───ただ僕は、親しきヒト達の為に───
■ ■ ■ ■ ■ 第零話 プロローグ ■ ■ ■ ■ ■
ありがとう。ごめんなさい。
結局最後までただの厄介者だった自分に嫌気が刺す。自己嫌悪と言ってもいいくらいに。
散々迷惑を掛けた上で何も返せず終わってしまった事に悔いが残る。
もう少し早く、せめて声が出せる時に伝えたかった。
でもそれには間に合わなくて、最後の力を振り絞って出来た事は力無く笑う事だけだった。
それが本当に表現できたのかは判らないけど、きっと伝わったと思う。・・・そう思いたい。
暗い表情しか浮かべなかった父さんと母さんの顔が少しだけ、
ほんの少しだけ笑ってくれた気がしたから。
そう言えば兄ちゃんはずっと泣くのを我慢してたみたいだけど最後の最後に大泣きしてたなぁ。
そう、この日僕は死んだ。
春間近の季節に四月に迎えるはずの誕生日を越えることなく13歳で一生を終えた。
同じ病気で入院したきりの人に比べればかなり軽度ではあったものの、
原発性免疫不全症候群の体は、他の人、例えばクラスメイトとかに比べるとあまりに弱かった。
常時入院している必要がある程ではないとは言え、、
それでも数ヶ月に一月くらいのペースで入院生活を送ることもあった。
自然と室内に居ることが多くなり、読書、インターネット、
たまに兄ちゃんが持ってきてくれる携帯ゲームとかが僕に出来る趣味や遊びだった。
読書って言っても推理小説とか動物図鑑。
これまた兄ちゃんが持ってきた漫画や文庫本とか、
読んでて、見てて楽しいと思える物しか読まなかったけどね。
本の虫って訳でもないし。好きだけど。
・・・まぁ死んじゃったんだし、趣味どころかもう何も出来ないけどね、僕。
冗談抜きで風邪引いただけなのにあっという間に肺炎にまで悪化したからね・・・。
・・・凄く、苦しかったなぁ・・・・・・。
・・・でも死んだ後ってどうなるんだろう。もう何も見えないし体も動かないけど、
こんな風に死んだ後も、独りであれこれと考えられるモノなんだろうか?
暑くも寒くも無いし、寝てるのか立ってるのか座ってるのか、
どっちが上か下かすらわからないので正直ちょっと怖い。
幽霊? 残留思念? よく漫画とかで出てくるような物になるのか。
それともこんな事を考えて居られるのも最後の残り火みたいなもので、
これから何も判らなくなって行くのか。
ただの無? 輪廻転生? まさか本当に幽霊とかになってさまよい続けるんだろうか。
でも死後の事なんて死んだ人しか判らない(?)し、
もしかしたらこの真っ暗闇のままずっとこのままだったりするのかな。
・・・・・・それは嫌だ。ずっと一人でこんな暗い所に居るのはきっと耐えられない。
せめて遠くに見えるあの小さな灯りみたいな所に行かせてほしい。
──────灯り?
改めて意識するとそれは確かに灯りだった・・・。
いや、僕が気付いてからというもの、
僕が近付いているのか光が強くなっているのかは判らない・・・けど、
灯りが光に、光が閃光に。まるでその光自体が成長する生き物みたいだ・・・。
最初は本当に小さかったけど、どんどん大きな光になっていく。
正直言うと・・・ちょっと怖い。なんだかよく判らないからこそ怖い、逃げたい。
でも何故か暖かい、近寄りたい。
けど怖い、遠ざかりたい。
けど暖かい、擦り寄りたい・・・。
そんなどっちと決められない状況に迷っている時。 ふと、こう思った。
・・・・・・あぁ、良く考えてみれば、この真っ暗闇に一人ぼっちで居る位なら、
あの暖かい光に溶けてしまった方がいいのかもしれないなぁ、と。
そう思った瞬間。
『僕』は光になった。
「──!──────!」
「─!──!─────!」
それは運命の悪戯か、はたまたこれこそが運命だったのか。
・・・・・・これが彼の新しい物語の始まりとなる。
「おめでとうございます、ミセス。 男の子と女の子、双子の元気なお子さんですよ?」
この日、この夜、其処に在るのは小さな奇跡・・・。
「なんて可愛いらしい子供達でしょう・・・。
あぁ・・・始祖ブリミルよ、・・・感謝致します。」
ハルケギニアの大地に、双子の兄妹が生まれた。
■ ■ ■ ■ ■ 第零話 プロローグ -了- ■ ■ ■ ■ ■
※各話のあとがきはあとがきページに加筆していきます。