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No.5057の一覧
[0] ひとがた。[はいはいテストテスト](2016/08/11 23:25)
[1] 1.はじまり[high2test2](2011/12/18 21:42)
[2] 2.目覚め[high2test2](2011/12/18 21:42)
[3] 2a.[high2test2](2011/12/18 21:42)
[4] 3.蝕むもの[high2test2](2011/12/18 21:43)
[5] 4.その視線の先には[high2test2](2011/12/18 21:49)
[6] 4a.代替物[high2test2](2011/12/18 21:49)
[7] 5.魔法[high2test2](2011/12/18 21:49)
[8] 6.予備素体[high2test2](2011/12/18 21:49)
[24] 6a.意地[墨心](2011/11/20 14:45)
[25] 7.始まりの少し前[墨心](2011/11/27 02:23)
[26] 7a.プロローグの終わり[墨心](2011/11/27 02:26)
[27] 第1回「来訪者」[墨心](2011/12/31 20:33)
[28] 第2回[墨心](2011/12/17 14:16)
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[5057] 5.魔法
Name: high2test2◆182815d8 ID:3a7a2bf6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/18 21:49
/*注意 捏造設定が激しい回です。*/

あれから一年が経つ。

街にも出られず、遊びと称した戦闘訓練と座学をひたすらに繰り返す日々。
色々な娯楽を知っていた私がそれでも耐えれたのは、リニスのご飯(おやつ)と魔法の存在が大きかったと思う。
私に与えられたこの玩具は、とても遊びがいのあるものだった。

魔法を、力を振るうのは、とても楽しい。前はどれだけ渇望しても得られなかったこの力、それが今では私のものなのだ。

リニスの授業が始まる前は、私が知っている唯一のあの魔法のようなものを何度も何度も使っては、密やかに顔を綻ばせた。
授業が始まり基礎中の基礎である『リンカーコアを通した術式の行使』方法を教えてもらってからは、新しい魔法の修得と技術の研鑽に夢中になった。

習い始めてすぐだった。詠唱という行為に疑問を持ち始めたのは。

リニス曰く、魔法の発動は願うという原始的なものから始まったらしい。
その願いは現実的なものでなければならない。結果に至る方法を、正しくは過程を、願わなければならない。
いきなり結果を願うことはできない。それが魔法の限界であり上限だ。けれど方法さえ確かであれば曖昧な願いでも物理法則を、世界を、書き換え魔法は発動する。多少の例外もあるが。
そして結果に至る方法は無数にあり、細分化できる。しかし個人が好き勝手に細分化し、方法を考えていては二度手間であるし知識として共有することも難しい。
なので『規定された一定の粒度と手続き』に則って願う技法が確立された。いわゆる今日の術式と呼ばれるもの原型だ。
考案された方法には世界名というのだろうか、そんなものがついている。それはミッドチルダ式やベルカ式という名前に見て取ることができた。

この発明はパラダイムシフトを引き起こすほど革命的なものだったらしい。
それもそうだ。曖昧な願いは曖昧な結果しかもたらさない。だが『規定された一定の粒度と手続き』で構成された魔法は、誰が使っても同じ結果をもたらす。
副次的にも大きな効果があった。共通化された手順として確立されたことで、自分を省みないような過程を願って自爆する術者も大きく減った。

この瞬間、ようやく魔法が社会に『道具』として認知されたが、同時に弊害もあった。
術式の思考訓練や記述/読解方法の習得の手間はともかく、それに付随する形で書き換える物理法則の専門的な知識や、細分化された術式を並行して制御するマルチタスクと呼ばれる思考制御技法の修得まで必須になったからだ。
それは魔法の専門技能化を示すものであり、即ち希少な魔力資質保有者が『魔導師』としてしか生きていけなくなる時代の到来を意味していた。


と横道に逸れかけたがここまでで解るように、呪文や詠唱、アクショントリガーは魔法と直接の関係はない。
暗記した術式を喚起させるものだったり、デバイスの安全装置として使われる先人達の知恵である。
そしてあのこっぱずかしい詠唱文は古き良き時代の名残、つまりは貴重な文化遺産として積極的に継承すべきものだと認識されてるとのことだった。

経緯を知った私は「絶対唱えてやるもんか」とその時は固く心に誓った。

……誓ったまでは良かったがそこから先が大変だった。いくら文化遺産と酷評されていようが、デバイスが普及した現在でも使われているのだ。理由があるからに決まっている。

思考とは、とてもあやふやなものだ。そのあやふやなものに指向性を持たせ、一つの意味ある術式を組み上げるには外部からの補助を必要とする。
それはデバイスと魔法陣を除けば、視覚と聴覚と四肢の動作しかない。そのうちの聴覚としての補助手段が呪文と詠唱だ。
詠唱する過程で術式を想起し、さら詠み上げて自身に聞かせることで、その想起を確かなものにしていく。

錬度が上がっていけば、高速詠唱、詠唱破棄、無詠唱といった順に、発動までの時間を短縮させることは確かに可能だ。
但し、熟練の使い手さえ無詠唱では十全の状態での行使は難しい、とされている。なのに素人が真似すればどうなるのか、想像に難くない。

つまり初手から躓いた私は、大人しく呪文の詠唱と術式を暗記する作業に戻ったのだった。




フェイトは、改竄された記憶によると双子の姉という事になっていた。安直だけど他に思いつかないし妥当だろう。
魔力光も『変わらない』金色。同じ個体の保証はないのに。もしかして名前が魔力光を決めるのだろうか、なんて考えてしまう。
それにしてもやはり同じ『アリシア』をモデルとしただけあって、服装や髪型こそ違えども姿は瓜二つだ。
肝心の関係はあまりうまくいっていない。これは私が最初の頃に懸念してた問題のせいなのだけれども。

問題とは即ち、もう一人の『オレ』の可能性。私が『オレ』であるように、このフェイトもそうだったら。

なんとも対応に困る懸念だった。どうしろというんだ。それとなくあっちの話題でも振ってみるか。いや、でも、オレだったらどうするの。オレが二人? 全然笑えない。
あえて言おう。オレは自分が好きだ。ただしそれはオレが一人の時に限る。

と、当初はそんな心中だったのだけど、実際に確かめてみる勇気もなく腫れ物を扱うような態度をとっていた。

もう事後なので言い訳っぽいが、そもそも『オレ』が潜んでいなくとも、記憶が改竄されていようとも、ベースは同じ『アリシア』なのだ。
それも今でこそ多少マシになっているけど、最初はまだ個体差が出るには不十分な時間しか経っておらず、あれはもう一人の『私』そのもののように見えた。
終始、鏡を見させられている様なその有様は、落ち着いていた筈の自己認識、即ち、『アリシア』としての自覚とソレに付随する喪失感を穿り返すには十分なものだった。
二度目の経験だったが、目の前に実物があるだけあって一ヶ月程悩まされてしまった。同時にリニスの保護者としての我慢の限界でもあったらしく、私とフェイトで共用していた部屋から私は追い出された。

……元々は私の部屋だったのに。リニスは少し私に冷たい気がする。

結局『これは違う』と確信を得て吹っ切れたのも、翻訳魔法習得前に駆け込む様にして日本語でブラフをかけたの反応だった。
首をかしげて鸚鵡返しをしてくる様は単にとぼけているようには見えなかった。日本語を理解していない。ただそれだけのことで安心してしまった。
私が皆を欺いているように私も欺かれているかもしれないのに。今思えば私はただ単に納得する為の理由が欲しかっただけなのだろう。
そして『オレ』でも『私』でもないと納得した今も、清算することなくそのままだったりする。
一度失った信用を取り戻すことは難しい。なんとなく切欠がないのもある。それに『私』ではなくとも、やっぱり私っぽい。
まあ、それらは追々片付けていこう。いきたい。いけたらいいなあ。


かあさん、いや、プレシアは、基本的には研究室に引篭もっている。たまに外に出ることがあっても大抵はフィールドワークだし。
なんというか、病も原作通り患ってるみたいだった。たまに顔色が悪いのも引篭もりがちで不規則な生活してるからだと思っていたけど、薬湯のボトルをゴミ箱から見つけてしまった。
ご飯を食べる時にたまに鉢合わせたりするけど会話は殆どないしあっても事務的なものだ。こちらを見る顔も味気ない。ただ稀に感情が滲み出てたりすることがある。
何かを噛み締めるような、自分に言い聞かせるような顔。でもそんな顔をされても正直、自分はどう接していいか解らない。
私もあの時の遺体を思い返す度に、フェイトを見る度に、自分は『アリシア』ではないと痛感する。

それに私相手ではそんなでもないけど、フェイトと一緒に居る時は割とそんな顔をする。
原因は明確だ。フェイトも我慢してるのだけど幼さ故か隠しきれてない。それがプレシアには解って辛いのだろう。
だいたいフェイトの方がアリシアっぽい。改竄された記憶がベースとはいえ、オレみたいな不純物が混じってないのは大きい。
いっそのこと、さっさと諦めて二人で隠居すればいいのに。まあ、私がしでかしたことでそれが難しくなってしまったのだけど。……うう、ごめんなさい。


もう最初と違い、ある程度の魔法を修めた今なら脱走はしようと思えばできる、と思う。
周辺のいくつかの街までの地形も探索魔法の実技時に大まかなマッピングまでは済ませてあったし、結構疲れるけど飛行もできる今、地形は移動のネックとならない。
プレシア不在の時なら、初動の差でそのまま逃げ切る自信はある。たとえリニスが追ってきたとしても。
でも、そうする気にはなれなかった。街で庇護を求めてからどうするのか漠然としていたし、なんだかんだいって衣食住揃ったここは居心地が良い。

それに、余裕がでてきたからだろうか。私を造ってくれたことへの感謝を今は強く感じている。
私が偽物で捨てられたとはいえ、まだ母として慕う感情もあったりするし、というか割と強い。プレシアは嫌がるだろうけど、そこらへんは簡単に割り切れないので許してほしい。
だから、まず病気を治してあげたい。そうすればジュエルシードを急いで求めることもなくなるんじゃないかな、なんて思ってるけど楽観だろうか。
だいたい不治の病なら、体を捨ててしまえばいい。つまり自分のクローンを作ってそちらへ記憶転写する。一時的に己が二人になるやもしれないし私たちを許容できなかったように自己の変質は避けられない。けど死ぬよりはマシだと思う。
でも原作ではそうしなかったから何か事情なり技術的な制約があったのかもしれない。そういったことも私は知りたい。
それを提案して一緒に検討していく為には、プレシアと共犯者の関係になる必要がある。病気のことを、そして目的と私の出自までも本人の口から語ってもらう必要が。
しかし、前みたいに一瞬で昏倒させられては話にならないどころか、今度こそ命も危うい。そうならないぐらいには実力をつける必要があった。

そういった目的をもったからか、最近は結構がんばってたりする。

まずは座学の効率化の為、読書魔法と検索魔法の使用を提案した。けどダメだった。
提案時に、建前として使った魔法のリファレンスにも名前と効果が申し訳程度にしか載っていなかったので怪訝に思ったものだけど、どうやらスクライア一族で秘匿されているらしい。
良く考えて見ればそうだった。多少珍しい程度の魔法なら、民間委託とかで無限図書館はとっくの昔に整理されている筈だ。と勝手に納得してしまった。
だけど無駄ではなかった。なんというか元々目当てのものはあったのだ。
この書庫にあるものは紙の本であると同時に本型のデータストレージとしての機能も兼ね備えている。
それらには、ちゃんと外部インターフェースが用意されており、それを利用した同じく本型の統合管理デバイスが自動で目録を作成してくれて尚且つ検索環境としても機能するとのこと。
おまけに、あくまでスクライア一族で秘匿されているのは、純粋な紙だけの本や年代によって規格の違う外部インターフェースを備えた本型ストレージデバイス等が混在した環境でも機能する統合検索環境を構築する魔法を含めた技術だとも教えてくれた。
聞いた時はどこぞのSI企業を連想してしまったが確かにあの一族らしい魔法だし今の私には必要ない。

……正直、こんなことは速く教えて欲しかった。中身はgoogle世代なのだ。

だけど、お陰で効率は格段と上がった。google万歳。じゃなくて全文検索環境万歳。
ただ検索結果を参照する際にいちいち本をぺらぺらと捲る必要があるのがとっても不便だった。
あの邪気眼全開な呪文のセンスのこともあるし、この世界ではヒューマンインターフェースはあまり重要視されてないのかな、と思いリニスに聞いてみたら「これも教育の一環です」との答えが返ってきた。……正直良く解らない。

そして今、私とリニスは、リニスが切り拓いた訓練場にいる。
検索環境を手に入れて調子にのった私は、今まさにデバイスの常時使用前提のカリキュラムへの切り替えを訴えている真っ最中だ。

今まで初めて習う魔法は、最初にサポート用のデバイスを併用し、慣れてきたらデバイス無し、そして最後に無詠唱、と順を追う形で難しくなっていく。
まだ初級魔法だからか、正直微妙な用途の魔法さえ無詠唱まで可能な錬度をリニスは求めてくるので、常々無駄だと思っていた。
自分としてはデバイス込みで発動すれば十分なのだ。これはIMEがあれば漢字の細部まで覚える必要がないという論理に似ている。
実際サポート用デバイスはIMEっぽい。選択した術式を思考に投射してくれるので、術式や呪文を覚える必要があまり無くなる。カラオケみたいに呪文の詠唱とともに術式を投射するモードもあるといえばあるけど。
私としては全体を見てそれが意図している術式かさえ判断できればそれで良い。細部はデバイス任せで問題ないのだ。
危うい発想だけどそこらへんのボトルネックを解消し早く実戦可能なレベルまで引き上げなければ、プレシアがくたばってしまいかねない。
でもやっぱりというかなんというか、さすがに生意気過ぎる提案だったからか、リニスがキレた。

「何言ってるんですか? あなたはまだ初級魔法の半分も修めてないんですよ! なのに、デバイスが欲しいだなんて、どうして楽することばかり考えようとするんですか!」

あれ、なんだか話が変形してる。
だけど時間がないのは事実だし、デバイスはくれるなら欲しい。高級機は色々サポートしてるらしいし。
なのでこちらも切り札の一つを見せることにする。魔法を発動できるように事前に準備してからリニスに声をかけた。

「リニス、まって! 私ね、もう初級魔法なら大抵使えるのよ。みてて? ほら」

そう言いつつ用意しておいた術式を使い、リニスの背丈ほどの高さまでゆっくりと浮遊して見せる。
飛行魔法は初級魔法の最後の方の難度とされるもので、今使ってるこれは独自に習得したものだ。
つまり『私は自習で無詠唱の錬度まで魔法を習得できるから、とっとと授業を進めて模擬戦とかをやらせてね♪』というメッセージだったりする。
それを見たリニスは蒼い瞳を白黒させた後、何故か顔を真っ青にした。

「オルタナ……! わかりました! わかりましたから、ゆっくりと降りてきてください……良いですか? ゆっくりとですよ……」

声音からなんだかヤバそうな様子だったので慌てて降りた。

「今、あなた、何をやったか判ってるんですか!」

「え? 何って――」

何を言ってるんだろう。ちょっと浮いただけなのに。

「重力制御をあんなに長い時間、自分自身に作用させるなんて死にたいんですか! ……その様子だと判ってないんですね? なら実演してあげます」

そう口早に言い切ったリニスは「反論は許しません」といった様子で、すぐさまそこに転がってあった小柄な岩に目線を合わせる。
そのまま――私が使っていた重力制御だろうか、魔法を使い宙に浮かせた。

「オルタナ、あなたが使った重力制御と同じ術式で、この石を浮かせてあります。今から術式の制御を手放しますので、しっかり見ててください」

瞬間、岩がばらばらになり、欠片が地面に四散した。跳ねてきた小さな飛礫が頬を叩く。
その様を見てようやく理解する。これは確かに危ない。そりゃリニスも慌てて当然だろう。

(失敗しなかったから気づかなかったけど……・・・私、よく死ななかったな……)

こちらの顔色を見て満足したのか、リニスが言葉を続ける。

「ようやく解りましたか? 重力制御はとても危険なものなんですよ。
いくら訓練で安定するとはいえ、一度集中が乱れてしまえば、作用してる力の強さやそのベクトルが定まらずに、こうやって対象を破壊してしまうことも十分に有得るんですから。
ましてや、人間の体なんてとても脆いんです――あ! 見たところ大丈夫なようですが、後で精密検査を受けてもらいますからね!」

「……はーい」

検査なんて憂鬱でしかないが、こればかりは私に非があるので素直に認める。というか教えてもらって良かった。が、カリキュラムの変更は諦めるしかないだろう。

(魔法以外でなんとかするしかないかな……)

次の手段を考えていた私が落ち込んでる様にでも見えたのか、リニスが言葉をかけてきた。

「そもそも飛行魔法で重力制御なんてものは推力には向いてないんですよ。
比推力がとても悪い上に繊細なベクトル制御を求められますから。
浮遊目的で使うにしても自分自身だけに直接作用させるものではなく、周りに張ったフィールドも対象にするんです」

なるほど、と思ったがあんまり重要そうではなかった。そのまま思考を戻そうとすると――

「金輪際こんなことしちゃだめですよ?
今度から新しい魔法を試す時は、ちゃんと前もって相談すること。約束できますか?」

(それって……つまり!)

カリキュラムの変更まではいかずとも自習さえすれば先に進めるということだ。

「うん、約束する! リニス、ありがとう!」

そういってリニスに抱きついておく。

(計画通り……!)

どこが計画通りなのか自分でも良く解らないが、飛行魔法を教えてもらうことを取っ掛りにして授業を速く先へ進めることができそうだ。

そのまま腰に引っ付いていると、リニスが私の頭をぺたぺたと触りながら、どこか困った声音で囁いてくる。

「それに、上にベクトルを向けた所為でしょうが……その、下着が見えてましたよ。女の子なんですから、そういったことには気をつけてくださいね」

――あれ? 魔法少女って見せても大丈夫なんじゃなかったの?




/.リニス

我が主、プレシア・テスタロッサから双子を預かってから早くも一年が過ぎようとしている。
私は困惑していた。
私を悩ませているのは、その預かった双子の妹、オルタナ・テスタロッサの方だ。

思えば最初からおかしかった。

世話を焼かせない大人しさは二人に共通するものではあるが、その内実は対照的だった。
姉であるフェイトは寡黙ではあれど、この一年で言葉や態度の端々に幼さを見つけることができる。
だが、オルタナは違う。言葉使いや態度こそフェイトと似たようなものだが、全く子供らしくない。たまに見せる甘えなども、なんというか、その、なんらかの下心あってのものだ。

これが私だけに向いているのなら、懐かれないだけでまだしょうがない、と諦めることもできた。寝る前に本を読んであげようとして断られた時は、可愛げのない子だと思ったものだし。
だがオルタナは姉であるフェイトや、母親であるプレシアにすら同じような態度なのだから、さすがに違和感を感じざる得ない。
最初は私に任された時期と符合する点から、母元から離され拗ねているのかと推察したが、話を聞いてみればプレシアへ向ける敬愛の情はフェイトと同じようなものだった。
ただ時折、語る時の表情に苦い物が混じっていた気もするが、それが今の境遇に対するものなのか、他の何かへの感情なのか、私には判断しようがない。

私が授業を始めてから、オルタナの異様さはさらに際立った。
まず、質問の観点が明らかに子供のそれではない。
書庫で自習している姿を良く見かけるが、それも自分で時間配分を決めてスケジュールを立ててる様だ。聞けばフェイトも、それに習ってスケジューリングするようになったらしい。どこでそんなことを覚えたのか。

レクリエーションを兼ねて行う運動訓練もどこか淡々としたもので、あまり乗り気ではない様子が伺えた。
ただ、勝負事になると別人のような熱の入り様で、普段とのギャップに驚かされる。あれではまるで男の子だ。
フェイトと違い体を動かすのは上手い方ではない様でどこかぎこちない。ただ、それを本人はそれを自覚しているのか、まるでリハビリのような訓練の提案を私にしてきたこともある。

観察していく内に違和感の原因もはっきり解ってきた。この子は自己解決能力が年齢に不相応なのだ。
聞く前にまず己で調べる癖がもうついている様だし、何らかの問題に躓けば、前もってある程度下調べを済ませてから初めて私に質問としてもってくる。
オルタナ一人だけならよく出来た子供の一言で済ませることもできたが、同じ境遇で育ったフェイトがいるのだ。異常という他にない。

私の疑念を決定的なものにしたのは、密かに盗み見たオルタナのノートだった。
フェイトのノートと全く違うそれは、まるで大人が書いたような文字の細かさと、明らかに書き慣れた様子の洗練されたレイアウト。普段からの予習を推奨していたとはいえ私の授業が本当に再確認にしかなってないことを痛感させられてしまった。

……このことはプレシアへは報告していない。
異常とはいえ、悪意が感じられない。そしてなにより、これを報告してオルタナが無事という保証がなさそうだからだ。
主、プレシアが何の研究をしているか直接は知らされてないが、頻繁に目に入る設備や機材、散乱した書類の内容と書籍の名前等で推定することは十分にできた。


蘇生まで視野に入れた魔導生命工学の資料と、使用した痕跡のある人造生命体の生産設備。


オルタナは異常だ。ただ、それは実の母親であるプレシア自身によって意図的に齎されたものかもしれない。
だから少しだけ、もう少しだけ、プレシアからはっきりこの子の異常性について問われるまでは見守っても良い様に思えた。

(主に隠し事をするなんて、使い魔失格ですね)

そう密かに決意した最近も、こちらの気持ちを知ってか知らずでか、読書魔法と検索魔法などピンポイントに運用を見据えた魔法をリクエストしてきたりして異常性に拍車をかけている。
そうして、ついにデバイスをねだられた時、プレシアへの疑念が確信へと変わった。




「ね、リニス。……今って詠唱がいらなくなるまで魔法の練習をしているでしょ? それってなんとかならない?」

控えめな声音と曖昧な物言い、そして両手を後ろに回しての上目遣い。すごく解りやすい。オルタナがこちらから譲歩を引き出そうとする時のおきまりの態度。

「なんとか、とは?」

この子相手に曖昧なまま話を進めると碌な事にならないのは、この一年で得た経験だった。

「えーと、ね。デバイスって持ってるのが当たり前みたいだし、あんまり使わない魔法はデバイス有で使えたら、もうそれでいいかなーって……」

まだいまいち要領を得ないがデバイスを持ちたい、ということだろうか。つい最近も検索魔法と読書魔法をねだってきたし、ちょっとこの子は楽を考えすぎる。

「何言ってるんですか? あなたはまだ初級魔法の半分も修めてないんですよ! なのに、デバイスが欲しいだなんて、どうして楽することばかり考えようとするんですか!」

「リニス、まって! 私ね、もう初級魔法なら大抵使えるのよ。みてて? ほら」

最初はその間抜けな光景に思考停止してしまった。オルタナがそういった瞬間、スカートが真上に向かって捲れてしまい、ショーツが丸見えだったからだ。
だが、よく見れば金色の細やかな髪が上の方に向かって落ちてヽヽヽいた。それで咄嗟に状況を理解する。

「オルタナ……! わかりました! わかりましたから、ゆっくりと降りてきてください…… 良いですか? ゆっくりとですよ……」

自分の声が恐怖で震えているのが解る。信じられなかった。この子は今、自分自身を対象に重力制御を行っている。それも、ミッドチルダの重力をほん少しだけ上回るように制御して。
詠唱も聞こえなかった。ということは無詠唱でこんなことをやってのけたのだ。

「今、あなた、何をやったか判ってるんですか!」

無事に降りてきたのですぐ確認する。

「え? 何って――」

やはり解っていなかった。自殺願望がなかったことに安堵するが、同時に危険性も解らずにこんな術式を制御して見せたことに強い不安を覚えた。

「重力制御をあんなに長い時間、自分自身に作用させるなんて死にたいんですか! ……その様子だと判ってませんね? なら実演してあげます」

プレシアから流れてくる魔力には十分余裕がある。なので、一度説明してみせることにする。

「オルタナ、あなたが使った重力制御と同じ術式で、この石を浮かせてあります。今から術式の制御を手放しますので、しっかり見ててください」

術式を構築し、一瞬、乱方向に向けて強い負荷をかけてから制御を手放す。岩が砕けしばらくしてからオルタナが納得した様子で此方を向いた。
嘘をついたつもりはない。ただ少し誇張しただけである。
制御下に置かれていない術式はその状態を保証されない。つまり、こういった岩をも砕く力場の発生という結果を齎す可能性は決して否定できない。……ほぼ在り得ないが。

「ようやく解りましたか? 重力制御はとても危険なものなんですよ。
いくら訓練で安定するとはいえ、一度集中が乱れてしまえば、作用してる力の強さやそのベクトルが定まらずに、こうやって対象を破壊してしまうことも十分に有得るんですから。
ましてや、人間の体なんてとても脆いんです――あ! 見たところ大丈夫なようですが、後で精密検査を受けてもらいますからね!」

人の体で同じことが起きると、爆砕までせずとも内出血する可能性は十分にある。それが脳などの重要臓器で起きたりすれば致命的だ。

「……はーい」

さすがに解ってくれたのか、返事を返してくれたのでひとまず安心する。

「そもそも飛行魔法では重力制御なんてものは推力としては使わないんですよ。
比推力がとても悪い上に繊細なベクトル制御を求められますから。
浮遊目的で使うにしても自分自身に直接作用させるものではなく、周りに張ったフィールドを対象にするんです。
そういった点も検査が終わった後で教えて上げますから」

そう告げている最中にも顔が綻んでいるのが解る。
飴で目を輝かせて来たところで、しっかり鞭を入れておく。

「但し、金輪際こんなことしちゃだめですよ? 今度から新しい魔法を試す時は、ちゃんと前もって相談すること。約束できますか?」

(本当に……この子ったら)

オルタナはフェイトとは別の意味で心配させる。
正規の訓練も無しに独学でここまでやられるぐらいなら、監督下に置くべきだ。危なっかしいにも程がある。

そして己の未熟さを心中で叱咤する。
日常生活用途に留まらない目的を含んだ高速詠唱魔法は基礎術式だけでも十分に危険性を孕んでいるのは明白だった。
高度な精神活動を許されている身とはいえ……いえ、それ故に私は人間の新米教師とほぼ変わらない。

(プレシアの知識があるとはいえ教師としての経験がない以上、それ以下かもしれません……)

私の現在のカリキュラムは掻き集めた軍事教導用の資料を基に専門家でないプレシアのレビューと承認を受けているだけに過ぎないのだから。

(一応プレシアに私自身の問題点として挙げておきましょう。レビューで指摘してくれるようになるかもしれませんし……遠まわしに自分が未熟だ、と言ってるのですから怒られるかもしれませんが)

裏でそんな事を考えているとオルタナが嬉しそうに返事を返してきた。

「うん、約束する! リニス、ありがとう!」

こういう時だけは元気一杯なので微笑ましい。頭を撫でた時のくすぐったそうな笑みが、胡散臭いのは気のせいだろうか。

「それに、上にベクトルを向けた所為でしょうが……その、下着が見えてましたよ。オルタナも女の子なんですから、そういったことには気をつけてください」

先ほどの光景を思い出し、一応注意しておいた。




それからすぐに精密検査を行い、そこでようやくこの子の異常性の原因を突き止めることになる。この直面した事実に、私はただただ困惑すること以外できなかった。


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