SIDE-シンジ
完成披露記念会の会場へと到着してすぐ、ミサトさんはちょっとキョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、人の流れに逆らってどこかへ行こうとしたので声を掛けた。
「どこいくのー?」
するとミサトさんは、可愛くウインクをして手をひらひらさせながら言う。
「メイク直し」
ああ。
トイレね!
分かっててもジェントルな僕は言わない。
さすがに言いません。
でもとりあえず言っておく。
「心をリメイクした方がいいんじゃないかな!」
すると、ミサトさんはニコッと笑ってこう言った。
「人生リテイクさせてあげましょうか?」
「誠に申し訳ございませんでした」
怖いわー大人怖いわー…
エヴァ、乗ってみました
第四話 人の造りしうんたらかんたら その5
いざ会場へと到着し辺りを見渡すと、数多く設置されたテーブルの上にプレートが置かれ、招待された団体ごとに席が指定されているようだった。
案内に従い進むと、やがてNERV様御一行と書かれたプレートが見えてくる。
その机の上を見てみると。
何もなかった。
他のテーブルの上には数々の食事が用意されているのに対して、僕たちのテーブルの上にだけ何も用意されていない。
どういう事なんだろうと思ってリツコさんの顔を見ると、天井を仰ぎ見るようにして深いため息をついていた。
ミサトさんが苦笑いを浮かべながら呟く。
「なんつうあからさまな…」
え?何?NERVって嫌われてるの?
仕方ないといった様子で席に着こうとするリツコさんだったが、他の席を見ると今までの人生で見た事もないような豪華な料理が用意されている。
…………。
僕はそっと机の上からNERVのプレートを持ち上げると、それを隣の席に置いてあったプレートと入れ替えた。
「ちょっと…シンジ君」
リツコさんがちょっと焦って制止するけど、そんなの気にしない。
ここで引いたらこの料理が食べられなくなるかもしれないんだぞ!
交換したプレートに内閣うんたらって書いてあった気がするけど気にしない。
その様子を見てニヤニヤしていたミサトさんが、徐に呟く。
「あら、こっちの席だったみたいね」
うんうん、僕ミサトさんのこういうとこ大好きさ。
「貴方達…」
頭を抱えていたリツコさんだったけど、暫くテーブルの上の料理を見つめて、誘惑に負けたのかそっと席に着いた。
人間は三大欲求には勝てないように出来ているのさ…
そして、いざ料理に手を付けようとしたところでミサトさんが声を上げる、
「こ、これは!」
不思議に思ってミサトさんをみると、テーブル上の一皿指差して顔を蒼白にしていた。
その視線の先に目を向けると、そこには見た事もない料理が乗った皿がある。
そんなに珍しい料理なのかな。
リツコさんもリツコさんで、その料理を見てちょっと前のめりになっている。
ミサトさんがその皿を指さして言葉を震えさせる。
「ふぉっふぉっふぉふぉ!」
「あ、すげー、バルタン星人の物真似だよね?ここまで似てないの初めて見た」
よく分かっていなかった僕だったが、ミサトさんの次の言葉を聞いてMMR並に驚愕した。
「フォアグラ!?」
「ナンダッテー!?」
フォ、フォアグラァ!?
セカンドインパクト前では高級食材、インパクト後は幻の食材とも言われるあの伝説がここにあるというのか!?この世界観における価値の説明文乙!
そんな感じで大はしゃぎして料理に手を付ける僕達を眺めながら、リツコさんが遠い目をしてこう呟いた。
「別の席行きたい…」
一応言っておくと、最終的に一番料理を食べたのはリツコさんだ。
その後、ジェットアローン、通称JAの開発責任者だとかいうおっちゃんが現れて説明が始まったのだが…
いや、何て言うかね。
酷かった。
こいつはスーパーロボットってぇ物が何なのか全く分かっていない!
イライラして説明を聞いていたら、僕を連れてきた当の本人であるリツコさんは時折ニヤニヤと笑みを浮かべながらイラつく僕を眺めており、説明なんて殆ど聞いていないようだった。
そしてその手は淀みないスピードで料理を口へと運び続けている。
ミサトさんはというと、全然興味がない様子で机の上に置いたパンフレットを眺めて…
違う。
まるで授業中の高校生みたいな感じで机の下で携帯をいじっていた。
時折凄く嫌そうな表情を浮かべているけれど、誰かとメールでもしているんだろうか。
ふと思ったけどNERV態度わっる!
途中で僕も聞くのが嫌になってレイたんとメールでもしようと思ったんだけど、よく考えたらレイたんは今零号機の機動実験中なのだ。
うわあああああああああああああああ!結果が気になってさらにイライラする!
とりあえずレイたんに終わったら結果を教えてとメールしておいた。
レイたん成功するといいなあ。
それはさておき、こんな感じで僕一人がストレスマッハな状態で時間は過ぎていったのだけど、やがて説明の時間が終わると、責任者のおっちゃんが質問はないかと辺りを見渡し始めた。
そして視線をある一点で止めると、見下すような色を浮かべてこう言ったのだ。
「質問はありませんか?例えばNERVよりお越しの、高名な赤木リツコ博士」
…あぁん?
何だこいつ。
すっごいムカつくんだけど。
当のリツコさんは面倒臭そうな顔でフォークとナイフを下ろすと…ってまだ食ってたんですか。
リツコさんは数秒何か考えていたようだったが、ふと僕の方を見て。
一瞬、凄く意地の悪そうな笑みを浮かべてこう言った。
「いいえ、私からの質問はありませんわ」
そして、口を開こうとしたおっちゃんを遮るようにして、続けてこう告げる。
「ただ、彼がどうしても聞きたい事があるらしいのでよろしいでしょうか?」
…ん?
辺りがざわざわとざわめき出す。
なんぞ?
何でみんな騒いでるんだろう?そう思ってさっきのリツコさんの言葉を思い出す。
え?
ふとリツコさんの方を見ると、満面の笑みで指したその指先が僕へと突きつけられていた。
え…えぇ…?
おっちゃんも戸惑った顔でリツコさんに尋ねる。
「構いませんが…その子ですか?」
「ええ、彼ですわ」
赤木リツコ博士に指名されるなんて、あの子供は何者だとさらに辺りがざわつき始めた所で、ミサトさんが顔を寄せて小声で呟く。
「ちょっとリツコ!何考えてるの!?」
「あら、聞きたい事あるわよね?シンジ君」
その表情を見て、僕はふと気づいてしまった。
いや、よく知らないんだけど、多分リツコさんとあのおっちゃんは元々犬猿の仲なのではないだろうか?
表情は笑みで固まってるけど、リツコさんの顔は見方によっては般若にも見える。
ミサトさんも何かを察したのか、「ま、まあいいけど」と呟いて引いてしまった。
そしてリツコさんが小声で僕に言う。
「シンジ君」
「ハ、ハヒ!」
「どんな事聞いてもいいのよ?…どんな事でもね、今日は許すわ」
こえー…大人こえー…。
まあいいんだけどね…。
完全アウェーの中、おっちゃんが渋々といった様子で僕に「ではどうぞ」と声を掛ける。
予想外の展開だったけど、僕も僕でイライラしてたんだ。
この展開、私は一向に構わん!
ただリツコさん…僕が立ち上がった瞬間にぼそっと。
「…くらえ」
とか呟くのやめてください。
そんな訳で立ち上がると、係りの人がマイクを持ってきて僕に渡す。
あーテステス。
感度良好。
本日は晴天なりーとか言ってたら、テーブルの下でミサトさんに武田幸三ばりの下段を打ち込まれた。
早くも崩れ落ちそうになりながら口を開く。
「えっと…デザインだとか原子力だなんて不退転の決意どころじゃないとかそんなツッコミは置いとくとして、対使徒戦を想定した場合の話なんですが、ATフィールドとかどうするんですか?今までの使徒の中には16万メガワットの荷電粒子砲でも貫けない強度のATフィールドを持った使徒もいました、エヴァンゲリオンの場合はATフィールドを放つ事による中和によってその問題を解決しているんですが、お話によるとこの木偶の坊にはATフィールドの発生機構は搭載されていませんよね?それにどうも特殊な武装も搭載していないようですし、僕の脳味噌じゃこいつに出来る攻撃方法なんて原子力エネルギーを生かしたカミカゼアタックしか思いつかないんですが、そこのところ聞かせて下さい」
とりあえずここら辺からかなと思って尋ねてみると、おっちゃんは僕の質問にかなり驚いたようだった。
周りの人も何だかざわざわしている。
…僕そんなに馬鹿そうに見える?
そして、僕の質問に対しておっちゃんは少々時間をおいてこう答えた。
「それもすぐに解明出来ますよ」
「は?」
てっきりその後解明できる理由が告げられるのかと思ったけど、おっちゃんは他に質問はって顔をしている。
えっと…
おい、子供騙しってレベルじゃねえぞ。
質問の答えになっていない。
使徒はATフィールドの解析が終わるのを待ってくれたりなんかしないんだから。
あまりの能天気っぷりに思わず僕は口を滑らせてしまった。
「へー凄いなー解明出来たら教えてくださいね」
「ん?」
「なんせ実際ATフィールド張ったり消したりしてるこっちも、原理とか全く分からないままなんで、ノリで出してるだけなんですよね、あ、これ言わない方が良かったかな、ハハハ」
言ってからしまったと思った。
ちょっと冷や汗をかきながら横を見ると、リツコさんは素知らぬ顔をしているが、ミサトさんは明らかなジト目で僕を見て、声には出さずにこう言った。
「ホッチキスで縫い合わせんぞ」
うん、僕読唇術とかできないし、読み間違えたみたいだね。
「で、でへへ、あ、後外部操縦でしたっけ?」
「ええ」
「ジャイアントロボ見た事あります?」
「は?い、いえ、ありません」
は?
こ、こいつ!
ねえのかよ!
ここで僕の怒りが有頂天になった。
「間接操縦の反応の鈍さなめんなよ!」
僕が突然大きな声を出したのでリツコさんもミサトさんも、会場にいた人達も皆ビクッと見を強張らせた。
でもそんな事お構いなしに僕は叫ぶ。
「ロボにはそれに耐えられるだけの装甲があんだよ!ロボしかり!鉄人しかり!どうでもいいけどミカヅキは乗り込まない方が僕好みだったな!だから大作君も避けろロボなんて言わないんだ!あ、言ったかも…そもそもあんな細い手足で外部操縦だぁ!?大作君も転げ落ちるわヴォケ!スーパーロボット舐めんなよ!大体あんなモンキーパンチも真っ青なしょぼくれたボディーでどうやって近接戦闘こなすんですか!格闘戦とは言わずとも人型最大の魅力は状況への高い対応能力と高いフットワーク性能ですよ!あんなメタルマリオ並みの機動性しかなさそうなボディーで何するって言うんです!?うちが言うのも何ですけどよほどのメリットがなければロボットが人型である必要性なんてないんですよ!頑丈だ頑丈だって言いますけど僕には猫の尻尾踏んだだけで自壊しそうなギネスロボにしか見えません!そもそもあのロボットの攻撃手段って何なんですか?あの蛇腹みたいな手足伸ばして僕を笑わせてくれるんですか?いけー!ロボー!でどうにかなると思うなよコラァ!「シンジ君、落ち着きなさい」あ、はい」
リツコさんにシャツの裾を引っ張られて僕は正気に戻った。
見渡せば、辺りの人達は皆口をあんぐりと開けて僕を見ている。
しまった…。
自分でも何言ったのか覚えてない。
とりあえず微妙な空気だったので、体裁を整える為にも慌てて口を開いた。
「結論から言うと…そいつはただのでかいゼンマイ人形です、以上」
この一言でリツコさんが耐えられないとばかりに爆笑し始めた。
反対にミサトさんは泣きそうな顔でこめかみを押さえてぐりぐりやっている。
何だっていうんだいったい…。
ぼ、僕の所為じゃないからな!
明らかに騒ぎ過ぎたので慌てて着席し、マイクを係りの人に返そうとすると、呆然としていたおっちゃんがぼそっと僕に言う。
「き、君は一体…」
そう言えば来る時に言われたんだけど、僕が碇シンジだってのは言っちゃいけないらしい。
何かただのNERV関係者って事になってるらしい。
いや、どう考えてもバレバr(ry
「ふん、気にするな」
まあとりあえず言う訳にはいかないので、再びマイクを取り適当に答えておく。
「通りすがりの、サードチルドレンだ」
マイクを返し、ざわつく会場を尻目に僕は席に着く。
そんな僕のこめかみに、ミサトさんは銃口を突き付けてこう言った。
「ねえ、守秘義務って知ってる?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ていうかミサトさんどうやってそんなもん持ちこんだんですか…。
説明が終わり、実演の為参加者達が管制塔へと移動している最中、レイたんからメールが届いた。
レイたんから僕に送ってくる事ってそんなに多くないので、まさかと思って急いでメールを開封する。
すると、そこにはこう書かれていた。
《 起動成功しました 》
やった!やったやった!
ほらね!やっぱりレイたんは出来る子!
純粋に嬉しかったので、そのメールをはしゃぎながら隣にいたリツコさんとミサトさんに見せる。
メールを見たリツコさんは何も言わずに笑顔を浮かべて頷き、ミサトさんは溢れんばかりの笑顔を浮かべて僕とハイタッチした。
レイたんは自分がエヴァを起動できない事を気にしている様子だったから、動かせるようになって本当によかった。
ひとしきり喜んだ後、レイたんに祝福のメールを返す。
《 GJ(*'ω'*)b 女の子らしく顔文字もつけれたらもっとGJ(’’ 》
女の子なんだからメールだって可愛いのが見たいよね!
まあレイたんが顔文字やら絵文字やら使ってる所は逆に想像できない訳だけれど。
そして、5分後。
レイたんから返ってきたメールがこれだ。
《 起動成功しました\(^o^)/ 》
おい、誰だレイたんにオワタとか教えたの。
…僕?
閑話休題。
そして、いざJAの起動実験が始まり、その巨体ががっしょんがっしょんと明らかにポンコツ色満載の音を立てて動き出す。
それに対してお偉方が「おぉー」と歓声を上げているけれど、あんたらあんなもんで本当に勝てると思ってんの?って言いたい。
何となくパンフレットを見ていると、JAの実演内容が簡単に書いてあった。
えっと、まずは管制塔前の広場まで歩いて簡単な運動性能を披露…
チラッと前を見て、ふと気付く。
…あれ?
同時にスタッフの人達がざわざわと騒ぎ出した。
んー…
僕の気のせいだろうか。
地面に明らかに線が引いてあるんだけど、パンフを見る限りあれって停止線だよね。
…通り過ぎてね?
僕の気のせいかと思って、ミサトさんの袖をくいくいと引っ張り、声を掛ける。
「ねね」
「あん?」
暇そうにしていたミサトさんは凄く柄の悪い返事をしてくれた。
ついでにリツコさんや後ろに控えていた飯沼さん達もこちらを見る。
皆に僕はJAを指差して言ってあげた。
「あれ、のーきょーちゃん、こっち来てね?」
全員ぼけーっとした感じでがっしょんがっしょんと音を立てるJAを見ていたけれど、僕がパンフを広げて見せると、JAとそれを見比べて段々と顔を青ざめさせていった。
だってあれ、このまま来たら絶対管制塔に突っ込んでくるよね?
その時である。
上のフロアのコントロール部分に座っていたスタッフの声が、真下にいた僕らの耳に届く。
「ダメです!止まりません!」
やったー!かっこいい!
やがて管制塔にいた人達全員がざわめき出す。
ざわ…ざわ…
リツコさんは引き攣った笑みを浮かべ、ミサトさんは僕の襟を掴んでゆさゆさと揺らしながら叫ぶ。
「ナンであんたと炒るとToLOVEるばっか怒るのよ!」
「ミサトさん落ち着いて、誤字誤字」
「メタ言ってんじゃないわよ!」
そんなミサトさんの大声に触発されたのか、一気に管制塔内は騒がしくなる。
「逃げろー!逃げろおおおおお!どうなっても知らんぞおおおおお!」
「こ、こんな暴走ロボットが来る部屋に居られるか!私は自分の部屋に帰るぞ!」
「絶対に…生きて帰る!」
「俺、この式典が終わったら結婚するんだ」
「退路が分からんな、見てこいカルロ」
皆が騒ぎながら一斉に出口へと押し掛ける。
なんか皆が皆死亡フラグを立てまくってた気がするけど気のせいだろう。
スタッフの人達が皆に落ち着くように声を掛ける中、時田とかいうおじさんは床に膝をついて虚ろな目で呟いている。
「何故だ…暴走などするはずがないのに…何故だ…」
「坊やだからさ…」
「言ってる場合か!」
ミサトさんにお尻を蹴り飛ばされた。
最近段々とミサトさんの僕への対応が荒くなってきてる気が…
とりあえず別の世界に行きかけている時田の頬を叩いて声を掛ける。
「おい!ビッグダン!あのガラクタ早く止めろよ!」
「声だけで変なあだ名をつけるんじゃない!」
「言い返してる暇あったら何とかしろっての!」
「言われなくても!」
そう言って時田はスタッフ全員に声を掛け、指示を出し始めた。
そんな中でリツコさんがぼそっと呟く。
「シンジ君、えらく時田に冷たいわね…何でかしら」
「そんな事いいから早く逃げるわよ!」
ミサトさんの言う事が正論過ぎた、きっと明日はサードインパクトが起こる。
まあ確かにさっさと逃げないと僕らの命が危ない。
リツコさんがボソっと僕に耳打ちする。
「あとシンジ君、ビッグダンよりとっつぁんの方がみんなは分かりやすいと思うわ」
「おいたん!」
「それは主人公の方でしょう」
あれ、そうだっけ…
よく覚えてないな。
そんな僕らに、堪忍袋の緒が切れたのか、ミサトさんが据わった目を向けて言った。
「さ!っ!さ!と!逃!げ!る!わ!よ!」
「「あ、はい 」」
二人同時に返事を返す。
でもここから逃げようにも出入り口周辺には人が押し掛けちゃっててもう近づく事すら出来ないんだよね。
どうしたもんかと考えていると、ミサトさんが徐に拳銃を構える。
ミサトさん!それはダメだって!それだけはダメだって!
全員で止めた。
そんな感じでごたごたしていると、スタッフの悲痛な叫びが僕らの耳に届いた。
「駄目です!止まらない!」
うーん…
「19XX年…」
即ミサトさんに頭をはたかれる。
「フラグ立ててんじゃないわよ!階段で行くわよ!」
「まぁ冷静に考えて今から階段下ってても間に合わないわけですよ、エレベーターとか問題外なわけで、つまりですね」
「何よ」
「オワタ!」
そう言って両腕を天へと向けると、ミサトさんはとうとう精神的に限界を迎えたらしく、頭を抱えて叫んだ。
「もういやああああああああああああああ!」
そんなミサトさんの肩をリツコさんがぽんぽんと叩く。
「ミサト、落ち着いて、そう言えば一度でいいから「08よりは掛ってない」って言ってみたいわよね」
「リツコ…あんたさっきから妙に挙動不審だと思ったら…」
ミサトさんがガシッとリツコさんの顔を掴んで自分の方を向かせる。
僕も覗き込んで見た。
どことなく虚ろな目でにこにこと笑っている。
これは…
「しっかりパニくってんじゃないの!」
流石のリツコさんでも計算外の自体には弱いか…
「てへっ」
「てへっじゃねえええええぇぇえええぇえぇええぇえぇえぇええええぇええぇええええええぇえ!」
漫才を繰り広げている二人を尻目に、僕はある事に気付いた。
二人の肩をぽんぽんと叩いて、正面の窓を指さす。
そこに見えるのは、窓いっぱいに移るJAの姿だった。
「「「ぎ」」」
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
DEADEND
こんてぬ~?
おぉっと、それで、だれがこの碇シンジのかわりをつとめるんだ?
身体の上にのしかかる瓦礫を飯沼さんがどけていく。
管制塔が崩壊した時、僕はとっさにリツコさんに覆いかぶさるようにして崩れ落ちてくる瓦礫からリツコさんを守ったのであった。
なんといういけめん。
まあ本当はその上に飯沼さん達SPの人達がいて、守ってくれたおかげで助かったんだけども。
ぶっちゃけ、とっさに皆で思いっきり端の方に退避したのでそこまで僕達に被害はない。
管制塔中央に位置するエレベーターに殺到してた人達がどうなったのかは知らないけどね。
完全に瓦礫をどけてもらって、視界を確保。
開口一番に叫ぶ。
「だが…人類は生きていた!」
「やめんか!」
ぶっちゃけ生きるか死ぬかの瀬戸際だったというのに、その直後でもミサトさんのつっこみに歪みはない。
辺りを見渡せば、まあまあ大きな建物であった管制塔施設が、ど真ん中をぶち抜かれて二つに分裂している。
これからは渡り廊下でも設置して西棟東棟で分けるのがよいでしょう。
大穴から見てみれば、当のJAは変わらずに明後日の方向へと向かってがっしょんがっしょんと歩き続けているようだった。
う~ん…まるで海へと帰るゴジラを眺めている気分だ…
所詮人には過ぎた力だったんだ…山へお帰り…
一人で勝手に感傷に浸っていたら、リツコさんが僕の方を見ながらぼそっと呟いた。
「大丈夫かしら」
「頭は大丈夫です」
「そんな馬鹿な、いやそうじゃなくて、JAの事よ」
うん、さらっと酷い事言われた。
でもJAの事って、なにか心配事でもあるんだろうか?
正直な所ほっとけば転びでもして勝手に止まりそうなものなのだが。
「さっきちらっと聞こえたのだけど、出力過多とか…」
「それがどうかしたんです?」
「え?だって…JAが何で動いてるか忘れたの?」
そう言ってリツコさんは頭をかきながら煙草に火を付ける。
これは結構本気で困っている時の仕草だ。
はてさて…JAが何で動いているかって言われたら…えーっと…
少し考えて思い出す。
そしてそれはミサトさんも同じだったらしい、同時に呟いた。
「「…あ」」
アトムとかとお友達な力だった気がする。
それが暴走って…やばくね?
二人で若干青ざめながらリツコさんの顔を見ると、リツコさんは困った顔で煙草の煙を吐いた。
「私が作った訳じゃないのよねえ…」
余談になるが、この時リツコさんは僕を見て何となくこう思ったらしい。
(シンジ君がいるんだから…きっと爆発するわね…)
僕どんだけトラブルメーカー扱いなんですか。
そんなこんなでこれからどうするかを考えていたら、ふとミサトさんが思いついたように呟いた。
「リツコ…アンタね?」
「え?」
名を挙げられたリツコさんもきょとんとして首を傾げている。
どうでもいいんだけど、こういう細かい動作って絶対レイたんに影響出てるよね。
たまに二人とも似たような動きするもん。
それはともかく、ミサトさんが引き攣った笑みを浮かべてリツコさんに詰め寄る。
「どう考えてもおかしいでしょ、このタイミングでの暴走だなんて、アニメじゃないのよ」
あー…なるほど。
確かに。
言われてみりゃそうだ。
いくら僕がトラブルメーカーのような扱いを受けていたとしても、流石に通常の機動では100%に近い確率で暴走など起こりえず、万が一起きたとしてもそれへの対処法が確立されているシステムにおいて、こうも都合よく説明会のタイミングで完全な暴走を起こすというのはおかしい事である。
偶然と言われるぐらいだったら、NERVの関与がありましたと言われた方が納得も出来るというものだ。
ライバルは潰しとくに越した事はないしね。
僕も若干リツコさん犯人説を疑い始めたところで、慌ててリツコさんが反論する。
「ちょ、ちょっと待って…確かにこういう計画はあったんだけど…中止になったのよ」
その様子を見て、僕はリツコさんの関与は無かったと判断した。
リツコさんは虚を突かれると、意外と嘘を付けないタイプの人間なのである。
何と言うか、態度に出る。
そもそも吃音なんてリツコさん滅多にしないしね。
ミサトさんも長い付き合いでそれが分かっているのだろう、リツコさんは違うと判断したようだった。
う~ん…じゃあ誰が犯人なんだろう。
そう思っていたところで、リツコさんが予想だにしていなかった事を口にした。
「私はてっきり春日博士かシンジ君辺りかと思ってたんだけど…」
…ん?
春日博士か…シンジ君?
母さんか僕?
え!?僕!?
いやいやいやいやいやいやいやいや!
何言ってんのリツコさん!
「僕がそんなの出来るわけないじゃないですか!」
とっさに反論すると、リツコさんはジト目で僕を睨みながら続けた。
「携帯からMAGIのデータいじっといてよく言うわよ」
あらやだ、何でバレてるのかしら…
それにしてもマジで僕そんなの出来ないから!皆の中での僕どんだけだよ!
ふとミサトさんの方を見れば、ミサトさんまでもが僕をジト目で睨み始めている。
「ほんと違うから!買被り過ぎだから!」
その後の必死の説得によって、どうやら二人とも納得してくれたようだった。
どうやら普段の行いの所為か、色々と勘違いされているようだ。
と、言うよりもどちらかと言うとリツコさんは僕をからかっていた節が…つっこむと怖いからやめとこう…
そうなると考えられる可能性は後二つだけだ。
「えーっと…ちょ、ちょっと待ってね!」
慌てて携帯を開いて、メモリから母さんを呼び出す。
ホントは電話したくないんだけど…
そんな事を考えていたら数回どころか、コール一回にも満たない一瞬、プルルのプの字で繋がった。
「どうしたのシンちゃん!?お母さんに何かお話かしら~!?ご飯!?お出かけ!?何時でも大丈夫よ~!時間ならすぐ取っちゃうから!なになに!?シンちゃんから電話してきてくれるだなんて私何か目が潤んで…ハッ!?そんな都合のいい話ある訳ないわよね…私また何かしちゃったかしら?レイちゃんがパソコンに興味持ったからとりあえず2chの巡回とMAGIでも気付かない違法ファイルの落とし方から教えてみたんだけどそれが気に障ったのかしら…謝るから怒らないでぇ~!あ!レイちゃんと言えばね!零号機起動成功したのよ!だからね、調査も終わったし今からお祝いも兼ねて二人でご飯食べるの!えへへ~羨ましいでしょ!ここだけの話なんだけど…レイちゃん全然表情に出さなかったんだけど起動できてよっぽど嬉しかったみたいでね、ちょっとだけスキップしてたのよ!?もうホント可愛いの~!あと次から碇君と一緒に闘えますか?だって!ホントいい子よねぇ~そう言えばシンちゃん今日はどこに行ってるんだったっけ?あの企業影薄くてイマイチ覚える気にならないのよねえ…あ!シンちゃんあとねあとね!今日レイちゃんとお昼一緒に食堂で食べたんだけどレイちゃんがなんかしょんぼりしてたのね!どうしたの?って聞いたらいつもお昼ご飯はシンちゃんのお弁当食べれるから一日で一番楽しみなんだって!もうほんっと可愛いのぉ~!あ、このお話には若干の脚色がされています!」
あー面倒臭え。
これがあまり電話したくない理由だ。
だって母さん直接話すとそうでもないのに、電話だと僕がわざわざ掛けてきたのがうれしいみたいで僕より喋るんだもん…
いや、直接でも大分喋るか…
近頃は必死に気を引こうとしているのが丸分かりで、面倒を通り越して可愛く見えてきた。
最初は遠慮してたのかどうかしらないが、大分僕と距離を置いていたし申し訳なさそうにしていたんだけど、どこで間違ったのかこうなった原因は主にレイたんにある。
どうやらレイたんが母さんの前で僕の話ばっかりしているらしく、母さんも僕の話を聞きたがる。
僕に対して非を感じていた母さんだけど、どう頑張ったところで所詮は僕の母親である。
何時までもウジウジしてられる性格ではないのだろう。
多分基本的に細かい事考えるの好きじゃないんだよね、僕も母さんも。
以前ケンスケに、「碇って超廃スペックPCで電卓打ってるようなもんだよな」って言われた事がある。
つまりは僕の話ばっかり聞いていたら羨ましくなって。
「私もシンちゃんとお話したいしたいしたい!」(レイたんから聞いた原文ママ)
結果、今に至る。
いやまあね。
僕も多分母さんと同じ立場になったら、あんな鬱モードになったとしても長くは続かない自信あるけどね…
はぁ…もういいや。
て言うか今気付いたけどオワタとか原因お前か。
電話の向こうから小さい声で「うっさいのよ!黙るか黙らされるか選びなさい!」という声と共に、どこかで聞いた事のある中年男性二人のうめき声が聞こえた気がするけど多分空耳である。
まあいい、長々と電話をしている暇はない。
喋り続ける母さんに割り込むようにして僕は話を切り出した。
「あーえっとさ、その事で電話したんだけど…のーきょーちゃんが暴走してるんだけど、細工したのって母さん?ていうかもしかしてそういう計画ってあった?」
『のーきょーちゃん?…ああ、じぇっとにんじんみたいな名前のロボットの事?JRだっけJTだっけJKだっけ?あ、JAか』
リツコさんとミサトさんも、母さんのマシンガントークが終わったのを察したのか、携帯に耳を近づけて聞き耳を立てている。
余談だけど、リツコさんと母さんは何故か無茶苦茶仲が悪い。
と言うよりリツコさんが母さんを嫌っている。
最初はそうでもなかったんだけど、母さんが吹っ切れてからはあからさまにイライラするようになった。
基本的に天才肌でその場のノリで適当に決めてしまう事が多い母さんをリツコさんが説教するのは、最近NERVでは日常の風景である。
あと家で母さんと電話するとやたらとリツコさんの機嫌が悪くなるんだけど、アレばかりは未だに理由が分からない。
今みたいに家以外だと特に何とも無さそうなんだけどね。
ついでに言うと怒られている母さんの巻き添えを食らって、よくミサトさんも怒られている。
どうやらミサトさんは碇家には悪い縁で結ばれているようだ。
まあいいや、かんわきゅーDIE。
「そそ、てかじぇっとにんじんとか…母さんほんとに昔の人なんだね」
何かで見たぞ、すっごい昔のそんな動画。
そんな事を思っていたら聞き耳を立てていた二人に太股を抓られた。
痛い痛い痛い!何なの!?
二人を見ると怖い位の笑顔を浮かべていた。
えっと…なんか僕が悪いみたいですね…ごめんなさい…
泣き寝入りして電話に向き直る、人生とは基本的に理不尽なものなのだ。
『誰も訓練室のバーベルに二世なんて名前つけるシンちゃんに言われたくないと思うけど…あと細工はしてないわよ?そんな話もあったけどもう特に意味ないしね、あの計画って止めたんじゃなかったっけ?』
僕の小粋なジョークの話は置いておいて、母さんの言葉を聞いて僕らは顔を見合わせた。
ちょっと奥さん、あの計画って止めたんじゃなかったっけ?ですってよ。
リツコさんを見る。
遠くを見ながら「そう言えば子どもの頃ってペットボトルでお茶を買うのは勿体無いような気がしてたわ」と、良く意味が分からない事を呟いていた。
ミサトさんを見る。
あ、最近あまり見なかったけど出た、悟り顔だ。
とりあえず、皆暫く無言で考えてみた。
「「「…」」」
母さんがこっちの空気に気付いたのか、心配そうに声を掛けてくる。
『どうしたの~?』
何て言うか…うーん…
よし、率直に言ってみる。
「暴走…してるんだけど…」
母さんは「ふーん」と言って数秒黙っていたかと思うと、若干上擦った声で呟いた。
『…まぢ?』
「まじ」
電話越しなのに、母さんが冷や汗を浮かべているのが見えた気がした。
『むぅ~…ウチ以外に得する所がいるとも思えないし…エリちゃんの推理が正しいとするならば!』
「ちゃんとか、可愛い子ぶってんじゃねーよ」
薄々分かってんだよ!今それどころじゃねーんだよ!
そうなんだよ、この程度のロボット、と言うより戦略兵器としてのロボットなんて妨害したところで得するのはウチだけなんだ。
なんか胡散臭い兵器開発してるらしい戦自はあちらさんのバックに付いてるみたいだからから論外。
ウチが違うって事は僕らが心の隅でほのかに抱いていた淡い希望も消える事になる。
身内の仕業だったら、職員がいる場所で爆発なんかさせないだろうから勝手に停止するんだろう…という淡い希望。
何かさっき「安全装置が…」とか絶望的な報告も聞こえた気がするし、これ爆発するだろ。
あたまのなかがかーにばる!
落ちつけ落ちつけ。
残る可能性として考えられるのは二つ。
まず一つ、お偉いさんアホ程集まるんでそれを狙ったどっかのテロ。
だったらこんな暴走とかさせずにさっさと爆発させるわっていう。
即効でこの可能性が潰れる。
残る一つはホント信じたくない可能性だ。
安全基準の面から言って何万分の一だか何億分の一だか、それ以上なのか知らないけれど。
確率的には絶対にゼロではない可能性。
『普通に暴走しちゃってる感じ?』
「「「アッー!」」」
口に出したくなかったのに母さんがもろに言ってしまったので、正直三人とも半狂乱状態だった。
耳が拒否したのか、指が勝手に通話を切る。
いや、あり得ないって。
何で今このタイミングで?
もしかしたらどこかの工作なのかもしれない。
ぶっちゃけその方が可能性は数倍高い。
ただそんな事して得をする集団を、MAGIを有する僕達は一つとして知らないってだけだ。
正直どこかの工作であってほしい!
最近ちょっとだけ思ってたんだけど、自分が実は超絶運が悪いんじゃないかって、そんな事はないんだと信じていたい。
僕が一人でゲシュタルトだか作画だか崩壊している間に、ミサトさんとリツコさんも壊れていたみたいだった。
「あんたら落ち着きなさい!深呼吸すんのよ!まずは一秒間に十回呼吸して…」
「ミサト!落ち着きなさい!ツッコミがボケるのはルール違反よ!」
「ああー!どうしよう!」
そんな事をしていたら、携帯がブルブルと震えた。
ぬ、この震え方は…
若干落ち付いてメールを開いた。
やっぱりレイたんである。
なになになんだって?
《 エリさんが起動のお祝いに食堂のおじさんに頼んで巨大パフェを作ってくれていました、凄く美味しいです、あげません 》
《なにそれ!僕も食べたい!》
《だまれ こぞう おまえには まだ はやい》
…。
「僕もパフェ食べに帰りてええええええええええええええええええええ!」
レイたんばっかりずるい!
僕ロボットに乗ってヒーロータイムするだけの簡単なお仕事ですって感じでパイロットになったのにどうしてこんな事…に…
ん?
何か僕今凄い重要な事を言ったような…
何だ?
えっと…
ヒーロータイムするだけの…違うな。
うんと…
パフェ食べに…
「あぁ!」
僕の突然の叫びを聞いて、二人もこちらを見た。
「どうしたの?」
どうしたのもこうしたのもない。
気付いてしまったのだ。
この問題に対する解決策と言う物に。
「ふと思ったんですよ」
いやいや、よく考えてみれば当然の事だった。
「これって…」
だってさ。
「僕ら関係ないんだから…さっさと帰りませんか?戦自辺りがどうにかするんじゃ…」
そう、これ別に僕ら関係ないんだからぶっ壊れてる暇あったらお偉いさんの真似してダッシュで逃げりゃいいんだ。
なんか同じロボットの事ってのもあって、何で暴走したのかとかその先の事も考えてたけど、よく考えたら僕らの責任ゼロだよね。
パニックになり過ぎて気付かなかった。
それに最近突発的なトラブルにばっか対処してたしなあ…
身体が勝手に対処しようとしてしまった…
リツコさん達も冷静になって気付いたようだ。
「「…それもそうね」」
僕達は先に降りた筈の人達すらも追い越し、誰よりも先に会場から逃亡したのだった。
「…えっ?」
「「「えっ?」」」
NERV司令室、報告に訪れたその場所で、報告内容を傍で聞いていた母さんが思わず疑問の声を上げるのを聞いて、僕達三人もオウム返しに聞き返した。
今の報告で何が分からなかったというのか…。
そんな事を思いながら母さんの顔を見つめていると、母さんは頬を掻きながら困ったような声でこう言った。
「えっ…終わり?」
「うん」
「はい」
「ええ」
僕、ミサトさん、リツコさんの順に単刀直入に答える。
「えっ?それで帰ってきたの?」
「うん」
そう答えると同時に、冬月先生が深く溜息を吐いて腹部を押さえる。
何してんだろ、アレか、コーラス部とかがやってる腹式呼吸のアレか、なるほど分からん。
ぶっちゃけあの後時間が余ったから三人で超有名な老舗のうなぎの店でご飯食べて帰った。
あの時はあえて言わなかったんだけど、僕うなぎとかハモとかあそこら辺の魚を食べて「う、美味いぞおおおおおおお!」って思った事ないんだけど…。
あれってアレなんじゃないだろうか、一定以上の年齢の人のビフテキ・スシ=ご馳走と言った感じで、鰻・ハモ=美味いっていう刷り込みなんじゃなかろうか。
まあこれを言うとリツコさん達に怒られそうだったので敢えて何も言わなかったけれども。
そんな事を考えていたら、ミサトさんが笑いながら僕に言う。
「だってまだ死にたくないし…ねえ?」
一瞬心の中を読まれたのかと思った…JAの話ね。
誤魔化すようにして僕も言う。
「結局戦自が中に乗り込んで無理やり止めたらしいし、いやー何事もなくてよかったですなあ」
「…問題ない」
「他に変わった事と言えば倒壊した時にビビったミサトさんがちょっと漏らし「負けて死ね!」ぐふっ!」
そんな…能力じゃな…
「シンちゃんったら急に蹲ってどうしたのかしら、大丈夫?お腹さすってあげましょうか?グーでよければな」
「い、いえ…結構です…」
リツコさんがまったく…って感じで溜息をついていた。
そんな呆れた振りなんかしちゃって…僕知ってるんですよ!
あの時ホントはリツコさんも少し漏らし…っ!?
何だろう…今生まれてこの方味わった事がない位の悪寒が…
気の所為と言う事にしよう。
まあそんな感じで今回の内容を報告し終え、JAについての報告も終える。
その横でずっと冬月先生が膨大な量の書類を片付けながら「あー農業とか始めてえー毎日誰にも会わずに野菜とお話するんだ、へへっ」とよく分からない愚痴を呟いていた。
先生こんなキャラだったっけ…
ちょっとだけ先生に同情していたら、母さんが同じく書類に目を通しながら僕に尋ねる。
「あ、そだ、シンちゃんじぇっとにんじんどうだった~?」
じぇっと…ああ、JAか、お前それ野菜の話で思い出しただろ。
「お話にならない感じ」
「えぇ~そうなの!?」
そう言って母さんは残念そうに溜息を吐く。
ぼそぼそと「純日本製のロボットは強いって相場が決まってるのに」と、呟いている。
気持ちは分かる。
でも母さん、あれはロボットじゃなくてただのオモチャなんだ。
「足は遅い、脆い、攻撃手段無い、オワタ」
ていうかよくあんなの公式で発表出来たよね、僕だったら恥ずかしくて外に出せないけど。
母さんが心底残念そうに頬杖をついて言う。
「足速そうなのにねぇ」
「何でさ?」
「だってじぇっとだし?」
「イメージかい!何そのあの人ケンシロウって名前だから強そうみたいな!違うよ全然違うよ!世の中大抵のものは名前負けなんだよ!」
「待ってシンジ君、でもグレートマジンガーは実際グレートな性能だったわよ?」
「毎回生身の人間に助けられる鉄の王を知らないのかよ」
「誰も分からないでしょそれ」
「ナスカハイパークラッシュとかウルトラマンコスモススケルトンコロナモードとか」
「ふと思い出したけどアバレンジャーって何時暴れるのかと思ってたら結局最終回まで暴れなかったわね」
「おっと、その流れでアバレキラーは暴れても殺せてもいない件について弄ろうなんてそうはさせないぜ」
そんな感じで母さんとリツコさんと三人でわいわい騒いでいると、数分後に冬月先生が突然血を吐いて倒れた。
どうも胃潰瘍だったらしい。
これでNERVの仕事効率が30%は低下するな…
でも何で胃潰瘍何だろうか、ストレスの溜まる事でもあったんだろうか。
まあよく分からないけども。
きょうもにほんはへいわでした、まる。
そして同時刻、太平洋上で一人の男が声をあげた。
「うおおおおおおおおおおおおお!もうすぐ帰るぞ!日本!」
男の視線の先にはただただ水平線がある。
彼の名は加持リョウジ。
加持は再び大きく息を吸い込むと、第三新東京市へと向かって声高に叫んだ。
「葛城ぃぃぃぃぃぃぃぃ!俺だー!結婚してくれー!」
本来太平洋上で合流する筈だったNERVからの使者に、葛城ミサトその人も含まれる筈だったのだが、どうやら獣染みた勘で何かを回避したようだ。
そしてその叫びへの彼女からの返答は当然の如く返ってこない訳だが、代わりに彼が立つ戦艦オーバー・ザ・レインボウのデッキの上からは返ってきた。
「またあいつか!うるせーぞジャップ!」
「そんなに早く帰りてえなら艦砲に詰めて打ち出すぞ糞ジャップ!」
「鮫の餌になりてえのかジャップ!」
彼一人の所為でオーバー・ザ・レインボウ内での日本人の評価はだだ下がりである。
そしてこれだけ言われても叫ぶ事を止めない彼を引き殺そうと艦上機が動き始めた。
そんな光景を一段上の足場で頭を抱えて眺めながら、少女が呟いた。
「これさえ無いなら格好いい人なのに…」
そして溜息を吐きながら顔を上げた彼女の瞳に、遥か遠くまだ見えない日本の大地が映る。
「憧れの日本…」
金色の髪に青い瞳、そしてモデルのようなスタイルと非の打ち所が無い容姿である。
そして少女は男子なら一撃で撃墜されそうな憂いを含んだ儚い目で日本があるであろう方向を見つめ、大きな声で叫んだ。
「スシ!テンプラ!スキヤキ!待ってて!」
台無しだった、色々と。
少女の名は惣流アスカラングレー。
一説ではオーバー・ザ・レインボウの日本到着が遅れたのは、彼女が食糧庫を空にしたからだと言われている。
あとがき
久々の更新。
りあるで忙しかったのともちべの低下とパス忘れたのと次の2話が何も思いつかなかったのが原因です。
*誤字訂正 式波?最初から惣流でしたよ( ^ω^)