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No.5057の一覧
[0] ひとがた。[はいはいテストテスト](2016/08/11 23:25)
[1] 1.はじまり[high2test2](2011/12/18 21:42)
[2] 2.目覚め[high2test2](2011/12/18 21:42)
[3] 2a.[high2test2](2011/12/18 21:42)
[4] 3.蝕むもの[high2test2](2011/12/18 21:43)
[5] 4.その視線の先には[high2test2](2011/12/18 21:49)
[6] 4a.代替物[high2test2](2011/12/18 21:49)
[7] 5.魔法[high2test2](2011/12/18 21:49)
[8] 6.予備素体[high2test2](2011/12/18 21:49)
[24] 6a.意地[墨心](2011/11/20 14:45)
[25] 7.始まりの少し前[墨心](2011/11/27 02:23)
[26] 7a.プロローグの終わり[墨心](2011/11/27 02:26)
[27] 第1回「来訪者」[墨心](2011/12/31 20:33)
[28] 第2回[墨心](2011/12/17 14:16)
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[5057] 7a.プロローグの終わり
Name: 墨心◆d8e2e823 ID:ff49da9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/27 02:26



安寧とした日々が続いた。母さんとは相変わらずだったけど、笑顔が増えたような気がした。
機会は少ないけど、姉さんは喜んでいた。私の疑問は解けない。でも、母さんが直接私達に魔法を教える機会も増えた。
直接アドバイスを貰える事も多く、上達の一助となっている。戸惑いも消えないけどこれはかなり大きい。

私といえばさほど日常は変わらないでいる。魔法を学び実践し新しい魔法や複雑なものはリニスや母さんに相談し、糧とする日々が続いている。
他にする事も無く。皆でお茶をしたりしながら、魔法魔法の安穏とした日々を送っている。もうジュエルシードを集める事もなくなったから、
私達姉妹が労働力としてペイすることもない。それでも、私とフェイトは学び続けている。ある意味。新たな魔法や、上手く応用ができた時の母の笑顔が
見たいからかもしれない。母さんの真理はよく解らない。でも、好きだ。好きなんだ。



心地良い風が吹く。
髪が好かれるのを感じながら目を閉じる。
鼻から吸い込む空気も酷く冷たい。少し、前の日々を回想した。訓練と勉強も終り、入浴も済ませ自室でゴロゴロしていた時の事。
部屋のノックと共に、リニスの声が聞こえた。

「オルタナ、いますか?」

「いるよー」

ベッドに寝そべりながら、戦術教本を読んでいた私は体を起こす。扉は開かれ、相変わらず胸元がえっちなリニスが顔をのぞかせる。

「プレシアが呼んでいますよ」

「私、何かしたっけ」

「違います。っていうか身に覚えがあるんですか貴女は」

「いや、ないけど。……ないよ?」

「宜しい。お説教でもないですから一緒に行きましょう」

「うん」

ベッドから降りてリニスと共に部屋を後にする。

「何かあった?」

「さあ、何でしょう?」

リニスは私は知っていると言わんばかりの笑みを浮かべる。それが少し悔しい。
廊下を歩いてプレシアの部屋につくと、ノックもなくリニスは扉を開ける。
中には、プレシアと既に姉さんがいた。空調が動いているのか、暖かい風が流れてくる。

姉さんと目があう。畏れはないが現状を把握していない目だった。どうやら状況が解らないのは私も姉さんも同じみたい。
リニスが扉を閉じる。

「今日は二人に渡したいものがあるのよ」

「…………?」

私も、姉さんも顔に疑問を張りつかせる。よく、解らなくて。

「まずはフェイト。手を出して」

「はい」

掌に金色のプレートが渡される。姉さんはそれが何なのか。
まだよく解ってないようだった。

「オルタナも」

「うん」

掌を出すと姉さんと同じように金色の、……ではなくシルバーのプレートだった。
まだ呆然としている姉さんと私を他所に、プレシアは満足そうな顔で光学端末を叩くと私達の手の中でデバイスが機動する。
形は同じ。姉さんにはバルディッシュが。私も同型で銀色のデバイスが握られていた。

「貴女達のデバイスよ。フェイト。貴女のはインテリジェントデバイスだからコミュニケーションをしっかりとりなさい。
名前はバルディッシュ」

「はいっ」

嬉しそう。
姉さん凄く嬉しそう。

「次はオルタナ。貴女のは魔法の運用がより高速かつシンプルにできるストレージよ。
改造が容易だから、貴女の手で自分の形をものにしなさい。解らない事はリニスや私に」

「うん。ありがとう」

姉さんは嬉しそうにわーわーと感嘆の息をもらしながらバルディッシュを見ているけど私は少し不満だった。
姉さんと違ってインテリジェントデバイスじゃなかったからという訳じゃない。

「(長いよぅ)」

まだ名無しの銀色デバイスはバルディッシュと同型だから、杖のように握りが長い。私には邪魔でしかない。
棚上げしてしまうと私もフェイトと同じく高速戦闘の人間なのだ。でも、フェイトと違い私は非常に小回りが利くタイプなのでこんなにでかい得物は邪魔でしかない。
一概には言えないけど、姉さんはオールレンジタイプの人。私はショートレンジでの戦闘が望ましい。と、思う。
なのでバルディッシュと同タイプなど渡されて重いし邪魔だし扱いづらい。

逆に良かった点はストレージである事。
だって、戦闘中にコミュニケーションをとるのは面倒だし、何より処理速度が私には必要だったから。

「力は自らの手で獲得しなさい。これからも、精進するのよ」

「はいっ」

「ありがとう母さん」

母さんは満足そうに微笑む。私も、満更ではなかった。
部屋に戻ると早速デバイスを起動させて、不要なゴミをがりがり削りカーネルを再構築していく。
いらない機能の選別もしていると、再びドアをノックする音で顔をあげる。

「はい?」

「私だよ」

「どうぞー」

姉さんだった。待機状態のデバイスを手にしている。

「オルタナは名前決めた?」



「何の?」

「デバイスだよ」

姉さんは待機状態から起動に戻すと、黒い杖というか鎌が姿を見せる。
まったくもって決めてなかった。

「バルディッシュ、私の妹のオルタナだよ」

『初めまして、オルタナ』

普通の挨拶だった。寡黙がよく似合うデバイスだ。

「私のはまだ名無しちゃん」

「そっか」

まだ、名無しのなっちゃん。
いつか決める。
気が向いたら。

「ストレージだよね」

「うん、そう」

先ほどまでいじくりまわしていてベッドの上に置いてあった銀色を手に取る。

「綺麗だね」

「バルディッシュのが綺麗だよ」

「ありがとう。オルタナの相棒さんもよろしくね」

喋らないと解っていても姉さんは声をかける。
姉さんらしい。

「母さんも、オルタナの特性をよく解ってるね」

「――そうだね」

母さんについては、まだ良く解らない。表面上では私もいい子をしているけど、
嫉妬と建前が混同してる。姉さんと話しながら母さんの横顔がよぎる。あれから随分たつけど答えはでない。
聞かないあたり私も私か。それからの日々は、デバイスを使用しての訓練が始まる。

姉さんとバルディッシュはよくしらないけど。
私はまず、使い勝手をリニスにそのまま話して、調整するパラメータのパターンを提示してもらう。
提示してもらった際に、パラメータの説明を受けて次からはできるだけ一人でできるようにもしておく。
再度、調整が必要な場合は、自分だけで設定例を考えてリニスに見て貰ってアドバイスを貰う。

その繰り返し。

OKならばリニスと一緒にデバイスを調整。ログの収集。訓練。ユーザビリティの検証などの繰り返し。
それが、毎日だった。魔法と訓練づけの日々。それが半年前。もう母さんがジュエルシードを集める事もないというのに。

それでも、私と姉さんは続けている。
そんな毎日を過ごしている。そして今。

目を開く。望外の都。
暗い闇に少し強い風を受けながら、私は宙に浮かぶ。

高度11㎞。何もない上空に私は一人佇む。手には銀色のデバイスを握る。
先と変わらず名はまだない。リニスに聞いてみたら開発時の名前はレーベン。
でもそれは開発時の名前でしかない。

フェイトのバルディッシュのように人工知能があるならいいけど、早速、速度向上の為に応答機能及び
音声を全てカットした私には、デバイスは道具にしか思えない。愛着は良いけど、愛情は湧かない。

左手の中に収まっている銀のプレート。待機状態のデバイスを起動させてみる。
レーベンが握られる。早速、リニスと柄を切り詰め音声を全カットしヘッドパーツを簡略及び縮小したお陰でハンドサイズにまで小さくなっている。
そのお陰で重量が減りスリムかつスムーズになっている。

手の上でくるくるとと踊らせながら遊んでいると――

「……オルタナ?」

「ん? 姉さん、どうしたの?」

慌てて声の方を見るとバリアジャケット姿のフェイトがいた。寝間着姿の私とは対照的だ。

「昇ってくのが見えたから。リニスに見つかったらまた怒られるよ?」

ここは高度11㎞。

「それは多分大丈夫。いやね、少し寝付けなくて。眠気がくるまで月を見ながら考え事でもしようかなって」

「こんな高いとこ、居るだけでも寒いよ」

フェイトの訴えは当然のことのようにも思えた。すぐ足元に霞んだ雲が漂っている。
外は気流の所為か風も相当に強く、気温も氷点下を大幅に下回っている。
防御魔法で温度変化を防ぎ与圧保持の為に内外のガス交換も行っていない私にはいまいち実感が湧かなかったが。
というか寒さを感じるということは温度変化防御が完全じゃないということだ。もしかして無理してこの高度までついてきたんだろうか。

「(与圧はバルディッシュが握っているから大丈夫だと思うけど)」

そんな心配をしながら暖を取るための術式を組み上げつつ両手を広げて返事を返す。

「ほら、空が綺麗だから」

夜空を埋め尽くす星々と二つの月だけは、一人で良く見ていた。
前は見る事が決して敵わなかったこの星の海は、考え事をする時の壁紙にはうってつけだった。

「それにバリアジャケット着ててそんなこと言わないの。ほら、寒いならこっちきて?」

組み終わった暖房をすぐ傍に発動させるとフェイトに手招きをする。

「あ…… あったかい。オルタナって魔法はほんと凄いね」

凄いとは言うけれど日常用途に使われる術式の一つでしかない。
一般的な方式である発熱体を別途に置かないで、結界そのものにしているのが多少珍しいだけだ。
これは作用する空間の大きさに応じて魔力消費が増えるし前述の方式に比べ面倒だけれど、
融通の利かない安全機構であるオートガードやバリアジャケットが干渉してこないという利点がある。

「まあ、ね」

実際、時間があれば魔法に費やしてきたし、周りがそれを支える環境だったということもあって、多少の自負がある。
フェイトとは単純に出発点の差でしかないので何れ抜かれるかもしれないが、誇れる内は誇っておこう。

「私も頑張ってるつもりなんだけどなー……それで、何を考えてたの?」

「あー、いや、ほらさ、デバイスの事で色々ね。学校のこともあるし」

「うん、母さんは来年から学校ってところにいくようになるって言ってた」

「そうなんだけどね……」

どうやら、母さんは私達を学校へと通わせて正規の教育を受けさせたいらしい。
その為に私兵としては必要なかった戸籍も用意するとの事だった。

「(今更学校なんてね。でも、やることもないし)」

デバイスの改造と調整の余地と訓練を除いては私の周りはもう落ち着いてしまった。
もう私を脅かさない。

「オルタナは学校行くの、嫌なの?」

表情に出ていたのかそんなことを聞いてくる。

「正直に言えば、そうなるかな。学校は人が多いもの。私が人見知りするのは姉さんも知ってるでしょ?」

便宜上人見知りと呼んでるそれは訓練の後遺症だった。
要は他人の動きを気にしすぎて人一倍人疲れするというだけのことだったけど。

「そうだけど……人が多いって事は友達もきっと一杯できる。それはきっと楽しい事だよ」

そう言われ、なんというか驚いた。そして驚いた自分自身をすぐに叱咤する。
別人なのだから、いい加減『あのフェイト』と混同視してはいけない。どうも難しい。

「それに、私はオルタナと行きたい、かな。 二人で行けば、きっと大丈夫。
「ん…… アルフが起きたみたい。私はもう戻るね。オルタナ、さっき言ったこと考えておいて。それじゃ、おやすみ」

「おやすみ」

視界から小さくなっていくフェイトの背中を眺めつつ心中でぼやく。

「(いやはや、本当に姉さんだな……。前のしがらみをあえて我慢してその上心配されて。どっちが年上なんだかわかりゃしない)」

フェイトが見えなくなったのを確認した後、視線をそのまま庭園の裏へとスライドさせた。
ここからは視認できないが『アリシアの墓』がある筈の場所。少し感慨深い。

「(あれからもう一年経つっけ)」

目を閉じて改めて思い出す。
あの時の保存室での出来事は、正直よく覚えてない。母さんに対して挑発するような言葉を吐いてから先はまるで覚えてない。
電化製品の電源を急に落としたように途絶えている。でも、意識が戻った時には母さんは少なからず私に優しさを向けてくれていた。
これは間違いない。あの時の私の目的はアリシアの蘇生を諦めさせる事。だったけど……正直自信はなかったし今でも本当に母さんをアリシアから乖離できたのか、
と聞かれればこれまた自信がない。困った困った。

アルハザードの有無を話した場合。YESという結論が出てしまうのが困る。生き証人のスカリエッティ然り。そうなっては母さんが諦める筈も無い。
だが、確かにアルハザードは存在した間や死者蘇生に繋がる技術の有無までは解らない。希望的観測で母にノーロープバンジーをさせるわけにはいかないもの。
アリシアの保存状態は極めて良好だった。但し、それは何十年も前の死体にしては、という前提がつく。見た目はそのままでも、やはり内部では少しずつ時をその身に刻んでいた。
死体は死体だ。朽ちた肉の塊でしかない。表面はともかく、内部は素人目に見ても蘇生など到底不可能な様に見える程に。

プレシアが現行技術の延長というアプローチで行っていた初期研究では、蘇生可能時間をほんの僅かばかり延ばしただけに過ぎなかった。
実際、元の値の何倍になろうが、それが現場にとっては革新的だったとしても、アリシアがもう一度その時を刻むには圧倒的に足りない。
そもそも伸びる時間より開発時間の方が長い。
故に、根本から発想を変えた結果が私とフェイトであり、ここでは起きなかったアルハザードへの渡航の筈だ。
一見無謀に見えるアルハザードへの渡航も、一応合理的な発想ではある。
時間遡航や死者蘇生などが既に確立された技術としてあるなら、一から模索するよりははるかに確実だし早い。

いきなりジュエルシードを使いアルハザードを目指さずとも、概要としての蘇生技術なら既に確立されている筈のものに心当たりがあった。
レリックをリンカーコアに突っ込めば生き返るという単純明快なものであるし、実験結果はあの男によって散々蓄積されている筈だった。
劣化が進んだ死体にも通用するのか、そもそも適正はあるのかなどの疑問はあるが、それでも試してみる価値は十分にある。

だが、その為にはあの男、ジェイル・スカリエッティと接触しなければならない。
それは私的には凄く嫌な選択肢だ。取引材料になりそうなものはプレシアの研究結果にいくつかあったけど、あの男の行動原理はいまいち理解できないし、私達に興味を持たれて何かされても凄く困る。
実はそれ以前の問題で連絡先が解らなかったりもしたが、プレシアがプロジェクトFに参加していた時に、ちゃっかり名刺交換まで行っておりしかもまだ持っているとのことであっさり解決した。
名刺交換する犯罪者って凄い構図だなと思ったりもしたけど、非合法とはいえビジネスなのだ。ならそんなものなんだろう。

でも結局、声は掛けてないしこれからも掛ける気はない。
少しばかり有耶無耶にしている点こそあるけれど一応は諦めてくれたのだ。ならこのまま胸に秘めてしまえばいい、と私は思ってる。
私はもしかしたら、姉を見殺しにしているのかもしれない。でも、無理に追い求める事で今を生きる母さんまでも死なせたくはない。

それにしても、これからどうするべきかがさっぱりだった。

私は何をして生きればいいんだろう?
何か目的や生き甲斐は見つけられるのだろうか?

プレシアは私に対して、優しくなったし自身の治療に専念する意思を示してくれている。
フェイトもプレシアと一緒に居る時間が増えてからは殊更明るくなったし、そもそも元から無害だ。
リニスは最初事態を把握しきれずに不審な目をプレシアに向けていたが、ある時期を境に使い魔というかメイドさんというかそんな立場に収まった。とりあえず消えないらしい。
別段、意見がないのも困りものだ。そもそもフェイトはハラオウンにもならない。この先どうなっちゃうの?

「(なんのこっちゃ)」

そんなことを考えてる矢先だった。

『あら? 上にいるのはオルタナ?』

「(凄いタイミング……っていうかなんで気付くの)」

『う……』

『やっぱりそうなの。よくそこまで昇れるわね。……自殺願望でもあるの?』

『まさか、ただお月見したいから昇ってるだけ』

『お月見? ねえ、その高度で制御を一度でも手放したら普通は死ぬわよ? それとも、そこから自由落下しながら術式を再構成できる自信があるの?」

『試したことあるからやってるの!』

空間識失調時のリカバリなんてものは飛行魔法を修得する際に真っ先にやる訓練だった。教程にも書いてあるそれをプレシアが知らない筈がない。

「(あ、でも知らないのかも)」

普通は空間識失調が起きたらデバイスが自動で姿勢回復を行う。
デバイスが使用不可能な状況を想定しての訓練なんて全員が受けるものではない。私達のようなのはレアケースだ。

『あら、それは凄いわね。じゃあ、サーモスタットオフ
とかもやったのかしら』

『それはさすがにやったことない……』

「(そんなの間違いなく凍傷と低圧で死んじゃう!)」

『ま、そんな事を起こさない為のデバイスなんだけれどね』

呆れたがその通りだった。機種で差はあれど姿勢回復に緊急着地、与圧保持等は飛行をサポートしたデバイスなら最低限の機能として備わっている。
一応、今も手にしている名無しデバイスがやってくれている。

『具合が良いなら母さんも来ない? 月も綺麗よ』

『人を呼びつけるなんて何処の子かしら』

『親の顔が見て見たいよね』

『……待ちなさい。足元でリニスが寝てるから余り起したくないのだけれど』

『リニスも別に外出るぐらいじゃお手洗いと判断つかないよ』

『そういう事だけは頭が回るんだから。……今昇り始めたからちょっとまってなさい。すぐ着くから』

直ぐにデバイスが確認する。やっぱりあると便利だ。

「あ、こっちでも確認した」

直ぐに、反応から目視へと変わる。寝間着の上に一枚羽織り手にはデバイスが握られている。

「いらっしゃい。特等席だよ」

私は鮮明な月と共に笑顔で出迎える。

「本当、ここまで来るといい月ね」

プレシアはデバイスを待機状態に戻すと、私を包むように腕をまわした。人肌が暖かい。
寒くないけど、温もりは安心を呼ぶよ。

「一度だけ聞いてもいい?」

ぽつりと呟く。
残滓も残さず言葉は消える。

「いいわよ」

母さんも優しく答えてくれた。
私は尋ねる。一度だけ。

「あの時……保存室で私に何をしたの?」

「激昂して貴女を殺した……そして、直ぐに蘇生させた。それが答えよ。オルタナ」

自分が知りえぬ空白部分を手に入れられた気がした。
続けてしまう。

「私達のこと……結局受け入れてくれたよね。……なんで?」

顔見ずとも――軽い苦笑しちえるのが解った。そして溜息が混ざり合ったものをついて、母さんは答えてくれた。

「莫迦ねえ。今更貴女がそれを言うの? 今ならもう認めることもできるわ。『アリシア』は八年前に死んだ。それは間違いない」

黙って先を促す。

「貴女は自らの名前を名乗った。私の時間、現状、そして今私の目の前にいる二人……色んな事に気づかせてくれた。
私がやろうとしていた馬鹿なことを娘として止めてくれたんだもの。今思えば凄いことよ。
止めるだけなら他の手段があった筈だし、逃げるだけならもっと簡単な筈なのに。……色々酷いこともしたわ。それでも尚、私を止めてくれたんだから
だから私は貴女を娘と認めている。勿論、最初は億劫な面もあったけど、今更ね」

穏やかに笑っているようにも、力なく微笑んでいるようにも、どちらとも取れる曖昧な笑み。

「姉さんも?」

「勿論よ。あの子はあの子。一人の人間としてのフェイトよ。元から――そうね。『アリシア』とは違うもの。貴方の可愛いお姉さん。
貴方と比べて生い立ちを何も知らないあの子に多少負い目はあるけれど、大事に思ってることに違いないわ」

(こうまで言われたら、認めるしかない、のかな)

私はそっと俯く。
また撫でられる母の手に。

「それじゃ寝るわよ。リニスが待ってるわ」

「……はい、母さん」


二つの影が地表へと降りていく。
そうして、二つの月とかすかな雲だけと一念だけがその場に残った。


結局、私と姉さんは訓練を続け、その後ミッドの学園に入る事になった。
そして、物語が始まる。





プロローグ 了


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