アサシンは真剣に悩んでいた。 原因はいくつもある。というか、悩まなくて良い理由を探すほうが難しい。 聖杯戦争に、一番最初に召喚されたアドバンテージを最大限に生かして、情報戦で圧倒しようと思ったのも束の間。 自分を召喚したマスターは、最初からこの戦争を勝ち抜く気などさらさらない。 しかも、師匠である魔術師の時臣は、間違いなく自分達を使い捨ての駒として考えている。 さらに、他のサーヴァントは全てバケモノじみたスペックを誇り、とりわけ時臣のアーチャーは最強であり、寝首をかこうとしても、そうそうできるものではない。 戦いが煮詰まってきたら、間違いなく使い捨ての駒として令呪により聖杯へとくべられるだろう。 このまま聖杯戦争が進んで、アサシンたる自分が勝ち残り、願望を叶えるなどは夢のまた夢である。 何とか新しいマスターを調達するか、それとも今のマスターが自分の師匠を裏切って聖杯戦争に本腰を入れて名乗りを上げるように唆すように考えていたのだが、このマスターの言峰綺礼という男は変人だった。 聖杯戦争に、選ばれるマスターには、聖杯を手にするための動機が存在する。聖杯によってかなえたい願いと言い換えても良い。しかし、言峰綺礼という男は、そんな渇望を抱ける男ではなかった。 いや、もっと正確を期すならば叶えたい願いがないということが、この男の欠落である。名誉も、巨万の富も、理不尽な世界の改変も、死んだ人間を蘇生させるような大望も、天地を喰らう野望も、この男には存在しない。 欲望というものが、この言峰綺礼という人間にないわけではない。 アサシンの観察では、この主人は目的意識や安息といったものを見つけられずにいるだけの求道者だ。この世のありとあらゆる物を美しいとも思えず、愛することも出来ずに、自分を痛めつけているだけだ。 この世には、自分を満足させてくれるものがあるに違いないと、このこの地獄の中に答えがあると。魂の安息を求めて歩むだけの人形。それが得られないのならば、せめて苦痛を持って自らを追い込む壊れかけの人形。己のマスターの言峰綺礼は、そういう人間だと思っていた。 サーヴァントとマスターは似た者同士が召喚されるという。ならば、自分を召喚したマスターも何らかの心理的欠落を持っていたとしても驚くほどのことはない。むしろ、自分と同じように異様な心の在り方に苦しむ主人に僅かばかりの共感さえ覚えていた。覚えていたのだ。 しかし、今のマスターの行状は一体何だろうか? アーチャーに何か吹き込まれるや否や、涙を流しながら遠坂邸を飛び出した。 おそらくは、自己の在り方の歪さを、したたかに突かれたのだろう。あのアーチャーの紅い瞳は同じサーヴァントでも、対抗しがたい魔力を秘めている。 脚の赴くまま夜の街を走るマスター。そこまでは良い。若気の至りというやつだ。そこまでは良かったのだ。 己がマスターは何を血迷ったか、深夜営業している中華料理屋に駆け込むと滂沱の涙で顔を濡らしながら麻婆豆腐を注文した。 泰山とかいう中華料理店ののやたらと子供っぽい店長の「おー、言峰さん。いらっしゃいアル」という挨拶から察するに常連のようだ。 そして、辣油と唐辛子と山椒を煮詰めた地獄の釜のような麻婆をむさぼり食い始めた。 ガツガツと。水も飲まずに、ザパザパと掻き込むように。 延々と泣きながら。 観ているだけで暑苦しい。 これはアレだろうか? 元から妙なマスターだと思ってはいたが、ついにおかしくなったのだろうか? 今すぐに主人が正気かどうかを確認せねばならない。 霊体化した状態で話しかけても、このマスターは耳を貸そうとはしない。 実体化して問いただそうにも、さすがに人前にアサシン衣装で実体化する訳にはいかない。 業を煮やしたアサシンの首領は、一番近い隠れ家から現代用の衣装を調達して来店した。「おー、美人さん。いらっしゃいアル」 と、何処からどう見ても小学生の店長が声をかけてくる。「ここ。相席よろしいかしら?」「おお、逆ナンっ!? どうぞどうぞ。馬に蹴られて死にたくないアル。注文が決まったら呼ぶといいネ」「そうですか? それなら、とりあえず紹興酒をお願いします」 そして、アサシンの首領は言峰綺礼の対面に座る。 子細に挙動や言動を観察し、主人の異常がどの程度かを調べるためだ。調べるためだったのだが、延々と溶岩の如き麻婆を喰い荒らす主人。額に玉の汗を滲ませ、一滴の水も飲まず、ひたすらにレンゲを動かす神父。 アレは絶対におかしい。直視してはいけない。 これはもうダメかもしれない。自分の願いの統合された一個の人格が叶う未来など、永久に訪れないかもしれない。 神父はこちらにやっと気がついたのか、レンゲを止めて……「異国のお嬢さん。一口いかがですか?」「いりません」 一体何を考えているのだろうか。このマスターは。 というか、目の前にいる女が自分のサーヴァントだということに気づいていない。 たしかに、褐色の肌に端整でシャープな外見。 髑髏の面をはずしてスーツに身を包んだだけなのだが、それだけで妙齢の美女が出来上がっている。本来は男を篭絡し手駒として使うときのために用意した衣装であったのだが、なに悲しくて激辛麻婆豆腐をむさぼり食ってるマスターの前で、着なくてはならないのだ? ほんの僅かないらだちを隠し、アサシンは酒を呷る。「何をしているのですか? マスターは?」 どうやら声で、その主が自分のサーヴァントだと悟ったようだ。「見ての通り食事中だ」 いや、麻婆豆腐を食っているのはわかるのだが、アサシンはそういうことを聞きたいのではない。「こんな聖杯戦争の真っ只中に? 敵マスターの監視をせねばならないときに、一体何をしているのですか? しかも、貴方は一応脱落者として教会に保護されているということになっているのですよ? こんな店で悠長に食事をしている暇があるのですか?」 一息にまくし立てたアサシン。口調は穏やかだが心中は平静とは言いがたい。 とりあえず返答次第では、当身の一発も叩きこんで担ぎ上げ、教会まで連れて帰ろうかという程度には呆れ返っていた。 やっと麻婆豆腐を食い終わって一息ついた主人は、妙なことを言い出した。「アサシン。貴様には美しいと思えるものがあるか? 思想や理想、哲学といったものだ。いや、趣味とかそう呼べるものでもいい。自分はなんのために生きているのか、その解答を持っているか?」 質問に対して質問で返すあたり、この男のコミュニケーション能力を疑うが、しかし、汗ばんだその表情がまるで藁にもすがる求道者のような表情である。どうにか答えたいという欲求を覚えた。 この百貌のハサンという身にあって、好ましいと感じるものはあるだろうか? 考える。 理想と呼べるものは、組織にはあっただろうが、この百貌のハサンには信じるべきものなど存在しなかった。哲学など、異形の心には「……噂話とか、談合とかならば、趣味と呼べるかも知れません」 全くもって面白くない答えである。 しかも、その噂話とかディスカッションというのは、全て自分の頭の中でやっていることである。この多重人格障害のせいで、それぞれの人格に友人と呼べるものは存在はするが、アサシン個体の友と呼べるものは居なかった。「……そうか。貴様にもあるのか」 そうつぶやくと、失意に満ちた顔で激辛麻婆を追加オーダーする。「一体何の話ですか?」 そう訝しがるアサシンに、綺礼は誰に聞かせるでもなくつぶやく。「私には何も無い。しかし、いつの日か崇高な理想がこの目に見える時が来ると信じていた。必ず報われる日が来ると。この孤独を分かち合える友がいると。しかし……こんな形で報われるなど……………………………」 そう口にすると、言峰綺礼は運ばれてきた麻婆豆腐にむしゃぶりついた。「貴方の理想が断片でも見つかったということですか?」 そう。もしも、それが見つかったとするのならば、これ以上ない僥倖だ。 衛宮切嗣とかいう男に主人が執着する必要はなくなった。 主は気づいていないが、ハサンの観るところあの男は綺礼とは全く別の男だ。あの男の解答とやらが言峰綺礼に利することはまずないだろう。 この主人が、求めるべき理想や願望を見出したというのならば、それはすなわち、聖杯を求める理由ができたということに他ならない。師匠を裏切り、聖杯戦争に本腰をいれてくれるやも知れない。 現時点で、アサシンの生存を知覚しているのは、共に謀ったアーチャーを除けばセイバー陣営のみである。しかも、アサシンの見立てでは最強のサーヴァントたるアーチャー陣営の懐に深く潜り込んでおり、遠坂時臣は言峰綺礼に全幅の信頼を寄せている。獅子身中の虫どころの話ではない。喉元に短剣を押し当てているのに当の本人は気づいていないも同然だ。 アサシンにとっては絶好のシチュエーションと言っても差し支えはなかろう。 わずかに熱を込めて混ぜ返すアサシンに、綺礼は吐き捨てるように応えた。「…………こんな答えならば、永久に迷っていたほうが、まだ救いがあった…………」 そうして綺礼は麻婆豆腐を飲み物のように胃に流し込んだ。「あの、綺礼さま?」 なおも問いかけるアサシンを一瞥し、「まだ居たのか……」 そう漏らすと、店主に麻婆豆腐を追加注文する。 たまらないのはアサシンである。 たしかに自身は影。聖杯戦争においては、主人に完全なる忠誠を誓う傀儡である。少なくとも表面上は。 その忠誠を誓う下僕に、このあまりにも素っ気ない態度は一体なんだというのか。「『まだ居たのか』ではありません。綺礼様。それは、あなたの心に吹いていた風を止ませる方法が見つかったということですか? それならば、喜ぶべきことではありませんか?」「なにが喜ぶべきものか。こんな他者の艱難辛苦を蜜とする悪徳など……。自分が救われざる罪人の魂だと知って、一体何処の愚か者がそれを喜ぶというのだ? 判ったら早くここから去り、他のマスターの監視に戻るがいい」 これには流石のアサシンも閉口した。 何やらふつふつと怒りが湧いてくる。 というか、怒らない理由が見いだせない。 アサシンは怒りのあまりに酒瓶を鷲掴みにし、グラスに注ぎ、一息に呷る。 そもそもが、である。影に生きる身ではあるが、このハサン・サッバーハは、アラムート山城を拠点にした暗殺教団の主の一人である。世界に名を刻んだ英雄の一人、それがなにゆえこんな麻婆男に邪険にされなきゃならないのだ? しかも、心に悩みを持つ同類だと親近感を抱いていたのはどうやら自分だけ。 冷徹なる暗殺者とはいえ、これはさすがに苛々するしかない。 こんなふざけた麻婆マスターのサーヴァントなどやっていてはストレスのあまり、新たな人格が誕生してしまいそうだ。 アサシンの首領たるもの、いつも冷静に。怒りを沈め、心を落ち着けて。 自身を律することこそ、プロフェッショナルの証だ。こういうときは大きく深呼吸。 言うべきセリフは“承知しました、マスター”である。 「…………ふざけんなよテメェ」 無理だった。 今まで抱えていたものが、堰を切ったように流れ出てくる。「甘えてんじゃねーってんだよ!? ヴォケがっ!? ああんっ!?」 完全にマスターに対するサーヴァントの物言いではない。 一度ダムに罅が入ってしまうと、もう後は穴が広がり決壊するだけだ。 しかし、止まらない。 気持ちいい。困った。「あ、アサシン? どうした?」 忠実なはずの、感情を持たないはずの下僕が、唐突に怒鳴りちらしているのだ。 さすがの朴念仁のマスターも、何事かと怪訝そうな顔をし始めたが、遅きに失していると言わざるを得ない。「おめー一人だけが、苦労人面してるんじゃねーって言ってるんだよドアホのボケェがよぉ!! ああ? 死にてえのかッ?」 阿呆である。間違いない。このハサンは阿呆だ。それもとてつもない。「……アサシンっ?」 グラスに注ぐ手間も惜しい。紹興酒を瓶から直接ラッパ飲みする。 喉が焼けるような強烈な感覚。そして、胃に熱い塊が流し込まれる。「大体よぉ、サーヴァントを呼び出しておいて、当て馬に使う気満々ってオカシイだろうがよっ!? どーせ最後はアーチャーが勝たせるつもりなんだろ!? だってのにいつまでも、私達が、おとなしく言うこと聞いてるとでも思ってんのか? このタコがっ!!」 令呪を使われて「叛逆するな」とか言われたら、とりあえずアサシンの命運はここで尽きる。尽きるのだが、昂った感情というのは暴走したダンプカーである。ブレーキの壊れた機関車である。「たかだか理想が見つからねえ程度なだけで、全世界の不幸を背負ったような顔してるんじゃねえっつてるんだよ。ダボがっ。あたしはなあ、多重人格だぞ? それも八〇人格っ!! 統合された唯一の人格を求めて聖杯戦争に参加したってのに、マスターはやる気ねえし、他のマスターのパシリだし、他のサーヴァントにちょっくらいじめられただけでぴーぴー泣くし。呑まずにやってられるかってんだよ? 酒ぐらい飲ませろっ!!」「…………」「おいっ!! マーボー神父っ!!」「……なんだ?」「『なんだ』じゃねえ。このネクラがっ!! てめーも呑め!!」 無理やりグラスを押し付けて、酒を注ぐ。「……いや……」 知っている。言峰綺礼という男は、酒を集めるだけ集めるが、全く飲もうとしない。しかし、今のハサンにとってはそんな事はどうでもいい。「女の酒が飲めねえのか? それでも神父かっ。おら、グッといけ」「ウチは中華料理屋であって、飲み屋じゃないんだけどネ」 などと、やたら迷惑そうな声が聞こえたような気がしたが気にしない。 いつの間にか、完全に出来上がっていた。 酔っぱらいが道に迷った青年にすることなどただひとつである。 すなわち説教。「てめーはアホかぁ? 人の不幸が蜜の味だからって、それがなんだってんだよっ。他人がひでぇめに遭っているのを密かに喜んでた自分に気付いて『自分は汚い人間だった。かわいそうな僕ちゃんを甘えさせて~』って、一体どこの中学生だよっ?」 酒臭い息を、“ばふう”と綺礼に浴びせかけながら、アサシンは断言する。「いや……、それは我が信仰の道においては許されないと……」「だからそこが馬鹿だって言ってるんだよ。神父なんてやってるくせにそんな事も知らねえのか? いいかぁっ? 完全な人間に信仰なんていらねえんだよ。不完全で、他人の不幸を喜ぶゲスい人間だから、信仰が必要なんだよ。そのぐらい悟ってろ。バカめ」 ……たしかにそう言われれば一部の隙もない理論である。「……アサシン。お前、当たり前のように酒を飲んでいるが、教義的にそれはいいのか?」「暗殺者だ。任務の途中に酒ぐらい飲む機会いくらでもあった。てめーだって神父のくせに結婚してるくせしやがって。知ってるんだぞ? イタリア美人と結婚してたの」「アサシン。なぜ貴様、そのことを知っている?」 綺礼の口にわずかに憤怒が混じる。 そこは綺礼にとっては他のだれにも触れさせたことのない、いわば心の聖域だった。酒に酔っ払ってくだを巻いている下僕ごときに触れられて良い場所ではない。「あんたの親父のアルバムにあったぞ。この銀髪フェチが。あんな美人と結婚してるくせに、どーせ『私は他人を愛することができない~』とか寝言抜かしてたんだろ? この外道が。そのくせ、子どもまで作りやがってっ。お前、ちゃんと『愛してる』って優しい言葉をかけてやったんだろうな?」 言ってない。というか、もっとどうしようもなかったような気がする。「……己のマスターに対して、よくもそこまで憚りなく言えたものだな……」「あー、そーですか。どーせ、このままでも私の願いは叶わずに、使い潰されて死ぬんですー。令呪なり何なり好きに使えばいいじゃないですか」 脅し文句も、酔っぱらいには無意味でしかなかった。 そもそも、こんな下らないことに令呪を使う奴がいれば、マスター失格でしか無い。「綺礼くん。何のために令呪を使ったのかね?」→「飲んだくれサーヴァントの説教が鬱陶しいので、止めさせました」 ただの阿呆の所業である。 ということは、延々と酔っぱらいの説教を聞くしか無い。 そんな現実にげんなりしながら、麻婆を肴に無理やり注がれた酒を舐める。 アレだ。欝い。「大体なあ。おめー馬鹿だろ。聖杯にせっかく選ばれたくせに、なに考えてあんな妙ちくりんな師匠に義理立てしてるんだよ? しかも、魔術殺しの代行者のくせに」 もう、ありとあらゆる所にツッコミを入れてくるサーヴァントに、辟易としながら答える。「師父の仮説では、聖杯が遠坂陣営に二人分の令呪を与えるための措置ではないかと言うことだが……」 アサシンは煩わしそうにひらひらと掌をふり、「ハッ。そんなことあるわけねーだろ。バッカじゃねーの? そんなんだから主人は阿呆なんだよ」「…………」 酔いが覚めたらどうしてくれようか。このアホサーヴァントは。「聖杯が最初のほうに選ぶ人間は、間違いなく聖杯を切実に欲している人間だけだってのは大原則だって、聖杯戦争の参加者なら誰だって知ってることだろう? だってのに、下働きして本当の願いを叶えないなんて、アホ以外なんて言えばいいんだよ?」「しかし、私には叶えたい願いなど存在しない。そうである以上、聖杯を獲得することに意味など無い」 そんな血を吐くような言峰の言葉も酔っ払いには通じない。 むしろ、余計に機嫌を損ねたようだ。 ウワバミのように酒を食らいながら、ふんぞり返って放言する。 せっかくの引き締まった美貌が台無しである。というかオヤジの所業である。「あー、嫌だ嫌だ。ネクラな主人はよぉ。自分の性格が嫌いだってんならよぉ、聖杯に矯正してもらえばいいじゃねえか」 しかし、その放言は言峰綺礼という人間の鼓膜を捉えて離さなかった。 聖なる盃によって、自分の歪みを修正する。その言葉は思いもよらない魔力を秘めていた。 ありとあらゆる苦行も快楽も、自分を満たすことはなかった。挙句の果てに唐突に突きつけられた解答が、師の苦行に笑みを浮かべ他人の不幸を喜ぶという罪悪。 聖杯によらねば救われることがないほどに、この魂は生まれながらに罪を背負っていたというのだろうか。それが神から与えられた唯一の解答なのだろうか? それならば、自身が聖杯にマスターとして招かれたことにも説明がつく。 そう思考する暇もあればこそ、「なにボーっとしてやがる。おい、おめー」「なんですか?」 つい反射的に敬語を使ってしまう。「おら、飲め。飲んで忘れろ」「はい」 そうして、グラスからあふれるほどに注がれた酒を味わう。 奇妙だ。 酒精など散々味わったはずなのに。 今まで感じたことのない芳香。 どことなく苦いようなそれでいて心地よい風味。 自分が味わったことのない感情。 それに敢えて名前をつけるのならば、それは期待とか希望とか、そんな綺礼には似つかわしくない感覚であったかも知れない。 とりあえず、作者の正気を疑われる21話です。遅くなってすみません。