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No.5207の一覧
[0] Muv-Luv Get Back The Tomorrow (ループ3度目 スーパーじゃない武 1998年開始)[重金属](2008/12/19 15:22)
[1] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 序章 夢と現の狭間にて~Regret~[重金属](2008/12/10 23:11)
[2] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第一話 再開 ~There is nothing new under the sun~[重金属](2010/09/03 18:00)
[3] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第二話 挨拶 ~Speech is silver, silence is gold.~[重金属](2008/12/10 23:38)
[4] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第三話 入隊 ~Don't cross a bridge till you come to it!~[重金属](2008/12/18 23:46)
[5] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第四話 笑顔 ~Take the bitter with the sweet.~[重金属](2008/12/22 22:57)
[6] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第五話 教師 ~Never look a gift horse in the mouth~[重金属](2008/12/22 22:58)
[7] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第一章 第六話 花見 ~Boy meets girls.~[重金属](2010/08/28 21:58)
[8] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第二章 第一話 訓練 ~Things are seldom what they seem.~ [重金属](2010/10/24 14:50)
[9] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第二章 第二話 交錯 ~Porcupine's dilemma~[重金属](2009/01/02 23:33)
[10] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第二章 第三話 喧嘩 ~Misfortunes never come singly.~[重金属](2010/08/28 22:00)
[11] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第二章 第四話 追跡 ~To bury one’s head ostrich-like in the sand.~[重金属](2009/01/09 00:46)
[12] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第二章 第五話 人形 ~After a calm comes a storm.~[重金属](2009/01/11 13:03)
[13] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第一話 孤島 ~Penny wise and pound foolish.~[重金属](2009/01/11 13:01)
[14] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第二話 水難 ~Haste makes waste.~[重金属](2009/01/19 21:28)
[15] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第三話 夜天 ~Happy birthday.~(誤解修正)[重金属](2009/01/20 09:57)
[16] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第四話 兵舎 ~Don’t worry. Be happy.~[重金属](2009/01/25 18:29)
[17] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第五話 狙撃 ~Shoot Niagara.~(加筆修正)[重金属](2009/01/29 16:04)
[18] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第三章 第六話 閉幕 ~All good things come to an end.~[重金属](2009/02/06 14:51)
[19] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第一話 分岐 ~Need to know~[重金属](2010/08/28 22:02)
[20] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第二話 流儀 ~Ill news comes too soon.~[重金属](2009/02/13 12:10)
[21] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第三話 限界 ~Just asking for trouble.~[重金属](2010/08/13 08:41)
[22] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第四話 遭遇 ~Wishes never can fill a sack.~[重金属](2009/02/19 10:42)
[23] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第五話 約束 ~Outfoxing the foxes game.~[重金属](2009/02/26 11:14)
[24] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第六話 珍客 ~It is an ill wind that blows nobody any good.~[重金属](2010/08/28 22:05)
[25] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第七話 和解 ~Cloudy mornings turn to clear afternoons.~( 重大ミス発覚のため修正[重金属](2009/03/15 08:23)
[26] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第一話 戦術 ~Forewarned is forearmed.~[重金属](2009/04/02 15:28)
[27] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第二話 経験 ~Experience is the father of wisdom.~[重金属](2010/08/22 00:52)
[28] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第三話 機械 ~Good fences make good neighbors.~[重金属](2010/08/22 00:53)
[29] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第四話 戒心 ~Hope for the best and prepare for the worst.~[重金属](2009/05/16 13:12)
[30] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第五話 稽古 ~The chain is no stronger than its weakest link.~[重金属](2009/06/06 15:45)
[31] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第五章 第六話 遅刻 ~The husband is always the last to know.~[重金属](2010/08/22 00:55)
[32] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第一話 警鐘 ~Lay up for a rainy day.~[重金属](2009/06/21 16:23)
[33] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第二話 雌雄 ~Much ado about nothing.~[重金属](2009/08/12 22:27)
[34] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第三話 猛者 ~Take heed of the snake in the grass.~[重金属](2010/08/22 00:56)
[35] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第四話 成果 ~More people know Tom Fool than Tom Fool knows.~[重金属](2009/09/26 17:34)
[36] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第五話 相談 ~Don't beat about the bush.~[重金属](2009/09/26 18:16)
[37] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第六章 第六話 密会 ~You cannot see the city for the houses.~[重金属](2010/08/28 21:52)
[38] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第一話 紋章 ~Hope deferred makes the heart sick~[重金属](2010/08/13 08:40)
[39] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第二話 理運 ~There are two sides to every question.~[重金属](2010/08/13 19:28)
[40] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第三話 夏祭 ~All truths are not to be told.~[重金属](2010/08/22 01:47)
[41] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第四話 写真 ~One must draw the line somewhere.~[重金属](2010/09/04 09:38)
[42] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第五話 戦友 ~Too much curiosity lost Paradise~[重金属](2010/09/19 07:14)
[44] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第七章 第六話 夢幻 ~The best way to make your dreams come true is to wake up.~[重金属](2010/10/03 09:57)
[45] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第八章 第一話 会者 ~We never meet without a parting.~[重金属](2010/10/25 23:07)
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[5207] Muv-Luv Get Back The Tomorrow 第四章 第五話 約束 ~Outfoxing the foxes game.~
Name: 重金属◆cf1e341a ID:8b4e2465 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/26 11:14


 何故、何故何故何故……何故?

 武の頭の中を、その言葉だけがぐるぐると回っていた。 ピアティフに連れられて自室に戻る間も、部屋に戻ってシャワーを浴びている最中も、そして今こうして、まるで赤子のように丸くなって布団の上に転がって、無様にガタガタ震えている間も……


 ――『社霞』


 彼女の存在は、武にとって完全に想定外だった。 『イレギュラー』……本来なら「まだ」ヨコハマにはいないはずの彼女……。

 武は体中にビッシリと冷や汗を張り付かせ、凍えるような寒さに身を震わせた。 身を蝕む恐怖に。 突然目の前に広がった底なしの虚無に。


 社霞が恐ろしいのか? 否、彼女は最後のその瞬間まで共にあった戦友であり、そして武にとっては唯一の理解者とも言えるべき存在であった。

 ゆえに彼女は己にとって守るべき存在でこそあれ、畏怖の対象にはなり得ない。


 ならば武は「何に」こうまで怯え、慄いているのか?

 それは己の浅はかさであった。 軽率であった。 何度繰り返しても変わらない、傲慢さであった。



「(触らぬ神に祟りなしって、今までずっと先送りにしてきた結果がこのざまか?!)」



 恐らく『読まれていた』に違いない。 いや、確実に『読まれていた』はずだ。


 そう、自分はずっと監視されていたのだ。 そうだと仮定すれば、今までの違和感全てに説明がつく。 光州作戦、新OS、ハイヴ突入シミュレーション――今思いつく限りで、3つも大きなヒントが与えられていたにも拘らず、その可能性を「ありえない。」と切り捨てていた己に吐き気すら覚えた。


 だがそんなおり、武の混乱する思考に一つの疑問が浮かび上がった。



「(なんで、夕呼先生は歴史をなぞろうとしなかったんだ……?)」



 彼女の計画が完成する未来が『確定』しているとなれば、その未来に向かってただ突き進めばよいのではないだろうか?

 何故わざわざ歴史に介入するというリスクを、彼女は犯しているのだ……?


 灼熱に沸騰、あるいは極寒に凍っていた思考が、正常な状態へと復旧を始める。

 そうだ、何故そんなリスクを彼女は犯しているのだろうか? 因果律量子論は、彼女が提唱した理論。 歴史介入のリスクは、彼女が一番よく知っているはずだ。



「はなから歴史をなぞる気は無い……そういうことか?」



 武は無機質な天井を見つめながら呟いた。

 確かによくよく考えてみれば、「前回」のような奇跡的条件が揃う可能性など、それこそ生身で兵士級BETAと殴り合いをして打ち負かす程度の確立かもしれない。 計算高い彼女だからこそ、白銀武の知っている「可能性の低い未来」に賭けるよりも、白銀武の持っている情報を利用して「より彼女にとって都合のいい未来」を作り出そうとしているのかもしれない。


 ふっと、武は肩の荷が下りたように感じた……まだ己の安全が確約したわけでもないのに。 いや、安全どころか、おそらく00ユニット筆頭として自分と、そして純夏の名前が載ってしまっているだろう。 だが見ようによっては、BETAによって辱めを受けたり、生きたままバラバラに解体されるよりは、00ユニットになるほうが幾分マシかもしれない。

 あるいは今のうちから夕呼に取り入っておけば――


 そこまで考えて、武は口元を引きつらせた。

 全く、まさか自分が打算で動くようなことになるとは……しかも、自分の身勝手のために。 自分を助けるため、先に逝ってしまった彼女達は、今の自分を見てなんと言うだろうか?



「――ッ! しっかりしろよ、白銀武!!」



 口元が自嘲の笑みを浮かべるより先に、武は自身の心に活を入れる。 今は思いつく限りで最善だと思う道を突き進むしかない。  「もう一度」は、無いかもしれないこの世界。 せめて悔いのないようにしなければ。 この世界の人類と同様に、己もまた手段など選んでいられないのである。


 ――そして、そのためにはどんな微塵な努力も惜しんではいけない。


 武はベッドから起き上がると、机の上に紙面を広げた。







 朝、武はイスの上で目を覚ました。 ああ、あのまま寝てしまったのか。 武は寝ぼけた頭ながらも的確に現状を把握する。 ウンと背伸びをして肩を回した。 息を細く長く吐き、気分を切り替えると、続いて机の上の惨状をどうしようかと考える。


 机の上に散らばった紙くず、紙くず、そしてまた紙くず――『香月博士』に提供する情報を絞り込むため、何時間にもわたって己の知りうる内容を紙面に書きなぐり整理を試みた結果である。 ……とはいっても、整理どころか逆になにが重要で、なにがどうでもいい内容なのかがサッパリ分からなくなってしまったのだが。


 とりあえず全ての紙片をファイルに綴じ込み、ベットの下に押し込む。 安直だが、それ以上の隠し場所が考えられないのもまた事実だった。 第一、この整理すらされていない、情報の断片ともいうべき落書きを見て理解できるのは、書いた己自身か、あるいは夕呼クラスの変態ぐらいなものだろう。



「タケルちゃん、朝だよー!……って、な~んだ、今日はもう起きてたんだ。」



 ノックもせずに飛び込んできた幼馴染。 どうやら武が偶に起きている事ぐらいでは驚かなくなったらしい。 言葉の後半が少しトーンが下がる程度で、初日のように天地がひっくり返ったかのような反応は示さなかった。 その事実にちょっと物足りなく感じている己を自覚しつつ、武は何時ものように言い返す。



「おう、おはような、純夏。 ……なんか残念そうだな。」

「べ、別にそんなことないよ!」

「『私の唯一の仕事を取らないでよ!』ってとこか?」

「そうそ……え、ちょっと、タケルちゃん!! それってどういう意味ーッ?!」



 歯をむき出しにして、今にも飛び掛らんと詰め寄る純夏。 武はあいかわらず単純な奴だと思いつつ、冗談交じりに答えた。



「なにいってんだよ、おまえが出来る事って言ったら、朝オレを起こすぐらいじゃねえか。」

「ムカッ!! 人を目覚まし時計呼ばわりするなーッ!!」



 飛んできたレバーブローを真正面から受け止める。 一時期は訓練で腹筋が鍛えられた事により効果を失った純夏の必殺技であるが、それ以来純夏は何を思ったのか熱を入れて筋トレに励むようになり、今では以前より格段に凶悪なものへと進化を遂げいていた。


 ――久方ぶりの、内蔵にメリ込む感覚。 呼吸が止まり、体が衝撃で宙を舞った。



「……まさか、私との約束、忘れたんじゃないでしょうね?」



 捨て台詞を残して去ってゆく純夏の後姿を、床に突っ伏したまま見送る武。 昨日彼女と何か約束したのだろうかと首を捻るが、とんと思いつかない。 しかし約束という言葉を聞くと、どうも頭の隅に引っかかるものがあるのもまた事実……


 突然、頭の中を衝撃が貫いた。 まるで夜の闇が、朝焼けの光を受けて消え去るがごとく、心を蝕んでいた不安が消散してゆく。



「(約束? そうだ、約束だ!!)」



 武は思い出したのだ。 半年ほど前、『彼女』と結んだ約束を。

 そうだ、なぜ自分は衛士になろうとした? もし生き残るだけだったなら、わざわざ衛士にならなくとも、東北に避難すればそれで済んだ話だ。 そもそも平和な日常を生きたいだけなら、あの時『彼女』と一緒に『日常の世界』に帰ることも出来たのだ。 それを断ってまで、ここに居残り続けたわけは……?


 それは守りたかったからだ。 この手で、今度こそ守りたかったからだ。 ずっと己を支えてくれていた皆を――皆が命をかけてまで守ろうとした、この世界を。


 平和だった「あの頃」の記憶は、もはや欠片も残っていない。 『香月博士』には、自分の正体がばれてしまったかもしれない。 だがそれがどうした? 例え記憶がなくとも、己には今という時間が有るじゃないか。 正体がばれたところで、己は確かに今、ここに存在しているじゃないか。

 自分が生きているのは、過去でも未来でもなく、今という時間。 その時間を守るために、自分は弱きものの盾となろうときめたんじゃないか。


――『別に世界がどうとか、国がどうとか、そんなことは、もうどうでも良い。 隣に立つ仲間たちを守りたい。 ただそれだけだ。』


 あの夜の決意は変わらない。 世界は『夕呼先生』や『珠瀬国連事務次官』、『鎧衣課長』、『榊首相』、そして『煌武院殿下』に任せておけばきっと大丈夫だろう。 第一、衛士である自分が政治に首を突っ込むのはお門違いだし、危険だ。 己の戦場は、宮中ではない。 真に己が刃を振るうべきはそう、BETAのいる場所だ。 この国の、この世界の民を、そして仲間達を守るために己は戦うのである。


 絶対に諦めない。 こんどこそ守り抜いてみせる、現在という時を。 そして人類だれしもが明日を信じることができる、そんな世界を作る。

 それが彼女との――自分が『最も愛したモノ』との約束なのだから……。







 結局、武は純夏との本当の約束がなんだったのか思い出すことは叶わなかった。 というのも、朝の点呼直後に再び夕呼に呼び出され、仲間に心配そうな目で見送られながら研究室へとピアティフに連行されてしまったのである。



「さて、今日はちょっとあなたに紹介しておきたい子がいてね。」



 回転イスを揺らしつつ、夕呼は武に語りかける。



「ほら、入ってらっしゃい。」



 夕呼の言葉と共に、扉が開いて一人の少女が入ってきた。 武は「やはり。」と思いつつ、「いよいよ正念場か。」と、腹をくくる。



「この子は社霞。 こう見えてもあんたなんかよりずっと頭がいいのよ?」

「……はじめまして、社霞……です。」



 相変わらずの無表情で武の顔を覗き込む霞。 だが武はそれに動じることもなく、その吸い込まれそうな灰色の瞳をジット見つめ返す。


 互いに無言。 武はやがてふっと微笑むと、右手を霞に向かって差し出しながらやさしく語りかけた。



「はじめまして。 オレの名前は白銀武。」



 話しかけられてもなお、しばらく霞はじっと武の顔を見つめていた。

 やがておずおずと、霞がその小さな右手を武の手に添えるように差し出すと、武は添えられた彼女の手を優しく包みこみ、静かに上下に振った。



「握手……ですか?」

「そう、握手だ。」



 武はニッコリとわらって、霞の頭をやや乱暴にクシャクシャと撫でる。 されるがままに頭を撫でられていた霞だったが、突然、ビクリと震えると、武を上目使いに見上げた。



「……私の事、『知って』るんですね……。」



 表情こそあまり変わらないが、どこか怯えているような雰囲気を全身からにじみ出している霞。 武はそんな彼女を安心させるよう、今度は頭を優しく撫でながら、ゆっくりと告げた。



「――ああ、オレは霞のことを『知って』いる。」



 それだけ言葉を交わすと、2人は再びお互いだまって見つめあう。 もう霞の表情から怯えの色は見えなかった。



「――さて、お互い自己紹介も済んだところで、本題に入っていいかしら?」



 完全に2人の世界に入ってしまった武達に業を煮やしたらしい、若干不機嫌そうな表情で夕呼は言った。



「……えっ? あ、はい。」



 夕呼の問いかけにすばやく頷く武。



「あなたの見た夢のことだけど……詳しく話してくれないかしら?」



 ああ、ついにこの時が来たか。 武は静かに息を吸い、脈打つ鼓動を鎮めにかかった。



「えっと……話すにしてもとても長くなりますし、整理もあまり出来ていないんですけど……?」

「そう、じゃあ私の質問に『YES』か『NO』で答えてくれればいいわ。」



 つまり、夕呼の確認したいことは、ある程度特定されているということだろう。 武は迷わず「わかりました。」と返事をした。 『YES or  NO』での応答ならば、全て洗いざらい話すよりも薮蛇をつつくような真似をする確立が格段に下がるため、武にとってもまさしく『渡りに船』の提案だったのだ。



「じゃあ、まず一つ目。 あなたの見た夢は、今より数年後の『この世界』の夢じゃないかしら?」



 何を聞いてくるかと思えば、いきなり本質から迫ってきたことに内心動揺する武。 極力顔には出さないように注意しつつ、返事を返す。 

 実際のところ、霞が傍らに控えている以上、ポーカーフェイスもまったく意味を成さないのであるが。



「……YES……だと思います。」

「そう、なら『ヴァルキリーズ』の名前は聞いたことあるかしら?」



 A-01でなく、ヴァルキリーズときたか……。 おそらく、先日の発言を受けてのことだろう。



「YES。」



 武ははっきりと答えた。



「ひょっとして、あなたも一員だったの?」



 『あなたも一員だったの?』――続けざまに問われた時、武は真に確信した。 彼女は自分がいったい『誰であるか』を知っている。 恐らく『夢』がいったいなにを指すのかも、彼女はわかっているのだろう。

 何せこの現象を立証する理論は、彼女自身が作った理論なのだ。 彼女に判らないはずがない。



「――YES。」

「そう、わかったわ。」



 夕呼はしばらく武の顔をジッと見つめ、何かを考え込んでいる様子だったが、しばらくしてコーヒーモドキをひとくち口に含むと、急にとんでもないことをのたまい始めた。
 


「白銀武。 一週間社を貸してあげるから、新OSを絶対に完成させなさい。 これは命令よ。」



 あまりにも突拍子もない命令に、武は思わず夕呼の正気を疑った。



「……そ、そんな?! オレはただの訓練兵――」

「『ただの』訓練兵ねえ、どの口でそんなことを言ってるんだか……?」

「――っ!」



 武はゴクリと喉を鳴らした。 背中に嫌な汗が伝う。



「……はあ。 ったく面倒くさい。 ねえ、そろそろ茶番は終わりにしない? もうあなたも疲れたでしょう。 ちょうどいい頃合だし、どう?」



 夕呼はそう言ってすうっと目を細めさせた。 恐らくココで返答を誤れば、己は勿論のこと純夏もどうなるか分からない。


 手札を相手に見せながらのポーカー……勝負は始まる前から決まっていた。



「……そうですね。 そろそろ頃合でしょう。」



 ここに呼び出されたときから、正確には『社霞』に会ったその時から、武の覚悟は決まっていた。



「オレは――オレは未来から来ました。」

「……。」



 武の突拍子もない発言を受けてもなお、夕呼は平然としている。

 真っ直ぐ向けられた視線。 恐らく品定めされているのだろう。 武は真っ直ぐと夕呼の目を見つめ返し、己が体験したことを、最初から最後まで夕呼に説明した。


 ――『平和』な世界から、この『狂った』世界に飛ばされてきたこと――不審者として捕まっていたところを夕呼に助けられ、訓練兵として迎えられたこと――仲間たちとの出会い、そして辛くも充実した訓練生活――11月11日の新潟BETA上陸――南島での総戦技評価演習――戦術機の訓練で、いままでダメ訓練兵だった自分が皆を「アッ」と驚かせるような機動を編み出したこと――それが『平和』な世界でのゲームから発想を得た機動であること ――SSTO落下事件――天元山事件――そして12月24日、クリスマスイヴに、オルタネイティヴ4が破棄されたこと。



「オルタネイティヴ4が破棄?」



 12月24日の話をした際に、ようやく夕呼がリアクションを見せた。



「はい、何も成果を残せなかったため、オルタネイティヴ4は破棄され、予備計画だったオルタネイティヴ5がそのまま発動されました。」

「『何も成果を残せなかった』、ね。 ……それにしても『クリスマス・イヴ』ねえ。 ふんっ、まったくクリスマスプレゼントのつもりかしら?」



 随分と落ち着いた様子で返事する夕呼。 時間的余裕も精神的余裕も十分なためだろう。 武は思った。 『前』の世界ではこれを話したとたん、掴みかかってくるような勢いで詰問されたものである。 武はさらに話しを続けた。


 世界の終焉(これは何故か記憶にあまり残っていない)――目覚めると『振り出し』に戻っていた自分――世界を変えようと足掻き、実際いくつかの歴史を変えたこと――その結果、思いもしなかったような事態……帝国軍の将軍親政派によるクーデターが発生したこと――00ユニットの理論回収、完成と、その犠牲――佐渡島作戦――人類のデータの流出、そしてその流出元が00ユニットであったこと――横浜基地防衛戦――人類の総力を集めて行われた、桜花作戦。



「『オリジナルハイヴ』は、確かに破壊しました。 その際虎の子の00ユニットと凄乃皇四型は失われましたが、夕呼先生によると、人類はあと30年は戦えるようになったそうです。」



 武はそう言って話を締めくくった。 そんな武の顔を、夕呼はつまらないものを見るかのような冷たい目線で見つめている。



「ふ~ん、よく出来てるけど、ハッキリ言ってバカの見た夢みたいな内容ね。 あなた、作り話の才能あるんじゃない? 作家にでもなったら?」



 夕呼は口元に嘲笑を浮かべながら、にべもなく言い切った。 だが、その程度の反応は、武の想定の範囲内だ。



「信じてもらえないことは判っています。 なんて言ったって何も証拠がないんですから。」

「オルタネイティヴ5を知っていることや、社霞の『存在』。 私の研究――00ユニットの目指す所を知っていることは、証拠にならない――と?」



 夕呼の問いかけに、武は頭を振った。



「それは、『現在』でも知りうる情報です。 オレが未来から来たという証明にはなりえません。 知っている人は、もちろん限られるでしょうが、オレの話に信憑性を持たせるために誰かが吹き込んだんだろう、と、言われてしまえば、それを否定する材料を、残念ながらオレは一切持っていません。 信じるも信じないも、夕呼先生次第です。」

「ふん、一応、身の程は判っているということかしら? ……だから今まで周りにも、そして私にも黙ってきたってことね? おおよそ、喋る気になったのはそこに居る社に会ったから、といったところかしら? 社の能力を使ってもらえば、少なくとも嘘をついていないことは立証できるものね。」



 武は夕呼の言葉に「加えて、『事実』を隠し通せる見込みがなくなりますから。」と、付け足す。



「ふ~ん。」



 気の無さそうな返事をする夕呼。 だが次の瞬間、それまでの雰囲気が一変した。



「――50点! と、言いたいところだけど、特別に60点あげるわ。」



 「ギリギリ及第点ね。」と、付け足す夕呼。 突然雰囲気をガラリと変え、口元にはいつもの不敵な笑みを浮かべている。 武は彼女の豹変振りについていけず、「――はあ?」と、間抜けな声を漏らす以外どうしようもない。



「残念だけど――アンタはアンタ自身の思っているような存在じゃないわ。」



 口元は笑ったまま、夕呼は言った。

 しかしその目は、人を嘲るような、見るものを不快にさせる視線だ。



「え――?」



 先ほどからろくな言葉を吐き出さない己の口に嫌気を覚えながら、武は散漫になりかけた意識を再構築し、夕呼の一挙一動に細心の注意を向ける。



「言っておくけど、聞いたら答えが返ってくるとは思わないこと――でもそうね、せっかく『正直に』話してくれたごほうびに、何か一つぐらいヒントはあげようかしら?」



 そう言ってまた意地の悪い笑みを浮かべる夕呼。 もしかしたら己を混乱させるためのブラフを口にしているのかもしれないが、それは杞憂だろう。

 というのも、今更武に精神的揺さぶりをかけるメリットが、夕呼にはないのである。 すでに武は自白剤を飲まされたようなものなのだ。 いや、精神が朦朧となる自白剤よりも、よっぽど信憑性のある言付けがとれるのだから、自白剤よりもずっと強力である。

 霞の存在は、それほどまでに決定的なアドバンテージを夕呼に与えているのだ。



「まず『根底』を疑ってみることね。」

「『根底』、ですか?」

「『根底』が何かなんて聞くんじゃないわよ。 まあ、とりあえず 『根底』を疑うことは、科学者にとってとっても大切なことよ。 ――あなたもさっき、私にそう言っていたでしょ?」



 「正直、耳が痛かったわ。」と苦笑する夕呼。

 00ユニット……正確には00ユニットの中核部分となる量子伝導脳の開発を夕呼は行っているのだが、実は研究の『根底』が間違っていたのだ。 どう間違っていたのかは門外漢である武にはさっぱりわからなかったが、理論を回収して1週間もたたないうちに現物を完成させたということは、技術的には今すぐにでも実現可能で、しかしその発想がないために開発が進んでいなかったのだろうということは推測できた。



「それじゃあ、00ユニットの理論は――」

「待ちなさいっ! ……そんなこと、あなたに教えると思う?」

「――すみません、つい口が滑りました。」



 夕呼の鋭い視線に晒され、武は某諜報部員にならいとっさに謝った。



「そうねえ、もしも80点以上の答えを持ってきたなら、その時はもっといい事を教えてあげるわ。 ――それで、さっきの返事は?」

「……えっと、さっき?」



 首を傾げる武に、夕呼は「OSの開発のことよ!」と声を荒げた。 話がいきなり戻りすぎだが、武にそれを指摘する余力は残っていなかった。



「了解……しました。 でも一体何をどうすればいいんですか?」

「まあ、OSを完成させるといっても、雛形はほとんど完成してるから、あとはあなたの機動を叩き込むだけでいいわ。 この程度のことが一週間で出来ないって言うんだったら、あなたはもうこの基地では用なしよ。 まりもにもこのことは伝えてあるから、今後一週間はOSの完成を最優先に行動しなさい。 なんなら訓練には出なくてもいいわよ。」



 ――『だって、あなたには必要ないでしょう?』 言葉には出していないものの、夕呼の目は武にそう語りかけていた。



「それじゃあ、もう帰っていいわよ。 っと、また忘れるところだったわね。 コレ、あんたの新しいセキュリティーカード。 これで昨日みたいなことにはならないから安心なさい。」

「あ、ありがとうございます。」

「どういたしまして――くれぐれも私の期待、裏切らないで頂戴ね?」



 渡されたセキュリティードは、ほんの数グラムにも満たないはずなのに、武にはそれが訓練で使う鉄アレイよりも重く感じられるのであった。







「おまえら、何やってるんだ?」


 翌日、朝起きた武の第一声である。 目の前で見詰め合う赤と白。 お互い無言で、にらみ合っている。



 ――今日も朝から一波乱起きそうだ。



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