城と村から大分離れた森の中ほどにあるそれなりの広さの広場に四つの人影があった。
若い頃のカオスとマリア、マリア姫に見送られながら横島が周囲に置いた五つの文珠に『時・間・移・動・戻』と込める。
「なんつうか、世話になったなカオス」
「ああ、小僧が此処に取り残されて,以来なかなかに楽しめたぞ」
カオスが苦笑しつつ答えてくる。
「しっかし最後まで小僧か、…なんちゅうか霊能者として俺も結構成長したけどカオスにしてみりゃ小僧なんだよな」
横島ががくりとうなだれる。
「まあ良いだろう、……しかし横島ここまで来て言うのもなんだが本当に元の時代に帰るのか?」
「ああ、下手にこっちに残ると多分魔女狩りの全盛期辺りにカオスの足手まといになりそうだしな」
まあそこまで生きる事ができるかわからんが、と付け加える。
「まあ興味深い観察対象がいなくなるのは痛手だが、まあ仕方あるまいな。私にお前を止める権利はないからな」
「じゃあな」
周囲の文珠が一斉に輝きそれに包まれた横島が消えていく。後には何も残らず
「さて、私たちも戻るとするか」
そう言いカオスは自分の研究所に足を向けた。
「させるか----ッ!!」
魔族としての姿を現した蛸のヌルが大量に放った魔力の氷柱に横島が貫かれ、それに冷静さを失った美神が神通棍を手に突撃を仕掛けるも雷の足から放たれた電撃を受けてその姿を消した。
「ふむ、後はあなたたちだけですね」
ヌルがマリアの能力を知った上でそう言う。
「くっ、マリア足止めを頼む」
カオスがそう言い横島の遺体の側から離れ地獄炉に向かう。
「させん!」
そう言いながら、ヌルが足を振り上げた瞬間にヌルの背後で光があふれてヌルの注意を一瞬逸らさせる。
「つう、ここってどこだ?」
時間移動してきた横島があたりを見回すとヌルが視界に入りついでカオスたちも目に入る。
「な!、きさま!?」
ヌルが背後に現れた横島と死体同然の横島を見比べる。
「まあタイミング的には良かったんかな?」
ヌルの足元に《縛》と込めた文珠を転がして発動を確認すると横をすり抜けついでに、研ぎ澄ました霊波刀をポケットから取り出した《強》の字を込めた文珠で補強して頭頂部を切り飛ばす。
「こっちが先かな?」
倒れた横島に後から現れた横島が駆け寄ると、ヌルに背中を見せて《蘇・生・復・活》と四つに念を込めて発動させる。
「な!」
カオス達が驚く間に傷が消え呼吸が再開された様で死んでいた横島の胸が規則正しく上下する。
「まあ、次はあっちだな」
横島が目を向けると、ヌルが地獄炉から供給される魔力を使い無理やり呪縛を解いたらしく、問答無用で三つの足を向けてくる。
「死ね!」
足が振り下ろされる前に《速》の文字で既に移動していた横島が加速を乗せた霊波刀で三本の足を切り離しついでに再生が済みきっていない傷口に手を突っ込んで中に《洗・脳》の二つの文珠を叩き込む。
「ヌル、お前は地上に出て行きたくもないのに無理やりつれて来られた魔族だ。そして今お前は自分が帰るために必要なものを手に入れた、さあ今なら心置きなく魔界に帰れるぞ?」
効果を及ぼしたのかヌルの線目がやや虚ろになる。
ヌルがもぞもぞと動き出し、地獄炉に向かう。
それを止めようと動こうとしたゲソバルスキーをまだ《速》の効果時間内だった横島が叩き切る。
「さあ、俺の事なんぞ忘れて帰ろうな」
文珠に《扉》と込めた物を押し当て出てくる悪霊っぽいものに引きずられないように注意しつつ扉を開くと。
横島の最後の一言で地獄炉にヌルが飛び込み続く様に三体のゲソバルスキーの体を地獄炉に横島が放り込み扉を閉める。
「ふう、……上手く行ったか。ああ寿命が縮む」
既に常時身に着けている文珠を使い果たし、これが失敗すれば魔法を掻い潜って接近戦を挑む必要があったために緊張が解けた横島の額に汗がにじむ。
「カオスたちは無事か?」
一応横島が目を向けると全員五体満足だった様でそれぞれ起き上がる。
「取り合えず終わりやな」
「小僧貴様一体?」
不審げなカオスの表情に事情説明の必要を感じさせられる。マリアがいつでも動ける様に構えて見ている。
「ん、ああここからちょっと未来の話かな?。大体三年以内だけど俺は今ここで助かった横島忠夫の可能性の一つでね、まあ時間移動できる能力持って現代に戻る途中なんだが。そいつが起きてなおかつ現代に帰るために努力するつもりがあるんなら、これを渡しておいてくれないか?」
横島が背負っていた袋から擦り切れた本と真新しくはないが似た装丁の普通の本を取り出す。
「もしここに骨を埋める気なら、この日記焼き捨てるのもありだしな」
「時間移動のときに小僧が自分で連れて行けば良いのではないのか?」
そう言って来るのだが、根本的に横島が自分の時間移動に誰かを連れて行く場合《同・行》の二文字を追加する必要がある。
「まあ、時間移動自体危険だし次も上手く行くとは限らないからなー」
それに今六文字が制御の限界だし、と付け加える。
「まあともかく、突然なんだが過去の俺を頼んで良いか?、多分見放されたら、餓死するか野生化するだろうし」
カオスが考える素振りを見せるので、カオス自身に頼み込んで書いてもらった手紙を横島が袋から取り出し渡す。帰る事に渋っていたわりにその辺妙に面倒見が良かったりする。
「そう言うわけなんで、こき使って構わんから」
そう言うと、横島は袋から文珠を取り出し今度は地面に六つ並べる。
「ああ、じゃあな次こそ現代に飛べるといいなあ」
展開について行けていないマリア姫を放っておいて、六つに《時・間・移・動・現・代》と込め横島は強くマリアに触れて飛ばされる前の事務所周辺を強く思い浮かべる。
「今度こそ、たどり着く。俺はここで終わるわけにはいかん!」
光に包まれ横島が姿を消すと、まるで入れ違いのように寝ていた横島が目を覚ます。
「まあ、小僧も言っておったしせいぜいこき使ってやるか」
カオスがそう言うと地獄炉を止めるための解析を再開した。