体から、ある程度離れれば使えない筈だ!…とにかく、今は逃げろ!!」
自分でさえやられてしまった相手だ。この三人がどうあがこうが勝ち目はないとカカシは思ったのだ。
(逃げる?・・・・・・・・・・こんなところで・・・・・・・逃げてたまるか!!!)
ナルトは勢いよく飛び起きた。
そして自分の額あてを踏む再不斬を睨む。
「オレの額あて、汚い足で踏むんじゃないってばよ!!!」
ナルトはそのまま再不斬に向かって突っ込む。
「バ、バカ!よせ!!!」
ナルトが一人で突っ込むのを見てカカシが叫ぶ。
だがナルトは止まらない。
「あいつ・・・・・・・・」
「あ!ナルト何考えてんのよ!!」
サスケもサクラもナルトの無謀としか思えない行動に声を上げる。
「フン・・・・・・バカが」
再不斬はそのまま突っ込んでくるナルトを蹴り飛ばそうとする。
(このままやられてたまるかってばよ!こうなれば本気で・・・・・・!!)
ナルトは本気で再不斬と戦おうとした。
いかに五行封印されていようが今の自分でも水分身には負けない。
それにこのまま下忍を装い、殺されてしまったのでは元も子もない。
だからナルトは再不斬と正面から戦おうとした。
だが・・・・・・・・・・・
ドクン!
「!?」
ナルトの中で何かが脈打った。
「くたばれ小僧!!」
(くっ!せめて額あてだけでも!!)
一瞬の隙ができてしまった。またそれを逃さない再不斬ではない。
再び吹き飛ばされるナルト。
「一人で突っ込んで何考えてんのよ!いくらいきがったって…下忍の私達に勝ち目なんてあるわけ……」
だがサクラの言葉はナルトの手に掴まれた額あてを見て止まった。
(え?・・・・・額あてを・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・)
あの一瞬でナルトは額あてだけでも取り戻した。
「・・・・・・・・・・・」
ナルトは額あてを持つ手とは逆の手で自分の胸を押さえた。
一瞬だけだったが何かが脈打った。
そしてその直後ナルトの頭にある作戦が思い浮かんだ。
それは本来の実力を隠したまま取れる作戦。
だがそれはまるで誰かが自分に教えてくれるような・・・・・・・・そんな奇妙な感じだった。
さらに先ほどの鼓動。自分の中で何かが起ころうとしている。
だが今はそのことを深く考えている時間はない。
目の前の強敵を何とかしなければ。
「おい・・・・・・・・そこのマユ無し」
その言葉に再不斬の額に青筋が浮かぶ。
「お前の新しいビンゴ・ブックに新しく載せとけ!いずれ木ノ葉の火影を超す男、うずまきナルトってな!!」
ナルトは額あてをギュッと巻きなおした。
その表情はいつものナルトとは違う。とても頼もしい表情だった。
(・・・・・・ナルト)
「・・・・・・・・」
(ほほ・・・・・・このチビ・・・・・最初見た時は超便りなかったのに・・・・・・・・)
そのナルトの姿に再不斬は無言で睨みつける。
またカカシとタズナは今のナルトから大きな存在感を感じた。
「サスケ!ちょっと耳貸せ・・・・・・」
「何だ」
「作戦がある」
「(この状況で作戦だってか……コイツ)フン…あのお前がチームワークかよ…」
(何…何なのこの気持ち…ナルトってこんなに…)
サスケもサクラもいつものナルトと違う雰囲気に戸惑いを隠せないが、二人もナルトの存在が大きく見えていた。
「さーて、暴れるぜ!」
ドクン・・・・・・・・・・
「もうすぐか・・・・・・・・・・・・・」
どこかで何かが呟く。
巨大な何か・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・消滅か、それとも・・・・・・・・・・」
その巨大な何かは己の体を見る。
その姿は半分透明だった。
「ワシが消えるか、それとも・・・・・・時は近い・・・・・・・・そしてすべてはお前次第だ・・・・・・・・うずまきナルト」
運命の輪は動き出す。それは多くの人を巻き込む大きな流れ。
それが今・・・・・・・・・・・・動き始めた。