目が覚めると、真っ白い天井があった。
ここは…病室?
あーそういえば倒れたんだっけ、僕。
何か体中がだるいんだけど…ハッ!
待て!碇シンジ!状況判断なんてしてる場合じゃない!僕にはやらなければいけない事があるはずだ!
やっと言えるぞ!
「知らない天井だ!」
最近僕、北斗七星の横にもう一個星が見えるんだよね…
エヴァ、乗ってみました
第四話 人の創りしうんたらかんたら その1
前回までのあらすじ
母さんが帰ってきておめでとう!おめでとう!でエンドロールかと思ったらシンクロ率下がったうえに底力機能搭載の青水君が冬月先生を塩の柱に変えに来た。
病室の中、異様にピリピリとした空気が漂っていた。
室内に居るのは僕、母さん、ミサトさん、マヤさん、リツコさんの5人。
そして、僕を除く女子4人がう~んと唸りながら一枚の紙を睨んでいる。
時計を見れば、時刻は午前10時半。
眠いよう…
青水戦から一週間が経った。
僕は入院していたものの、5日で退院した。
まあ戦闘後は衰弱状態だったらしいんだけど、4日寝て起きたら治っていたみたいだ。
一週間も経って戦後処理もほぼ終わったようで、NERV、及び第三真東京市は平穏を取り戻している。
退院したものの、本調子でない僕はのんべんだらりな生活を送っている。
学校は昼から行って、NERVでも訓練とかは無し。
ちゃんと上の許可もでてるからサボりじゃないよ!
ただでさえ無い体力が衰弱して落ちちゃった所為で、なんかもうやたらと眠い。
だからこの時間って全然頭回らないんだよね、ただでさえ低血圧で朝弱いし。
ふわぁ…
帰りたいなぁ。
その時、カッと目を見開いたミサトさんが声高く叫んだ。
「山口コズエ!」
それに対し、リツコさん、マヤさんも口を開く。
「大鳥居ツバメは?」
「ナナミ・シンプソンとか」
はぁ…
ずっとこの調子だ。
実はこれ、名前を決めているのである。
名前と言っても、母さんの名前だ。
なんか僕が入院している間に母さんの体調も戻ってきたらしくて、退院の目どがついたらしい。
そうなると今度は戸籍が必要になってくる。
碇ユイのままでは色々とまずいので、新しい戸籍を作るらしいんだけど…
僕とリツコさんが母さんのお見舞いに向かっていたら、それを聞き付けたミサトさんがサボりの口実に自分もついて行くと言い出した。
そこでマヤさんが戸籍の件を持ち出して、今では病室でこの有様である。
もう一時間半経ってるんだけど…
眠いよう、でも寝たら真面目に考えろって怒られるし…
でも頭回らなくて考えられないし…
もう…疲れたよ…
て言うか名前ってそんなに重要な事なの?
呆れられるのはいつもの事だけど、他人に呆れたのなんて生まれて初めてだ。
僕を呆れさせるとか、女の人って凄い…
そんな事を考えてたら、母さんがニコニコ微笑みながら僕の方を向いて言う。
「私早乙女ランマがいいわ~」
…え。
何だろ。
コメント求められてるのかな。
眠くてあんまり聞いて無かったなんて言えないし…
えっと、えっと…
「ハッハ、基本的に皆古い人間だよね」
「面白い奴だな、殺すのは最後にしてやる」
そう言ってミサトさんが僕に微笑む。
「それどこのメイトリクス…」
母さんと違って、何て悪意のある笑顔だ。
「じゃあシンちゃんは何があるのよ~」
追い打ちの母さんの一言で、全員の視線が僕に集まる。
えぇ…
眠いんだってば…
全然働かない頭で必死に考える。
「小山内レオ」
「人ですらない!」
「王ドラでいいじゃん、王ドラで」
「生物ですらない!」
「ガイ・ナックス」
「物ですらない!」
なんて面倒な…
えっと、う~んと。
思考中。
…思考中。
……思考中。
………思考中。
…………zzz。
物理的に起こされた。
「じゃあ普通に…春日エリ」
何となく、思い付きでそう言うと…
「シンちゃんが言うならそれにするわ~」
信じられない位あっさりと、母さんは頷いた。
それも、とても嬉しそうに。
う~ん…
こうしてると…
普通の…
…zzz。
「時々シンジ君が14歳とは思えないんだけど…」
半分寝ぼけた耳に、ミサトさんの呟きが聞こえた気がした。
「帰る前にお散歩!お散歩行こっ!」
後日、母さんの病室を訪れ適当に話をして帰ろうとすると、こんな事を言い出した。
…めんど。
ついでに言うと、三日に一回のお見舞いはリツコさんに義務付けられているのである。
「ぐっ…全身が…足にマメも沢山出来て…」
そう言って蹲ってみせたけど、母さんは騙せなかったようだ。
「死ぬ死ぬ詐欺いくない!」
溜息をついて母さんの顔を見上げてみると、いつも通りニコニコと微笑んでいた。
う~ん…何と言うか…
僕やっぱり母さん苦手だ。
嫌いとかじゃなくて、ペースに巻き込まれるって感じ。
そもそも母さん数本ネジが飛んでる気が…
この事をリツコさんに言ったら「他人のふり見て我がふり直せってことわざ知ってるかしら?」って言われたんだけど、何であんな事言われたんだろ?
暫く断る口実を考えていたけれど、僕はすぐに諦めた。
「仕方ないなぁ…」
だって何も思いつかないし。
「わ~い、行きましょ行きましょ」
母さんはそう言って寝巻の上にカーディガンを羽織ると、ベッドから起きて僕の腕を抱いた。
「ごーごー!」
駄目だ…勝てそうにない。
そのまま病院の外に出て、適当な話をしながら散歩をする。
たまに母さんと散歩をするけど、散歩中は二人ともあまり喋らない。
お喋りの僕としてはだんまりの時間ってのはウズウズするものなんだけど、やはりこれも血のなせる業なのか、母さんとだと別に平気なのだ。
あとはリツコさんとか、綾波とかも平気かな。
そんな事を考えていたらだ。
噂をすれば影と言うか何と言うか、ジオフロントの中にも湖があるんだけど、その畔のベンチに座って本を読んでいる綾波を見つけた。
反射的に声を掛ける。
「あ、レイた~ん!」
声を掛けた瞬間、レイたんの頭の上に耳みたいなのがぴょこんっ!と起ったのが見えた気がした。
幻かな…それとも質量のある残像かな…
レイたんはこっちを振り向いて僕を確認するとふわっと笑って本を閉じた。
そして。
「碇く…ん…」
開こうとした口を、上げようとした腰を途中で止めて、その顔色が真っ青に変わる。
え?
よく見ればその時レイたんは僕を見ていなかった。
見ているのは…母さん?
そしてそのまま踵を反すと、本部の建物の中へと走って消えてしまった。
「ありゃ?」
一体どうしたんだろ。
お昼のお弁当にお芋入れなかったのまだ怒ってるのかなぁ。
お芋の煮物が入っていないと知った時のレイたんの絶望っぷりと言ったらそりゃなかった。
絶望した、日本の食糧事情に絶望した。
そう言って首を吊ろうとしたくらいだ。
…最近思ったんだけど、ちょっとレイたんに漫画読ませすぎたかな。
僕が悩んでいたら、母さんが僕の腕をくいくいと引いて言った。
「ねえシンちゃん」
「ん?」
「あの子、お名前は?」
「綾波レイたん」
そう言えば母さん知らなかったっけ。
二人とも顔がそっくりだから知り合いでもおかしくないと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
と言うか、改めて見てみるとホントに似てるなあ、クローンみたいだ。
液体の方かな、個体の方かな…まあいいや。
母さんは僕の説明を聞いてレイたんが消えた方向をじっと眺めていたけど、やがて困った様な顔で呟いた。
「…聞いて無いわよ?六分儀さん」
あ。
よく分かんないけど、これ多分怒ってるな。
何て言うか…
父さん乙。
翌日、六分儀司令の入院期間が一週間延びた事が発表された。
何があったのかは誰も知らない。
これに関する冬月先生のコメント。
「仕事に出ていてよかった…」
SIDE-レイ
最近、碇君はあの人と居る事が多い。
話によると、赤木博士の命令で三日に一度は御見舞に往く様に義務付けられているらしい。
碇ユイ…碇君の母親。
そして…
私のオリジナル。
私はあの人の混じり物のクローンに過ぎない。
ずっと、ずっと不安だった。
ゼーレの人類補完計画、その裏で司令達が画策している事。
それが成就された時、碇ユイが現れる筈だった。
しかし、碇君の登場で予想よりも早く彼女は現世に復活を遂げた。
そう、ずっと不安だったのだ。
本物が帰ってきた時、代用品に居場所はあるのか。
代用品なのが嫌で、努力をした。
でも私は未だにエヴァとシンクロする事すら出来ない。
この世に生まれて。
私はまだ何も成し遂げていない。
だからこそ耐えられない。
彼女があそこに居るという事実。
碇シンジの横に居るという事実だけは、絶対に耐えられない。
何でこんな事を思うのかは全く分からないけど…
碇君の傍は居心地がいい。
あそこだけが。
私が代用品で無くなる場所になる。
そんな予感がしているのだ。
人の気配を感じて顔を上げると、目の前に私がいた。
「こんばんは」
私が柔らかな笑顔で口を開く。
いや、違う。
私じゃない。
私にはこんな顔は出来ない。
碇、ユイ。
本当に私によく似ている。
いや…
私が、よく似ている。
そんな彼女の笑顔を見ていたら、勝手に身体が震えだした。
(人に会ったらまずは挨拶!)
そんな碇君の言葉を思い出したけど、出来る訳ない。
歯の根も噛み合わず、生まれたての小鹿のようにブルブルと震える足を引き摺って。
気がつけば私は逃げ出していた。
でも、一瞬でそれも終わる。
「あ…」
動かない右手。
振り向いてみれば、彼女に捕まっていた。
思わず、呟く。
「…離して…下さい」
「いや」
触れ合う右手と右手、その接点から。
少しづつ何かが彼女に奪われていく、そんな気がして怖かった。
「お…がい……す」
「え?」
「お願いします…離して…下さい」
自分の惨めさに、何だか目頭が熱くなった。
それでも彼女は首を振る。
「いや」
そして屈むと、俯いた私の真っ青な顔を覗き込んでこう言った。
「怖がる必要なんてないわ」
ふざけるな。
そんなの無理だ。
「一目で分かったわ」
お前に。
「私は…」
お前に私の何が分かる。
気がつけば叫んでいた。
「私は貴女じゃない!」
力の限り腕を振って、彼女の手を払う。
そして精一杯の虚勢で彼女の顔を睨みつけると。
何と言うか…
彼女は泣きそうな顔をしていた。
「ちょっと意味が分からないんだけど、怒らないで~」
そう言ってぺこぺこと頭を下げる。
泣きたいのはこっちだ…
意味が分からない。
彼女の態度の意味する所が分からない。
ともかく、恐怖も嫌悪も何だか一瞬で馬鹿らしくなってしまって、私はその場に座り込んでしまった。
そして呟く。
「何で…貴女が慌てるの」
「だっていきなり怒るから」
「怒って、ない」
何だろう…この感じ。
この恐る恐るとこちらを窺っている感じ。
凄く見覚えがあるのだが…
とりあえず言っておく。
「ただ、私が貴女から生まれたのは事実だけど…私は貴女じゃない」
そう、私は私だ。
「そう言いたかっただけ」
私だけの場所がある。
絶対に、渡さない。
しかし、どうやら世間知らずな私の脳では理解不可能な事なんて沢山有るらしい。
次の瞬間。
「そうそう!」
「え?」
彼女は私の目の前に座り込むと。
「だから私ね!貴女の事」
私の手を握って笑顔でこう言った。
「娘みたいなものなんじゃないかって思って!」
「…え?」
ちょっと待って。
全く状況が理解出来ない。
どういう事だ?
私がこの人の娘みたいなもの?
えっと、私はこの人を元に生まれたクローンみたいな物で。
遺伝子的にも酷似していて…
あれ?
じゃあ、あながち間違いじゃない?
いや、違うだろう。
駄目だ、全く分からない。
理解不能。
理解不能。
混乱している私に、駄目押しのように彼女は言った。
「レイちゃんって呼んでいいかしら~?」
「え?」
そう言って覗き込んできた彼女の顔。
不安そうな顔。
私の手を握る彼女の手。
若干震えている手。
あぁ、私と変わらないんだな。
何となくそう思った。
そして。
あぁ、私とは違うんだな。
何となくそう思った。
気がつけば勝手に口が喋っていた。
「別に…構いません」
次の瞬間、花のような笑顔で彼女が笑う。
あぁ…
どこかこの感じに覚えがあると思ったら…
この人、碇君に似ているんだ。
そう、この人は私のオリジナルである前に碇ユイであって、碇君の生みの親で。
私は綾波レイなんだ。
娘?
それは家族?
家族?
それは…絆?
別に彼女に対する嫌悪感が消え去った訳じゃない。
彼女の事が好きになった訳でもない。
私がこの人のクローンであるという事実も変わらない。
でも。
私は、碇君によく似たこの人の事を、何も知らない。
この人は、自分によく似た私の事を、何も知らない。
だから、少し興味が湧いただけだ。
私と全く違う、表情がころころ変わるこの人に、少し興味が湧いてしまった。
ただそれだけなのだ。
「仲良くしてね~」
冷たい廊下の上に、二人座り込んだまま。
握手をしながらのこの言葉を聞いて、やはり彼女は彼の母親なのだと実感した。
この親子は…まるで無邪気な子猫のように、いとも簡単に人の内側に入り込んでくるのである。
そして、それは不思議と不快ではない。
あと、基本的に人の話聞いてない。
殻に小さなヒビが入った、そんなある日の事。
あとがき
ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
全然話繋がってねええええええええええええええええええええ!
ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
もう何というかアレですね。
難しいですね…
その2は日曜位にあげれる…はず。
もうタイトルなんてどうにでもな~れっ