広々とした食堂の中心に六人の男女が対立するように座っていた。(一人棒立ち)
その構図は端から見ればかなり異色に見える事だろう。
若い女性を筆頭にしかめ面のまま隣に座る漆黒の服を着た少年と、もう方ほうの隣でオロオロしている栗色の髪をした女性。
対するは余裕の表情を崩さないで座る少年に、栗色の女性と同じオロオロとしているツインテールの少女が座り、何故か白く燃え尽きている少年が立っていた。
「それで……貴方の要求は何?」
碧髪の女性……リンディ・ハラオウンは真正面に座る少年、ベジータに険しい表情を向けて質問をするが……。
対してベジータは不敵な笑みを崩さずに応え始める。
「おいおい、話を聞いていなかったのか?俺は交渉と言ったんだ。要求とは人聞きが悪いな、え?リンディ・ハラオウン提督殿?」
ニヤリと口端を吊り上げ、足を組むベジータにクロノは唯でさえ険しかった表情を益々強らばせる。
「貴様は!!」
「クロノ……」
掴み掛かろうとするクロノをリンディは片手で制する。
「……申し訳ありません」
渋々と席に座るクロノ、ベジータはそれを鼻で笑いクロノの怒りを煽るがグッと堪えるクロノに興味を無くし、リンディに向き直る。
「……その前に、何故貴方が独房から出てきたのか教えてくれないかしら?」
リンディが険しい表情のままベジータに問い詰めるが、ベジータはふんっと鼻をならし。
「見張りもなければ監視もない、そんな所は逃げて下さいと言っているような者だろうが……」
溜め息混じりにそう吐き捨てるベジータにリンディ達は呆然となる。
「き、君は……ここが何処か分かっているのか?」
今、この艦……アースラは次元の狭間を航行中だと言うのに一体何処に逃げるだと言うのだろか……クロノの質問にベジータは……。
「だから、今その事を話そうとしているんだろうが……」
ウンザリとした表情で言い切るベジータにクロノは怒りを通り越して唖然としていた。
「話が逸れたな」
気を取り直して向き合うベジータ。
「さて、まずは此方の条件を聞いて貰おうか」
ベジータはテーブルに肘をついて真剣な表情になる。
「条件?」
「ふん、条件と言っといて一体何を無理難題をぶつける気だ?」
「……頼むから黙っといてくれないか?」
「なっ!?」
腕を組んで言い捨てるクロノだが、ベジータの心底鬱陶しいと言わんばかりの表情に固まる…。
「何、条件は至って簡単だ。ただ一人の少女とその使い魔を保護して欲しいだけだ」
「「!?」」
「ベジータ君、それって……」
隣で置いてけぼけりにされていたなのはは、その言葉にベジータへ視線を向ける。
「それは……まさか例の?」
「そうだ、黒いBJを着て、い……狼を連れた……なのは」
「にゃっ!?にゃに!?」
「貴様も何度もぶつかった相手だ、分かるだろ?」
「う、うん……」
戸惑いながらも頷くなのはにベジータは満足気に口端を吊り上げる。
「ですが……彼女はロストロギア……ジュエルシードを集めている、彼女がジュエルシードを求めている限り我々と衝突するのでは?」
「そうだ、また以前のようにそこの彼女との魔力衝突で次元震を引き起こす可能性がある」
「次元震?」
「あ、あのねベジータ君、次元震って言うのはね……」
なのはからの説明を受け、ベジータは以前のフェイトとなのはのデバイスが衝突した際に起きた爆発を思い出す。
「……アイツはある奴の命令で仕方なくジュエルシードを集めているに過ぎない、故にアイツ自身には何の罪も無い」
「奴?」
「……プレシア・テスタロッサ」
ベジータは一瞬言うのを躊躇ったが意を決して話し始めた。
「プレシアはある願いを叶える為、ジュエルシードを集めている」
「願い?」
「失われた秘術の眠る約束の地……アルハザードに向かう事」
「「「!?」」」
ベジータの一言にリンディ達に戦慄が走る。
「アルハザード……旧暦の時代に栄えた伝説の地」
「だが、それは遙か昔に大規模な次元震で失われたと言われている……夢物語もいいとこだ」
「プレシア・テスタロッサは一体何の為にアルハザードへ?」
「さぁな……其処までは知らんな」
「……本当に?」
「嘘だと思うか?」
「……否定はしないのね」
「だが、肯定もしていないだろう?」
疑問の視線を投げかけるリンディにベジータは真っ正面から捉える。
「……いいでしょう、貴方の情報、取り敢えず信じましょう」
「感謝する、ついでにもう一つ……」
「まだ何かあるのか!?」
「く、クロノ君……」
いきり立つクロノにエィミィが必死に抑える。
「それで、要件とは?」
「この事件が終わるまでに俺のこの艦での身柄の自由を約束して欲しい」
「なっ!?貴様……いい加減に「但し」?」
身を乗り出すクロノにベジータは片手で制止し、続ける。
「俺もこの事件が終わるまで全面的に協力してやる」
「……何だと?」
「俺はただアイツを保護をして欲しいだけ、事件が終われば俺を煮るなり焼くなり好きにするがいい」
「…………」
「実力ならそこのクロノ・ハラオウン執務官殿が証明した筈だが?」
「くっ……」
クロノは悔しそうに唸りベジータへ睨み付けるが、ベジータはクロノを視界に入れる事なく淡々と続ける。
「だけど……貴方のような子供を……」
「それこそ今更だろう、自分の息子を戦わせている時点でそんな事を言う資格が……貴様にあるとでも?」
「そ、それは……」
ベジータの鋭い眼光にリンディは押し黙ってしまう。
「それに、もしかしたら貴様等は人員不足に悩まされているんじゃないのか?」
「……何故それを?」
「何だ本当だったのか?最初の次元震……だったか?あれからの対応が遅かったからてっきり……いやはや俺の勘も捨てたもんじゃないな」
「…………」
「で?どうする?」
「艦長、僕は反対です。このような危険な人物は早急に本局へ護送するのが一番かと……」
クロノの意見を聞きながらもリンディは目を瞑り考え始める。
「…………」
やがてリンディは考えをまとめ、ゆっくりと瞼をあけ口を開く。
「……いいでしょう、貴方が我々の指示に従う事を条件に貴方の艦内での身柄の自由を約束します」
「艦長!?」
「ほ、本気ですか!?」
「彼の言うとおり、私達人員不足に後手に回るのも確か、不本意ですが……貴方の条件を飲みます」
「なら……交渉成立だな」
リンディとベジータは同時に席を立ち、握手を交わす。
(本当ではないが嘘でもない……か、はっきり言って我ながらバカな条件を鵜呑みにしたものだわ)
それにこの子……相当な修羅場を潜り抜けている。
幾ら無防備な艦でも途中で局員に出くわすかもしれないのに……。
それを察知されずにここまで来て、しかも武装局員に囲まれても平然としていられる大胆さ。
まだ十歳位の男の子が……一体どれ程の体験をすればこのようになってしまうのだろうか…。
リンディはベジータに少し悲しみを含めた瞳で見つめた。
(よし、ますば第一段階クリアか)
本当ならプレシアにも保護を頼みたいところだが……。
(無理だろうな、最早コイツ等はプレシアを犯罪者として見てやがる)
自分で言った事とは言え、後味が悪い…。
(フェイトは……きっと俺を恨むだろうな)
恨まれるのは慣れている。
呪いの言葉をぶつけられるのは慣れている。
(だが……今回のは堪えそうだ)
ベジータは何処か切なそうな面持ちでリンディの瞳を捉えていた。
「では、貴方の今後利用する居住区への案内をします」
「分かった」
そして長いようで短かった会談は終わり、全員が席を立とうとしたその時だった……。
「わ、私も……私もお手伝いします!」
「「「!?」」」
意外な所からの挙手にベジータを含めた全員がなのはへ振り返る。
「な、なのは!?」
今まで白くなっていたユーノも漸く復活し、これに反応する。
「私ならその……ジュエルシードの回収もできますし、何か役に立てるんだと思います!」
「し、しかし……」
「お願いします!!」
「ぼ、僕からもお願いします!!」
頭を下げる二人にリンディは手を顎に添えて……。
「はぁ……分かりました。あなた方も乗艦を許可します」
「か、艦長!?」
「現地の協力者を得れば色々と有利に進むでしょうし、私達以上にジュエルシードに詳しいスクライアの子もいればサポート面が楽になるわ」
「……了解」
クロノは色々と納得がいかないようだが、渋々と引き下がった。
「では、なのはさんは一度ご家族とお話して、明日にまた公園に来てください」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「ありがとうございます!!」
再び頭を下げるなのはとユーノに苦笑いをするリンディ。
(もしかしたら……この少女が今回の件の鍵になるやもしれんな)
ベジータはなのはに期待の眼差しを向けて一人考え込んでいた。
〜おまけ〜
「えっへへ〜、ベジータ君♪」
「何だ高町、馴れ馴れしいな」
「あ〜!ひど〜い!前は名前で呼んでくれたのに〜!」
「……だから、それがどうした」
「ねぇ、また名前で呼んでよ」
「断る」
「え〜〜!どうして〜〜!」
「どうしてもだ!」
「ぶ〜〜!呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで呼んで!!」
「えぇ〜〜〜い!やかましい!!」
「む〜〜………にゃ〜〜〜〜!!」
「のわ!?止せ、引っ付くな!!」
「名前呼んでくれるまで離さない〜〜!!」
「えぇ〜〜い!☆HA☆NA☆SE☆」
「だが断るの〜〜!!」
「あはは、なのは、あんなにも楽しそうに……」
「うわっ!?ど、どうしたんだ涙なんか流して?」
「いいえ、これは心の汗です。涙ではありません」
「……君も大変だったんだな」
ベジータとなのはのやり取りを見て、少年は一人、心の汗を流したのだった……。
〜あとがき〜
新年明けましておめでとうございます!
本当なら年明け前に更新したかったのですが……諸事情により出来ませんでした。
申し訳ありません。
さて、今回の話し、ベジータ君の交渉でしたが……書けてるかな?
多分書けてないんだろうな……。
最後のオマケで書いたベジータとなのはの絡みに和んでくれれば嬉しいです。