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No.5057の一覧
[0] ひとがた。[はいはいテストテスト](2016/08/11 23:25)
[1] 1.はじまり[high2test2](2011/12/18 21:42)
[2] 2.目覚め[high2test2](2011/12/18 21:42)
[3] 2a.[high2test2](2011/12/18 21:42)
[4] 3.蝕むもの[high2test2](2011/12/18 21:43)
[5] 4.その視線の先には[high2test2](2011/12/18 21:49)
[6] 4a.代替物[high2test2](2011/12/18 21:49)
[7] 5.魔法[high2test2](2011/12/18 21:49)
[8] 6.予備素体[high2test2](2011/12/18 21:49)
[24] 6a.意地[墨心](2011/11/20 14:45)
[25] 7.始まりの少し前[墨心](2011/11/27 02:23)
[26] 7a.プロローグの終わり[墨心](2011/11/27 02:26)
[27] 第1回「来訪者」[墨心](2011/12/31 20:33)
[28] 第2回[墨心](2011/12/17 14:16)
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[5057] 1.はじまり
Name: high2test2◆182815d8 ID:3a7a2bf6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/18 21:42
――夢を見ている。

そう、これは夢だと自覚している。自分の幼い頃の記憶。夢だからか覚えている筈のない頃の記憶もあった。



わたしの誕生を喜んでくれたおとうさんとおかあさん。

喧嘩してるおとうさんとおかあさん。

ある日、突然居なくなってしまったおとうさん。

それでも育ててくれたおかあさんと優しくしてくれた仕事場のひとたち。

気まぐれなおともだちのリニス。

おかあさんとリニスでよく出かけたお山へのピクニック。



違和感を感じた。幼い頃の記憶の筈なのに、出てくる場面や人物にまったく見覚えがない矛盾。
でも初めて見る筈の母にめいいっぱいの愛情を感じている自分も居る。そしてなにより、自分の記憶だと奇妙な確信感を抱いている。

だとすればこの夢は誰のものなのか。そして自分は誰なのか。

そんな馬鹿馬鹿しい疑問がまどろんだ頭を過って行く。

そう、これはおれアリシア■■■■の夢の筈なのに。

……なにか今、おかしかったような。


そんなことを考えてるうちに夢はめまぐるしく進んでゆく。


あまりかまってくれなくなったおかあさん。

この時から、寂しくて、我慢できなくて、おかあさんの絵を描きはじめたわたし。

おかあさんの新しい仕事場へのおひっこし。

それでも忙しいおかあさん。

お仕事で疲れていることが解ってるのに構ってくれないことに拗ねてしまうわたし。

今のお仕事が終わるといって最近いってなかった山へのピクニックを約束してくれたおかあさん。

それがとてもとても嬉しくて、リニスと一緒におかあさんの絵を描いていたわたし。


ここで唐突に夢が終わった。


醒め行く中で聞こえる筈のない声が、悲しげな母の慟哭が、幽かだけれども確かに聞こえてきた。












         ひとがた。











まずあったのは、水の感覚だった。生暖かい。

いや、それより、まさか、水の中にいる?

驚いて目を見開き肺を絞るように息を吐いた、筈だったのに出てきたのは水だった。
見開いた筈の目は、水中でぼやけた視界に何も捉えない。光源がないのか、それとも見えないのか。

もがこうと動かした筈の腕も動かなかった。下半身の感覚も殆どない。
それでも腕を動かそうとし、やっと動いたかと思えば肘を曲げることすらできなかった。さらにもがこうとしたが、やはり体に力が入らない。

そこであることに気づき、同時に疑問に思った。

(何故、溺れない?)

震える肺をできるだけ落ち着けるように己に言い聞かせて肺を充たしている液体を吸っては吐く。
意識してこれを数回繰り返して確認する。液体の粘性のせいか多少息苦しいが、少なくとも呼吸はできる。この不思議な液体には心当たりがあった。

(パーフルオロカーボン?)

主に医療用途に使われている液体呼吸を可能にする触媒。
自分は肺に怪我を負ったのだろうか。でも全身を浸す必要はなかった筈だ。では何故、自分はこのように全身を浸されているのだろう。
医者は無駄なことをしない人種ではあるから何か理由があるのだろう。――では、ここは病院なのか?

相変わらず視界が戻らないので五体満足なのか動かして確認することにする。
まず指を動かす。――ちゃんと五本ずつあるようだ。欠けていない。足の指もわずかながらに動いた。
次はそっと自分の腿に指先を触れてみる。指先は滑らかな肌の感触を伝えてきた。ケロイドなどもないようだ。
そしてそのまま腰周りを確認する。ここで体の異常に初めて気づいた。

ない。

また乱れつつあった呼吸を落ち着けて、震える指先で確認しなおしたが、なかった。
もう一度触らずに確認するがやはり……それ以上触れないでおく。
目で直接確認できない以上、傷口には下手に触るべきではない。

よりによって玉無しになるとは。自分はどんな怪我を負ったというのか。
まだ視界は戻らない。こんな訳の解らない液体とぶち込まれた挙句、目を覚ましても誰も傍にいない。
ナースコールもできそうにもなかった。――ここは本当に病院なのか?

恐慌に陥りつつあるまとまらない思考を必死で操っていると、いつの間にか足音のようなものが響いてきていたことに気づいた。

(誰かいるのか!)

その音に縋り付くように叫ぶ。

「た……けて……れ! ……はここだ……起き……ぞ……」

そして気づけば四肢の力が入らなくなり、僅かな嘔吐感と共に意識が遠のいていく。

(これは麻酔か……何か……)


「――なんてこと! 転写中に覚醒するなんて!」




意識が途切れる間際に、夢の中に出てきた見知らぬ母の声が聞こえた気がした。








/.プレシア

ようやくこの長い道のりにも終わりが見えてきた。
後は検証が完全でない記憶転写をこの予備素体で検証してから万全の体制で本番を迎えるだけ。覚醒させる必要もない。

転写には自分のデバイスを、検証には臨床心理用の記憶閲覧専用デバイスを使う。
人間が直接術式を行使した場合、つまらないニアミスで大惨事を引き起こすからだ。
魔法文明黎明期に、記憶改竄魔法行使中の巫女がくしゃみをしたら記憶も吹っ飛んだというのは有名な故事だった。
その為、こういったクリティカルな用途に使われる魔法は、信頼性の高い専用デバイスを通して行うことが常識となっている。
ましてや記憶の検証は体感時間が何倍にもなるとはいえ膨大な時間を使う。そしてそれは人間が術式を維持できる限界を越えていた。

愛娘の姿をした素体で検証するのは心が痛むが、代替の素体を用意しようにも促成培養して半年は掛かる。
前もって用意しておけばよかったが、不完全なマスタデータを使った記憶転写のリスクは、最近になって改めて浮き彫りになってきた問題だった。

今回の転写は数年とはいえ人の一生を転写する。それも不完全なものを。
そしてこのような記憶転写は現在まで確認されていない。

FATEプロジェクトではこういった場合、記憶の『補修』が前提である。しかし今回、私はそれを行わない。
『容れ物』を造るだけでも耐え難い苦痛なのにましてや記憶まで繕ってしまうなどと。
それではまるで、アリシアが人形のようではないか。

あの事故と呼ぶにもおこがましい悲劇から数年経つ。
あれがもう一度起こるなど、もう一度失うなど、考えたくもないが『容れ物』たる素体さえあれば『アリシア』を何度でも甦らせることはできる。
不完全とはいえデータとして起こした記憶は劣化しない。
もしもの時の為に『アリシア』の素体は生命活動が止まっても脳のダメージによる記憶の劣化を極力防ぐようにある仕掛けを施してもある。

有機ナノマシンによる補助脳。

人造生命の初期研究時に『偶然』作成されたこの魔法生物、有機物ベースのナノマシンとも言えるこれは、普段は記憶野の一部として振舞う。
そして宿主が死亡した場合には、記憶のバックアップと自分自身の保全に努めるのだ。
ここからが特筆するべき性質で、回収したこれを別の素体に投与するとバックアップした記憶を素体の記憶野へと書き戻す。

この出来過ぎた性質をもつ生物を補助脳として提案し強引に臨床までもっていったのは、あの男だった。
まるで結果を知っていたかのようなあの自信と振る舞い……。
今思い返せば不審ではあったが、臨床には私も立ち会ったので問題はない、筈だ。
脳へ過度の侵襲や記憶の欠損、意識障害なども見られず記憶保全の効果とその後の人格再生もこの目で確認してある。
もっとも頭蓋容量を圧迫する為に最初からそうデザインされた『容れ物』でなければ使えないという欠点があったが。

そうして、記憶転写は順調だった。転写は二度、繰り返して行う。そうしなければ定着しない記憶が出てくる。

……一度目の転写が無事に終わり、二度目の転写に入ろうとしたその時にそれは起きた。
鋭い胸の痛みと共に、熱い何かが、喉をかき乱す感覚を覚えた瞬間、意識が途切れた。




気づいた時には倒れていた。頭を強く打ったのか、鈍い痛みとともに眩暈がする。
息苦しい。息を吸うたびにひゅうっと音がする。何かと思えば自分の喉から発せられてる音だった。

転写中だったことを思い出し、立ち上がろうとするが足元がおぼつかない。
ふと下を見やると羽織った白衣に紅い染みができていた。更に床には泡だった赤黒い水溜まり。
それをみて思い出したように口内へ広がる生臭い血の臭いと味。どうやら気絶した挙句、ほぼ同時に喀血したらしい。窒息しなかっただけましか。

心当たり等はあった。
皮肉ではあるが、あの悲劇から安全管理などというものは二の次にして劇薬などを扱ってここまできたのだから。

そのツケをまさかこのタイミングで払うことになろうとは思っていなかったが。

(一応、一度目の転写が終わっていることだけが救いね……)

肺の出血を魔法で止めながら口の中で呟いた時、素体の異常に気づいた。素体のバイタルを監視しているデバイスから警告がきていたのだ。
意識レベルが覚醒閾値を越えていた。急いで鎮静剤を投入する。この状態で目覚められるとまずい。
なんとか壁にもたれて立ち上がると、素体を安置してあるポッドまで這い寄る。

もたれ掛ったポッドから振動が伝わってくる。

「――なんてこと! 転写中に覚醒するなんて!」

我慢できずに叫んだ。この素体は覚醒している。
FATEプロジェクトでいくつもの素体を見てきたが、いきなり覚醒したケースはこれが初めてだった。
覚醒初期は、腹を裂かれようが碌な反応がないほどに自意識は緩慢で、手足を動かすことなどできよう筈がない。

何が起きているのか、確かめる必要がある。

意識レベルが下がったのを確認してから培養液の排出を行いポッドを開ける。アリシアと同じ姿をした予備素体、いや『アリシア』の姿が見えた。




◆ ◇ ◆




あれから、予備素体を運び、デバイスの寝台に寝かせつけた。同じ部屋の中といえど、中々骨の折れる作業だった。

結論から述べると、記憶転写の検証はできなかった。何の意味もない像しか確認できなかったのである。
幾度も手順を確認し、やり直してみたが解決しない。
こうなると信頼性の高い筈の専用デバイスまで疑わしくなり、確認の対象となった。
セルフチェックを走らせ、簡易なハードウェア側からのチェックもメンテナンスを兼ねて行う。

しかし、それでも解決しない。

こうなっては、自分が手を入れられない機構ブラックボックスを疑うしかない。
普通なら、メーカーから専任の設備技術者サービスマンを呼んで一任するのだが、呼ぶに呼べない事情がある。

こういった用途のデバイスは認可制のものが殆どだ。
このデバイスも例に漏れずそうであった為、正規の販売業者ディーラーを通さず手に入れたものだ。
つまりは保守サポート契約など結べる筈もなかったのである。
マニュアルの所々に記載されている「それでも解決しない場合は」の項目を恨めしく感じる。睨んでみたが、それでどうにかなる筈もない。

(後は、私が直接試してみる術式を行使するしかない、か……)

一応、人でも扱える記憶閲覧の術式は知っていたし、幾度か実際に使ったこともある。
FATEプロジェクトの実験体モルモット相手にわざわざデバイスを使うのが煩わしかった時などに。
だけど今、できればそれは避けたい。体調が優れない。先ほど盛大に喀血して倒れたばかりで、今も多少息苦しく気分が悪かった。

(一度しか記憶は転写していないし、覚醒の準備もしていない。……なのに、いきなり起きたわね)

得体が知れない。鎮静剤を投与しているとはいえいずれ気づく。
原因を特定し次第、初期化して再テストするつもりだったが、ここまで手間取るとは思わなかった。

(ポッドから出さずに、廃棄すべきだった……?)

所詮は予備で、今回の事故もそうこだわることではない。だがそこで一抹の考えが頭を過る。

(助けを求めたのがもし――)


『アリシア』だった記憶が定着していたら。


今、破棄するということは自分の娘を手にかけることになる。それだけはなんとしても避けたい。

だとすれば残る手は――

(結局、直接話してみるしかないのね)

対話で何が確認できるというのか。
この発想から、目の前の予備素体アリシアに情を抱き始めている自分に気づいて苦笑する。
今まで姿は極力見ないようにしてきた。成型がうまくできているかなど、どうしても必要な時以外は。

だけど、あの時だけは我を忘れていた。助けを求めていた声は確かに『アリシア』だったのだ。
『アリシア』が助けを求めている。そう思うと、あの狭い檻から出すのは親として当然の行動だったように思う。

もう私にとって、目の前に映るのは予備素体などではなく、我が子アリシアと成りつつある。


話してみると決めた以上、行動は早かった。


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