「っぐわ!…くそ!…また暴れだしやがった…」
「が…あ…離れろレイたん!…死にたくなかったら早く俺から離れろ!!」
「っは…し、静まれ…俺の腕よ…怒りを静めろ!!」
実験前の休憩室、一しきり騒いだ所で、無表情に僕を眺めていたレイたんは口を開く。
「…何してるの?」
「え?邪気眼ごっこ」
暫しの沈黙の後、レイたんは少しだけ腰を浮かせ、僕から少し離れた場所に座り直すと、困った表情で言った。
「…ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいかわからないの。」
「無視すれば…いいと思うよ」
第二話 SWITCH!あの子のハートを打ち砕け!その3
「シンジ君、今エヴァと話せる?」
バンゲリの実験中に、突然ミサトさんがこんな事を言い出した。
「話せますよ?てかさっきからずっと話してます」
「…一応聞くけど、何の話してるの?」
「ラサラとサラサの見分け方の話してたよー」
「あ、そ…」
ミサトさんはこめかみをぐりぐりやりながら、溜息をついている。
何か疲れてるみたいだね、どうしたんだろ?
僕に出来る事なら相談に乗るからいつでもどうぞ!
そんな事を考えてたら、リツコさんが拍子抜けした様な顔でミサトさんに言った。
「あら?つっこまないの?」
「あたしはツッコミ担当じゃない!」
「どうどう」
そう言ってミサトさんを宥めるリツコさん。
実は今僕達、ジオフロントの端の方、草しか生えてないような場所にいる。
何でこんな所に居るのかと言うと、テストプラグが動かなかったからだ。
バンゲリのテストって、テストプラグとかいうのでやるらしいんだけど、それがちっとも動かなかった。
リツコさんは僕がシンクロ出来なくなったって焦ってエレクトラ本体に乗せなおしてみたんだけど、不思議な事にこっちだと動く。
何度か試したけど、どうやら僕はテストプラグじゃシンクロ出来ないみたいだ。
リツコさんが言うには、おそらく僕が中の人とコンタクト出来ていることが原因との事。
詳しくは分からないみたいだ、まあ前例がないだろうしね。
…そういえば母さんを出す件ってどうなったんだろうね?
まぁ、いいや。
そんな訳で、エレクトラに実際に乗らないと実験が出来ない僕は、こうしてジオフロントの端まできて実験をしているわけだ。
リツコさんは一回の実験費用が多くなる事を嘆いていたけれど、割愛。
そんな感じで色々と言われた通りに実験していたら、ミサトさんのこの一言だ。
「はぁ…シンジ君?ちょっとエヴァに聞いてほしい事があるんだけど」
「なになに?」
「ATフィールドを展開する方法について聞いてほしいんだけど…」
そういえば僕以外にも二人パイロットがいるらしいんだけど、起動できなかったりATフィールド張れなかったりで、実戦には使えないレベルらしい。
…あれ?
もしかして僕ってエース?
同じエースでもZにならないようにしよっと。
前にもミサトさんにATフィールドをどうやって張っているのかって聞かれたんだけど、僕ってどぅわっ!って勢いで張っちゃってるから方法なんて聞かれても分からないんだよね。
そっか、僕が分からないならエレクトラに聞けばいいのか。
僕がちょっと感心していたら、リツコさんもそんな表情でミサトさんを見て口を開く。
「なるほど、珍しく頭を使ったわね…本当に珍しいわ」
「うるさいわね…」
あ、苦虫を噛み潰した顔ってこういうのを言うのかな。
ミサトさんを見て僕は何となくそう思った。
「じゃあ聞いてみるねー」
そしてエレクトラに聞いてみる僕。
よく勘違いされるんだけど、僕は正確にはエレクトラと会話してるわけじゃない。
僕が思っている事をエレクトラに伝えようとすると、それに対するエレクトラの返事が何となく分かる。
そう、自分でも何で分かるのか分からないのだ。
例えるなら「アムロ!…何?アムロだと!?」って感じ。
僕がどうやって張るの?ってさーという感じで伝えると、数秒の沈黙の後エレクトラから返事が帰ってきた。
ほへー。
「…えっとね」
「どうだった!?」
ミサトさんが物凄い表情で食いついて来る。
ATフィールドってそんなに重要なのかな…
「話を要約しますと」
「ググれカス、だそうです」
「ちょっと表出なさい、ぶっこr「ミサト、どうどう」
「まあ冗談は置いといてだね」
バンゲリに乗っていなかったら死んでいた。
そう感じる程のミサトさんの暴れっぷりだった。
「このクソガキ…」
ミサトさんは今も狂犬のような目でこっちを見ている。
今のミサトさんに真実を告げるのはきつい…
でもそんな事言ってたって仕方ないので、僕は観念して口を開いた。
「なんか知らないみたいです」
「はぁ?自分が出してるんだから分かるでしょ?」
だよねーそう思うよね。
「お前は今までに食べたパンの枚数を…じゃない、呼吸のやり方を教えろと聞かれて説明できるのか?みたいな事を…」
エレクトラにとっては、ATフィールドを張るなんて事は出来て当たり前の事で、一々細かく考えたりはしない、僕らからしたら「足を動かすには、まず大腿筋を~」ってなものみたいだ。
リツコさんやマヤさんは僕の言葉を聞いて納得していたみたいだけど、ミサトさんは理解できなかったみたいだ。
眉を顰めて言い返してきた。
「そんなの息を吸って吐いてで終わりじゃないの」
とりあえずミサトさんの言い分をエレクトラに伝えてみる。
するとこんな返事がきた。
「ATフィールドを出して消してで終わりじゃないの、だそうです」
「ぐっ…」
完封である。
ミサトさんが悔しそうに歯を食いしばっていると、その肩をリツコさんがそっと叩いた。
「ミサト…」
泣きながら。
「な!なんで泣いてんのよ!?」
リツコさんは溢れる涙をハンカチで拭いながら、ミサトさんの頭をよしよしと撫でる。
「エヴァにまで論破されるなんて…親友として…悲しい…」
「うるさーい!」
気が付けばマヤさんや他のスタッフも涙ぐんでいた。
…何だこいつら。
そんな感じで実験を進めていたら、僕はふとある事に気付いた。
「ねね、リツコさん」
モニターを見つめていたリツコさんは、そこから目を離さずに僕に返事をした。
「どうしたの?」
「思うんですけどね、きっとATフィールドってシステム的な問題じゃないと思うんですよね」
リツコさんはATフィールドをどうにかして制御出来ないかって試行錯誤してるみたいなんだけど、僕はそれって根本から間違ってると思う。
何ていうか、心臓の鼓動をコントロールするのとかはペースメーカーがあるけれど、正常な人には使う必要がないでしょ?
自分でも何言ってるのか分かんないな。
「と言うと?」
「エレクトラの話聞いてて思ったんですけど、使っている本人にも詳しい説明が出来ないって事は、極論さっきの呼吸の例えもあながち間違いじゃ無いんじゃないかって思うんです。」
リツコさんはモニターから目を離し、虚空を見つめると、暫し思考にふけるような仕草をして口を開く。
「本能的…違うわね、感覚的に起きる現象だって言いたいの?」
「そうそう、だって息をする時に、今日は横隔膜を今までの1.5倍収縮させて~とか考える人いないでしょ?いや、いるかもしれないけど」
やっぱりリツコさんって頭いいんだね。
僕が説明に困ってる事理解して言葉にしちゃうんだもん。
「でもそれはエレクトラにとっての感覚的現象でしょう?私たち人間はエヴァとシンクロ出来たとしてもその感覚にはリンク出来ない、しかもそれが他のエヴァにも適用されるかしら?」
「んとね、そこでシンクロ率が関係するんじゃないかなーって思うんだけど…」
「その発想はなかったわ…そうよね、考えてみれば当然よね、ソフトに拘り過ぎたわ」
結局この会話って考察を述べてるだけで、本題にはまだまだ遠いんだけど、僕はまだその本題を何て説明すればいいのか分からない。
でも途中経過で挫折しちゃった人もいるみたいだ。
突然ミサトさんが右手を挙げたかと思うと、引き攣った顔でこう言った。
「えっと…ごめーん、全然話に着いていけないんだけど」
暫く黙ってそれを見つめていたリツコさんだったが、徐にポケットに手を入れると、挙げられたミサトさんの手を掴み、その掌に何かを載せた。
「はい、あげる」
「…何これ?」
ミサトさんが掌の物を引き攣った顔を更に引き攣らせて摘み上げる。
対してリツコさんは爽やかな笑みを浮かべて言った。
「飴よ、イチゴ味、それあげるからいい子にして待っててね?」
「あたしゃ子供か!」
すっかり拗ねてしまったミサトさんをマヤさんが慰めていた。
何だこれ?萌え?…無いな。
改めてリツコさんはこちらに向き直る。
「話を戻しましょう、それで?」
あ、切り替え早いですね。
思ったんだけど、大学時代からの友達ってミサトさんは言ってたんだけど、この二人って本当に友達なんだろうか…
と言うより、友達って思ってるのはもしかしてミサトさんだけなんj(ry
話を戻そう。
「例え乗っている人間に無理だとしても、そこにはATフィールドを発生させる事ができるエヴァという存在との、最大400%のシンクロがある訳じゃないですかー人間は時速100kmで走る事は出来ないけど、車に乗れば出来る、運転が上手ければどんな道でも出来るかも」
「シンクロ率が上がれば人間とエヴァの感覚の差異は解消されるって言いたいの?」
「それそれ!」
リツコさんSUGEEEEEEEEEEEEEEE!
僕だって途中何が言いたいのか分からないのに!
「ふむ…」
また考え込むリツコさん。
頑張れリツコさん!ATフィールドの発生方法も僕が何を言いたいか僕が理解するのも!全部リツコさんの頭脳に掛かっている!
三三七拍子で応援していたら、LCLの酸素濃度を下げられた。
死ぬかと思った。
そんなやり取りをしている中で、拗ね切っているミサトさんがマヤさんに尋ねる。
「何でリツコはシンジ君が言ってる事分かるのかしら…マヤちゃん、分かる?」
「え?はい、7割くらいは」
「そう…」
その答えに絶望したのか、ミサトさんはそっと飴の包みを解き、それを口に放り込んだ。
そして呟く。
「…リンゴじゃん」
ミサトさんの目に光る物は、涙だったのかもしれない。
やがてリツコさんも考えが纏ったのか、頭をかきながらこちらを見る。
「続けて」
「いや、だからですね、ほんと、感覚的なものなんじゃないかなーって思うんですよ、怒ってる時に勝手に手が出るみたいな」
「攻撃本能、防衛本能が切っ掛けで発生出来るって事かしら?」
「ですです、だってこの前のエヴァスラッシュだって、出したのはエレクトラですけど、僕の中はあの時攻撃本能一色だったと思うんですよね、やぁってやるぜっ!って断空的な」
そう言えば某○ボット大戦であのパイロット全員超強気だったよね、あ、どうでもいいですか、はい。
「言いたい事は分かるけど…」
そうなんだよね。
僕が言ってる事って、結局なんていうか、根性論に近いんだよね。
するとリツコさんがふと思いついたように僕に尋ねた。
「ところで、何でそんな事思いついたのかしら?」
「えーだってエヴァと使徒って似たようなものじゃないですか」
僕のこの返事で、リツコさんの表情が一瞬強張る。
「…どうしてそう思うの?」
あれ?僕なんか拙い事言った?
「僕が乗ってる事と電池切れで動かなくなる事抜かせばほとんど一緒な気がするんですけど、似てないかなぁ?」
暫くリツコさんは無言で僕を見つめていたけど、やがて溜息をつくと視線を外した。
何か呆れられた気がする…気のせい?
「…まあいいわ、物は試しね、シンジ君、今から…そうね、防衛本能全開でGOよ!」
「ガデッサー!」
GO!ATフィールドGO!
心を集中させろ!
要は気持ちの問題だ!防ぐという気持ちが切欠でATフィールドは出現するはず!
そこで諦めるな!絶対に頑張れ!積極的に!ポジティブに頑張れ!頑張れ!NERVだって頑張ってるんだから!
防衛本能うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「…むりぽ」
いきなり防衛本能全開にしろとか言われても無理です。
「ですよねー」
リツコさんも大して期待してなかったみたいだ。
方法に問題があると思います。
「うーん」
リツコさんはまた頭をかきながら周囲を見渡した。
すると、視線の先に体育座りで飴玉を舐めているミサトさんがとまる。
「ミサト」
突然呼ばれたミサトさんは胡散臭そうな目でこちらを見て口を開く。
「にゅ?にゃに?」
「こんな時に飴なんて舐めてるんじゃないわよ!」
「え…あ、はい」
凄く…理不尽です…
多分誰もがそう思っただろうけど、それを口に出さないのは大人の証拠。
リツコさんは半ば悟りを開きかけているような表情のミサトさんをエヴァの正面まで呼ぶと尋ねた。
「銃持ってるでしょ?」
「持ってるけど?」
そう言ってミサトさんは銃を取り出す。
…え、そんな普通に持ってて良いものなの?
そして次にリツコさんが言った一言で僕は凍りついた。
「シンジ君に向かって撃ってちょうだい」
「いいけど…いいの?」
「よくないよっ!」
「いいわよ、まぁハンドガン程度じゃ傷一つ付かないし、物は試しだわ、ダメモトよダメモト」
僕の意見は無視ですね、分かります。
まあエレクトラに乗ってるんだから僕に怪我なんてまず出来ないんだけど。
それでも銃向けられるとか嫌なんですけど…
ミサトさんは何で僕に銃を向けなきゃいけないのかさっぱり分からなかったらしく、リツコさんに声を掛ける。
「説明うp!」
「あー簡単に言うとね…」
「そうそう、簡単にお願い」
「ATフィールドって気合で何とかなんじゃね?っていう」
何故かサムズアップのリツコさん。
「すっごい分かり易い」
そしてサムズアップを返すミサトさん。
あぁ、貴女達大親友なんですね。
今分かりました。
ミサトさんは銃のセーフティーを外すと、何故か天使のような微笑で僕に言った。
「じゃあ行くわよー?」
そう言って銃口がこちらに向けられる。
やだなぁ…と思っていたら、モニターが勝手に銃口を拡大し始めた。
ちょ、何で?僕いじってないよ?
モニターいっぱいに映る銃口。
ぎゃああああああああああああああああああああああ!当たらないって分かってても怖い!
サブモニターにはリツコさんが端末を弄っている所が表示されていた。
お ま え か !
それでもこの話の言いだしっぺは僕だ。
覚悟を決めねばなるまい。
そして僕が「どうぞ」と言おうとした時だった。
僕はミサトさんの目が獲物に襲い掛かる虎の目になるのを見た。
「クソガキがぁあああああああ!!!!!!!!」
ドゥーン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!
響き渡る銃声。
「いやああああああああああああああああああ!」
響き渡る僕の声。
舞い上がる土煙。
そして土煙が晴れた時、そこにあったのは清清しい笑みで銃を構えるミサトさんと、僕がびっくりし過ぎた所為でぶっ倒れたバンゲリだった。
ミサトさんに向かって僕は叫ぶ。
「いきなりかよ!」
せめてカウントダウンとかくれ!
「ごみんごみん、何か体が勝手に連射しちゃった、ウフフ…」
ウフフって…
これからはあまりミサトさんをからかわないようにしよう…
「つ、次は気をつけてね!」
ここで怒れない僕はきっと長生きすると思う。
そして改めてミサトさんが銃を構える。
さっきので気が済んだのか、今はいつも通りの表情だ。
「カウントお願いしますー」
僕の声でミサトさんがカウントを取り始める。
「んじゃ、5」
拡大されるモニター。
「4」
さっきの件があった所為か、妙に銃が怖い。
「3」
そしてその時。
「2」
うっすらと。
「1」
視界がぼやけたように見えた。
「ゼ「こっち来んな!!!!!!!!!!!!!」
SIDE-冬月
ジオフロント。
その端。
草も生えずに荒れていた場所だったが、今は以前よりも荒れていた。
軽くクレーターのようなものまで出来ている。
その光景をジープから眺めながら私は呟いた。
「それでこの有様かね?」
「はい」
私の問いに答えたのは赤木博士だ。
その頭には氷嚢が置かれている。
簡単に言うとこうだ。
碇の息子がATフィールドを発生させた。
素晴らしい。
発生方法が分からず、実戦でしか確認できなかったATフィールドを発生させたのだ。
実に素晴らしい。
しかし。
そのATフィールドで辺りは吹き飛んだ。
今も辺りには使用した機材の残骸などが転がっている。
碇の息子が来てから妙に金が掛かる気がする…
何だか胃が痛くなってきた。
まあ怪我人がいなかったのだから良いとしよう。
「まったく…ギャグ調でなかったら死者が出ていたぞ…」
「はい?」
「何でもないよ」
彼らは親子揃って自分を困らせる。
これでもしユイ君のサルベージが成功するような事があったら…
何となくそう考えたが、怖くなってやめた。
ジオフロントに吹く風は、老人には優しくない。
あとがき
リアルの都合でうpが遅れました。
後、この話の設定ではアスカはATフィールドをまだ展開できていません。
他に あれ?ここ違うくね? という所があったら。
そういう設定なんだな と誤魔化して下さい。
*誤字訂正
*見てて恥ずかしくなるような文があったので訂正(*'ω'*)
*何度も訂正が入るのは仕様です(最初から確認しとk